東日本大震災以降,原子力損害賠償法に興味あり,同法と東京電力の責任についても検討してみたい。

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■2条「原子力損害」の意味・範囲 継続的損害の問題

■2条「原子力損害」の意味・範囲 継続的損害の問題


 損害発生が継続する場合に、加害者はどこまで賠償しなければならないのか。


1 精神的損害
 避難生活を強いられ、そのことによる精神的苦痛が継続している場合

2 財産的損害のうち積極損害
 避難生活を強いられ,自宅土地建物等の使用が継続的に不可能,また生活費の増大が継続する場合

3 財産的損害のうち消極損害(休業損害,逸失利益)
 避難、出荷制限、風評被害などで失職、求職、休業、廃業等を強いられ無収入あるいは減収が継続している場合


特に3が問題。

平成23年8月5日に出された中間指針を見ると
http://genbaihou.blog59.fc2.com/blog-entry-196.html
----------------------------
〔営業損害〕
7)営業損害の終期は、基本的には対象者が従来と同じ又は同等の営業活動を営むことが可能となった日とすることが合理的であるが、本件事故により生じた減収分がある期間を含め、どの時期までを賠償の対象とするかについては、現時点で全てを示すことは困難であるため、改めて検討することとする。但し、その検討に当たっては、一般的には事業拠点の移転や転業等の可能性があることから、賠償対象となるべき期間には一定の限度があることや、早期に転業する等特別の努力を行った者が存在することに、留意する必要がある。

〔就労不能等に伴う損害〕
8)就労不能等に伴う損害の終期は、基本的には対象者が従来と同じ又は同等の就労活動を営むことが可能となった日とすることが合理的であるが、本件事故により生じた減収分がある期間を含め、どの時期までを賠償の対象とするかについて、その具体的な時期等を現時点で見通すことは困難であるため、改めて検討することとする。但し、その検討に当たっては、一般的には、就労不能等に対しては転職等により対応する可能性があると考えられることから、賠償対象となるべき期間には一定の限度があることや、早期の転職や臨時の就労等特別の努力を行った者が存在することに留意する必要がある。

〔風評被害〕
5)なお、「風評被害」は、上記のように当該商品等に対する危険性を懸念し敬遠するという消費者・取引先等の心理的状態に基づくものである以上、風評被害が賠償対象となるべき期間には一定の限度がある。
 一般的に言えば、「平均的・一般的な人を基準として合理性が認められる買い控え、取引停止等が収束した時点」が終期であるが、いまだ本件事故が収束していないこと等から、少なくとも現時点において一律に示すことは困難であり、当面は、客観的な統計データ等を参照しつつ、取引数量・価格の状況、具体的な買い控え等の発生状況、当該商品又はサービスの特性等を勘案し、個々の事情に応じて合理的に判定することが適当である。
-----------------------------



 このように中間指針では,継続的損害の「終期」の問題として扱うかのような表現である。

〔考え方〕 
 まず、一般的な価値判断として、被害者の意思と能力において、避けようのある損害については、特にやむを得ないよう事情がない限り,そのようなものまで全部加害者に賠償させる必要はない。
 被害者において、損害の発生拡大を避けようと思えばさけることができるのに、何もせず漫然と避難生活をすることか通常人の合理的判断に基づくものとはいえないような場合には、そのような損害発生拡大に至る経緯は、通常の因果の流れによるものとはいえず、通常損害ではないと理解し、原則として相当因果関係は否定されると解する余地はあろう。
 
 これは被害者の意思・判断が、損害の発生拡大に関与した場合に、その損害を加害者に負担させることができるのかという問題で、そういう意味では、被害者の自殺、自主避難者の問題と似たところもある。ただし、これは転職、転業、移転等の作為で損害の拡大を防ぐというものであるから、この場合、何もしないという不作為の合理性が問われることになる。これに対して、自主避難者の問題は、避難という作為の合理性が問われている。


 いくらか参考になるものとして、以下の最高裁判決がある。これは、店舗賃借人の営業損害が継続して発生する場合に、その範囲を「賃借人が損害を回避又は減少させる措置を執ることができたと解される時期」基準に限定しようとするものである。端的に被害者側の損害軽減「義務」を認めたものと理解されることもあるが、裁判所は、相当因果関係説を前提に、被害者の合理的でない意思・判断が作用して損害が発生・拡大した場合に、それを通常の因果経路による損害ではなく、民法416条1項の通常損害に該当しないものと解したものと理解する余地があろう。

・最高裁 平成21年1月19日判決(民集第63巻1号97頁)
〔事案〕
 店舗の賃借人が賃貸人の修繕義務の不履行により被った営業利益相当の損害について,賃借人が損害を回避又は減少させる措置を執ることができたと解される時期以降に被った損害のすべてが民法416条1項にいう通常生ずべき損害に当たるということはできないとされた事例
〔裁判要旨〕
 ビルの店舗部分を賃借してカラオケ店を営業していた賃借人が,同店舗部分に発生した浸水事故に係る賃貸人の修繕義務の不履行により,同店舗部分で営業することができず,営業利益相当の損害を被った場合において,次の(1)~(3)などの判示の事情の下では,遅くとも賃貸人に対し損害賠償を求める本件訴えが提起された時点においては,賃借人がカラオケ店の営業を別の場所で再開する等の損害を回避又は減少させる措置を執ることなく発生する損害のすべてについての賠償を賃貸人に請求することは条理上認められず,賃借人が上記措置を執ることができたと解される時期以降における損害のすべてが民法416条1項にいう通常生ずべき損害に当たるということはできない。
(1) 賃貸人が上記修繕義務を履行したとしても,上記ビルは,上記浸水事故時において建築から約30年が経過し,老朽化して大規模な改修を必要としており,賃借人が賃貸借契約をそのまま長期にわたって継続し得たとは必ずしも考え難い。
(2) 賃貸人は,上記浸水事故の直後に上記ビルの老朽化を理由に賃貸借契約を解除する旨の意思表示をしており,同事故から約1年7か月が経過して本件訴えが提起された時点では,上記店舗部分における営業の再開は,実現可能性の乏しいものとなっていた。
(3) 賃借人が上記店舗部分で行っていたカラオケ店の営業は,それ以外の場所では行うことができないものとは考えられないし,上記浸水事故によるカラオケセット等の損傷に対しては保険金が支払われていた。
〔判決文抜粋〕
「そうすると,遅くとも,本件本訴が提起された時点においては,被上告人がカラオケ店の営業を別の場所で再開する等の損害を回避又は減少させる措置を何ら執ることなく,本件店舗部分における営業利益相当の損害が発生するにまかせて,その損害のすべてについての賠償を上告人らに請求することは,条理上認められないというべきであり,民法416条1項にいう通常生ずべき損害の解釈上,本件において,被上告人が上記措置を執ることができたと解される時期以降における上記営業利益相当の損害のすべてについてその賠償を上告人らに請求することはできないというべきである。(3) 原審は,上記措置を執ることができたと解される時期やその時期以降に生じた賠償すべき損害の範囲等について検討することなく,被上告人は,本件修繕義務違反による損害として,本件事故の日の1か月後である平成9年3月12日から本件本訴の提起後3年近く経過した平成13年8月11日までの4年5か月間の営業利益喪失の損害のすべてについて上告人らに賠償請求することができると判断したのであるから,この判断には民法416条1項の解釈を誤った違法があり,その違法が判決に影響を及ぼすことは明らかである。5 以上によれば,上記と同旨をいう論旨は理由があり,原判決は破棄を免れない。そこで,上告人らが賠償すべき損害の範囲について更に審理を尽くさせるため,本件を原審に差し戻すこととする。」


 
 この判決は、賃貸借契約の契約当事者間に生じる損害賠償責任の問題であって、賃貸物の修繕義務との関係や、契約解除の成否・時期等の問題があって、その理屈を、原発事故のような不法行為の加害者・被害者の関係にそのまま持ち込むことはできないが、継続的に発生する営業損害について、被害者の意思・判断が損害拡大に関与した場合に、一定の事象の下に、通常生すべき損害(通常損害)ではないとして、賠償を否定している点は、参考になろう。


 結局、不法行為の場合、継続的に発生する損害の範囲を限定する理屈としては、以下のようなものがあるのではないか。
 ↓

A 損害の発生
  そもそも、その損害(利益)が継続しえたか否か、
 ex あと1年で退職予定だった場合は、当然2年目以降の損害は生じていない?

B 事実的因果関係
原発から避難等と関係なく、失職、減収等に至っている場合
ex 退職、失業、廃業直後に原発事故発生、または、原発事故発生前からそれが決まっていた場合など

C 相当因果関係(民法416条類推)
 損害軽減(転業、転職、営業所移転等)が現実に可能か、その容易性、元の職に戻れる可能性の有無程度等も勘案して、個別事情により、損害軽減行為に出ないという不作為の合理性(相当性?、やむを得なさ?)を判断して、被害者が損害の発生回避、損害軽減ができるのにしなかったといえるような場合は、その結果生じ拡大した損害については、通常生ずべき損害ではなく、賠償義務なしとする。〔ただし、特別事情の予見可能性がある場合は、責任負う余地ありとする?。〕

D 過失相殺(民法722条2項)
 損害発生、拡大について、被害者の〔落ち度ある〕判断、行動が関与している場合には、それに応じて、賠償額を減額する。

E 損害の金銭的評価においての調整(民事訴訟法248条)


 原発事故の被害者との関係でいえば、

1 被災地域が広汎に及ぶために、隣町に営業所を構えれば、また同じように仕事を継続できるというように簡単にはいかない。かといって、遠く離れた土地で再開業となると、これまでの顧客との縁が切れる。
2 農業、漁業など、土地との結びつきが強い産業については、簡単に代替地で再開というわけには行かない。上の、最高裁判例事案のカラオケ店との違い。
3 高齢者の場合、自分の農地で農業はできても、いまさら転職して稼ぐなどということは困難。
4 経済情勢からして給与所得者の転職も上手くいくとは限らない。転職後も同内容、同待遇の職ならいいが、そうでもない場合は、どこまで被害者が我慢すべきかという問題となる。逸失利益として差額の賠償なども問題。
5 もといたところが除染等によって復旧できる可能性があるなら、戻る余地もあるとして、転職、転業、移転など、確定的な行動に出にくいという問題。

 これら問題以外にも個別事情に応じて、様々な問題があろう。
 そもそも、これは継続的な損害発生の「終期」の問題というよりも、現実に発生する損害について、どこまでを賠償の範囲とみてよいか,その金銭的評価をどうするかという問題であって、本来は,「休業損害は事故から1年」とか「廃業による損害は5年まで」とか、一律に決めることはできない問題だろう。JCO臨界事故のように短期間で終結した事案の前例に引きずられたところがあるのかも知れないが,今回の原発事故の賠償では,損害継続の「終期」を待つことはできないものであろうから,失職や営業損害等については,今後予測されるの「逸失利益」の賠償の問題ということになるのではないか。

 この点,交通事故で後遺症を負った場合,たとえば,交通事故で片腕を失ったよう場合には,その障害そのものについての慰謝料以外に,その障害の程度・等級によって労働能力喪失率を観念し,通常67歳までの残労働可能期間に得られる収入を推定し,ライプニッツ計数で中間利息を控除し損害額を出すということになろうが,この場合は,障害が一生回復しないことがはっきりしているという前提がある。
 同じ交通事故でも,頸椎捻挫等の後遺障害の場合は,一生涯続くとは限らないことから裁判でも,一生涯続くものとは扱われず,数年程度は続くという前提で3年から5年程度の期間でのみ,逸失利益が認められることがある。

 結局,逸失利益は,将来得られるであろうと推定される利益を,今賠償させようとするものであるから,その推定に不確実性のある要素が増えれば増えるほど,その算定は困難になる。
 原発事故で避難を強いられたり,廃業させられた場合は,今のところ被害者本人の身体には問題がないだろうから,原発事故による労働能力喪失率というものは考えにくい。ただ,もとのところに帰還できるか否かについての不安定さがある上,避難生活から,再び仕事を再開したり転職したりすることの可能性も,被害者の年齢,性別,職種その他個別の事情によって様々であろう。風評被害による営業損害などは,この先,どの程度のものが,どこまで続くか分からない場合もあろう。

 これら損害が発生する都度,それを評価して,賠償を継続するという方法もあろうが,普通は,将来の損失もまとめて推定評価して,今,賠償するということになる。
 結局,逸失利益について,大量かつ迅速な解決のため一定の基準を設けるとなると,年齢や職種,自営業者か給与所得者か否かなど,類型化をして,過去の実収入や賃金センサス等の基準から将来得られるであろう収入を推定し,それを一定の期間〔この期間も転職,転業,再就職等の難易も勘案して,類型によっては長短を設けて〕に限定して賠償するということになろうか。あるいは一定の割合?。
 もっとも,高齢者がほとんど収入にならない畑を健康のためや生活の喜びとして作っていたよう場合は,逸失利益としての金銭的評価は低額になるだろうし,自営業者など,それまでの慣れた生業を失った苦痛や,転職,再就職の苦労などは財産的損害ではないが,賠償されるべき精神的損害であろうから,それらは慰謝料として,考慮されるということになろうか。

※なお,再就職等を強いられたことによる精神的苦痛については,判例としてJT乳業事件がある。 
・JT乳業事件
 平成17年5月18日,名古屋高裁金沢支部判決(平成15(ネ)329)
 会社代表者の任務懈怠で会社解散・解雇。従業員が会社代表者に損害賠償を求めた。
「既に認定した事実及び弁論の全趣旨によれば,被控訴人従業員らは,Dの重大な過失に基づく本件任務懈怠により本件会社が解散,廃業に追い込まれたことで,突然に就業先を失って,日々の生活の糧を得る途を失う事態に遭遇するに至ったのであり,これにより,被控訴人従業員ら及びその家族が将来に対する大きな不安を抱いたこと,そして,被控訴人従業員らは,自らと家族の生計を維持するために相当に困難な再就職活動を余儀なくされ,そのための努力を強いられ,また,被控訴人従業員らのうち,再就職した従業員については,本件解雇前とは異なる職場環境で労働するほか,その多くは,本件解雇前の職種と異なる職種の労働に従事することになって,相当の苦労をし,他方,再就職できなかった従業員については,自己及び家族の生活上の将来への不安を一層募らせたことを推認することができる。そうすると,被控訴人従業員らがDの本件任務懈怠により被った精神的苦痛は相当に重大であったものというべきであるから,雇用保険法に基づく基本手当及び再就職手当の受領の事実,退職金差額による逸失利益の存在の可能性を加減事情として考慮すると,被控訴人従業員らの被った上記精神的苦痛を慰謝するための額として,被控訴人従業員ら一人について各100万円を認めるのが相当である。」




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原子力損害賠償法について検討してみます。(リンクはご自由に)
なお、引用部分以外は私(一応法律家)の意見ですので、判例・学説・実務等で確定したものではありません。他の考えでも裁判等で争い認められる余地があります。

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