東日本大震災以降,原子力損害賠償法に興味あり,同法と東京電力の責任についても検討してみたい。

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■4条 責任集中の原則 その15 役員の任務懈怠責任

■4条 責任集中の原則 その15 役員の任務懈怠責任

 現在,株主からの提訴請求がなされて,その後の報道がなく,今のところ会社〔東電〕が直接に取締役ら役員を提訴するか,株主代表訴訟となるか不明であるが,いずれにしても,これらは東電の役員らの任務懈怠(会社法423条)を理由とする損害賠償請求訴訟となるのだろう。

〔理屈〕
・会社法 423条1項
「取締役、会計参与、監査役、執行役又は会計監査人(以下この節において「役員等」という。)は、その任務を怠ったときは、株式会社に対し、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。」

 旧法のようにように責任事由の列挙というものがなくなっているが,法令や定款に違反する行為があって,会社に損害を及ぼしたような場合には,当然に役員は,会社に対して賠償義務を負うことになる。
 ここでいう「法令」違反としては,ひとつは具体的な禁止規定,たとえば独占禁止法とか,会社法356条の競業・利益相反取引の制限だとかに違反することである。原発事故との関係でいえば,原子炉等規制法等の関係法規の違反があって,取締役が,そのことを知り,又は,過失により知らずに,その違反が本件原発事故につながったような場合には,取締役は責任を問われることになる。
 もうひとつは一般的抽象的な義務として,取締役ら役員には,善管注意義務(民法644条),忠実義務(会社法355条)があって,これらの違反があって,その結果,今回の事故につながり,ひいては会社(東電)に損害を与えたような場合は,やはり会社に対して賠償責任を負う。

・民法644条
「受任者は、委任の本旨に従い、善良な管理者の注意をもって、委任事務を処理する義務を負う。」
・会社法 355条
「取締役は、法令及び定款並びに株主総会の決議を遵守し、株式会社のため忠実にその職務を行わなければならない。」

 そこでこの手の訴訟は,①会社の具体的な法令違反行為を指摘して,その事実を取締役らが知り,又は,過失により知らなかったことから,損害を招いたと主張するパターンと,具体的法令違反の指摘ではなく,②抽象的な注意義務違反を主張し,その〔落ち度の〕根拠となる事実を指摘するパターンがある。つまり,この程度の事実があれば,当然,このように判断するのが,同種同等の会社経営者として当然なのに,その義務に反して,別の判断をして漫然と放置していたことや,そもそものリスク評価と安全管理体制に不備があり,そのことに気づいてしかるべきなのに,漫然と放置〔不作為〕していたことが,〔業務執行をなしていた取締役はもちろん、他の代表権の無い平取締役も、取締役会を通じて会社業務が適法・適正に行われることについて監視・監督すべき義務があるのに、それを怠り〕今回の事故につながったといえると主張して,任務懈怠を問うパターンである。

①法令上の具体的義務→違反の事実→役員らの故意過失、監視監督義務違反→任務懈怠責任
②忠実義務・善管注意義務→その違反を根拠づける事実→任務懈怠責任


※会社〔東電ひいては株主〕の側から見ると,何かの検査結果の報告義務違反だとか,炉規法等の法令違反の事実を挙げて,一点突破的にそのことだけで取締役の責任を問うというのは,あまり上手くない。
 会社の業務執行において,その具体的法令違反の事実がなかったり,あったしても,その具体的法令違反の事実が,今回の事故につながったものでなければ,責任が認められないだろうし,また役員らが知り得ない場合には,責任を免れる可能性がある。
 また,そもそも,①と②は両立するものだから,役員らを被告とする訴訟では,①と②の両方の主張を立てて,主張していくということになるのだろう。


〔争い方・事故状況〕
 事故調査等が進んで,今後も,いろいと明らかになるかもしれないが,争い方としては,事故原因との関係で二つの方向性がありうる。
 ひとつは,事故状況・原因について,概ね政府や東電の事故調査結果に乗っかって,津波主因説でいくパターン。もう一つは,地震で既に炉や冷却装置,鉄塔等が壊れほぼ冷却不能であり,津波はとどめの一撃であったとして,地震主因説でいくパターン。
 前者の場合は,主として津波対策の不備〔リスク評価,対応等〕について,取締役の任務懈怠を突いていくことになる。後者の場合は,津波対策はもちろん,その前段階の地震に対する対策すら不十分で,そのことについて取締役として落ち度ありと主張していくことになる。事実経過の立証面で面倒なのは後者となろう。

〔争い方・損害〕
 取締役に責任追及できる損害の範囲については,以前論じた。
 http://genbaihou.blog59.fc2.com/blog-entry-65.html
 いろいろ考え方はあるが,現実の支払いの可能性を考えると,東電が被害者に賠償したことによって東電に生じた損害分は除いて,東電自身の自損部分〔原子炉の損壊など〕の賠償だけで行くのが,ムダに争点を増やさない得策だろう。


〔抽象的な義務の違反〕
 裁判手続きにおいて,忠実義務や善管注意義務などの一般的抽象的な義務違反を根拠づける事実として,〔よほど条理に反した無茶苦茶な判断でもないかぎり〕,法令以外でなんらかの標準・指標となるものが持ち出されるかもしれない。
 その1つは,原子力安全委員会の「耐震設計審査指針」があるのではないか。
 これは,「発電用軽水型原子炉の設置許可申請(変更許可申請を含む。以下同じ。)に係る安全審査のうち、耐震安全性の確保の観点から耐震設計方針の妥当性について判断する際の基礎を示すことを目的として定めた」とある。当然,バックチェックも行われるもので,既存原子炉の安全性確保の指針となるものであろう。
 平成18年に改正されたが,そこでは基本方針として,「耐震設計上重要な施設は、敷地周辺の地質・地質構造並びに地震活動性等の地震学及び地震工学的見地から施設の供用期間中に極めてまれではあるが発生する可能性があり、施設に大きな影響を与えるおそれがあると想定することが適切な地震動による地震力に対して、その安全機能が損なわれることがないように設計されなければならない。」とある。

 そして,解説として,

「耐震設計においては、「施設の供用期間中に極めてまれではあるが発生する可能性があり、施設に大きな影響を与えるおそれがあると想定することが適切な地震動」を適切に策定し、この地震動を前提とした耐震設計を行うことにより、地震に起因する外乱によって周辺の公衆に対し、著しい放射線被ばくのリスクを与えないようにすることを基本とすべきである。これは、旧指針の「基本方針」における「発電用原子炉施設は想定されるいかなる地震力に対してもこれが大きな事故の誘因とならないよう十分な耐震性を有していなければならない」との規定が耐震設計に求めていたものと同等の考え方である。」

 とされ,

 さらに,

「 「残余のリスク」の存在について
  地震学的見地からは、上記(1)のように策定された地震動を上回る強さの地震動が生起する可能性は否定できない。このことは、耐震設計用の地震動の策定において、「残余のリスク」(策定された地震動を上回る地震動の影響が施設に及ぶことにより、施設に重大な損傷事象が発生すること、施設から大量の放射性物質が放散される事象が発生すること、あるいはそれらの結果として周辺公衆に対して放射線被ばくによる災害を及ぼすことのリスク)が存在することを意味する。したがって、施設の設計に当たっては、策定された地震動を上回る地震動が生起する可能性に対して適切な考慮を払い、基本設計の段階のみならず、それ以降の段階も含めて、この「残余のリスク」の存在を十分認識しつつ、それを合理的に実行可能な限り小さくするための努力が払われるべきである。」

 とある。

 つまり,極めてまれではあるが発生する可能性のある地震動を適切に想定・策定した上に,さらにそれを上回る強さの地震が発生する可能性が否定できないので,この部分については,「残余リスク」として,その存在を十分認識し,そのリスクを「合理的に実行可能な限り小さくするための努力」が払われるべきとされる。

 そして,上の「残余リスク」の定義では,「策定された地震動を上回る地震動の影響が施設に及ぶことにより、施設に重大な損傷事象が発生すること、施設から大量の放射性物質が放散される事象が発生すること、あるいはそれらの結果として周辺公衆に対して放射線被ばくによる災害を及ぼすことのリスク」とあることから,津波も「地震動の影響」といえるだろうから,想定を超える巨大津波のリスクも,本来「残余リスク」として,考慮されるべきであり,それによるリスクを「合理的に実行可能な限り小さく」すべく努力が払われていたことが必要となろう。

 この点,津波については,指針の8(2)において,地震随伴現象に対する考慮として「施設の供用期間中に極めてまれではあるが発生する可能性があると想定することが適切な津波によっても、施設の安全機能が重大な影響を受けるおそれがないこと」とあるのみであり,これとの関係で,津波については,想定を超える「残余リスク」については,考慮する必要がないと読めないこともないが,そのように解する合理性がないし,平成18年の指針改定作業をした入倉氏自身が津波にも適用があると述べている。
http://genbaihou.blog59.fc2.com/blog-entry-80.html 

 指針としては基準地震動を超える地震とその影響による津波については,一切考慮しなくてよいというのならまだしも,平成18年の改正指針によれば,本来は,想定を超える津波もありうることを考慮し,その被害リスクを合理的に実行可能な限り小さくするよう努力すべであった。にもかかわらず,想定を超える津波については,多重防護どころか,ほとんどんど何もしていなかったというお粗末な状態であったなら,そのことについて,取締役のリスク評価・管理等の任務に懈怠があったと言われるかもしれない。
 その際,リスクを「合理的に実行可能な限り小さくすべき努力」がどの程度のことが要求されるのかが問題となるかもしれないが,原発事故によりもたらされる損害の甚大さを考えれば,原子力事業の経営者の安全確保に関する注意義務はそれなりのものであるはずで,津波が堤防を越えてきたら即アウトという状態だったとしたら,何の努力もしていなかったと判断されて,任務懈怠とされても仕方ないような気がする。

 ただし,これは株主側から見れば,戦線を最も後退させた最後の辺の主張であって,もっと前段階の,各種管理・検査・報告等の基本的義務のレベルで法令違反があったり,想定の前提となる調査データの隠蔽・捏造があったり,各種施設・設備の耐震性データの捏造があったり,それが日常化していて,いくら指針が改正されてもバックチェックが意味を為さなかったりしたら,そういったことが今回の事故につながったとして,取締役らの責任が問題とされるかもしれない。

 
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2011-12-08 : ・経営者の責任 : コメント : 0 : トラックバック : 0
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原子力損害賠償法について検討してみます。(リンクはご自由に)
なお、引用部分以外は私(一応法律家)の意見ですので、判例・学説・実務等で確定したものではありません。他の考えでも裁判等で争い認められる余地があります。

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