東日本大震災以降,原子力損害賠償法に興味あり,同法と東京電力の責任についても検討してみたい。

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■4条 責任集中の原則 その9 その趣旨を考える

■4条 責任集中の原則 その9 その趣旨を考える

 原賠法の特徴として,①無過失責任,②無限責任,③責任集中の原則が挙げられることがある。

 まず,①の無過失責任は,危険責任の法理や報償責任の法理等に基づくもので,
・工作物責任(民法第717条)
・動物占有者の責任(民法第718条)
・公の営造物の責任(国家賠償法第2条)
・製造物責任(製造物責任法)
・大気汚染に対する事業者の賠償責任(大気汚染防止法第25条)
・水質汚濁に対する事業者の賠償責任(水質汚濁防止法第19条)
・鉱害賠償責任(鉱業法第109条~第116条)
など,その例はいくつかある。

 原賠法の場合,「瑕疵」や「欠陥」の存在すら前提としないという点で,工作物責任や製造物責任とは異なるが,大気汚染,水質汚濁に対する事業者の責任や鉱業権者の賠償責任等でも,「瑕疵」「欠陥」等は要件とされておらず,このような純粋な無過失責任も,原賠法だけの特徴とはいえない。

 ②の無限責任については,一般の不法行為(民法709条)でも,賠償責任の限度額などあろうはずもなく,当然に無限責任なのであって,これは原賠法の特徴とはいえない。もし責任が限定されていたら,それは原賠法の特徴となろう。また、無過失責任であることと、責任の限度の有無とは全く関係がない。上記の他の無過失責任でも、賠償責任の限度は定められていない。
 なお,原子力事業者が無限責任を負うからといって,株式会社の株主が,出資限度でしか責任を負わない(株主有限責任の原則,会社法104条)のは,原子力事業者でも異ならず,東電の株主が,自己の他の財産を含めて無限の責任を負う必要がないのは当然であり,原賠法の無限責任の射程ではない。

 結局③の責任集中の原則が,原賠法の最も特徴的な部分といえるのではないか。これは妙な制度で、同種の原則としては、宇宙条約の6条7条がある。

 宇宙条約(月その他の天体を含む宇宙空間の探査及び利用における国家活動を律する原則に関する条約)の第6条及び7条の全文は次のとおりである。

--------------------
第6条 条約の当事国は、月その他の天体を含む宇宙空間における自国の活動について、それが政府機関によって行われるか非政府団体によって行われるかを問わず、国際責任を有し、自国の活動がこの条約の規定に従って行われることを確保する国際的責任を有する。月その他の天体を含む宇宙空間における非政府団体の活動は、条約の関係当事国の許可及び継続的監督を必要とするものとする。国際機関が、月その他の天体を含む宇宙空間において活動を行う場合には、当該国際機関及びこれに参加する条約当事国の双方がこの条約を遵守する責任を有する。

第7条 条約の当事国は、月その他の天体を含む宇宙空間に物体を発射し若しくは発射させる場合又は自国の領域若しくは施設から物体が発射される場合には、その物体又はその構成部分が地球上、大気空間又は月その他の天体を含む宇宙空間において条約の他の当事国又はその自然人若しくは法人に与える損害について国際責任を有する。
---------------------

 これは、宇宙活動を行うのが政府機関か非政府団体かに関わらず、自国によって行われる活動については国家が国際的責任を負い、打ち上げられた宇宙物体が他国に損害を与えた場合、打ち上げ国には無限の無過失責任が発生するとするものであり、責任主体は国家である。宇宙活動がその性質上、高度な危険性を内蔵するものであることから、宇宙活動を実施する主体が私企業であるか否かにかかわらず、特に国にその責任を集中したものであり、私企業に責任を集中する原賠法とは異なる。

 原賠法4条1項では「前条の場合においては、同条の規定により損害を賠償する責めに任ずべき原子力事業者以外の者は、その損害を賠償する責めに任じない。」とあり、原子力事業者への責任集中を定めている。

文部科学省のサイトで以下のよう説明されている。
http://www.mext.go.jp/a_menu/anzenkakuho/faq/1261352.htm

---------------------------------------
Q3.責任集中の原則とはどのようなものですか。
A3
責任集中の原則とは、賠償責任を負う原子力事業者以外の者は一切の責任を負わないとするものです。これにより、被害者は容易に賠償責任の相手方を知り得、賠償を確保することができるようになります。
一方、この責任集中は、原子力事業者に機器等を提供している関連事業者を、被害者の賠償請求との関係において免責するものであり、これら関連事業者は安定的に資材を供給することが可能になり、これにより原子力事業の健全な発達に資することにもなります。

なお、多くの諸外国の原子力損害賠償制度においても、同様の制度が採用されています。
-------------------------------------


 責任集中で、被害者は容易に賠償責任の相手方を知り得ることになるが、他方で、原子力事業者以外への請求が制限されるという意味では、必ずしも被害者にとって有利な規定とはいえない。特に、原子力事業者よりも、落ち度ある関係業者の方が責任財産を豊富に持ってる場合には、むしろ不当な結論に至る可能性がある。
 また、原子力事業者に資材、機器等を提供している関連事業者を、予め被害者の賠償請求との関係において免責し、これら関連事業者が安心して資材、機器等を原子力事業者に供給できるようにし、もって原子力事業の健全な発達を促そうとする趣旨はわかるが、そのような責任集中を定めて、しかも原子力事業者から落ち度ある関連事業者への求償権も大幅に制限(5条、故意のみ)してしまうと、原子力事業者が、最終的に莫大な責任を、過失の有無にかかわらず全部負担することになる。つまり責任集中によって、確かに関連事業者は安心して業務を行えるが、その分の負担が、原子力事業者に集中するだけで、原子力事業の健全な発達(1条)という趣旨で見ると、プラスマイナスそんなに変わらないような気がする。


 結局、責任集中の本当の意味は、損害保険との関係を考えなければ理解できないのではないか。この点については、立法過程に関与した加藤一郎が国会で参考人として以下のように述べている。


--------------------------
- 参 - 商工委員会 - 27号
昭和36年05月30日
 さらに、この責任についての第三の問題といたしましては、いわゆる責任集中の問題がございます。これは四条と五条の関係でありますが、たとえばいわゆる供給者――いろいろな施設の部品を供給した者、そのほかその設計をした者であるとか、労務を提供した者というような、広い意味での原子力施設を作るについて協力した者が全部供給者ということになるわけでありますが、その供給者については責任を免除いたしまして、責任を、原子力事業者に集中するというやり方をとっております。この点は、どうしてそういう必要があるかと申しますと、責任保険との関係が非常に重要でありまして、もしすべての供給老に責任が認められるということになれば、各人が責任保険をつけまして自衛手段を講じなければならなくなる。ところが、そういたしますと、貢任保険の重複という問題が出て参りまして、保険の限度額がそれだけ少なくなってくる。逆に、責任を認めても被害者には決して有利にはならないという問題があるわけであります。そこで保険の技術といたしましては、なるべく責任を最後の事業者のところに集中しまして、そこでまとめて保険をつけるということにするのが適当であります。この責任の集中ということは、そのほかに被害者たる一般公衆が損害賠償を請求する場合に、だれに請求していいかということが明確になる。かりに事業者のほかに供給者にも課せられるということになると、その関係が複雑になるわけであります。さらにまた原子力事業の育成ということを考えますと、供給者が安んじて供給ができるようにしてやる必要があるわけでありまして、そうでなければ原子力事業に協力する者が少なくなる危険がある。そこで原則として供給者の責任を免除してやるということが必要になります。
 そういういろいろな理由から、責任の集中ということが、これは各国で問願になっておりまして、集中している国が多いわけであります。結局経済的に考えますと、責任の集中ということは、その責任保険の保険料をだれが払うかという問題になるわけなんです。つまり供給者に責任が負わせられるとすれば、責任者が保険料を負担しなければならない。ところが事業者ということになれば、事業者が全部保険料を負担して責任保険をつける。そのコスト、供給のコストという点を考えますと、供給者がつけた責任保険料は当然供給代金の中に含まれるわけでありまして、それを代金の形で事業者が払うのか、それとも保険料の形で保険会社に事業者が払うのかというような、保険料の負担をどういう形でするかという経済的な問題に帰着するように思われます。ただ原子力災害の場合には、責任保険の限度をこえる場合があるものですから、その場合には責任を負わされた者が損をする結果になりますけれども、その点がもし国の援助ということでカバーされることになれば、あとは負担の形の問題に帰するのではないか。そうだとすれば、技術的に最も明確な責任集中ということにしておくのがいいだろうというように思われます。


----------------------------

 上の加藤一郎の陳述の意味も少しはっきりしないところがあるが、莫大な損害額に及ぶ可能性がある原子力損害について、関連業者までが賠償責任を負うようにしておくと、関連業者が自らも高額の保険に入る必要があり、原子力事業者との保険の重複が生じることになり、また、保険が細切れになってカバーされる損害限度額が小さくなる可能性があり?不当であること(必要性)から、原子力事業者に責任を集中し、原子力事業者にのみ保険料を支払わせることにし、また、そのようにしても最終的には、関連業者の供給商品の価格に保険料分が乗るか乗らないかだけの問題なので、経済的には原子力事業者と関連事業者との間で損得が生じるわけではないので(許容性)問題がないということかと思われる。

 責任集中の原則の趣旨については、少なくとも措置額の範囲内の損害については、加藤一郎の陳述のとおり上ようなの趣旨のものと捉えると理解しやすい。

 しかし、原賠法で、原子力事業者は、賠償措置として、民間との保険契約(8条、原子力損害賠償責任保険契)、政府との補償契約(10条、原子力損害賠償補償契約)が義務づけられており(6条、合計最大2400億円)、上の加藤一郎の保険というのも、おそらくこの範囲内のものであろうから、この賠償措置額を超える損害について、その責任を原子力事業者に集中させるのは、やはり何のためかという問題が出てくる。

 賠償措置額を超える額について、どこか民間の保険会社が、他に保険契約をしてくれるとでも考えていたのか?。


※4条については、どのような説明をしても、結局は、他国からの技術移転を伴う事業で、売り手の希望をいれなければどうしようもない状況で負わされた負担が始まりなので、いびつな感じは否めない。
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2011-05-09 : ■4条責任集中の原則 : コメント : 0 : トラックバック : 0
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