東日本大震災以降,原子力損害賠償法に興味あり,同法と東京電力の責任についても検討してみたい。

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■原発事故による風評被害対策について考える その3 因果関係の立証

■原発事故による風評被害対策について考える その3 因果関係の立証

1 過去のいくつかの裁判例を見ると,生産者側の請求について,裁判所は,原子力施設の事故と風評被害による損害との間に,相当因果関係が無いとして,請求を認めないか,一部のみ認容するという結論を出している。

 損害賠償請求の要件である因果関係については,条件関係(事実的因果関係「あれ無ければこれ無し」という関係)が存在することを前提に,さらに相当因果関係が必要とされている。相当因果関係とは,当該原因があれば,当該結果が生じることが,(一般通常人からみて)社会通念上、通常のことと認めれることを意味する。

 条件関係は,よほど無関係な減収でない限り、今回の場合は存在するはずであり,問題は相当因果関係である。原子力関係施設の事故後に,消費者の買い控えが生じた事案について,裁判所は,相当因果関係の認定において,以下のような判断をしている。

・平成元年5月17日名古屋高裁金沢支部判決(判タ705号108頁)
「かかる心理状態は,一般には是認できるものではなく,事故を契機とする消費者の心情的な判断の結果であり,事故の直接の結果とは認められない。」「極めて主観的な心理状態であって,同一条件のもとで,常に同様の状態になるとは言い難く,また一般的にも予見可能性があったともいえない」

・平成18年2月27日東京地裁判決(判タ1207号116頁)
「もっとも,本件臨界事故後,一般消費者が納豆商品を買い控えるに至ったことが窺われるものの,それは一般消費者の個別的な心情に基づくものであり,放射線汚染という具体的な危険が存在しない商品であるのにもかかわらず,それが危険であるとして,上記商品を敬遠し買い控えるに至るという心理的状態に基づくものである以上,そこには一定の時間的限界があるというべきである。この時間的限界をどのように画すかは困難な問題であるが,それは一般消費者が上記のような心情を有することが反復可能性を有する期間,あるいは一般的に予見可能性があると認め得る期間に限定されるというべきである。」

・また原子力損害調査研究会の最終報告書(平成12年3月29日)においても「平均的・一般的な人を基準として合理性のあるものであること」とされている。

 これらに共通するのは,その時点,その状況の下で,一般通常人の判断において,買い控えすることが通常(合理的,反復可能性)か否かが問われているという点である。
 ここで一般通常人の判断といっても,それがいかなるものであるかは最終的には裁判所の感覚次第というところがあるが,被害者のすべき紛争解決の準備となるのは,風評被害が起きていた時点での一般消費者をとりまく情報環境の保存である。
 損害を低く見積もりたい側は,その時点で既に十分正確な情報が行き渡っており,一般の消費者の判断としては安全と考えるのが通常で,その他の買い控えは,行きすぎたものであって,特殊な心理状態に基づくものであり,相当因果関係はないと主張するであろう。
 被害者側は,その逆を示す証拠を収集すべきということになる。
 そしてこのような情報は,生産者ら被害者に共通して必要な情報であるから,その収集は,生産者だけでなく,生産者団体,組合,業界団体,自治体等の努力によってなされるべきであろう。

 風評被害が「原子力損害」として認められた訴訟において,以下ような認定がなされている。

 平成18年4月19日・東京地裁判決(判時1960号64頁)JCO臨界事故関係。納豆の風評被害。実際の商品に放射能汚染等はなかったが,臨界事故報道等があり悪風評が生じて売上げが減少。
「本件臨界事故現場から10キロ圏内の屋内退避要請地域については、放射線及び放射性物質の放出による健康影響はないものとされているほか、一部新聞記事にはその旨の報道が先行的になされていたこと、本件臨界事故直後の平成11年10月1日から同月5日にかけて、茨城県などによって事故現場周辺の農林水産物、水質、加工品等の安全性について調査が行われ、いずれも放射線ないし放射性物質による影響は認められない旨の結果が公表されていたこと、同月6日以降は、政府やJA茨木件中央会等もキャンペーンを行うなどして安全性のPR活動を行ったことが認められるが、原子力事故が放射線や放射能の放出といった目には見えない危険を伴うものであること、本件臨界事故が前記のとおり死傷者を出した重大なものでり、事故直後からマスコミで大々的に取り上げられていた(証拠として提出された新聞記事(甲27)を見ると、臨界事故の重大性を報じる記事は、その安全性を示す記事よりもはるかに大きく取り上げられており、このことからも、一般読者に事故の重大性に関する印象が強く伝わっていたことが推測される。)ことなどからすれば、本件臨界事故後、原告の納豆製品を含む茨木県産の加工品について安全性が確認され、その旨のPR活動がなされていたとしても、消費者ないし消費者の動向を反映した販売店において、事故現場から10キロメートル圏内の屋内退避要請地域にある本社工場を「生産者」と表示した原告の納豆製品の危険性を懸念して、これを敬遠し、取扱いを避けようとする心理は、一般に是認できるものであり、それによる原告の納豆製品の売上減少等は、本件臨界事故との相当因果関係が認められる限度で本件臨界事故による損害として認めることができるというべきである。」

この判決では,原子力事業者に有利な情報として,

①臨界事故現場から10キロ圏内の屋内退避要請地域については、放射線及び放射性物質の放出による健康影響はないものとされていること
②一部新聞記事にはその旨の報道が先行的になされていたこと
③事故直後の平成11年10月1日から同月5日にかけて、茨城県などによって事故現場周辺の農林水産物、水質、加工品等の安全性について調査が行われ、いずれも放射線ないし放射性物質による影響は認められない旨の結果が公表されていたこと
④同月6日以降は、政府やJA茨木件中央会等もキャンペーンを行うなどして安全性のPR活動を行ったこと

を挙げ,他方

①原子力事故が放射線や放射能の放出といった目には見えない危険を伴うものであること
②本件臨界事故が前記のとおり死傷者を出した重大なものでり、事故直後からマスコミで大々的に取り上げられていた
③臨界事故の重大性を報じる記事は、その安全性を示す記事よりもはるかに大きく取り上げられていたこと
④一般読者に事故の重大性に関する印象が強く伝わっていたこと

を見て,そのような情報環境の下においては,一般消費者が買い控えようとする心理は,一般に是認できるとして,臨界事故と,風評被害による売上減少と間の相当因果関係を認めているものと思われる。

 要するに,風評被害が生じた時点で,一般消費者が,どのような情報環境下に置かれていたかが問題で,被害者側としてすべきことは,その時点で,消費者の不安につながる関連情報の収集保存であろう。


2 いかなる情報が,消費者の心理に影響を与えるかは,業種によって,その内容も異なるだろうが,一般には以下のようなものが考えられるのではないか。

・原発事故の内容と危険性,放射能汚染,出荷制限,風評被害に関連する省庁や自治体等のインターネットサイトや,そこにあるPDF書類の保存が必要であろう。
 
経済産業省http://www.meti.go.jp/earthquake/index.html
厚生労働省http://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/2r98520000014j15.html
農林水産省http://www.maff.go.jp/j/kanbo/joho/saigai/index.html
文部科学省http://www.mext.go.jp/a_menu/saigaijohou/syousai/1303723.htm
食費安全委員会http://www.fsc.go.jp/
消費者庁http://www.caa.go.jp/jisin/index.html
原子力安全委員会http://www.nsc.go.jp/index.htm
観光庁http://www.mlit.go.jp/kankocho/page01_000164.html
福島県http://wwwcms.pref.fukushima.jp/
など
東京電力http://www.tepco.co.jp/nu/fukushima-np/index-j.html
など

・作物、製品、土壌、水質等の汚染に関する公的機関の情報、組合等や自らした検査結果等も基本情報として当然必要だろう。

・食品等については,自分の作っているものでなくても,同種あるいは近隣であることから被害にあうので,出荷制限や出荷自粛要請のあるものについてはそれらの資料も収集しておくべきである。
http://www.maff.go.jp/j/press/soushoku/ryutu/110420.html
http://www.maff.go.jp/noutiku_eikyo/mhlw2.html

・また,出荷制限や出荷自粛要請の出ている品物が市場に出回るなど,混乱が生じているいることを示すニュースが,何件か聞かれるが,今後も起こりうるから,これらは新聞雑誌等で保存すべきである。これらの事象は,一般消費者が,福島県や近隣県産の商品の買い控え,消費不安に直結するものだからである。
ex.「イオン、出荷自粛のサンチュ販売 7都県で2200パック」
 「生協に出荷制限ホウレンソウ74束 千葉の生産者 一部は消費」

・また原発事故関係が収束に向かっておらず,出口も見えず続いてることも重要で,これらを示す新聞,雑誌記事等も保存すべきである。これらは特に観光業者にとっては重要と思われる。未だに,水蒸気爆発の危険など,より悲惨な汚染の可能性を払拭できていないことから,旅行を控えるということもあるだろうからである。

・食品の買い控えについては,女性誌など雑誌の報道内容も重要であり,関連記事は収集保存すべきである。

・また政府や東電から出てくる情報について,批判的に論評されているものは重要で,情報を持っている当事者や,公的機関の情報開示の不正確さや,遅さや,対応の悪さや,わかりにくさを示すような書類や,記事類は収集しておくべきである。

・さらに,食品について規制値以下でも買い控えが起きるのは,急性放射性障害に対する恐れが原因ではなく,低線量被爆による健康被害を恐れが原因で,これについては確率的影響などと言われ,一般通常人にとってははっきりしないことが多い。おそらく低線量被曝と疾病との因果関係や程度については,専門家でも意見が分かれているはずで,そもそもそのような状態にあることを示すため,関連書籍類は今のうちに集めておいた方がよいかもしれない。

・また,現在,外国による日本製品の輸入規制等が行われており,これも消費者にとっては不安要因となる情報であろうから,その種の情報も収集保存しておくべである。
http://www.maff.go.jp/j/export/e_info/pdf/kensa0421.pdf

・さらにWHOのほか諸外国の食品規制値も,日本の消費者の不安につながっているものであり,それら情報の収集は必要であろう。

・また,一般通常人の認識・情報とは異なるかもしれないが,twitterやネット掲示板等での,議論風評も念のため保存しておくのもよいかもしれない。


〔調べるまでもない客観情報〕
・政府の安全宣言の有無
・原発からの距離
・原発事故からの経過期間

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2011-04-22 : ・風評被害対策 : コメント : 0 : トラックバック : 0
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