東日本大震災以降,原子力損害賠償法に興味あり,同法と東京電力の責任についても検討してみたい。

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■2条「原子力損害」の意味・範囲 「自主」避難者の問題 その1

■2条「原子力損害」の意味・範囲 「自主」避難者の問題 その1


〔自主避難問題〕
 避難等指定区域外に居住する人が,原発事故,放射能汚染を危惧して,そこから離れた場所に避難している場合,その人々の被った損害がとうなるのかという問題。
「損害」としては,区域内の避難者と同様に,精神的損害(恐怖,生活の不便等),財産的損害(生活費の増大,休職・失職による損害等)がある。
 これら損害の発生について,原発事故との事実的因果関係は,当然,肯定される。
 問題は,相当因果関係で,これをどのように認定していくのか。

 これは難しい問題で,判断としては,以下の立場があって,原子力損害賠償紛争審査会は,「原子力損害」の範囲の判定の指針(原賠法18条2項2号)を定めようとするものであるから,法律的判断として,どうなるのかということだろう。

-------------------
1 科学的知見(科学者)
2 政策的判断(立法、行政)
3 法律的判断(司法)

・科学的知見については、科学の問題なので、ある程度の予想・仮定はできるとしても、今のところ分からないという結論がありうる。政策的判断、法律的判断については、わからないので今は判断しないということはできない。

・科学的知見については、政策や法律は無関係。

・政策的判断、法律的判断については、基礎として、その時点で判明している確定的な科学的知見が置かれる。

・政策的判断は、立法権がある以上、既存の法律に拘束された判断でなくなてもよい。ただし、憲法には拘束される。また、行政は一定の裁量があるが、法律に拘束される。

・法律的判断は、当然、既存の法律に拘束される。ただし、規範的要素について、政策的判断をせまられることがある。その場合でも法の趣旨には拘束される。
-------------------


 紛争審査会の議論をみていると,この問題も結局,相当因果関係の枠組みで,しかも,風評被害でとったのと同様の理屈を用いて,判断するかのようである。
 つまり,その避難判断,回避行動が,一般通常人を基準に合理的と認められるか否かで決するということになる。

 この点,風評被害の場合と違うのは,判断者が,被害者自身ということである。農作物の風評被害については,その回避行動の判断は第三者である消費者がするものだから,その点は違っていて,風評被害で第三者の消費者の判断の合理性を問題とする場合よりも,法律論としては,素直ともいえる。
 問題は,この合理性をどのように判断するかということになるが,これには風評被害について述べたことと同じ問題がある。
 客観的に汚染が無いのに,疑心暗鬼になって汚染があると思いこんで,回避行動に出た場合なら,個人の主観的な思いこみであって,一般通常人を基準とした合理的判断ではないと言えるかもしれない。
 しかし,現実に放射性物質が飛散して,汚染がある場合で,しかも,その危険性の認識の程度や,それに対する対処方法や受忍限度について社会的コンセンサスが確立しているわけでもないとき,何が一般通常人にとって合理的といえるのかが判然としない。
 かといって,一応の法律的判断の担当者が,科学論争や政策的判断まで,全部引き受けなければならないということはないので,本来なら紛争審査会としては,科学的基準が確立するか,立法等による基準策定を待つということになろうが,それが無い場合で,急がないといけない場合は,仕方ないので,なんらかの基準で判断せざるを得ない。


〔手かがり〕
1 距離
 これから爆発が起きるとか,放射性物質が飛散するとか,あるいは事故後でも放射性物質の飛散の分布・線量が判明していないような場合は,汚染のあり方が分からないので,原発からの距離で,危険性は漸減すると考えてよいはずである。
2 汚染度
 これに対して,既に飛散してしまった放射性物質による被ばくの危険を問題とする場合は,距離ではなくて,現実の汚染度が問題となるはずである。
 汚染度については,
(1)ICRP基準(一般公衆)
  平常時 1mSv/年
  緊急時 20~100mSv/年
  放射線源の制御後 1~20mSv/年
(2)電離放射線障害防止規則(職業被ばく)
 (管理区域)
  1.3mSv/3月(規則3条1項)
 (放射線業務従事者の限度) 
  原則 50mSv/年 かつ 100mSv/5年(規則4条1項)
  妊娠可能性ある女性 5mSv/3月(規則4条2項)
  妊婦 妊娠診断から出産までの期間で1~2mSv(規則6条)
3 避難者の類型
  子供,妊婦,妊娠可能性ある女性,高齢者など,同じ汚染度でも,影響の度合いが違う場合は,その避難判断の合理性に差があってもおかしくない。上の電離則でも,妊婦等で区別されている。


〔判断のあり方〕
 上の,ICRPや電離規則での判断は,いうまでもなく,大規模な避難による社会的損失だとか,避難者となることによって生じる健康被害だとか,放射線業務の遂行上の支障だとか,便益も勘案した上での,政策的な基準である。
 しかし,自主避難者問題で検討すべきは,避難する個人の判断の合理性の問題である。政策的判断として,全体としては不合理でも,個人としては合理的行動というものはあり得る。コミュニティーの崩壊とか社会的損失を防ぐためなら,自分や自分の子が犠牲になる可能性を多少負っても,それでもよいというのは,危険についての個人の判断の合理性とは関係がない。社会的損失が大きいから,その判断が合理的ではないというのは,その政策的判断をした為政者からは言えるが,それによって危険の側に立たされる個人から見れば,合理的と言えない場合がある。もともと,危険かどうか判然としない場合は,それに近寄らないというのが,個人としては,当然の合理的判断であるとさえ言える。

 ものを考える際に,リスクと便益との比較衡量による判断というものがある。そのリスクも便益も同一の主体,構成員全員に平等に及ぶ場合は,問題が少なかろうが,リスクがある少数者に偏る場合は,その個人としては,そのような判断には全く納得がいかない,きわめて不合理な判断という他ない。
 ここを混同すると,「危険と社会的便益についての政策的判断=個人の危険性についての合理的判断」ということになり,たとえば単純にICRPに従い20mSv/年未満での,指定等区域外の者の避難行動は,主観的で不合理なものであって,賠償の対象とならないということになろう。

 また,政府による避難等の指定と,賠償範囲も,理屈の上では,無関係である。避難等の指定は,政府による住民らの安全と避難による損失を勘案した上での政策的判断であり,賠償範囲は,その避難が個人として合理的な判断といえるのかという問題だからである。したがって,一定範囲の自主避難者に賠償の余地を認めたからといって,その範囲が避難等指定区域と同様に扱いになるものではないし,当然に避難を強いられるというものでもない。


 結局,賠償範囲を画する法律的判断としては,個人の判断の合理性が問題とされるべきであって,一般通常人ならどの程度で危険を感じて,避難行動に出るのが無理もないといえるのかという点が問題となるはずである。
 
 そこで,もとの自然放射線とほとんど異ならない,あるいは,年1mSv/年未満である地域とそうでない地域と分ける。そして,放射能汚染の危険というものは,汚染の程度や,被ばくする主体の類型によって相違があるだろうから,年1mSv/年を超える地域については,一応相当因果関係を認めた上で,居住地域の汚染度と,主体の類型で分けて,その組み合わせで,危険性の大小を判断し,危険性が高い方が当然に避難判断の合理性が高いものと考えられるので,大から小へ,賠償額ないし賠償率を漸減させるというほかないのではないか。
 そもそも,避難区域等に指定されるか否かで,ほんの数十メートルの差で,その避難が合理的か否かが決まってくるというものではなかろう。危険の程度の増加度合いによって,危険性判断についての合理性の程度も増すというものだろう。
 ただし,因果関係は本来あるか無いかの判断だから,それだけで賠償額や賠償率の差を導くことはできないので,被害者側の素因等の場合と同様に,損害の公平な分担の見地から,汚染度,人の類型等での危険の程度によって,賠償額の漸増,漸減を導くという手があるかもしれない。あるいは精神的損害については,避難時点での汚染度や人の類型からその危険度が高い方が,避難に際して精神的苦痛も大きいと考え,それを賠償額の算定において,考慮するということになろうか。

 もっとも,このように判断・処理するには,各地域の汚染度についての調査が行われる必要がある上に,避難者の類型についての決定や,避難しなかった者との公平の問題など,いくつも問題があろうから,実際には,一定線量以下では,一律にその避難は不合理と判断されるかもしれない。ただ,避難した者と,避難しなかった者との公平については,そもそも避難した者は,避難による損害を被っている前提なので,賠償によってその損害の填補がなされたにすぎず,公平を失しているということはできないだろう。


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2011-08-03 : ・「自主」避難者の問題 : コメント : 0 : トラックバック : 0
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原子力損害賠償法について検討してみます。(リンクはご自由に)
なお、引用部分以外は私(一応法律家)の意見ですので、判例・学説・実務等で確定したものではありません。他の考えでも裁判等で争い認められる余地があります。

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