東日本大震災以降,原子力損害賠償法に興味あり,同法と東京電力の責任についても検討してみたい。

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■18条 原子力損害賠償紛争審査会  中間指針

■18条 原子力損害賠償紛争審査会  中間指針

・中間指針の概要
http://www.mext.go.jp/component/a_menu/science/anzenkakuho/micro_detail/__icsFiles/afieldfile/2011/08/11/1309711_1_3.pdf

・中間指針
http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chousa/kaihatu/016/houkoku/__icsFiles/afieldfile/2011/08/05/1309452_1_1.pdf


-----------------------------
東京電力株式会社福島第一、第二原子力発電所事故による原子力損害の範囲の判定等に関する中間指針

平成23年8月5日
原子力損害賠償紛争審査会

目次
はじめに ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・1
第1 中間指針の位置づけ ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・2
第2 各損害項目に共通する考え方 ・・・・・・・・・・・・・・・・・3
第3 政府による避難等の指示等に係る損害について ・・・・・・・・・6
[対象区域] ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・6
[避難等対象者] ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・8
[損害項目] ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・10
1 検査費用(人) ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・10
2 避難費用 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・11
3 一時立入費用 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・14
4 帰宅費用 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・15
5 生命・身体的損害 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・16
6 精神的損害 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・17
7 営業損害 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・23
8 就労不能等に伴う損害 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・26
9 検査費用(物) ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・28
10 財物価値の喪失又は減少等 ・・・・・・・・・・・・・・・・29
第4 政府による航行危険区域等及び飛行禁止区域の設定に係る損害について・・・・・32
[対象区域] ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・32
[損害項目] ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・32
1 営業損害 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・32
2 就労不能等に伴う損害 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・33
第5 政府等による農林水産物等の出荷制限指示等に係る損害について・・・・・34
[対象] ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・34
[損害項目] ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・34
1 営業損害 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・35
2 就労不能等に伴う損害 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・36
3 検査費用(物) ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・36
第6 その他の政府指示等に係る損害について ・・・・・・・・・・・37
[対象] ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・37
[損害項目] ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・37
1 営業損害 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・37
2 就労不能等に伴う損害 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・38
3 検査費用(物) ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・39
第7 いわゆる風評被害について ・・・・・・・・・・・・・・・・・39
1 一般的基準 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・39
2 農林漁業・食品産業の風評被害 ・・・・・・・・・・・・・・43
3 観光業の風評被害 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・48
4 製造業、サービス業等の風評被害 ・・・・・・・・・・・・・51
5 輸出に係る風評被害 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・53
第8 いわゆる間接被害について ・・・・・・・・・・・・・・・・・55
第9 放射線被曝による損害について ・・・・・・・・・・・・・・・57
第10 その他 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・58
1 被害者への各種給付金等と損害賠償金との調整について ・・・58
2 地方公共団体等の財産的損害等 ・・・・・・・・・・・・・・60


はじめに
 平成23年3月11日に発生した東京電力株式会社福島第一原子力発電所及び福島第二原子力発電所における事故(以下「本件事故」という。)は、広範囲にわたる放射性物質の放出をもたらした上、更に深刻な事態を惹起しかねない危険を生じさせた。このため、政府による避難、屋内退避の指示などにより、指示等の対象となった住民だけでも十数万人規模にも上り、あるいは、多くの事業者が、生産及び営業を含めた事業活動の断念を余儀なくされるなど、福島県のみならず周辺の各県も含めた広範囲に影響を及ぼす事態に至った。これら周辺の住民及び事業者らの被害は、その規模、範囲等において未曾有のものである。加えて、本件事故発生から5ヶ月近くを経過した現在においても、本件事故の収束に向けた放射性物質の放出を抑制・管理するための作業は続いている。本件事故直後に出された避難等の指示は、一部解除されたものの、同年4月22日には新たな地域に計画的避難の指示が出され、さらに、同年6月30日には、局所的に高い放射線量が観測されている地点として特定避難勧奨地点が設定されている。また、同年7月8日以降、複数の道県において牛肉や稲わらから新たに放射性セシウムが検出されるなど、本件事故により放出された放射性物質による被害も未だ収束するに至っていない。
 このような状況の中、政府や地方公共団体による各種の支援措置は講じられているものの、避難を余儀なくされた住民や事業者、出荷制限等により事業に支障が生じた生産者などの被害者らの生活状況は切迫しており、このような被害者を迅速、公平かつ適正に救済する必要がある。
このため、原子力損害賠償紛争審査会(以下「本審査会」という。)は、原子力損害による賠償を定めた原子力損害の賠償に関する法律(以下「原賠法」という。)に基づき、「原子力損害の範囲の判定の指針その他の当該紛争の当事者による自主的な解決に資する一般的な指針」(同法18条2項2号)を早急に策定することとした。策定に当たっては、上記の事情にかんがみ、原子力損害に該当する蓋然性の高いものから、順次指針として提示することとし、可能な限り早期の被害者救済を図ることとした。
 この度の指針(以下「中間指針」という。)は、本件事故による原子力損害の当面の全体像を示すものである。この中間指針で示した損害の範囲に関する考え方が、今後、被害者と東京電力株式会社との間における円滑な話し合いと合意形成に寄与することが望まれるとともに、中間指針に明記されない個別の損害が賠償されないということのないよう留意されることが必要である。東京電力株式会社に対しては、中間指針で明記された損害についてはもちろん、明記されなかった原子力損害も含め、多数の被害者への賠償が可能となるような体制を早急に整えた上で、迅速、公平かつ適正な賠償を行うことを期待する。


第1 中間指針の位置づけ
1 本審査会は、①平成23年4月28日に「東京電力株式会社福島第一、第二原子力発電所事故による原子力損害の範囲の判定等に関する第一次指針」(以下「第一次指針」という。)、②同年5月31日に「東京電力株式会社福島第一、第二原子力発電所事故による原子力損害の範囲の判定等に関する第二次指針」(以下「第二次指針」という。)、③同年6月20日に「東京電力株式会社福島第一、第二原子力発電所事故による原子力損害の範囲の判定等に関する第二次指針追補」(以下「追補」という。)を決定・公表したが、これらの対象とされなかった損害項目やその範囲等については、今後検討することとされていた。

2 そこで、中間指針により、第一次指針及び第二次指針(追補を含む。以下同じ。)で既に決定・公表した内容にその後の検討事項を加え、賠償すべき損害と認められる一定の範囲の損害類型を示す。
 具体的には、①「政府による避難等の指示等に係る損害」、②「政府による航行危険区域等及び飛行禁止区域の設定に係る損害」、③「政府等による農林水産物等の出荷制限指示等に係る損害」、④「その他の政府指示等に係る損害」、⑤「いわゆる風評被害」、⑥「いわゆる間接被害」、⑦「放射線被曝による損害」を対象とし、さらに、⑧「被害者への各種給付金等と損害賠償金との調整」や、⑨「地方公共団体等の財産的損害等」についても可能な限り示すこととした。

3 既に決定・公表済みの第一次指針及び第二次指針で賠償の対象と認めた損害項目及びその範囲等については、必要な範囲でこの中間指針で取り込んでいることから、今後の損害の範囲等については、本中間指針をもってこれに代えることとする。

4 なお、この中間指針は、本件事故が収束せず被害の拡大が見られる状況下、賠償すべき損害として一定の類型化が可能な損害項目やその範囲等を示したものであるから、中間指針で対象とされなかったものが直ちに賠償の対象とならないというものではなく、個別具体的な事情に応じて相当因果関係のある損害と認められることがあり得る。また、今後、本件事故の収束、避難区域等の見直し等の状況の変化に伴い、必要に応じて改めて指針で示すべき事項について検討する。


第2 各損害項目に共通する考え方
1 原賠法により原子力事業者が負うべき責任の範囲は、原子炉の運転等により及ぼした「原子力損害」であるが(同法3条)、その損害の範囲につき、一般の不法行為に基づく損害賠償請求権における損害の範囲と特別に異なって解する理由はない。したがって、指針策定に当たっても、本件事故と相当因果関係のある損害、すなわち社会通念上当該事故から当該損害が生じるのが合理的かつ相当であると判断される範囲のものであれば、原子力損害に含まれると考える。
 具体的には、本件事故に起因して実際に生じた被害の全てが、原子力損害として賠償の対象となるものではないが、本件事故から国民の生命や健康を保護するために合理的理由に基づいて出された政府の指示等に伴う損害、市場の合理的な回避行動が介在することで生じた損害、さらにこれらの損害が生じたことで第三者に必然的に生じた間接的な被害についても、一定の範囲で賠償の対象となる。
 また、原賠法における原子力損害賠償制度は、一般の不法行為の場合と同様、本件事故によって生じた損害を塡補することで、被害者を救済することを目的とするものであるが、被害者の側においても、本件事故による損害を可能な限り回避し又は減少させる措置を執ることが期待されている。したがって、これが可能であったにもかかわらず、合理的な理由なく当該措置を怠った場合には、損害賠償が制限される場合があり得る点にも留意する必要がある。

2 また、損害項目のうち、「避難費用」、「営業損害」、「就労不能等に伴う損害」など、継続的に発生し得る損害については、その終期をどう判断するかという困難な問題があるが、この点については、現時点で考え方を示すことが可能なものは示すこととし、そうでないものは今後事態の進捗を踏まえつつ必要に応じて検討する。

3 中間指針策定に当たっては、平成11年9月30日に発生した株式会社ジェー・シー・オー東海事業所における臨界事故に関して原子力損害調査研究会が作成した同年12月15日付け中間的な確認事項(営業損害に対する考え方)及び平成12年3月29日付け最終報告書を参考とした。
 但し、本件事故は、その事故の内容、深刻さ、周辺に及ぼした被害の規模、範囲、期間等において上記臨界事故を遙かに上回るものであり、その被害者及び損害の類型も多岐にわたるものであることから、本件事故に特有の事情を十分考慮して策定することとした。

4 本件事故は、東北地方太平洋沖地震及びこれに伴う津波による一連の災害(以下「東日本大震災」という。)を契機として発生したものであるが、前記1のとおり、原賠法により原子力事業者が負うべき責任の範囲は、あくまで原子炉の運転等により与えた「原子力損害」であるから(同法3条)、地震・津波による損害については賠償の対象とはならない。
 但し、中間指針で対象とされている損害によっては、例えば風評被害など、本件事故による損害か地震・津波による損害かの区別が判然としない場合もある。この場合に、厳密な区別の証明を被害者に強いるのは酷であることから、例えば、同じく東日本大震災の被害を受けながら、本件事故による影響が比較的少ない地域における損害の状況等と比較するなどして、合理的な範囲で、特定の損害が「原子力損害」に該当するか否か及びその損害額を推認することが考えられるとともに、東京電力株式会社には合理的かつ柔軟な対応が求められる。

5 加えて、損害の算定に当たっては、個別に損害の有無及び損害額の証明をもとに相当な範囲で実費賠償をすることが原則であるが、本件事故による被害者が避難等の指示等の対象となった住民だけでも十数万人規模にも上り、その迅速な救済が求められる現状にかんがみれば、損害項目によっては、合理的に算定した一定額の賠償を認めるなどの方法も考えられる。但し、そのような手法を採用した場合には、上記一定額を超える現実の損害額が証明された場合には、必要かつ合理的な範囲で増額されることがあり得る。
 また、避難により証拠の収集が困難である場合など必要かつ合理的な範囲で証明の程度を緩和して賠償することや、大量の請求を迅速に処理するため、客観的な統計データ等による合理的な算定方法を用いることが考えられる。

6 さらに、賠償金の支払方法についても、迅速な救済が必要な被害者の現状にかんがみれば、例えば、ある損害につき賠償額の全額が最終的に確定する前であっても、継続して発生する損害について一定期間毎に賠償額を特定して支払いをしたり、請求金額の一部の支払いをしたりするなど、東京電力株式会社には合理的かつ柔軟な対応が求められる。


第3 政府による避難等の指示等に係る損害について
[対象区域]
政府による避難等(後記の[避難等対象者](備考)の1)参照。)の指示等(後記の[避難等対象者](備考)の2)参照。)があった対象区域(下記(5)の対象「地点」も含む。以下同じ。)は、以下のとおりである。
(1) 避難区域
政府が原子力災害対策特別措置法(以下「原災法」という。)に基づいて各地方公共団体の長に対して住民の避難を指示した区域
①東京電力株式会社福島第一原子力発電所から半径20km圏内(平成23年4月22日には、原則立入り禁止となる警戒区域に設定。)
② 東京電力株式会社福島第二原子力発電所から半径10km圏内(同年4月21日には、半径8km圏内に縮小。)
(2) 屋内退避区域
政府が原災法に基づいて各地方公共団体の長に対して住民の屋内退避を指示した区域
③ 東京電力株式会社福島第一原子力発電所から半径20km以上30km圏内
(注)この屋内退避区域について、平成23年3月25日、官房長官より、社会生活の維持継続の困難さを理由とする自主避難の促進等が発表された。但し、屋内退避区域は、同年4月22日、下記の(3)計画的避難区域及び(4)緊急時避難準備区域の指定に伴い、その区域指定が解除された。
(3) 計画的避難区域
政府が原災法に基づいて各地方公共団体の長に対して計画的な避難を指示した区域
④ 東京電力株式会社福島第一原子力発電所から半径20km以遠の周辺地域のうち、本件事故発生から1年の期間内に積算線量が20ミリシーベルトに達するおそれのある区域であり、概ね1か月程度の間に、同区域外に計画的に避難することが求められる区域
(4) 緊急時避難準備区域
政府が原災法に基づいて各地方公共団体の長に対して緊急時の避難又は屋内退避が可能な準備を指示した区域
⑤ 東京電力株式会社福島第一原子力発電所から半径20km以上30km圏内の区域から「計画的避難区域」を除いた区域のうち、常に緊急時に避難のための立退き又は屋内への退避が可能な準備をすることが求められ、引き続き自主避難をすること及び特に子供、妊婦、要介護者、入院患者等は立ち入らないこと等が求められる区域
(注)上記の避難区域(警戒区域)、屋内退避区域、計画的避難区域及び緊急時避難準備区域については、その外縁は、必ずしも東京電力株式会社福島第一原子力発電所又は第二原子力発電所からの一定の半径距離で設定されているわけではなく、行政区や字単位による特定など、個々の地方公共団体の事情を踏まえつつ、設定されている。
(5) 特定避難勧奨地点
政府が、住居単位で設定し、その住民に対して注意喚起、自主避難の支援・促進を行う地点
⑥ 計画的避難区域及び警戒区域以外の場所であって、地域的な広がりが見られない本件事故発生から1年間の積算線量が20ミリシーベルトを超えると推定される空間線量率が続いている地点であり、政府が住居単位で設定した上、そこに居住する住民に対する注意喚起、自主避難の支援・促進を行うことを表明した地点
(6) 地方公共団体が住民に一時避難を要請した区域
南相馬市が、独自の判断に基づき、住民に対して一時避難を要請した区域((1)~(4)の区域を除く。)
⑦ 南相馬市は同市内に居住する住民に対して一時避難を要請したが、このうち同市全域から上記(1)~(4)の区域を除いた区域
(注)南相馬市は、平成23年3月16日、市民に対し、その生活の安全確保等を理由として一時避難を要請するとともに、その一時避難を支援した。同市は、屋内退避区域の指定が解除された同年4月22日、上記(6)の区域から避難していた住民に対して、自宅での生活が可能な者の帰宅を許容する旨の見解を示した。

[避難等対象者]
 避難等対象者の範囲は、避難指示等により避難等を余儀なくされた者として、以下のとおりとする。
1 本件事故が発生した後に対象区域内から同区域外へ避難のための立退き(以下「避難」という。)及びこれに引き続く同区域外滞在(以下「対象区域外滞在」という。)を余儀なくされた者(但し、平成23年6月20日以降に緊急時避難準備区域(特定避難勧奨地点を除く。)から同区域外に避難を開始した者のうち、子供、妊婦、要介護者、入院患者等以外の者を除く。)
2 本件事故発生時に対象区域外に居り、同区域内に生活の本拠としての住居(以下「住居」という。)があるものの引き続き対象区域外滞在を余儀なくされた者
3 屋内退避区域内で屋内への退避(以下「屋内退避」という。)を余儀なくされた者
(備考)
1)以上の「避難」、「対象区域外滞在」及び「屋内退避」を併せて、「避難等」という。
また、避難等対象者には、一旦避難した後に住居に戻って屋内退避をした者なども含まれる(但し、損害額の算定に当たっては、これらの差異が考慮されることはあり得る。)。
2)「避難指示等」とは、[対象区域]における政府又は本件事故発生直後における合理的な判断に基づく地方公共団体による避難等の指示、要請又は支援・促進をいう。対象区域内の住民に対しては、上記のとおり、区域に応じて、避難指示等が出されているが、政府による避難等の指示の対象となった区域内の住民のみならず、政府による自主避難の促進等の対象となった区域内の住民(平成23年6月20日以降に緊急時避難準備区域(特定避難勧奨地点を除く。)から同区域外に避難を開始した者のうち、子供、妊婦、要介護者、入院患者等以外の者を除く。)についても、対象区域外に避難する行動に出ることや、同区域外に居た者が同区域内の住居に戻ることを差し控える行動に出ることは、合理的な行動であり、避難指示等により避難や対象区域外滞在を「余儀なくされた」場合に該当する。また、地方公共団体独自の判断による一時避難の要請についても、それが本件事故発生直後であり、順次、同地方公共団体の大半の区域が避難区域や屋内退避区域に指定がなされていた状況下における一時避難の要請であったという当時の具体的な状況に照らせば、その判断は不合理ではないと認められることから、その要請に基づく一時避難についても同様とする。さらに、避難指示等の前に避難等した者についても、避難指示等に照らし、その行為は客観的・事後的にみて合理的であったと認められ、避難指示等により避難等を「余儀なくされた者」の範疇に含めて考えるべきである。
3)以下の[損害項目]においては、基本的に避難等対象者の損害の範囲等を示すが、損害項目(検査費用、営業損害、就労不能等に伴う損害等)によっては、本件事故の発生以降、対象区域内に住居がある者のうち、避難しなかった者(以下「対象区域内滞在者」という。)の損害も含まれる。

[損害項目]
1 検査費用(人)
(指針)
 本件事故の発生以降、避難等対象者のうち避難若しくは屋内退避をした者、又は対象区域内滞在者が、放射線への曝露の有無又はそれが健康に及ぼす影響を確認する目的で必要かつ合理的な範囲で検査を受けた場合には、これらの者が負担した検査費用(検査のための交通費等の付随費用を含む。以下(備考)の3)において同じ。)は、賠償すべき損害と認められる。
(備考)
1)放射線は、その量によっては人体に多大な負の影響を及ぼす危険性がある上、人の五感の作用では知覚できないという性質を有している。それゆえ、本件事故の発生により、少なくとも避難等対象者のうち、対象区域内から対象区域外に避難し、若しくは同区域内で屋内退避をした者又は対象区域内滞在者が、自らの身体が放射線に曝露したのではないかとの不安感を抱き、この不安感を払拭するために検査を受けることは通常は合理的な行動といえる。
2)無料の検査を受けた場合の検査費用については、その避難若しくは屋内退避をした者又は対象区域内滞在者に実損が生じておらず、賠償すべき損害とは認められない。
3)なお、政府による避難指示等の前に本件事故により生じた検査費用があれば、本件事故の発生により合理的な判断に基づいて実施されたものと推認でき、これを賠償対象から除外すべき合理的な理由がない限り、必要かつ合理的な範囲でその検査費用が賠償すべき損害と認められる。

2 避難費用
(指針)
Ⅰ)避難等対象者が必要かつ合理的な範囲で負担した以下の費用が、賠償すべき損害と認められる。
① 対象区域から避難するために負担した交通費、家財道具の移動費用
② 対象区域外に滞在することを余儀なくされたことにより負担した宿泊費及びこの宿泊に付随して負担した費用(以下「宿泊費等」という。)
③ 避難等対象者が、避難等によって生活費が増加した部分があれば、その増加費用
Ⅱ)避難費用の損害額算定方法は、以下のとおりとする。
① 避難費用のうち交通費、家財道具の移動費用、宿泊費等については、避難等対象者が現実に負担した費用が賠償の対象となり、その実費を損害額とするのが合理的な算定方法と認められる。
 但し、領収証等による損害額の立証が困難な場合には、平均的な費用を推計することにより損害額を立証することも認められるべきである。
② 他方、避難費用のうち生活費の増加費用については、原則として、後記6の「精神的損害」の(指針)Ⅰ①又は②の額に加算し、その加算後の一定額をもって両者の損害額とするのが公平かつ合理的な算定方法と認められる。
 その具体的な方法については、後記6のとおりである。
Ⅲ)避難指示等の解除等(指示、要請の解除のみならず帰宅許容の見解表明等を含む。以下同じ。)から相当期間経過後に生じた避難費用は、特段の事情がある場合を除き、賠償の対象とはならない。
(備考)
1)Ⅰ)については、①及び②に該当する費用、すなわち避難等対象者が負担した避難費用(交通費、家財道具の移動費用、宿泊費等)について、必要かつ合理的な範囲で賠償すべき損害の対象とするのが妥当である。
 また、③に該当する費用、すなわち生活費の増加費用についても、例えば、屋内退避をした者が食品購入のため遠方までの移動が必要となったり、避難等対象者が自家用農作物の利用が不能又は著しく困難(以下「不能等」という。)となったため食費が増加したりしたような場合には、その増加分は賠償すべき損害の対象となり得る。
2)Ⅱ)の①については、避難等対象者の避難状況及び支出状況等を一定程度調査したところによれば、一回的な支出である交通費に関しては、これらを実費負担していない者も少なくなく、また、最終避難先が全国に及び、その交通手段が多様化していることから、自己負担している者の間でもその金額には相当の差異があると推定された。また、宿泊費等についても、地方公共団体等が負担している場合が多く、継続して自己負担している者は比較的少数にとどまると認められる上、自己負担した金額も宿泊場所に応じて相当の差異があると推定された。家財道具の移動費用についても、自己負担している金額に相当の差異があると推定された。したがって、これらの損害項目については、一定額を「平均的損害額」などとして避難等対象者全員に賠償するという方法は、必ずしも実態に即しておらず、また、公平でもないと考えられる。
 また、原則どおり実費賠償とした場合、費用の立証が問題になるが、仮に領収証等でその金額を立証することができない場合には、客観的な統計データ等により損害額を推計する方法、例えば自己所有車両で避難した場合の交通費であれば、避難先までの移動距離からそれに要したガソリン代等を算出し、また、宿泊費等であれば、当該宿泊場所周辺における平均的な宿泊費等を算出してこれを損害額と推計するなどの方法で立証することも認められるべきである。こうした対応により、これらの費用につき、原則どおり実費賠償としたとしても、被害者に特段の不利益を生じさせるとまでは認め難い。
以上のことから、避難費用のうち交通費、家財道具の移動費及び宿泊費等については、原則どおり、上記各損害項目を実費負担した者が、必要かつ合理的な範囲において、その実費の賠償を受けるのが公平かつ合理的である。
3)Ⅱ)の②については、避難等により生ずる生活費の増加費用は、避難等対象者の大多数に発生すると思われる上、通常はさほど高額となるものではなく、個人差による差異も少ない反面、その実費を厳密に算定することは実際上困難であり、その立証を強いることは避難等対象者に酷である。
 また、この生活費の増加費用は、避難等における生活状況等と密接に結びつくものであることから、後記6の「精神的損害」の(指針)Ⅰ①又は②に加算して、両者を一括して一定額を算定することが、公平かつ合理的であると判断した。
 但し、上記のように後記6の「精神的損害」の(指針)Ⅰ①又は②の加算要素として一括して算定する生活費の増加費用は、あくまで通常の範囲の費用を想定したものであるから、避難等対象者の中で、特に高額の生活費の増加費用の負担をした者がいた場合には、そのような高額な費用を負担せざるを得なかった特段の事情があるときは、別途、必要かつ合理的な範囲において、その実費が賠償すべき損害と認められる。
4)Ⅲ)について、平成23年4月22日に指定が解除され避難指示等の対象外となった屋内退避区域及び上記[対象区域] (6)の区域(上記[対象区域] (6)の区域については、同日、同区域内の住居への帰宅が許容されたものとみなすことができる。)については、同日から相当期間経過後は、賠償の対象とならない。この相当期間は、これらの区域における公共施設の復旧状況等を踏まえ、解除等期日から住居に戻るまでに通常必要となると思われる準備期間を考慮し、平成23年7月末までを目安とする。但し、これらの区域に所在する学校等に通っていた児童・生徒等が避難を余儀なくされている場合は、平成23年8月末までを目安とする。
5)Ⅲ)について、特段の事情がある場合とは、避難中に健康を害し自宅以外の避難先等での療養の継続が必要なため帰宅できない場合などをいう。

3 一時立入費用
(指針)
 避難等対象者のうち、警戒区域内に住居を有する者が、市町村が政府及び県の支援を得て実施する「一時立入り」に参加するために負担した交通費、家財道具の移動費用、除染費用等(前泊や後泊が不可欠な場合の宿泊費等も含む。以下同じ。)は、必要かつ合理的な範囲で賠償すべき損害と認められる。
(備考)
1)避難等対象者のうち、原則として立入りが禁止されている警戒区域内に住居を有している者(東京電力株式会社福島第一原子力発電所から半径3km圏内に住居を有している者などを除く。)は、平成23年5月10日以降、当面の生活に必要な物品の持ち出し等を行うことを目的として市町村が政府及び県の支援を得て実施する「一時立入り」に参加して一時的に住居に戻ることが可能となった。
 その「一時立入り」の方法は、参加者が「一時立入り」の出発点となる集合場所(中継基地)に集合し、地区ごとに専用バスで住居地区まで移動することとなっている。
2)しかしながら、対象区域外滞在をしている場所から上記集合場所までの移動に際して、参加者がその往復の交通費等を負担する場合や、上記集合場所から住居地区までの交通費、人及び物に対する除染費用、家財道具(自動車等を含む。)の移動費用等について、負担する場合も否定できない。
 このような「一時立入り」への参加に要する費用については、本件事故により住民の安全確保の観点から住居を含む警戒区域内への立入りが原則として禁止されたことに伴い、「一時立入り」を行う者(以下「一時立入者」という。)が住居から当面の生活に必要な物品の持ち出し等を行うために必要な費用であるから、本件事故と相当因果関係のある損害と認めることができる。
 したがって、上記のように一時立入者が負担した交通費、家財道具の移動費用、除染費用等については、必要かつ合理的な範囲で賠償すべき損害の対象と認められる。
3)なお、その際の交通費等の算定方法については、前記2の(備考)の2)に同じである。

4 帰宅費用
(指針)
 避難等対象者が、対象区域の避難指示等の解除等に伴い、対象区域内の住居に最終的に戻るために負担した交通費、家財道具の移動費用等(前泊や後泊が不可欠な場合の宿泊費等も含む。以下同じ。)は、必要かつ合理的な範囲で賠償すべき損害と認められる。
(備考)
1)避難指示等の解除等がされた場合には、必要な準備期間である「相当期間」を経過した後は対象区域内の住居に戻ることが可能な状態となる。
そして、このように住居に最終的に帰宅するために負担した交通費や家財道具の移動費用等については、前記2で述べた避難費用と同様、必要かつ合理的な範囲で賠償すべき損害と認められる。
2)なお、その際の交通費等の算定方法については、前記2の(備考)の2)に同じである。

5 生命・身体的損害
(指針)
 避難等対象者が被った以下のものが、賠償すべき損害と認められる。
Ⅰ)本件事故により避難等を余儀なくされたため、傷害を負い、治療を要する程度に健康状態が悪化(精神的障害を含む。以下同じ。)し、疾病にかかり、あるいは死亡したことにより生じた逸失利益、治療費、薬代、精神的損害等
Ⅱ)本件事故により避難等を余儀なくされ、これによる治療を要する程度の健康状態の悪化等を防止するため、負担が増加した診断費、治療費、薬代等
(備考)
1)避難等対象者が、本件事故により避難等を余儀なくされたため、「生命・身体的損害」を被った場合には、それによって失われた逸失利益のほか、被った治療費や薬代相当額の出費、精神的損害等が賠償すべき損害と認められる。
 なお、この「生命・身体的損害を伴う精神的損害」の額は、後記6の場合とは異なり、生命・身体の損害の程度等に従って個別に算定されるべきである。
2)また、避難等により実際に健康状態が悪化したわけではなくとも、高齢者や持病を抱えている者らが、避難等による健康悪化防止のために必要な限りにおいて、従来より費用の増加する治療を受けることも合理的な行動であるから、これによって増加した費用も賠償すべき損害と認められる。

6 精神的損害
(指針)
Ⅰ)本件事故において、避難等対象者が受けた精神的苦痛 (「生命・身体的損害」を伴わないものに限る。以下この項において同じ。)のうち、少なくとも以下の精神的苦痛は、賠償すべき損害と認められる。
① 対象区域から実際に避難した上引き続き同区域外滞在を長期間余儀なくされた者(又は余儀なくされている者)及び本件事故発生時には対象区域外に居り、同区域内に住居があるものの引き続き対象区域外滞在を長期間余儀なくされた者(又は余儀なくされている者)が、自宅以外での生活を長期間余儀なくされ、正常な日常生活の維持・継続が長期間にわたり著しく阻害されたために生じた精神的苦痛
② 屋内退避区域の指定が解除されるまでの間、同区域における屋内退避を長期間余儀なくされた者が、行動の自由の制限等を余儀なくされ、正常な日常生活の維持・継続が長期間にわたり著しく阻害されたために生じた精神的苦痛
Ⅱ)Ⅰ)の①及び②に係る「精神的損害」の損害額については、前記2の「避難費用」のうち生活費の増加費用と合算した一定の金額をもって両者の損害額と算定するのが合理的な算定方法と認められる。
 そして、Ⅰ)の①又は②に該当する者であれば、その年齢や世帯の人数等にかかわらず、避難等対象者個々人が賠償の対象となる。
Ⅲ)Ⅰ)の①の具体的な損害額の算定に当たっては、差し当たって、その算定期間を以下の3段階に分け、それぞれの期間について、以下のとおりとする。
① 本件事故発生から6ヶ月間(第1期)
第1期については、一人月額10万円を目安とする。
但し、この間、避難所・体育館・公民館等(以下「避難所等」という。)における避難生活等を余儀なくされた者については、避難所等において避難生活をした期間は、一人月額12万円を目安とする。
② 第1期終了から6ヶ月間(第2期)
但し、警戒区域等が見直される等の場合には、必要に応じて見直す。
第2期については、一人月額5万円を目安とする。
③ 第2期終了から終期までの期間(第3期)
第3期については、今後の本件事故の収束状況等諸般の事情を踏まえ、改めて損害額の算定方法を検討するのが妥当であると考えられる。
Ⅳ)Ⅰ)の①の損害発生の始期及び終期については、以下のとおりとする。
① 始期については、原則として、個々の避難等対象者が避難等をした日にかかわらず、本件事故発生日である平成23年3月11日とする。但し、緊急時避難準備区域内に住居がある子供、妊婦、要介護者、入院患者等であって、同年6月20日以降に避難した者及び特定避難勧奨地点から避難した者については、当該者が実際に避難した日を始期とする。
② 終期については、避難指示等の解除等から相当期間経過後に生じた精神的損害は、特段の事情がある場合を除き、賠償の対象とはならない。
Ⅴ)Ⅰ)の②の損害額については、屋内退避区域の指定が解除されるまでの間、同区域において屋内退避をしていた者(緊急時避難準備区域から平成23年6月19日までに避難を開始した者及び計画的避難区域から避難した者を除く。)につき、一人10万円を目安とする。
(備考)
1)Ⅰ)については、前述したように、本件事故と相当因果関係のある損害であれば「原子力損害」に該当するから、「生命・身体的損害」を伴わない精神的損害(慰謝料)についても、相当因果関係等が認められる限り、賠償すべき損害といえる。
 但し、生命・身体的損害を伴わない精神的苦痛の有無、態様及び程度等は、当該被害者の年齢、性別、職業、性格、生活環境及び家族構成等の種々の要素によって著しい差異を示すものである点からも、損害の有無及びその範囲を客観化することには自ずと限度がある。
 しかしながら、本件事故においては、実際に周辺に広範囲にわたり放射性物質が放出され、これに対応した避難指示等があったのであるから、対象区域内の住民が、住居から避難し、あるいは、屋内退避をすることを余儀なくされるなど、日常の平穏な生活が現実に妨害されたことは明らかであり、また、その避難等の期間も総じて長く、また、その生活も過酷な状況にある者が多数であると認められる。
 このように、本件事故においては、少なくとも避難等対象者の相当数は、その状況に応じて、①避難及びこれに引き続く対象区域外滞在を長期間余儀なくされ、あるいは②本件事故発生時には対象区域外に居り、同区域内に住居があるものの引き続き対象区域外滞在を長期間余儀なくされたことに伴い、自宅以外での生活を長期間余儀なくされ、あるいは、③屋内退避を余儀なくされたことに伴い、行動の自由の制限等を長期間余儀なくされるなど、避難等による長期間の精神的苦痛を被っており、少なくともこれについては賠償すべき損害と観念することが可能である。
 したがって、この精神的損害については、合理的な範囲において、賠償すべき損害と認められる。
2)Ⅱ)については、Ⅰ)の①及び②の損害額算定に当たっては、前記2のⅡ)の②で述べたとおり、原則として、避難費用のうち「生活費の増加費用」を加算して、両者を一括して一定額を算定することが、公平かつ合理的であると判断した。
 また、損害賠償請求権は個々人につき発生するものであるから、損害の賠償についても、世帯単位ではなく、個々人に対してなされるべきである。そして、年齢や世帯の人数あるいはその他の事情により、各避難等対象者が現実に被った精神的苦痛の程度には個人差があることは否定できないものの、中間指針においては、全員に共通する精神的苦痛につき賠償対象とされるのが妥当と解されること、生活費の増加費用についても個人ごとの差異は少ないと考えられることから、年齢等により金額に差は設けないこととした。
3)長期間の避難等を余儀なくされた者は、正常な日常生活の維持・継続を長期間にわたり著しく阻害されているという点では全員共通した苦痛を被っていること、また、仮設住宅等に宿泊する場合と旅館・ホテル等に宿泊する場合とで、個別の生活条件を考えれば一概には生活条件に明らかな差があるとはいえないとも考えられることから、主として宿泊場所等によって分類するのではなく、一律の算定を行い、相対的に過酷な避難生活が認められる避難所等についてのみ、本件事故後一定期間は滞在期間に応じて一定金額を加算することとし、むしろ、主として避難等の時期によって合理的な差を設けることが適当である。
4)Ⅲ)の①については、本件事故後、避難等対象者の大半が仮設住宅等への入居が可能となるなど、長期間の避難生活のための基盤が形成されるまでの6ヶ月間(第1期)は、地域コミュニティ等が広範囲にわたって突然喪失し、これまでの平穏な日常生活とその基盤を奪われ、自宅から離れ不便な避難生活を余儀なくされた上、帰宅の見通しもつかない不安を感じるなど、最も精神的苦痛の大きい期間といえる。
 したがって、本期間の損害額の算定に当たっては、本件は負傷を伴う精神的損害ではないことを勘案しつつ、自動車損害賠償責任保険における慰謝料(日額4,200円。月額換算12万6,000円)を参考にした上、上記のように大きな精神的苦痛を被ったことや生活費の増加分も考慮し、一人当たり月額10万円を目安とするのが合理的であると判断した。
 但し、特に避難当初の避難所等における長期間にわたる避難生活は、他の宿泊場所よりも生活環境・利便性・プライバシー確保の点からみて相対的に過酷な生活状況であったことは否定し難いため、この点を損害額の加算要素として考慮し、避難所等において避難生活をしていた期間についてのみ、一人月額12万円を目安とすることが考えられる。
5)Ⅲ)の②については、第1期終了後6ヶ月間(第2期)は、引き続き自宅以外での不便な生活を余儀なくされている上、いつ自宅に戻れるか分からないという不安な状態が続くことによる精神的苦痛がある。その一方で、突然の日常生活とその基盤の喪失による混乱等という要素は基本的にこの段階では存せず、この時期には、大半の者が仮設住宅等への入居が可能となるなど、長期間の避難生活の基盤が整備され、避難先での新しい環境にも徐々に適応し、避難生活の不便さなどの要素も第1期に比して縮減すると考えられる。但し、その期間は必要に応じて見直すこととする。
 本期間の損害額の算定に当たっては、上記のような事情にかんがみ、希望すれば大半の者が仮設住宅等への入居が可能となるなど長期間の避難生活のための基盤が形成され、避難生活等の過酷さも第1期に比して緩和されると考えられることを考慮し、民事交通事故訴訟損害賠償額算定基準(財団法人日弁連交通事故相談センター東京支部)による期間経過に伴う慰謝料の変動状況も参考とし、一人月額5万円を目安とすることが考えられる。
6)Ⅲ)の③については、第2期終了後、実際に帰宅が可能となるなどの終期までの間(第3期)は、いずれかの時点で避難生活等の収束の見通しがつき、帰宅準備や生活基盤の整備など、前向きな対応も可能となると考えられるが、現時点ではそれがどの時点かを具体的に示すことが困難であることから、今後の本件事故の収束状況等諸般の事情を踏まえ、改めて第3期における損害額の算定を検討することが妥当であると考えられる。但し、既に終期が到来している区域については、この限りではない。
7)Ⅳ)の①について、Ⅰ)の①の損害発生の始期につき、個々の対象者が実際に避難等をした日とすることも考えられる。
 しかしながら、上記対象者が実際に避難をした日はそれぞれの事情によって異なっているものの、避難等をする前の生活においても、本件事故発生日以降しばらくの間は、避難後の精神的苦痛に準ずる程度に、正常な日常生活の維持・継続を著しく阻害されることによる精神的苦痛を受けていたと考えられることから、損害発生の始期は平成23年3月11日の本件事故発生日とするのが合理的であると判断した。
 但し、緊急時避難準備区域内に住居がある子供、妊婦、要介護者、入院患者等であって平成23年6月20日以降に避難した者及び特定避難勧奨地点から避難した者については、当該者が実際に避難した日を始期とする。
8)Ⅳ)の②については、前記2の(備考)の4)に同じである。
9)Ⅴ)については、Ⅰ)の②に該当する者、すなわち屋内退避区域の指定が解除されるまでの間、同区域において屋内退避をしていた者は、自宅で生活しているという点ではⅠ)の①に該当する者、すなわち避難及び対象区域外滞在をした者のような精神的苦痛は観念できないが、他方で、外出等行動の自由を制限されていたことなどを考慮し、Ⅰ)の①の損害額を超えない範囲で損害額を算定することとし、その損害額は一人10万円を目安とするのが妥当である。
10)損害額の算定は月単位で行うのが合理的と認められるが、Ⅲ)の①及び②並びにⅤ)の金額はあくまでも目安であるから、具体的な賠償に当たって柔軟な対応を妨げるものではない。
11)その他の本件事故による精神的苦痛についても、個別の事情によっては賠償の対象と認められ得る。

7 営業損害
(指針)
Ⅰ)従来、対象区域内で事業の全部又は一部を営んでいた者又は現に営んでいる者において、避難指示等に伴い、営業が不能になる又は取引が減少する等、その事業に支障が生じたため、現実に減収があった場合には、その減収分が賠償すべき損害と認められる。
 上記減収分は、原則として、本件事故がなければ得られたであろう収益と実際に得られた収益との差額から、本件事故がなければ負担していたであろう費用と実際に負担した費用との差額(本件事故により負担を免れた費用)を控除した額(以下「逸失利益」という。)とする。
Ⅱ)また、Ⅰ)の事業者において、上記のように事業に支障が生じたために負担した追加的費用(従業員に係る追加的な経費、商品や営業資産の廃棄費用、除染費用等)や、事業への支障を避けるため又は事業を変更したために生じた追加的費用(事業拠点の移転費用、営業資産の移動・保管費用等)も、必要かつ合理的な範囲で賠償すべき損害と認められる。
Ⅲ)さらに、同指示等の解除後も、Ⅰ)の事業者において、当該指示等に伴い事業に支障が生じたため減収があった場合には、その減収分も合理的な範囲で賠償すべき損害と認められる。また、同指示等の解除後に、事業の全部又は一部の再開のために生じた追加的費用(機械等設備の復旧費用、除染費用等)も、必要かつ合理的な範囲で賠償すべき損害と認められる。
(備考)
1)避難指示等があったことにより、自己又は従業員等が対象区域からの避難等を余儀なくされ、又は、車両や商品等の同区域内への出入りに支障を来したことなどにより、同区域内で事業の全部又は一部を営んでいた者が、その事業に支障が生じた場合には、当該事業に係る営業損害は賠償すべき損害と認められる。
 対象となる事業は、農林水産業、製造業、建設業、販売業、サービス業、運送業、医療業、学校教育その他の事業一般であり、営利目的の事業に限られず、また、その事業の一部を対象区域内で営んでいれば対象となり得る。
 また、上記事業の支障により生じた商品や営業資産の廃棄、返品費用、商品調達等費用の増加、従業員に係る追加的な経費など、あるいは、このような事態を避けるために、当該事業者が対象区域内から同区域外に事業拠点を移転させた費用や、事業に必要な営業資産等(家畜等を含む。)を搬出した費用などの追加的費用についても、必要かつ合理的な範囲で賠償すべき損害と認められる。
2)Ⅰ)の「収益」には、売上高のほか、事業の実施に伴って得られたであろう交付金等(例えば、農業における戸別所得補償交付金、医療事業における診療報酬等、私立学校における私学助成)がある場合は、これらの交付金等相当分も含まれる。
3)また、例えば、事業者が本件事故により負担を免れた賃料や従業員の給料等を逸失利益から控除しなかった場合には、事業者は実際に負担しなかった販売費及び一般管理費分についても賠償を受けることになってしまい妥当ではないと考えられることから、Ⅰ)の「費用」には、売上原価のほか販売費及び一般管理費も含まれる。
4)将来の売上のための費用を既に負担し、又は継続的に負担せざるを得ないような場合には、当該費用は本件事故によっても負担を免れなかったとしてこれを控除せずに減収分(損害額)を算定するのが相当である。
5)Ⅰ)の「減収分」の記述は、第一次指針第3の5Ⅰ)の「減収分」の記述と異なるが、これは意味を明確化するために修正を加えたものであり、実質的な内容は異ならない。
6)なお、避難指示等の前に本件事故により生じた営業損害があれば、これを賠償対象から除外すべき合理的な理由はないから、本件事故日以降の営業損害が賠償すべき損害と認められる。
7)営業損害の終期は、基本的には対象者が従来と同じ又は同等の営業活動を営むことが可能となった日とすることが合理的であるが、本件事故により生じた減収分がある期間を含め、どの時期までを賠償の対象とするかについては、現時点で全てを示すことは困難であるため、改めて検討することとする。但し、その検討に当たっては、一般的には事業拠点の移転や転業等の可能性があることから、賠償対象となるべき期間には一定の限度があることや、早期に転業する等特別の努力を行った者が存在することに、留意する必要がある。
8)倒産・廃業した場合は、営業資産の価値が喪失又は減少した部分(減価分)、一定期間の逸失利益及び倒産・廃業に伴う追加的費用等を賠償すべき損害とすることが考えられる。
9)既に対象区域内の拠点を閉鎖し、事業拠点を移転又は転業した場合(一時的な移転又は転業を含む。)は、営業資産の減価分、事業拠点の移転又は転業に至るまでの期間における逸失利益、事業拠点の移転又は転業後の一定期間における従来収益との差額分及びⅡ)に掲げる移転に伴う追加的費用等を賠償すべき損害とすることが考えられる。
10)8)の「倒産・廃業した場合」及び9)の「移転又は転業した場合」に逸失利益等が賠償されるべき「一定期間」の検討に当たっては、高齢者、農林漁業者等の転職が特に困難な場合や特別な努力を講じた場合等には、特別の考慮をすることとする。

8 就労不能等に伴う損害
(指針)
 対象区域内に住居又は勤務先がある勤労者が避難指示等により、あるいは、前記7の営業損害を被った事業者に雇用されていた勤労者が当該事業者の営業損害により、その就労が不能等となった場合には、かかる勤労者について、給与等の減収分及び必要かつ合理的な範囲の追加的費用が賠償すべき損害と認められる。
(備考)
1)避難等を余儀なくされた勤労者が、例えば、対象区域内にあった勤務先が本件事故により廃業を余儀なくされ、又は、避難先が勤務先から遠方となったために就労が不能等となった場合には、その給与等の減収分及び必要かつ合理的な範囲の追加的費用は賠償すべき損害と認められる。
 なお、就労の不能等には、本件事故と相当因果関係のある解雇その他の離職も含まれる。
2)但し、自営業者や家庭内農業従事者等の逸失利益分については、別途営業損害の対象となり得るから、ここでいう就労不能等に伴う損害の対象とはならない。
3)また、就労が不能等となった期間のうち、雇用者が勤労者に給与等を支払った場合には、当該雇用者の出捐額が損害となり、これは当該雇用者の営業損害で考慮されるべきものである。
 他方、既に就労したものの未払いである賃金については、当該賃金は本来雇用者が支払うべきものであるが、本件事故により当該賃金の支払が不能等となったと認められる場合には、当該賃金部分も勤労者の損害に該当し得る(後記第10の1も参照。但し、その場合に勤労者が実際に賠償を受けたときは、その限度で勤労者の賃金債権が代位取得されることとなる点に留意すべきである。)。
4)また、避難指示等の前に本件事故により生じた就労不能等に伴う損害があれば、これを賠償対象から除外すべき合理的な理由はないから、本件事故発生日以降のものが賠償すべき損害と認められる。
5)なお、未就労者のうち就労が予定されていた者については、その就労の確実性によっては、就労不能等に伴う損害を被ったとして賠償すべき損害の対象となり得る。
6)給与等の減収分は、原則として、就労不能等となる以前の給与等から就労不能等となった後の給与等を控除した額であり、当該「給与等」には各種手当、賞与等も含まれる。
7)当該追加的費用には、対象区域内にあった勤務先が本件事故により移転、休業等を余儀なくされたために勤労者が配置転換、転職等を余儀なくされた場合に負担した転居費用、通勤費の増加分等及び対象区域内に係る避難等を余儀なくされた勤労者が負担した通勤費の増加分等も必要かつ合理的な範囲で含まれる。
8)就労不能等に伴う損害の終期は、基本的には対象者が従来と同じ又は同等の就労活動を営むことが可能となった日とすることが合理的であるが、本件事故により生じた減収分がある期間を含め、どの時期までを賠償の対象とするかについて、その具体的な時期等を現時点で見通すことは困難であるため、改めて検討することとする。但し、その検討に当たっては、一般的には、就労不能等に対しては転職等により対応する可能性があると考えられることから、賠償対象となるべき期間には一定の限度があることや、早期の転職や臨時の就労等特別の努力を行った者が存在することに留意する必要がある。

9 検査費用(物)
(指針)
 対象区域内にあった商品を含む財物につき、当該財物の性質等から、検査を実施して安全を確認することが必要かつ合理的であると認められた場合には、所有者等の負担した検査費用(検査のための運送費等の付随費用を含む。以下同じ。)は必要かつ合理的な範囲で賠償すべき損害と認められる。
(備考)
1)本件事故による被害の全貌はいまだ判明しておらず、個々の財物がその価値を喪失又は減少させる程度の量の放射性物質に曝露しているか否かは不明である。
しかしながら、財物の価値ないし価格は、当該財物の取引等を行う人の印象・意識・認識等の心理的・主観的な要素によって大きな影響を受ける。しかも、財物に対して実施する検査は、取引の相手方による取引拒絶、キャンセル要求又は減額要求等を未然に防止し、営業損害の拡大を最小限に止めるためにも必要とされる場合が多い。
 したがって、平均的・一般的な人の認識を基準として当該財物の種類及び性質等から、その所有者等が当該財物の安全性に対して危惧感を抱き、この危惧感を払拭するために検査を実施することが必要かつ合理的であると認められる場合には、その負担した検査費用を損害と認めるのが相当である。
2)また、避難指示等の前に本件事故により生じた検査費用があれば、本件事故の発生により合理的な判断に基づいて実施されたものと推認でき、これを賠償対象から除外すべき合理的な理由がない限り、その検査費用も必要かつ合理的な範囲で賠償すべき損害と認められる。

10 財物価値の喪失又は減少等
(指針)
 財物につき、現実に発生した以下のものについては、賠償すべき損害と認められる。なお、ここで言う財物は動産のみならず不動産をも含む。
Ⅰ)避難指示等による避難等を余儀なくされたことに伴い、対象区域内の財物の管理が不能等となったため、当該財物の価値の全部又は一部が失われたと認められる場合には、現実に価値を喪失し又は減少した部分及びこれに伴う必要かつ合理的な範囲の追加的費用(当該財物の廃棄費用、修理費用等)は、賠償すべき損害と認められる。
Ⅱ)Ⅰ)のほか、当該財物が対象区域内にあり、
① 財物の価値を喪失又は減少させる程度の量の放射性物質に曝露した場合
又は、
② ①には該当しないものの、財物の種類、性質及び取引態様等から、平均的・一般的な人の認識を基準として、本件事故により当該財物の価値の全部又は一部が失われたと認められる場合には、現実に価値を喪失し又は減少した部分及び除染等の必要かつ合理的な範囲の追加的費用が賠償すべき損害と認められる。
Ⅲ)対象区域内の財物の管理が不能等となり、又は放射性物質に曝露することにより、その価値が喪失又は減少することを予防するため、所有者等が支出した費用は、必要かつ合理的な範囲において賠償すべき損害と認められる。
(備考)
1)Ⅰ)については、避難等に伴い、財物の管理が不能等になったため、当該財物の価値の全部又は一部が失われたと認められる場合には、その現実に価値を喪失し又は減少した部分及びこれに伴う必要かつ合理的な範囲の追加的費用(当該財物の廃棄費用、修理費用等)については、賠償すべき損害と認められる。
但し、当該財物が商品である場合には、これを財物価値(客観的価値)の喪失又は減少等と評価するか、あるいは、営業損害としてその減収分(逸失利益)と評価するかは、個別の事情に応じて判断されるべきである。
 なお、立ち入りができないため、価値の喪失又は減少について現実に確認できないものは、蓋然性の高い状況を想定して喪失又は減少した価値を算定することが考えられる。
2)Ⅱ)の①について、本件事故により放出された放射性物質が当該財物に付着したことにより、当該財物の価値が喪失又は減少した場合には、その価値喪失分又は減少分及びこれに伴う必要かつ合理的な範囲の追加的費用(当該財物の除染費用、廃棄費用等)は賠償の対象となる。
3)Ⅱ)の②について、Ⅱ)の①のように放射性物質の付着により財物の価値が喪失又は減少したとまでは認められなくとも、財物の価値ないし価格が、当該財物の取引等を行う人の印象・意識・認識等の心理的・主観的な要素によって大きな影響を受けることにかんがみ、その種類、性質及び取引態様等から、平均的・一般的な人の認識を基準として、財物の価値が喪失又は減少したと認められてもやむを得ない場合には、その価値喪失分又は減少分及び必要かつ合理的な範囲の追加的費用が賠償すべき損害となる。
4)Ⅰ)及びⅡ)について、合理的な修理、除染等の費用は、原則として当該財物の客観的価値の範囲内のものとするが、文化財、農地等代替性がない財物については、例外的に、合理的な範囲で当該財物の客観的価値を超える金額の賠償も認められ得る。
5)損害の基準となる財物の価値は、原則として、本件事故発生時点における財物の時価に相当する額とすべきであるが、時価の算出が困難である場合には、一般に公正妥当と認められる企業会計の慣行に従った帳簿価額を基準として算出することも考えられる。
6)不動産売買契約及び不動産賃貸借契約(以下「不動産関連契約」という。)の契約価格の下落に係る損害については、本件事故がなければ当初予定していた価格で契約が成立していたとの確実性が認められる場合は、合理的な範囲で現実の契約価格との差額につき賠償すべき損害と認められる。
 併せて、不動産関連契約の締結拒絶又は途中破棄等に係る損害については、本件事故がなければ当該契約が成立又は継続していたとの確実性が認められる場合は、合理的な範囲で賠償すべき損害と認められる。
 また、不動産を担保とする融資の拒絶による損害や不動産賃貸借における賃料の減額を行ったことによる損害等については、本件事故がなければ当該融資の拒絶や賃料の減額等が行われなかったとの確実性が認められる場合には、合理的な範囲で賠償すべき損害と認められる。


第4 政府による航行危険区域等及び飛行禁止区域の設定に係る損害について
[対象区域]
(1) 政府により、平成23年3月15日に航行危険区域に設定された、東京電力株式会社福島第一原子力発電所を中心とする半径30kmの円内海域(同海域のうち半径20kmの円内海域は同年4月22日に「警戒区域」にも設定され、その後の同月25日には、同海域全体につき航行危険区域が解除されるとともに、「警戒区域」以外の半径20kmから30kmの円内海域は「緊急時避難準備区域」に設定された。以下、これら設定の変更前後における各円内海域を併せて「航行危険区域等」という。)
(2) 政府により、平成23年3月15日に飛行禁止区域に設定された、東京電力株式会社福島第一原子力発電所を中心とする半径30kmの円内空域(同年5月31日には、半径20kmの円内空域に縮小。)

[損害項目]
1 営業損害
(指針)
Ⅰ)航行危険区域等の設定に伴い、①漁業者が、対象区域内での操業又は航行を断念せざるを得なくなったため、又は、②内航海運業若しくは旅客船事業を営んでいる者等が同区域を迂回して航行せざるを得なくなったため、現実に減収があった場合又は迂回のため費用が増加した場合は、その減収分及び必要かつ合理的な範囲の追加的費用が賠償すべき損害と認められる。
Ⅱ)飛行禁止区域の設定に伴い、航空運送事業を営んでいる者が、同区域を迂回して飛行せざるを得なくなったため費用が増加した場合には、当該追加的費用が必要かつ合理的な範囲で賠償すべき損害と認められる。
(備考)
1)減収分の算定方法等は、前記第3の7に同じ(但し、避難等に特有の部分は除く。)である。
2)なお、政府による航行危険区域等又は飛行禁止区域設定の前に自主的に制限を行っていたものについては、本件事故の発生により合理的な判断に基づいて実施されたものと推認でき、これを賠償対象から除外すべき合理的な理由がない限り、当該制限に伴う減収分等も賠償すべき損害と認められる。

2 就労不能等に伴う損害
(指針)
 航行危険区域等又は飛行禁止区域の設定により、同区域での操業、航行又は飛行が不能等となった漁業者、内航海運業者、旅客船事業者、航空運送事業者等の経営状態が悪化したため、そこで勤務していた勤労者が就労不能等を余儀なくされた場合には、かかる勤労者について、給与等の減収分及び必要かつ合理的な範囲の追加的費用が賠償すべき損害と認められる。
(備考)
減収分の算定方法等は、前記第3の8に同じ(但し、避難等に特有の部分は除く。)である。


第5 政府等による農林水産物等の出荷制限指示等に係る損害について
[対象]
 農林水産物(加工品を含む。以下第5において同じ。)及び食品の出荷、作付けその他の生産・製造及び流通に関する制限又は農林水産物及び食品に関する検査について、政府が本件事故に関し行う指示等(地方公共団体が本件事故に関し合理的理由に基づき行うもの及び生産者団体が政府又は地方公共団体の関与の下で本件事故に関し合理的理由に基づき行うものを含む。)に伴う損害を対象とする。
(備考)
1)「政府が本件事故に関し行う指示等」には、政府が原災法に基づいて各地方公共団体の長に対して行う出荷制限指示、摂取制限指示及び作付制限指示、放牧及び牧草等の給与制限指導、食品衛生法の規定に基づく販売禁止、食品の放射性物質検査の指示等が含まれる。
2)「地方公共団体が本件事故に関し合理的理由に基づき行うもの」には、例えば、特定の品目について暫定規制値を超える放射性物質の検出があったことを理由として、県が当該品目の生産者に対して出荷又は操業に係る自粛を要請する場合等が含まれる。
3)「生産者団体が政府又は地方公共団体の関与の下で本件事故に関し合理的理由に基づき行うもの」には、例えば、本件事故発生県沖における航行危険区域等の設定、汚染水の排出等の事情を踏まえ、同県の漁業者団体が同県との協議に基づき操業の自粛を決定した場合等が含まれる。

[損害項目]
1 営業損害
(指針)
Ⅰ)農林漁業者その他の同指示等の対象事業者において、同指示等に伴い、当該指示等に係る行為の断念を余儀なくされる等、その事業に支障が生じたため、現実に減収があった場合には、その減収分が賠償すべき損害と認められる。
Ⅱ)また、農林漁業者その他の同指示等の対象事業者において、上記のように事業に支障が生じたために負担した追加的費用(商品の回収費用、廃棄費用等)や、事業への支障を避けるため又は事業を変更したために生じた追加的費用(代替飼料の購入費用、汚染された生産資材の更新費用等)も、必要かつ合理的な範囲で賠償すべき損害と認められる。
Ⅲ)同指示等の対象品目を既に仕入れ又は加工した加工・流通業者において、当該指示等に伴い、当該品目又はその加工品の販売の断念を余儀なくされる等、その事業に支障が生じたために現実に生じた減収分及び必要かつ合理的な範囲の追加的費用も賠償すべき損害と認められる。
Ⅳ)さらに、同指示等の解除後も、同指示等の対象事業者又はⅢ)の加工・流通業者において、当該指示等に伴い事業に支障が生じたため減収があった場合には、その減収分も合理的な範囲で賠償すべき損害と認められる。また、同指示等の解除後に、事業の全部又は一部の再開のために生じた追加的費用(農地や機械の再整備費、除染費用等)も、必要かつ合理的な範囲で賠償すべき損害と認められる。
(備考)
1)Ⅰ)について、例えば、農林産物の出荷制限指示は、その作付け自体を制限するものではないが、作付けから出荷までに要する期間、作付けの時点で制限解除の見通しが立たない状況等にかんがみ、その作付けの全部又は一部を断念することもやむを得ないと考えられる場合には、作付けを断念することによって生じた減収分等も、当該指示に伴う損害として賠償すべき損害と認められる。
2)同指示等がなされる前に自主的に当該制限を行っていたものについては、本件事故の発生により合理的な判断に基づいて実施されたものと推認でき、これを賠償対象から除外すべき合理的な理由がない限り、当該制限に伴う減収分等が賠償すべき損害と認められる。
3)減収分の算定方法等は、前記第3の7に同じ(但し、避難等に特有の部分は除く。)である。

2 就労不能等に伴う損害
(指針)
 同指示等に伴い、同指示等の対象事業者又は1Ⅲ)の加工・流通業者の経営状態が悪化したため、そこで勤務していた勤労者が就労不能等を余儀なくされた場合には、かかる勤労者について、給与等の減収分及び必要かつ合理的な範囲の追加的費用が賠償すべき損害と認められる。
(備考)
 減収分の算定方法等は、前記第3の8に同じ(但し、避難等に特有の部分は除く。)である。

3 検査費用(物)
(指針)
 同指示等に基づき行われた検査に関し、農林漁業者その他の事業者が負担を余儀なくされた検査費用は、賠償すべき損害と認められる。
(備考)
 取引先の要求等により検査の実施を余儀なくされた場合は、後記第7(いわゆる風評被害について)の損害となり得る。


第6 その他の政府指示等に係る損害について
[対象]
 前記第3ないし第5に掲げられた政府指示等のほか、事業活動に関する制限又は検査について、政府が本件事故に関し行う指示等に伴う損害を対象とする。
(備考)
 同指示等は、水に係る摂取制限指導、水に係る放射性物質検査の指導、放射性物質が検出された上下水処理等副次産物の取扱いに関する指導及び学校等の校舎・校庭等の利用判断に関する指導等をいう。

[損害項目]
1 営業損害
(指針)
Ⅰ)同指示等の対象事業者において、同指示等に伴い、当該指示等に係る行為の制限を余儀なくされる等、その事業に支障が生じたため、現実に減収が生じた場合には、その減収分が賠償すべき損害と認められる。
Ⅱ)また、同指示等の対象事業者において、上記のように事業に支障が生じたために負担した追加的費用(商品の回収費用、保管費用、廃棄費用等)や、事業への支障を避けるため又は事業を変更したために生じた追加的費用(水道事業者による代替水の提供費用、除染費用、校庭・園庭における放射線量の低減費用等)も、必要かつ合理的な範囲で賠償すべき損害と認められる。
Ⅲ)さらに、同指示等の解除後も、同指示等の対象事業者において、当該指示等に伴い事業に支障が生じたために減収があった場合には、その減収分も合理的な範囲で賠償すべき損害と認められる。また、同指示等の解除後に、事業の全部又は一部の再開のために生じた追加的費用も、必要かつ合理的な範囲で賠償すべき損害と認められる。
(備考)
1)同指示等がなされる前に自主的に当該制限を行っていたものについては、本件事故の発生により合理的な判断に基づいて実施されたものと推認でき、これを賠償対象から除外すべき合理的な理由がない限り、当該制限に伴う減収分等が賠償すべき損害と認められる。
2)減収分の算定方法等は、前記第3の7に同じ(但し、避難等に特有の部分は除く。)である。
3)校庭・園庭における土壌に関して児童生徒等の受ける放射線量を低減するための措置について、少なくとも、それが政府又は地方公共団体による調査結果に基づくものであり、かつ、政府が放射線量を低減するための措置費用の一部を支援する場合には、学校等の設置者が負担した当該措置に係る追加的費用は、必要かつ合理的な範囲で賠償すべき損害と認められる。

2 就労不能等に伴う損害
(指針)
 同指示等に伴い、同指示等の対象事業者の経営状態が悪化したため、そこで勤務していた勤労者が就労不能等を余儀なくされた場合には、かかる勤労者について、給与等の減収分及び必要かつ合理的な範囲の追加的費用が賠償すべき損害と認められる。
(備考)
 減収分の算定方法等は、前記第3の8に同じ(但し、避難等に特有の部分は除く。)である。

3 検査費用(物)
(指針)
 同指示等に基づき行われた検査に関し、同指示等の対象事業者が負担を余儀なくされた検査費用は、賠償すべき損害と認められる。
(備考)
1)同指示等がなされる前に自主的に検査を行っていたものについては、本件事故の発生により合理的な判断に基づいて実施されたものと推認でき、これを賠償対象から除外すべき合理的な理由がない限り、賠償すべき損害と認められる。
2)また、同指示等に基づくものではなく、取引先の要求等により検査の実施を余儀なくされた場合は、後記第7(いわゆる風評被害について)の損害となり得る。


第7 いわゆる風評被害について
1 一般的基準
(指針)
Ⅰ)いわゆる風評被害については確立した定義はないものの、この中間指針で「風評被害」とは、報道等により広く知らされた事実によって、商品又はサービスに関する放射性物質による汚染の危険性を懸念した消費者又は取引先により当該商品又はサービスの買い控え、取引停止等をされたために生じた被害を意味するものとする。
Ⅱ)「風評被害」についても、本件事故と相当因果関係のあるものであれば賠償の対象とする。その一般的な基準としては、消費者又は取引先が、商品又はサービスについて、本件事故による放射性物質による汚染の危険性を懸念し、敬遠したくなる心理が、平均的・一般的な人を基準として合理性を有していると認められる場合とする。
Ⅲ)具体的にどのような「風評被害」が本件事故と相当因果関係のある損害と認められるかは、業種毎の特徴等を踏まえ、営業や品目の内容、地域、損害項目等により類型化した上で、次のように考えるものとする。
①各業種毎に示す一定の範囲の類型については、本件事故以降に現実に生じた買い控え等による被害(Ⅳ)に相当する被害をいう。以下同じ。)は、原則として本件事故と相当因果関係のある損害として賠償の対象と認められるものとする。
②①以外の類型については、本件事故以降に現実に生じた買い控え等による被害を個別に検証し、Ⅱ)の一般的な基準に照らして、本件事故との相当因果関係を判断するものとする。
Ⅳ)損害項目としては、消費者又は取引先により商品又はサービスの買い控え、取引停止等をされたために生じた次のものとする。
① 営業損害
取引数量の減少又は取引価格の低下による減収分及び必要かつ合理的な範囲の追加的費用(商品の返品費用、廃棄費用、除染費用等)
② 就労不能等に伴う損害
①の営業損害により、事業者の経営状態が悪化したため、そこで勤務していた勤労者が就労不能等を余儀なくされた場合の給与等の減収分及び必要かつ合理的な範囲の追加的費用
③ 検査費用(物)
取引先の要求等により実施を余儀なくされた検査に関する検査費用
(備考)
1)いわゆる風評被害という表現は、人によって様々な意味に解釈されており、放射性物質等による危険が全くないのに消費者や取引先が危険性を心配して商品やサービスの購入・取引を回避する不安心理に起因する損害という意味で使われることもある。しかしながら、少なくとも本件事故のような原子力事故に関していえば、むしろ必ずしも科学的に明確でない放射性物質による汚染の危険を回避するための市場の拒絶反応によるものと考えるべきであり、したがって、このような回避行動が合理的といえる場合には、賠償の対象となる。
 このような理解をするならば、そもそも風評被害という表現自体を避けることが本来望ましいが、現時点でこれに代わる適切な表現は、裁判実務上もいまだ示されていない。また、この種の被害は、避難等に伴い営業を断念した場合の営業損害とは異なり、報道機関や消費者・取引先等の第三者の意思・判断・行動等が介在するという点に特徴があり、一定の特殊な類型の被害であることは否定できない。
 したがって、上記のような誤解を招きかねない点に注意しつつ、Ⅰ)で定義した「風評被害」という表現を用いることとする。
2)「風評被害」には、農林水産物や食品に限らず、動産・不動産といった商品一般、あるいは、商品以外の無形のサービス(例えば観光業において提供される各種サービス等)に係るものも含まれる。
3)「風評被害」の外延は必ずしも明確ではなく、本件事故との相当因果関係は最終的には個々の事案毎に判断すべきものであるが、この中間指針では、このような被害についても、本件事故に係る紛争解決に資するため、相当因果関係が認められる蓋然性が特に高い類型や、相当因果関係を判断するに当たって考慮すべき事項を示すこととする。
Ⅲ)①の類型に該当する損害については、それが本件事故後に生じた買い控え等による被害である場合には、それだけで本件事故と相当因果関係のある損害と推認され、原則として賠償すべき損害と認められる。
 但し、当然のことながら、賠償の対象となる「風評被害」はこれらに限定されるものではなく、Ⅲ)①の類型に該当しなかった「風評被害」(Ⅲ)②の風評被害)についても、別途、本件事故と相当因果関係があることが立証された場合には、賠償の対象となる。その場合には、例えば、客観的な統計データ等による合理的な立証方法を用いたり、Ⅲ)①の類型に該当する損害との比較を行うことが考えられる。
4)本件事故と他原因(例えば、東日本大震災自体による消費マインドの落ち込み等)との双方の影響が認められる場合には、本件事故と相当因果関係のある範囲で賠償すべき損害と認められる。
5)なお、「風評被害」は、上記のように当該商品等に対する危険性を懸念し敬遠するという消費者・取引先等の心理的状態に基づくものである以上、風評被害が賠償対象となるべき期間には一定の限度がある。
 一般的に言えば、「平均的・一般的な人を基準として合理性が認められる買い控え、取引停止等が収束した時点」が終期であるが、いまだ本件事故が収束していないこと等から、少なくとも現時点において一律に示すことは困難であり、当面は、客観的な統計データ等を参照しつつ、取引数量・価格の状況、具体的な買い控え等の発生状況、当該商品又はサービスの特性等を勘案し、個々の事情に応じて合理的に判定することが適当である。
6)営業損害又は就労不能等に伴う損害における減収分の算定方法等は、前記第3の7又は第3の8に同じ(但し、避難等に特有の部分は除く。)である。

2 農林漁業・食品産業の風評被害
(指針)
Ⅰ) 以下に掲げる損害については、1Ⅲ)①の類型として、原則として賠償すべき損害と認められる。
① 農林漁業において、本件事故以降に現実に生じた買い控え等による被害のうち、次に掲げる産品に係るもの。
)農林産物(茶及び畜産物を除き、食用に限る。)については、福島、茨城、栃木、群馬、千葉及び埼玉の各県において産出されたもの。
)茶については、)の各県並びに神奈川及び静岡の各県において産出されたもの。
)畜産物(食用に限る。)については、福島、茨城及び栃木の各県において産出されたもの。
)水産物(食用及び餌料用に限る。)については、福島、茨城、栃木、群馬及び千葉の各県において産出されたもの。
)花きについては、福島、茨城及び栃木の各県において産出されたもの。
)その他の農林水産物については、福島県において産出されたもの。
))ないし)の農林水産物を主な原材料とする加工品。
② 農業において、平成23年7月8日以降に現実に生じた買い控え等による被害のうち、少なくとも、北海道、青森、岩手、宮城、秋田、山形、福島、茨城、栃木、群馬、埼玉、千葉、新潟、岐阜、静岡、三重、島根の各道県において産出された牛肉、牛肉を主な原材料とする加工品及び食用に供される牛に係るもの。
③ 農林水産物の加工業及び食品製造業において、本件事故以降に現実に生じた買い控え等による被害のうち、次に掲げる産品及び食品(以下「産品等」という。)に係るもの。
)加工又は製造した事業者の主たる事務所又は工場が福島県に所在するもの。
)主たる原材料が①の)ないし)の農林水産物又は②の牛肉であるもの。
)摂取制限措置(乳幼児向けを含む。)が現に講じられている水を原料として使用する食品。
④ 農林水産物・食品の流通業(農林水産物の加工品の流通業を含む。以下同じ。)において、本件事故以降に現実に生じた買い控え等による被害のうち、①ないし③に掲げる産品等を継続的に取り扱っていた事業者が仕入れた当該産品等に係るもの。
Ⅱ)農林漁業、農林水産物の加工業及び食品製造業並びに農林水産物・食品の流通業において、Ⅰ)に掲げる買い控え等による被害を懸念し、事前に自ら出荷、操業、作付け、加工等の全部又は一部を断念したことによって生じた被害も、かかる判断がやむを得ないものと認められる場合には、原則として賠償すべき損害と認められる。
Ⅲ)農林漁業、農林水産物の加工業及び食品製造業、農林水産物・食品の流通業並びにその他の食品産業において、本件事故以降に取引先の要求等によって実施を余儀なくされた農林水産物(加工品を含む。)又は食品(加工又は製造の過程で使用する水を含む。)の検査に関する検査費用のうち、政府が本件事故に関し検査の指示等を行った都道府県において当該指示等の対象となった産品等と同種のものに係るものは、原則として賠償すべき損害と認められる。
Ⅳ)Ⅰ)ないしⅢ)に掲げる損害のほか、農林漁業、農林水産物の加工業及び食品製造業、農林水産物・食品の流通業並びにその他の食品産業において、本件事故以降に現実に生じた買い控え等による被害は、個々の事例又は類型毎に、取引価格及び取引数量の動向、具体的な買い控え等の発生状況等を検証し、当該産品等の特徴(生産・流通の実態を含む。)、その産地等の特徴(例えばその所在地及び本件事故発生地からの距離)、放射性物質の検査計画及び検査結果、政府等による出荷制限指示(県による出荷自粛要請を含む。以下同じ。)の内容、当該産品等の生産・製造に用いられる資材の汚染状況等を考慮して、消費者又は取引先が、当該産品等について、本件事故による放射性物質による汚染の危険性を懸念し、敬遠したくなる心理が、平均的・一般的な人を基準として合理性を有していると認められる場合には、本件事故との相当因果関係が認められ、賠償の対象となる。
(備考)
1)農林水産物及び食品については、
① 農林水産物は、農地、漁場等で生育する動植物であり、放射性物質による土地や水域の汚染の危険性への懸念が、これらへの懸念に直結する傾向があること
② 特に食品は、消費者が摂取により体内に取り入れるものであることから、放射性物質による内部被曝を恐れ、特に敏感に敬遠する傾向があること
③ また、食品は、日常生活に不可欠なものであり、かつ、通常はさほど高価なものではないから、東日本大震災自体による消費マインドの落ち込みという原因で買い控え等に至ることは通常は考えにくいこと
④ 花き等は、収穫後洗浄されない状態で流通し、消費者が身近で使用すること等から、接触を懸念する傾向があること
⑤ 一般に農林水産物も食品も、代替品として他の生産地の物を比較的容易に入手できるので、それに対応して、買い控え等も比較的容易に起こりやすいこと
等の特徴があることから、一定の範囲において、消費者や取引先が放射性物質による汚染の危険性を懸念し買い控え等を行うことも、平均的・一般的な人を基準として合理性があると考えられる。
2)農林漁業及び食品産業においては、本件事故以降これまでの取引価格及び取引数量の動向、具体的な買い控えの事例等に関する調査の結果、多くの品目及び地域において買い控え等による被害が生じていることが確認された。このうち、一部の対象品目につき暫定基準値を超える放射性物質が検出されたため政府等による出荷制限指示があった区域については、その対象品目に限らず同区域内で生育した同一の類型(農林産物、畜産物、水産物等)の農林水産物につき、同指示等の解除後一定期間を含め、消費者や取引先が放射性物質の付着及びこれによる内部被曝等を懸念し、取引等を敬遠するという心情に至ったとしても、平均的・一般的な人を基準として合理性があると認められる。同指示等があった区域以外でも、一定の地域については、その地理的特徴(特に本件事故発生地との距離、同指示等があった区域との地理的関係)、その産品の流通実態(特に産地表示)等から、同様の心情に至ったとしてもやむを得ない場合があると認められる。
3)また、平成23年7月8日以降、牛肉やその生産に用いられた稲わらから暫定規制値等を超える放射性物質が検出され、これを契機に牛肉について多くの地域において買い控え等による被害が生じていることが確認された。この場合、放射性物質により汚染された稲わら等(具体的には、暫定許容値を超える放射性物質が検出されたもの)が牛の飼養に用いられた等の事情がある都道府県で産出された牛肉については、消費者や取引先がその汚染の危険性を懸念し買い控え等を行うことも、平均的・一般的な人を基準として合理性があると考えられる。なお、Ⅰ)②では、このような都道府県として17の道県を挙げているが、これは、平成23年7月29日までに報告された当該稲わら等の流通・使用状況、当該道県産の牛肉の取引価格の動向等によるものであり、これ以外の都道府県について、Ⅰ)②に挙げられた道県と同様の状況であることが確認された場合は、これらの道県と同様に扱われるべきである。
4)農林水産物の加工業及び食品製造業では、消費者や取引先が懸念する農林水産物を主な原材料とする食品等の加工品(当該農林水産物の原材料に占める重量の割合が概ね50%以上であることを目安とする。)について、消費者や取引先が同様の懸念を有するとしても、合理性があると認められる。この他、その主たる事務所や工場の所在地、原料として使用する水を原因として、消費者や取引先が取引等を敬遠する心情に至ったとしても合理性がある場合が認められる。
5)農林水産物・食品の流通業では、風評被害に係る産品等を継続的に取り扱っていた事業者に生じた既に仕入れた当該産品等に係る被害については、買い控え等による被害を回避することが困難である点で、農林漁業者や加工業者・食品製造業者に生じた風評被害と同様と認められる。
6)なお、風評被害に係る産品等の仕入れができなかったことにより加工・流通業者に生じた損害については、後記第8のいわゆる間接被害として賠償の対象となるかどうかが判断される。
7)Ⅱ)の趣旨は、出荷、操業、作付け、加工等には費用がかかることから、買い控え等による被害を回避し又は軽減するため、事前に自らこれらの全部又は一部を断念することが合理的と考えられる場合に、賠償の対象と認めるものである。
8)Ⅲ)によって賠償の対象となる検査費用には、例えば、政府の指導によって水道水の放射性物質の検査を行っている都県において、食品の製造の過程で使用する水について、取引先からの要求等によって検査を行った場合の費用が含まれる。
9)Ⅳ)は、Ⅰ)からⅢ)までに該当しない被害について、1Ⅲ)②の類型として個別に検証する場合、相当因果関係を判断するに当たって考慮すべき事項を示すものである。

3 観光業の風評被害
(指針)
Ⅰ)観光業については、本件事故以降、全国的に減収傾向が見られるところ、本件事故以降、現実に生じた被害のうち、少なくとも本件事故発生県である福島県のほか、茨城県、栃木県及び群馬県に営業の拠点がある観光業については、消費者等が本件事故及びその後の放射性物質の放出を理由に解約・予約控え等をする心理が、平均的・一般的な人を基準として合理性を有していると認められる蓋然性が高いことから、本件事故後に観光業に関する解約・予約控え等による減収等が生じていた事実が認められれば、1Ⅲ)①の類型として、原則として本件事故と相当因果関係のある損害と認められる。
Ⅱ)Ⅰ)に加えて、外国人観光客に関しては、我が国に営業の拠点がある観光業について、本件事故の前に予約が既に入っていた場合であって、少なくとも平成23年5月末までに通常の解約率を上回る解約が行われたことにより発生した減収等については、1Ⅲ)①の類型として、原則として本件事故と相当因果関係のある損害として認められる。
Ⅲ)但し、観光業における減収等については、東日本大震災による影響の蓋然性も相当程度認められるから、損害の有無の認定及び損害額の算定に当たってはその点についての検討も必要である。この検討に当たっては、例えば、本件事故による影響が比較的少ない地域における観光業の解約・予約控え等の状況と比較するなどして、合理的な範囲で損害の有無及び損害額につき推認をすることが考えられる。
(備考)
1)いわゆる「観光業」については、
① ホテル、旅館、旅行業等の宿泊関連産業から、レジャー施設、旅客船等の観光産業やバス、タクシー等の交通産業、文化・社会教育施設、観光地での飲食業や小売業等までも含み得るが、これらの業種に関して観光客が売上に寄与している程度は様々である
② 風評被害は、旅行の態様や地域によって程度の差があり、売上に影響している程度は様々であることを風評被害の検討に当たり考慮する必要があるが、本件事故以降これまでの旅行者数の動向、宿泊のキャンセル事例等に関する調査の結果、福島県を含む一定の地域を中心に解約・予約控え等による被害が生じていることが確認された。
 観光業の特性として、観光客が地域に足を運ぶことを前提とすることから、上記調査や旅行意識に係る調査等を踏まえると、本件事故発生県である福島県のほか、茨城県、栃木県及び群馬県において、放射性物質による被曝を懸念し、観光を敬遠するという心情に至ったとしても、原則として平均的・一般的な人を基準として合理性があると認められる。また、ひとたび風評被害が生じると当該地域の観光業全体に影響を与える傾向が認められるため、観光客が来ないことによる影響は当該地域の観光業全体に対し、様々な影響を与え得ると認められる。
2)さらに、これまでの調査の結果、本件事故以降外国人観光客の訪日キャンセルによる被害が生じていることが確認された。外国人観光客については、本件事故発生直後から、国際機関等において、本邦が渡航先として安全であるとの情報が提供されてきた一方で、一般に海外に在住する外国人には日本人との間に情報の格差があること、渡航自粛勧告等の措置を講じた国もあることから、少なくとも本件事故当時に既に予約が成立しており、しかも本件事故発生からまだ間がない一定の期間内においてキャンセルがされたものについては、外国人観光客が訪日を控えるという心情に至ることには平均的・一般的な人を基準として合理性があると認められる。その一定の期間については、各国の渡航自粛勧告等がある程度緩和されたと認められる平成23年5月末までとすることが合理的と考えられる。なお、観光業におけるキャンセルは通常の場合でも一定程度生ずることは不可避と思われることから、通常の解約率を上回る解約が行われた部分についてのみ、原則として本件事故との相当因果関係が認められる。
3)観光業における風評被害については、1)①及び②のとおり様々な事情が影響していることから、損害の判断に当たっては、個別具体的に判断せざるを得ない。特に、観光業は、特定の地域等において営まれている形態であり、地域ごとの事情も様々である。それゆえ、観光業における風評被害については、上記のとおり、1Ⅲ)①に該当する類型を定めることとするが、これらの類型に属さないものであっても、観光業者における個別具体的な事情にかんがみ、現実に生じた解約・予約控え等による被害について、地域等を問わず個別に、本件事故により放射性物質による汚染の危険性を懸念し、敬遠したくなる心理が、平均的・一般的な人を基準として合理性を有していると認められる場合には、本件事故との相当因果関係が認められる。例えば、Ⅰ)の地域以外に営業の拠点がある観光業であっても、福島県との地理的近接性や当該観光業の活用する観光資源の特徴等の個別具体的な事情によっては、本件事故を理由とする解約・予約控え等による減収等が生じていた事実が認められれば、本件事故と相当因果関係のある損害として認められ得る。

4 製造業、サービス業等の風評被害
(指針)
Ⅰ)前記2及び3に掲げるもののほか、製造業、サービス業等において、本件事故以降に現実に生じた買い控え、取引停止等による被害のうち、以下に掲げる損害については、1Ⅲ)①の類型として、原則として本件事故との相当因果関係が認められる。
①本件事故発生県である福島県に所在する拠点で製造、販売を行う物品又は提供するサービス等に関し、当該拠点において発生したもの
②サービス等を提供する事業者が来訪を拒否することによって発生した、本件事故発生県である福島県に所在する拠点における当該サービス等に係るもの
③ 放射性物質が検出された上下水処理等副次産物の取扱いに関する政府による指導等につき、
i)指導等を受けた対象事業者が、当該副次産物の引き取りを忌避されたこと等によって発生したもの
)当該副次産物を原材料として製品を製造していた事業者の当該製品に係るもの
④ 水の放射性物質検査の指導を行っている都県において、事業者が本件事故以降に取引先の要求等によって実施を余儀なくされた検査に係るもの(但し、水を製造の過程で使用するもののうち、食品添加物、医薬品、医療機器等、人の体内に取り入れられるなどすることから、消費者及び取引先が特に敏感に敬遠する傾向がある製品に関する検査費用に限る。)
Ⅱ)なお、海外に在住する外国人が来訪して提供する又は提供を受けるサービス等に関しては、我が国に存在する拠点において発生した被害(外国船舶が我が国の港湾への寄港又は福島県沖の航行を拒否したことによって、我が国の事業者に生じたものを含む。)のうち、本件事故の前に既に契約がなされた場合であって、少なくとも平成23年5月末までに解約が行われたこと(寄港又は航行が拒否されたことを含む。)により発生した減収分及び追加的費用については、1Ⅲ)①の類型として、原則として本件事故と相当因果関係のある損害として認められる。
Ⅲ)但し、Ⅰ)及びⅡ)の検討に当たっては、例えば、サービス等を提供する事業者が福島県への来訪を拒否することによって発生する損害については、東日本大震災による影響の蓋然性も相当程度認められるから、損害の有無の認定及び損害額の算定に当たってはその点についての検討も必要である。
(備考)
1)製造業、サービス業等においては、これまでの具体的な買い控えの事例等に関する調査の結果、福島県で製造されたり提供されたりする物品やサービス等に関する被害や、サービス等を提供する事業者が福島県への来訪を拒否することによる被害が確認された。本件事故の状況にかんがみれば、消費者や取引先が放射性物質による汚染の危険性を懸念し、これら福島県で製造されたり提供されたりする物品やサービス等につき、買い控え等を行うことや、福島県への来訪を拒否することも、平均的・一般的な人を基準として合理性があると考えられる。また、外国人の来訪については、前記3の(備考)の2)に同じである。
2)一方で、製造業、サービス業等においてはいわゆる下請取引が見られるが、福島県に下請事業者が所在することを専らの理由として、親事業者が下請事業者の納入した商品の受領を拒むこと又は一旦商品を受領した後にその商品を引き取らせることは、下請代金支払遅延等防止法に違反するおそれがあることや、平成23年4月22日の経済産業大臣による下請中小企業との取引に関する配慮の要請等が出されていることに留意する必要がある。
3)Ⅱ)の「外国船舶が我が国の港湾への寄港を拒否したこと」には、外国船舶が我が国のある港湾への寄港を拒否して我が国の別の港湾に寄港したことが含まれる。

5 輸出に係る風評被害
(指針)
Ⅰ)我が国の輸出品並びにその輸送に用いられる船舶及びコンテナ等について、本件事故以降に輸出先国の要求(同国政府の輸入規制及び同国の取引先からの要求を含む。)によって現実に生じた必要かつ合理的な範囲の検査費用(検査に伴い生じた除染、廃棄等の付随費用を含む。以下(備考)の3)において同じ。)や各種証明書発行費用等は、当面の間、1Ⅲ)①の類型として、原則として本件事故との相当因果関係が認められる。
Ⅱ)我が国の輸出品について、本件事故以降に輸出先国の輸入拒否(同国政府の輸入規制及び同国の取引先の輸入拒否を含む。)がされた時点において、既に当該輸出先国向けに輸出され又は生産・製造されたもの(生産・製造途中のものを含む。)に限り、当該輸入拒否によって現実に廃棄、転売又は生産・製造の断念を余儀なくされたため生じた減収分及び必要かつ合理的な範囲の追加的費用は、1Ⅲ)①の類型として、原則として本件事故との相当因果関係が認められる。
(備考)
1)本件事故以降、我が国の輸出に関し生じている被害は、外国政府の輸入規制が介在する場合を含めて一般的には、外国人が我が国の輸出品について放射性物質による汚染を懸念し、これを敬遠することによって生じているものと言え、いわゆる風評被害の一類型と考えることができる。
2)輸出に係る被害についても、風評被害が平均的・一般的な人を基準に判断の合理性を問題にする以上、日本人の消費者又は取引先を想定した場合と同じ範囲で「風評被害」を認めることを基本として考えることが適当である。しかしながら、一般に海外に在住する外国人には日本人との間に情報の格差があること、外国政府の輸入規制など国内取引とは異なる事情があること等から、輸出に係る被害については、一定の損害項目や時期に限定して、国内取引よりは広く賠償の対象と認めることが適当である。
3)海外に在住する外国人と日本人との間の情報の格差や、輸入拒否による損害の発生を回避する必要性等にかんがみれば、我が国からの輸出品等について、検査や産地証明書等の各種証明書を求める心理は一般的には合理性を有していると認められる。したがって、本件事故が収束していない現状においては、当面の間、我が国からの輸出品全般についてそのような検査費用や各種証明書発行費用等は、原則として賠償すべき損害と認められる。
4)一方、情報の格差等があるからといって、検査や各種証明書の発行等を要求するにとどまらず、広く我が国からの輸出品全般について輸入を拒否する心理についてまで、一般的に合理性を認めることは困難である。また、輸入拒否を受けた我が国の事業者においても、一般的には、別の国又は国内において販売するなど被害を回避又は減少させる措置を執ることを期待し得る。したがって、輸入拒否については、基本的に、日本人の消費者又は取引先を想定した場合と同じ範囲でのみ原則として本件事故と相当因果関係のある「風評被害」と認められる。但し、被害を受けた我が国の事業者において、当該輸入先国による輸入拒否がされる以前に既に輸出し、又は当該国に対する輸出用に既に生産・製造をし、若しくは生産・製造を開始していた輸出品については、当該輸入拒否による損害を回避することは困難であることから、この場合の損害に限って原則として相当因果関係のある「風評被害」と認めることが適当である。また、その場合であっても、上述のとおり、我が国の事業者においても損害回避措置が期待されるところから、例えば輸入拒否を知り得て輸出した場合に生じた被害は損害として認められない。
5)Ⅱ)の「当該輸出先国向けに生産・製造されたもの(生産・製造途中のものを含む。)」とは、当該輸出品の種類、品質、規格、包装、生産・製造方法等を特に当該輸出先国向けとしていることから、当該国以外への転売が困難であるか又は転売すれば減収や追加的費用が生じるものを意味するものとする。


第8 いわゆる間接被害について
(指針)
Ⅰ)この中間指針で「間接被害」とは、本件事故により前記第3ないし第7で賠償の対象と認められる損害(以下「第一次被害」という。)が生じたことにより、第一次被害を受けた者(以下「第一次被害者」という。)と一定の経済的関係にあった第三者に生じた被害を意味するものとする。
Ⅱ)「間接被害」については、間接被害を受けた者(以下「間接被害者」という。)の事業等の性格上、第一次被害者との取引に代替性がない場合には、本件事故と相当因果関係のある損害と認められる。その具体的な類型としては、例えば次のようなものが挙げられる。
① 事業の性質上、販売先が地域的に限られている事業者の被害であって、販売先である第一次被害者の避難、事業休止等に伴って必然的に生じたもの。
② 事業の性質上、調達先が地域的に限られている事業者の被害であって、調達先である第一次被害者の避難、事業休止等に伴って必然的に生じたもの。
③ 原材料やサービスの性質上、その調達先が限られている事業者の被害であって、調達先である第一次被害者の避難、事業休止等に伴って必然的に生じたもの。
Ⅲ)損害項目としては、次のものとする。
① 営業損害
第一次被害が生じたために間接被害者において生じた減収分及び必要かつ合理的な範囲の追加的費用
② 就労不能等に伴う損害
①の営業損害により、事業者である間接被害者の経営が悪化したため、そこで勤務していた勤労者が就労不能等を余儀なくされた場合の給与等の減収分及び必要かつ合理的な範囲の追加的費用
(備考)
1)Ⅱ)に例として挙げた類型以外にも、本件事故によって生じた被害を個別に検証し、間接被害者の事業等の性格上、第一次被害者との取引に代替性がない場合には、本件事故との相当因果関係が認められる。例えば、第一次被害者との取引が法令により義務付けられている間接被害者において、一次被害者との取引に伴って必然的に生じた被害についても、相当因果関係が認められる。
2)Ⅱ)の③については、事業者には、一般に、取引におけるリスクを分散する取組みをあらかじめ講じておくことが期待されるため、「原材料やサービスの性質上、その調達先が限られている」場合とは、そのような事前のリスク分散が不可能又は著しく困難な場合、例えば、ある製品に不可欠な原材料が特殊な製法等を用いて第一次被害者で生産されているため、同種の原材料を他の事業者から調達することが不可能又は著しく困難な場合などが考えられる。この場合でも、一定の時間が経過すれば、材料・サービスの変更をするなどして、被害の回復を図ることが可能であると考えられるため、賠償対象となるべき期間には限度があると考えられる。
3)なお、必ずしもⅠ)で定義する間接被害には当たらないが、第三者が、本来は第一次被害者又は加害者が負担すべき費用を代わって負担した場合は、賠償の対象となる。


第9 放射線被曝による損害について
(指針)
 本件事故の復旧作業等に従事した原子力発電所作業員、自衛官、消防隊員、警察官又は住民その他の者が、本件事故に係る放射線被曝による急性又は晩発性の放射線障害により、傷害を負い、治療を要する程度に健康状態が悪化し、疾病にかかり、あるいは死亡したことにより生じた逸失利益、治療費、薬代、精神的損害等は賠償すべき損害と認められる。
(備考)
1)ここで示した「生命・身体的損害を伴う精神的損害」の額は、前記第3の6の場合とは異なり、生命・身体の損害の程度等に従って個別に算定されるべきである。
2)放射線被曝による生命・身体的損害については、晩発性の放射線障害も考えられるが、本件事故に係る放射線に曝露したことが原因であれば、これも賠償すべき損害と認められる。


第10 その他
1 被害者への各種給付金等と損害賠償金との調整について
(指針)
 本件事故により原子力損害を被った者が、同時に本件事故に起因して損害と同質性がある利益を受けたと認められる場合には、その利益の額を損害額から控除すべきである。
(備考)
1)一般の不法行為法上、被害者が不法行為によって損害を被ると同時に、同一の原因によって利益を受けた場合には、損害と利益との間に同質性がある限り、その利益の額を加害者が賠償すべき損害額から控除すること(損益相殺の法理)が認められている。
2)具体的にどのような利益が損害額から控除されるべきかについては、個々の利益毎に損害との同質性の有無を判断していくほかないが、少なくとも、以下のものについては、それぞれに掲げた損害額から控除されるべきであると考えられる。なお、この際、同質性のある利益を損害賠償金から控除することができるのは、既に被害者に支払われた、あるいはそれと同視し得る程度に支払われることが確実である利益に限られ、将来受けるであろう利益の額まで控除することはできない。
① 労働者災害補償保険法及び厚生年金保険法に基づく各種保険給付(前者については、附帯事業として支給される特別支給金を除く。)並びに国民年金法に基づく各種給付(死亡一時金を除く。)
同質性の認められる損害に限り、各種逸失利益の金額から控除する。
② 国家公務員災害補償法及び地方公務員災害補償法に基づく各種補償金並びに国家公務員共済組合法及び地方公務員等共済組合法に基づく各種長期給付
 同質性の認められる損害に限り、各種逸失利益の金額から控除する。
3)また、以下のものについては、損益相殺の対象となるものではないが、それぞれに掲げた損害額から控除されるべきであると考えられる。
③ 地方公共団体から被害者に支払われた宿泊費又は賃貸住宅の家賃に関する補助
避難費用の金額から控除する。
④ 賃金の支払の確保等に関する法律に基づき立替払がなされた未払賃金
就労不能等に伴う損害の金額から控除する。
⑤ 損害保険金
財物価値の喪失又は減少等の金額から控除する。
4)他方、少なくとも、以下のものについては、損害額から控除されるべきではないと考えられる。
⑥ 生命保険金
⑦ 労働者災害補償保険法に基づき附帯事業として支給される特別支給金
⑧ 国民年金法に基づく死亡一時金
⑨ 雇用保険法に基づく失業等給付
⑩ 災害弔慰金の支給等に関する法律に基づく災害弔慰金及び災害障害見舞金(損害を塡補する目的である部分を除く。)
⑪ 各種義援金
5)なお、被害者が、東京電力株式会社に対する損害賠償請求と各種給付金等の請求のいずれをも行うことができる場合には、当該被害者はいずれの請求を先に行うことも可能である。

2 地方公共団体等の財産的損害等
(指針)
 地方公共団体又は国(以下「地方公共団体等」という。)が所有する財物及び地方公共団体等が民間事業者と同様の立場で行う事業に関する損害については、この中間指針で示された事業者等に関する基準に照らし、本件事故と相当因果関係が認められる限り、賠償の対象となるとともに、地方公共団体等が被害者支援等のために、加害者が負担すべき費用を代わって負担した場合も、賠償の対象となる。
(備考)
1)地方公共団体等が被った損害のうち、地方公共団体等が所有する財物の価値の喪失又は減少等に関する損害及び地方公共団体等が民間事業者と同様の立場で行う事業(水道事業、下水道事業、病院事業等の地方公共団体等の経営する企業及び収益事業等)に関する損害については、個人又は私企業が被った損害と別異に解する理由が認められないことから、この中間指針で示された事業者等に関する基準に照らして、賠償すべき損害の範囲が判断されることとなる。加えて、地方公共団体等が被害者支援等のために、加害者が負担すべき費用を代わって負担した場合も、前記第8の(備考)3)で述べたことと同様に、賠償の対象となる。なお、地方公共団体等が被ったそれ以外の損害についても、個別具体的な事情に応じて賠償すべき損害と認められることがあり得る。
2)他方、本件事故に起因する地方公共団体等の税収の減少については、法律・条例に基づいて権力的に賦課、徴収されるという公法的な特殊性がある上、いわば税収に関する期待権が損なわれたにとどまることから、地方公共団体等が所有する財物及び地方公共団体等が民間事業者と同様の立場で行う事業に関する損害等と同視することはできない。これに加え、地方公共団体等が現に有する租税債権は本件事故により直接消滅することはなく、租税債務者である住民や事業者等が本件事故による損害賠償金を受け取れば原則としてそこに担税力が発生すること等にもかんがみれば、特段の事情がある場合を除き、賠償すべき損害とは認められない。
(以上)


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2011-08-06 : ・指針 : コメント : 0 : トラックバック : 0
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原子力損害賠償法について検討してみます。(リンクはご自由に)
なお、引用部分以外は私(一応法律家)の意見ですので、判例・学説・実務等で確定したものではありません。他の考えでも裁判等で争い認められる余地があります。

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