東日本大震災以降,原子力損害賠償法に興味あり,同法と東京電力の責任についても検討してみたい。

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■2条「原子力損害」の意味・範囲 その20 風評被害 観光業について考える

■2条「原子力損害」の意味・範囲 その20 風評被害 観光業について考える

 これまで裁判で、原子力関連施設の事故による風評被害が問題となった事案は、食品や不動産に関するものであり、観光業等のサービス業が問題となった判例は,今のところ見たことがない。またJCO事故のときも、問題とならなかったようで、特に指針には示されていない。
 したがって、観光客が,キャンセルしたり、行かないことにしたり、そういった消費者の回避行動について、裁判所がどのように因果関係を判断するのかは不明であるが、今回の紛争審査会では、その論点レジュメで「一般的基準としては、消費者や取引先が当該商品・サービスについて、本件事故による放射性物質による汚染の危険性を懸念し、敬遠したくなる心理を一般に是認できる場合を、相当因果関係のある損害と認める」とあり、商品もサービスもそのような心理を一般に是認できるかという観点から、判断しようとするようである。

 そこで、観光業の風評被害について因果関係がどうなるのか考えてみたい。


〔土地の客観的状況〕
① 汚染がひどく、立ち入りが禁止されている。
② 立ち入り禁止ではないが、計画的避難区域や緊急時避難準備区域など、なんらかの指定地域になっている。
③ ②まで以外の事故発生県全域(福島県)
④ ③まで以外で、基準値を超える農作物が検出されるなどして、土地の汚染が懸念される近隣県
⑤ ④まで以外で、微量ながら土地、水等から放射性物質が検出された東日本全域。
⑥ ⑤まで以外で、日本全域
⑦ 国外

〔消費者の希望のレベル〕
① 原発の現状も汚染も一切気にしない。
② 原発事故悪化による混乱や汚染の恐れがあるので、避難地域や避難準備地域に指定されているところには行きたくない。
③ 原発事故悪化による混乱や汚染の恐れがあるので、福島県には行きたくない。
④ 基準値を超える農作物が検出されるなどして、土地の汚染が懸念される近隣県には行きたくない。
⑤ 微量ながら土地、水等から放射性物質が検出された県には行きたくない。
⑥ 東日本には行きたくない。
⑦ 日本には行きたくない。

〔検査について消費者の疑いのレベル〕
①公的機関の発表する土地や食品等についての検査や基準値を信頼している。
②公的機関の発表する土地や食品等についての検査や基準値を信頼していない。

〔消費者の有する情報のレベル〕
① 避難等指定地域や、基準値を超える作物のとれた土地など、汚染情報を知っている、または、調べる能力がある。
② 原発の現状や汚染情報を知らない、かつ、調べる能力も期待しにくい(外国の個人など)。


 まず,日本国内にいて日本語ができれば,ある程度,避難準備区域とか土地の汚染状況等の客観的状況は調べれば分かるとして,食料品に対する判例の理屈を,そのままあてはめると,個人がどの程度の忌避をするのが,一般通常人を基準に合理的といえるか,社会通念上是認できるかという観点から判断することになろう。
 上の①立入禁止されてる地域は論じるまでもないとして,②の避難準備地域あたりまでは,当然に忌避は合理的といえるかもしれない。それ以外の地域については,③未だ原発事故が収束しない福島県には行きたくないとか,④土地の汚染が懸念される近隣県には行きたくないということになると少し微妙になってくるのではないか。さらに⑤東日本全域となると難しくなり,⑥日本全土については,外国人個人となると得られると情報との関係も問題となる。

 何度か論じたが,もともと考え方の違う多数の消費者の消費行動によって発生する風評被害について,「一般通常人を基準に合理的といえるか」という基準で,相当因果関係を判断するという考え方に問題があって,原発から放射性物質が広範囲にまき散らされるという事故は,我が国では初めてものであり,低線量被爆についての危険や受忍限度についての社会的コンセンサスのようなものは無いのであり,一般通常人の合理的判断などというものを観念しうるのかという点がそもそも問題である。
 それを無理に観念すると国や公的機関,専門家が安全という範囲は安全であると判断するのが通常人で,それを忌避するのは是認できないということになるのかもしれないが,政府参与が辞任した件などを見ると,専門家でも低線量被爆については確実なことはいえないようで,〔大気も土壌も食品も一切汚染が無い,あるいは原発事故前と変わりないということがはっきりしている場合は別として〕,いかなる行動が一般通常人の合理的なものと言えるのかという点ははっきりしない。また,食品を一切買わないという判断はできないが,生活上不可欠のものではない旅行については,行かないという判断ができるのであり,ささいな危惧でも回避行動にでる可能性が高いことを考えると,仮に,かなり厳しめに判断したとしても,忌避対象は相当広範囲になる可能性があり,また,情報の得にくい外国人客などは,その国による渡航自粛がある場合はもちろん,そうでなくても日本に全土について,今年は行かないことにするという判断は,十分に考えられるのであって,こうなると日本全土が忌避対象になっていることは否定できないのではないか。
 日本全土の観光業の風評被害について,その全部を賠償対象とすることへの違和感があるとしたらそれは,今回の災害が大規模自然災害とともに発生したもので,原発事故や放射性物質に対する危惧のみから旅行を取りやめた客以外にも,余震や地震津波後の混乱等から旅行を取りやめた客や,その両方の理由から取りやめた客がいることからくるのであって,それは本来,理論的には,事実的因果関係の有無や,原因が競合した場合の責任負担をどう考えるのかという問題であり,相当因果関係の有無の問題として扱うべきものではなかろう。

 これも前に触れたが,ここでも考えてみる。

A 原発事故由来の理由
・原発事故の悪化による被災を避けたい。
・土壌,水,大気,食物等の汚染を避けたい。
・原発事故からくる社会的混乱から距離をおいていたい

B 原発事故以外の理由
・余震,その他地震,津波等の自然災害が再度起きないか心配
・自然災害後の社会的混乱から距離をおいていたい。
・全く無関係な個人的理由。

C AとB両方の理由が合わさったもの。


 Aの理由のみからくるキャンセル等は,原発事故に起因するものであって,当然,賠償対象として検討されるべきであろう。
 Bの理由のみによるキャンセル等は,原発事故と全く関係がなく発生したものであり,そもそも事実的因果関係が否定されるので,賠償対象とはならないだろう。
 Cの賠償については,以前も触れたが,その全部を否定,全部を肯定,一部を肯定する考え方がありうる。

 これらABCが実際の観光業の減収分のどの程度の割合になるのかは,ある程度統計等の資料や,キャンセル等の内容から判定していくしかないだろう。実際の裁判ならば,個別に当事者が主張立証しあって,その妥協点を見つけていって和解ということもあるだろうが,一律に基準を出すとなると,賠償金の払いすぎを避けるのを重視する限り,業者側には不利なものとなるだろう。これは困難な作業であるが,相当因果関係の問題とする立場でも,同じ問題は背負い込むのであって,観光業のような場合は,これは避けようがない。
 Aの関係では原発や汚染地域からの距離が重要な要素ではあろうし,阪神大震災など大災害時の統計資料や,SARS騒ぎの時の風評被害の統計とか,公平なアンケート調査とかいくらか使えるものがあるかもしれない。また,キャンセル内容として,原発から遠ざかるタイプの旅行〔東京から沖縄への旅行〕の取りやめや,汚染が考えられない地域間の旅行〔沖縄本島から石垣島への旅行〕の取りやめが,放射能汚染への恐れからくる可能性は低いことなど,いくらかはっきりしていることはあるかもしれない。
 
 
 一番問題となるものと思われるのは,Cの部分である。ベン図を書くと,Aの円〔原発が理由〕と,Bの円〔原発以外の理由〕の二つの交わる部分をどうするか,人の心理の問題であって,これをどちらか1つとして分けることはできないだろう。
 Bの理由のうち,大震災も自然災害も何も起きなくても例年一定数は存在したはずの個人的理由によるキャンセル部分は除くとして考えると,Cの交わり部分は,自然災害と原発事故との競合によって,消費者にもたらされた心理であり,自然力が競合して発生した損害の問題と似ている。

 Bのみを理由とするものについては,前記のとおり,事実的因果関係がないものとして当然はずされるとして,原発事故がなくとも,それはあったとも思われるCの部分については,あれなければこれなしという不可欠条件公式との関係で,その事実的因果関係が問題となろう。

 刑法学の理屈にように,Cの部分を考えてみると。

ア Aのみでその回避行動は起きえた。Bのみのでは起きなかった。
イ Bのみでその回避行動は起きえた。Aのみでは起きなかった。
ウ A,Bともに単独でも,その回避行動は起きえた(択一的競合,累積的因果関係。なお民法学ではこちらを重畳的競合という。)。
エ A,Bともに単独では,その回避行動は起きず,合わさって初めて起きた(重畳的因果関係)。

アの場合は,不可欠条件公式に適合し,条件関係は肯定される。
イの場合は,不可欠条件公式に適合せず,条件関係は否定される。
ウの場合は,刑法ではその理屈と結論にともに争いがある。民法では,この場合に条件関係を否定するという結論はとらない。
エの場合は,不可欠条件公式に適合し,条件関係は肯定される。

 観念的に考えれば,Cの部分に関し,上のイのように,自然災害(B)のみでも十分に起きえた回避行動で,かつ,原発事故(A)のみでは起きなかったであろう回避行動については,原発事故との関係では,事実的因果関係が否定されて,賠償の対象とはならないということになろう。〔原発から遠く離れた震災津波被災地で,国内客のみを考えた場合など?。ただし,通過経路に原発や汚染地がある場合は,そうとも言えない?〕
 もっとも,これらは人の心理に関するものであって,毒薬の分量のように正確に計量できるものではなく,Cの部分については,あまり問題なく条件関係は肯定されるのではなかろうか。

 とすると,Cの交わり部分については,原則として賠償対象となると考えることになろうか。


 これに対して,Cの部分については,いくらかは自然力が作用したものであって,それを一方当事者である原子力事業者のみに,負わせるのは公平ではないという価値判断もあろう。
 その場合,Cの部分全部を減責するという考えについては,自然力による損失部分を全部被害者に振り向けることになって,被害者保護という不法行為規定の目的を反するという批判もあろう。
 Cの一部の減責を考えるとすると,その理屈をどうするのか,その割合をどうするのかという問題があるだろう。



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2011-05-26 : ・風評被害 : コメント : 0 : トラックバック : 0
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原子力損害賠償法について検討してみます。(リンクはご自由に)
なお、引用部分以外は私(一応法律家)の意見ですので、判例・学説・実務等で確定したものではありません。他の考えでも裁判等で争い認められる余地があります。

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