東日本大震災以降,原子力損害賠償法に興味あり,同法と東京電力の責任についても検討してみたい。

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・土地建物,土壌等の汚染 その5 人格権に基づく請求

・土地建物,土壌等の汚染 その5 人格権に基づく請求

 自分の土地建物等が汚染された場合に,東電に対して除染を請求しうるかという問題については,こちらで論じた。

 ただし,これは所有権者が自らの土地建物や農地等の除染を請求するものであって,自分の家や所有地だけ除染されても,その他の汚染がひどくて町や村を歩けなければ意味がない。
 そこで自分の住む町や村を住めるようになるまで,公道から河川,公園等の日常生活の範囲内すべて除染せよと,何らかの根拠に基づいて請求することができないか。


 まず,妨害排除を請求するにあたってどのような法律的根拠が考えられるのか。

1 不法行為構成(民法709条,原賠法3条)
 不法行為責任の内容として賠償だけでなく,原状回復や差し止め等の請求もなしうるとする説もあるが少数説。
 
2 物権的請求権(所有権に基づく妨害排除請求権)
 自分の所有地については可能であるが,他の部分の除染請求までは難しい。

3 環境権=人が健康で'快適な生活を維持するために必要な良き環境を享受し,かつ,これを支配し得る権利
 権利内容の不明確性が問題となる。

4 人格権=生命・健康を人間が本来有する状態で維持しうる権利
 大阪空港訴訟の一審判決が,「個人の生活上の利益は物権と同等に保護に値する」とし,その後の公害訴訟などで,広く根拠とされるようになった。
〔明文はないが,財産権である物権ですら排他的支配権の救済,保護の観点から妨害排除請求権等が認められることから,より重要な排他的権利である生命身体健康等への妨害の排除請求権は,私権として当然に認められてしかるべきという理屈〕

・金沢地方裁判所平成18年3月24日判決,志賀原発2号機差止訴訟1審判決
 電気事業者である被告が設置した原子力発電所の原子炉が運転された場合,原告らの生命,身体,健康が侵害される具体的危険が認められるとして,原告らの原子炉運転差止請求を認容した事例
個人の生命,身体及び健康という重大な保護法益が現に侵害されている場合,又は侵害される具体的な危険がある場合には,その個人は,その侵害を排除し,又は侵害を予防するために,人格権に基づき,侵害行為の差止めを求めることができると解される。原告らは,「人格権」を,生命,身体及び健康よりも拡大し,「人間の健康の維持と人たるにふさわしい生活環境の中で生きていくための権利」と主張するが,差止請求の根拠となる絶対的権利としての「人格権」は,名誉とプライバシーとを別にすれば,生命,身体及び健康を中核とする権利として捉えるべきものと考える。」
「原告らは,差止請求の根拠として「環境権」をも主張するが,「人が健康で快適な生活を維持するために必要な良き環境を享受し,かつ,これを支配し得る権利」が認められていると解すべき実定法上の明確な根拠はなく,また,環境は,社会の構成員が共通に享受する性格のものであるから,そのようなものについて個々人が排他的に支配し得るような私法上の権利を有していると認めることには疑問があり,少なくとも,その権利の内容及びこれが認められるための要件も明らかとはいえない現段階においては,このような権利ないし利益が実体法上独立の差止請求の根拠となり得ると解することは困難である。」
人格権に対する侵害行為の差止めを求める訴訟においては,差止請求権の存在を主張する者において,人格権が現に侵害され,又は侵害される具体的危険があることを主張立証すべきであり,このことは,本件のような原子炉施設の運転の差止めの可否が問題となっている事案についても変わるところはないと解すべきである。そして,前記第1章第2の2(5)イ,エの各事実によれば,原子炉周辺住民が規制値を超える放射線被ばくをすれば,少なくともその健康が害される危険があるというべきであるから,本件において原告らは,本件原子炉の運転により,原告らが規制値(以下「許容限度」ということがある。)を超える放射線を被ばくする具体的危険があることを主張立証すべきことになる。」


 この判決金沢地裁がいう「規制値」「許容限度」とはICRPの「一般公衆の防護のための線量限度として,実効線量限度を1年当たり1ミリシーベルト」が前提とされている。

 また,この判決は,商業溶炉で初めて,差し止めが認められた判決とされ,その後の控訴審,名古屋高等裁判所金沢支部平成21年3月18日判決では,「被控訴人ら本件原発の周辺公衆が許容限度を超える放射線を被ばくする具体的危険性があるとは認められない」として,被曝の具体的危険性の有無の認定で原告逆転敗訴となった〔最高裁は平成22年10月28日に控訴審判決を維持し上告棄却,上告不受理決定をした〕。

 ただし,この控訴審でも,「許容限度」の数字は特に問題とならず,ICRPの年1ミリシーベルトが前提とされている。


 このような判決の理屈でいくと,少なくとも〔バックグラウンド分を除く〕実効線量年1ミリシーベルト以上になる地域については,既に汚染されていて年1ミリの「許容限度」を超えているのだから具体的危険性の存在は明白とも言えるのであって,人格権に基づく妨害排除として,日常生活範囲の全ての除染を請求することができるのかもしれない。


 
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2011-06-22 : ・土地建物,土壌等の汚染 : コメント : 0 : トラックバック : 0
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原子力損害賠償法について検討してみます。(リンクはご自由に)
なお、引用部分以外は私(一応法律家)の意見ですので、判例・学説・実務等で確定したものではありません。他の考えでも裁判等で争い認められる余地があります。

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