東日本大震災以降,原子力損害賠償法に興味あり,同法と東京電力の責任についても検討してみたい。

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■2条「原子力損害」の意味・範囲 その24 債権侵害による損害

■2条「原子力損害」の意味・範囲 その24 債権侵害による損害

 今回の原発事故で,避難等強いられた取引先会社が倒産し,そのために掛金や貸金が回収できなくなったり,商品の売買契約をなし代金も支払っていたが,放射性物質による汚染等で無価値となり,売り主からの履行が不可能になってしまった場合など,債権が侵害されたといえる場合どうなるのか。

 物権は,有体物の排他的独占的支配権であり,第三者による侵害については,不法行為の成立の余地は当然に認められる。他方,債権は,債権者と債務者の法的関係で,第三者とは直接の関わりが無く,その侵害について,不法行為が成立するのか問題となるが,判例・通説では,不法行為の成立の余地は認められている。


〔分類〕
 第三者による債権侵害について,その分類は,論者によって様々であるが,一応以下のように分類される。(星野,前田)。

ア 第三者に対する弁済が特に有効とされ,債権が消滅した場合
 ex 債権の準占有者(民478)として弁済を受け債権を消滅させる場合など

イ 債権の目的たる給付の侵害
 1 取引行為によるもの
  ex 二重売買など
 2 事実行為によるもの
  ex 特定物の毀損,演奏者の拘禁等

ウ 債務者の一般財産を減少させる場合
 1 取引行為によるもの
  ex 債務者の不動産を廉価で買い取る
 2 事実行為によるもの
  ex 債務者の一般財産に属するものを毀滅,窃取,隠匿するなど


 原発事故,放射性物質による汚染の場合,アや,イ1ウ1のような取引行為によるものは考えられず,事実行為(原発事故)によるイ2給付の侵害,ウ2債務者の一般財産の減少が問題となろう。


〔例〕
 今回,具体的に,どのような事案があるのか不明であるが,考えるとすると,

 イ2としては,たとえば,家畜等の売買契約をして,代金を先に支払い,その所有権移転時期については引き渡し時と約していたが,原発事故で,畜産業者が避難を余儀なくされ,引き渡し前に家畜等が死亡してしまい,その引き渡しができなくなった場合。この場合,畜産業者(債務者)は,自己の落ち度で引き渡し(履行)ができなかつたわけではなく,債権者である買い主に対して債務不履行責任(民法415条)を負うことはなく,買い主からの契約解除もできない(民法543条)。さらに買い主(債権者)は,その時点では家畜の所有者ではないから,財物の汚損等による不法行為で,東電に直接,損害賠償請求することはできないことなる。そこで,買い主が,家畜の引き渡し請求権という債権を,東電の行為によって侵害されたとして,不法行為(原賠法)に基づく損害賠償請求をなしうるかという問題となる。この場合,その家畜の代金相当額以外に,その家畜を転売して獲られた利益も損害とみることができる。
 
 ウ2としては,信用組合が,ある企業〔あるいは個人〕に,事業資金の貸付をしていたが,原発事故で,その企業の財物が汚損され,あるいは避難等で営業ができなくなり,売上げがなくなって,資金繰りに窮し,破産等してしまったため,貸付金の回収ができなくなってしまった場合。


〔考え方〕
※以下,概ね,「事実行為」=原発事故ないし放射能汚染,「第三者」=東電,「債務者」=原発事故の直接の被害者,「債権者」=債務者と取引する者(金融機関等)

● イ2 第三者が事実行為によって目的たる給付を侵害する場合

・債権に公示性がないこと,間接侵害であることから,第三者において,債権の存在についての認識と侵害の認容が必要であり,原則として「故意」を要件とし,例外的に企業損害(間接被害)については,その債務者と債権者との経済的同一性を前提に,「過失」による不法行為を認める〔前田達明〕。(「たとえば主目的は債務者が憎くて殺害する(主たる結果),そのために債権者が被害を被ること(付随的結果),があっても止むを得ないという付随期結果(債権侵害)への認容が必要である。」前田達明,「第三者による債権侵害」類型論,判タ612号2頁)

・債務者の引き渡すべき目的物を第三者が毀滅したときは,履行不能によって債権は消滅し,当事者間では危険負担の問題が生じる(民法534条以下)。それが特定物の売買契約であって,買主が危険を負担し,売主に代金を支払ったときは,買主は目的物を毀滅した第三者に対して,その損害の賠償を請求しうる。さらに,債権者が目的物を転売等によって得べかりし利益を失った場合,そのことについて第三者に予見可能性があれば,その賠償も請求しうる。〔加藤一郎「不法行為」119頁〕

・第三者がその債権存在を認識していることを要する。〔奥田昌道「債権総論」234頁〕


● ウ2 第三者が事実行為によって債務者の一般財産(責任財産)を減少させた場合

・主観的要件として,第三者が,債務者の当該財産を事実行為によって減少させることにより債務者が無資力となり,債権者に満足を与えることができないことを「認容」していることが必要とする。〔前田達明,前掲〕

・経営不振の会社(債務者)から商品の引き上げ。それによって債務者を倒産させ,他の債権者に与えた損害。引き上げが自由競争の範囲の合法的手段によつて行われたものでなく,法規違反ないし公序良俗違反の不法な手段に行われた違法なものの場合に,不法行為の成立を認めた(昭和52年11月24日東京高裁判決,判タ363号215頁)

・第三者が責任財産を減少させた場合,それが財産を毀損するという事実行為によってなされたときは,不法行為の成立する余地はありそうだが,やはり間接的であるから,債権者は,債務者の無資力なときにかぎり,債権者代位権(民法423条)によって,債務者に代位して第三者に損害賠償を請求しうるとする。〔加藤一郎,前掲〕



〔検討〕
 このように事実行為(原発事故など)によって,債権侵害がなされた場合,判例や学説では,原則として過失による侵害では,不法行為の成立までは認めていないようである。
 今回,東電の故意は考えにくい上に,原賠法では,過失の有無は問われず,また,仮に東電に過失があったとしても,それだけでは,債権侵害が不法行為となり損害賠償が認められることはなさそうである。

 ただし,債権者と債務者が経済的同一性がある場合には,例外的に,債権侵害でも,原賠法による損害賠償請求が認められることになろう。判例も概ねこの立場であるが,ここでいう経済的同一性,一体性とは,個人であるAが,法人成りして,事実上の個人企業であるX会社を営んでいるような場合であって(東京地判昭和45年10月31日判タ261号333頁),債権者と債務者がが密接な取引関係にあるという程度では同一体とは認められないであろう。

 なお,イ2の第三者が事実行為によって目的たる給付を侵害する場合,加藤教授によると,債権者が被る転売利益の逸失分については,損害についての予見可能性が要求されることになる。これは,こちらで論じた二次的な損害(間接被害)の相当因果関係の判断において,特別損害について,特別事情の予見可能性を問題とする考え方と,ほぼ同じであり,予見可能性の内容として,どこまで具体的な事情の認識ないし認識の可能性を要求するかという点が問題となろう。
 
 結局,原発事故で,避難等強いられた取引先会社が倒産し,そのために掛金や貸金が回収できなくなったり,商品の売買契約をなし代金も支払っていたが,放射性物質による汚染等で無価値となり,売り主からの履行が不可能になってしまった場合は,債権者が,そのことによる損害を,自らの損害として,民法や原賠法に基づいて,直接,東電に賠償請求することは,原則としてできなさそうである。



〔救済策〕
 少しややこしいが,イ2の第三者が事実行為によって目的たる給付を侵害する場合のような場合は,債権者は,現在は判例上認められる代償請求権(民法536条2項但書,最高裁昭和41年12月23日判決,判タ202号112頁)に基づいて,債務者から,〔家畜の汚損等による〕東電に対する損害賠償請求権の譲渡を受け,それを行使して,救済を受ける余地がある。この場合は,債務者の無資力は要件ではない。
(※最高裁昭和41年12月23日判決,履行不能が生じたのと同一の原因によつて、債務者が履行の目的物の代償と考えられる利益を取得した場合には、債権者は、右履行不能により受けた損害を限度として、債務者に対し、右利益の償還を求める権利があると解するのが相当である。)

 また,ウ2の第三者が事実行為によって債務者の一般財産を減少させた場合は,債権者は,債務者(取引相手=被災者)の無資力を要件として,債務者が東電に対して有する損害賠償請求権を代位行使(民法423条)して,その実現を図る他ないのではないか。
 なお,既に債務者が破産手続きに入っている場合には,債権者は,破産債権者となり,東電に対する損害賠償請求権は破産管財人が行使して回収し,債権者は破産財団の残余によっては債権額の按分での配当を受けるうるにとどまるということになろう。


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2011-06-13 : ・二次的損害,間接被害者等 : コメント : 0 : トラックバック : 0
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原子力損害賠償法について検討してみます。(リンクはご自由に)
なお、引用部分以外は私(一応法律家)の意見ですので、判例・学説・実務等で確定したものではありません。他の考えでも裁判等で争い認められる余地があります。

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