東日本大震災以降,原子力損害賠償法に興味あり,同法と東京電力の責任についても検討してみたい。

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■4条 責任集中の原則 その7 東電株主は国を訴えることができるのか?

■4条 責任集中の原則 その7 東電株主は国を訴えることができるのか?

 損害発生とその拡大に国の過失が寄与していた場合どう考えるか。未だ事件は収束の兆し無く、事実関係も不明なままであり、以下は国に何らかの落ち度(過失)がっあたと仮定した場合の話である。

 まず,東電株主が,責任追及等の訴え(会社法847条・株主代表訴訟)によらずに,東電役員らを直接訴えることができるのか,あるいは,株主が,第三者として東電を直接訴えることができるのかについては,こちら(東電株暴落による株主の損失)で論じた。


第1 原発事故が起きて,東電の株価が暴落したのは周知の通りであり,株主は,損失を被っている。この事故に国家の過失ある行為が関与していたとすると,株主は,国に対して,損害賠償請求ができないか。
 国家賠償法1条1項では,「国又は公共団体の公権力の行使に当る公務員が、その職務を行うについて、故意又は過失によつて違法に他人に損害を加えたときは、国又は公共団体が、これを賠償する責に任ずる。」とされる。
 したがって,公務員の職務上の落ち度ある行為と,株主の下落による損失との間に相当因果関係が認められれば,国賠法に基づく損害賠償請求が可能なようにも思える。
 ただし,これは,株価下落を「原子力損害」と理解するか否かによって,結論は違ってくる。
 「原子力損害」の理解については、こちら
 まず、「原子力損害」の意味を、原賠法2条2項の字義どおり,核燃料物質の原子核分裂の過程の作用又は核燃料物質等の放射線の作用若しくは毒性的作用により生じた損害として、狭く考えていく限定説では、株価下落による損失は、「原子力損害」には当たらないことになろう。
 これに対して、いくつかの下級審判例のように、原子炉の運転等(2条1項)により発生した損害で,2条3項の「作用」と相当因果関係あるもの全てを含むと広く捉える説では、「原子力損害」に該当する可能性がある。
 相当因果関係は、一般の社会通念上、その原因があれば、その結果が生じることが、通常といえるかという観点で判断されるので、大規模原発事故があれば、東電株が暴落するのは通常のことといえ、相当因果関係は認められることなろう。
 ただし、今までの判例で扱われた事例は、放射線による身体の障害、原発事故によるPTSD等精神的損害、危険性認識による近隣土地の価値の下落、漁業や加工食品への風評被害等が問題となったものであり、これらに共通するのは、放射性物質の危険性が前提で、その物理的又は精神的影響により発生した損害であって、株価の下落をこれらと同様に考えてよいのかは問題である。そもそも原賠法3条は、危険責任の法理に基礎を置くものであることから、核燃料物質の特殊な危険性から、かなり遠い損害である株価の下落までは、「作用」(2条2項)によるものとは言えないとして、無限定説に立った場合でも、「原子力損害」には当たらないとされる可能性もある。
 以下、場合分けして検討してみる。

第2 株価下落による損失が「原子力損害」に当たらないとした場合
 この場合,株価下落による損失は,原賠法の適用範囲外の損害ということになり,同法4条(責任集中の原則)等は問題とならず,しかも以前に論じた会社法上の問題もないので,株主は,国に対して,国賠法に基づく損害賠償請求をすることができるはずである。もっとも,その場合,東電が被り,ひいては東電株主が被った損失の内,何割が国の責任によるもで,何割が東電側(無過失責任)が負うべきかの問題があり,損害額の算定については問題は生じうる。

第3 株価下落による損失が「原子力損害」に当たるとした場合
 この場合,そもそも「原子力損害」について,東電以外に,国に損害賠償請求できるのかが,原賠法4条(責任集中原則)との関係で問題となる。

 すでに別(国の責任はどうなるのか?)で論じたように、そもそも国に過失があった場合、原賠法4条(責任集中原則)が適用あるのか否かが問題となり、いずれの立場に立つかによって、結論が異なってくる。立法過程の資料をざっと見たところでは、原子力損害が、国の過失ある行為と競合して発生拡大したような場合についての議論が見あたらず、4条の適用関係についても、今のところ不明である。ただ、少なくとも以下の二つの考え方はありうる。

・4条適用肯定説
 原賠法4条の文言からして、「原子力事業者以外の者」には,国も含まれるので、国に過失があっても、国の責任は、対第三者との関係では責任は問われないとする考え方。

・4条適用否定説
 原賠法4条は,被害者保護の観点から,被害者が容易に賠償責任を追及する相手方を知うるようにし,かつ,原子力事業者に機器や原料等を提供している関連事業者に,莫大になりかねない原発事故等の賠償責任を予め免れさせて,原子力事業をしやすくして,もって「原子力事業の健全な発達」を達成しようとする趣旨のものであるから,国家の側に過失があるような場合にまで,この免責を受けさせることは,本来法が予定していないものであり,4条による国の免責は無いものとする考え。

 そして,国の過失について,4条適用肯定説に立つなら,国は「原子力事業者以外の者」として,原賠法上の原子力損害の賠償責任を負わない。そして,普通に考えると,原賠法は,特に厳格な無過失責任主義を採用しており,民法709条との関係で特別法であるのと同様,国賠法との関係でも特別法のような関係に立つはずで,国は国賠法上の責任も負わないはず?。(下級審で「原子力損害」については,民法709条の適用は問題とならないとするものがある。)あるいは国賠法は別か?

 これに対して,国の過失について,4条適用否定説に立つなら,国は,4条による免責を受けられず,原子力事業者とともに国賠法?に基づく,損害賠償責任を負うことになろうから,株主は,国対して損害賠償請求できることになる。

 ただし、どの場合でも、国に過失があったとして、その本来負担すべき割合以上に、東電に対する「援助」(16条)や被害者の救助等で支出させられている場合は、国の落ち度分による損失以上の支払いをしているのと同じなので、国の過失行為による東電の財産の逸失分はなく、株主が国を訴えても無意味ということになろう。

〔結論〕
1 株価下落による損失が「原子力損害」に当たらないとした場合
  →可(国賠法)
2 株価下落による損失が「原子力損害」に当たるとした場合
(1)4条適用肯定説
  →不可?
(2)4条適用否定説
  →可(国賠法?)


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2011-04-25 : ・国の責任 : コメント : 0 : トラックバック : 0
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原子力損害賠償法について検討してみます。(リンクはご自由に)
なお、引用部分以外は私(一応法律家)の意見ですので、判例・学説・実務等で確定したものではありません。他の考えでも裁判等で争い認められる余地があります。

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