東日本大震災以降,原子力損害賠償法に興味あり,同法と東京電力の責任についても検討してみたい。

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■2条「原子力損害」の意味・範囲 その10 損害認定指針(平成12年3月)

■2条「原子力損害」の意味・範囲 その10 損害認定指針(平成12年3月)

 平成11年9月30日に発生した,東海村JCO臨界事故事件について,同年10月22日に,「原子力損害賠償紛争審査会」と「原子力損害調査会研究会」が設置された。 下は,原子力損害調査研究会の最終報告書(平成12年3月29日)にうち「原子力損害」の認定指針である。〔今回の福島第一原発の事故は,規模も態様も異なり,同様の指針・基準が適用されるか否かは不明である。また,これは和解による解決を前提とする指針であり,裁判における認定基準のようなものではない。〕


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原子力損害調査研究会委員名簿(敬称略・順不同)

会長    下 山 俊 次  科学技術庁参与
会長代理  宮 原 守 男  弁護士
委員
      鎌 田   薫  早稲田大学法学部教授
      田 中   清  弁護士
      児 玉 康 夫  弁護士
      升 田   純  弁護士
      住 田 邦 生  弁護士
      中 所 克 博  弁護士
オブザーバー
      大 西 一 之  日本原子力保険プール理事・事務局長
      加 藤   愼  弁護士
      北 尾 俊 幸  日本原子力保険プール賠償責任保険査定委員会主査
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<調査・検討の対象とした損害項目>
1 身体の傷害      
2 検査費用(人)
3 避難費用
4 検査費用(物)
5 財物汚損
6 休業損害 
7 営業損害
8 精神的損害

1[身体の傷害]
(指針)
 請求者の身体における傷害が、請求者側の立証により、本件事故によって放出された放射線又は放射性核種による放射線障害(急性放射線障害又は晩発性放射線障害)であると認められる場合には、当該請求者が被った損害は賠償の対象と認められる。
(備考)
 1)  JCOの作業員3名について、本件事故により放出された放射線又は放射性核種による急性放射線障害である旨が確認されており、同人らが被った損害は賠償の対象と認められる。 なお、これらの作業員3名に対する原賠法(第3条第1項)に基づく賠償は、同法附則第4条により、労働者災害補償保険法に基づく保険給付分を控除した残部となる。
 2)  原子力安全委員会健康管理検討委員会の検討によると、JCOの周辺住民等に対する本件事故の放射線影響は、いわゆる確定的影響(ガン及び遺伝的影響以外の影響)が発生するレベルではないうえ、いわゆる確率的影響(ガン及び遺伝的影響)についても発生の可能性が極めて低いと考えられるものとされている。
 したがって、作業員3名以外の者からの放射線の作用等による身体の傷害を理由とする請求については、当該請求者の側から、本件事故により放出された放射線又は放射性核種による放射線障害であることが立証された場合に限り、その損害の賠償が認められるべきである。

2[検査費用(人)]
(指針)
 本件事故の発生(平成11年9月30日午前10時35分)から避難要請の解除(同年10月2日午後6時30分)までの間のいずれかの時点に茨城県内に居た者(通過した者も含む。)が、身体の傷害の有無を確認する目的で、平成11年11月末までに受けた検査につき検査費用を支出した場合には、請求者の損害と認められる。
(備考)
 1)  放射線及び放射性核種は、その量によっては人体に多大な負の影響を及ぼす危険性があるうえ、人の五感の作用では知覚できないという性質を有している。それゆえ、本件事故の発生により、上記の時間帯のうちいずれかの時点で茨城県内に居た者が、自らの身体に放射線障害が生じたのではないかとの不安感を抱き、この不安感を払拭するために検査を受けることは無理からぬ行動である。
 ところで、後記7「営業損害」の項で述べるように、事故調査対策本部の報告(平成11年11月4日)及び住民説明会(同年11月13日、14日)等において正確な情報が提供され、これが一般国民に周知されるために必要な合理的かつ相当な期間が経過したのは、同年11月末と認められる。したがってこれまでの間に住民が受けた1回目の検査のための費用は本件事故による損害と認められる。さらに、上記基準に該当する者が同種の医学的検査を2回以上受けた場合においては、請求者の側で2回目以降の医学的検査を受ける必要性があったことを立証した場合には、2回目以降の検査のための費用も請求者の損害と認められる。
 2)  無料の医学的検査を受けた場合の検査費用については、請求者に実損が生じておらず、損害とは認められない。

3[避難費用]
(指針)
 請求者が現実に支払った以下の実費分が、損害と認められる。
 I)  屋内退避勧告がなされた区域内に居住する者が、避難するため現実に支出した交通費、行政措置の解除(平成11年10月2日)までに現実に支出した宿泊費及びこの宿
泊に付随して支出した費用。
 II)  上記区域内に住居を有している者が、屋内退避勧告がなされた区域外に滞在することを余儀なくされた場合には、現実に支出した宿泊費及びこの宿泊に付随して支出した費用。
(備考)
 1)  行政当局は、JCOからの距離等に応じて避難要請及び屋内退避勧告をそれぞれ行っている。この行政措置によって避難を余儀なくされたのは、厳密にいえば避難要請のなされた区域内に居住する者だけであり、これを超えた区域内に居住する者は避難の対象とされなかった。
 しかしながら、屋内退避勧告の対象となった区域の居住者らについて、その区域外に避難する行動に出たことや、屋内退避勧告がなされた時点で屋内退避勧告がなされた区域外に居た右区域内の居住者らが、この区域内の住居等に戻ることを差し控える行動に出たことについては、これらの行動に及んだことも無理からぬものと認められる。
 したがって、屋内退避勧告がなされた区域内の居住者らが現実に支出した避難費用(交通費、宿泊費及びこの宿泊に付随して支出した雑費)についても、賠償の対象とするのが妥当である。
 2)  但し、上記の指針により損害と認められる避難費用であっても、その賠償額は合理的・平均的な範囲内のものに限られ、過度に遠方に避難した場合や著しく高額な施設に宿泊した場合の損害額は、出捐額の全額ではなく、合理的・平均的な範囲に減縮された額とされるべきである。

4[検査費用(物)]
(指針)
 当該財物が本件事故の発生当時茨城県内にあり、当該財物の性質等から、検査を実施して安全を確認することが必要かつ合理的であり又は取引先の要求等により検査の実施を余儀なくされたものと認められ、平成11年11月末までに検査を実施した場合には、請求者が現実に支払った検査費用は損害と認められる。
(備考)
 1)  科学技術庁が実施した調査によると、本件事故により放出された放射線又は放射性核種は、財物汚染又は財物汚損をもたらす程度の量(科学的に有意な量)ではなかったものと認められる。
 しかしながら、財物の価値ないし価格が、当該財物の取引等を行う人の印象・意識・認識等の心理的・主観的な要素によって大きな影響を受けることは明らかである。しかも、財物に対して実施する検査は、取引の相手方らによる取引拒絶、キャンセル要求又は減額要求等を未然に防止し、営業損害の拡大を最小限に止めるためにも必要とされる場合が多い。
 したがって、平均的・一般的な人の認識を基準として、当該財物の種類及び性質等から、その所有者等が当該財物の安全性に対して危惧感を抱き、この危惧感を払拭するために検査を実施することが合理的であると認められる場合又は取引先の要求等により検査の実施を余儀なくされた場合には、現実に支払った検査費用を損害と認めるのが相当である。
 2)  もっとも、当該請求者が出捐した検査費用が損害と認められる場合であっても、その賠償額は合理的な範囲内のものに限られ、たとえば複数の機関のもとで重複検査を行った場合や、国内で行えるにもかかわらず海外の検査機関で検査を実施した場合には、請求者の側でその必要性を立証しない限り、賠償すべき損害について請求額の全額ではなく合理的な金額にまで減縮されるべきである。

5[財物汚損]
(指針)
 現実に発生した以下のものについては、損害と認められる。
 I)  動産については、当該動産が本件事故の発生当時茨城県内にあり、その種類、性質及び取引態様等から、平均的・一般的な人の認識を基準として、本件事故により当該財物の価値の全部又は一部が失われたものと認められる場合には、現実に価値を喪失し又は減少した部分について損害と認められる。
 II)  不動産については、i)売却予定のない所有不動産の価値が下落したことを理由とする請求については、現実の損害発生を認めることはできず、賠償の対象とは認められない。
ii)不動産売買契約の解約、不動産を担保とする融資の拒絶又は売却予定価格の値下げを理由とする請求については、請求者の側が、当該不動産が屋内退避勧告のなされた区域内にあること、その不動産取引について既に売買契約等が締結されているか締結の可能性が極めて高い状況であり、対価額等も確定しているか確定しつつあること、平成11年11月末までに生じた解約や値下げであり、これらに応じざるを得なかった相当な事由があったこと、更に解約の場合には当該不動産を緊急に売却処分せざるを得なかった相当な事由があったこと、その解約や値下げが本件事故を理由とするものであること、当該請求の合理性(損害の発生と損害額)を立証した場合には、賠償が認められる余地がある。
iii)賃料の減額を行ったこと又は本件事故後に賃貸借契約を解約されたことを理由とする請求については、請求者の側が、当該賃貸不動産が屋内退避勧告のなされた区域内にあること、現に賃貸借契約が締結されていたこと、平成11年11月末までに賃貸借契約の解約又は賃料の減額がなされ、これらに応じざるを得なかった相当な事由があったこと、賃料の減額又は解約が本件事故を理由とするものであること、当該請求の合理性(損害の発生と損害額)を立証した場合には、賠償が認められる余地がある。
(備考)
 1)  I)については、前記4[検査費用(物)](備考)の1)に同じ。
 2)  II)のi)、ii)については、不動産の特殊性に由来する価格形成過程の複雑さ等にも十分配慮して、賠償の要否及び範囲を慎重に検討する必要がある。
 不動産の価格は、取引当事者の取得目的等に大きな影響を受けるものであり、これを一義的かつ客観的に把握することが非常に困難であることが多い。
 不動産の価格は、景気等からも大きな影響を受ける。そして、一般的な動産とは異なり、一度下落した価格が再び上昇することも十分にあり得る。
 不動産の価格が一時的に下落したとしても、当該不動産が滅失して利用可能性を喪失することはなく、これを廃棄する行動に出ることも考えられない。
 3)  II)のii)については、不動産の売却の予定がない以上損害が現実に発生しているとはいえないうえ、仮に価格が一時的に下落したとしても将来回復し又は上昇する可能性があること、本件事故による価値の下落分を一義的かつ客観的に把握できないこと、価格の下落が見られても、不動産自体の利用可能性は些かも失われないこと等からして、賠償の対象とすることは妥当でない。
 II)のii)については、当該価格で売却できることが確定していた又は確定しつつあった状況のもとで、本件事故の発生を理由に当該減額又は解約(合意解約)がなされたこと等の前記各事実を請求者が立証した場合には、賠償が認められる余地がある。これに対して、当該減額又は解約が本件事故の発生を理由とする旨を立証できな
い場合、当該価格で売却できる状況又は売却できつつある状況にあったことが確定していなかった場合、売却交渉が進行中であったが売買代金額等の売買条件が全く未確定であった場合等では、本件事故に起因する「損害」が発生したものと認めることは極めて困難である。
 II)のiii)についても、本件事故の発生を理由として賃貸借契約を解約又は賃料の減調額がなされ、これらに応じざるを得なかった相当な事由があったこと等の前記各事実が請求者によって立証された場合には、営業損害の考え方に準じて相当な期間の減収分について損害と認められる余地がある。
   4)  なお、損害が発生したと認められる場合であっても、賠償すべき損害額の算定にあたっては、損失の公平かつ適正な分担を図る見地から、具体的な事実関係に従って、過失相殺や原因競合等の法理論を適用すべき場合(例えば、その性質から廃棄の必要性が認められない動産を軽率な判断で廃棄してしまった場合など)もあり得る。

6[休業損害]
(指針)
 屋内退避勧告がなされた区域内に居住地又は勤務先がある給与所得者、アルバイト及び日雇労働者について、行政措置により就労が不能となった場合には、就労不能の状況が解消された時点まで(避難要請が解除された平成11年10月2日から合理的期間経過後まで)に生じた給与等の減収が、請求者の損害と認められる。
(備考)
 1)  屋内退避勧告は平成11年10月2日に解除されており、この時点からは就労が可能な状況となっている。しかしながら、一般的・平均的な人の認識を基準とした場合、屋内退避勧告がなされた区域内における法人等の事業者においては、上記の行政措置が解除された後、情報収集と事態把握を行ったうえで徐々に事業活動を再開するとの対応に出ることもあり得、このような対応は必ずしも不合理なものとはいえない。
 したがって、請求者の損害と認められる休業損害は、行政措置が解除された後、若干の
合理的な期間が経過するまでの間に生じたものと認めるのが妥当である。
 2)  本件事故により、所定の期間の事業活動を休止したが、従業員らに対して当該休止期間分の給与等を支払った場合には、当該事業者の出捐額が損害となる。

7[営業損害]
(指針)
 I)  茨城県内で収穫される農畜水産物及びこれらに関連する営業であり、広く茨城県県外を商圏とするものについては、生産あるいは営業の拠点が茨城県内にあり、取引の性質から相手方等が取引拒絶等の行動に及ぶこともやむを得ないものと認められ、現実に減収のあった取引について、事故調査対策本部の報告(平成11年11月4日)及び住民説明会(同年11月13,14日)等によって、正確な情報が提供され、かつこれが一般国民に周知されるために必要な合理的かつ相当の時間が経過した時点(同年11月末)までの期間に生じた減収分(売上高から売上原価を控除した売上総利益=粗利益の額)が損害と認められる。
 II)  上記I)以外の営業については、営業の拠点が屋内退避勧告のなされた区域内にあり、取引の性質から相手方等が取引や利用の拒絶等の行動に及ぶこともやむを得ないものと認められ、現実に減収のあった取引について、事故調査対策本部の報告(平成11年11月4日)及び住民説明会(同年11月13,14日)等によって、正確な情報が提供され、かつこれが一般国民に周知されるために必要な合理的かつ相当の時間が経過した時点(同年11月末)までの期間に生じた減収分(売上高から売上原価を控除した売上総利益=粗利益の額)が損害と認められる。
(備考)
 1)  研究会が公表した「中間確認事項―営業損害に対する考え方―」(別添2)で記載したとおり。すなわち、
 (1)少なくとも、
ア) 事故調査対策本部の報告(平成11年11月4日)及び住民説明会(同年11月13,14日)等によって、正確な情報が提供され、かつこれが一般国民に周知されるために必要な合理的かつ相当の時間が経過した時点(同年11月末)までに生じた現実の減収分であること。
イ)屋内退避勧告がなされた区域内のものであること。
ウ)平均的・一般的な人を基準として合理性のあるものであること。
の3点を満たすものについては、特段の反証のない限り、事故との間に相当因果関係があると推認される。
(2)さらに、上記要素を満たさない場合においても、請求者による個別・具体的な立証の内容及び程度如何では、相当因果関係が肯定される場合がある。
 2)  売上総利益(粗利益)の算定については、当該請求者の決算書類等に基づいて行われることを原則とすべきであるが、大量・迅速処理を行う必要から、必要な範囲で統計的資料を併用することもやむを得ないものと考える。
 3)  なお、損害として認められる場合であっても、賠償すべき損害額の算定にあたっては、損失の公平かつ適正な分担を図る見地から、具体的な事実関係に応じて、過失相殺や原因競合等の法理論を適用すべき場合(例えば、その性質から廃棄の必要性が認められない商品等を軽率な判断で廃棄してしまったために営業活動に支障が生じた場合など)もあり得る。

8[精神的損害]
(指針)
 本件事故において、身体傷害を伴わない精神的苦痛のみを理由とする請求については、損害の発生及び金額の合理性について請求者側に特段の事情がない限り、損害とは認められない。
(備考)
 1)  研究会では、原賠法にいう「原子力損害」に精神的損害(慰謝料)が含まれることについては見解の一致を見た。しかしながら、本件事故における精神的損害のうち身体傷害を伴わない精神的苦痛の申し出に関しては、議論の過程で、賠償の対象とする損害と認められないとする見解と認められる余地があるとする見解が示されたものの、最終的には、請求者側に特段の事情がない限り認められないとする見解が支配的となった。
 2)  身体傷害を伴わない精神的苦痛の有無、態様及び程度等は、当該請求者の年齢、性別、職業、性格、生活環境及び家族構成並びに人生観、世界観及び価値観等の種々の要素によって著しい差異を示すものである点からも、損害の範囲を客観化することには自ずと限界がある。このような性質を有する身体傷害を伴わない精神的苦痛の申し出に対し、仮に一律の基準を定めて賠償の適否を判断しようとする場合には、ともすれば過大請求が認められる余地を残してしまう可能性があるとともに、他の損害項目に対する賠償との間でも不公平をもたらす可能性がある。

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2011-04-14 : ■2条「原子力損害」 : コメント : 0 : トラックバック : 0
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Author:text2
原子力損害賠償法について検討してみます。(リンクはご自由に)
なお、引用部分以外は私(一応法律家)の意見ですので、判例・学説・実務等で確定したものではありません。他の考えでも裁判等で争い認められる余地があります。

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