東日本大震災以降,原子力損害賠償法に興味あり,同法と東京電力の責任についても検討してみたい。

スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。
-------- : スポンサー広告 :
Pagetop

■4条 責任集中の原則 その10 取締役の範囲,任務懈怠

■4条 責任集中の原則 その10 取締役の範囲,任務懈怠

 実際に,震災後に福島第一でなにが起きているのか詳細が不明である上,これまでの東電の社内の意思決定過程や業務遂行,リスク管理体制の整備,その実効化等の施策についても詳細は知らないが,ごく大雑把に取締役の対会社責任を検討すると以下のようになろう。


〔取締役の範囲〕
 まず,震災後,原発事故に至るまでの東電側の判断,対処(作為,不作為)について,落ち度があり,それが取締役らの意思決定や業務執行についての監督不足等に起因するものであるときは,震災後の各時点で取締役であった者について,会社法423条の任務懈怠責任を問うことは可能となろう。このように震災後の対処等についての任務懈怠のみを問題とする場合には,震災時に既に退任していた取締役の責任は問えない。

 他方,震災前の原発施設の設置,保存,管理,リスク管理体制の構築,その監督等について,取締役らの落ち度が認められ,それが今回の原発事故につながったといえる場合には,取締役在任中にしでかした任務懈怠行為の結果と言えるから,震災時には既に退任していた取締役についても,会社法423条の責任追及は可能と解されるはずである。震災前の取締役の職務のみを問題とする場合には,震災後に初めて取締役になった者の責任追及はできない。

 過去の退任取締役については,どこまで遡ることができるのか。
 この問題は,どの時点の任務懈怠を問題とするのかによって,決まることになろう。
 福島第一原発の1号機については,設置許可申請が昭和41年6月1日になされ,運転開始が昭和46年3月26日,4号機の運転開始が昭和53年10月12日とされている。最大に遡ってこのあたりかもしれない。当初は,リスク評価管理の技術も今ほどではないだろうし,他国や国内の他の原発の事故や,震災等についての知見も少なかったかもしれない。その後,さまざまな経験や新しい知識の発見があったはずで,リスク評価や事故回避の技術等も発達していったはずである。そういう意味では,当初よりも現在に近づく方が,リスク認識と回避手段の選択等の幅が広がってきているはずで,在任期間が今回の事故に近い者ほど,任務懈怠が認められ易いということになろう。

〔任務懈怠〕
 平成7年1月に阪神大震災が,平成17年8月には宮城県沖地震があった。平成18年の「耐震設計審査指針」改訂作業の中心となった国の原子力安全耐震設計特別委員長の入倉孝次郎氏のサイトでは,以下のように記載されている。

---------------------------
http://www.kojiro-irikura.jp/
最終更新日:2011年5月9日
「東日本の大震災について
 2011年3月11日14時46分(日本時間)にモーメントマグニチュード9.0という日本における観測史上最大の東北地方太平洋沖地震が発生しました。超巨大な地震とそれに伴う強力な津波により、多くの方々が、亡くなられ、また被災されました。犠牲になられた方々、ご遺族の皆様に対し、謹んでお悔やみを申し上げます。命は助かっても家を失い過酷な避難生活を強いられている皆様に、できるだけ早く生活再建するための援助が届き、被災地の復旧と復興が実現することを、心より願っております。
 このように巨大な地震の発生が予測できず、地震に対する防災対策が十分にはなされてこなかったことに対し、地震学の研究者として、責任を痛感しております。これまでの地震学および関連する地球科学や耐震工学に基づく地震防災の研究の在り方に問題があったことを認識し、今後の研究に生かしていくことが重要と考えます。
 今回の地震の被害を拡大しているのは、原発災害が重なったことにあります。この問題について、内閣府の原子力安全委員会の下にある耐震関係の委員会の専門委員をしている私は責任を負うべき立場にあると考えています。
しかしながら、今回の福島第一原発の重大事故は、決して地震の規模や津波が想定以上に大きかったことが主たる原因ではないと考えます。
 2006年9月に改訂された「発電用原子炉施設に関する耐震設計審査指針」には、「想定された地震動を上回る強さの地震動が生起される可能性は否定できない」、その場合でも、「残余のリスク(想定以上の外力に対しても施設の重大な損傷、施設からの放射線物質の放散、結果として周辺公衆が放射線被ばくするリスク)を合理的に実行可能な限り小さくするための努力がはらわれるべき」と明記されています。これは、地震に伴って生成される津波などの随伴事象に対しても当然適用されるものです。原子力発電所の設計の基本方針として、想定されていない事象が発生しても原子力発電所の安全性は保たれるように設計するという「多重防護」の考えがあります。「多重防護」は原子力発電所の設計思想そのものです。福島第一原発が「施設からの放射線物質の放散」という重大事故に至った主たる原因は、原子力発電所の「多重防護」の考えが守られていなかったことにある、と考えます。」
--------------------------

 今回の原発事故が,津波等の地震随伴現象に対する多重防護の不備が主因だとすると,耐震設計審査指針(http://genbaihou.blog59.fc2.com/blog-entry-73.html)が十分に尊重されていなかったことが原因ということになり,リスク判断とその対応について,会社経営者に落ち度があったと疑われる余地があろう。(素人の考えでは「多重防護」とは、まず地震随伴現象としての津波の高さを保守的に予測し、それを十分に越える防潮堤を築いた上、仮にそれを越えて津波がきても建家や他の施設の破壊に至らないように設置管理し、仮にそれがやぶられて付随施設破壊、外部電源喪失に至っても、短時間で他からの電源確保ができるようにしておくくらいのことをイメージするのであるが。)
 ここ5,6年くらいは専門家による貞観地震等のカスケード型地震の研究,同型地震の可能性の指摘もあり,リスク認識も昔に比べて容易になっていたはずであり,ここ5年ほどの間に,取締役であった者については,任務懈怠を問われる可能性はより高いのではないか。(津波が来る前の地震だけで、既に十分に壊れており、電源回復如何にかかわらず給水不能となっていたとすると、実際に耐震基準を充たしていたのかという問題が出てくる。)

 経営者としては,国(保安院)の監督のもとに,十分な対策をとってきたと主張するかもしれないが,保安院の監視監督も大半は書面審査で,その書面作成は事業者が行うというシステムであるから,いうまでもなく安全確保の責任は,第一に当事者である東電にあるのは当然である。
 仮に,東電側が,耐震設計指針に忠実に従い,より安全な設備,施設に改造したいと主張したのに,あるいは,より保守的にリスクを見積もりたいと主張したのに,保安院がそれを拒絶し,それを許さなかったというようなことが,公的な書面等で残っていいるなどし,証拠として存在するというのなら,東電は,国に従ったまでであると主張できるかもしれない。あるいは津波評価の方法や技術については,原子力土木委員会津波評価部会の指定した方法に従う法的義務が存在したために,東電としては5.7mを超える大津波の来襲を評価,予測,対応することが全く不可能であったというような事情があれば,我々は国に従ったまでであると言えるかもしれない。

 また,会社の投資が失敗したとか,損なTOBに応じたとか,会社の合併とか子会社化だとか,経営判断の要素が強い場面では,経営判断の原則が働き,当該判断が経営者として著しく合理性に欠けることがないがきり裁量の範囲内として,経営者は善管注意義務違反,任務懈怠責任を問われることはないだろうが,リスク認識やリスク管理体制の整備のレベルで落ち度がある場合は,そもそも経営判断の原則など問題とならないのではないか。

 あとは自然災害のリスク評価やその対策については,高度に専門的技術的な判断を要するものであるから,経営者としては,経験知識を有する専門家に相談の上,その判断に従ったまでだから,任務懈怠は無いと反論することになろうか。これにしても,リスクを重めに見積もる専門家がほとんど存在しなかったり,異説をとなえる者がほとんど存在しなかったとしたら,たしかに専門家に従ったまでだと主張できるかもしれないが,巨大津波については,経済産業省総合資源エネルギー調査会原子力安全保安部会の場で専門家による指摘があったし,国会でも全電源喪失のリスクについて議員からの指摘もあったわけで,単純に専門家の意見に従ったまでだと言って逃れることができるとは思えない。専門家によってA説とより保守的なB説があったとして,経営者が,A説を特に信用した点については,その合理的な理由が必要であるはずであり,それは当然に問われることになるであろう。そもそも災害対策というものは,科学的に確定的に実証・予見されている事象についてのみ対応するというスタンスでは遅すぎるのであり,災害対策の前提となるリスク判断において,より保守的判断に近いB説を採らずに,特にA説を前提としてリスク管理をしたことが合理的であったと言えるには,原発事故により発生する結果が極めて重大なものであることに鑑みれば、何らかの強い特段の根拠が必要ではないか。

〔消滅時効〕
 会社の取締役に対する損害賠償請求権の消滅時効期間は,商法522条所定の5年ではなく,民法167条1項によって10年とされる(最高裁平成20年1月28日判決)。
 したがって,原発事故後10年間は消滅時効にかからないことになろう。

〔責任の範囲〕
 任務懈怠に起因する原発事故で会社に与えた損害の賠償責任
 これについては,こちらで論じた。
 http://genbaihou.blog59.fc2.com/blog-entry-45.html
 http://genbaihou.blog59.fc2.com/blog-entry-65.html
 一番確実と思われるのは,原発施設の損壊によって被った東電の損害


関連記事
スポンサーサイト
2011-05-10 : ・経営者の責任 : コメント : 0 : トラックバック : 0
Pagetop
コメントの投稿
非公開コメント

Pagetop
« next  ホーム  prev »

プロフィール

text2

Author:text2
原子力損害賠償法について検討してみます。(リンクはご自由に)
なお、引用部分以外は私(一応法律家)の意見ですので、判例・学説・実務等で確定したものではありません。他の考えでも裁判等で争い認められる余地があります。

全記事のリスト表示

全ての記事を表示する

検索フォーム

カレンダー

07 | 2017/08 | 09
- - 1 2 3 4 5
6 7 8 9 10 11 12
13 14 15 16 17 18 19
20 21 22 23 24 25 26
27 28 29 30 31 - -

QRコード

QR

メールフォーム

名前:
メール:
件名:
本文:

アクセスカウンター

アクセスランキング

[ジャンルランキング]
ニュース
615位
アクセスランキングを見る>>

[サブジャンルランキング]
時事
276位
アクセスランキングを見る>>
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。