東日本大震災以降,原子力損害賠償法に興味あり,同法と東京電力の責任についても検討してみたい。

スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。
-------- : スポンサー広告 :
Pagetop

■2条「原子力損害」の意味・範囲 その19 風評被害 食品について考える

■2条「原子力損害」の意味・範囲 その19 風評被害 食品について考える

 これまでの下級審の判例では,風評被害について,相当因果関係を認定するにあたり,買い控え等の回避行動が,一般通常人を基準に,合理的か(社会通念上是認できるか)を検討するという態度であった。
 原子力損害賠償紛争審査会は,「原子力損害の範囲の判定の指針その他の当該紛争の当事者による自主的な解決に資する一般的な指針を定めること」(原賠法18条2項2号)をひとつの任務とするものであるが,第5回会合での能見教授の発言からも,この「指針」は,「裁判所でそんなに争われることはないだろう,そういうような損害」を示すものとなろうから,当面は確実性の高いものだけということとなるかもしれない。

 審査会では,被害者保護の観点からも,大量かつ迅速な処理になじむ指針の明示が必要である一方,支払いすぎを避けようとする要請もあるはずで,この調整がどのあたりになるのか考えてみる。



〔食品の客観的状態〕
①基準値以上の汚染
②汚染はあるが基準値以下
③汚染無し(あるいは原発事故前と異ならない程度)


〔消費者の希望のレベル〕
①汚染は全く気にしない
②基準値以上のもののみ食べたくない
③汚染がある以上,基準値以下でも食べたくない


〔検査について消費者の疑いのレベル〕
①基準値越えを排除するのに現状の検査体制で足りている。
②現状の検査体制では足りない。

〔消費者の有する情報のレベル,制限品目〕
①制限品目を個別に知っている。
②制限品目の科,類等の小分類までは知っている。
③制限品目について,葉物野菜,根菜類等の中分類までは知っている。
④制限品門について,野菜,果物等の大分類までは知っている。
⑤制限品目については,食品という以外には具体的には何も知らない。

〔消費者の有する情報のレベル,制限地域〕
①個別に市町村まで知っている。
②県単位で知っている。
③原発の近隣県であることを漠然と知っている。

〔市場での表示のレベル〕
①市町村まで表示されている。
②県別表示のみ。


----------------------------

 裁判になっても確実に認められそうなものに限定するとして,国等の公的機関や専門家の判断や検査を信頼するのが,一般消費者の合理的態度であるとして,生産者にかなり厳しく判断すると,

・消費者の希望のレベルとしては,②基準値以上のもののみ食べたくないのが,通常であるとし,③基準値以下でも食べたくないのは,不合理で過剰な回避行動であるとの前提に立つだろう

・検査に関する消費者の疑いのレベルについては,①基準値超えを排除するのに現状の検査体制で足りていると考えるのが,通常であるということになろう。

・消費者の有する情報のレベルについては,①制限品目を個別に知っているか,②小分類か,③中分類までは知っているというあたりが,消費者の通常の状態であると認定するとして。

・また,制限地域については,①個別に市町村まで知っているか,②県単位で知っているのが通常の消費者とし,

・ただし,市場での表示については,①市町村単位の表示より,②県単位での表示が多いだろうから,これについては②が通常とする。



 これを前提とすると,ある作物が

・それと同一の中分類(葉物,根菜等)に属する作物について現に出荷制限等されている場合で

・それが出荷制限等されているのと同一県内で作られたものであって

・その作物が現に出荷制限中や自粛要請中でない場合に

・取引停止,価格低下等によって現に損害が生じた場合

 それを原発事故と相当因果関係のある「原子力損害」として認定するということになろう。

--------------------------------


 ただ,現実の汚染が問題とならなかったJCO事故時よりも,今回の方が,生産者にとって,厳しいものになるはずはないと考えるとして,検討してみると。

JCO事故時の指針
7[営業損害]
(指針)
 I)  茨城県内で収穫される農畜水産物及びこれらに関連する営業であり、広く茨城県県外を商圏とするものについては、生産あるいは営業の拠点が茨城県内にあり、取引の性質から相手方等が取引拒絶等の行動に及ぶこともやむを得ないものと認められ、現実に減収のあった取引について、事故調査対策本部の報告(平成11年11月4日)及び住民説明会(同年11月13,14日)等によって、正確な情報が提供され、かつこれが一般国民に周知されるために必要な合理的かつ相当の時間が経過した時点(同年11月末)までの期間に生じた減収分(売上高から売上原価を控除した売上総利益=粗利益の額)が損害と認められる。
 II)  上記I)以外の営業については、営業の拠点が屋内退避勧告のなされた区域内にあり、取引の性質から相手方等が取引や利用の拒絶等の行動に及ぶこともやむを得ないものと認められ、現実に減収のあった取引について、事故調査対策本部の報告(平成11年11月4日)及び住民説明会(同年11月13,14日)等によって、正確な情報が提供され、かつこれが一般国民に周知されるために必要な合理的かつ相当の時間が経過した時点(同年11月末)までの期間に生じた減収分(売上高から売上原価を控除した売上総利益=粗利益の額)が損害と認められる。



 この指針だと

①事故発生県内で収穫される農畜水産物及びこれらに関連する営業であり
②広く事故発生県外を商圏とするものについては、
③生産あるいは営業の拠点が事故発生県内にあり、
④取引の性質から相手方等が取引拒絶等の行動に及ぶこともやむを得ないものと認められ、
⑤現実に減収のあった取引について、
⑥正確な情報が提供され、事故調査対策本部の報告及び住民説明会等によってかつこれが一般国民に周知されるために必要な合理的かつ相当の時間が経過した時点までの期間に生じた
⑦減収分(売上高から売上原価を控除した売上総利益=粗利益の額)

 が損害と認められる。


・この指針では,農作物の品目,分類による区別はなく,一般に「農蓄水産物及びこれらに関連する営業」としている。
・今回の場合,上の事故発生県として「福島県」が入るのは当然として,その他の出荷制限等のあった他県や,その他都道府県をどう扱うかは問題となる。〔福島県については,農畜水産物で全部くくって,他県については業種や作物の種類で分類するという可能性もある。〕
・また,期間については,事故は終息しておらず,現時点で,正確な情報が提供され、事故調査対策本部の報告及び住民説明会等によってかつこれが一般国民に周知されるために必要な合理的かつ相当の時間が経過したとも思えないので,終期は未到来となるのだろう。


 そこで今回は,JCO事故時より生産者に厳しくならないという前提で類推してみると,少なくとも福島県については,品目種類等の区別なく「農蓄水産物及びこれらに関連する営業」一般について,その生産又は営業拠点が県内にあって,取引の性質から相手方等が取引拒絶等の行動に及ぶこともやむを得ないものと認められ、現実に減収があった部分については,事故発生から現在にいたるまでの損害が,「原子力損害」と認定されることになろう。

 福島県以外については,少なくとも食品の出荷制限等がなされた県において,「農蓄水産物及びこれらに関連する営業」〔品目,種類等の限定があるかもしれないが〕について,その生産又は営業拠点が県内にあって,取引の性質から相手方等が取引拒絶等の行動に及ぶこともやむを得ないものと認められ、現実に減収があった部分については,事故発生から現在にいたるまでの損害が,「原子力損害」と認定されるのではなかろうか。

 これまで何も出荷制限や自粛要請がなされなかった他の都道府県については,指針では決められず,個別に判断ということになろうか。

-------------------------


 どのように考えるにしても,今回は100%人災であったJCO事故とは異なり,大規模自然災害を伴うものであったため,別の考慮が必要とされるだろう。
 観光業にくらべると影響は少ないかもしれないが,大規模自然災害からくる消費の低下というものがあるとして,損害額の算定において,生産者にとって厳しい判断をするなら,大規模自然災害後の消費の低迷分は,原発事故にかかわらず発生するものと判断して,それを全部除くとすると〔以前にも触れた〕
 たとえば他の大規模自然災害時に,消費マインドの低下によって,統計的に10%程度の収入の落ち込みがあるのが普通なら,その部分は賠償対象から除くことになる。現に50%の収入低下があるなら,そのうち40%が原発事故由来のものとして,「原子力損害」と判断する。

 さらに,作付け停止等による減収分,廃棄費用,検査費用等については,その合理性が問われることになって,その態様,程度によっては,過失相殺(民法722条2項)等による減額があり得ることになろう。



関連記事
スポンサーサイト
2011-05-25 : ・風評被害 : コメント : 0 : トラックバック : 0
Pagetop
コメントの投稿
非公開コメント

Pagetop
« next  ホーム  prev »

プロフィール

text2

Author:text2
原子力損害賠償法について検討してみます。(リンクはご自由に)
なお、引用部分以外は私(一応法律家)の意見ですので、判例・学説・実務等で確定したものではありません。他の考えでも裁判等で争い認められる余地があります。

全記事のリスト表示

全ての記事を表示する

検索フォーム

カレンダー

06 | 2017/07 | 08
- - - - - - 1
2 3 4 5 6 7 8
9 10 11 12 13 14 15
16 17 18 19 20 21 22
23 24 25 26 27 28 29
30 31 - - - - -

QRコード

QR

メールフォーム

名前:
メール:
件名:
本文:

アクセスカウンター

アクセスランキング

[ジャンルランキング]
ニュース
473位
アクセスランキングを見る>>

[サブジャンルランキング]
時事
216位
アクセスランキングを見る>>
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。