東日本大震災以降,原子力損害賠償法に興味あり,同法と東京電力の責任についても検討してみたい。

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■2条「原子力損害」の意味・範囲 その21 風評被害 賠償範囲を限定する道具立て

■2条「原子力損害」の意味・範囲 その21 風評被害 賠償範囲を限定する道具立て

 原賠法では,無過失責任をとっているため,加害者側の「過失」の有無によって,その責任の範囲を画することはできない。
 ただし,風評被害だけでなく,他の「原子力損害」や不法行為に基づく損害一般について,その範囲を画するものとしては,「過失」以外に以下のようなものが考えられる。〔相当因果関係説に立つとして、広い意味では下のABCは相当因果関係の有無の認定の問題〕


A 事実的因果関係
 1 条件関係
〔2 反復可能性〕
 3 因果関係の中断論

B 相当因果関係
 1 通常損害と特別損害の別
 2 特別損害については予見可能性

C 損害
 1 損害の有無の認定
 2 損害額の評価

D 過失相殺(民法722条2項),被害者の素因等の原因の競合
 1 過失相殺
 2 原因の競合(被害者の素因等)



 風評被害について,不当請求や過剰請求を防ぐとして,

・原発事故と全く関係のない理由による減収
→(A)事実的因果関係なしとして,排除

・風評はあったものの実際には減収がなかった場合
→(C1)損害の有無の認定で排除

・風評による減収があったが,過大な評価で請求がなされた。
→過大評価部分については,(C2)損害額の評価で排除

・風評による減収があったが,損害拡大に被害者側の落ち度があるとき
→(D1)過失相殺で調整

・原発事故を起点とするが,風評の発生,流布について第三者の不法行為や犯罪行為が介在して発生した風評による損害
→その程度によっては,(A3)因果関係の中断で,事実的因果関係否定
→(B1)相当因果関係における「相当性」の問題とし通常損失としては排除。ただし,B2予見可能性がある場合には,特別損失も賠償対象となる。

 たとえば,原発事故後,ある輸出業者が,原発近隣県で収穫された汚染作物を,それと知りながら,意図的に産地偽装して,それまで全く汚染作物がとれたことのない離れたa県産として,外国に輸出したため,その国の検査の結果,当該a県産作物の輸入禁止措置がとられ,それによってa県の農家等が損害を被った場合。
 この場合は,かなり特殊な因果経路で,a県農家が被害を被ったものといえ,場合によっては,原発事故との相当因果関係が否定されることもあり得る。この場合でも,何か特別な事情があって加害者側がそのようなことの経緯を予見できていた場合には,予見可能な特別損害として,相当因果関係は肯定されるかもしれない。

・原発事故からくる風評で,一般消費者の合理的判断結果として(社会通念上是認できる判断として)の買い控えによって発生した被害
→判例等のどの理論によっても排除されず。「原子力損害」に該当

・原発事故からくる風評で,一般通常の消費者の合理的とはいえない(社会通念上是認できない判断による)買い控えによって発生した被害
→判例の理屈では,おそらくそれは異常な因果経過であって,通常発生する結果ではなく,(B1)通常損害には該当せず,また,仮に特別損害としても,そのような結果は(B2)予見可能性がないので,いずれにせよ「相当因果関係」がないとして排除

※平成元年5月17日・名古屋高等裁判所金沢支部判決(判タ705号108頁)
 敦賀原発風評被害訴訟。昭和56年1月敦賀原発において,日本原子力発電が,放射性物質を漏洩させた事故に関するもの。事故事実の公表後,風評被害が広がり,水産市場関係者が,売上げ減少による損害の賠償につき,日本原子力発電株式会社を訴えた。
「消費者の個別的心理状態が介在した結果であり,しかも,安全であっても食べないといった,極めて主観的な心理状態であって,同一条件のもとで,常に同様の状態になるとは言い難く,また一般的にも予見可能性があったともいえない。すると,本件浦底湾における人体に影響のない微量の放射能漏れと敦賀の消費者の金沢産魚介類の買い控えとの間には,相当因果関係はないというべきである。」

 このような風評被害の場合に,相当因果関係の判断に関し,消費者の判断の合理性(一般に是認できるか否か)を問うという態度については,これまでも疑問があると述べてきた。

 もともと民法における相当因果関係論は,ある行為があって,そこから因果経路をどこまでもたどっていくと,意外なところにまで及ぶことがあり,そのような損害まで,全て加害者に負担させるのは適当ではないということから,事実的因果関係を前提に,相当因果関係を要求し,それによって,その意外な結果〔一般通常人を基準に,その原因からその結果が生ずることが通常とはいえないもの〕の責任負担を除こうとするものである。
 したがって,本来,因果関係の相当性は,「その原因からその結果が生じる」のが,一般通常人の認識として通常といえるのかという点が問題であるのに,上の風評被害の判例では,「消費者の買い控えの判断が,一般通常人の判断として通常といえるのか」という問題に置き換わっていて,これには論理の飛躍があると言わざるを得ない。

 以前から述べているが,そもそも一般通常人の判断の合理性とか,社会通念上是認できるか否かを問題とするには,危険性の認識の程度や,それに対する対処方法や受忍限度について,ある程度の社会的コンセンサスがあるような場合ならまだしも,一切放射性物質が漏洩せずにうわさのみで発生したような風評被害のような場合とちがって,今回は,基準値を超える食品の汚染が現実に出てきた事案であって,そのような異例な事態において,一般通常人を想定して,その消費行動が是認できるか否かを,判断すること自体無理があるのではないか。

 また,仮に,そのような場合にも,一般通常人の合理的判断,社会通念上是認できる判断というものが想定できたとしても,現に一部消費者に買い控えが起きている場合に,それを不合理,過剰なものとして,相当因果関係無しとできるのだろうか。
 通常,問題となる農作物などの生産物は,一人の取引相手に向けて作られたものではなく,多数に消費者に向けられて作られている。多数の消費者に中には,微量の汚染など気にしない人と,過敏に反応する人が混在しているのは明白であって,今回のような事故が起きれば,それが仮に科学的に概ね安全であるとしても,全体として見れば,一定数の過敏な消費者が買い控えに出て,価格低下,売上げ減少に至ることは通常のことであって,通常損害といえ,因果関係の相当性は当然にあるといわざるを得ない。
 
 仮に,多数の消費者の回避行動を,全体として観察することが許されないとし,過敏な消費者の個別の判断はやはり特異なものであるとして,通常損害とは言えないとしても,もともと農作物等が多数の消費者に向けられて作られるものであり,かつ,さまざまな考えを持つ消費者の中には過敏な反応をする人も一定数いることは明白なのであり,そのような消費者の回避行動があり得ることは,容易に予見できるのであり,予見可能性ある特別損害として,相当因果関係は肯定されるのではないか。

 このように解しても,生産者は,事故後の風評の広がりによって,放射性物質による汚染を恐れた消費者が買い控えをして(事実的因果関係),その結果,現実に減収が生じたこと(損害)までは立証しなければならないのであり,敦賀原発風評被害訴訟などでは,前記のAとCだけで十分に妥当な判決を導き得た事例であり,相当因果関係の問題とする必要はそもそも無かったものである。

 結局,風評被害の場合に,相当因果関係の判断を,その回避行動が一般通常人を基準として是認できるか否かという基準で行うのは,前述のとおり,理論の飛躍がある上に,汚染が全くないと確実にいえる事案以外にまで適用することの妥当性に問題があり,さらに,他の既存の道具立てだけでも十分に適正な結論を導きうるのであり,少なくとも個別事案を担当する裁判手続きにおいては,その必要性は乏しいといわざるをえない。

 このように個別事案の判断においては,相当因果関係の判断を,回避行動が一般通常人を基準として是認できるかという基準で行う必要は全くないと思うが,迅速大量画一的処理が要求されるような紛争審査会の指針ようなものでも,この基準にこだわる必要はなく,どのみち場所や作物等により何らかの類型化をするわけであろうが,原発や汚染地域からの距離的要素は,単に,A事実的因果関係を推認させる要素とみてよいし,各産地や作物に関する区別や報道等の消費者を取りまく状況も,放射性物質への恐れから買い控えに出たこと〔他の理由による買い控えでないこと。合理性の有無は問わない〕を示す要素であり,A事実的因果関係を推認させる要素なのであって,これらを因果関係の「相当性」判断に関する類型と位置づける必要はない。


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2011-05-27 : ・風評被害 法律的な理屈 : コメント : 0 : トラックバック : 0
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原子力損害賠償法について検討してみます。(リンクはご自由に)
なお、引用部分以外は私(一応法律家)の意見ですので、判例・学説・実務等で確定したものではありません。他の考えでも裁判等で争い認められる余地があります。

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