東日本大震災以降,原子力損害賠償法に興味あり,同法と東京電力の責任についても検討してみたい。

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■3条1項本文の賠償責任 その8 各種社会保障制度等との関係 考え方

■3条1項本文の賠償責任 その8 各種社会保障制度等との関係 考え方


 今回のような大規模な原発事故が起きると,それが自然災害だけなら求償請求の相手がいないので問題も少ないだろうが,原発事故では原子力事業者という加害者が存在するため,被害者の損害賠償請求権と求償との関係が問題となることがあろう。

 第三者加害の事案について,生活保護等の公的扶助、その他社会福祉事業との関係,労災保険・雇用保険・医療保険等の社会保険との関係,民間の任意保険との関係など,多数の制度との関係が問題となりうる。


〔考え方〕
A 被害者(原発事故被害者)
B 加害者(原子力事業者)
C 支給者(国,自治体,事業主,基金,共済組合,保険組合,保険会社等)


1 A→Bの関係
 損害賠償請求

2 B←Aの関係
 損益相殺(支給のあった範囲内で賠償をしなくていいということ)

3 A→Cの関係
 給付金,保険金等の請求

4 C→Aの関係
 控除や免責(賠償があった範囲内で支給をしなくていいということ)

5 B→Cの関係
 なし

6 C→Bの関係
 求償請求(CによるAの損害賠償請求権の取得,代位)


 主として問題となるのは,上のうち,2損益相殺の可否,3控除の可否,6求償の可否である。

 これらの問題に共通する観点は

ア 被害者の損失の二重填補は防ぎたい。二重取りは不当。
イ たまたま保険等の給付があったからといって,それで加害者が賠償を免れることになるのは不当


 そして,これら問題について,法律,規則等があればそれに従えばよい。また,任意保険等で,被害者Aと支給者Cとの契約があれば,その内容に従えばよい。それ以外の場合は,判例や通達等を手かがりに考えていくしかない。
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〔労災保険関係〕労働者災害補償保険法12条の4,原賠法改正付則4条,原子力損害の賠償に関する法律施行令3条,国家公務員災害補償法6条,裁判官災害補償法1条,地方公務員災害補償法59条,公立学校の学校医等災害補償法7条,非常勤消防団員等に係る損害補償の基準を定める政令18条
〔医療保険関係〕健康保険法57条,国民健康保険法64条,船員保険法45条,国家公務員共済組合法48条,地方公務員等共済組合法50条,私立学校教職員共済法25条,高齢者の医療の確保に関する法律58条,介護保険法21条
〔年金関係〕国民年金法22条,133条,厚生年金保険法40条
〔その他〕災害救助法施行令22条,保険法25条
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上の2の損益相殺の可否の問題については,以下のような観点が重要と思われる。
①その支給者からの支給が,被害者の損害填補の性質を有するものか否か,あるいはその他(福祉目的など)の趣旨か。なお,趣旨が混在している場合もありうる。
※厳密には,精神的損害の填補か,財産的損害の填補か,また,積極損害の填補か,消極損害の填補か否かなど,損害填補としてもその給付の趣旨の違いによっても,損益相殺の可否が分かれる(自賠責保険や労災保険などの例)。
※なお,給付の趣旨と,給付の効果(実質的に損害填補の役割を果たしている場合)は,一応別の問題。
②被害者(受給者)が支給者への返還義務負うか(生活保護法63条のような場合)
③支給者から加害者への代位請求に関する調整規定が存在するか否か
④掛け金を誰が支払っているか,支給の財源を誰が負担しているか。

上の3の控除,免責の可否の問題については,以下のような観点が重要と思われる。
①各種制度の趣旨,支給の性質。損害填補のための支給か否か

上の6の求償の可否の問題については,以下のような観点が重要と思われる。
①各種制度の趣旨,支給の性質。損害填補のための支給か否か
②掛け金を誰が支払っているか,支給の財源を誰が負担しているか。


※被害者が不法行為によって損害を被ると同時に,同一の原因によって利益を受ける場合には,損害と利益との間に「同質性」がある限り,公平の見地から,その利益の額を被害者が加害者に対して賠償を求める損害額から控除することによって損益相殺的な調整を図る必要がある(最高裁平成5年3月24日大法廷判決・民集47巻4号3039頁)



 一般論として言えることは,お金の動きが被害者の損害填補目的の場合は,論理的には,損害は被害者の被ったもの1つとして,その最終負担をどうするかという問題であり,その調整としては,

・支給先行なら,Aからの損害賠償請求についてBは損益相殺可,そしてCからBへの求償可。
・賠償先行なら,Aからの支給請求に対してCは控除可。

という関係になろう。当然加害者Bが最終的に負担。



 これに対して,中には,その趣旨(福祉目的など)から,加害者Bからの損益相殺の主張は認められず,しかも,支給者Cの控除,免責も認められないような場合,つまり被害者Aが二重に受給することになっても仕方がないような場合もありうる。
 この場合は,Cが給付金等を支出したからといって,Bがその範囲でAへの賠償義務を免れることもないので,求償の問題〔CがAの有していたBに対する損害賠償請求権を支給額の範囲で取得する〕とはならないはずである。

 これは結局,支給者Cの固有の損害の問題であって,この損害を,その原因を作り出した加害者Bに対して,直接的に賠償請求ができるのかという問題であろう。


 考えられるのは,

・生活保護費増大で国や自治体が負担した部分のうち生活保護法63条での返還を得られなかった部分→国,自治体の損害
・労災保険や雇用保険で,加害者Bの損益相殺も支給者Cの控除も認められない部分→保険者の損害

など

〔なお,支給者Cとしては,本来,免責や控除を主張できる場合に,その裁量で敢えて支給したために損失を出したような場合は,その損失を加害者Bに負担させることはできないこととなろう。〕



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 考えてみれば,間接被害者や,肩代わり損害,反射損害として論じられているものと同様で,①直接の被害者の被った1つの損害を,最終的に加害者にどのように負担させるかという調整の問題と,②直接の被害者が被った損害とは別に,直接の被害者と一定の社会的関係にある主体自身に生じた固有の損害(支出を強いられたり,得られたはずの利益が得られなかったり)を,どこまで加害者に負担させるかという問題があって,前者①は結論は決まっているので〔求償の法律構成など〕論理的,技術的に解決可能と思われるが,後者②は,以前にも論じた波及的に広がる二次的な損害をどこまで,加害者に負わせるのが妥当かという問題〔政策的価値判断の要素の強い法解釈の場面〕であって,判例通説的な理屈としては相当因果関係の「相当性」や,特別事情の予見可能性の問題として論じられることになろうが,その絞り方については,今のところ明確な指標のようなものはなく,裁判官の感覚に左右される部分があるかもしれない。

たぶん

・制度趣旨
・加害者側の故意過失等の主観的態様,過失の場合はその程度
・加害行為の態様
・間接被害者側がその損害をどの程度まで予見できるのかという問題や,そのリスク管理の可能性の程度など,間接被害者側に結果の発生拡大の回避をどこまで期待してよいかという観点
・広がる被害の大きさ
・支給財源がもともとどこに帰属していたか

などを考慮することになるのではなかろうか。


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〔予見可能性と原発事故の特殊性〕

 相当因果関係を考える場合に,その原因からその結果が生じることが一般通常人を基準に通常と言えるか否かという問題と,そうでない場合は,特別事情の予見可能性があったか否かが問題となる。

 仮に,加害者が,一人の被害者を害した場合,特に故意ではなく害したような場合には,通常は被害者側の具体的事情など知りようもなく,被害者との関係で派生する,その他の者〔間接被害者〕の損害は,通常損害といえないか,特別損害としても予見可能性が無いとして,多くは相当因果関係が否定されることとなろう。
 しかし,大規模原発事故のように,村や町,数十キロに及ぶ範囲での全ての活動を不可能ならしめるような場合は,その膨大な数の人のなかには,もともとの健康状態や経済状態等から,著しい影響を受けて各種社会保障制度等の対象となる者が出てきて,そのために国や自治体が支出を強いられることは通常起こりうることである。

 この問題は,以前に風評被害について検討した問題と似ていて,人ひとりの状況を見れば特異性(過剰な回避)があるが,莫大な数の人に影響を与えた場合には,その中に一定割合で特異な事情が含まれることが明白な場合があって,これを因果関係の相当性や,特別事情の予見可能性との関係でどう考えいくかという問題である。

 サイコロを一回振って「1」の目が出る可能性は6分の1であろうが,100回降って,一回も「1」の目が出ないということはほとんど考えにくい。あるいは、トランプでカードを一枚ランダムに引いて、ジョカーを引く確率は53分の1だが、カード全部を手にするとそこにジョーカーが含まれるのは確実ということ。つまり,数が少なければ起きる可能性は低いが,数が多ければ,論理的には通常ありえ,また予見可能としかいいようがないものをどう考えるかという問題。



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2011-06-30 : ■3条1項本文の責任 : コメント : 0 : トラックバック : 0
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原子力損害賠償法について検討してみます。(リンクはご自由に)
なお、引用部分以外は私(一応法律家)の意見ですので、判例・学説・実務等で確定したものではありません。他の考えでも裁判等で争い認められる余地があります。

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