東日本大震災以降,原子力損害賠償法に興味あり,同法と東京電力の責任についても検討してみたい。

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■3条の賠償責任の法的性質 その5 民法415条(債務不履行責任)との関係

■3条の賠償責任の法的性質 その5 民法415条(債務不履行責任)との関係


 原子力事業者の従業員が,原発事故処理作業中に,会社側の被曝管理がずさんなために,限度を超えた被曝をしてしまい健康被害が生じた場合,当該従業員が,原賠法3条1項本文に基づく損害賠償請求を,原子力事業者に対してなしうることは当然として,それ以外に会社側の雇用契約上の安全配慮義務違反(最高裁昭和50年2月25日判決,労働契約法5条)を理由に民法415条に基づく損害賠償請求をなしうるのかという問題がある。


〔考え方〕
 以下のような判例がある。
-----------------------------
・平成20年2月27日水戸地裁判決(判タ1285号201頁)
 JCO臨界事故関係。近隣住民が被爆及びPTSD等健康被害で,JCO及びその親会社住友金属鉱山に対して,主位的に民法709条,予備的に原賠法3条による損害賠償請求をした。
「原賠法に規定する原子力損害の賠償責任は,原子力事業者に対して原子力損害に関する無過失責任を規定するなどした民法の損害賠償責任に関する規定の特則であり,民法上の債務不履行責任又は不法行為の責任発生要件に関する規定は適用を排除され,その類推適用の余地もないものであるから,本件事故による被爆と相当因果関係があるものとして損害賠償を請求する限りにおいては,原子力事業者に該当する被告JCOとの関係においても,民法上の不法行為に基づいて,賠償請求を認めることはできないというほかない。」
-----------------------------

 上の判決の事例では,原告は民法709条での損害賠償を主位的に求めたにすぎず,なぜ裁判所が「債務不履行責任」の責任発生要件に関する規定について適用排除と論じているのか不明である。
 そもそも,原賠法が,民法の不法行為規定の特則であることは立法過程の段階から,何度も言及されているが,債務不履行責任を含む民法の損害賠償責任一般についての特別法であると論じたものは見たことがない。
 この判決も結論においては,民法の不法行為規定の適用排除しか述べておらず,事案においても債務不履行責任など問題となっていないから,債務不履行にもとづく損害賠償義務(民法415条)と原賠法との関係を論じたものとも思えない。どういう趣旨で述べているのか不明である。〔当事者の主張に対するなんらかの応答だろうとは思われるが〕
 なお,同判例の解説(判タ1285-201)でも,「原子力損害の賠償に関しては,責任発生の要件と関連する民法709条,715条,716条及び717条の規定の適用が排除される(その他の規定については適用が排除されることない。)と解されている(科学技術庁原子力局監『原子力損害賠償制度』52頁)。」との記述がある。

 原賠法の律する法律関係は,予め債権債務関係あることを前提としないのであり,民法の不法行為法の特則であることは明白であり,債務不履行のような債権債務関係がある当事者間に生ずる事象との関係では,特別法とは言えない。
 また,同じ損害賠償請求であっても,原賠法に基づくそれは「原子炉の運転等」により発生した損害に関するものであり,従業員の追及する債務不履行責任は,安全配慮義務違反という別の帰責原因によるものであるから,当然に両者は両立しうるはずである。
 しかし,この点について明示した判例はみつからない。

 通常は,事業者の「過失」が問題とならないという点で,無過失責任を前提とする原賠法の方が有利なので,原告は,わざわざ雇い主の安全配慮義務違反(債務不履行)に基づく損害賠償請求(民法415条)をする必要はないと思われるが,消滅時効の問題などから,将来的には債務不履行責任の追及の方が有利になる場面が出てくるかもしれない。



〔労災保険との関係〕
 なお,労働者が被った損害の填補方法としては,労災保険法(労働者災害補償保険法)に基づく補償請求があり,損害の種類や額について限度があるものの,これについては,当然に原賠法との請求が両立しうる。もちろん二重取りはできない。
 原賠法の付則は,以下のとおり,
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付則
(他の法律による給付との調整等)
第四条  第三条の場合において、同条の規定により損害を賠償する責めに任ずべき原子力事業者(以下この条において単に「原子力事業者」という。)の従業員が原子力損害を受け、当該従業員又はその遺族がその損害のてん補に相当する労働者災害補償保険法(昭和二十二年法律第五十号)の規定による給付その他法令の規定による給付であつて政令で定めるもの(以下この条において「災害補償給付」という。)を受けるべきときは、当該従業員又はその遺族に係る原子力損害の賠償については、当分の間、次に定めるところによるものとする。
一  原子力事業者は、原子力事業者の従業員又はその遺族の災害補償給付を受ける権利が消滅するまでの間、その損害の発生時から当該災害補償給付を受けるべき時までの法定利率により計算される額を合算した場合における当該合算した額が当該災害補償給付の価額となるべき額の限度で、その賠償の履行をしないことができる。
二  前号の場合において、災害補償給付の支給があつたときは、原子力事業者は、その損害の発生時から当該災害補償給付が支給された時までの法定利率により計算される額を合算した場合における当該合算した額が当該災害補償給付の価額となるべき額の限度で、その損害の賠償の責めを免れる。
2  原子力事業者の従業員が原子力損害を受けた場合において、その損害が第三者の故意により生じたものであるときは、当該従業員又はその遺族に対し災害補償給付を支給した者は、当該第三者に対して求償権を有する。
-----------------------



〔下請け作業員の場合〕
 原子力事業者〔東電〕の社員は,東電との直接の雇用契約があるので,被曝管理がずさんで過剰に限度を超えて被曝したような場合は,当然に,安全配慮義務違反の問題となる。では,東電と直接の雇用関係にない下請け,孫請けのいわゆる協力会社の従業員は,東電に対して,安全配慮義務違反による債務不履行責任の追及ができないか。これについては,三菱重工神戸造船所事件についての最高裁判決がある。

・最高裁判決平成3年4月11日(三菱重工神戸造船所事件,判タ759-95)
 造船所で稼働していた下請労働者が,工場騒音の被曝によって難聴傷害に罹患したことで,元請企業も安全配慮義務違反による賠償義務が負うかが争われた。
「右認定事実によれば、上告人の下請企業の労働者が上告人のD造船所で労務の提供をするに当たっては、いわゆる社外工として、上告人の管理する設備、工具等を用い、事実上上告人の指揮、監督を受けて稼働し、その作業内容も上告人の従業員であるいわゆる本工とほとんど同じであったというのであり、このような事実関係の下においては、上告人は、下請企業の労働者との間に特別な社会的接触の関係に入ったもので、信義則上、右労働者に対し安全配慮義務を負うものであるとした原審の判断は、正当として是認することができる。」

 このように「指揮監督」や「支配従属」関係があるなどして,元請企業が,「下請企業の労働者との間に特別な社会的接触の関係に入った」といえる限りは,元請企業も,下請企業の労働者に対して,信義則上,安全配慮義務を負い,下請労働者との関係で直接の労働契約がなかったとしても,安全配慮義務違反(債務不履行)による損害賠償義務(民法415条)を負う余地が認められている。

 なお,今回の事故処理で,東電側と,下請会社の労働者との指揮監督関係などがどうなっているのかは知らないが、下請け協力企業が実際には,作業員の供給の口利き,手配しかしていないような場合には,おそらく元請けの支配下にあるものと見られるだろう。


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2011-06-24 : ■3条1項本文の責任 : コメント : 0 : トラックバック : 0
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原子力損害賠償法について検討してみます。(リンクはご自由に)
なお、引用部分以外は私(一応法律家)の意見ですので、判例・学説・実務等で確定したものではありません。他の考えでも裁判等で争い認められる余地があります。

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