東日本大震災以降,原子力損害賠償法に興味あり,同法と東京電力の責任についても検討してみたい。

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■4条 責任集中の原則 その16 プラントメーカーの責任

■4条 責任集中の原則 その16 プラントメーカーの責任

 原発の引き渡しを受けた時点から既に欠陥があったと仮定して。
 
 原発のプラントメーカーの責任について,誰に対する,どの損害についての責任かで分類してみると。

1 対第三者責任(原発事故の被害者に対する責任)
(1)「原子力損害」(原賠法2条2項,3条1項)について
 ・原賠法4条1項(責任集中)によって,「原子力事業者以外の者」として責任を負わない。
 ・原賠法4条3項で,製造物責任法の適用も排除されている。
〔なお,被害が外国に及んだ場合は,その地の法律によることになるだろうから,原賠法4条による免責は前提とされない。〕

(2)「原子力損害」以外の損害について
 ・原賠法4条は,同法3条の「原子力損害」の賠償を前提とする規定のなので,「原子力損害」以外の損害については,特に規定がないことから,被害者からプラントメーカーに民法709条や製造物責任法による責任追及の余地がある。
・民法709条 被害者がメーカーの故意又は過失を立証することが必要。
・製造物責任法 製造物の「欠陥」(当該製造物の特性、その通常予見される使用形態、その製造業者等が当該製造物を引き渡した時期その他の当該製造物に係る事情を考慮して、当該製造物が通常有すべき安全性を欠いていること)の立証で足る。
〔ただし,下級審の裁判例では,損害結果の類型については純粋経済損失等についても「原子力損害」は広く認められることから,「原子力損害」以外の損害に該当するものはきわめて限定される。また,製造物責任法自体が新しい法律で,平成7年7月1日の施行日以降に引き渡された製造物についてのみ適用されるので,今回の事故に至ったような古い原発はそもそも適用対象にならない。〕

2 対原子力事業者責任(たとえば東電に対する責任)
(1)「原子力損害」について
 ・原賠法2条2項の定義規定には,「この法律において「原子力損害」とは、核燃料物質の原子核分裂の過程の作用又は核燃料物質等の放射線の作用若しくは毒性的作用(これらを摂取し、又は吸入することにより人体に中毒及びその続発症を及ぼすものをいう。)により生じた損害をいう。ただし、次条の規定により損害を賠償する責めに任ずべき原子力事業者の受けた損害を除く」とあり,原発事故で原子炉が壊れたり,東電の所有物が汚染されたり,余計な燃料費がかかったり,そういった東電自身が被った損害は,「原子力損害」には,該当しないことになる。したがって,原子力事業者が自ら所有する原発の自己で「原子力損害」を被るということは論理的には無いことになろう。

(2)「原子力損害」以外の損害について〔東電自身が被った損害の全て〕
 ア 原子力事業者が原発事故被害者に支払った「原子力損害」の賠償金
 ・これは,求償の問題になるので,原賠法5条1項に規定があり,「第三条の場合において、その損害が第三者の故意により生じたものであるときは、同条の規定により損害を賠償した原子力事業者は、その者に対して求償権を有する。」とあり,プラントメーカーの「故意」が立証できた場合は求償請求可能だが,「故意」の立証は通常は困難である。また,この求償権については,原賠法5条2項で特約による排除が可能なので,おそらく契約上プラントメーカーは求償責任を負わないことになっているはず?。
 なお5条求償権については,こちらで論じた。

 イ 原子力事業者のいわば自損分(原子炉の損壊等)
 ・「原子力損害」ではないので原賠法4条によるメーカーの免責はないはず。
・原子力事業者と国外プラントメーカーとの具体的な契約関係については知らないが,国内で契約し,国内で完成させて引き渡すというだけなら国内私法の売買か請負等の規定が前提となるのか?。〔契約の態様,特約によっては,準拠法が日本の国内法としないことも可能か?〕
 1 債務不履行責任(民法415条)
 2 瑕疵担保責任(民法570条,商法526条)
 3 不法行為責任(民法709条)
↓ 
 以下のような仮定で考えてみる。
・プラントに「瑕疵」があった
・引き渡しを受けてから40年後の事故で,原子炉が壊れた。
・準拠法が国内法
・契約上,国内私法の任意規定の排除特約がない場合で
・商人間の取引で
・商事売買と同様に考えられる場合。
・現時点から見てプラントに欠陥があったしても,それが契約時の「仕様書」通りのものであったなら,債務不履行とは言えない。また,隠れたる瑕疵でもなく,瑕疵担保責任の問題はなく,なんの落ち度もないので不法行為にもならない。したがって,遅くとも引き渡し時点の技術水準で見て,「瑕疵」といえるようなものがあった場合を前提とする。
・引き渡しから40年後の事故だと仮定すると,除斥期間(民法724条)にかかっているので,不法行為に基づく損害賠償請求権は考えない。

A 隠れたる瑕疵について売り主が善意
 A1 6ヶ月以内の検査で判明する程度の瑕疵
   A1a 買い主が検査による瑕疵を発見し,通知義務(商法526条)を果たした。このような場合,そもそも事故は生じない?。なお,瑕疵担保責任(民法570条)については,「引き渡し」から10年(民法167条1項)で消滅時効にかかる(最判H13.11.27)。商事時効にかかるとすると5年(商法522条)。また,検査で瑕疵を発見していたなら,仮に瑕疵による不完全履行とみて民法415条による損害賠償請求権が観念できても,遅くとも瑕疵発見後5年ないし10年で時効によって消滅している。
   A1b 買い主が検査せず,又は,検査しても瑕疵を発見できなかった場合〔事故によって初めて瑕疵を知った〕。
 商法526条2項により、受領から6ヶ月経過していれば,瑕疵担保責任の追及はできない。また債務不履行責任の追及も同様にできない(判例,通説。最判S47.1.25)。
  A2 6ヶ月以内の検査では判明しえない瑕疵
  検査義務(商法526条1項)を尽くしても,6ヶ月以内に瑕疵は発見できない。
 商法526条2項の解釈にもよるが,通説的理解では,この場合も,上のA1bと同様に,買い主には,瑕疵担保責任も債務不履行責任も追及の余地がない。

B 隠れたる瑕疵について売り主が悪意
 この場合,商法526条3項により,同条2項の適用はないので,買い主が検査,通知義務を果たさなくとも,瑕疵担保責任と債務不履行責任の追及余地は残される。
 ただし,瑕疵担保責任ついては,「引き渡し」から10年で消滅時効にかかる(最判H13.11.27)。商事の場合は5年?。
 結局,知りながら何も告げず「瑕疵」あるものの引き渡しをするという不完全履行(信義則上の付随義務違反?)により,買い主は損害を被ったとして,悪意の売り主に民法415条の損害賠償請求をするということになるが,これについては,消滅時効の起算点の問題がある。本来の履行請求権と同一性のある損害賠償請求権については,本来の債務の履行請求時から時効進行となるが(最判S10.4.24),付随義務違反による損害発生の場合も同様に考えていいのか,事故による損害という拡大損害についても同様に考えていいのか,なぞ?。また,契約締結前の段階で,設計等に根本的欠陥があるのに,売り主がそれを秘していたため,契約締結にまで至ったような場合に,そもそも債務不履行責任の追及は可能かという問題もある(最判H23.4.22)。
 ただ、債務不履行責任の規定も任意規定なので、普通は特約での排除があるだろうし、そうでなくても原子力事業者もバカじゃないだろうから、売り主がはじめから瑕疵について悪意であるのに、買い主が長年その瑕疵に気づかずに経過して、その瑕疵が原因で原発事故に至るような事案は、実際にはあり得ないのかもしれない。


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条文

民法415条(債務不履行による損害賠償)
 債務者がその債務の本旨に従った履行をしないときは、債権者は、これによって生じた損害の賠償を請求することができる。債務者の責めに帰すべき事由によって履行をすることができなくなったときも、同様とする。

民法416条(損害賠償の範囲)
1 債務の不履行に対する損害賠償の請求は、これによって通常生ずべき損害の賠償をさせることをその目的とする。
2  特別の事情によって生じた損害であっても、当事者がその事情を予見し、又は予見することができたときは、債権者は、その賠償を請求することができる。

民法566条(地上権等がある場合等における売主の担保責任)
1 売買の目的物が地上権、永小作権、地役権、留置権又は質権の目的である場合において、買主がこれを知らず、かつ、そのために契約をした目的を達することができないときは、買主は、契約の解除をすることができる。この場合において、契約の解除をすることができないときは、損害賠償の請求のみをすることができる。
2  前項の規定は、売買の目的である不動産のために存すると称した地役権が存しなかった場合及びその不動産について登記をした賃貸借があった場合について準用する。
3  前二項の場合において、契約の解除又は損害賠償の請求は、買主が事実を知った時から一年以内にしなければならない。

民法570条(売主の瑕疵担保責任)
 売買の目的物に隠れた瑕疵があったときは、第五百六十六条の規定を準用する。ただし、強制競売の場合は、この限りでない。

民法572条(担保責任を負わない旨の特約)
 売主は、第五百六十条から前条までの規定による担保の責任を負わない旨の特約をしたときであっても、知りながら告げなかった事実及び自ら第三者のために設定し又は第三者に譲り渡した権利については、その責任を免れることができない。

商法526条(買主による目的物の検査及び通知)
1 商人間の売買において、買主は、その売買の目的物を受領したときは、遅滞なく、その物を検査しなければならない。
2  前項に規定する場合において、買主は、同項の規定による検査により売買の目的物に瑕疵があること又はその数量に不足があることを発見したときは、直ちに売主に対してその旨の通知を発しなければ、その瑕疵又は数量の不足を理由として契約の解除又は代金減額若しくは損害賠償の請求をすることができない。売買の目的物に直ちに発見することのできない瑕疵がある場合において、買主が六箇月以内にその瑕疵を発見したときも、同様とする。
3  前項の規定は、売主がその瑕疵又は数量の不足につき悪意であった場合には、適用しない。


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2011-12-22 : ・個人その他の責任 : コメント : 0 : トラックバック : 0
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原子力損害賠償法について検討してみます。(リンクはご自由に)
なお、引用部分以外は私(一応法律家)の意見ですので、判例・学説・実務等で確定したものではありません。他の考えでも裁判等で争い認められる余地があります。

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