東日本大震災以降,原子力損害賠償法に興味あり,同法と東京電力の責任についても検討してみたい。

スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。
-------- : スポンサー広告 :
Pagetop

・自治体の損害 その2 生活保護費の増大

・自治体の損害 その2 生活保護費の増大

 原発事故前からの受給者の分は別として,原発事故による汚染等で農地や漁場の利用ができなくなるなどして,住民の生活が成り立たなくなり,また高齢等で再就職もままならず,生活保護受給者が増加してしまった場合。〔現在の負担割合,自治体四分の一,国庫四分の三,生活保護法75条〕
 国や自治体は,その増加部分をなんらかの根拠で回収できないか。

 原賠法に基づく損害賠償請求権と,各種社会保障制度との関係の,おおまかな考え方については,こちらで述べた。
 http://genbaihou.blog59.fc2.com/blog-entry-150.html

---------------------------------
●生活保護法
(この法律の目的)
第一条  この法律は、日本国憲法第二十五条に規定する理念に基き、国が生活に困窮するすべての国民に対し、その困窮の程度に応じ、必要な保護を行い、その最低限度の生活を保障するとともに、その自立を助長することを目的とする。

(無差別平等)
第二条  すべて国民は、この法律の定める要件を満たす限り、この法律による保護(以下「保護」という。)を、無差別平等に受けることができる。

(最低生活)
第三条  この法律により保障される最低限度の生活は、健康で文化的な生活水準を維持することができるものでなければならない。

(保護の補足性)
第四条  保護は、生活に困窮する者が、その利用し得る資産、能力その他あらゆるものを、その最低限度の生活の維持のために活用することを要件として行われる。
2  民法(明治二十九年法律第八十九号)に定める扶養義務者の扶養及び他の法律に定める扶助は、すべてこの法律による保護に優先して行われるものとする。
3  前二項の規定は、急迫した事由がある場合に、必要な保護を行うことを妨げるものではない。

(この法律の解釈及び運用)
第五条  前四条に規定するところは、この法律の基本原理であつて、この法律の解釈及び運用は、すべてこの原理に基いてされなければならない。

(費用返還義務)
第六十三条  被保護者が、急迫の場合等において資力があるにもかかわらず、保護を受けたときは、保護に要する費用を支弁した都道府県又は市町村に対して、すみやかに、その受けた保護金品に相当する金額の範囲内において保護の実施機関の定める額を返還しなければならない。
-----------------------------



〔前提〕
・憲法25条,生活保護法2条から,受給要件を充たす限り,生活保護の受給は,国民の権利であり,その支給は国の義務ということになる。

・生活保護法に基づく給付金については,交通事故の場合,加害者への賠償請求権との関係で,損益相殺はされないとされている。つまり賠償額からは差し引かれない。この根拠としてあげられている最高裁判例は以下のとおりである。

最高裁昭和46年6月29日判決,判時636号28頁
(生活保護法について)「同法六三条は、同法四条一項にいう要保護者に利用しうる資産等の資力があるにかかわらず、保護の必要が急迫しているため、その資力を現実に活用することができない等の理由で同条三項により保護を受けた保護受給者がその資力を現実に活用することができる状態になつた場合の費用返還義務を定めたものであるから、交通事故による被害者は、加害者に対して損害賠償請求権を有するとしても、加害者との間において損害賠償の責任や範囲等について争いがあり、賠償を直ちに受けることができない場合には、他に現実に利用しうる資力かないかぎり、傷病の治療等の保護の必要があるときは、同法四条三項により、利用し得る資産はあるが急迫した事由がある場合に該当するとして、例外的に保護を受けることができるのであり、必ずしも本来的な保護受給資格を有するものではない。それゆえ、このような保護受給者は、のちに損害賠償の責任範囲等について争いがやみ賠償を受けることができるに至つたときは、その資力を現実に活用することができる状態になつたのであるから、同法六三条により費用返還義務が課せられるべきものと解するを相当とする。」

 要するに交通事故の被害者が,生活保護法4条3項による支給を受けても,将来的に賠償を受けた後には,同法63条で,自治体への返還義務があるのだから,加害者への賠償請求権との関係では損益相殺されることはないというものだろう。

 したがって,自治体が生活保護法4条3項での保護費の支給をしているよう場合には,本来的には,自治体は,将来,原発事故被害者に賠償金が入った段階で,同法63条で返還を受けることによって,損失を回復できるというものであろう。

 しかし,実際は,生活保護法63条の「資力があるにもかかわらず」をどの時点で捉えるかという問題があり,また,そもそも生活保護は,被害者の被った損失の填補というよりも,社会福祉目的からの支給であるという差もあって,自治体は住民から,当然に全額を返還を期待できるというものではない。

 この点について,昭和47年12月5日付,社保196号厚生労働省通知「第三者加害行為による補償金、保険金等を受領した場合における生活保護法第63条の適用について」という通達がある。

------------------------------- 
http://wwwhourei.mhlw.go.jp/hourei/
○第三者加害行為による補償金、保険金等を受領した場合における生活保護法第六十三条の適用について
(昭和四七年一二月五日)
(社保第一九六号)
(各都道府県・各指定都市民生主管部(局)長あて厚生省社会局保護課長通知)

 標記について、今回左記のとおり取扱い方針を定めたので、了知のうえ、管下実施機関を指導されたい。


1 生活保護法第六十三条にいう資力の発生時点としては、加害行為発生時点から被害者に損害賠償請求権が存するので、加害行為発生時点たること。したがつて、その時点以後支弁された保護費については法第六十三条の返還対象となること

2 実施機関は、1による返還額の決定にあたつては、損害賠償請求権が客観的に確実性を有するに至つたと判断される時点以後について支弁された保護費を標準として世帯の現在の生活状況および将来の自立助長を考慮して定められたいこと。
 この場合、損害賠償請求権が客観的に確実性を有するに至つたと判断される時点とは、公害、自動車事故については次の時点であること。
(1) 公害の場合
ア 第一次的に訴訟等を行なつた者については、最終判決または和解の時点
イ 第一次訴訟等の参加者以外の者であつて、客観的に第一次訴訟等の参加者と同様の公害による被害を受けた者と認められる者についても、アと同一の時点
ウ ア、イに該当しない者については、その訴訟等に関する最終判決または和解の時点
(2) 自動車事故の場合
 自動車損害賠償保障法により保険金が支払われることは確実なため、事故発生時点
-------------------------------


 今回の原発事故では,少なくとも避難等の指定地域は,賠償金の支払いはおそらく確実で,その項目や額がいくらになるかについて問題があるような場合だから,上の通知でいうと「自動車事故の場合」と同様の扱いになるかもしれない。
 他の地域で曖昧なもの,原子力損害賠償紛争審査会の最終指針からもれたものなどは,上の「公害の場合」と同様に扱われるかもしれない。

 ただし,この通知では,2で,「返還額の決定にあたつては、損害賠償請求権が客観的に確実性を有するに至つたと判断される時点以後について支弁された保護費を標準として世帯の現在の生活状況および将来の自立助長を考慮」すべきとしているので,「自動車事故の場合」と同様に考えて,事故発生時点から「資力がある」とされても,具体的な返還額は,①損害賠償請求権が客観的に確実性を有するに至つたと判断される時点以後について支弁された保護費を標準として,②世帯の現在の生活状況および将来の自立助長を考慮して決定されるので,自治体としては,当然に事故発生後の支給額全額の返還を受けるわけではない。

 とするとやはり,一部は自治体〔および国〕が,負担をかぶることになって,自治体は,その分を東電に対して請求できないかという問題になってくる。

 これは,こちらで述べたのと同様に考えることになろう。

 
 生活保護のような公的扶助制度は,その原因如何にかかわらず,国民の最低限度の生活を保障するものであり,社会福祉目的の給付で,結果的に被害者が二重に受給できることになっても仕方がないという場合には,支給者である自治体や国が,その支出による損害を,自己の固有の損害として,加害者に対して,損害賠償請求できるのかという問題となり〔加害者がその分の賠償を免れないという点で加害者への求償の問題とはならない。〕,生活保護法の制度趣旨等からそもそも自治体固有の損害の有無が問題となったり,原発事故と相当因果関係のある損害といえるのかや,予見可能性等が問題となるのかもしれない。


 なお,被害者として,生活保護を受けて生活し,後に失職休職期間中の収入相当額の賠償金(逸失利益)を得た場合に,その一部だけ返還すれば良いとなれば,前記の通知にある「損害賠償請求権が客観的に確実性を有するに至つたと判断される時点」が遅れれば遅れるほど得するという妙なことになるかもしれない。逆に言うと東電としては,結果的に被害者への賠償と,自治体への賠償の二重払いのリスクがあることになるから,休業や失職による逸失利益のうち生活に要する費用程度は,さっさと払っておいた方がよいということになろう。

 そもそも,原子力損害賠償紛争審査会の指針が出るまで,東電の支払いが法律上猶予されるわけではなく,また,東電が,指針に従わなければならないという法的義務もないので,損害発生時(最判昭37.9.4民集16-9-1834)から賠償金に対する年5%の遅延損害金が発生し続けているし,支払いを渋ると損害の拡大,又は,その危険を自ら拡大させることになろう。



こちらで述べた宿泊代等は,加害者がその分の被害者への賠償義務を免れうるものであって,自治体から東電への求償の問題となり,その法律構成の問題があるだけである。

※第三者加害の場合,求償や代位に関する規定の存在しない雇用保険法に基づく失業給付等についても、同種の問題があろう。別項で考えたい。



関連記事
スポンサーサイト
2011-07-01 : ・地方自治体の損害 : コメント : 0 : トラックバック : 0
Pagetop
コメントの投稿
非公開コメント

Pagetop
« next  ホーム  prev »

プロフィール

text2

Author:text2
原子力損害賠償法について検討してみます。(リンクはご自由に)
なお、引用部分以外は私(一応法律家)の意見ですので、判例・学説・実務等で確定したものではありません。他の考えでも裁判等で争い認められる余地があります。

全記事のリスト表示

全ての記事を表示する

検索フォーム

カレンダー

06 | 2017/07 | 08
- - - - - - 1
2 3 4 5 6 7 8
9 10 11 12 13 14 15
16 17 18 19 20 21 22
23 24 25 26 27 28 29
30 31 - - - - -

QRコード

QR

メールフォーム

名前:
メール:
件名:
本文:

アクセスカウンター

アクセスランキング

[ジャンルランキング]
ニュース
794位
アクセスランキングを見る>>

[サブジャンルランキング]
時事
360位
アクセスランキングを見る>>
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。