東日本大震災以降,原子力損害賠償法に興味あり,同法と東京電力の責任についても検討してみたい。

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■2条「原子力損害」の意味・範囲 セシウム汚染牛の問題

■2条「原子力損害」の意味・範囲 セシウム汚染牛の問題


 以下のような記事があった。

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http://www.kahoku.co.jp/news/2011/08/20110804t65011.htm
河北新報社
牛肉汚染 東電職員「稲わら農家の責任」 抗議受け本社謝罪

 肉牛から国の暫定基準値を超える放射性セシウムが検出されるなど、福島第1原発事故による農業被害が拡大している問題で、農民運動全国連合会(農民連)は3日、被災地で補償対応に当たる東京電力職員の言動が横暴だとして、東電に謝罪と迅速な賠償を求める要請活動を行った。
 農民連によると、東電職員は宮城県で「牛肉問題は汚染された稲わらを与えた農家の責任」と発言したという。福島県では「(補償対象だという)証拠を示す責任がある」と次々に資料を提出させ、賠償金の仮払いで「津波による被害分は後で返してもらう」と話したという。
 賠償金の支払い自体も停滞。原発から約12キロの南相馬市でコメなどを栽培していた三浦広志さん(51)は「20キロ圏内の場合は賠償請求の書式さえ決まっていない」と批判。福島市の服部崇さん(40)も「7月中に示すはずだった風評被害の書式もまだだ」と憤った。
 東電福島原子力被災者支援対策本部の橘田昌哉部長は「被害者の心情を踏まえない言動で、事実ならば申し訳ない」と謝罪。「初めてのことなので時間がかかっている。資料確認の迅速化を図る」と述べた。
 要請活動には宮城、福島両県などから約350人が参加。東京都千代田区の東電本店前に肉牛2頭を並べ、シュプレヒコールを上げた。
2011年08月04日木曜日
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 放射性物質はなかなか消えてなくならないので,なんらかの機序で濃縮等があって,二次,三次と被害が波及,拡大し,その場合,進むにつれて関係者が増えていくはずで,関係者相互の責任など,かなり問題が複雑なものになっていく可能性があって,牛以外でもこれからも同様の問題が出てくるかもしれないので,ここで考えてみる。

 事件のモデルとして以下のように単純化してみる。(経緯等はこちら



A 原発事故を起こした原子力事業者(東電)
B 稲ワラ汚染について監督指導をなすべき主体(国,自治体)
C 汚染稲ワラを生産販売した者(刈り取ったまま露天に放置)
D 買った汚染稲ワラを牛に食べさせてしまった畜産農家
E 汚染稲ワラを食べさせることなく飼育したが,他の畜産農家の汚染牛発覚で,出荷制限や風評による損害を被った畜産農家


1 ABの関係
 事故後の原子力損害の波及,拡大に,国の監督指示等の落ち度が関係していた場合に,どうなるのかという問題。
 東電の国との関係について論じたのと同様。こちら。
 http://genbaihou.blog59.fc2.com/blog-category-14.html
 国,自治体の過失の有無,および,原賠法4条の適用範囲の問題
 さらに,
 国,自治体にかぎらず,事後的関与による損害拡大について,そもそも原賠法4条の適用があるのかという,4条の時的適用範囲の問題も関係する。
 こちらで触れた。
 http://genbaihou.blog59.fc2.com/blog-entry-129.html


2 ACの関係
・原賠法3条1項で過失の有無に関係なく責任を負うのが原則
・ただし,損害と原発事故との間に相当因果関係が必要

 まず,Cとの関係では,放射性物質によって稲ワラが汚染されたので,当然に稲ワラ生産販売したCに対しては,Aは財物汚損による賠償責任を負う。もし,CがDに稲ワラを売却していた場合は,その分は損害はないが,後述のとおり,DやEから損害賠償請求を受け,支払った場合は,その分は損害となるので,Aに対して,賠償請求する余地がある。ただし,過失相殺(民法722条2項)の余地あり。
 
※過失相殺(民法722条2項)について
・東電に有利な事情としては,
 ①事故後数日後には,東京の水道水からも放射性物質が検出され騒ぎとなっていたことや,茨城県のほうれん草からも規制値を超えるものが見つかっていたことなどから,少なくとも事故現場から東京までの範囲については,放射性物質が飛散してることは明白であったという事実。
 ②放射性物質が簡単に消失するものではないことは報道されていたこと。
 ③国は,3月19日段階で,「畜産農家の皆様へ」という文書などで,注意を呼びかけていたという事実。

・稲ワラ生産販売者に有利な事情としては,
 ①避難等指定区域外への汚染は,程度が低く,健康に影響はないと,繰り返し学者,専門家,メディアによって報道されていたという事実
 ②国の呼びかけ文書等があったが,それが不徹底であったとしたらその事実
 ③放射性物質飛散による広範な汚染は,世界でも珍しく,我が国では初めての出来事であること。
 ④放射性物質が無味無臭で五官で感得できないという事実。
 ⑤原子力災害対策特別措置法第3条で「原子力事業者は、この法律又は関係法律の規定に基づき、原子力災害の発生の防止に関し万全の措置を講ずるとともに、原子力災害(原子力災害が生ずる蓋然性を含む。)の拡大の防止及び原子力災害の復旧に関し、誠意をもって必要な措置を講ずる責務を有する。」とあるように〔国の責務は4条,地方公共団体の責務は5条〕,原子力事業者が,一次的な災害拡大防止義務を負っていることから,これら災害拡大の防止に東電側が何らかの措置(国への働きかけ,農家への注意の不徹底等があれば自ら呼びかけるなど)をしていなかった場合はその事実。

 結局,これら事情などを考慮して,過失相殺の適用の有無,その割合を決するということになろう。


3 ADの関係
 汚染稲ワラをDに売り渡したCに不法行為(民法709条)の要件を満たすほどの落ち度が認められた場合,Aの不法行為(原発事故で放射性物質をまき散らした)と関係では,Cの行為は,後続侵害の問題となろう。
 つまり,Aは,このような場合にまで,後続侵害を経由して発生した損害の全部について責任を負うことになるのかという問題。
 相当因果関係説(通説・判例)では,先行行為(原発事故)のとの関係で,後続侵害による結果が,通常損害といえるか(因果経路の通常性),いえない場合でも,予見可能性な特別損害といえるかという観点から,判断される。
 予見可能性については,おそらく時間的近接性や先行の侵害の程度や状況,危険性,後続侵害の内容等の諸般の事情からケースバイケースで判断される。前述の過失相殺で述べた諸事情なども考慮されるだろう。〔先行行為(原発事故)の重大性,危険性,原子力災害対策特別措置法の存在等から見て,原子力事業者が責任を免れるはの難しそうだが。〕
 後続侵害については,こちらで触れた。
 http://genbaihou.blog59.fc2.com/blog-entry-129.html
 また,汚染稲ワラを食べさせた畜産農家Dについて,なんらかの落ち度が有れば,ACの関係で述べたの同様に,過失相殺(民法722条2項)による賠償額の減額の余地が生じてくる。前述のとおり,諸事情を考慮して決まるだろう。


4 AEの関係
 Eの損害に至るまでに,BCDの過失が関係している可能性がある。
 AC間で述べたとおり,先行行為(原発事故)のとの関係で,後続侵害による結果が,通常損害といえるか(因果経路の通常性),いえない場合でも,予見可能性な特別損害といえるかという観点から判断されるだろう。
 もっとも,汚染牛が出て,それが原因で,その県内の牛肉の出荷が制限されたり,風評被害が発生するのは通常の因果の経過であるから,AC間で,Aの責任が認められるような場合には,当然にAE間で,Aの責任は肯定されよう。
 また,Eは,自分の牛が汚染されていない以上,何の落ち度もないのは明らかなので,Aとの間で,過失相殺(民法722条2項)の問題は生じない。

※なお,同一県内に汚染食品がないのに,第三者の行為で,風評が発生したような事案については,こちらで触れた。http://genbaihou.blog59.fc2.com/blog-entry-95.html
 

5 BCの関係
 稲ワラを汚染されてしまったCも被害者で,その賠償請求をA東電のみならず,B国にも請求できないかという問題。
 「原子力損害」を被った被害者が,国を訴えることができるのかという問題であり,以前に論じた原賠法4条による国の免責の問題。こちらで論じた。
 http://genbaihou.blog59.fc2.com/blog-entry-38.html
 なお,仮に国の賠償責任が認められても,AC間と同様に過失相殺(民法722条2項)の問題はある。


6 BDの関係
 知らずに,汚染稲ワラを食べさせた農家Dが,その賠償請求をA東電のみならず,B国にも請求できないかという問題。
 「原子力損害」を被った被害者が,事故後の国や自治体の指導等について落ち度かある場合に,国を訴えることができるのかという問題であり,ここで論じた原賠法4条による国の免責の問題。 
 こちらで論じた。
 http://genbaihou.blog59.fc2.com/blog-entry-38.html
 なお,仮に国の賠償責任が認められても,AD間と同様に過失相殺(民法722条2項)の問題はある。


7 BEの関係
 これも,汚染牛発生,出荷制限,風評被害に至る間に,国の指導等に落ち度があった場合に,畜産農家Eが,国の過失を根拠に国賠請求できるかという問題で,上と同じ。
 ただし,この場合は,Eは,自分の牛が汚染されていない以上,何の落ち度もないのは明らかなので,Bとの関係でも過失相殺(民法722条2項)の問題は生じない。


8 CDの関係
 CD間には稲ワラの売買契約があることから,少しややこしい。
・債務不履行責任
 Cに売却予定稲ワラ等の管理や検査等について,落ち度があって,汚染稲ワラをDに売却したことについて過失がある場合は,Dに対して,債務不履行に基づく損害賠償責任(民法415条)を負う。
 Dは無価値な稲ワラをつかまされたことで,売買代金分の損害は当然被っているので,その代金分は損害となる。さらに,それを知らずに食べさせたことによって,自分の牛が汚染されてしまって,無価値となってしまった場合,Cは,その分まで賠償責任を負うのか。
 積極的債権侵害の問題。諸説あるが,売買契約の売り主の給付義務に付随する注意義務違反として,債務不履行責任のひとつとして捉えられ,給付が不完全であったことと相当因果関係ある全損害について,賠償責任を負うことになる。
 したがって,CはDに対して,少なくとも汚染前の牛の時価相当額の賠償義務はあるということになろう。
 もっとも,Cから受け取った稲ワラを食べさせたDの行為にも落ち度があるとするなら,債権者に過失あるときとして,過失相殺(民法418条)による賠償額の減額がありうる。
・瑕疵担保責任
 当該稲ワラが何らかの理由で特定物と見られる場合,または,瑕疵担保責任の適用は特定物に限らないとする立場に立った場合。
 稲ワラが規制値を超える程度の汚染をもたらすものである場合は,当然に「瑕疵」があり,これが取引上一般に要求される程度の注意を払っても発見できないようものであった場合は,「隠れた瑕疵」ということになって,Cは売り主としては,瑕疵担保責任(民法570条,566条1項)を負うことになる。Cの過失の有無は問わない。
 原発事故と,その後の放射性物質の飛散,それによる土壌や農作物の汚染は騒がれていたのことから,セシウム汚染が,「隠れた」瑕疵といえるのかという点は,問題となる余地はある。
・もっとも,これら民法上の責任については,原賠法4条〔責任集中の原則〕との関係が問題となる。
 牛肉のセシウム汚染を,原発事故と相当因果関係のある「原子力損害」であると見た場合,原賠法4条で原子力事業者Aのみが責任を負うとされるので,CD間では賠償責任の問題生じないと考えられる。つまり,CはDに対して,契約上の賠償責任責任を負わない。(この場合でも,Cにもし「故意」が認められるなら,原子力事業者Aは,Dに支払った賠償金について,Cに対して求償権を有することになる(原賠法5条1項)。)
 これに対して,原賠法4条の適用範囲について,特に事後的な第三者の関与による損害拡大については,その趣旨から,責任集中の適用はないと解するなら,逆の結論になろう。4条の時的適用の範囲の問題。
 こちらで論じた。
 http://genbaihou.blog59.fc2.com/blog-entry-129.html
 第三者の事後的関与と原賠法4条との関係については,こちらでも触れた。
 http://genbaihou.blog59.fc2.com/blog-entry-132.html
 また,上で論じたのAD間の関係について,その相当因果関係が否定される場合は,牛肉汚染と原発事故との,相当因果関係が切れている場合なので,「原子力損害」とはならず,原賠法4条の適用も問題とならず,当然CD間の民法上の責任のみが問題となろう。


9 CE間の関係
 CE間には契約関係が無いので,契約上の責任,債務不履行責任は問題とならない。
 したがって,仮に,Cの行為〔稲ワラを露天で置いておいて後に束ねて出荷〕が,Cの過失ある行為と認められ,Eら他の畜産農家の牛肉の出荷停止,風評被害による損害などと,相当因果関係あると見られる場合に,不法行為責任(民法709条)が問題となるだけだろう。
 ただし,この場合も,上のCD間で論じたのと同様に,原賠法4条との関係が問題となり,「原子力損害」といえる限りは,原則として,CE間でも賠償の問題は生じない。事後的関与について4条適用否定するなら,逆になる。
 Eに落ち度はないので,過失相殺(民法722条2項)は問題とならない。


10 DE間の関係
 DE間には契約関係が無いので,契約上の責任,債務不履行責任は問題とならない。
 したがって,仮に,Dの行為〔汚染稲ワラを自分の牛に食べさせて,汚染牛を発生させたこと〕が,Dの過失ある行為と認められ,それがEら他の畜産農家の牛肉の出荷停止,風評被害による損害などと,相当因果関係あると見られる場合に,DのEに対する不法行為責任(民法709条)が問題となる。
 ただし,この場合も,上のCD間で論じたのと同様に,原賠法4条との関係が問題となり,「原子力損害」といえる限りは,原則として,DE間でも賠償の問題は生じない。
 事後的関与について原賠法4条適用否定するなら,逆になる。
 Eに落ち度はないので,過失相殺(民法722条2項)は問題とならない。
 また,上で論じたのAD間の関係について,その相当因果関係が否定される場合は,牛肉汚染と原発事故との,相当因果関係が切れている場合なので,「原子力損害」とはならず,原賠法4条の適用も問題とならず,当然DE間の不法行為責任(民法709条)が問題となる余地がある。


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 結局,原子力事業者Aである東電としては,自然の作用による濃縮等だけでなく,第三者(国,自治体,会社,個人等)の行為が介在して,損害が波及して広がっていくような場合については,

①通常の因果経路ではない上,特別事情の予見可能性がなく,相当因果関係のある損害ではないと主張する。
②原賠法4条による免責は,国及び事後的に関与した第三者には適用がないと主張して,落ち度ある国など第三者を共同不法行為者として賠償責任に引きずり込む。
③被害者の落ち度を主張して,過失相殺(民法722条2項)を主張する。


 これに対して,被害者は,

①因果関係の通常性,特別事情の予見可能性等を主張し,相当因果関係があることを示す。
②被害者としては,他の第三者(国,自治体,会社,個人等)が,東電とともに共同不法行為者となることについては,特に損にはならない。
③また,損害発生拡大について,自分には何ら落ち度なく,過失相殺(民法722条2項)の余地はないのだと主張する。


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なお、引用部分以外は私(一応法律家)の意見ですので、判例・学説・実務等で確定したものではありません。他の考えでも裁判等で争い認められる余地があります。

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