東日本大震災以降,原子力損害賠償法に興味あり,同法と東京電力の責任についても検討してみたい。

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・従業員,作業員の被爆,損害 その3 立証

・従業員,作業員の被爆,損害 その3 立証

 福島第一で,今現在,具体的にどのような作業環境で,どのような作業が行われているのか,それらについてビデオ等でのきちんと記録を残しているのか,労働者の健康管理,被爆管理等がどう行われているのかなど不明であるが,大規模原発事故であることは間違いなく,労働者の健康被害の問題が生じる可能性は否定できない。


 まず,原賠法に基づく損害賠償請求においても,その健康被害については,公害訴訟や医療過誤訴訟等と同様,高度の科学的専門的知識が必要な上に,関係資料やデータ類が,加害者側に偏在するなどして,その因果関係の立証が容易ではないことが予想される。また,労災保険の認定基準と,原賠法に基づく損害賠償請求訴訟での裁判所の認定は必ずしも一致しない(長尾訴訟)。


 原賠法3条では,原子力事業者の無過失責任を前提とするので,原子力事業者の故意又は過失の立証は必要がない。そこで,労働者側の立証負担があるものとしては,以下のようなものであろう。


 労働者側の立証負担

1 被爆事実の立証
(1)被爆の有無
(2)被爆線量
(3)被爆態様(内部,外部等)
(4)その他事情(被爆時期,期間,場所,作業環境等)

2 疾病の立証
 ※医学的診断,所見等

3 1と2の因果関係の立証
(1)条件関係(事実的因果関係)
 ※証明の程度の問題,蓋然性説,疫学的証明等
(2)相当因果関係


 現在福島第一原発で作業に従事している労働者の場合,線量計等で被爆管理をしているはずなので,被爆の事実と,被爆線量の最小限の値までは,ある程度立証可能であろう。(被爆管理がずさんであった場合は,被爆事実ははっきりしても,その線量の証明が困難となってしまう。被爆管理自体は,当然雇用主の責任であろうから,その落ち度によって,被爆線量が不明確になって,そのために労働者の立証上の不利益が生じた場合にどうなるのかは問題である。)

 最も問題となりやすいのが,因果関係(事実的因果関係)であり,その立証の程度については,論理的には以下のような立場が考えられる。

A 科学的証明説
  厳密な自然科学的証明が必要

B 高度の蓋然性説
  自然科学的証明までは要しないが,当該結果から当該原因に至に高度の蓋然性が必要

C 相当程度の蓋然性説
  高度の蓋然性までは要せず,相当程度の蓋然性で足る。

E 因果関係の推定
  因果関係の無いことを加害者が証明する必要がある。


 まず,裁判所では,法的因果関係が問題とされるので,Aのような厳密な証明を要求することはないだろう。
 また,裁判所による法解釈適用の場面で,Eのように正面から因果関係の推定を認めることは少なかろう。

 結局,Bのように,かなりの高度の確かさ,高確率での発症を要求する立場と,法の趣旨から,それよりも低い程度,確率での発症でもよいと考えるCのような立場との争いとなるように見えるが,B説のように高度の蓋然性が必要としても,その認定において,結論的に因果関係を認める最高裁判決(下記ルンバール訴訟最高裁判決,長崎原爆松谷訴訟最高裁判決)がある。


 まず,B高度の蓋然性説に関して,判例は以下のとおり。

・医療過誤について,ルンバール訴訟判決(最高裁昭和50年10月24日第2小法廷判決),「訴訟上の因果関係の立証は、一点の疑義も許されない自然科学的証明ではなく、経験則に照らして全証拠を総合検討し、特定の事実が特定の結果発生を招来した関係を是認しうる高度の蓋然性を証明することであり、その判定は、通常人が疑を差し挟まない程度に真実性の確信を持ちうるものであることを必要とし、かつ、それで足りるものである」

・原爆症認定について,長崎原爆松谷訴訟最高裁判決(最高裁平成12年7月18日判決,判タ1041号141頁),原子爆弾被爆者の医療等に関する法律(原爆医療法)の放射線起因性の問題。
「訴訟上の因果関係の立証は、一点の疑義も許されない自然科学的証明ではないが、経験則に照らして全証拠を総合検討し、特定の事実が特定の結果発生を招来した関係を是認し得る高度の蓋然性を証明することであり、その判定は、通常人が疑いを差し挟まない程度に真実性の確信を持ち得るものであることを必要とすると解すべきであるから、法八条一項の認定の要件とされている放射線起因性についても、要証事実につき「相当程度の蓋然性」さえ立証すれば足りるとすることはできない。」

・原発での作業中の被爆について,長尾訴訟控訴審判決(東京高裁平成21年4月28日判決(平成20年(ネ)第3613号))。原賠法に基づく請求
「控訴人らは、原告光明の放射線被ばくと多発性骨髄腫の発症との因果関係については、仮に高度の蓋然性が証明されないとしても、疫学データ等により統計的な確率が証明されれば、因果関係の有無に関する心証度に応じて損害額を認定すべきであると主張する。しかし、前記のとおり、訴訟上の因果関係の立証は、特定の事実が特定の結果発生を招来した関係を是認しうる高度の蓋然性を証明することであるから、高度の蓋然性が証明されない場合には、因果関係の立証が不十分であるとして請求が棄却されることはやむを得ないものというべきである。控訴人らは、高度の蓋然性の証明がない場合であっても、因果関係の有無に関する心証度に応じて損害額を認定すべきであると主張するが、独自の見解であり、到底採用することはできない。」


 次ぎにC相当程度の蓋然性説について,判例は以下のとおり

・原爆症認定について,長崎原爆松谷訴訟控訴審判決(福岡高裁平成9年11月7日判決,判タ984号103頁),原子爆弾被爆者の医療等に関する法律(原爆医療法)の放射線起因性問題。
「原子爆弾による被害の甚大性、原爆後障害症の特殊性、旧原爆医療法の目的、性格等を考慮し、認定の要件の証明の程度については、起因性の点についていえば、同法7条1項本文の放射能と現疾病との間の因果関係につき、また、同法7条1項ただし書きの放射能と治癒能力との間の因果関係につき、それぞれ物理的、医学的観点から高度の蓋然性の程度にまで証明されなくても、被爆者の被爆時の状況、その後の病歴、現症状等を参酌し、現傷病が原子爆弾の傷害作用に起因する旨の相当程度の蓋然性の証明があれば足りると解すべきである。」

・なお,日本原子力発電所放射線被曝訴訟第一審判決,岩佐訴訟(大阪地裁昭和56年3月30日判決,昭和49年(ワ)第1661号,判タ440号62頁)では,被爆事実の認定について,「具体的危険性の立証をもって必要にして十分と考えざるを得ないであろう。つまり、かかる具体的危険性が認められるときは、被告において被曝の事実がないなどの特段の反証をしない限り、放射線被曝の事実を推認して防げないというべきである。しかも、原告の如き部外者にとって、具体的危険性の立証と雖も決して容易なことではないのであるから、その判断基準として余り高度の蓋然性を要求することは相当でないというべきである」と判示したものがある。


 結局は,高度の蓋然性といっても,その具体的内容,認定過程,方法が問題なのであろう。

 その内容としては,
・「経験則に照らして全証拠を総合検討し、特定の事実が特定の結果発生を招来した関係を是認しうる」(最高裁昭和50年10月24日第2小法廷判決)
・「その判定は、通常人が疑いを差し挟まない程度に真実性の確信を持ち得るものであることを必要とする」(最高裁平成12年7月18日判決,判タ1041号141頁)
 ということである。

 そして,上の平成12年7月18日の最高裁判決では,高度の蓋然性説に立ちながら,放射線の確定的影響に関して,公的な線量評価システム(DS86)とかしきい値理論を機械的に当てはめることは「事実を必ずしも十分に説明することができない」として,結論として放射線起因性を認めている。
 一定の科学的基準をそのまま当てはめない理由は,「DS八六もなお未解明な部分を含む推定値であり、現在も見直しが続けられていること」,「物理的打撃のみでは説明しきれないほどの被上告人の脳損傷の拡大の事実や被上告人に生じた脱毛の事実」からとのことである。

 蓋然性説は,自然科学的立証までは不要とする説だから,一定の科学的基準を充たさないからといって,直ちに因果関係を否定する説ではないことは明白である。そして「通常人が疑いを差し挟まない程度」の確実性で良いというわけだから,上のような最高裁判決の結論も自説に矛盾したものとは言えないだろう。


 問題なのは,晩発性の癌や白血病など,放射線の確率的影響が問題となる場面である。上の長尾訴訟控訴審判決(東京高裁平成21年4月28日判決)は,高度の蓋然性説に立ち,その具体的検討では,大雑把にいうと,「累積外部被ばく線量70mSv」で,その程度の被爆で多発性骨髄腫になるか否かについては,『肯定的調査結果がこれだけだされている。他方,それを否定する調査結果もこれだけだされている。その病因については,いくつも説があり,放射線のみが原因とはいいきれない,したがって,高度の蓋然性までは認められない』という感じで,労働者敗訴となっている。なお,この判決について,平成22年2月で上告不受理となり労働者敗訴で確定している。
 
 癌にしろ白血病にしろ,晩発性の障害で,放射線の影響のみが病因となるような病気は無いはずである。特別な被爆がなくても,人は,こういった病気にはなる。また,低線量被爆による影響については,否定する説,肯定する説,さまざまあり,研究結果も多数あるはずで特にどちらかに確定しているものではないようである。
 また,長尾控訴審判決で,否定側の資料として出された原子力安全研究協会報告書では「低線量域と呼ばれる200mSv未満の放射線被ばくでこれらがんに過剰リスクが存在することを示す明確で信頼に足る証拠は存在していない」としていた。
 これらから見ると,上の長尾控訴審判決によるならば,.累積200ミリ以下で,晩発性の影響が出てしまった場合は,ほとんど労働者が負けるということになるのではないか。影響を肯定する学説が相当優勢になった場合には勝てる余地も出てくるが,それはほとんど自然科学的立証を要求しているに等しいことになるのではなかろうか。

 このように平成12年の最高裁判決と、平成21年の高裁判決は、同じ高度の蓋然性説に立ちながら、一方は確定的影響についてしきい値以下でも他の事情から高度の蓋然性ありと認定し、他方は確率的影響について、それを示す資料が一部あっても、逆の研究もあるので、高度の蓋然性なしとしており、ずいぶん幅があるものといえ、今後裁判所で争った場合に、どのような結論になるかは不明である。


 なお、原子力事業従業員災害補償専門部会報告(昭和40年5月31日)原子力事業従業員災害補償専門部会報告(昭和50年7月21日)では、放射線障害の因果関係立証の困難性が問題とされ、みなし認定制度や認定補助機関の創設などが議論されていた。



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2011-05-13 : ・従業員,作業員の被爆,損害 : コメント : 0 : トラックバック : 0
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