東日本大震災以降,原子力損害賠償法に興味あり,同法と東京電力の責任についても検討してみたい。

スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。
-------- : スポンサー広告 :
Pagetop

■3条1項本文の賠償責任 その10 危険負担との関係

■3条1項本文の賠償責任 その10 危険負担との関係


〔売買契約等以外の場合〕

 避難地域等の原発事故被災地内で,他人の物を預かって修理や洗濯などをする商売をしている人が,放射能汚染等で預かった品物を客に返却できなくなったような場合どうなるのか。自動車やバイクの修理や,衣類のクリーニングなどが考えられる。これらの対象となる品物は,普通は,特定物なので,以下のような危険負担の問題となろう。

-----------------------------
民法
(債権者の危険負担)
第五百三十四条  特定物に関する物権の設定又は移転を双務契約の目的とした場合において、その物が債務者の責めに帰することができない事由によって滅失し、又は損傷したときは、その滅失又は損傷は、債権者の負担に帰する。
2  不特定物に関する契約については、第四百一条第二項の規定によりその物が確定した時から、前項の規定を適用する。

(債務者の危険負担等)
第五百三十六条  前二条に規定する場合を除き、当事者双方の責めに帰することができない事由によって債務を履行することができなくなったときは、債務者は、反対給付を受ける権利を有しない
2  債権者の責めに帰すべき事由によって債務を履行することができなくなったときは、債務者は、反対給付を受ける権利を失わない。この場合において、自己の債務を免れたことによって利益を得たときは、これを債権者に償還しなければならない。

------------------------------

以下,

店舗経営者A
物を預けた客B
加害者東電C
保険会社D

とする。

 なお,民法の危険負担の規定は任意規定であり,特約によって排除しうるので,原則として契約条項が優先する。ただし,消費者の利益を一方的に害するようなものは,消費者契約法10条により,無効とされる場合がある。


 まず,最初に挙げたような例だと,その契約は,おそらく請負と寄託の混合契約であり,物権の設定や移転を目的とするものではないので,民法534条1項ではなく,同法536条1項の問題となるはずある。

 つまり,「当事者双方の責めに帰することができない事由によって債務を履行することができなくなったときは、債務者は、反対給付を受ける権利を有しない」とされ,店舗経営者Aは,その品物について受寄者としての返還義務は履行不能で免れ,賠償義務も負わない。また,客Bは修理代やクリーニング代等の対価を店Aに支払う義務がなくなる。既に支払っている場合は,客Bは店Aに対して修理代やクリーニング代の返還請求ができる。
(※なお,修理や洗濯が終了しているのに,客Bが永らく品物を取りに来ない間に原発事故で被災してしまった場合は,当事者双方に責めに帰すべき事由がない場合とはいえず,「債務者は、反対給付を受ける権利を失わない」(民法536条2項本文)とされ,客Bとしては,修理代やクリーニング代の支払いを免れかれないかもしれない。この場合は物の時価が修理や洗濯で多少は上がっているだろうから,客Bは加害者Dへの損害賠償を請求する際に,その金額の算定時に考慮して請求するということになろう。)


 結局,原発事故による汚染で,

・店舗Aは,修理やクリーニングの代金を受け取ることができず,その分の営業損害を被ったことになり,

・客Bとしては,その品物の財物としての価値(原則として時価)分の損害を被ったことになる。

 そしてAやBは,こられ自己の被った損害を加害者東電Cに請求するということになる。


また店Aが,預かり物の汚損について,保険金を得ていたような場合には,客Bは,店Aに対して,その保険金について,代償請求権(民法536条2項但書類推)を有することになる場合がある。

 なお,保険会社Dが店Aに品物の汚損について保険金を支払っていたような場合には,民法422条類推,保険法25条等で,客Bから加害者Dへの賠償請求権は,B→A→Dと移転するはずである。





〔売買契約等の場合〕

 原発事故前に土地建物の売買契約を締結したが,その後,引き渡しを受ける前に,その物件が被災して,汚染で避難地域に入り、住めなくなった場合。

不動産売り主A
不動産買い主B
加害者東電C

 条文の文言からいえば,民法534条1項の債権者主義の適用によって,売り主は,その物件を汚染されたまま引き渡せば足り(民法483条),買い主は,代金全額を支払う義務があるということになるが,通常は,契約約款に,引き渡し時までは,売り主が危険を負担する旨の条項が入っているので,上の例では,買い主は売買代金の支払い義務を免れるということになる。また,このような契約約款がなくても,双務契約における対価的牽連関係から,当事者の合理的意思解釈などによって,債権者主義(民法534条1項)の適用が制限される。

 したがって,通常は,最終の代金の支払い,物件引き渡し,移転登記申請が同一決済日になされ,その日に所有権が移転し,そこまでは売り主(債務者)が危険を負担すると考えられる。

 放射性物質で土地建物が汚染されてしまい住むことができなくなると,売り主A側の物件の引き渡し義務が履行不能により消滅し,また買い主Bの代金支払義務も消滅する。Bが手付け等を支払っていた場合は,その返還をAに請求することができる。

 なお,普通は、契約約款によって,売り主Aに帰責性なくとも引き渡しまでに契約の目的が達成できないような場合には,買い主Bは契約解除できるとする規定があって,買い主からの解除により,双方がその債務から免れることになる。

 したがって,先の例では,売り主Aが,そのまま物件の所有者として,その財物の汚損や価値の低下等による損害を,加害者Cに請求することになる。



〔転売利益〕
 買い主Bが,その物件を手に入れて,転売することによって得られたであろう利益については,原発事故と相当因果関係が認められれば,Bの損害として認められる余地がある。
 ただし,契約当事者であるAB間の債務不履行に基づく損害賠償請求事案の場合ならまだしも,個々の取引の転売利益を問題とする限り、契約当事者でない第三者Cの故意ではない不法行為の場面では,かなり困難かも知れない。

 この問題については,事実行為による債権侵害のところで少し触れた。故意による不法行為のような場合でなければ,原則として無理ということだろう。

 事実行為による債権侵害の事案で,不法行為による賠償責任の成立を「故意」ある場合に限定するのは以下のようなものの考え方が基礎にあるのだろう。

 たとえば,AB間の売買契約時に,既に仕入れより高い額での転売先が決まっていたなど,最初から転売目的の購入で,値上がりが相当確実であったといえるような場合には,「損害」の立証はできるかもしれない。
 ただし,判例通説的理解だと,原発事故とBの転売利益分の損害との間に「相当因果関係」が必要とされる。
 そしてCが他人Aの物を壊した場合〔放射能で汚損した場合〕に,その物を購入しようとしていた人Bがたまたまいて,そのBに転売利益分の損害を与えるという結果は,一般にそうなるというものではなかろうから,通常損害とはいえないだろう。
 したがって,加害行為と相当因果関係のある損害といえるには,特別損害として,加害者側に,特別事情の予見可能性が必要となる。
 そして,先の例だと,放射性物質をまき散らした加害者Cにとっては,AB間の売買契約時に,仕入れより高い額での転売先が決まっており,値上がりが相当確実であったというような特別の事情など,普通は知りようもなく,特別事情の予見可能性は認められないはずである。
 そして例外的に,予見可能性がある場合としては,Cに故意があって,放射性物質をまき散らす前にAB間の事情等を充分に知っていたような場合であろう。
 結局,これは加害者Cが,故意で加害行為をなしたことが前提となろう。
〔ただし、原発事故で、人の住む町村について広大な避難等地域を作り出した場合、個々の取引の転売利益は予見不能であっても、当該地域内に不動産業者が存在し、他の商売をしている業者と同様に、その営業が不能になることによって減収等の損害を被ることは予見可能といえるだろうから、休業等による業者の減収分は営業損害として賠償の対象とはなるであろう。〕



 このように考えると,債権侵害による不法行為の成否問題も,より大きくみればこちらで述べた①直接の被害者の被った1つの損害を,最終的に加害者にどのように負担させるかという調整の問題と,②直接の被害者が被った損害とは別に,直接の被害者と一定の社会的関係にある主体自身に生じた固有の損害(支出を強いられたり,得られたはずの利益が得られなかったり)を,どこまで加害者に負担させるかという問題の一類型であり,上の転売利益の問題などは,後者②の間接被害者の固有損害に関する,特別事情の予見可能性問題の一類型といえよう。

 
 そして故意も過失も問題とならない原賠法で,この種の事案について,この「予見可能性」というものをどのように認定していくのかは,今のところ理論的にも,価値判断的にも,ちょっと予測困難としかいいようがない。
 そもそも原賠法の問題でなくとも,相当因果関係説において,特別損害に関する特別事情の「予見可能性」については,故意不法行為はまだしも,過失や無過失責任の場合に,それをどのように問題として,どのように認定していくのか,不明である。
 最近は,あまり勉強していないが,おそらく学説は,因果関係論について,そもそも保護範囲説(義務射程説),危険性関連説などが有力で,相当因果関係説を前提とする,故意のない不法行為についての「特別事情の予見可能性」の認定論など,そもそも擬制的に過ぎて余り論じていないのではないか。
 判列も,その認定について統一的に整理された何かメルクマールのようなものはなく,裁判における判断の予測可能性が乏しいところである。

 なお,過失による不法行為での特別事情の予見可能性については,こちらでも論じた。


関連記事
スポンサーサイト
2011-07-06 : ■3条1項本文の責任 : コメント : 0 : トラックバック : 0
Pagetop
コメントの投稿
非公開コメント

Pagetop
« next  ホーム  prev »

プロフィール

text2

Author:text2
原子力損害賠償法について検討してみます。(リンクはご自由に)
なお、引用部分以外は私(一応法律家)の意見ですので、判例・学説・実務等で確定したものではありません。他の考えでも裁判等で争い認められる余地があります。

全記事のリスト表示

全ての記事を表示する

検索フォーム

カレンダー

08 | 2017/09 | 10
- - - - - 1 2
3 4 5 6 7 8 9
10 11 12 13 14 15 16
17 18 19 20 21 22 23
24 25 26 27 28 29 30

QRコード

QR

メールフォーム

名前:
メール:
件名:
本文:

アクセスカウンター

アクセスランキング

[ジャンルランキング]
ニュース
806位
アクセスランキングを見る>>

[サブジャンルランキング]
時事
363位
アクセスランキングを見る>>
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。