東日本大震災以降,原子力損害賠償法に興味あり,同法と東京電力の責任についても検討してみたい。

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■3条1項但書の「その損害が異常に巨大な天災地変又は社会的動乱によつて生じたものであるとき」とは その12 立法技術

■3条1項但書の「その損害が異常に巨大な天災地変又は社会的動乱によつて生じたものであるとき」とは その12 立法技術


〔立法時の考え方〕
 原賠法成立以前の昭和34年のジュリストに,立法にも携わった加藤一郎教授の以下のような論文がある。

・加藤一郎「原子力災害補償立法上の問題点」(ジュリスト190号15頁)
「(2)免責事由
無過失責任を採用した場合には、免責事由をどの範囲まで認めるかが問題になり、それによって、無過失責任の幅が左右されることになる。
 一般理論からすれば、不可抗力が一般的な免責事由になる。不可抗力としては、戦闘行為(たとえば爆撃)地震、風水害などが考えられるが、その内容は必ずしも明確でない。地震の例をとれば、第一に、一般に起りうる程度の地震で原子炉が破壊されたとすれば、それは不可抗力ではなく、はじめからの設計や管理に瑕疵があったことになり、現行法の下でも責任が生じうるであろう。その場合に、どの程度の地震が一般に起りうるものと考えてよいかという基準の問題が起るが、原子炉では、ひとたび事故が起れば大災害の生ずるおそれがあるから、少なくともわが国でわれわれの経験した最大の地震にも堪えうるようになっていなければいけないし、さらに、それに相当の余裕を見て科学的に予想しうる最大の地震にも堪えうるようにしておくべきであろう。このように同じく不可抗力といっても、原子炉のように危険性が大きくなれば、その範囲を狭めて考えていくのが合理的だと思われる。第二に、それでも、われわれの予想をこえるような大地震が起きれば、それはいちおう不可抗力といわざるをえない。それも、そもそもそういう危険のある施設を作ったために被害が起ったのだから、設置者が責任を負うべきだという絶対的な無過失責任も立法論として考えられるが、因果関係の点からいえば、その場合には、施設の設置と損害の発生との間の因果関係が不可抗力によって中断されているとも見られるから、少なくとも一般理論からすれば責任を認めることは困難であろう
 そこで、免責事由についての立法のしかたとしては、次の四つが考えられる。
第一は、はっきり一切の免責を認めないという規定をおくこと(免責否定)で、そこまで重い責任を課することは問題だが、その責任を保険や国家補償でカバーすれば実質的には重くもなくなるので、それらとの関連でそういう方法をとることも考えられる(6)。ただ、そういう規定をおいても、特別の場合には免責を認めるという解釈が出ている可能性がないわけではない。
第二は、何も規定をおかず解釈にまかせること(免責放置)だが、この場合には、第三の方法として「不可抗力」を免責とする規定をおいた場合(不可抗力免責)と、解釈上は似た結論になり、ただ明文の規定があるときよりも不可抗力が狭く解される可能性があることになろう。第四には、「戦争、地震・・・」というように不可抗力を列挙すること(免責事由の列挙)だが、そうしても、地震の程度の問題が残り、「不可抗力としての地震」ということにならざるをえないし、最後に「その他の不可抗力」とう条項が入るとすれば列挙の意味は少なくなってくる。こうしてみると、免責事由の規定のしかたによってそれほど大きな違いは生じないようだが、考え方としては、それをできるだけ狭く限定すべきであろう。そして、実際には、免責を認めた場合に国家補償のような形で被害者保護をはかるかどうかの方が、それよりも大きな問題にとなる。
   (6)西ドイツの法案は、はじめ不可抗力を免責事由としていたが、のちにその規定を削っている。その場合にも理論的に免責が認められるという解釈も出てくるかもしれないが、法案の説明では、施設からの損害であれば因果関係があり責任が生じると考えているようである。それ以外の国では、スイスが戦闘行為、天災、被害者の過失、イギリスが戦闘行為、被害者の過失、アメリカが戦闘行為(あとは州法による)を免責事由としている。被害者の過失はドイツも認めているが、これは過失相殺の問題であって不可抗力とは性質を異にしている。」



この加藤教授の論述を参考にして考えると,

原賠法での不可抗力免責について,立法のあり方として

A 不可抗力免責は一切認めない。その旨を明文化する(免責否定)。
B 免責規定を設けず,解釈に委ねる(免責放置)。
C 「不可抗力」による免責を認めるとする(不可抗力免責)
D 「戦争、地震・・・」というように不可抗力を列挙(免責事由の列挙)制限列挙?
E 「戦争、地震・・・」というように不可抗力を列挙し,最後に「その他の不可抗力」と規定する。 例示列挙?

 しかし,A免責否定で,戦争の場合など強い不可抗力に起因する場合にも責任を負わせるというのは原子力事業者に酷すぎるし,免責否定の明文を置いても,やはり特別の場合は免責するという解釈が出てくる余地があって不都合。
 B免責放置で,解釈で決めるとすると,通常の不可抗力ではなく,特に強い不可抗力に限定しようとする趣旨が貫けない。
 CやEでの「不可抗力」という文言では,やはり解釈の幅がありすぎて,通常の不可抗力ではなく,特に強い不可抗力に限定しようとする趣旨が貫けない。
 かといって全免責事由の制限列挙は技術的に難しい。



・要するに,いかなる場合でも免責しないという立法主義は取らない。
・かといって,通常の不可抗力免責は,原発の危険性,被害の甚大性を考えると,あり得ない。
・単に解釈に委ねたのでは,その辺りの趣旨が曖昧になるので,はっきりさせたい。
・かといって不可抗力性の特に強い事由を,全部列挙することは難しい。




 そこで文言としては,当時のOEEC(OECD)のパリ条約?の文言「a grave natural disaster of an exceptional character」を参考とし、原子力災害補償専門部会の答申(昭和34年12月)では,

----------------------------
1.原子力損害賠償責任
(1)原子力事故による原子力損害については原子力事業者が無過失責任を負うものとし、きわめて特別の場合にのみ免責されるものとする。ただし、この特別の場合は通常「不可抗力」と呼ばれるもののすべてに及ぶのではなく、そのうちでもいわば不可抗力性の特に強いものに限るべきであるから、たとえば「異常かつ巨大な自然的または社会的災害」というなどこの内容を適確に表現する努力のなされることが望ましい
----------------------------

とされた。

 だいたいこういう流れで,この「異常に巨大な天災地変」という文言が決まったのではなかろうか。


 要するに,原賠法3条1項では,原子力事業者に絶対的な無過失責任を負わせることはしない。そういう意味では,3条1項但書は,原子力事業者の責任の軽減を図ったものともいえるが,そもそも絶対的な無過失責任は法論理的にも難しいので,当たり前のことを規定しただけともいえる。むしろ,これは,解釈で軽々に原子力事業者が免責されるのを特に防ぐという意味で,特に規定を設けて,土地工作物責任や営造物責任の場合の不可抗力免責(これもなかなか認められにくいものではあるが)よりも,もっと強い不可抗力が作用した場合に限定するという趣旨で,特に「異常に巨大な天災地変」と規定されたものということだろう。


 このように考えれば、原賠法施行の翌年昭和37年9月10日に発行された,科学技術庁原子力局監修「原子力損害賠償制度」(初版)44頁以下の、3条1項但書の趣旨に関する叙述も理解できる。

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(7)このただし書は、本文に規定する責任の範囲をとくに狭める趣旨のものではなく,当然のことを述べた注意的規定であるとともに,更には免責の範囲の拡大を防ごうとするものである。原子力事業者が責任を負うべき原子力損害は,その原子炉の運転等と因果関係があるものに限られることは当然である((3)参照)。従って,原子力損害が不可抗力によって生じたものであるときは,因果関係が中断して原子力事業者が免責されることは明らかである。しかしながら,原子力事業者が軽々に不抗力によるものと認定されることがあっては,この法律の意図する被害者の保護を充分におし進めることは不可能である。そこで,原子力事業者の無過失責任は,ここに掲げるような不可抗性のとくに強い特別の事由がある場合に限り,因果関係の中断により免除されるものとするのが,このただし書の趣旨である。
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 上の初版の「原子力損害賠償制度」の該当箇所を誰が執筆を担当したのかは不明であるが,その理解は,原賠法成立直前の下の加藤教授の国会答弁とも一致する。



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- 参 - 商工委員会 - 27号
昭和36年05月30日
○参考人(加藤一郎君) 加藤でございます。
第二の問題といたしまして、その場合の免責事由をどこまで認めるかということがございます。この法案では、三条一項ただし書きにおきまして、「異常に巨大な天災地変又は社会的動乱」というものを免責事由としてあげております。この点は、ともかく原子炉のように非常に大きな損害が起こる危険のある場合には、今までのところから予想し得るようなものは全部予想して、原子炉の設定その他の措置をしなければならない。従って、普通の、いわゆる不可抗力といわれるものについて、広く免責を認める必要はないわけであります。むしろ今まで予想されたものについては万全の措置を講じて、そこから生じた損害は全部賠償させるという態勢が必要であります。そこで、たとえばここでいう「巨大な天災地変」ということの解釈といたしましても、よくわが国では地震が問題になりますが、今まで出てきたわが国最大の地震にはもちろん耐え得るものでなければならない。さらにそれから、今後も、今までの最大限度を越えるような地震が起こることもあり得るわけですから、そこにさらに余裕を見まして、簡単に言いますと、関東大震災の二倍あるいは三倍程度のものには耐え得るような、そういう原子炉を作らなければならない。逆に言いますと、そこまでは免責事由にならないのでありまして、もう人間の想像を越えるような非常に大きな天災地変が起こった場合にだけ、初めて免責を認めるということになると思われます。そういう意味で、これが「異常に巨大な」という形容詞を使っているのは適当な限定方法ではないだろうかと思われます。これは、結局、保険ではカバーできないことになりますので、あとで出ます政府が十七条によって災害救助を行なうことになるわけであります。
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 結局,3条1項但書は、原発の特殊な危険性から、安易な免責はさせまいという意図を明示する趣旨を有するものであったものと思われ、知りうる過去の最大のものの2、3倍ではなく、過去にみられた程度の揺れの地震、波高の津波などの自然災害に、それに余裕をもって耐えるどころか、簡単に爆発にまで至っているような場合に、免責を認めようとするのは、やはり筋が悪いように思える。
「人間の想像を越えるような非常に大きな天災地変」でなければ、免責されないとするのでは、実際には免責の余地がほとんどなく、3条1項但書が規定された意味が無くなり、そのような解釈は法解釈として間違っているという主張もありうるが、そもそも、この但書は、特に、そのような場合に限って免責を定めたものであって、その他の免責を安易に認めさせないことにこそ意味がある規定であって、今回の事件で、裁判等で免責が否定されたならば、まさしく、50年前に、この但書が、わざわざ規定された意味が発揮された場面であったとさえ言えるかもしれない。とはいえ、世にはさまざな感覚をもった裁判官がいるので、裁判で争ってみなければ、わからないところがあり、また、このあたりは曖昧にしたまま政治的決着がなされ、終わってしまうかもしれない。



〔斟酌規定〕
 なお、無過失責任で、自然災害での不可抗力免責を認めず、そのかわり賠償額の認定において、裁判所が、それを斟酌できるとする立法方法もある。

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・大気汚染防止法
(賠償についてのしんしやく)
第二十五条の三  第二十五条第一項に規定する損害の発生に関して、天災その他の不可抗力が競合したときは、裁判所は、損害賠償の責任及び額を定めるについて、これをしんしやくすることができる。

・水質汚濁防止法
(賠償についてのしんしやく)
第二十条の二  第十九条第一項に規定する損害の発生に関して、天災その他の不可抗力が競合したときは、裁判所は、損害賠償の責任及び額を定めるについて、これをしんしやくすることができる。

・水洗炭業に関する法律
(賠償についてのしんしやく)
第十九条 第十六条第一項に規定する損害の発生に関して被害者の責に帰すべき事由があつたときは、裁判所は、損害賠償の責任及び範囲を定めるのについて、これをしんしやくすることができる。天災その他の不可抗力が競合したときも、同様とする。

・鉱業法
(賠償についてのしんしやく)
第百十三条 損害の発生に関して被害者の責に帰すべき事由があつたときは、裁判所は、損害賠償の責任及び範囲を定めるのについて、これをしんしやくすることができる。天災その他の不可抗力が競合したときも、同様とする。
--------------------------

 鉱業法や水洗炭業に関する法律は、原賠法よりも古い法律で、その斟酌規定は当初からあり、原賠法制定時においても、このような斟酌規定を置くことは、可能性としてはあり得たはずだが、原賠法では、このような行き方は採られていない。他国の制度の比較もあったろうが、原発事故が、上の各法津の予想する災害とは比べものにならないほどの甚大なものであること考えれば、当然だったのかもしれない。



〔類似の規定〕
 原賠法3条1項但書に似た免責規定として、以下のようなものがある。ただし、「異常な天災地変」とあるだけで、「異常に巨大な」との規定があるのは、やはり原賠法だけであり、これが我が国の全法大系の中で、最も狭い範囲での不可抗力免責を定めたものであり、1項本文は、あらゆる無過失責任のうち、最も厳格なものと言えよう。

------------------------------
・船舶油濁損害賠償保障法
(タンカー油濁損害賠償責任)
第三条
 タンカー油濁損害が生じたときは、当該タンカー油濁損害に係る油が積載されていたタンカーのタンカー所有者は、その損害を賠償する責めに任ずる。ただし、当該タンカー油濁損害が次の各号のいずれかに該当するときは、この限りでない。
一 戦争、内乱又は暴動により生じたこと。
二 異常な天災地変により生じたこと。
三 専ら当該タンカー所有者及びその使用する者以外の者の悪意により生じたこと。
四 専ら国又は公共団体の航路標識又は交通整理のための信号施設の管理の瑕疵により生じたこと。
<略>

(一般船舶油濁損害賠償責任)
第三十九条の二
 一般船舶油濁損害が生じたときは、当該一般船舶油濁損害に係る燃料油が積載されていた一般船舶の一般船舶所有者等は、連帯してその損害を賠償する責めに任ずる。ただし、当該一般船舶油濁損害が次の各号のいずれかに該当するときは、この限りでない。
一 戦争、内乱又は暴動により生じたこと。
二 異常な天災地変により生じたこと。
三 専ら当該一般船舶所有者等及びその使用する者以外の者の悪意により生じたこと。
四 専ら国又は公共団体の航路標識又は交通整理のための信号施設の管理の瑕疵により生じたこと。
2 第三条第二項及び第三項並びに第四条の規定は、一般船舶油濁損害の賠償について準用する。この場合において、第三条第二項中「タンカーに」とあるのは「一般船舶に」と、「油に」とあるのは「燃料油に」と、同項及び同条第三項中「タンカー所有者」とあるのは「一般船舶所有者等」と読み替えるものとする。

・海洋汚染等及び海上災害の防止に関する法律
(海上保安庁長官の措置に要した費用の負担)
第四十一条
 海上保安庁長官は、第三十九条第一項から第三項まで及び第五項並びに第四十条の規定により措置を講ずべき者がその措置を講ぜず、又はこれらの者が講ずる措置のみによつては海洋の汚染を防止することが困難であると認める場合において、排出された油、有害液体物質、廃棄物その他の物の除去、排出のおそれがある油若しくは有害液体物質の抜取り又は沈没し、若しくは乗り揚げた船舶の撤去その他の海洋の汚染を防止するため必要な措置を講じたときは、当該措置に要した費用で国土交通省令で定める範囲のものについて、国土交通省令で定めるところにより、当該排出された油、有害液体物質、廃棄物その他の物若しくは排出のおそれがある油若しくは有害液体物質が積載されていた船舶の船舶所有者、これらの物が管理されていた海洋施設等の設置者又は沈没し、若しくは乗り揚げた船舶の船舶所有者に負担させることができる。ただし、異常な天災地変その他の国土交通省令で定める事由により、当該油、有害液体物質、廃棄物その他の物が排出されたとき、当該油若しくは有害液体物質の排出のおそれが生じたとき又は船舶が沈没し、若しくは乗り揚げたときは、この限りでない。
<略>
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原子力損害賠償法について検討してみます。(リンクはご自由に)
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