東日本大震災以降,原子力損害賠償法に興味あり,同法と東京電力の責任についても検討してみたい。

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■2条「原子力損害」の意味・範囲 その15 東電の債権者(金融機関等)の損失

■2条「原子力損害」の意味・範囲 その15 東電の債権者(金融機関等)の損失

【「原子力損害」か?】
 東電株暴落による株主の損失について論じたのと似た問題で、原発事故前から東電に債権を有していた者について、その債権の全部または一部について、弁済が得られないことになったとすると、それを「原子力損害」とみてよいかという問題がある。
 感覚的には、金融機関が弁済を受けられないからといって、それは、検討するまでもなく、「原子力損害」ではないという気はする。。
 もともと金融機関は、東電に対して、金銭消費貸借契約等の契約上発生する債権を有するので、通常は、他に不法行為の成立など検討する必要もないが、不法行為規定の特別法たる原賠法に基づく賠償請求権の場合、同法16条で国の関与によって最終的にはどのようなカタチであれ賠償されると解する余地があり、契約上発生する債権(貸金返還請求権)よりも有利となる可能性があるので、特に問題となる。

「原子力損害」の考え方についてはこちら

 まず、「原子力損害」の意味を、原賠法2条2項の字義どおり,核燃料物質の原子核分裂の過程の作用又は核燃料物質等の放射線の作用若しくは毒性的作用により生じた損害として、狭く考えていく限定説では、債権者の損失は、「原子力損害」には当たらないことになろう。
 これに対して、いくつかの下級審判例のように、原子炉の運転等(2条1項)により発生した損害で,2条3項の「作用」と相当因果関係あるもの全てを含むと広く捉える説では、「原子力損害」に該当する可能性がある。
 相当因果関係は、一般社会通念上、その原因があれば、その結果が生じることが、通常といえるかという観点で判断されるので、今回のような大規模原発事故があれば、東電が莫大な損害賠償責任を負い、債権の種類のもよるが、貸し金全額の弁済が受けられなくなることは通常ありうることといえ、相当因果関係は認められる余地がある。
 しかし、今までの判例で扱われた事例は、放射線による身体の障害、原発事故によるPTSD等精神的損害、危険性認識による近隣土地の価値の下落、漁業や加工食品への風評被害等が問題となったものであり、これらに共通するのは、放射性物質の危険性が前提で、その物理的又は精神的影響により発生した損害であって、債権者の損失をこれらと同様に考えてよいのかは問題である。そもそも原賠法3条は、危険責任の法理に基礎を置くものであることから、核燃料物質の特殊な危険性からは遠い、原子力事業者の債権者の損害までは、「作用」(2条2項)によるものとは言えないとして、無限定説に立った場合でも「原子力損害」には当たらないとされるのではないか。



【債権の優先順位】
 債権の優先順位について検討してみる。

まず、原賠法上、原子力損害の賠償責任を負うのは、原子力事業者のみであり(3条、4条)、その子会社等関連会社は原子力事業者(2条1項)でない限り、賠償義務はない。したがって、ここでは直接、東電に貸し付けをしている金融機関等の債権について考えたい。

 仮に東電が破産した場合などは、以下のような順位となる。

1 抵当権など特定財産上に別除権ある債権

2 財団債権
 租税のうち納期未到来や納期限から1年を経過していないもの、破産開始決定前の3か月間の未払給料、退職前3か月分の退職金など

3 優先的破産債権(一般の先取特権その他優先権ある債権)
 租税のうち納期限から1年を経過したもの、財団債権となるもの以外の労働債権など

4 一般の破産債権

5 劣後的破産債権
 破産手続開始後の利息など



〔金融機関〕

①金融機関が、東電に長期の貸し付けなどして、その債権を被担保債権として、東電所有の不動産等に抵当権を設定しているような場合、上の1の別除権付債権に該当する。

②東電が、社債(短期社債除く)を発行し、金融機関がそれを引き受けている場合は、電気事業法37条で、一般担保付社債として、3の優先的破産債権に該当する。

③その他の売掛金や無担保の貸付、短期社債等は4の一般破産債権に該当する。

〔原子力損害を受けた被害者〕

 原子力損害の賠償請求権は、特に優先させる規定がないので、一般の不法行為に基づく損害賠償請求権と同様、4の一般の破産債権に該当する。



 税金、賃金等の処理を置いておくとして、この場合、大雑把に言うと、東電の全資産を売却等により金に換えて、そこから上の①②の金融機関の債権を全部弁済し、その残りがあれば、それを金融機関と一般の被害者で、残債権額、損害額にそれぞれ応じて案分して支払いを受け、金融機関はそれ以上はあきらめることになり、他方、一般の被害者については、それで足りない分について原賠法16条により救済される余地があるということになる。

 現在、東電の発行済み社債額が5兆円を超えるなどと報道されていて、金融機関による債務免除の話が出てきているが、金融機関がこれに応じる法的義務はない。仮に金融機関の有する債権が上の①と②がほとんどならば、東電が破産してもほとんどが優先的破産債権以上なので、一般の被害者への賠償前に弁済を得ることができ、(東電の資産の量や内容にもよるが)ほとんど満足を得られることになるから、債務免除までして東電存続を主張するより、経済的にはさっさと債権者として東電の破産を申し立てした方が得ということになる。〔ただし、事故後に一般担保付社債を引き受けて、その金で、無担保貸付部分の弁済を受けるようなことをしていた場合は、管財人による否認の可能性がある。〕

 金融機関の①と②の債権は、一般の被害者より優先するので、東電に資産がある限り、弁済を受けられるのは法律的には当然として、③の部分については、本来は、原賠法がなければ東電は破産して残余がなければ0、残余があったとしても一般の被害者と平等に案分してしか弁済を得られなかったはずのものである。
 これをたまたま原賠法16条による救済スキームで東電存続が前提となったからといって、その本来受けられないはずの③の部分まで、金融機関が全額弁済を受けられることになるというのは不当という感じもある。

 もっとも、これも静的に事態を見るのではなく、東電が、今後も電気事業等を継続し、十分な利益を継続的に得ることができ、また役員報酬、従業員給与、宣伝広告費等の費用を抑えて利益を増大させ、それを支払いに充てていく、一般の被害者への賠償部分についても最終的には国も負担を被らないというのなら、長期的にみて金融機関が最終的に今ある債権全額の弁済を得ても、特に不当とは思えない。


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電気事業法

(一般担保)第37条 一般電気事業者たる会社の社債権者(社債、株式等の振替に関する法律(平成13年法律第75号)第66条第1号に規定する短期社債の社債権者を除く。)は、その会社の財産について他の債権者に先だつて自己の債権の弁済を受ける権利を有する。
2 前項の先取特権の順位は、民法(明治29年法律第89号)の規定による一般の先取特権に次ぐものとする。

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2011-05-15 : ・二次的損害,間接被害者等 : コメント : 0 : トラックバック : 0
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原子力損害賠償法について検討してみます。(リンクはご自由に)
なお、引用部分以外は私(一応法律家)の意見ですので、判例・学説・実務等で確定したものではありません。他の考えでも裁判等で争い認められる余地があります。

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