東日本大震災以降,原子力損害賠償法に興味あり,同法と東京電力の責任についても検討してみたい。

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■3条1項但書の「その損害が異常に巨大な天災地変又は社会的動乱によつて生じたものであるとき」とは その5 原子力委員会の議論(平成10年9月)

■3条1項但書の「その損害が異常に巨大な天災地変又は社会的動乱によつて生じたものであるとき」とは その5 原子力委員会の議論(平成10年9月)

以下は,平成10年9月に行われた原子力委員会の専門部会の議論である。
http://www.aec.go.jp/jicst/NC/senmon/old/songai/siryo/siryo03/siryo3-6.htm
ここでは

「日本の歴史上余り例の見られない大地震、大噴火、大風水災等」

「通常の「不可抗力」よりも大幅に限定し、極めて異例な事由」

「単なる天災地変でなく極めて異例な事由(事業者がどんなに注意しても避けることができない事態、すなわち通常は想定し得ない不可抗力)」

と理解されている。


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免責事由(異常に巨大な天災地変)について
1.現状
 今般、「原子力損害の賠償に関する法律(以下「原賠法」という。)」の改正にあたり、検討事項の一つに、原子力事業者の免責事由がある。
 原子力事業者は原子力損害に対する無過失責任を負っているが、原賠法第3条第1項但書では、以下の事由による原子力損害については原子力事業者を免責としている。
 (1)異常に巨大な天災地変
 (2)社会的動乱
 「異常に巨大な天災地変」とは、一般的には日本の歴史上余り例の見られない大地震、大噴火、大風水災等が考えられる。例えば、関東大震災を相当程度(約3倍以上)上回るものをいうと解している。
 原子力損害賠償制度に関する国際条約としては、OECDのパリ条約とIAEAのウィーン条約があるが、前者では「異常に巨大な天災地変(agravenaturaldisasterofanexceptionalcharacter)」が免責となっているのに対して、昨年9月に採択(未発効)されたウィーン条約改正議定書においては、第Ⅳ条パラ3において従来免責とされていた「異常に巨大な天災地変」が免責となっていない。

2.我が国原賠法の考え方
(1)賠償責任の厳格化
 被害者保護の立場から、原子力事業者の責任を無過失賠償責任とするとともに、原子力事業者の責任の免除事由を通常の「不可抗力」よりも大幅に限定し、極めて異例な事由に限るという意図で、上記二つのみを免責とした。
(2)自然災害の取扱い
 「異常に巨大な天災地変」にあたらないものは、原子力事業者の責任となるが、事由により以下のとおり区分される。
 ①地震・噴火・津波→政府補償契約でカバー
 ②①以外の事由(洪水、高潮、台風、暴風雨等)→民間損害保険会社の賠償責任保険でカバー

3.国際条約の考え方及びウィーン条約の改正
(1)パリ条約と現行ウィーン条約
 いずれも「戦乱」と「異常に巨大な天災地変」の二つを免責事由としている。
 ただし、前者は締約国が必ず従うべき絶対的免責事由であるが、後者は各国で別段の定めをすることができる条件付免責事由である。
(2)ウィーン条約改正議定書
 1986年4月に旧ソ連邦で起きたチェルノブイル事故を直接の契機として、1989年5月から改正作業をスタートさせ、昨年9月12日に採択された。
 ここでは、免責事由として「異常に巨大な天災地変」が規定されていない。

4.免責事由についての諸外国の原賠法の考え方(別紙)
 ヨーロッパ各国の原賠法は、同じくパリ・ブラッセル条約の締約国であっても免責事由について差異がある。これは原賠法全体の仕組み、特に責任制限及び賠償措置の内容と関連している。
(1)英国(パリ・ブラッセル条約締約国)
 免責は戦乱のみで、自然災害は異常なものであっても免責とならない。
 これは、イギリスには大規模自然災害が少ないことにもよるが、事業者の責任が比較的低い金額で制限され、かつその上は明確に国家補償があることによる。
 事業者の付保する責任保険でも戦乱は免責だが、自然災害は異常なものであっても事業者が有責となればてん補される。
(2)フランス、スウェーデン(パリ・ブラッセル条約締約国)
 (フランスはパリ条約第9条により)戦乱、異常自然災害とも免責である。
 責任保険でも戦乱、異常自然災害とも免責である。
 また、事業者の責任は有限である。
(3)ドイツ(パリ・ブラッセル条約締約国)
 免責事由はない。不可抗力免責を一切認めない。これは原子力損害のような大規模被害の際には、企業の利益よりも被害者救済が優先すべきという理由による。
 パリ条約締結に際しても、従来からの立場を変えず、原賠法で同条約の規定を排除した。
 責任保険では戦乱、異常自然災害とも免責となっているが、10億ドイツマルクまでは国が補償する。
(4)スイス
 ドイツと同じく、戦乱、異常自然災害とも免責とならない。
 責任保険では戦乱、異常自然災害とも免責となっているが、国が補償することができる。
(5)米国
 連邦法である原子力法(プライス・アンダーソン条項)では戦乱のみ免責である。異常自然災害について規定はない。米国法制の下では、不法行為責任の性質及び要件については、州法に委ねられている。従って事業者の責任は州法による。(絶対責任や厳格責任他)
責任保険でも戦乱は免責だが、自然災害は異常なものであっても事業者が有責となればてん補される。
事業者の責任は高額だが有限である。
(6)カナダ
 免責は戦乱のみで、異常自然災害は免責とならない。
責任保険でも戦乱は免責だが、自然災害は異常なものであっても事業者が有責となればてん補される。
事業者の責任は有限である。
(7)韓国
 我が国原賠法と全く同じ法体系で、戦乱、異常自然災害とも免責である。これらは国が必要な措置をとる。
責任保険では戦乱、自然災害は免責である。異常でない自然災害は政府補償契約でカバーされる。

5.我が国の他法令
 原賠法以外でも、公害規制法等で無過失賠償責任を課す法令がある。また、異常自然災害については以下のような規定がされており、異常自然災害に起因する損害に対しては事業者を免責とするのが一般的である。
(1)油濁損害賠償保障法(第3条)
 「異常な天災地変」により生じた損害は免責としている。但し、同法を支える「油による汚染損害についての民事責任に関する国際条約」(条約第3条で「例外的、不可避的かつ不可抗力的な性質を有する自然現象」によって生じた汚染損害は、船舶所有者を免責としている。)自体がパリ条約を参照してできたものであるので、別個の事例とはできない。
(2)大気汚染防止法(第25の3条)、水質汚濁防止法(第20の2条)、鉱業法(第113条)、水洗炭業に関する法律(第19条)、
 損害の発生に関して「天災その他の不可抗力」が競合したときは、裁判所は、損害賠償の責任及び額の確定について、これを斟酌することができる。従って、免責とする余地がある。

6.検討及び考察
(1)我が国原賠法における免責事由のあり方
 各国の立法例をみても明らかなように、免責事由の内容は、責任制限・保険条件・国家補償を含む損害賠償制度全体及び各国の地理的条件等との関連において総合的に検討されるべきである。また、我が国の立法例では異常自然災害に起因する損害は基本的に事業者を免責としている。
 我が国は原賠法制定時に無過失・無限責任制度を採用し、事業者の免責は単なる天災地変でなく極めて異例な事由(事業者がどんなに注意しても避けることができない事態、すなわち通常は想定し得ない不可抗力)に限定したものである
 よって、このような場合にまで事業者に賠償させることは公平を失し、もはや民事賠償の問題とはいえないのではないかと考えられる。
(2)原賠法第17条の規定
 我が国原賠法では、「異常に巨大な天災地変」に起因する損害は事業者を免責とはしているものの、法第17条で、国が「被災者の救助及び被害の拡大の防止のため必要な措置を講ずる」こととしている。国による補償とはしていないが、国が災害救助法の適用や特別立法等の措置を講じて被害者保護に遺漏なきを期している。
(3)周辺諸国の状況等
 我が国周辺のアジア諸国の原賠法(韓国、台湾、中国草案、インドネシア)では、異常自然災害に起因する損害が免責とされている。
 以上総合的に勘案すると、現行原賠法において「異常に巨大な天災地変」に起因する原子力損害については国の救済措置がとられること等から、国際的水準には見合っていると考えられる。
 よって、「異常に巨大な天災地変」に起因する原子力損害を原子力事業者の有責に変更することについては、我が国原子力損害賠償制度の仕組み全体に関わるので、今後の国際的動向も踏まえつつ、十分慎重に対応する必要があると考えられる。
以 上
 


別 紙
「免責事由」を規定する各国の原賠法
(1)英国
 第13条(一定の場合における補償の排除、拡張又は減少)
 (4) 本法第7条、第8条、第9条、第10条又は第11条により課せられる義務は、
(a) その義務の違反を構成する出来事又はそれによる傷害若しくは損害の発生が、連合王国内の武力紛争を含む紛争中の敵対行為に帰せられるときは、その出来事により生ずる傷害又は損害について、その義務に服する人に責任を課さない。
(b) 出来事又はそれによる傷害若しくは損害の発生が、自然的災害に帰せられる場合には、それが、合理的に予見することのできなかった例外的な性格を持つとしても、責任を課する。

(2)フランス
 パリ条約第9条(免責)
   運転者は、戦闘行為、敵対行為、内戦、反乱、又は、原子力設備が設置されている締約国の国内法に別段の規定がある場合を除き、異常かつ巨大な自然災害による原子力事故による損害に対して責任を負わない。

(3)ドイツ
 第25条(原子力施設に対する責任)
(1) 損害が原子力施設からの原子力事故に起因する場合は、原子力施設の保有者の責任については、パリ条約の規定のほか、この法律の規定を適用する。(以下略)
(2) 略
(3) 武力闘争、敵対行為、内戦、暴動一揆又は異常かつ巨大な自然災害に直接起因する原子力事故による損害の責任の排除に関するパリ条約の9条の規定は、適用されない。(以下略)

(4)スイス
 第5条(免責)
  1. 原子力施設の事業者あるいは輸送免許保持者は、被害者が故意に損害を引き起こしたことを証明した場合は、責任を免除される。
2. 原子力施設の事業者あるいは輸送免許保持者は、被害者がはなはだしい不注意から損害を引き起こしたことを証明した場合は、全面的あるいは部分的に責任を免除される。

(5)アメリカ
 第11条(定義)
  w. 「公的責任」とは、原子力事故または予防的避難から生じまたは結果として発生する一切の法的責任(原子力事故または予防的避難に対応する過程において州または州の行政区画が負担したすべての妥当な追加費用)をいう。ただし、(i)略(ii)戦争行為に起因する請求、及び(iii)略を除く。(以下略)

(6)カナダ
 第7条(武力紛争による事故に対する免責)
   運転者は、傷害または損害を生ぜしめる原子力事故が戦争、侵略または暴動の過程における武力紛争の直接の結果発生した場合は、第3条に定める種類の傷害または損害に対して責任を負わない。

(7)韓国
 第3条(無過失責任及び責任の集中等)
  1.  原子炉の運転等により、原子力損害が生じた時は、当該原子力事業者が、その損害を賠償する責任を負う。但し、その損害が異例的に甚大なる天災、地変、戦争又はこれに準ずる事変により生じた場合にはそうではない。
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テーマ : 東北地方太平洋沖地震
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2011-04-12 : ■3条1項但書「異常に巨大な天災地変」 免責規定 : コメント : 0 : トラックバック : 0
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