東日本大震災以降,原子力損害賠償法に興味あり,同法と東京電力の責任についても検討してみたい。

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■2条「原子力損害」の意味・範囲 その23 二次的な営業損害

■2条「原子力損害」の意味・範囲 その23 二次的な営業損害

 原発事故により退避等の勧告がなされ,工場が閉鎖させれらた場合に,当該工場の営業損害が「原子力損害」として,賠償の対象となることには,余り問題はなかろう。では,その工場から,原材料や部品等を仕入れていた会社が,仕入れ不能によって,一時生産不能に陥り,このため損害を被った場合,どうなるのか。

 1つの不法行為から,連鎖的に損害が波及するような場面で,どの範囲内の損害を賠償すべきかという問題である。因果関係論について相当因果関係説に立つとき,二次的な損害部分は,通常損害ではなく,特別損害であり,その予見可能性が問題とされることになろう。

 電気,通信等のインフラを破壊してしまったような場合,その利用者が多数にのぼることから損害がどこまでも拡大し膨大になものになってしまうことがある。この場合に,解決する策としては,契約当事者間の問題である場合は,契約によって予め限定することができる。不法行為の当事者間では,予め契約があるというわけではないので,立法や保険によってカバーするという方法がある。


 昭和59年におきた世田谷ケーブル火災事件で,通信ケーブルの焼損で電話回線が途絶し,利用者(飲食店)が発生した営業損害につき,電電公社(現NTT)に損害賠償請求をした事件(東京高裁平成2年7月12日判決,判タ734号55頁)では,裁判所は,民法や国賠法より,賠償額を限定した公衆電気通信法109条の適用を優先させ,電電公社を勝たせた。
------------- 
公衆電気通信法
(損害の賠償)
第百九条 公社は、公衆電気通信役務を提供すべき場合において、その提供をしなかつたため、利用者(電報の受取人及び電話の通話の相手方を含む。以下同じ。)に損害を加えたときは、左に掲げる場合に限り、それぞれ各号に掲げる額を限度とし、その損害を賠償する。但し、損害が不可抗力により発生したものであるとき、又はその損害の発生について利用者に故意若しくは過失があつたときは、この限りでない。
 一 電報が速達の取扱とした郵便物として差し出したものとした場合におけるその郵便物が到達するのに通常要する時間(翌日配達電報にあつては、二十四時間を加算した時間)以内に到達しなかつたときは、その電報の料金の五倍に相当する額
 二 照合とした電報の通信文に誤を生じたとき(問合せの取扱により誤を訂正することができた場合を除く。)は、その電報の料金及び照合の料金の合計額の五倍に相当する額
 三 加入者がその加入電話により通話をすることができない場合において、その旨を電話取扱局に通知した日から引き続き五日以上その加入電話により通話をすることができなかつたときは、その旨を電話取扱局に通知した日後の通話をすることができなかつた日数に対応する電話使用料(その通話をすることができなかつた設備に係るものに限る。)の五倍(定額料金制による加入電話にあつては、二倍)に相当する額及びその電話使用料に附加して支払うべき料金(その通話をすることができなかつた設備に係るものに限る。)の五倍に相当する額
<略>
-------------
 原告側は,この規定では賠償額が限定されすぎていて,公務員の不法行為について定めた憲法17条にも反するとして争ったが,東京高裁は,損害すべての賠償をさせると電電公社としての責務を果たしえないことなどから,立法裁量の範囲内のものとして,控訴人(原告)敗訴としている。このように,この案件では,二次的な営業損害については,法律の規定が存在したことから,賠償範囲の限定が相当とされた。(なお,現在は,電気通信事業法になっている。)



 では,このような法律の規定が存在しない場合に,二次的に拡大した営業損害をどうするのか。これについては,最近出た東京地裁の判例がある。

・東京地裁平成22年9月29日判決,判時2095号55頁
 建設会社がクレーン・ブームを上げたまま台船を航行させ,送電線を切断し,139万戸の大規模停電を発生させた。JR東日本は,これによって列車の運行が一時停止し,損害を被ったとして,建設会社に対して,224万円余の損害賠償請求訴訟を提起した。

「送電線を所有する東京電力が直接に被った損害(切断された送電線の復旧作業に要する費用や、停電に伴って発生した電気料金の値引きによる経済的損失など)については、通常損害の枠内で検討が可能であると考えられるのに対し、電気事業者である東京電力から送電を受けていた別事業者である原告が被った損害については,第二次的に発生したものであり、損害主体が異なる上、本件事故以外の諸種の要因と結びついた特別の事情(原告が東京電力との間で電気供給契約を締結し、電気の供給を受け、鉄道事業に利用していたなど,原告主張の損害の前提となる事情)により生じたものと解されるから、相当因果関係の有無の判断にあたっては,被告ら従業員らにその予見可能性を肯定できるかが問題となる。
 ところで、現代社会において、電力は,国民の日常生活や経済活動等に不可欠のものであり、公共事業である電気事業者から電気の供給を受けている電力需要家は,多種多様かつ無数に存在している。したがって、一旦,電気の供給が停止されると、それらの電力需要家に生じる影響は,非常に広範囲なものとなり、しかも連鎖的に無限に拡大し得る。このような場合において、加害者に故意が認められる場合は別として、加害者が,停電により影響が及ぶ可能性をごく抽象的にでも認識可能であれば、そのすべての損害について予見可能性があったとされるならば、損害賠償の範囲は不当に拡大し、加害者にとって酷な結果をもたらすことになる。
 したがって、本件のような過失による事故を起因とする公共事業の遂行停止に伴う、いわゆる第二次的損害の賠償の要否を判断するに際には、上記のような特殊性も考慮に入れて、その相当性を慎重に検討する必要がある。」
「一般に,送電線が切断された場合に,常に停電が生じるわけではない。」
「一般に,送電線が切断された場合に,常に鉄道事業者に対する送電が停止され,直ちに列車運行が不能になるというわけでもない。」
「本件の送電線が切断されることによって,原告に対する送電が停止され,正常な列車運行ができなくなることについて,当然に被告の従業員らにおいて予見が可能であったともまではいえない。」
「被告の従業員らは,クレーン・ブームを上げたまま本件事故の現場を回航すれば,東京電力の送電線を切断することは予見可能であったといえる。しかし上記認定事実を前提としても,そこから先に進んで,本件の送電線を切断すれば,原告に対する送電が停止され,正常な列車運行ができなくなることはまで,被告の従業員らにおいて予見が可能であったと認めるには足りない。」
「電気事業者は,電気工作物が何らかの事由により損傷した場合には,電気工作物の故障の状況や,保安上の危険等を総合考慮して,どの範囲で,どの程度の時間にわたって電気の供給停止を行うかを判断し,所要の措置をとるものである。そうすると,本件において,本件事故と原告主張の損害発生との間には,東京電力の判断も一要素として介在している。」
「以上によれば,被告の従業員らにおいて,本件の送電線を切断すれば,停電事故が発生するとの予見が可能であったと直ちに断ずることはできないし,仮に停電事故が発生することまでは,予見可能であったとしても,そのことをもって直ちに,原告主張の損害の前提となる特別の事情について,予見可能性があったとみることもできない。」
「本件事故が,送電線が上空に架設されている要注意区域において安全確認等を怠り,クレーン・ブームを上げた状態で台船を進行させたという,決して過失の程度が低くない態様によって生じたものであることを十分考慮に入れてもなお,原告主張の損害の前提となる特別の事情について予見可能性を肯定するのは相当でなく,本件においては,相当因果関係があるものと認めることはできない。」


 この東京地裁判決では,電力会社が直接に被った損害については、通常損害の枠内で検討が可能であると考えられるのに対し、別事業者であるJRが被った損害については,第二次的に発生したものであり、損害主体が異なる上、本件事故以外の諸種の要因と結びついた特別の事情により生じたものと解されるから、相当因果関係の有無の判断にあたっては,被告ら従業員らにその予見可能性を肯定できるかが問題となるとしている。

 要するに

・相当因果関係説に立ち
・二次的な営業損害を特別損害と位置づけ
・予見可能性を検討する

というものであり,従来の判例の判断姿勢と何ら異なるものではない。

 不法行為の成立要件として,通説では,相当因果関係を要求し,通常の事情から通常生ずる損害については,加害者側の予見可能性の有無を問題とせずに当然に賠償すべきものとし,その他の特別な事情から生じる損害については,予見可能性がある限りにおいて,賠償すべきものとされる(民法416条類推)。〔過失論で問題となる「予見可能性」とは別のもの〕

 
・特別損害の賠償の要件としての「予見可能性」の内容については,以下の点が問題となろう。

1 認識の程度
2 故意不法行為と過失不法行為で区別するか
3 可能性判断の要素
4 誰を基準とするか
5 判断基準時
6 裁判所による予見可能性の認定は,事実としての予見可能性の認定か,予見すべき範囲の画定か。


 先の判例では,

1 公共事業のように損害が無限に拡大する可能性ある場合には,予見可能性の程度については,抽象的なものでは足りないとするようである。

2 また「加害者に故意が認められる場合は別として」とあり,故意と過失とで,別の判断の余地があることが示されている。

3 可能性判断の要素
 この判決では,①クレーン・ブームを上げたまま回航で送電線切断に至ること,②送電線切断で停電に至ること,③停電に至ると電車の運行が止まることのうち,①については従業員の予見可能性を認めたが,②については,送電線について二系統あり,ひとつ切断してももうひとつあるので,切断が直ちに停電に結びつくものではないことから予見可能性を否定した。また,仮に②について予見可能性があっても,③については,電力会社による電気供給停止についての判断の介在もあることから,その予見可能性を否定している。

4 また,この判決では,認識可能性判断は,当該従業員の認識を基準にしている。

5 判断基準時は,不法行為時。

6 裁判所による予見可能性の認定は,事実としての予見可能性の認定か,価値判断を含む予見すべき範囲の画定かという問題について,この判例では,インフラ破壊で損害が膨大に膨らみ加害者に酷な結果となるのは不当として,慎重な検討が必要とのべており,とちらかと言えば後者か?


 前述のとおり,電気や通信設備の破壊などで,損害が莫大に広がる可能性がある場合に,それを契約や,立法,保険等でカバーする法技術も考え得るが,それが現になされていない場合に,拡大損害をどうするのかという問題である。

 究極的には損害の公平な分担という観点から,妥当な結論をどのように導くかという問題であり,個別事案ごとに考量すべき事情があろう。電気,電話,公共交通機関など,インフラの破壊では,多数の人に迷惑がかかり,損害が膨大なものになる可能性がある。この場合,加害者の賠償範囲を限定すると,その分被害者が泣き寝入りということになり,他方,被害者が完全な賠償を受けるとなると加害者が莫大な賠償義務を負担することになり酷な結果になるおそれがある。この両者をどの点で調和させるのかという問題で,利用者が,インフラが使用できなくなった場合に損害発生拡大についてどの程度の準備をしておくのが普通なのかということなど,被害者側の受忍すべき程度も問題となろう。



 原発事故の場合,インフラの破壊というものではないが,それよりひどく,放射性物質による汚染で,複数の町村を完全に使用できなくさせたものであって,そこで発生した損害から,二次,三次と営業損害が波及していく点は似ている。

 予見可能性については,故意不法行為ではない場合に,損害の拡大についての抽象的な認識では足りないものとするとして,その判断を誰を基準にするかという問題がある。
 原発事故で無過失責任を問われるような事案で,従業員が具体的に何かの故意又は過失ある不法行為を為したという場合でないときは,取締役ら業務執行の意思決定機関の構成員の認識を基準とする他ないのではないか。

 特別損害が賠償対象となるには,①特別事情についての予見可能性と,②その特別事情から一般通常人を基準してその結果が生じることが通常であること(相当性)が必要であるはずで,①は事実認定として,誰が具体的にどのような事実を認識し,又は,認識しえたかという問題であろうし,②は規範的要件としての「相当性」の問題であり,当事者は,その根拠となる事情を主張立証することになるはずである。
 ただし,契約当事者間の債務不履行による損害(民法416条)のように,契約相手の事情等の把握が現に期待できる場合は別として,不法行為のように全く相手のことなど知らないのが原則である場合に,仮に予見可能な特別事情に基づく通常損害というものを観念しうるとしても,その具体的認定においては,ある特別な事実の認識ないしその認識可能性の問題とはされず,通常は常にそうなるとまでは言えない程度の特異な因果経路について,それを現に予見しまたは予見し得た場合に責任を負わせるという思考方法になるのであろう。

 先の判例の判断態度は,要するに,常にそうなるとは言えない程度の特別な因果経路であっことと,そのような因果経路を辿ることを従業員が認識しておらず,その可能性もなかったことから,予見可能性を否定するというものであろう。特別な因果経路であることの認定を厳しめにし,その認識可能性も厳しめに認定すると,こうなるのだろう。

 そこで,この判決なみに予見可能性を厳格に考えると,工場が止まっても,そこで作られている部品が,常に他の会社にとって,他に代替品のない決定的に重要なものであるとはいえないことから,原発事故時〔不法行為時〕に,〔原子力事業者の意思決定機関の構成員の認識において〕,原発事故により退避勧告等で損害をうけた市町村内に部品工場等が存在し,その部品が他の会社の製品製造に不可欠なものであり,他に代替品もなく,その工場の操業停止によって,他社に営業損害が生じうることを現に認識し,またはそのような事実の認識が可能であった場合に,初めて予見可能性のある特別損害として賠償対象となるということになろうか。


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2011-05-31 : ・二次的損害,間接被害者等 : コメント : 0 : トラックバック : 0
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原子力損害賠償法について検討してみます。(リンクはご自由に)
なお、引用部分以外は私(一応法律家)の意見ですので、判例・学説・実務等で確定したものではありません。他の考えでも裁判等で争い認められる余地があります。

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