東日本大震災以降,原子力損害賠償法に興味あり,同法と東京電力の責任についても検討してみたい。

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■4条 責任集中の原則 その14 民間の第三者の責任

■4条 責任集中の原則 その14 民間の第三者の責任


 今回発生した損害〔今後の拡大分も含む〕について,第三者の行為が関与している場合どうなるのか。

 経営者公務員については,以前に論じた。また,東電社員や設計や資材原料供給業者や,下請け等の関係業者は,原賠法4条によって,「原子力事業者以外の者」として当然に免責されるだろう。〔ただし,故意がある場合は,5条で求償請求される可能性はある。〕

 そこで,残りの他の民間の第三者〔法人含む〕の関与によって,損害が発生拡大している場合について,検討してみたい。



〔分類〕
 放射性物質による汚染は,どの程度の危険性があるのか判然としないことから,次ぎの二つの方向での損害拡大と,それと関係なく火事場泥棒的関与をする第三者の行為があり得る。

※低線量長期の被曝についての客観的危険性〔諸説あって現時点では判然としないとする〕

1 結果的に客観的危険性よりも,危険性を大きくみせる方向での情報を流通させたことによって,風評被害等の損害が拡大する。
・過大な危険宣伝で,風評被害が拡大する。
・過大な危険宣伝で,不必要な避難等をする人が出てきて損害が拡大する。

2 結果的に客観的危険性よりも、危険性を小さくみせる情報を流通させることによって,被曝等による健康被害等の損害を拡大させる。
・○○ミリシーベルトまでは害がないと宣伝したが,後に被曝者の発ガン率等に増加が認められた場合

3 火事場泥棒的な関与をする第三者
・避難区域で窃盗をする。
・義捐金詐欺等の行為。
・産地偽装等で風評被害拡大させる。



〔特徴〕
1と3は即時的な損害,2は生じたとしても晩発的
1と3は主として財産的損害,2は生命身体に関する非財産的損害がまず問題



〔検討〕
 3の場合で,犯罪に該当するような場合は,その犯人は刑事罰の対象となるはの当然であり,民事的にも不法行為(民法709条)が成立し,被害者に対して,損害賠償責任を負うのは当然であろう。
 そのような犯罪結果は,通常は,原子力事業者側にとって予見可能性のない特別損害であり,相当因果関係のある原子力損害とはえないとされ,原賠法4条の適用の前提を欠くだろうし,仮にそうでなくても,これら犯罪者が,原賠法4条によって民事責任を免責されるというのは,法の趣旨からして考えられないからである。〔避難勧告がでた地域で,空き巣が入った場合に,東電や国の責任がどうなるのかについては,別項で考えたい。〕


 危険又は安全情報に関する上の1と2の場合は,事故後の関与を問題とすることになろうから,こちらで述べた事故後の後続行為による損害拡大についての責任の問題がある。

 また,東電の負う「原子力損害」の賠償責任との関係が問題となり,原発事故との相当因果関係の認められる損害の範囲内での損害の拡大かどうか,その場合の原賠法4条との関係,相当因果関係の範囲を超えて発生した損害はどうなるのかという問題がある。

A 第三者の行為で「原子力損害」(原発事故と相当因果関係のある損害)が拡大したといえる場合。
 A1 原発事故後に関与した第三者も原賠法4条で免責されるとする立場。
 A2 原発事故後に関与した第三者は原賠法4条での免責を受けないとする立場。
B 第三者の行為で拡大した損害が「原子力損害」とはいえない場合

 
・まず,上のAとBの区別は,原発事故との相当因果関係の有無(通常損害か否か,そうでない場合は,予見可能性があったか否か)で区別される。

・Aの場合で,A1の立場だと,原賠法4条で第三者は故意過失の有無にかかわらず,被害者との関係で免責される。〔故意ある場合にかぎって,原子力事業者から求償請求を受ける。原賠法5条〕

・Aの場合で,A2の立場だと,第三者も原子力損害について,故意又は過失ある場合に,民法709条で賠償責任を負うことになる〔「原子力事業者」ではないので原賠法の無過失責任を負うことはない。〕。この場合は,原子力事業者も責任を負うので,両者間の共同不法行為の求償関係等が問題となる。これはこちらで触れた。

・Bの場合は,「原子力損害」にあたらず,原則として原子力事業者は責任を負わないので,当該第三者に民法709条による不法行為成立の余地があるのみとなる。



〔具体的には〕
 上の1や2のように危険性、安全性に関して,結果として誤情報を流して損害を拡大させた場合,その第三者が,損害賠償責任を負う余地があるとして,具体的にどのような場合に負う可能性があるのか。

 まず,一般論として,単なるテレビ等のマスコミでの発言や,書籍等での記述,ネットでの書き込み等で,放射性物質や低線量被曝に関して,安全とか危険とかの発言をして,結果として誤情報を流すことになったとしても,損害賠償義務が発生するようなことはなかろう。現時点で,既に相反する情報が氾濫しているのであって,どちらを信用するかは受け手の判断によるものであり,特定の個人の名誉や信用を毀損するものではない限り,いちいち不法行為が成立していたのでは,そもそも自由な言論が成り立たない社会となるのであって,原則として責任を問われることなかろう。
 
 可能性があるのは,「誤」情報と知りつつ,意図的に,特定地域の農産物が危ないというような情報を流して,損害を与えたような場合であって,この場合は,通常の企業の信用毀損の場合と同様に考えられ,損害賠償義務が発生する余地はある。ただし,この場合でも,一切汚染がありえない地域は別として,そもそも微量の放射性物質や低線量被曝の危険性について「誤」情報であるか否かは,おそらく現時点ではっきりしないのであり,行為者の故意や過失が立証できるのかという問題があって,よほど明白な虚偽情報でない限り、その責任を問うことは容易ではなかろう。

 他には,たとえばXと専門家Yに契約関係があって,YはXのために,微量の放射性物質や低線量被曝の危険性,安全性について,適切なアドバイスを与えなければならない立場にあった場合。
 この場合,当然,専門家YはXに,その時点でのYの研究してきた成果やその学問領域の一般的成果に基づき,Yが適切だと考えるアドバイスをXに与える義務があり,この義務に反して,Yが,それまでの自分の研究成果に反し,その学問領域の成果にも反するような,結果としてでたらめなアドバイスを与えて,Xに損害を発生させたような場合は,善管注意義務違反(民法644条)等でXに対して債務不履行責任(民法415)を負い,同時に不法行為責任(民法709条)を負う可能性がある。

 さらに派生的には,Xが国や自治体であったり,あるいは知事や政治家等の人物で,住民の健康や安全を確保すべき施策を決定実行しうる立場にあることを知りつつ,Yが,それまでの自分の研究成果にも反し,その学問領域の成果にも反するような,結果としてでたらめなアドバイスを敢えて与えて,Xや,そこの住民らに損害を発生させたような場合は,通常損害か,あるいは予見可能性のある特別損害にあたるだろうから,民法709条でその住民らに対して,損害賠償義務を負うことになる可能性はある。

 ただし,アドバイスの時点で,特に学問上の定説もないような場合,Yが自らの学問成果に基づいてアドバイスしている限りは,普通は責任を問われないだろう。可能性があるのは,アドバイスの時点で,自らの説が間違っていることに気づいていたり,間違っていないまでも,自説が確実でないことは知っているのに,敢えて為政者に損害発生のリスクが高まる方向での施策を実行させたような場合であろう。

 なお,この場合,「損害発生のリスクが高まる方向」の意味は難しくて,微量な放射性物質や低線量被曝についての客観的危険度があるとして,それより危険性を過大評価すると財産的損害の拡大につながり,過小評価になると人の生命や健康への非財産的損害拡大につながる可能性があり,それがまた即時的に発生するか,晩発性かの差もあって,どのようなアドバイスであっても「損害発生のリスクが高まる方向での施策を実行させた」とは簡単に言えないところがある。さらに,結果として危険の過大評価であった場合でも,財産的損失以外にも,家族の離散や避難生活でのストレスによる病気等の非財産的損害もありえある。
 ただし、どちらがより致し方ない判断だったといえるのかという点では、一般的には,倫理的観点からすれば,経済的損失が多少大きくなっても,人の生命身体を保護する方向での,つまり安全よりの判断をするべきということなのであろうから,そういう意味では,危険性について小さめに評価しアドバイスをする専門家の方が,そうでない専門家よりも,責任を問われる可能性は高いのかもしれない。もっとも、その場合の人的損害は晩発性という問題があって、10年も20年も先だと,その専門家はもういないという可能性がある。また、こちらで触れたように、そもそも低線量の被曝による影響については、今のところ裁判上の立証の難しさがある。




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2011-06-19 : ・個人その他の責任 : コメント : 0 : トラックバック : 0
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原子力損害賠償法について検討してみます。(リンクはご自由に)
なお、引用部分以外は私(一応法律家)の意見ですので、判例・学説・実務等で確定したものではありません。他の考えでも裁判等で争い認められる余地があります。

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