東日本大震災以降,原子力損害賠償法に興味あり,同法と東京電力の責任についても検討してみたい。

スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。
-------- : スポンサー広告 :
Pagetop

■18条 原子力損害賠償紛争審査会 その7 原子力損害の範囲の判定等に関する第二次指針

■18条 原子力損害賠償紛争審査会 その7 原子力損害の範囲の判定等に関する第二次指針


東京電力株式会社福島第一、第二原子力発電所事故による原子力損害の範囲の判定等に関する第二次指針
http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chousa/kaihatu/016/houkoku/1306698.htm

---------------------------------

「東京電力(株)福島第一、第二原子力発電所事故による原子力損害の範囲の判定等に関する第二次指針」

平成23年5月31日
原子力損害賠償紛争審査会

第1 はじめに
1 平成23年4月28日に「東京電力(株)福島第一、第二原子力発電所事故による原子力損害の範囲の判定等に関する第一次指針」(以下「第一次指針」という。)を決定・公表した。
 第一次指針においては、その対象とされなかった損害項目やその範囲、具体的な損害額算定方法等について、今後検討することとされた。

2 これを受けて、このたびの指針(以下「第二次指針」という。)においては、第一次指針の対象とされなかった損害項目や範囲のうち現時点で追加的に提示することが可能な事項につき、基本的な考え方を明らかにするとともに、同指針の対象とされた損害項目の一部につき具体的な損害額算定方法の考え方を明らかにする。
 具体的には、①「政府による避難等の指示に係る損害」として、「一時立入費用」、「帰宅費用」、「精神的損害(避難生活等を余儀なくされたことによる精神的損害)」、「避難費用の損害額算定方法」、「避難生活等を余儀なくされたことによる精神的損害の損害額算定方法」、②「政府等による出荷制限指示等に係る損害」として、「出荷制限指示等の対象品目の作付断念に係る損害」、「出荷制限指示等の解除後の損害」、③「政府等による作付制限指示等に係る損害」及び④「いわゆる風評被害」を対象とした。

3 なお、第一次指針及び第二次指針で対象とされなかったものが賠償すべき損害から除外されるものでないことは、第一次指針の「第1 はじめに」の2で述べたとおりであり、これらについても、今後検討する。

第2 政府による避難等の指示に係る損害
[損害項目]
1 一時立入費用
(指針)
政府の指示により避難等した者のうち、警戒区域(避難区域でもある。以下同じ。)内に住居を有する者が、市町村が政府及び県の支援を得て実施する「一時立入り」に参加するために自己負担した交通費、家財道具移動費用、除染費用等(前泊や後泊が不可欠な場合の宿泊費等も含む。以下同じ。)は、必要かつ合理的な範囲内において、賠償の対象となる。
(備考)
1) 政府による避難等の指示を受けて対象区域に係る避難等を余儀なくされた者のうち、原則として立入りが禁止されている警戒区域(東京電力(株)福島第一原子力発電所から半径20km圏内)の中に住居を有している者(但し、同発電所から半径3km圏内に住居を有している者などを除く。)は、平成23年5月10日以降、当面の生活に必要な物品の持ち出し等を行うことを目的として市町村が政府及び県の支援を得て実施する「一時立入り」に参加して一時的に住居に戻ることが可能となった。
 その「一時立入り」の方法は、参加者が「一時立入り」の出発点となる集合場所(中継基地)に集合し、地区ごとに専用バスで住居地区まで移動することとなっている。
2) しかしながら、対象区域外滞在をしている場所から上記集合場所までの移動に際して、その往復の交通費等の自己負担が発生する場合、また、上記集合場所から住居地区までの交通費、人及び物に対する除染費用、家財道具(自動車等を含む。)の移動費用等について、自己負担が発生する場合も否定できない。
 このような「一時立入り」への参加に要する費用についても、本件事故により避難等を余儀なくされた者が、同事故による放射性物質の放出により住居を含む警戒区域内への立入りが原則として禁止されたことに伴い、住居から当面の生活に必要な物品の持ち出し等を行うために必要な費用であるから、本件事故と相当因果関係のある損害と認めることができる。
 したがって、上記のように「一時立入り」に参加するために参加者が自己負担した交通費、家財道具移動費用、除染費用等(前泊や後泊が不可欠な場合の宿泊費等も含む。以下同じ。)については、それが必要かつ合理的な範囲内において、賠償の対象となる。
3) なお、その際の交通費等の算定方法については、後記[損害額算定方法]の1に同じ。

2 帰宅費用
(指針)
 本件事故により避難等を余儀なくされた者が、対象区域内の住居に戻るために負担した交通費、家財道具の移動費用は、必要かつ合理的な範囲内において、賠償すべき損害となる。
(備考)
1) 平成23年4月22日に屋内退避区域の指定が解除されたことに伴い、対象区域外滞在をしていた者の一部は、同区域内にある住居に戻ることが可能となった。
 そして、このように帰宅するために負担した交通費や家財道具の移動費用については、第一次指針の第3の2で述べた避難費用と同様、それが必要かつ合理的な範囲内において、賠償すべき損害となる。
2) なお、その際の交通費、家財道具移動費用の算定方法については、後記[損害額算定方法]の1に同じ。
3 精神的損害(避難生活等を余儀なくされたことによる精神的損害)
(指針)
Ⅰ) 本件事故により避難及びこれに引き続く対象区域外滞在を余儀なくされた者が、自宅以外での生活を長期間余儀なくされ、正常な日常生活の維持・継続が長期間にわたり著しく阻害されたために生じた精神的苦痛の部分については、賠償すべき損害と認められる。
Ⅱ) 同様に、本件事故により屋内退避を余儀なくされた者が、行動の自由の制限等を余儀なくされ、正常な日常生活の維持・継続が長期間にわたり著しく阻害されたために生じた精神的苦痛の部分については、賠償すべき損害と認められる。
(備考)
1) 第一次指針の第3の4の(備考)の2)で述べたように、本件事故による精神的苦痛のうち、少なくとも避難等対象者の相当数は、その状況に応じて、①避難及びこれに引き続く対象区域外滞在を余儀なくされたことに伴い、自宅以外での生活を長期間余儀なくされ、あるいは、②屋内退避を余儀なくされたことに伴い、行動の自由の制限等を長期間余儀なくされるなど、避難等による長期間の精神的苦痛(以下、併せて「避難生活等を余儀なくされたことによる精神的損害」という。)を被っており、少なくともこれについては賠償すべき損害と観念することが可能である。
 したがって、この精神的損害については、合理的な範囲内において、賠償の対象となる。
なお、この精神的損害の算定方法については、後記[損害額算定方法]の2に記載する。
2) その他の本件事故による精神的苦痛として、例えば相当量の放射線に曝露したため健康状態に対する具体的な不安感を抱くことによる精神的苦痛など、様々なものが考えられるが、これらが賠償の対象となる損害に該当するか否かを含め、今後、引き続き検討する。

[損害額算定方法]
1 避難費用の損害額算定方法
(指針)
Ⅰ) 避難費用のうち「交通費」、「家財道具移動費用」、「宿泊費等」については、避難等した者が現実に自己負担した費用が賠償の対象となり、その実費を損害額とするのが合理的な算定方法と認められる。
 但し、領収証等による損害額の立証が困難な場合には、客観的な統計データ等を用いて推計することにより損害額を立証することも認められるべきである。
Ⅱ) 他方、避難費用のうち「生活費の増加費用」については、原則として、避難生活等を余儀なくされたことによる精神的損害の額に加算し、その加算後の一定額をもって両者の損害額とするのが合理的な算定方法と認められる。
 その具体的な方法については、後記[損害額算定方法]の2のとおりである。
(備考)
1) 第一次指針においては、避難費用のうち「交通費」及び「家財道具移動費用」については、実費を賠償する方法が原則であるが、被害者の早期の救済のため一定金額を平均的な損害額と算定した上、対象者全員に一律に支払うことが考えられるとし、その平均的損害額については今後早急に検討するとしていた(第一次指針の第3の2(備考)2)参照)。
 また、避難費用のうち「宿泊費等」についても、宿泊場所等によって正義に反し公平さを欠く結果とならないよう、①実際に宿泊費等を負担したか否かにかかわらず、避難生活を送っている者全員に平均的な宿泊費等を一律に賠償することとするか、あるいは、②体育館、公民館、避難所等に宿泊する場合には、精神的苦痛がより大きいとして慰謝料の金額を増額するなど、一定の調整をする方法が考えられるが、これらについてできるだけ早急に検討するとしていた(第一次指針の第3の2(備考)4)参照)。
2) しかしながら、その後に避難等した者らの避難状況及び支出状況等を一定程度調査したところによれば、一回的な支出である「交通費」及び「家財道具移動費」については、これらを自己では負担していない者も少なくなく、また、最終避難先が全国に及び、その交通手段が多様化していることから、自己負担している者の間でもその金額には相当の差異があると推定された。また、「宿泊費等」についても、地方公共団体等が負担している場合が多く、継続して自己負担している者は比較的少数に止まると認められる上、自己負担した金額も宿泊場所に応じて相当の差異があると推定された。したがって、これらの損害項目につき、一定額を「平均的損害額」として避難等した者全員に賠償するという方法は、必ずしも実態に即しておらず、また、公平でもないと考えられる。
 また、原則どおり実費賠償とした場合、費用の立証が問題になるが、仮に領収証等でその金額を立証することができない場合には、客観的な統計データ等により損害額を推計する方法、例えば自己所有車両で避難した場合の「交通費」であれば、避難先までの移動距離からそれに要したガソリン代等を算出し、また、「宿泊費等」であれば、当該宿泊場所周辺における平均的な宿泊費等を算出してこれを損害額と推計するなどの方法で立証することも認められるべきである。こうした対応により、これらの費用につき、原則どおり実費賠償としたとしても、被害者に特段の不利益を生じさせるとまでは認め難い。
 以上のことから、避難費用のうち「交通費」、「家財道具移動費」、「宿泊費等」については、対象者が全員同一の平均的損害額を被った、あるいは、平均的費用を負担したと仮定して金額を算定するとの方法を採ることなく、原則どおり、上記各損害項目を自己負担した者のみが、合理的な範囲内において、その実費の賠償を受けるのが公平かつ合理的である。
3) 他方、避難費用のうち「生活費の増加費用」については、第一次指針において、避難等により増加した食費等は賠償の対象となり得るとしていた(第一次指針の第3の2(備考)3)参照)。
 しかしながら、避難等により生ずる「生活費の増加費用」は、避難等した者の大多数に発生すると思われる上、通常はさほど高額となるものではなく、個人ごとの差異も少ない反面、その実費を厳密に算定することは実際上極めて困難であり、その立証を強いることは被害者に酷である。
 また、この「生活費の増加費用」は、避難等及びこれに引き続く対象区域外滞在又は屋内退避における生活状況等と密接に結びつくものであることから、「避難生活等を余儀なくされたことによる精神的損害」に加算して、両者を一括して一定額を算定することが、公平かつ合理的であると判断した。
 但し、上記のように「避難生活等を余儀なくされたことによる精神的損害」の加算要素として一括して算定する「生活費の増加費用」は、あくまで通常の範囲の費用を想定したものであるから、避難等した者の中で、特に高額の「生活費の増加費用」の負担を余儀なくされた者がいた場合には、そのような高額な費用を負担せざるを得なかった特別の事情がある場合にのみ、別途、合理的な範囲内において、その実費の賠償が認められる。

2 避難生活等を余儀なくされたことによる精神的損害の損害額算定方法
(指針)
Ⅰ) 避難生活等を余儀なくされたことによる精神的損害の損害額については、前記[損害額算定方法]の1の「生活費の増加費用」と合算した一定の金額をもって両者の損害額と算定するのが合理的な算定方法と認められる。
Ⅱ) また、具体的な算定に当たっては、宿泊場所等によって、生活環境、利便性、プライバシー確保等の点からみて精神的苦痛の程度は異なると考えられるため、以下の順序で段階的に金額の差を設けることが考えられるが、なお引き続き検討する。
① 避難所・体育館・公民館等
② アパート・借家・公営住宅・仮設住宅・実家・親戚方・知人方等
③ ホテル・旅館等
Ⅲ) また、④屋内退避を長期間余儀なくされた者については、自宅で生活しているという点では上記①ないし③のような精神的苦痛は観念できないが、他方で、外出等行動の自由を制限されていることなどを考慮し、上記③の金額を超えない範囲で損害額を算定することが考えられるが、なお引き続き検討する。
(備考)
1) 第一次指針においては、「避難生活等を余儀なくされたことによる精神的損害」については、①避難等における生活状況等に応じて避難等対象者を類型化した上、段階的かつ合理的な差を設けるなどして、類型化された対象者ごとに共通する一定の精神的損害及びこれに対する賠償額を認めることや、②宿泊場所にかかわらず一定額を算定して、これをもって両者を併せた損害額と認定することなどが考えられ、あわせて今後検討するとしていた(第一次指針の第3の4(備考)3)参照)。
しかしながら、前記[損害項目]の1の(備考)2)のとおり、「宿泊費等」については、避難等をした者の避難状況及び支出状況に照らせば、実際に負担した実費を賠償させることとしても被害者の速やかな救済にとって必ずしも支障とはならず、かえって公平かつ合理的であると判断した。
 したがって、上記①の手法が合理的であると判断するに至った。
2) また、前記[損害項目]の1の(備考)3)で述べたとおり、避難費用のうち「生活費の増加費用」は、原則として、「避難生活等を余儀なくされたことによる精神的損害」に加算して、両者を一括して一定額を算定することが、公平かつ合理的であると判断した。
そして、避難生活等を余儀なくされたことによる精神的損害については、少なくとも一定期間の対象区域外滞在又は屋内退避を余儀なくされたことによるものに限り、賠償の対象とすべきであることからすれば、損害額の算定方法としても、例えば1か月当たりの金額で算定する方法が考えられるが、なお引き続き検討する。

第3 政府等による出荷制限指示等に係る損害
1 出荷制限指示等の対象品目の作付断念に係る損害
(指針)
Ⅰ) 農林業者が、政府等による出荷制限指示等(第一次指針第5の「政府等による出荷制限指示等」をいう。以下同じ。)により、同指示等に係る対象品目の作付けの全部又は一部の断念を余儀なくされ、これによって減収が生じた場合には、その減収分が賠償すべき損害(営業損害)と認められる。
 また、上記作付けの断念により生じた追加的費用(苗の廃棄費用等)も合理的な範囲内において賠償すべき損害(営業損害)と認められる。
Ⅱ) 政府等による出荷制限指示等により、同指示等に係る対象品目の作付けの全部又は一部の断念を余儀なくされ、これにより農林業者の経営状態が悪化したため、そこで勤務していた勤労者が就労不能等を余儀なくされた場合には、かかる勤労者について、給与等の減収が賠償すべき損害と認められる。
(備考)
1) 第一次指針の第5の1で述べたとおり、農林漁業者が、政府等による出荷制限指示等により、同指示等に係る対象品目の出荷又は操業の断念を余儀なくされ、これによって減収が生じた場合には、その減収分及び追加的費用は合理的な範囲内において賠償すべき損害と認められる。
 これに加え、農林業者の場合には、農林産物の作付けから出荷まで相当期間を要するという特徴があることから、政府等による出荷制限指示等により作付け自体が制限されるわけではないものの、現に出荷制限指示等が出され、その解除の見通しが立たない状況下であれば、その作付けの全部又は一部を断念することもやむを得ない場合が多いと思われることから、その判断が不合理である場合を除き、作付けの断念によって生じた減収分及び追加的費用並びに就労不能等に伴う損害も、賠償すべき損害と認められる。
2) 減収分の算定方法は、第一次指針の第3の5(営業損害)と同じである。また、就労不能等に伴う損害については、第一次指針の第3の6の(備考)の1)ないし5)に同じ(但し、避難等に特有の通勤困難等の部分は除く。)。

2 出荷制限指示等の解除後の損害
(指針)
Ⅰ) 農林漁業者が、政府等による出荷制限指示等により、同指示等に係る対象品目の出荷、操業又は作付けの断念を余儀なくされ、同指示等の解除後においても、これによって減収が生じた場合には、その減収分も賠償すべき損害と認められる。
Ⅱ) また、同指示等の解除後において、上記の出荷、操業又は作付けの再開のために必要な追加的費用(農地や機械の再整備費等)も、合理的な範囲内において、賠償すべき損害と認められる。
(備考)
減収分の算定方法は、第一次指針の第3の5(営業損害)と同じである。

第4 政府等による作付制限指示等に係る損害
[対象区域及び品目]
 政府による作付制限指示、放牧及び牧草等の給与制限指導等又は地方公共団体が本件事故に関し合理的理由に基づき行う作付けその他の営農に係る自粛要請等(生産者団体が政府又は地方公共団体の関与の下で本件事故に関し合理的理由に基づき行う場合を含む。以下「政府等による作付制限指示等」という。)があった区域及びその対象品目に係る損害を対象とする。

[損害項目]
1 営業損害
(指針)
Ⅰ) 農業者が、政府等による作付制限指示等により、同指示等に係る対象品目の作付け、放牧、牧草等の給与その他の営農に関する行為(以下「作付け等」という。)の全部又は一部の断念を余儀なくされ、これによって減収が生じた場合には、その減収分が賠償すべき損害と認められる。
Ⅱ) また、作付け等の断念により生じた追加的費用(代替飼料の購入費用等)も合理的な範囲内において賠償すべき損害と認められる。
(備考)
1) 減収分の算定方法は、第一次指針の第3の5(営業損害)と同じである。
2) なお、政府等による作付制限指示等がなされる前に、当該指示等の対象品目につき、自主的に作付け等を断念していたものについては、これも本件事故の発生により合理的な判断に基づいて実施されたものと推認でき、これを賠償対象から除外すべき合理的な理由はないから、本件事故日以降のものが賠償すべき損害と認められる。

2 就労不能等に伴う損害
(指針)
政府等による作付制限指示等により、対象品目を生産する農業者の経営状態が悪化したため、そこで勤務していた勤労者が就労不能等を余儀なくされた場合には、かかる勤労者について、給与等の減収が賠償すべき損害と認められる。
(備考)
 第一次指針の第3の6の(備考)の1)ないし5)に同じ(但し、避難等に特有の通勤困難等の部分は除く。)。

第5 いわゆる風評被害
1 一般的基準
(指針)
Ⅰ) いわゆる風評被害については確立した定義はないものの、この指針で「風評被害」とは、報道等により広く知らされた事実によって、商品又はサービスに関する放射性物質による汚染の危険性を懸念し、消費者又は取引先が当該商品又はサービスの買い控え、取引停止等を行ったために生じた被害を意味するものとする。
Ⅱ)「風評被害」についても、本件事故と相当因果関係のあるものであれば賠償の対象とする。その一般的な基準としては、消費者又は取引先が、商品又はサービスについて、本件事故による放射性物質による汚染の危険性を懸念し、敬遠したくなる心理が、平均的・一般的な人を基準として合理性を有していると認められる場合とする。
Ⅲ) 具体的にどのような「風評被害」が本件事故と相当因果関係のある損害と認められるかは、業種毎の特徴等を踏まえ、営業や品目の内容、地域、損害項目等により類型化した上で、次のように考えるものとする。
① 一定の範囲の類型については、本件事故以降に現実に生じた買い控え等による被害(Ⅳ)に相当する被害をいう。以下同じ。)は、原則として本件事故との相当因果関係が認められるものとする。
② ①以外の類型については、本件事故以降に現実に生じた買い控え等による被害を個別に検証し、Ⅱ)の一般的な基準に照らして、本件事故との相当因果関係を判断するものとする。その判断の際に考慮すべき事項については、この指針又は今後作成される指針において示すこととする。
Ⅳ) 損害項目としては、消費者又は取引先が商品又はサービスの買い控え、取引停止等を行ったために生じた次のものとする。
① 営業損害
取引数量の減少又は取引価格の低下による減収分及び合理的な範囲の追加的費用(商品の返品費用、廃棄費用等)
② 就労不能等に伴う損害
①の減収により、事業者の経営状態が悪化したため、そこで勤務していた勤労者が就労不能等を余儀なくされた場合の給与等の減収
③ 検査費用(物)
取引先の要求等により実施を余儀なくされた検査の費用
(備考)
1) いわゆる風評被害という表現は、人によって様々な意味に解釈されており、放射性物質等による危険が全くないのに消費者や取引先が危険性を心配して商品やサービスの購入・取引を回避する不安心理に起因する損害という意味で使われることもある。しかしながら、少なくとも本件事故のような原子力事故に関していえば、むしろ必ずしも科学的に明確でない放射性物質による汚染の危険を回避するための市場の拒絶反応によるものと考えるべきであり、したがって、このような回避行動が合理的といえる場合には、原子力損害として賠償の対象となる。
 このような理解をするならば、そもそも風評被害という表現自体を避けることが本来望ましいが、現時点でこれに代わる適切な表現は、裁判実務上もいまだ示されていない。また、この種の被害は、避難等に伴い営業を断念した場合の営業損害とは異なり、報道機関や消費者・取引先等の第三者の意思・判断・行動等が介在するという点に特徴があり、一定の特殊な類型の被害であることは否定できない。
 したがって、上記のような誤解を招きかねない点に注意しつつ、Ⅰ)で定義した「風評被害」という表現を用いることとする。
2) 「風評被害」には、農林水産物等の食料に限らず、商品一般、あるいは、商品以外の無形のサービス(例えば観光業において提供される各種サービス等)に係るものも含まれる。
3) そもそも「風評被害」は、その外延が必ずしも明確ではなく、本件事故との相当因果関係は最終的には個々の事案毎に判断するべきものであるが、このような被害についても、相当因果関係が認められる蓋然性が特に高い類型や、相当因果関係を判断するに当たって考慮すべき事項を示すことは、本件事故に係る紛争解決に当たっての有効な指針となると考える。
Ⅲ)①の類型に該当する損害については、それが本件事故後に生じた買い控え等による被害である場合には、それだけで原則として本件事故と相当因果関係のある損害と推認されるものとする。
 第二次指針においては、差し当たって、現時点においてⅢ)①の類型に該当すると判断できたものに限って提示することとし、それ以外のものについても、今後、原則として本件事故との相当因果関係を認め得る類型と判断できたものをⅢ)①の類型として追加して提示することを検討する。
 そして、上記判断に当たっては、商品・サービスの取扱量、価格等の市場動向の推移が重要な要素となるが、それ以外にも、風評被害を防止するための各種対策の状況(例えば、製造業等に関する平成23年4月22日の経済産業大臣による下請中小企業との取引に関する配慮の要請等)が講じられていることなども要素となる。
4) Ⅲ)①の類型の範囲は、損害項目によって異なり得る。
5) なお、上記のように、第二次指針及び今後の指針においてⅢ)①の類型として提示するものは、原則として本件事故との相当因果関係を肯定し得る類型と判断したものであるが、本件事故と相当因果関係のある「風評被害」はこれらに限定されない。Ⅲ)①の類型に該当しなかった「風評被害」(Ⅲ)②の「風評被害」)についても、別途、本件事故と相当因果関係がある損害であることが立証された場合には、賠償の対象となる。
 その場合の立証の方法としては、例えば、客観的な統計データ等による合理的な立証方法を用いることが考えられる。
6) 本件事故と他原因(例えば、東日本大震災自体による消費マインドの落ち込み等)との双方の影響が認められる場合には、本件事故と相当因果関係のある範囲で賠償すべき損害と認められる。
7) なお、「風評被害」は、上記のように当該商品等に対する危険性を懸念し敬遠するという消費者・取引先等の心理的状態に基づくものである以上、そこには一定の時間的限界がある。
 但し、いまだ本件事故が終息していない現状においては、具体的にその終期を示すことは困難であり、今後の状況を踏まえて引き続き検討する。
8) 「風評被害」における減収分の算定方法は、第一次指針の第3の5(営業損害)と同じである。
9) 就労不能等に伴う損害は、第一次指針の第3の6の(備考)の1)ないし5)と同じ(但し、避難等に特有の通勤困難等の部分は除く。)である。

2 農林漁業の「風評被害」
(指針)
Ⅰ) 農林漁業において、本件事故以降、現実に生じた買い控え等による被害のうち、少なくとも次に掲げる産品に係るものについては、1Ⅲ)①の類型として、原則として本件事故との相当因果関係が認められる。
① 農林産物(畜産物を除く。)に係る政府等による出荷制限指示等(平成23年4月までのものに限る。)が出されたことがある区域(県又は市町村単位。以下同じ。)において産出された全ての農林産物(畜産物を除き、食用に限る。)
②畜産物に係る政府等による出荷制限指示等(同年4月までのものに限る。)が出されたことがある区域において産出された全ての畜産物(食用に限る。)
③ 水産物に係る政府等による出荷制限指示等(同年4月までのものに限る。)が出されたことがある区域において産出された全ての水産物(食用に限る。)
Ⅱ) Ⅰ)の産品について、農林漁業者が買い控え等による被害を懸念し、事前に自ら出荷、操業又は作付けの全部又は一部を断念したことによって生じた被害も、かかる判断がやむを得ないものと認められる場合には、原則として本件事故との相当因果関係が認められる。
(備考)
1) 食品である農林水産物については、以下の特徴が認められる。
① 消費者が摂取により体内に取り入れるものであることから、放射性物質による内部被曝を恐れ、特に敏感に敬遠する傾向がある。
② 農地、漁場等で生育する動植物であり、放射性物質による土地や水域の汚染の危険性への懸念が、これら農林水産物への懸念に直結する傾向がある。
③ ある地域に関して一部の対象品目につき暫定基準値を超える放射性物質が検出されたため政府等による出荷制限指示等があった場合には、同じ地域にある同一類型(農林産物・畜産物・水産物)の別の品目についても同様の量の放射性物質が付着したのではないかとの懸念が生じやすい。
④ 食品である農林水産物は、日常生活に不可欠なものであり、また、通常はさほど高価なものではないから、東日本大震災自体による消費マインドの落ち込みという原因で買い控え、取引停止等に至ることは通常は考えにくい。他方、代替品として他の生産地の物を比較的容易に入手できるので、それに対応して、買い控え、取引停止等も比較的容易に起こりやすい。
2) 食品である農林水産物については、上記のような特徴があるため、政府等による出荷制限指示等があった区域においては、出荷制限指示等が解除されたとしても、一定期間は、その対象品目に限らず、同区域内で生育した同一の類型(農林産物・畜産物・水産物)の農林水産物につき、消費者や取引先が放射性物質の付着及びこれによる内部被曝等を懸念し、取引等を敬遠するという心情に至ったとしても、平均的・一般的な人を基準として合理性があると認められる。
3) なお、農林漁業における「風評被害」の実態が必ずしも判明していない現時点においては、差し当たって本件事故との相当因果関係が認められる蓋然性が高いⅠ)の産品を類型化し提示することとした。Ⅰ)以外の産品については、引き続き市場動向等の調査、分析等を行った上で、今後検討する。

3 観光業の「風評被害」
(指針)
 本件事故以降、現実に生じた観光業に関する解約・予約控え等による被害のうち、少なくとも本件事故発生県に営業の拠点がある観光業については、本件事故及びその後の広範囲にわたる放射性物質の放出が原因で、消費者等による解約・予約控え等があった蓋然性が高いことから、本件事故後に観光業に関する解約・予約控え等による減収が生じていた事実が認められれば、1Ⅲ)①の類型として、原則として本件事故と相当因果関係のある損害と認められる。
 但し、観光業における減収については、東日本大震災自体による消費マインドの落ち込みという理由による蓋然性も相当程度認められるから、損害の有無の認定及び損害額の算定に当たってはその点についての検討も必要である。
(備考)
1) いわゆる「観光業」は、ホテル、旅館、旅行業等の宿泊関連産業から、レジャー施設、旅客船等の観光産業やバス、タクシー等の交通産業、観光地での飲食業や小売業等までも含み得るが、これらの業種に関して観光客が売上に寄与している程度は様々であり、個別具体的な損害額の算定に当たっては、これらの事情も十分検討する必要がある。
2) 但し、一般的には、これら観光業について、以下の特徴が認められる。
① 観光業は、観光客が当該地域に足を運ぶことを前提とするものであるから、放射性物質による土地や水域の汚染の危険性への懸念が、これら地域における観光への懸念に直結する傾向がある。
② 観光業における各種サービスは、日々消費する食品等とは異なり、日常的な消費を必要とする物ではないため、ひとたび「風評被害」が生じると、各種サービスの利用は一気に落ち込むことになりやすく、さらに、観光業は、観光地域の食品や観光資源を目的に観光を行う消費者に複合的なサービスを提供する産業であるから、ひとたび「風評被害」が生ずると、個別サービスの利用が低下するだけでなく、サービス全体、すなわち当該地域の観光産業全体に影響を与える傾向が認められる。
3) 観光業については、上記のような特徴があるため、特に本件事故発生県全域においては、消費者等が放射性物質による被曝を懸念し、観光を敬遠するという心情に至ったとしても、平均的・一般的な人を基準として合理性があると認められる上、その影響は当該地域の観光産業全体に影響を与え得ると認められる。
 したがって、当該県内に営業拠点を有する観光業において、本件事故後、解約・予約控え等による減収分が認められた場合には、その減収分が他の原因によるものであるとの合理的な疑いがない限り、これらによる減収分及び追加的費用(廃棄費用等)は、原則として本件事故と相当因果関係のある損害と認められる。
 なお、本件事故の影響により観光業に関する解約・予約控え等による減収が生じたのは、必ずしも本件事故発生県に営業拠点を有する観光業に限られず、同県以外に営業拠点を有する同県に関する観光業や、同県の近辺における観光業においても生じた可能性は十分認められる。しかし、必ずしも「風評被害」の実態が判明していない現時点においては、差し当たって、本件事故発生県に営業拠点を有する観光業という類型を提示することとし、これ以外のものについては、引き続き市場動向等の調査、分析等を行った上で、今後検討することとした。
4) ところで、観光業については、東日本大震災自体による消費マインドの落ち込みという理由から観光業に関する解約・予約控え等に至った蓋然性も相当程度認められる、という点に特徴がある。
 したがって、本件事故発生県内に営業拠点を有する観光業に関して解約・予約控え等が生じた場合には、上記のとおり、一応は本件事故と相当因果関係のある「風評被害」によるものと推認することが可能であるが、上記のような他原因(東日本大震災自体による交通インフラの損壊や消費マインドの落ち込みによる解約・予約控え等)が影響を与えている蓋然性も相当程度あることから、その損害の有無の認定及び具体的な損害額の算定等に当たっては、他地域との比較を行うなどの検討が必要である。
(以上)

-------------------------------


関連記事
スポンサーサイト
2011-05-31 : ・指針 : コメント : 0 : トラックバック : 0
Pagetop

■2条「原子力損害」の意味・範囲 その23 二次的な営業損害

■2条「原子力損害」の意味・範囲 その23 二次的な営業損害

 原発事故により退避等の勧告がなされ,工場が閉鎖させれらた場合に,当該工場の営業損害が「原子力損害」として,賠償の対象となることには,余り問題はなかろう。では,その工場から,原材料や部品等を仕入れていた会社が,仕入れ不能によって,一時生産不能に陥り,このため損害を被った場合,どうなるのか。

 1つの不法行為から,連鎖的に損害が波及するような場面で,どの範囲内の損害を賠償すべきかという問題である。因果関係論について相当因果関係説に立つとき,二次的な損害部分は,通常損害ではなく,特別損害であり,その予見可能性が問題とされることになろう。

 電気,通信等のインフラを破壊してしまったような場合,その利用者が多数にのぼることから損害がどこまでも拡大し膨大になものになってしまうことがある。この場合に,解決する策としては,契約当事者間の問題である場合は,契約によって予め限定することができる。不法行為の当事者間では,予め契約があるというわけではないので,立法や保険によってカバーするという方法がある。


 昭和59年におきた世田谷ケーブル火災事件で,通信ケーブルの焼損で電話回線が途絶し,利用者(飲食店)が発生した営業損害につき,電電公社(現NTT)に損害賠償請求をした事件(東京高裁平成2年7月12日判決,判タ734号55頁)では,裁判所は,民法や国賠法より,賠償額を限定した公衆電気通信法109条の適用を優先させ,電電公社を勝たせた。
------------- 
公衆電気通信法
(損害の賠償)
第百九条 公社は、公衆電気通信役務を提供すべき場合において、その提供をしなかつたため、利用者(電報の受取人及び電話の通話の相手方を含む。以下同じ。)に損害を加えたときは、左に掲げる場合に限り、それぞれ各号に掲げる額を限度とし、その損害を賠償する。但し、損害が不可抗力により発生したものであるとき、又はその損害の発生について利用者に故意若しくは過失があつたときは、この限りでない。
 一 電報が速達の取扱とした郵便物として差し出したものとした場合におけるその郵便物が到達するのに通常要する時間(翌日配達電報にあつては、二十四時間を加算した時間)以内に到達しなかつたときは、その電報の料金の五倍に相当する額
 二 照合とした電報の通信文に誤を生じたとき(問合せの取扱により誤を訂正することができた場合を除く。)は、その電報の料金及び照合の料金の合計額の五倍に相当する額
 三 加入者がその加入電話により通話をすることができない場合において、その旨を電話取扱局に通知した日から引き続き五日以上その加入電話により通話をすることができなかつたときは、その旨を電話取扱局に通知した日後の通話をすることができなかつた日数に対応する電話使用料(その通話をすることができなかつた設備に係るものに限る。)の五倍(定額料金制による加入電話にあつては、二倍)に相当する額及びその電話使用料に附加して支払うべき料金(その通話をすることができなかつた設備に係るものに限る。)の五倍に相当する額
<略>
-------------
 原告側は,この規定では賠償額が限定されすぎていて,公務員の不法行為について定めた憲法17条にも反するとして争ったが,東京高裁は,損害すべての賠償をさせると電電公社としての責務を果たしえないことなどから,立法裁量の範囲内のものとして,控訴人(原告)敗訴としている。このように,この案件では,二次的な営業損害については,法律の規定が存在したことから,賠償範囲の限定が相当とされた。(なお,現在は,電気通信事業法になっている。)



 では,このような法律の規定が存在しない場合に,二次的に拡大した営業損害をどうするのか。これについては,最近出た東京地裁の判例がある。

・東京地裁平成22年9月29日判決,判時2095号55頁
 建設会社がクレーン・ブームを上げたまま台船を航行させ,送電線を切断し,139万戸の大規模停電を発生させた。JR東日本は,これによって列車の運行が一時停止し,損害を被ったとして,建設会社に対して,224万円余の損害賠償請求訴訟を提起した。

「送電線を所有する東京電力が直接に被った損害(切断された送電線の復旧作業に要する費用や、停電に伴って発生した電気料金の値引きによる経済的損失など)については、通常損害の枠内で検討が可能であると考えられるのに対し、電気事業者である東京電力から送電を受けていた別事業者である原告が被った損害については,第二次的に発生したものであり、損害主体が異なる上、本件事故以外の諸種の要因と結びついた特別の事情(原告が東京電力との間で電気供給契約を締結し、電気の供給を受け、鉄道事業に利用していたなど,原告主張の損害の前提となる事情)により生じたものと解されるから、相当因果関係の有無の判断にあたっては,被告ら従業員らにその予見可能性を肯定できるかが問題となる。
 ところで、現代社会において、電力は,国民の日常生活や経済活動等に不可欠のものであり、公共事業である電気事業者から電気の供給を受けている電力需要家は,多種多様かつ無数に存在している。したがって、一旦,電気の供給が停止されると、それらの電力需要家に生じる影響は,非常に広範囲なものとなり、しかも連鎖的に無限に拡大し得る。このような場合において、加害者に故意が認められる場合は別として、加害者が,停電により影響が及ぶ可能性をごく抽象的にでも認識可能であれば、そのすべての損害について予見可能性があったとされるならば、損害賠償の範囲は不当に拡大し、加害者にとって酷な結果をもたらすことになる。
 したがって、本件のような過失による事故を起因とする公共事業の遂行停止に伴う、いわゆる第二次的損害の賠償の要否を判断するに際には、上記のような特殊性も考慮に入れて、その相当性を慎重に検討する必要がある。」
「一般に,送電線が切断された場合に,常に停電が生じるわけではない。」
「一般に,送電線が切断された場合に,常に鉄道事業者に対する送電が停止され,直ちに列車運行が不能になるというわけでもない。」
「本件の送電線が切断されることによって,原告に対する送電が停止され,正常な列車運行ができなくなることについて,当然に被告の従業員らにおいて予見が可能であったともまではいえない。」
「被告の従業員らは,クレーン・ブームを上げたまま本件事故の現場を回航すれば,東京電力の送電線を切断することは予見可能であったといえる。しかし上記認定事実を前提としても,そこから先に進んで,本件の送電線を切断すれば,原告に対する送電が停止され,正常な列車運行ができなくなることはまで,被告の従業員らにおいて予見が可能であったと認めるには足りない。」
「電気事業者は,電気工作物が何らかの事由により損傷した場合には,電気工作物の故障の状況や,保安上の危険等を総合考慮して,どの範囲で,どの程度の時間にわたって電気の供給停止を行うかを判断し,所要の措置をとるものである。そうすると,本件において,本件事故と原告主張の損害発生との間には,東京電力の判断も一要素として介在している。」
「以上によれば,被告の従業員らにおいて,本件の送電線を切断すれば,停電事故が発生するとの予見が可能であったと直ちに断ずることはできないし,仮に停電事故が発生することまでは,予見可能であったとしても,そのことをもって直ちに,原告主張の損害の前提となる特別の事情について,予見可能性があったとみることもできない。」
「本件事故が,送電線が上空に架設されている要注意区域において安全確認等を怠り,クレーン・ブームを上げた状態で台船を進行させたという,決して過失の程度が低くない態様によって生じたものであることを十分考慮に入れてもなお,原告主張の損害の前提となる特別の事情について予見可能性を肯定するのは相当でなく,本件においては,相当因果関係があるものと認めることはできない。」


 この東京地裁判決では,電力会社が直接に被った損害については、通常損害の枠内で検討が可能であると考えられるのに対し、別事業者であるJRが被った損害については,第二次的に発生したものであり、損害主体が異なる上、本件事故以外の諸種の要因と結びついた特別の事情により生じたものと解されるから、相当因果関係の有無の判断にあたっては,被告ら従業員らにその予見可能性を肯定できるかが問題となるとしている。

 要するに

・相当因果関係説に立ち
・二次的な営業損害を特別損害と位置づけ
・予見可能性を検討する

というものであり,従来の判例の判断姿勢と何ら異なるものではない。

 不法行為の成立要件として,通説では,相当因果関係を要求し,通常の事情から通常生ずる損害については,加害者側の予見可能性の有無を問題とせずに当然に賠償すべきものとし,その他の特別な事情から生じる損害については,予見可能性がある限りにおいて,賠償すべきものとされる(民法416条類推)。〔過失論で問題となる「予見可能性」とは別のもの〕

 
・特別損害の賠償の要件としての「予見可能性」の内容については,以下の点が問題となろう。

1 認識の程度
2 故意不法行為と過失不法行為で区別するか
3 可能性判断の要素
4 誰を基準とするか
5 判断基準時
6 裁判所による予見可能性の認定は,事実としての予見可能性の認定か,予見すべき範囲の画定か。


 先の判例では,

1 公共事業のように損害が無限に拡大する可能性ある場合には,予見可能性の程度については,抽象的なものでは足りないとするようである。

2 また「加害者に故意が認められる場合は別として」とあり,故意と過失とで,別の判断の余地があることが示されている。

3 可能性判断の要素
 この判決では,①クレーン・ブームを上げたまま回航で送電線切断に至ること,②送電線切断で停電に至ること,③停電に至ると電車の運行が止まることのうち,①については従業員の予見可能性を認めたが,②については,送電線について二系統あり,ひとつ切断してももうひとつあるので,切断が直ちに停電に結びつくものではないことから予見可能性を否定した。また,仮に②について予見可能性があっても,③については,電力会社による電気供給停止についての判断の介在もあることから,その予見可能性を否定している。

4 また,この判決では,認識可能性判断は,当該従業員の認識を基準にしている。

5 判断基準時は,不法行為時。

6 裁判所による予見可能性の認定は,事実としての予見可能性の認定か,価値判断を含む予見すべき範囲の画定かという問題について,この判例では,インフラ破壊で損害が膨大に膨らみ加害者に酷な結果となるのは不当として,慎重な検討が必要とのべており,とちらかと言えば後者か?


 前述のとおり,電気や通信設備の破壊などで,損害が莫大に広がる可能性がある場合に,それを契約や,立法,保険等でカバーする法技術も考え得るが,それが現になされていない場合に,拡大損害をどうするのかという問題である。

 究極的には損害の公平な分担という観点から,妥当な結論をどのように導くかという問題であり,個別事案ごとに考量すべき事情があろう。電気,電話,公共交通機関など,インフラの破壊では,多数の人に迷惑がかかり,損害が膨大なものになる可能性がある。この場合,加害者の賠償範囲を限定すると,その分被害者が泣き寝入りということになり,他方,被害者が完全な賠償を受けるとなると加害者が莫大な賠償義務を負担することになり酷な結果になるおそれがある。この両者をどの点で調和させるのかという問題で,利用者が,インフラが使用できなくなった場合に損害発生拡大についてどの程度の準備をしておくのが普通なのかということなど,被害者側の受忍すべき程度も問題となろう。



 原発事故の場合,インフラの破壊というものではないが,それよりひどく,放射性物質による汚染で,複数の町村を完全に使用できなくさせたものであって,そこで発生した損害から,二次,三次と営業損害が波及していく点は似ている。

 予見可能性については,故意不法行為ではない場合に,損害の拡大についての抽象的な認識では足りないものとするとして,その判断を誰を基準にするかという問題がある。
 原発事故で無過失責任を問われるような事案で,従業員が具体的に何かの故意又は過失ある不法行為を為したという場合でないときは,取締役ら業務執行の意思決定機関の構成員の認識を基準とする他ないのではないか。

 特別損害が賠償対象となるには,①特別事情についての予見可能性と,②その特別事情から一般通常人を基準してその結果が生じることが通常であること(相当性)が必要であるはずで,①は事実認定として,誰が具体的にどのような事実を認識し,又は,認識しえたかという問題であろうし,②は規範的要件としての「相当性」の問題であり,当事者は,その根拠となる事情を主張立証することになるはずである。
 ただし,契約当事者間の債務不履行による損害(民法416条)のように,契約相手の事情等の把握が現に期待できる場合は別として,不法行為のように全く相手のことなど知らないのが原則である場合に,仮に予見可能な特別事情に基づく通常損害というものを観念しうるとしても,その具体的認定においては,ある特別な事実の認識ないしその認識可能性の問題とはされず,通常は常にそうなるとまでは言えない程度の特異な因果経路について,それを現に予見しまたは予見し得た場合に責任を負わせるという思考方法になるのであろう。

 先の判例の判断態度は,要するに,常にそうなるとは言えない程度の特別な因果経路であっことと,そのような因果経路を辿ることを従業員が認識しておらず,その可能性もなかったことから,予見可能性を否定するというものであろう。特別な因果経路であることの認定を厳しめにし,その認識可能性も厳しめに認定すると,こうなるのだろう。

 そこで,この判決なみに予見可能性を厳格に考えると,工場が止まっても,そこで作られている部品が,常に他の会社にとって,他に代替品のない決定的に重要なものであるとはいえないことから,原発事故時〔不法行為時〕に,〔原子力事業者の意思決定機関の構成員の認識において〕,原発事故により退避勧告等で損害をうけた市町村内に部品工場等が存在し,その部品が他の会社の製品製造に不可欠なものであり,他に代替品もなく,その工場の操業停止によって,他社に営業損害が生じうることを現に認識し,またはそのような事実の認識が可能であった場合に,初めて予見可能性のある特別損害として賠償対象となるということになろうか。


関連記事
2011-05-31 : ・二次的損害,間接被害者等 : コメント : 0 : トラックバック : 0
Pagetop

■2条「原子力損害」の意味・範囲 その22 被害者の自殺

■2条「原子力損害」の意味・範囲 その22 被害者の自殺

 原発事故による放射能汚染で,作物や農地が汚染されるなどして出荷停止等の損害を被り,被害者が自殺に至った場合など,今回の事故により,被害者が自殺してしまった場合どうなるのか。

 まず,被害者の農作物の汚損,出荷停止等による損失など,財産的損害は,当然,「原子力損害」とてし賠償の対象となろう。また,職業等の生活の基盤を喪失させられたことによる精神的損害もこちらで論じた通り,一定限度で「原子力損害」に該当するとされる可能性がある。
 では,被害者がこれらを苦にして自殺した場合に,その死の結果について,原子力事業者が,賠償責任〔逸失利益や死亡慰謝料等〕を負うのだろうか。これは事案ごとの個別事情が重視されるべき問題であって,論理的に確定的な結論がでるというものではないだろうが,交通事故等の不法行為による損害を被った被害者が,自殺した場合などの判例等が参考となろう。


 交通事故により傷害を負った被害者が自殺した場合については,以下のような考え方があるとされる。

(1)説
 自殺による損害は,原則として保護されないとするもの。

(2)説
 被害者の精神的又は肉体的な苦痛並びに後遺障害が極めて重大で,通常人としては生きる希望や意欲を失い自殺を選ぶほかない状況にあれば,因果関係があるとするもの。

(3)説
 被害者にとって自殺以外に選択の道がなかったと考えられる場合に初めて法的因果関係が認められるとするもの。

(4)説
 自殺が不可避的な場合には,因果関係が認められるが,自殺が心因性によるものであるときは,因果関係を割合的に考え,その寄与度による賠償を肯定すべきとするもの。


 不法行為による被害者の自殺に関する判例は,交通事故の場合も含めて,多数存在する。以下はのその一部である。

--------------------------------
・大阪地裁昭和46年2月19日(判タ263号313頁)
 交通事故による障害を苦に病因を抜け出し,電車に飛び込み自殺した事案につき,事故と自殺との間に相当因果関係を認めず,慰謝料にて斟酌した事例
「以上によれば、亡Aは、左下肢の短縮という身体障害や加害者側の被害弁償についての誠意のなさ更には経済的な困窮などのため、将来の希望を失い自ら生命を絶つに至ったものであることが認められる。そうだとすれば、本件事故と亡Aの死亡との間に本件事故がなければ亡Aが自殺しなかったであろうという関係(条件関係)の存することが明らかである。
 三、ところで、不法行為から生じた結果のうち、当該不法行為による損害として、行為者に賠償責任を負担させうるためには、行為と損害(財産損害)との間に単に条件関係があるのみでは足りず、両者の間に相当因果関係即ち、行為によって通常生ずる損害であるか、あるいは予見可能性のある特別事情による損害である関係が存する場合でなければならない。従って、交通事故と自殺についていえば、交通事故の被害者がその受けた肉体的精神的苦痛から自殺を決意しこれを実行に移すことは極めて異例のできごとであることが経験則上明らかであり事故によって通常生ずる結果とみることが到底できないので、事故と自殺との間に法律上の因果関係がありとするためには、加害者において、被害者が事故により受けた苦痛や衝撃のため自殺することを予見しまたは予見可能な状況にあった場合に限られるものといわざるを得ない。しかして、予見可能性のある状況とは、一般的に、被害者の受けた苦痛、、衝撃または身体、精神の後遺障害が極めて重大で、通常人ならば何人も生きる希望や意欲を失い自殺を選ぶほかなく、そして通常人ならば何人もこれを首肯せざるを得ないような状況にある場合を指すものと解するを相当とする。本件についてこれをみるに、亡Aが交通外傷のため、前記認定のような左下肢に後遺障害を残し、また、示談の過程で加害者の不誠意な言動に憤慨して精神的な安定を欠いていたことは十分認められるけれども、さりとて、前記認定の事情からすれば、死を選ばなければならないほどの切迫した状況があったものと認めることは極めて困難であるといわざるを得ない。そうならば、本件交通事故と自殺による死亡とは、条件関係はあるけれども法律上の因果関係(相当因果関係)があるものと認めるに足りず、従って、亡Aの死亡により生じた財産的損害を加害者側である被告らに賠償させることはできないといわなければならない。但し後記のとおり、亡Aの慰藉料算定については、条件関係がある以上、右事情を斟酌することとする(損害額算定に関する相当因果関係論は財産的損害の範囲を枠づけするためのもので。、非財産的損害に関しては必ずしも適用なく、条件関係のある事項を被害者側または加害者側の事情として斟酌しうるものと解する)。」


・最高裁昭和52年10月25日判決(判タ355号260頁)
 高校教師の違法な懲戒権の行使と生徒の自殺との間の相当因果関係が否定された事例
「被上告人B1の右懲戒行為は、担任教師としての懲戒権を行使するにつき許容される限界を著しく逸脱した違法なものではあるが、それがされるに至つた経緯、その態様、これに対するDの態度、反応等からみて、被上告人B1が教師としての相当の注意義務を尽くしたとしても、Dが右懲戒行為によつて自殺を決意することを予見することは困難な状況にあつた、というのである。以上の事実関係によれば、被上告人B1の懲戒行為とDの自殺との間に相当因果関係がないとした原審の判断は、正当として是認することができ、その過程に所論の違法はない。」


・福岡地裁行橋支部昭和57年10月19日判決(判タ483号151頁)
 交通事故の被害者が受傷を苦にし,外傷性ノイローゼになり,自殺。相当因果関係を肯定したが,自殺への寄与度を考慮し,50パーセントの賠償責任を認めた事案。
不法行為により傷害を受け,その苦痛に悩まされた被害者が絶望の余り死を選ぶということは決して有り得ないことではなく十分に起こりうることであり,予見不可能な希有の事例であるとは思われない。又交通事故を初め各種の不法行為により被害を受けて苦しむ人の悲惨さを思うときに,自殺が本人の自由意思であるとして相当因果関係を否定するのも損害賠償法が目指すべき損害の公平な分担の理念にも反するものである。ただ自殺の場合には本人の自由意思による面があることも否定することはできないし,通常人なら必ず自殺するという事例ならばともかくそうでない場合には100パーセントの責任を不法行為者に課すことも又公平であるとは思われない。結局自殺を選択した自由意思の程度や通常人が同一の状態におかれた場合の自殺を選択する可能性等を比較しながら受傷の自殺への寄与度を考え,その割合に従って不法行為者に責任を課すのが最も公平であると思われる。」


・大阪地裁昭和60年4月26日判決(判タ560号269頁)
 交通事故の被害者が,受傷が誘因となり,うつ状態あるいはうつ症候群となり自殺。相当因果関係を肯定したが,自殺への寄与度を考慮し,4割の賠償責任を認めた事案。
「不法行為により傷害を受け,その苦痛に悩まされた被害者が絶望のあまり死を選ぶということは決して有り得ないことではなく,予見不可能な希有の事例であるとは思われないし,交通事故により被害を受けて苦しむ人の悲惨さを思うときに,自殺が本人の自由意思であるとして相当因果関係を否定するのは,損害の公平な負担の理念に反し妥当ではないといわなければならない。
 もっとも。自殺の場合には,本人の自由意思による面があることも否定することはできないので,通常人なら必ず自殺するという事例ならばともかく,そうでない場合には,被害者の被った損害そのすべてを本件事故によるものとして被告らに賠償させることは,被告らに対し酷に失するものと考えられる。
 したがって,自殺を選択した自由意思の程度や通常人が同一の状態におかれた場合の自殺を選択する可能性等を比較しながら,事故による受傷の自殺への寄与度を勘案し,その割合に応じて被告らに賠償責任を認めるのが,発生した損害の公平な負担の理念にかなうものというべきである。」


・東京地裁昭和61年6月24日判決(判タ603号91頁)
 交通事故の被害者の自殺。受傷部位が感情を支配する前頭葉であることなどから,相当因果関係を認めたが,被害者の自由意思の関与の程度を斟酌し,過失相殺を類推し,5割見学した。
「亡Aの自殺は、本件事故による受傷を主たる原因として生じた結果というべきであり、一般に、交通事故による傷害ないし障害を原因として被害者が自殺することは、傷害ないし障害の部位あるいは程度によっては、予見不可能な事態とはいえないところ、前記認定の事実関係、殊に、本件における亡Aの受傷部位が感情を支配する前頭葉であって、この傷害が自殺意思の形成ないしその抑制力の減弱の原因となっていること等を総合すると、亡Aの自殺と本件事故による受傷のと間には、相当因果関係があるものというべきである。
 もっとも、自殺の場合には、通常、本人の自由意思により命を絶つという一面があることは否定できないところであり、本件においても、亡Aが全く自由意思を失った状態で自殺したものとは認められないことは前示のとおりであるから、このような場合に、自殺による損害のすべてを加害者に負担させることは、損害を公平に分担させるという損害賠償法の根本理念からみて相当でないものというべきである。そこで、民法第七二二条所定の過失相殺の法理を類推適用し、自殺に対する亡Aの自由意思の関与の程度を斟酌して加害者の賠償すべき損害額を減額するのが相当であると解されるところ、前記認定の諸事情を総合勘案すれば、亡Aの死亡による損害についてはその五割を減額するのが相当である。」


・富山地裁魚津支部昭和63年5月18日判決(判タ674号182)
 交通事故被害者が,骨髄炎に罹患し,神経症に陥って自殺した場合,事故との因果関係を認めたが,過失相殺の類推により賠償額を7割減額した事例。
「右認定の事実によれば亡Aは慢性骨髄炎に罹患していたところ、本件事故による骨折のため、完成されていた防御壁が破壊され慢性骨髄炎が再燃したもので、本件事故と骨髄炎の再燃の間に因果関係が存在することは明らかである。
 また、亡Aは本件事故と因果関係のある慢性骨髄炎の症状が軽快せず鉄工所での勤務に戻れず、補償交渉もうまくいかなかったことなどから、抑うつ・不安などの症状を伴う神経症に罹患し、将来に絶望して自殺したもので、亡Aの自殺と本件事故の間には相当因果関係が存在するというべきである。
 しかしながら、自殺は本人の自由意思に基づくものという面を否定できず、自殺により生じた損害をすべて加害者に負担されるのは損害を公平に分担させるという損害賠償法の基本理念からみて相当でなく、民法七二二条所定の過失相殺の法理を類推適用して、加害者たる被告の賠償すべき損害額を減額するのが相当であるところ、本件では事故そのものにより生じた傷害そのものは比較的軽微なものであったこと、亡Aに慢性骨髄炎の既往症があったこと、亡Aが自殺したのは本件事故から一年以上たってからであったことなど諸般の事情を考慮し、亡Aの死亡による損害については、その七割を減ずるのが相当である。」


・最高裁平成5年9月9日判決(交民26巻5号1129頁)
 交通事故により受傷した被害者が自殺した場合において、その傷害が身体に重大な器質的障害を伴う後遺症を残すようなものでなかったとしても、右事故の態様が加害者の一方的過失によるものであって被害者に大きな精神的衝撃を与え、その衝撃が長い年月にわたって残るようなものであったこと、その後の補償交渉が円滑に進行しなかったことなどが原因となって、被害者が、災害神経症状態に陥り、その状態から抜け出せないままうつ病になり、その改善をみないまま自殺に至ったなど判示の事実関係の下では、右事故と被害者の自殺との間に相当因果関係があるとした事例
「本件事故によりDが被った傷害は、身体に重大な器質的障害を伴う後遺症を残すようなものでなかったとはいうものの、本件事故の態様がDに大きな精神的衝撃を与え、しかもその衝撃が長い年月にわたって残るようなものであったこと、その後の補償交渉が円滑に進行しなかったことなどが原因となって、Dが災害神経症状態に陥り、更にその状態から抜け出せないままうつ病になり、その改善をみないまま自殺に至ったこと、自らに責任のない事故で傷害を受けた場合には災害神経症状態を経てうつ病に発展しやすく、うつ病にり患した者の自殺率は全人口の自殺率と比較してはるかに高いなど原審の適法に確定した事実関係を総合すると、本件事故とDの自殺との間に相当因果関係があるとした上、自殺には同人の心因的要因も寄与しているとして相応の減額をして死亡による損害額を定めた原審の判断は、正当として是認することができ、原判決に所論の違法はない。」


---------------------------------


 上記の昭和46年の大阪地裁判決が示すとおり,不法行為の被害者が自殺することは,普通は異例の事であって,因果関係の認定において,「通常損害」とされることはなかろう。その場合,判例通説的な理解では,特別損害として賠償対象とすべきかという問題となり,その前提として,予見可能性の有無が問われることになる。
交通事故における最近の判例を見ても,単に自殺だというだけで賠償されないという(1)説のような結論を出すことはなかろう。最近に近づくほど,自殺でも加害者に一定割合の責任を負わせるものが増えてきているようである。
 交通事故のような場合には,傷害の結果が,脳等の精神形成に関する器官に生じてしまい,その結果,死を選択したような場合には,相当因果関係が肯定される場合があるし,また,そうではなくても,交通事故がその態様等によっては,うつ病等の精神的傷害を発症させやすいときなど,相当因果関係が肯定されることがある。いずれの場合でも,被害者の側の自由意思が介在していることから,過失相殺規定(民法722条2項)の類推適用によって賠償額は減額される。

 もっとも,冒頭に記載した例のように,被害者に受傷等の肉体的な苦痛がなく,身体的な傷害もないような事案において,被害者が精神的疾患に至ることもなく自殺に及んだ場合には,普通は予見可能性が否定されることが多かろう。ただし,大規模原発事故による広範な土壌汚染等で,一瞬にして生活の基盤が根こそぎ奪われ,それまでの長年の努力が無に帰する状態で,将来への希望を喪失させられ自殺する被害者も出てくることは,必ずしも予見しえない事態ではないとして,相当因果関係が肯定される余地がないともいえない。


※なお,ここで問題とする「予見可能性」は,相当因果関係説に立って,当該原因から当該結果が生じることが通常とはえない特別損害について,〔特別事情について〕予見可能性のある範囲で,相当因果関係のある損害として,賠償責任を認めようとする場合に問題となる「予見可能性」であり,「過失」の内容となる結果回避義務の前提である「予見可能性」の問題とは異なる。よくある生徒のイジメ自殺問題で,学校側の予見可能性が問題されるのは,主として後者の「過失」認定の前提となる予見可能性である。

※予見可能性については,民法上は,債務不履行に関する416条の規定がある。これを不法行為の場合に類推適用すべきかについては諸説ある。

民法第416条
1.債務の不履行に対する損害賠償の請求は、これによって通常生ずべき損害の賠償をさせることをその目的とする。
2.特別の事情によって生じた損害であっても、当事者がその事情を予見し、又は予見することができたときは、債権者は、その賠償を請求することができる。

※予め契約関係にあるわけではない不法行為の当事者間において,「予見可能性」というものを持ち出すことについては疑問もあるとされが,特別事情による損害を一定範囲に画するための道具立てとして一般に使用されている。


関連記事
2011-05-30 : ■2条「原子力損害」 : コメント : 0 : トラックバック : 0
Pagetop

■原発事故 報告義務と法令

■原発事故 報告義務と法令

-------------------------------
原子炉等規制法(核原料物質、核燃料物質及び原子炉の規制に関する法律)
http://law.e-gov.go.jp/htmldata/S32/S32HO166.html

(危険時の措置)
第六十四条  原子力事業者等(原子力事業者等から運搬を委託された者及び受託貯蔵者を含む。以下この条において同じ。)は、その所持する核燃料物質若しくは核燃料物質によつて汚染された物又は原子炉に関し、地震、火災その他の災害が起こつたことにより、核燃料物質若しくは核燃料物質によつて汚染された物又は原子炉による災害が発生するおそれがあり、又は発生した場合においては、直ちに、主務省令(第三項各号に掲げる原子力事業者等の区分に応じ、当該各号に定める大臣の発する命令をいう。)で定めるところにより、応急の措置を講じなければならない。
2  前項の事態を発見した者は、直ちに、その旨を警察官又は海上保安官に通報しなければならない。
3  文部科学大臣、経済産業大臣又は国土交通大臣は、第一項の場合において、核燃料物質若しくは核燃料物質によつて汚染された物又は原子炉による災害を防止するため緊急の必要があると認めるときは、同項に規定する者に対し、次の各号に掲げる原子力事業者等の区分に応じ、製錬施設、加工施設、原子炉施設、使用済燃料貯蔵施設、再処理施設、廃棄物埋設施設若しくは廃棄物管理施設又は使用施設の使用の停止、核燃料物質又は核燃料物質によつて汚染された物の所在場所の変更その他核燃料物質若しくは核燃料物質によつて汚染された物又は原子炉による災害を防止するために必要な措置を講ずることを命ずることができる。
一  製錬事業者、加工事業者、使用済燃料貯蔵事業者、再処理事業者及び廃棄事業者(旧製錬事業者等、旧加工事業者等、旧使用済燃料貯蔵事業者等、旧再処理事業者等及び旧廃棄事業者等を含む。)並びにこれらの者から運搬を委託された者 経済産業大臣(第五十九条第一項に規定する運搬に係る場合にあつては同項に規定する区分に応じ経済産業大臣又は国土交通大臣、船舶又は航空機による運搬に係る場合にあつては国土交通大臣)
二  使用者(旧使用者等を含む。以下この号において同じ。)及び使用者から運搬を委託された者 文部科学大臣(第五十九条第一項に規定する運搬に係る場合にあつては同項に規定する区分に応じ文部科学大臣又は国土交通大臣、船舶又は航空機による運搬に係る場合にあつては国土交通大臣)
三  原子炉設置者(旧原子炉設置者等を含む。以下この号において同じ。)及び当該原子炉設置者から運搬を委託された者 第二十三条第一項各号に掲げる原子炉の区分に応じ、当該各号に定める大臣(第五十九条第一項に規定する運搬に係る場合にあつては同項に規定する区分に応じ第二十三条第一項各号に定める大臣又は国土交通大臣、船舶又は航空機による運搬に係る場合にあつては国土交通大臣)
四  外国原子力船運航者及び外国原子力船運航者から運搬を委託された者 国土交通大臣
五  受託貯蔵者 第六十条第一項各号に掲げる区分に応じ、当該各号に定める大臣

(報告徴収)
第六十七条  文部科学大臣、経済産業大臣、国土交通大臣又は都道府県公安委員会は、この法律(都道府県公安委員会にあつては、第五十九条第六項の規定)の施行に必要な限度において、原子力事業者等(核原料物質使用者、国際規制物資を使用している者及び国際特定活動実施者を含む。)に対し、第六十四条第三項各号に掲げる原子力事業者等の区分(同項各号の当該区分にかかわらず、核原料物質使用者、国際規制物資を使用している者及び国際特定活動実施者については文部科学大臣とし、第五十九条第五項に規定する届出をした場合については都道府県公安委員会とする。)に応じ、その業務に関し報告をさせることができる
2  文部科学大臣、経済産業大臣又は国土交通大臣は、前項の規定による報告の徴収のほか、同項の規定により原子力事業者等(外国原子力船運航者を除き、使用者及び旧使用者等にあつては、第五十六条の三第一項の規定により保安規定を定めなければならないこととされているものに限る。以下この項において同じ。)に報告をさせた場合において、核燃料物質若しくは核燃料物質によつて汚染された物又は原子炉による災害を防止するため特に必要があると認めるときは、この法律の施行に必要な限度において、原子力事業者等の設置する製錬施設、加工施設、原子炉施設、使用済燃料貯蔵施設、再処理施設、廃棄物埋設施設、廃棄物管理施設又は使用施設等の保守点検を行つた事業者に対し、必要な報告をさせることができる。
3  文部科学大臣、経済産業大臣及び国土交通大臣は、この法律の施行に必要な限度において、機構に対し、第六十五条第一項各号に掲げる検査等事務の区分に応じ、その業務に関し報告をさせることができる
4  文部科学大臣、経済産業大臣又は国土交通大臣は、第一項及び前項の規定による報告の徴収のほか、第六十二条第一項の規定の施行に必要な限度において、船舶の船長その他の関係者に対し、必要な報告をさせることができる。
5  文部科学大臣は、第一項の規定による報告の徴収のほか、追加議定書の定めるところにより国際原子力機関に対して報告又は説明を行うために必要な限度において、国際規制物資を使用している者その他の者に対し、国際原子力機関からの要請に係る事項その他の政令で定める事項に関し報告をさせることができる。

第七十八条  次の各号のいずれかに該当する者は、一年以下の懲役若しくは百万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。
二十九  第六十七条第一項(核原料物質使用者、国際規制物資を使用している者及び国際特定活動実施者に係る部分を除く。)の報告をせず、又は虚偽の報告をした者

第八十条  次の各号のいずれかに該当する者は、百万円以下の罰金に処する。
十  第六十七条第一項(核原料物質使用者、国際規制物資を使用している者及び国際特定活動実施者に係る部分に限る。)、第二項、第四項又は第五項の報告をせず、又は虚偽の報告をした者

第八十条の四  次の各号のいずれかに掲げる違反があつた場合には、その違反行為をした機構の役員又は職員は、五十万円以下の罰金に処する。
一  第六十七条第三項の規定による報告をせず、又は虚偽の報告をしたとき。

第八十一条  法人の代表者又は法人若しくは人の代理人その他の従業者が、その法人又は人の業務に関して次の各号に掲げる規定の違反行為をしたときは、行為者を罰するほか、その法人に対して当該各号に定める罰金刑を、その人に対して各本条の罰金刑を科する。
一  第七十七条第一号から第三号まで、第四号(第二十三条第一項第三号又は第五号に掲げる原子炉を設置した者(以下この条において「試験研究炉等設置者」という。)に係る部分を除く。)、第四号の二、第五号(試験研究炉等設置者に係る部分を除く。)又は第六号から第七号の三まで 三億円以下の罰金刑
二  第七十八条第一号、第二号(試験研究炉等設置者及び使用者に係る部分を除く。)、第三号(試験研究炉等設置者及び使用者に係る部分を除く。)、第四号(試験研究炉等設置者及び使用者に係る部分を除く。)、第六号、第七号、第八号(試験研究炉等設置者に係る部分を除く。)、第八号の二(試験研究炉等設置者及び使用者に係る部分を除く。)、第十号(試験研究炉等設置者に係る部分を除く。)、第十一号、第十二号(試験研究炉等設置者に係る部分を除く。)、第十四号、第十五号、第十七号、第十八号、第二十号、第二十一号、第二十六号の二(試験研究炉等設置者及び使用者に係る部分を除く。)、第二十八号(試験研究炉等設置者及び使用者に係る部分を除く。)、第二十九号(試験研究炉等設置者及び使用者に係る部分を除く。)又は第三十号(試験研究炉等設置者及び使用者に係る部分を除く。) 一億円以下の罰金刑
三  第七十七条(第一号に掲げる規定に係る部分を除く。)、第七十八条(前号に掲げる規定に係る部分を除く。)、第七十九条又は第八十条 各本条の罰金刑

-------------------------------------

電気事業法
http://law.e-gov.go.jp/htmldata/S39/S39HO170.html

(報告の徴収)
第百六条  経済産業大臣は、第三十九条、第四十条、第四十七条、第四十九条から第五十二条まで、第五十四条及び第五十五条の規定の施行に必要な限度において、政令で定めるところにより、原子力を原動力とする発電用の電気工作物(以下「原子力発電工作物」という。)を設置する者に対し、その原子力発電工作物の保安に係る業務の状況に関し報告又は資料の提出をさせることができる
2  経済産業大臣は、前項の規定によるもののほか、同項の規定により原子力発電工作物を設置する者に対し報告又は資料の提出をさせた場合において、原子力発電工作物の保安を確保するため特に必要があると認めるときは、第三十九条、第四十条、第四十七条、第四十九条から第五十二条まで、第五十四条及び第五十五条の規定の施行に必要な限度において、当該原子力発電工作物の保守点検を行つた事業者に対し、必要な事項の報告又は資料の提出をさせることができる。
3  経済産業大臣は、第一項の規定によるもののほか、この法律の施行に必要な限度において、政令で定めるところにより、電気事業者に対し、その業務又は経理の状況に関し報告又は資料の提出をさせることができる

第百十七条の二  次の各号のいずれかに該当する者は、一年以下の懲役若しくは百万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。
五  第百六条第一項の規定による報告若しくは資料の提出をせず、又は虚偽の報告若しくは資料の提出をした者

第百二十条  次の各号のいずれかに該当する者は、三十万円以下の罰金に処する。
十二  第百二条又は第百六条第二項から第四項まで若しくは第六項の規定による報告若しくは資料の提出をせず、又は虚偽の報告若しくは資料の提出をした者

---------------------------------
関連記事
2011-05-28 : ■法令等 : コメント : 0 : トラックバック : 0
Pagetop

■18条 原子力損害賠償紛争審査会 その6 第2次指針(案)について

■18条 原子力損害賠償紛争審査会 その6 第2次指針(案)について

asahi.com
http://www.asahi.com/special/10005/TKY201105270648.html


農産物の風評被害、全品目を賠償対象 紛争審2次指針案
2011年5月28日4時46分


 東京電力の原発事故に伴う損害賠償の範囲や目安を定める「第2次指針」の原案が27日、判明した。福島、茨城、栃木、群馬の4県の全域と千葉県の2市1町の農産物について、全品目を風評被害の賠償対象と認定する内容が盛り込まれている。政府の原子力損害賠償紛争審査会(会長=能見善久学習院大教授)が、31日の会合で決める予定だ。

 原案によると、4月までに政府から何らかの農産物の出荷制限(停止)を指示された区域は、すべての農産物を風評被害による賠償の対象とした。自治体の要請で出荷を自粛した区域も、同じように風評被害を認定する。買い控えや取引停止によって生じた営業上の損害や、労働者の減収分が、被害額となる。

 福島、茨城、栃木、群馬の4県は、ホウレンソウなどが県内全域で出荷制限を受けたため、県内の農産物すべてが風評被害を認定される。千葉県内は2市1町に限ってホウレンソウなどが出荷制限されたので、この地域のみが対象となる。

 畜産物と水産物も、農産物と同じルールを適用。福島、茨城両県の全域で、風評被害が認定される。水産物の出荷制限や出漁自粛の対象はコウナゴだけだが、すべての水産物を風評被害による賠償対象とした。

 審査会が風評被害を広く認めるのは、基準値を超える放射性物質が検出された作物が出荷制限を受けた場合、消費者が同じ地域でつくるほかの作物の汚染を心配し、買い控えるのは自然なことであり、賠償に値するとみなしたからだ。

 5月以降の風評被害は2次指針案に盛り込まれなかった。だが、原発事故は収束しておらず、風評被害を認定される地域は広がる可能性がある。5月に一部地域で茶葉の出荷を自粛した神奈川県の農産物などが議論の対象になりそうだ。

 JAグループが農家の被害を集約し、27日までに東電に賠償請求した額は約134億円。出荷制限や出荷自粛に伴う損害が中心だ。風評被害が対象に入り、放射能汚染が長期化する恐れもある中で、賠償が巨額になることが予想される。

 ホテル・旅館やレジャー施設など観光業の風評被害については、原発事故との因果関係が明らかな福島県内の観光業者に限り、解約などによる損害を賠償対象とした。福島以外の被害の可能性も「十分認められる」としたが、東日本大震災で消費者に広がった自粛ムードや交通網の寸断の影響も考えられ、まずは福島県内に限定する方針だ。

 また、2次指針には、避難生活で住民らが受けた精神的苦痛について、賠償金額の目安が示される可能性があったが、原案では見送られている。ただ、避難場所などによって住民を4分類して賠償額を算定する方針は示した。精神的苦痛の賠償は、個人単位で払うとしている。

 審査会は7月に被害全体にわたる中間指針を策定する予定。ただ、指針づくりが進む一方、東電の賠償を支援する政府の枠組みは、関連法案の国会提出のめどさえ立っていない。




関連記事

テーマ : 原発事故
ジャンル : ニュース

2011-05-28 : ■18条原子力損害賠償紛争審査会 : コメント : 0 : トラックバック : 0
Pagetop

■2条「原子力損害」の意味・範囲 その21 風評被害 賠償範囲を限定する道具立て

■2条「原子力損害」の意味・範囲 その21 風評被害 賠償範囲を限定する道具立て

 原賠法では,無過失責任をとっているため,加害者側の「過失」の有無によって,その責任の範囲を画することはできない。
 ただし,風評被害だけでなく,他の「原子力損害」や不法行為に基づく損害一般について,その範囲を画するものとしては,「過失」以外に以下のようなものが考えられる。〔相当因果関係説に立つとして、広い意味では下のABCは相当因果関係の有無の認定の問題〕


A 事実的因果関係
 1 条件関係
〔2 反復可能性〕
 3 因果関係の中断論

B 相当因果関係
 1 通常損害と特別損害の別
 2 特別損害については予見可能性

C 損害
 1 損害の有無の認定
 2 損害額の評価

D 過失相殺(民法722条2項),被害者の素因等の原因の競合
 1 過失相殺
 2 原因の競合(被害者の素因等)



 風評被害について,不当請求や過剰請求を防ぐとして,

・原発事故と全く関係のない理由による減収
→(A)事実的因果関係なしとして,排除

・風評はあったものの実際には減収がなかった場合
→(C1)損害の有無の認定で排除

・風評による減収があったが,過大な評価で請求がなされた。
→過大評価部分については,(C2)損害額の評価で排除

・風評による減収があったが,損害拡大に被害者側の落ち度があるとき
→(D1)過失相殺で調整

・原発事故を起点とするが,風評の発生,流布について第三者の不法行為や犯罪行為が介在して発生した風評による損害
→その程度によっては,(A3)因果関係の中断で,事実的因果関係否定
→(B1)相当因果関係における「相当性」の問題とし通常損失としては排除。ただし,B2予見可能性がある場合には,特別損失も賠償対象となる。

 たとえば,原発事故後,ある輸出業者が,原発近隣県で収穫された汚染作物を,それと知りながら,意図的に産地偽装して,それまで全く汚染作物がとれたことのない離れたa県産として,外国に輸出したため,その国の検査の結果,当該a県産作物の輸入禁止措置がとられ,それによってa県の農家等が損害を被った場合。
 この場合は,かなり特殊な因果経路で,a県農家が被害を被ったものといえ,場合によっては,原発事故との相当因果関係が否定されることもあり得る。この場合でも,何か特別な事情があって加害者側がそのようなことの経緯を予見できていた場合には,予見可能な特別損害として,相当因果関係は肯定されるかもしれない。

・原発事故からくる風評で,一般消費者の合理的判断結果として(社会通念上是認できる判断として)の買い控えによって発生した被害
→判例等のどの理論によっても排除されず。「原子力損害」に該当

・原発事故からくる風評で,一般通常の消費者の合理的とはいえない(社会通念上是認できない判断による)買い控えによって発生した被害
→判例の理屈では,おそらくそれは異常な因果経過であって,通常発生する結果ではなく,(B1)通常損害には該当せず,また,仮に特別損害としても,そのような結果は(B2)予見可能性がないので,いずれにせよ「相当因果関係」がないとして排除

※平成元年5月17日・名古屋高等裁判所金沢支部判決(判タ705号108頁)
 敦賀原発風評被害訴訟。昭和56年1月敦賀原発において,日本原子力発電が,放射性物質を漏洩させた事故に関するもの。事故事実の公表後,風評被害が広がり,水産市場関係者が,売上げ減少による損害の賠償につき,日本原子力発電株式会社を訴えた。
「消費者の個別的心理状態が介在した結果であり,しかも,安全であっても食べないといった,極めて主観的な心理状態であって,同一条件のもとで,常に同様の状態になるとは言い難く,また一般的にも予見可能性があったともいえない。すると,本件浦底湾における人体に影響のない微量の放射能漏れと敦賀の消費者の金沢産魚介類の買い控えとの間には,相当因果関係はないというべきである。」

 このような風評被害の場合に,相当因果関係の判断に関し,消費者の判断の合理性(一般に是認できるか否か)を問うという態度については,これまでも疑問があると述べてきた。

 もともと民法における相当因果関係論は,ある行為があって,そこから因果経路をどこまでもたどっていくと,意外なところにまで及ぶことがあり,そのような損害まで,全て加害者に負担させるのは適当ではないということから,事実的因果関係を前提に,相当因果関係を要求し,それによって,その意外な結果〔一般通常人を基準に,その原因からその結果が生ずることが通常とはいえないもの〕の責任負担を除こうとするものである。
 したがって,本来,因果関係の相当性は,「その原因からその結果が生じる」のが,一般通常人の認識として通常といえるのかという点が問題であるのに,上の風評被害の判例では,「消費者の買い控えの判断が,一般通常人の判断として通常といえるのか」という問題に置き換わっていて,これには論理の飛躍があると言わざるを得ない。

 以前から述べているが,そもそも一般通常人の判断の合理性とか,社会通念上是認できるか否かを問題とするには,危険性の認識の程度や,それに対する対処方法や受忍限度について,ある程度の社会的コンセンサスがあるような場合ならまだしも,一切放射性物質が漏洩せずにうわさのみで発生したような風評被害のような場合とちがって,今回は,基準値を超える食品の汚染が現実に出てきた事案であって,そのような異例な事態において,一般通常人を想定して,その消費行動が是認できるか否かを,判断すること自体無理があるのではないか。

 また,仮に,そのような場合にも,一般通常人の合理的判断,社会通念上是認できる判断というものが想定できたとしても,現に一部消費者に買い控えが起きている場合に,それを不合理,過剰なものとして,相当因果関係無しとできるのだろうか。
 通常,問題となる農作物などの生産物は,一人の取引相手に向けて作られたものではなく,多数に消費者に向けられて作られている。多数の消費者に中には,微量の汚染など気にしない人と,過敏に反応する人が混在しているのは明白であって,今回のような事故が起きれば,それが仮に科学的に概ね安全であるとしても,全体として見れば,一定数の過敏な消費者が買い控えに出て,価格低下,売上げ減少に至ることは通常のことであって,通常損害といえ,因果関係の相当性は当然にあるといわざるを得ない。
 
 仮に,多数の消費者の回避行動を,全体として観察することが許されないとし,過敏な消費者の個別の判断はやはり特異なものであるとして,通常損害とは言えないとしても,もともと農作物等が多数の消費者に向けられて作られるものであり,かつ,さまざまな考えを持つ消費者の中には過敏な反応をする人も一定数いることは明白なのであり,そのような消費者の回避行動があり得ることは,容易に予見できるのであり,予見可能性ある特別損害として,相当因果関係は肯定されるのではないか。

 このように解しても,生産者は,事故後の風評の広がりによって,放射性物質による汚染を恐れた消費者が買い控えをして(事実的因果関係),その結果,現実に減収が生じたこと(損害)までは立証しなければならないのであり,敦賀原発風評被害訴訟などでは,前記のAとCだけで十分に妥当な判決を導き得た事例であり,相当因果関係の問題とする必要はそもそも無かったものである。

 結局,風評被害の場合に,相当因果関係の判断を,その回避行動が一般通常人を基準として是認できるか否かという基準で行うのは,前述のとおり,理論の飛躍がある上に,汚染が全くないと確実にいえる事案以外にまで適用することの妥当性に問題があり,さらに,他の既存の道具立てだけでも十分に適正な結論を導きうるのであり,少なくとも個別事案を担当する裁判手続きにおいては,その必要性は乏しいといわざるをえない。

 このように個別事案の判断においては,相当因果関係の判断を,回避行動が一般通常人を基準として是認できるかという基準で行う必要は全くないと思うが,迅速大量画一的処理が要求されるような紛争審査会の指針ようなものでも,この基準にこだわる必要はなく,どのみち場所や作物等により何らかの類型化をするわけであろうが,原発や汚染地域からの距離的要素は,単に,A事実的因果関係を推認させる要素とみてよいし,各産地や作物に関する区別や報道等の消費者を取りまく状況も,放射性物質への恐れから買い控えに出たこと〔他の理由による買い控えでないこと。合理性の有無は問わない〕を示す要素であり,A事実的因果関係を推認させる要素なのであって,これらを因果関係の「相当性」判断に関する類型と位置づける必要はない。


関連記事
2011-05-27 : ・風評被害 法律的な理屈 : コメント : 0 : トラックバック : 0
Pagetop

■2条「原子力損害」の意味・範囲 その20 風評被害 観光業について考える

■2条「原子力損害」の意味・範囲 その20 風評被害 観光業について考える

 これまで裁判で、原子力関連施設の事故による風評被害が問題となった事案は、食品や不動産に関するものであり、観光業等のサービス業が問題となった判例は,今のところ見たことがない。またJCO事故のときも、問題とならなかったようで、特に指針には示されていない。
 したがって、観光客が,キャンセルしたり、行かないことにしたり、そういった消費者の回避行動について、裁判所がどのように因果関係を判断するのかは不明であるが、今回の紛争審査会では、その論点レジュメで「一般的基準としては、消費者や取引先が当該商品・サービスについて、本件事故による放射性物質による汚染の危険性を懸念し、敬遠したくなる心理を一般に是認できる場合を、相当因果関係のある損害と認める」とあり、商品もサービスもそのような心理を一般に是認できるかという観点から、判断しようとするようである。

 そこで、観光業の風評被害について因果関係がどうなるのか考えてみたい。


〔土地の客観的状況〕
① 汚染がひどく、立ち入りが禁止されている。
② 立ち入り禁止ではないが、計画的避難区域や緊急時避難準備区域など、なんらかの指定地域になっている。
③ ②まで以外の事故発生県全域(福島県)
④ ③まで以外で、基準値を超える農作物が検出されるなどして、土地の汚染が懸念される近隣県
⑤ ④まで以外で、微量ながら土地、水等から放射性物質が検出された東日本全域。
⑥ ⑤まで以外で、日本全域
⑦ 国外

〔消費者の希望のレベル〕
① 原発の現状も汚染も一切気にしない。
② 原発事故悪化による混乱や汚染の恐れがあるので、避難地域や避難準備地域に指定されているところには行きたくない。
③ 原発事故悪化による混乱や汚染の恐れがあるので、福島県には行きたくない。
④ 基準値を超える農作物が検出されるなどして、土地の汚染が懸念される近隣県には行きたくない。
⑤ 微量ながら土地、水等から放射性物質が検出された県には行きたくない。
⑥ 東日本には行きたくない。
⑦ 日本には行きたくない。

〔検査について消費者の疑いのレベル〕
①公的機関の発表する土地や食品等についての検査や基準値を信頼している。
②公的機関の発表する土地や食品等についての検査や基準値を信頼していない。

〔消費者の有する情報のレベル〕
① 避難等指定地域や、基準値を超える作物のとれた土地など、汚染情報を知っている、または、調べる能力がある。
② 原発の現状や汚染情報を知らない、かつ、調べる能力も期待しにくい(外国の個人など)。


 まず,日本国内にいて日本語ができれば,ある程度,避難準備区域とか土地の汚染状況等の客観的状況は調べれば分かるとして,食料品に対する判例の理屈を,そのままあてはめると,個人がどの程度の忌避をするのが,一般通常人を基準に合理的といえるか,社会通念上是認できるかという観点から判断することになろう。
 上の①立入禁止されてる地域は論じるまでもないとして,②の避難準備地域あたりまでは,当然に忌避は合理的といえるかもしれない。それ以外の地域については,③未だ原発事故が収束しない福島県には行きたくないとか,④土地の汚染が懸念される近隣県には行きたくないということになると少し微妙になってくるのではないか。さらに⑤東日本全域となると難しくなり,⑥日本全土については,外国人個人となると得られると情報との関係も問題となる。

 何度か論じたが,もともと考え方の違う多数の消費者の消費行動によって発生する風評被害について,「一般通常人を基準に合理的といえるか」という基準で,相当因果関係を判断するという考え方に問題があって,原発から放射性物質が広範囲にまき散らされるという事故は,我が国では初めてものであり,低線量被爆についての危険や受忍限度についての社会的コンセンサスのようなものは無いのであり,一般通常人の合理的判断などというものを観念しうるのかという点がそもそも問題である。
 それを無理に観念すると国や公的機関,専門家が安全という範囲は安全であると判断するのが通常人で,それを忌避するのは是認できないということになるのかもしれないが,政府参与が辞任した件などを見ると,専門家でも低線量被爆については確実なことはいえないようで,〔大気も土壌も食品も一切汚染が無い,あるいは原発事故前と変わりないということがはっきりしている場合は別として〕,いかなる行動が一般通常人の合理的なものと言えるのかという点ははっきりしない。また,食品を一切買わないという判断はできないが,生活上不可欠のものではない旅行については,行かないという判断ができるのであり,ささいな危惧でも回避行動にでる可能性が高いことを考えると,仮に,かなり厳しめに判断したとしても,忌避対象は相当広範囲になる可能性があり,また,情報の得にくい外国人客などは,その国による渡航自粛がある場合はもちろん,そうでなくても日本に全土について,今年は行かないことにするという判断は,十分に考えられるのであって,こうなると日本全土が忌避対象になっていることは否定できないのではないか。
 日本全土の観光業の風評被害について,その全部を賠償対象とすることへの違和感があるとしたらそれは,今回の災害が大規模自然災害とともに発生したもので,原発事故や放射性物質に対する危惧のみから旅行を取りやめた客以外にも,余震や地震津波後の混乱等から旅行を取りやめた客や,その両方の理由から取りやめた客がいることからくるのであって,それは本来,理論的には,事実的因果関係の有無や,原因が競合した場合の責任負担をどう考えるのかという問題であり,相当因果関係の有無の問題として扱うべきものではなかろう。

 これも前に触れたが,ここでも考えてみる。

A 原発事故由来の理由
・原発事故の悪化による被災を避けたい。
・土壌,水,大気,食物等の汚染を避けたい。
・原発事故からくる社会的混乱から距離をおいていたい

B 原発事故以外の理由
・余震,その他地震,津波等の自然災害が再度起きないか心配
・自然災害後の社会的混乱から距離をおいていたい。
・全く無関係な個人的理由。

C AとB両方の理由が合わさったもの。


 Aの理由のみからくるキャンセル等は,原発事故に起因するものであって,当然,賠償対象として検討されるべきであろう。
 Bの理由のみによるキャンセル等は,原発事故と全く関係がなく発生したものであり,そもそも事実的因果関係が否定されるので,賠償対象とはならないだろう。
 Cの賠償については,以前も触れたが,その全部を否定,全部を肯定,一部を肯定する考え方がありうる。

 これらABCが実際の観光業の減収分のどの程度の割合になるのかは,ある程度統計等の資料や,キャンセル等の内容から判定していくしかないだろう。実際の裁判ならば,個別に当事者が主張立証しあって,その妥協点を見つけていって和解ということもあるだろうが,一律に基準を出すとなると,賠償金の払いすぎを避けるのを重視する限り,業者側には不利なものとなるだろう。これは困難な作業であるが,相当因果関係の問題とする立場でも,同じ問題は背負い込むのであって,観光業のような場合は,これは避けようがない。
 Aの関係では原発や汚染地域からの距離が重要な要素ではあろうし,阪神大震災など大災害時の統計資料や,SARS騒ぎの時の風評被害の統計とか,公平なアンケート調査とかいくらか使えるものがあるかもしれない。また,キャンセル内容として,原発から遠ざかるタイプの旅行〔東京から沖縄への旅行〕の取りやめや,汚染が考えられない地域間の旅行〔沖縄本島から石垣島への旅行〕の取りやめが,放射能汚染への恐れからくる可能性は低いことなど,いくらかはっきりしていることはあるかもしれない。
 
 
 一番問題となるものと思われるのは,Cの部分である。ベン図を書くと,Aの円〔原発が理由〕と,Bの円〔原発以外の理由〕の二つの交わる部分をどうするか,人の心理の問題であって,これをどちらか1つとして分けることはできないだろう。
 Bの理由のうち,大震災も自然災害も何も起きなくても例年一定数は存在したはずの個人的理由によるキャンセル部分は除くとして考えると,Cの交わり部分は,自然災害と原発事故との競合によって,消費者にもたらされた心理であり,自然力が競合して発生した損害の問題と似ている。

 Bのみを理由とするものについては,前記のとおり,事実的因果関係がないものとして当然はずされるとして,原発事故がなくとも,それはあったとも思われるCの部分については,あれなければこれなしという不可欠条件公式との関係で,その事実的因果関係が問題となろう。

 刑法学の理屈にように,Cの部分を考えてみると。

ア Aのみでその回避行動は起きえた。Bのみのでは起きなかった。
イ Bのみでその回避行動は起きえた。Aのみでは起きなかった。
ウ A,Bともに単独でも,その回避行動は起きえた(択一的競合,累積的因果関係。なお民法学ではこちらを重畳的競合という。)。
エ A,Bともに単独では,その回避行動は起きず,合わさって初めて起きた(重畳的因果関係)。

アの場合は,不可欠条件公式に適合し,条件関係は肯定される。
イの場合は,不可欠条件公式に適合せず,条件関係は否定される。
ウの場合は,刑法ではその理屈と結論にともに争いがある。民法では,この場合に条件関係を否定するという結論はとらない。
エの場合は,不可欠条件公式に適合し,条件関係は肯定される。

 観念的に考えれば,Cの部分に関し,上のイのように,自然災害(B)のみでも十分に起きえた回避行動で,かつ,原発事故(A)のみでは起きなかったであろう回避行動については,原発事故との関係では,事実的因果関係が否定されて,賠償の対象とはならないということになろう。〔原発から遠く離れた震災津波被災地で,国内客のみを考えた場合など?。ただし,通過経路に原発や汚染地がある場合は,そうとも言えない?〕
 もっとも,これらは人の心理に関するものであって,毒薬の分量のように正確に計量できるものではなく,Cの部分については,あまり問題なく条件関係は肯定されるのではなかろうか。

 とすると,Cの交わり部分については,原則として賠償対象となると考えることになろうか。


 これに対して,Cの部分については,いくらかは自然力が作用したものであって,それを一方当事者である原子力事業者のみに,負わせるのは公平ではないという価値判断もあろう。
 その場合,Cの部分全部を減責するという考えについては,自然力による損失部分を全部被害者に振り向けることになって,被害者保護という不法行為規定の目的を反するという批判もあろう。
 Cの一部の減責を考えるとすると,その理屈をどうするのか,その割合をどうするのかという問題があるだろう。



関連記事
2011-05-26 : ・風評被害 : コメント : 0 : トラックバック : 0
Pagetop

■2条「原子力損害」の意味・範囲 その19 風評被害 食品について考える

■2条「原子力損害」の意味・範囲 その19 風評被害 食品について考える

 これまでの下級審の判例では,風評被害について,相当因果関係を認定するにあたり,買い控え等の回避行動が,一般通常人を基準に,合理的か(社会通念上是認できるか)を検討するという態度であった。
 原子力損害賠償紛争審査会は,「原子力損害の範囲の判定の指針その他の当該紛争の当事者による自主的な解決に資する一般的な指針を定めること」(原賠法18条2項2号)をひとつの任務とするものであるが,第5回会合での能見教授の発言からも,この「指針」は,「裁判所でそんなに争われることはないだろう,そういうような損害」を示すものとなろうから,当面は確実性の高いものだけということとなるかもしれない。

 審査会では,被害者保護の観点からも,大量かつ迅速な処理になじむ指針の明示が必要である一方,支払いすぎを避けようとする要請もあるはずで,この調整がどのあたりになるのか考えてみる。



〔食品の客観的状態〕
①基準値以上の汚染
②汚染はあるが基準値以下
③汚染無し(あるいは原発事故前と異ならない程度)


〔消費者の希望のレベル〕
①汚染は全く気にしない
②基準値以上のもののみ食べたくない
③汚染がある以上,基準値以下でも食べたくない


〔検査について消費者の疑いのレベル〕
①基準値越えを排除するのに現状の検査体制で足りている。
②現状の検査体制では足りない。

〔消費者の有する情報のレベル,制限品目〕
①制限品目を個別に知っている。
②制限品目の科,類等の小分類までは知っている。
③制限品目について,葉物野菜,根菜類等の中分類までは知っている。
④制限品門について,野菜,果物等の大分類までは知っている。
⑤制限品目については,食品という以外には具体的には何も知らない。

〔消費者の有する情報のレベル,制限地域〕
①個別に市町村まで知っている。
②県単位で知っている。
③原発の近隣県であることを漠然と知っている。

〔市場での表示のレベル〕
①市町村まで表示されている。
②県別表示のみ。


----------------------------

 裁判になっても確実に認められそうなものに限定するとして,国等の公的機関や専門家の判断や検査を信頼するのが,一般消費者の合理的態度であるとして,生産者にかなり厳しく判断すると,

・消費者の希望のレベルとしては,②基準値以上のもののみ食べたくないのが,通常であるとし,③基準値以下でも食べたくないのは,不合理で過剰な回避行動であるとの前提に立つだろう

・検査に関する消費者の疑いのレベルについては,①基準値超えを排除するのに現状の検査体制で足りていると考えるのが,通常であるということになろう。

・消費者の有する情報のレベルについては,①制限品目を個別に知っているか,②小分類か,③中分類までは知っているというあたりが,消費者の通常の状態であると認定するとして。

・また,制限地域については,①個別に市町村まで知っているか,②県単位で知っているのが通常の消費者とし,

・ただし,市場での表示については,①市町村単位の表示より,②県単位での表示が多いだろうから,これについては②が通常とする。



 これを前提とすると,ある作物が

・それと同一の中分類(葉物,根菜等)に属する作物について現に出荷制限等されている場合で

・それが出荷制限等されているのと同一県内で作られたものであって

・その作物が現に出荷制限中や自粛要請中でない場合に

・取引停止,価格低下等によって現に損害が生じた場合

 それを原発事故と相当因果関係のある「原子力損害」として認定するということになろう。

--------------------------------


 ただ,現実の汚染が問題とならなかったJCO事故時よりも,今回の方が,生産者にとって,厳しいものになるはずはないと考えるとして,検討してみると。

JCO事故時の指針
7[営業損害]
(指針)
 I)  茨城県内で収穫される農畜水産物及びこれらに関連する営業であり、広く茨城県県外を商圏とするものについては、生産あるいは営業の拠点が茨城県内にあり、取引の性質から相手方等が取引拒絶等の行動に及ぶこともやむを得ないものと認められ、現実に減収のあった取引について、事故調査対策本部の報告(平成11年11月4日)及び住民説明会(同年11月13,14日)等によって、正確な情報が提供され、かつこれが一般国民に周知されるために必要な合理的かつ相当の時間が経過した時点(同年11月末)までの期間に生じた減収分(売上高から売上原価を控除した売上総利益=粗利益の額)が損害と認められる。
 II)  上記I)以外の営業については、営業の拠点が屋内退避勧告のなされた区域内にあり、取引の性質から相手方等が取引や利用の拒絶等の行動に及ぶこともやむを得ないものと認められ、現実に減収のあった取引について、事故調査対策本部の報告(平成11年11月4日)及び住民説明会(同年11月13,14日)等によって、正確な情報が提供され、かつこれが一般国民に周知されるために必要な合理的かつ相当の時間が経過した時点(同年11月末)までの期間に生じた減収分(売上高から売上原価を控除した売上総利益=粗利益の額)が損害と認められる。



 この指針だと

①事故発生県内で収穫される農畜水産物及びこれらに関連する営業であり
②広く事故発生県外を商圏とするものについては、
③生産あるいは営業の拠点が事故発生県内にあり、
④取引の性質から相手方等が取引拒絶等の行動に及ぶこともやむを得ないものと認められ、
⑤現実に減収のあった取引について、
⑥正確な情報が提供され、事故調査対策本部の報告及び住民説明会等によってかつこれが一般国民に周知されるために必要な合理的かつ相当の時間が経過した時点までの期間に生じた
⑦減収分(売上高から売上原価を控除した売上総利益=粗利益の額)

 が損害と認められる。


・この指針では,農作物の品目,分類による区別はなく,一般に「農蓄水産物及びこれらに関連する営業」としている。
・今回の場合,上の事故発生県として「福島県」が入るのは当然として,その他の出荷制限等のあった他県や,その他都道府県をどう扱うかは問題となる。〔福島県については,農畜水産物で全部くくって,他県については業種や作物の種類で分類するという可能性もある。〕
・また,期間については,事故は終息しておらず,現時点で,正確な情報が提供され、事故調査対策本部の報告及び住民説明会等によってかつこれが一般国民に周知されるために必要な合理的かつ相当の時間が経過したとも思えないので,終期は未到来となるのだろう。


 そこで今回は,JCO事故時より生産者に厳しくならないという前提で類推してみると,少なくとも福島県については,品目種類等の区別なく「農蓄水産物及びこれらに関連する営業」一般について,その生産又は営業拠点が県内にあって,取引の性質から相手方等が取引拒絶等の行動に及ぶこともやむを得ないものと認められ、現実に減収があった部分については,事故発生から現在にいたるまでの損害が,「原子力損害」と認定されることになろう。

 福島県以外については,少なくとも食品の出荷制限等がなされた県において,「農蓄水産物及びこれらに関連する営業」〔品目,種類等の限定があるかもしれないが〕について,その生産又は営業拠点が県内にあって,取引の性質から相手方等が取引拒絶等の行動に及ぶこともやむを得ないものと認められ、現実に減収があった部分については,事故発生から現在にいたるまでの損害が,「原子力損害」と認定されるのではなかろうか。

 これまで何も出荷制限や自粛要請がなされなかった他の都道府県については,指針では決められず,個別に判断ということになろうか。

-------------------------


 どのように考えるにしても,今回は100%人災であったJCO事故とは異なり,大規模自然災害を伴うものであったため,別の考慮が必要とされるだろう。
 観光業にくらべると影響は少ないかもしれないが,大規模自然災害からくる消費の低下というものがあるとして,損害額の算定において,生産者にとって厳しい判断をするなら,大規模自然災害後の消費の低迷分は,原発事故にかかわらず発生するものと判断して,それを全部除くとすると〔以前にも触れた〕
 たとえば他の大規模自然災害時に,消費マインドの低下によって,統計的に10%程度の収入の落ち込みがあるのが普通なら,その部分は賠償対象から除くことになる。現に50%の収入低下があるなら,そのうち40%が原発事故由来のものとして,「原子力損害」と判断する。

 さらに,作付け停止等による減収分,廃棄費用,検査費用等については,その合理性が問われることになって,その態様,程度によっては,過失相殺(民法722条2項)等による減額があり得ることになろう。



関連記事
2011-05-25 : ・風評被害 : コメント : 0 : トラックバック : 0
Pagetop

■2条「原子力損害」の意味・範囲 その18 風評被害 消費者の回避行動と因果関係

■2条「原子力損害」の意味・範囲 その18 風評被害 消費者の回避行動と因果関係


 営業損害としての風評被害については,結局,どのような損害を賠償対象と認めるべきか(価値判断)と,そのための範囲を画する理論をどうするのか(論理的枠組み)という点が問題となる。


〔損害と価値判断〕
①原発事故と関係ない損害の請求
②原発事故に起因するが,一般人を基準に,社会通念上,合理的なものとして是認できない過剰な回避行動による損害の請求
③原発事故に起因し,一般人を基準に,社会通念上,合理的なものとして是認できる回避行動による損害の請求

 まず,①の排除は争いがなかろう。③を賠償すべき損害と捉えることも争いがないはずである。しかし,②について,これによる損害を,生産者等が負担すべきと考えるか,原子力事業者が負担すべきと考えるか,どちらが公平といえるのか,価値判断のレベルで分かれるのではなかろうか。


-------------------------------
〔因果関係論〕
ア 相当因果関係説(事実的因果関係前提に相当因果関係判断)判例・通説
 ア1 民法416条類推肯定説
 ア2 民法416条類推否定説
イ 保護範囲説(事実的因果関係,保護範囲,金銭評価)有力説
 イ1 義務射程説
 イ2 危険性関連説
-------------------------------

 因果関係論について,判例通説の相当因果関係説に立ったとてしても,判断の理論的な枠組みとしては,以下のようなものが考えられる。

〔理論的枠組み〕

A 事実的因果関係の問題。
・不当請求,過剰な回避行動を事実的因果関係のレベルで排除することを考える。

B 相当因果関係の問題。
・不当請求,過剰な回避行動を因果関係の「相当性」のレベルで考える。
B1 風評被害は,通常損害であるとして,原則として相当因果関係を認める。
B2 一般人を基準に合理的と是認できる風評被害は,通常損害,それ以外は特別損害として,予見可能性のある範囲内でのみ賠償対象とする。
B3 風評被害は,原則として特別損害であり,予見可能性のある範囲内でのみ,賠償対象とする。

C 損害の有無金額の認定,過失相殺(民法722条2項)の問題。
・損害の有無金額の認定,過失相殺の理論等で不当請求,過剰請求は排除する。


 このABCは,排他的な択一関係にあるのではなく,どの理屈や観点を,賠償対象に絞りをかけるための道具とするのかという違いであって両立しうるものもある。また,因果関係論について,相当因果関係説のうち,どの立場をとるかによって,理論的枠組みのうち,どれになじむかという差はあろう。


 原子力施設の事故と,風評被害の関係については,そもそも最高裁判例がないし,判例理論が固まっているといえるほどの数の判例が存在しない。
 これまでの下級審の判例では,過剰な買い控え分は賠償対象から排除しようする価値判断に立ち(前述の①②を排除しようとする価値判断),その理論的枠組みとしては,相当因果関係を問題とする立場(前述のB2?)をとるようである。
 この場合,一般人を基準に合理的と是認できる損害を,相当性あるものとして因果関係を肯定するが,具体的にどこまで一般に是認できるとするのかが問題となり,なんとか理屈をつけて一定の観点から,時間的場所的限定を加えるということになろう。
 大量迅速な処理が要求されるなど,画一的判断が必要な場合にはなじむが,それゆえに結論において公平を欠く可能性があろう。


--------------------------------
・平成元年5月17日・名古屋高等裁判所金沢支部判決(判タ705号108頁)
 敦賀原発風評被害訴訟。昭和56年1月敦賀原発において,日本原子力発電が,放射性物質を漏洩させた事故に関するもの。事故事実の公表後,風評被害が広がり,水産市場関係者が,売上げ減少による損害の賠償を,日本原子力発電株式会社を訴えた。
「前認定のとおり,本件事故の発生とその公表及び報道を契機として,敦賀産の魚介類の価格が暴落し,取引量の低迷する現象が生じたものであるところ,敦賀湾内の浦底湾に放射能漏れが生じた場合,漏出量が数値的には安全でその旨公的発表がなされても,消費者が危険性を懸念し,敦賀湾産の魚介類を敬遠したくなる心理は,一般に是認でき,したがって,それによる敦賀湾周辺の魚介類の売上減少による関係業者の損害は,一定限度で事故と相当因果関係ある損害というべきである。」
「前認定のとおり,事故による影響かどうか必ずしも明らかではないものの,一部売上減少が生じたことが窺われるが,敦賀における消費者が,敦賀湾から遠く離れ,放射能汚染が全く考えられない金沢産の魚まで敬遠し,更にはもっと遠隔の物も食べたくないということになると,かかる心理状態は,一般には是認できるものではなく,事故を契機とする消費者の心情的な判断の結果であり,事故の直接の結果とは認めがたい。金沢産の魚も心情的には不安であるとの理由で賠償を命ずるものとすれば,金沢における消費の低下も是認しなければならなくなり,損害範囲はいたずらに拡大することとなる。したがって,右控訴人らの売上高が本件事故後減少したとしても,消費者の個別的心理状態が介在した結果であり,しかも,安全であっても食べないといった,極めて主観的な心理状態であって,同一条件のもとで,常に同様の状態になるとは言い難く,また一般的にも予見可能性があったともいえない。すると,本件浦底湾における人体に影響のない微量の放射能漏れと敦賀の消費者の金沢産魚介類の買い控えとの間には,相当因果関係はないというべきである。」
-----------------------------------


 JCO事故と,今回と,ともに原子力損害賠償紛争審査会の委員をされている大塚直教授は,事実的因果関係の前提として,条件関係と反復可能性が必要であるという立場から,一定の場所的限界のもとでのみ損害発生の反復性があるとしうる場合には,場所的限界は,事実的因果関係の及ぶ範囲を定めたものと考えうるとの立場をとられるようである。事実的因果関係のレベルで考えるので,前述のAの立場?

・ジュリスト1186号41頁,大塚直「東海村臨界事故と損害賠償」
「一定の場所的限界のもとでのみ損害発生の反復性があるとしうる場合,それは不法行為法のどの問題を論じているのであろうか。まず,事実的因果関係と保護範囲を分ける有力説に立つと,この問題が事実的因果関係の問題か,保護範囲の問題かが議論されよう。事実的因果関係は条件関係のみを内容とするという理解もありうるが,最近では,事実的因果関係の前提として,原因と結果との反復可能性が必要でるとするものが少なくない。この見解によれば,一定の場所的限界を設けることは,事実的因果関係の及ぶ範囲を定めたことになる」

 
 また,窪田充見教授は,先の敦賀原発風評被害訴訟判決の評釈で次のように論じておられる。
・判例時報1376号118頁(判評387-42)
「相当因果関係判断の基準とされている消費者の心理は、本判決の述べるように「是認されるもの」、「是認されないもの」なのであろうか。すなわち、本判決は、「漏出量が数値的には安全でその旨公的発表がなされても、消費者が危険性を懸念し、敦賀湾産の魚介類を敬遠したくなる心理は、一般に是認」できるとし、一方「敦賀における消費者が、敦賀湾から遠く離れ、放射能汚染が全く考えられない金沢産の魚まで敬遠し、更にはもっと遠隔の物まで食べたくないということになると、かかる心理状態は、一般には是認できるものではなく、事故を契機とする消費者の心情的な判断の結果であり、事故の直接の結果とは認め難い」とする。本判決自体がいみじくも述べているように、消費者の心理は、必ずしも現実の汚染について事後の評価と関わりがないものであり、またそうした消費者の心理が本件のような営業上の損害という事案においては重要な部分を占めるとすれば、そうした消費者の心理を是認する、是認しないという問題設定は、そもそも出発点とずれてしまっているとも言える。本判決は、それにつないで、「Xらの売上高が本件事故後減少したとしても、消費者の個別的心理状態が介在した結果であり、しかも、安全であっても食べないといった極めて主観的な心理状態であって、同一条件のもとで、常に同様の状態になるとは言い難く、また一般的に予見可能性があったともいえない」としているが、ここに至って、さらに矛盾は大きくなるものと思われる。すなわち、「個別的心理状態」とはいっても、売上高減少をもたらしたようなものだとすれば、集団的で統計的に有意なものである筈であり、因果関係の中断などで論じられるような第三者の介入と同列に扱われるべきものではない(統計的に有意なものであるならば、何の論証もなしに「同一条件のもとで、常に同様の状態になるとは言い難く」と片付けることも許されないのではなかろうか)さらに、「安全であっても食べないという極めて主観的な心理状態」は、一方で本件自身が一般論としては「是認」しているものなのではなかろうか。原発事故のように影響が広範囲に及ぶものについては、どこまでを賠償範囲として扱うかの判断が困難であることは、十分に理解でき、その意味で、「金沢産の魚も心情的には不安であるとの理由で賠償を命ずるものとすれば、金沢における消費の低下も是認しなければならなくなり、賠償範囲はいたずらに拡大することになる」という視点は、論理的にはともかく、実際上の判断に重要な役割を果たしたことが推察される。ここでは、理論的な観点からみた場合、本判決のような相当因果関係の説明の仕方には問題があると考えられる点、まずは指摘しておくことにする(なお予見可能性の判断が事実の問題か当為の問題かについて論ずる前田達明・不法行為法理論の展開(昭和五九年)二〇六頁以下は、ここでの問題に関しても示唆的である)。」

 このように,この窪田教授の評釈では,回避行動が一般に是認できるか否かを,相当因果関係の判断基準とする判決の理論に対し,根本的な疑問が呈されている。

----------------------------



【結局どのように考えるか】

〔無関係な損害の不当請求〕
・原発事故と全く関係のない損害についての賠償請求は認めるべきではないのは当然であろう。あれ無ければこれ無しといはいえず,そもそも条件関係がない。


〔自然災害を理由とする回避行動による損害〕
・地震津波等の原発事故と関係のない他の要因のみからくる消費者の買い控え等回避行動については,価値判断としても,原子力事業者には,賠償義務なしとして良かろう。

・食品等については,自然災害が理由に購入を見合わせる人は少なく,多くは放射性物質による汚染のおそれから回避行動に出ていると思われる。
 ただし,大災害であることから,社会の混乱や不安感の蔓延で一般に消費が抑えられて,その分による減収はあろう。この場合,多数の消費者の意図をいちいち個別には問題とはできないので,阪神淡路大震災や中越沖地震などの場合の統計的資料をもとに,原発事故がなくても大規模自然災害時に通常おきる消費低迷分は推定できるとして,それを賠償の対象とすべきかは問題となろう。

 観光業の場合,消費者の回避行動は,国内外を問わず,自然災害での被災地,被災国に旅行するのが気が引けるという部分もあろうし,余震等震災への恐怖等もあって,必ずしも全てが原発事故,放射性物質への恐れからくるものではないはずである。これも,阪神大震災等の他の大規模自然災害の場合の統計的資料に基づき,どの程度の割合が,そもそも原発事故がなくても減少すると考えられる部分がを考慮して,大規模自然災害時に通常おきる消費低迷分は推定できるとして,それを賠償の対象とすべきかは問題となろう。


・消費者個人の感情を推定するとして,これを詳しく考えると

(a) 自然災害への恐れ等の原発事故と関係のない理由のみによる回避行動
(b) 原発事故,放射性物質への恐れのみからくる回避行動
(c) (a)と(b)が合わさった理由からくる回避行動

 これは観光業などで特に問題となるだろうが,この(a)による損害を「原子力損害」として賠償対象としないことは問題がなかろう。(a)は,おそらく条件関係がないものとして排除される。
 また,(b)が原子力損害として検討対象となることも問題がなかろう。食品の購入や原発近隣地への旅行などは,(b)による回避が多いだろうし,原発近隣地以外への旅行減少などは,(a)の回避行動が多いかもしれない。
 問題は(c)で,これは,原発災害による回避行動と,自然災害による回避行動の重なる部分ともいえる。また(c)の部分の損害は,原発事故と自然力との競合によって発生したものと捉えることもできる。〔事故発生そのものについて自然力が関与した場合の競合とは同様に考えられないかも知れない?。〕http://genbaihou.blog59.fc2.com/blog-entry-49.html

 この(c)の処理については,理論的には以下の立場が考えられる。

1 (c)の部分は,原子力事業者には負わせない。
2 (c)の部分も全部,原子力事業者に負わせる。
3 (c)の部分のうち一定割合を原子力事業者に負わせる。

 どの立場に立っても、〔大災害時の統計的資料等を参考にするなどいくらか手かがりはあろうが〕具体的にどうやって、(a)(b)(c)の損害の範囲を画するのかは問題となる。
 また、少なくとも民法上の理屈としては,重畳的競合の場面では,競合条件を取り去った上,あれ無ければこれ無しという条件公式を適用して,条件関係(事実的因果関係)を肯定することは許されるので,(c)の部分について条件関係を肯定することはでき、2の立場は、論理的に容易であるが、1と3のように原子力事業者の責任の全部又は一部の減責を認めようとする場合、いかなる理論構成(相当因果関係?, 割合的因果関係?,自然力競合での減責論?,損害額の評価?)になるのかが問題となろう。


〔過剰(不合理)な回避行動による損失部分〕
・消費者の合理性を欠く過剰な買い控え(一般に是認できないもの)については,前述のとおり,そもそもこれを賠償対象とすべきか,生産者が受忍すべきとするかの問題であり,一般人を基準として合理的なものといえる否かによって相当性を判断すべきかという問題につながる。
 これについては,以前に述べた。

 今回の事故は,現実に大量の放射性物質がまき散らされるという,我が国おいてきわめて異例な事故で,低レベルの放射線被爆の影響,危険性については,専門知識がない一般消費者が確信を持てる状態にはなく,その受忍限度等についても社会的コンセンサスもない社会において,そもそも一般通常人の合理的判断というものを観念しうるのかという根本的疑問がある。また,放射性物質がまき散らされるという大規模原発事故が起きれば,微量ながらも放射性物質の飛来する恐れのある範囲で生産される食品について,それが合理的か否かにかかわらず,一定の消費者が気にして食べないということが起きるのは,なんら不自然ではないのであって,通常の因果の経過であることは明白ではなかろうか。
 したがって,不当請求や,自然災害など他要因による回避行動による損害や、その他要因による減収部分の請求は,まず条件関係なきものとして事実的因果関係で絞り(A),その上で,原発事故や放射性物質に対する恐れからくる回避行動によって生じた損害については,放射性物質の飛来が現にある地域(ほぼ日本全土)について,その合理性(一般人を基準に社会通念上是認できるか)などは問わず,通常損害として相当因果関係を認め(B1),過剰請求等は,損害の有無・金額の認定,過失相殺等で排除(C)するのが、〔少なくとも裁判手続きでは〕妥当ではなかろうか。
 
 この場合でも、損害発生に至る過程で、第三者の犯罪行為や民法上の不法行為に該当するような行為が介在するなど異常な因果経路を辿った場合は、当然、それは因果関係の切断によって事実的因果関係が否定されたり、相当因果関係が否認される余地はある。

 大量迅速な処理が求められ,画一的判断が不可避な裁判前の紛争審査会での判断としては,時間的場所的限定をするなど何らかの画一的基準を示していくしかないだろうが,それを相当因果関係の問題として確定してまうなど,基準について法律的な理屈を明示してしまうのは,裁判ではないわけだし,問題があるのではなかろうか。



関連記事
2011-05-24 : ・風評被害 法律的な理屈 : コメント : 0 : トラックバック : 0
Pagetop

■原発事故による風評被害対策について考える その5 風評被害での訴訟攻防

■原発事故による風評被害対策について考える その5 風評被害での訴訟攻防


【原告の主張立証】
1 当事者
・原告の業務内容等
・被告が「原子力事業者」(原賠法2条3項,原子炉等規制法23条1項1号)に該当する事実

2「原子力損害」の発生,その経緯
・被告によって,原賠法2条1項「原子炉の運転等」があったこと。
・「原子炉の運転等」の下に,地震津波が起き,水素爆発,放射性物質の飛散に至った経緯(事業者の過失不要なので,注意義務や,東電の過失を根拠づける事実等の主張立証は不要)
・風評の広がり,価格低下,取引停止,検査要求、廃棄,作付け断念等の経緯,その日時,量等

3 因果関係 
・事実的因果関係
 原発事故、放射性物質への虞から買い控えが生じ、ひいては減収が生じたこと
・相当因果関係
 「相当性」を根拠づける事実の主張立証
〔相当性の判断基準,方法について,従来の下級審判例理論を争う余地?〕
 「相当性」判断について従来の判例に従うとしても,消費者や取引業者等の回避行動が,一般通常人を基準として合理的といえ,一般に是認できるものであったこと,それを根拠づける事実。安全性危険性の曖昧さ,消費者を取り巻く情報環境等。

4 損害額の計算
・値段の低下,取引停止分,過去の決算書類等で減収額,廃棄費用、検査費用等
・損益相殺分マイナス(保険等。被告の抗弁)



【被告の反論】
1 原賠法3条1項但書の適用あり
・今回の天災が,「異常に巨大な天災地変」であること,それを根拠づける事実。巨大な規模等,立法過程での認識,予見可能性等
・相当因果関係。その「異常に巨大な天災地変」によって,今回の原発事故が起きたこと。
被告の無過失の主張立証を要するか?〕

2 原賠法2条2項の「原子力損害」の意味について,法律的主張
・意味を限定的に捉えて,風評被害のような拡大損害は,2条2項の定義に当てはまらず「原子力損害」にはそもそも該当しないと主張する。

3 因果関係の否認
・事実的因果関係否認 
 国、マスコミ、その他第三者に行為による因果関係の中断?
  震災後の消費自粛が原因?
・相当因果関係否認、「相当性」を否定する事実の主張立証
 その買い控え等が,一般通常人を基準として,是認できない不合理なものであること。安全の確実さ,その認識の容易性等。

4 過失相殺(民法722条2項)の主張
・原告の過分な処置によって,損害が拡大された。損害拡大防止義務違反。

〔5 原因競合による減責の主張〕
自然力
・国、その他の行為
・他の消費低迷要因の競合

【原告の反論】
1 原賠法3条1項但書の適用なし
・今回の天災は3条1項但書にいう「異常に巨大」なものではないこと,評価障害事実。規模等,立法過程での認識,予見可能性等
被告の過失の競合による適用否定の主張できるか?〕

2「原子力損害」の意味については,従来の判例どおり,結果類型等は無限定とすべきとの法律的主張。
〔仮に,限定説で、該当しないとすると,原告は,被告の過失立証して民法709条の適用を主張するというルートへ。被告は,過失の評価障害事実主張立証へ〕

3 過失(民法722条2項)なきこと
・廃棄処分,作付け断念等が,やむを得なかった事実。損害拡大防止義務違反なきこと。政府自治体の指示,土壌等の汚染程度,営業努力の事実等。


------------------------------


 風評被害でも福島に近くて,損害も明白そうなものについては,普通は,訴訟にまでならずに解決するだろう。

 JCO事故のときの指針では,以下のように時間的場所的限界が示された。

---------------------
I)  茨城県内で収穫される農畜水産物及びこれらに関連する営業であり、広く茨城県県外を商圏とするものについては、生産あるいは営業の拠点が茨城県内にあり、取引の性質から相手方等が取引拒絶等の行動に及ぶこともやむを得ないものと認められ、現実に減収のあった取引について、事故調査対策本部の報告(平成11年11月4日)及び住民説明会(同年11月13,14日)等によって、正確な情報が提供され、かつこれが一般国民に周知されるために必要な合理的かつ相当の時間が経過した時点(同年11月末)までの期間に生じた減収分(売上高から売上原価を控除した売上総利益=粗利益の額)が損害と認められる。
 II)  上記I)以外の営業については、営業の拠点が屋内退避勧告のなされた区域内にあり、取引の性質から相手方等が取引や利用の拒絶等の行動に及ぶこともやむを得ないものと認められ、現実に減収のあった取引について、事故調査対策本部の報告(平成11年11月4日)及び住民説明会(同年11月13,14日)等によって、正確な情報が提供され、かつこれが一般国民に周知されるために必要な合理的かつ相当の時間が経過した時点(同年11月末)までの期間に生じた減収分(売上高から売上原価を控除した売上総利益=粗利益の額)が損害と認められる。
---------------------


 今回は,規模も態様も違うので,風評被害について,原子力損害賠償紛争審査会でどのような指針がでるか予想もできないが,紛争審査会が不当請求や賠償金の過払いを防ごうと考えている以上,まず時間的場所的に明白といえるものを,その対象とし,曖昧なものについてはケースバイケースで判断ということになり,そこについては明確な判断指針を出せないことになるのではないか。

 いずれにしても訴訟で争われるのは,相当因果関係が問題となる事案であろうし,そこについての攻防がもっとも熾烈になるのではなかろうか。


関連記事
2011-05-23 : ・風評被害対策 : コメント : 0 : トラックバック : 0
Pagetop

■2条「原子力損害」の意味・範囲 その17 風評被害 外国の輸入規制

■2条「原子力損害」の意味・範囲 その17 風評被害 外国の輸入規制

農林水産省 諸外国・地域の規制措置等
http://www.maff.go.jp/j/export/e_info/hukushima_kakukokukensa.html

5月20日現在の規制措置
http://www.maff.go.jp/j/export/e_info/pdf/kensa_0520.pdf

5月16日現在の規制措置
http://www.maff.go.jp/j/export/e_info/pdf/kensa0516.pdf

上の農水省のpdf資料の最後のページにある指標値の表によると

〔野菜類(根菜,芋類除く)の放射性ヨウ素131〕単位Bq/kg
日本    2000
シンガポール 100
タイ     100
韓国     300
中国     160
香港     100
台湾     300
フィリピン 1000
ベトナム   100
マレーシア  100
米国     170
EU     300

〔野菜類の放射性セシウム134,137〕単位Bq/kg
日本     500
シンガポール1000
タイ     500
韓国     370
中国     210
香港    1000
台湾     370
フィリピン 1000
ベトナム  1000
マレーシア 1000
米国    1200
EU     500

-------------------------------

 今も,多数の国で,日本全土から,あるいは原発近隣県からの食品等の輸入規制をしている。このために,営業損害を被った生産者や輸出業者が保護されるのかという問題がある。
 以前にも触れたが,外国の輸入規制による損失を,国内の風評被害と同様に考え,相当因果関係を検討するなら,そのような輸入規制が一般通常人を基準に社会通念上,合理性があるものか否かという観点から判断されることになる。
 そして,現在も,日本政府が必死になって,風評被害を防ごうと外国政府に事情説明しているはずで,外国なので情報が足りないといことはないだろうし,各国の政府関係者や専門家の判断が前提となるはずだから,日本の消費者個人よりも,より合理的な判断が可能な状態にある可能性があって,外国政府の判断が不合理で異常で行きすぎた輸入規制であるとはなかなか言えないかもしれない。
 もっとも,国の判断は,消費者個人の判断とは異なること,上記のとおり各国ごとに基準値が存在することなどから,別の観点から,相当因果関係が判断されるかもしない。その場合,国内の消費者の買い控え問題とどのように区別し,それをどのように理由づけるのか,外国の基準値の合理性についてはどう考えるのかなどかが問題となろう。



〔シンガポールによる兵庫県産野菜の輸入規制について〕

・5月16日時点でのシンガポールの規制措置を見ると,

「千葉、東京、神奈川、埼玉、静岡、兵庫(6都県)」の「果物・野菜(加工品含む)」について,「輸入停止」となっていた。
 
・5月20日時点でのシンガポールの規制措置を見ると,

「千葉、東京、神奈川、埼玉(4都県)」の「野菜・果実とその加工品」について,「輸入停止」となっている。


・これは5月16日に輸入停止が解除されたからである。

http://www.maff.go.jp/j/press/kokusai/yusyutu/110517.html
「シンガポール政府は、産地の誤表示に基づいて、静岡・兵庫県産の野菜・果実につき輸入停止措置としていましたが、5月16日付けで、この措置を解除しましたので、お知らせいたします。」


・このようにシンガポールでは,5月16日まで,「兵庫」県産の野菜類を,輸入規制していたのであるが,シンガポール以外の国の場合,全都道府県で輸入規制しているために兵庫県産も規制対象となる場合があるが,特に数県を選んで規制する場合に,「兵庫県」を指定している国は無い。

 これは以下のような経緯によるものである。

------------------------------------
MSN産経ニュース
http://sankei.jp.msn.com/world/news/110404/asi11040423520005-n1.htm

兵庫県野菜も輸入停止に シンガポール
2011.4.4 23:51
 シンガポールの農畜産物管理庁は4日、兵庫県で生産された野菜から微量の放射性物質が検出されたため、同県産の野菜と果物を輸入停止にすると発表した。同国による輸入停止の対象都県は11になった。
 同庁によると、放射性物質が検出されたのは2日に入荷した兵庫県産のキャベツ。ヨウ素131やセシウム134などが検出された。
 同庁はこれまでに福島、茨城、栃木、群馬4県の牛乳を含む全生鮮品の輸入を停止。静岡、愛媛、千葉、神奈川、埼玉の5県と東京都については野菜と果物に限定して輸入を停止していた。(共同)

-------------------------------------


 しかし,これについては後に,兵庫県産では無かったと報道された。


-------------------------------------
産経関西
http://www.sankei-kansai.com/2011/04/08/20110408-051530.php

関西の社会ニュース2011年4月 8日
放射線キャベツは県外産ハクサイ
 シンガポールの農畜産物管理庁が、兵庫県産キャベツから微量の放射性物質を検出したとして輸入停止にした問題で、県は7日、問題となった野菜は県外産のハクサイだったと発表した。県はシンガポール政府に輸入停止の解除を農水省を通じて要請した。県によると、ハクサイは東京都内の業者が輸出。都に対して業者は「兵庫県産と他地域のハクサイを取り違えてしまった」と説明したという。
(2011年4月 8日 06:50)

-------------------------------------

 結局,この記事が事実だとすると,この東京都内の業者の行為によって,兵庫県産の野菜と果物が,4月4日から5月16日までの間,シンガポールに輸出できない状態になったともいえる。

 このことによって,兵庫県の生産者等が損害を被ったのか,どの程度被ったのかについては知らないが,仮に損害があったとした場合,これを東電が賠償しなければならないのかという点が問題となろう。

 この点,この東京都内の業者の行為がなければ,シンガポールは兵庫県産の果物・野菜を輸入停止しなかったのは確実であり,このような予見不可能な異常な経緯による損害までは,相当因果関係なしとされるかもしない。
 その場合は,損害を被った生産者は,この東京都内の業者に対して,民法709条に基づく損害賠償請求をすることになろう。

 あるいは,もともと原発事故による放射性物質の漏出が起点となった騒動であり,原発事故の後の混乱の中で,こういう間違いや情報の混乱は通常あることなので,相当因果関係ある損害として,東電に賠償義務があると考える余地があるかもしれない。
 その場合,もし仮に,その東京都内の業者が意図的に産地偽装等をしていたなどの場合は,東電は生産者に支払った賠償金の全部又は一部について,原賠法5条に基づく,求償請求をする余地がある。なお,この場合,5条1項の「故意」の対象について,それが原発事故についてのものなのか,損害の発生についてなのか問題となる余地はある。
 これら損害は,今回の事故による全損害の中では,微々たるものかもしれないが,5条による求償請求の余地があるものについては,東電もそれなりの準備をすることになろう。


関連記事
2011-05-23 : ・風評被害 : コメント : 0 : トラックバック : 0
Pagetop

・原発事故と精神的損害 その1

・原発事故と精神的損害 その1

 原賠法は,民法の不法行為規定の特別法であり,特に精神的損害を排除する規定もないので,民法710条にあるとおり,精神的損害については,財産以外の損害として,それを賠償する義務がある。

---------------------------
民法

(不法行為による損害賠償)
第七百九条  故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。

(財産以外の損害の賠償)
第七百十条  他人の身体、自由若しくは名誉を侵害した場合又は他人の財産権を侵害した場合のいずれであるかを問わず、前条の規定により損害賠償の責任を負う者は、財産以外の損害に対しても、その賠償をしなければならない。
----------------------------


〔精神的損害として考えうるもの〕

1 生命侵害→死亡慰謝料
(1)爆発や急性放射線障害等で死亡した場合
(2)原発事故からの避難,退避の過程で死亡した場合

2 身体,健康
(1)被爆による急性放射線障害による精神的苦痛
(2)被爆により晩発性の障害が出た場合による精神的苦痛
(3)一定線量の被爆によって,将来,健康被害に至る可能性が増大したと認められ,健康の不安を抱えさせられた場合の精神的苦痛。

3 自由,生活の平穏等
(1)政府,自治体の指示による退避,避難によって生活の不便を強いられた場合の精神的苦痛
(2)自らの判断で退避,避難した場合の精神的苦痛
(3)避難等で失職,廃業に追い込まれた場合の精神的苦痛

4 財物
(1)ペット等愛玩物の死亡,喪失による精神的苦痛
(2)自宅土地建物の利用不能による精神的苦痛

5 純粋な精神的苦痛
 生命身体自由財産等になんら被害はないが,原発事故と放射能汚染に対する一般的不安,精神的ショックにより苦痛を感じた場合


------------------------------

1 生命侵害→死亡慰謝料
 原発事故と同様には考えられないが,交通事故での死亡例などでは,2000万円から3000万円程度。


2 身体,健康
(1)(2)障害の程度(重篤度)によって,慰謝料は違う。
(3)一定線量の被爆によって,将来,健康被害に至る可能性が増大したと認められ,健康の不安を抱えさせられた場合は,どのように考えるか問題である。
 これは薬害事件に似たところがある。一定線量以上の被爆で,ガン等の発病の危険性が増加したが,未だ発病していない場合ていない場合なので,肝炎等のウィルスに感染したが未だ発病していない人と同様か?。発ガンリスクの増加の程度にもよるので同様には論じられない?


3 自由,生活の平穏等
(1)政府,自治体の指示による退避,避難によって生活の不便を強いられた場合
 避難に要した費用等は避難費用等は財産的損害として当然賠償の対象となるとして,避難,退避による不便,精神的苦痛による損害をどうするかのは問題である。
 これについては,紛争審査会の第一次指針で次のように述べられている。

「本件事故においては、実際に周辺に広範囲にわたり放射性物質が放出され、これに対応した政府からの避難や屋内退避等の指示があったのであるから、対象区域内の住民らが、住居から避難し、あるいは、屋内退避することを余儀なくされるなど、日常の平穏な生活が現実に妨害されたことは明らかであり、また、その避難等の期間も総じて長く、また、その生活も過酷な状況にある者が多数であると認められる。
 したがって、本件事故においては、少なくとも避難等対象者については、その状況に応じて、避難等により正常な日常生活の維持・継続が長期間にわたり著しく阻害されたことによる一定の精神的損害を観念することができる
3) この精神的損害に係る損害額の具体的な算定は困難であるが、例えば、避難等を余儀なくされた経緯(避難指示、屋内退避指示の別等)、避難等の別(避難、対象区域外滞在、屋内退避)、避難等の期間及び避難した施設の居住環境その他の避難等における生活状況等に応じて避難等対象者を類型化した上、段階的かつ合理的な差を設けるなどして、類型化された対象者ごとに共通する一定の精神的損害及びこれに対する賠償額を認めることが考えられる。」

 このように政府等によって避難退避指示された者については,その生活の不便等についての精神的損害は賠償の対象となることになる。その金額は不明であるが,たとえば交通事故で入院生活を強いられた場合などは,入院慰謝料として,通常の場合,6ヶ月で110万円程度,12ヶ月で166万円程度,24ヶ月で206万円程度とされている。怪我をして入院している場合と,健康なまま生活の不便を強いられている場合と違うだろうし,避難場所が,通常の病因より不便かもしれないし,ホテル等でそれより快適かもしれないし,同様には考えられない?

※一人月額10~12万円?
原子力損害賠償紛争審査会 第二次指針追補
http://genbaihou.blog59.fc2.com/blog-entry-137.html

(2)自らの判断で退避,避難した場合
 この場合,避難費用等の経済的損失や,それによる精神的損害も,そもそも賠償対象の「原子力損害」となるか否かが問題となる。
 これについては,現時点(平成23年5月20日)では,紛争審査会も指針は出しておらず,どうなるのか不明である。
 これはかなり難しい問題で,政府等によって避難退避指示をされた地域以外でも,現在の避難退避等指示地域よりも線量が高い場所もあるかもしれないし,客観的な線量を前提に,平均的・一般的な人の認識を基準として,退避,避難が合理的と認められる範囲での避難退避については,相当因果関係あるものとして「原子力損害」に該当しうるとすると,どの範囲が,平均的一般的な人の認識を基準とするのが合理的かという問題がある。
 かといって,政府による指示があった地域以外は,一切,避難費用も避難による精神的損害も認めないというのでは,ぎりぎり圏内に入る者と,そこからほんの数メートルしか違わない隣地の者との差が大きくなりすぎて公平ではなさそうだし,誰かがどこかで線を引くのか,原発からの距離や土地の放射線量に応じて賠償割合を漸減させるような形になるのか?

(3)避難等で失職,廃業に追い込まれた場合
 避難等で失職や廃業した場合に,本来得られた給与,収入の減額分は当然に,損害であり,それは財産的損害であるが,それまでやっていた自分の仕事が奪われたことによる苦痛,次の仕事を探さなければならないことの苦労などによって,精神的苦痛が発生するのは容易に予想でき,それらも当然賠償の対象となる精神的損害となるであろう。〔一次指針では触れられていない?〕

・JT乳業事件
 平成17年5月18日,名古屋高裁金沢支部判決(平成15(ネ)329)
 会社代表者の任務懈怠で会社解散・解雇。従業員が会社代表者に損害賠償を求めた。
「既に認定した事実及び弁論の全趣旨によれば,被控訴人従業員らは,Dの重大な過失に基づく本件任務懈怠により本件会社が解散,廃業に追い込まれたことで,突然に就業先を失って,日々の生活の糧を得る途を失う事態に遭遇するに至ったのであり,これにより,被控訴人従業員ら及びその家族が将来に対する大きな不安を抱いたこと,そして,被控訴人従業員らは,自らと家族の生計を維持するために相当に困難な再就職活動を余儀なくされ,そのための努力を強いられ,また,被控訴人従業員らのうち,再就職した従業員については,本件解雇前とは異なる職場環境で労働するほか,その多くは,本件解雇前の職種と異なる職種の労働に従事することになって,相当の苦労をし,他方,再就職できなかっ
た従業員については,自己及び家族の生活上の将来への不安を一層募らせたことを推認することができる。そうすると,被控訴人従業員らがDの本件任務懈怠により被った精神的苦痛は相当に重大であったものというべきであるから,雇用保険法に基づく基本手当及び再就職手当の受領の事実,退職金差額による逸失利益の存在の可能性を加減事情として考慮すると,被控訴人従業員らの被った上記精神的苦痛を慰謝するための額として,被控訴人従業員ら一人について各100万円を認めるのが相当である。」


4 財物
 財物の毀損,喪失で,発生する精神的損害について,それが賠償すべきものとなるか否かについては,通説的理解としては,財産的侵害があった場合に通常生ずる損害は,財産的損害であって,その外にはみ出した精神的損害があるならば,それは特別事情(物的損害が回復されてもなお回復されない特別の事情)による損害として,当事者に予見可能性があった場合のみ,賠償すべきと考えられている。

(1)ペット等愛玩物の死亡,喪失
 ペット等の愛玩等物の死亡等でも,そのペットの財産的価値以外に,その喪失による飼い主の精神的損害については,裁判所が認めることがある。
・飼い猫が犬に噛み殺された(東京地裁昭和36年2月1日,判時248-15)
・愛犬が他の犬にかみ殺された(東京高裁昭和36年9月11日,判時283-21)
・愛犬を行方不明にさせられた(東京地裁昭和39年4月27日,判タ162-186)
・飼い犬が自動車に轢かれて死亡(東京地裁昭和40年11月26日,判時427-17)
・愛着を持って育ててきた山林の伐採(大阪高裁昭和43年11月30日,判タ230-274)。
・藩主から拝領し愛着もって生育した植木が枯死(秋田地裁昭和48年12月3日判時745-88)

(2)自宅土地建物の利用不能による精神的苦痛
・隣地高台に瑕疵があり崩壊の危険がある場合(横浜地裁昭和38年3月25日,下民集14-3-444)

 最悪の状態を考えるとして,仮に,何十年も長期にわたり自宅に戻れないようなことがあった場合,土地建物を完全に喪失したようなものであり,この場合,その財産的価値の賠償は当然として,自宅を失ったことによる精神的損害についてどう考えるのか。
 土地の公用収用のような場合,一応,「公共用地の取得に伴う損失の補償を円滑かつ適正に行なうための措置に関する答申」(昭和37年(1962)3月20日、公共用地審議会から建設大臣あて答申)で,「公共用地を適法な手続により取得する場合において、たとえ精神的苦痛を与えることがあるとしても、これは社会生活上受忍すべきものであって、通常生ずる損失とは認めることができないものであるから、この種の補償項目は、設ける必要がない。」とされ,精神的損失の補償は否定されている。
 しかし,公用目的で正式な手続で収用される土地と,原発事故による汚染のように,私企業の事故で,突然土地を追われて戻れないことになった場合とでは,同列には論じられないのではないか。


5 純粋な精神的苦痛
 生命身体自由財産等になんら被害はないが,原発事故と放射能汚染に対する一般的不安,精神的ショックにより苦痛を感じた場合どうなるのか。


・JCO事故時の損害認定指針(平成12年3月)
http://genbaihou.blog59.fc2.com/blog-entry-43.html
---------------------
8[精神的損害]
(指針)
 本件事故において、身体傷害を伴わない精神的苦痛のみを理由とする請求については、損害の発生及び金額の合理性について請求者側に特段の事情がない限り、損害とは認められない。
(備考)
 1)  研究会では、原賠法にいう「原子力損害」に精神的損害(慰謝料)が含まれることについては見解の一致を見た。しかしながら、本件事故における精神的損害のうち身体傷害を伴わない精神的苦痛の申し出に関しては、議論の過程で、賠償の対象とする損害と認められないとする見解と認められる余地があるとする見解が示されたものの、最終的には、請求者側に特段の事情がない限り認められないとする見解が支配的となった。
 2)  身体傷害を伴わない精神的苦痛の有無、態様及び程度等は、当該請求者の年齢、性別、職業、性格、生活環境及び家族構成並びに人生観、世界観及び価値観等の種々の要素によって著しい差異を示すものである点からも、損害の範囲を客観化することには自ずと限界がある。このような性質を有する身体傷害を伴わない精神的苦痛の申し出に対し、仮に一律の基準を定めて賠償の適否を判断しようとする場合には、ともすれば過大請求が認められる余地を残してしまう可能性があるとともに、他の損害項目に対する賠償との間でも不公平をもたらす可能性がある。
-----------------------


・今回の原子力損害賠償紛争審査会の第一次指針(平成23年4月)
http://genbaihou.blog59.fc2.com/blog-entry-78.html
-----------------------
4 精神的損害
(指針)
 本件事故において、避難等対象者が受けた精神的苦痛(ここでは、生命・身体的損害を伴わないものに限る。)について、そのどこまでが相当因果関係のある損害と言えるか判断が難しい。しかしながら、少なくとも避難等を余儀なくされたことに伴い、正常な日常生活の維持・継続が長期間にわたり著しく阻害されたために生じた精神的苦痛の部分については、損害と認められる余地があり、今後、その判定基準や算定の要素などをできるだけ早急に検討する。
(備考)
1) 前述したように、本件事故と相当因果関係のある損害であれば「原子力損害」に該当するから、生命・身体的損害を伴わない精神的損害(慰謝料)についても、相当因果関係が認められる限り、賠償すべき損害といえる。
2) 生命・身体的損害を伴わない精神的苦痛の有無、態様及び程度等は、当該被害者の年齢、性別、職業、性格、生活環境及び家族構成等の種々の要素によって著しい差異を示すものである点からも、損害の有無及びその範囲を客観化することには自ずと限度がある。
 しかしながら、本件事故においては、実際に周辺に広範囲にわたり放射性物質が放出され、これに対応した政府からの避難や屋内退避等の指示があったのであるから、対象区域内の住民らが、住居から避難し、あるいは、屋内退避することを余儀なくされるなど、日常の平穏な生活が現実に妨害されたことは明らかであり、また、その避難等の期間も総じて長く、また、その生活も過酷な状況にある者が多数であると認められる。
 したがって、本件事故においては、少なくとも避難等対象者については、その状況に応じて、避難等により正常な日常生活の維持・継続が長期間にわたり著しく阻害されたことによる一定の精神的損害を観念することができる。
3) この精神的損害に係る損害額の具体的な算定は困難であるが、例えば、避難等を余儀なくされた経緯(避難指示、屋内退避指示の別等)、避難等の別(避難、対象区域外滞在、屋内退避)、避難等の期間及び避難した施設の居住環境その他の避難等における生活状況等に応じて避難等対象者を類型化した上、段階的かつ合理的な差を設けるなどして、類型化された対象者ごとに共通する一定の精神的損害及びこれに対する賠償額を認めることが考えられる。
 他方で、上記2(避難費用)で述べたとおり、一般的に言えば、宿泊費等を負担してホテル、旅館等に宿泊する場合と、宿泊費等は負担しないで体育館、公民館、避難所等に宿泊する場合とでは、後者の方が精神的苦痛は大であると認められるから、このような差異にかんがみ、宿泊場所にかかわらず一定額を算定して、これをもって両者を併せた損害額と認定することにも合理性があると考えられ、あわせて今後検討する。
4) また、これまで述べた、生命・身体的損害に伴う精神的損害、避難等による正常な日常生活の著しい阻害に伴う精神的損害のほかにも、一定以上の放射性物質に曝露したことによる精神的苦痛など様々なものが考えられる。もちろん、原子力事故や放射性物質の放出に対する一般的・抽象的不安感や危惧感等は、精神的損害として認められるものではない。このような一般的・抽象的不安感や危惧感にとどまらないものについて、何が、またどこまで損害と認められるかは、今後検討する。
-----------------------


・第3回原子力損害賠償紛争審査会議事録(案)
http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chousa/kaihatu/016/attach/1306059.htm
------------------------
【田中委員】  確認なんですが、11ページの4)のところに、「一定以上の放射性物質に曝露したことによる精神的苦痛など様々なものが考えられる云々」と書いてありますが、ここで一般的・抽象的不安感、危惧感等は精神的損害として認められるものではないと言いつつも、これからどこまで損害が認められるかは、今後検討するということになっています。
 それで、実は、俗によく100ミリシーベルトの低線量の被ばくの場合には、ないとは言い切れなくて、かつ、医学的証明もできないというややこしい状況にありますので、今日のところはこの表現でいいと思うんですが、その部分については、別途、もう少し専門的な知見を持った方をも含めて、きちっとしたご議論をして、案を出すという方向で理解してよろしいでしょうかという、そういうことなんですが。
【能見会長】  おそらく、まずここで書いてあることの意味を、ここでも共通の理解として明らかにしたほうがいいと思いますけれども。ここで言おうとしているのは、一応放射性物質に曝露した、だけど、それがまだ具体的な健康被害などに至っていない、そういうときにも精神的な苦痛は発生するということは十分考えられるので、そういうものは精神的損害として賠償の対象になり得ると。しかし、そのあとの文章ですが、放射性物質には曝露していない、だけども、原子炉から放射能が出たというので、それに対する不安を感じて、ここに書いてある抽象的な不安感、一般的な不安感などが発生したという場合は、これは実際に曝露した場合と、そうでない場合とで線を切って、後者は精神的損害としては認めないというのでどうかという案でございます。
 ですから、そもそもこういう区切り方がおかしいということであれば、ここを変えなくてはいけないと思いますし、あるいは、放射能が出ているということで、その損害を主張する人は、全然曝露される可能性もない、非常に遠くに住んでいるけれども、原子炉から放射能が出ているということで、非常に心配性の人がいて、それで不安感を感じている。こういうときの精神的な危惧感等は、ここでいう賠償の対象にはならないということなんだというふうに私は理解しておりますが。
【田中委員】  それであれば結構です。
【能見会長】  それであれば、とりあえずここはよろしいですか。
【米倉委員】  そのとおりだと思います。やはり現地でそれなりの環境におられる方々にとってみますと、将来、ひょっとするとがんが起こるかもしれないという不安感、そういう意味での精神的苦痛がある方と、東京、あるいは、場合によってはもっと遠方のほうで、バックグラウンドが上がっているという話で、たかだか1ミリシーベルトにいかないような線量しか受けない、そういう方々の感じている不安感というのは、これはやはり別物としてとらえるべきではないかなと思います。
---------------------------


 以上のとおりであり,現在の紛争審査会の考え方だと,放射性物質に暴露していない人について,その純粋な精神的損害は認めないものと思われる。

 なお,3月には東京や千葉でも水道水が基準値を超えることがあったので,ほとんど東日本全土で,原発由来の放射性物質が飛来していたはずで,原発から遠くの人でも,立証の問題はあるとしても多少は暴露されていた可能性あるわけで,暴露ゼロの人ばかりではないだろうから,審査会の考え方でも余地がないとは言えない。ただし,普通は極微量であるはずで,健康に影響がなく,また,将来的な健康被害も全く予想されない程度なら,精神的損害の発生自体を否定されたり,相当因果関係が否定されたりして,損害賠償請求は認められないのではないか。


関連記事
2011-05-20 : ・精神的損害 : コメント : 0 : トラックバック : 0
Pagetop

■2条「原子力損害」の意味・範囲 その16 風評被害 相当因果関係を考える。

■2条「原子力損害」の意味・範囲 その16 風評被害 相当因果関係を考える。

〔消費者の判断,立場〕
 まず,基準値以下の食べ物を食べて,健康被害にいたる確率的影響があるのか否か,あるとしてどの程度と認識するか否かによって,大雑把に分けると,以下のようになろう。

ア 基準値以下なら食べ続けても全く健康に影響がない。

イ 基準値以下でも被爆線量に応じて確率的リスクは増す。
(1)リスクは無視してよいほど微量しか増加しない。
(2)リスク増加については無視できるとは言えない。
(3)どの程度,リスクが増加するについては不明。

ウ 確率的リスクの増加について,どちらとも言えない。


 この危険性についての認識の相違を前提に,さらに回避行動の合理性を考慮すると,以下のようになる。

〔立場の相違と回避行動の合理性〕
ア 基準値以下なら食べ続けても全く健康に影響がない。
→安全なので,食べないという判断(回避)は一般に是認できない異常な反応である。

イ 基準値以下でも被爆線量に応じて確率的リスクは増す。
(1)リスクは無視してよいほど微量しか増加しない。
→確率的リスクが増すが,増加率はほとんど無視してよいほど微量なので,回避行動は異常な反応(不合理)である。
(2)リスク増加率については無視できるとは言えない。
→確率的リスクが増し,その程度も無視できない以上,それを回避するのは合理的判断といえる。
(3)リスク増加率については不明。
→確率的リスクが増し,その程度は不明である以上,それを回避するのは一定の合理的判断といえる。

ウ 確率的リスクの増加について,どちらとも言えない。
→リスク増加の有無,程度が不明である以上,それを回避するのは一定の合理的判断といえる。

 上のア,イ(1)の立場だと,基準値以下なら食べても良い,避けたいのは基準値を超えるものだけということになる。イ(2),(3),ウでは,基準値以下でも放射性物質の付着等の汚染がある限り食べたくないということになろう。
〔基準値以下の汚染食品を食べることについては,概ねこのどこかに属することになろう。なお,自分は食べても良いが,子供には食べさせたくない場合など,買う人と食べる人が異なる場合にも,いくらか相違が出てくる。また,上の分類では,影響が不明の場合,安全よりに判断するのか合理的であることを前提としているが,中には,影響は不明であるが,年齢や社会的損失を考えて我慢して食べるという立場もあろう。〕



〔消費者の希望のレベル〕
1 基準値を気にせずなんでも食べる。
2 基準値以下なら食べる気があるが,基準値を超えたものは食べたくない。
3 基準値以下でも汚染ある限り食べたくない(汚染が全くない,あるいは事故前と同レベルの汚染しかない場合のみ食べたい。)。

〔検査レベル〕
A 未検査で出荷
B サンプル検査で基準値以下出荷
C 全品検査で基準値以下出荷
D 全品検査で汚染が無いもののみ出荷


1の消費者は,検査レベルがAからDまで,どの状態でも回避行動はない。
2の消費者だと,検査がABの状態で回避行動が起きうる。
 未だに原発からは放射性物質の漏出が続いており,さらに,農地によってはこれまで降り積もって累積した放射性物質の除去もできていないのであるから,基準値以下でも避けたいと考える消費者はもちろん,基準値以上のもののみ避けたいという消費者ですら,サンプル調査の場合のリスク(ホットスポットの問題,汚染時期と検査時期と出荷時期の時間差の問題等)から,近隣県の野菜は買わないという判断をすることは十分に予想される。
3の消費者だと,検査がABCの状態で回避行動が起きうる。
〔なお,検査レベルをDにまでしても,疑り深い人なら産地偽装や検査データの捏造を疑うので回避行動は否定できないが,産地偽装などの場合は,消費者は,そもそも回避が困難な状態に陥る。〕

 そして,商品にもよるだろうが,全品検査が事実上,不可能であるなら,現実的には,Bまでのサンプル検査しかできず,上の2の消費者のうち,サンプル検査では基準値以下であることについて心許ないと考える消費者と,3の基準値以下でもできるだけ汚染作物は食べたくないという消費者の買い控えは必然的に発生する。

 おそらく多数の消費者が,上の2と3のいずれかに属するはずであり,少なくとも原発近隣県の作物を避けようとする行動が起きることは,不可避という他ない。


〔因果関係判断方法について〕
 JCO事故では,放射性物質が敷地外に漏出することのほとんど無かったので,近隣地作物の現実の汚染は問題とならず,裁判では,まったく汚染が無い,純然たる風評被害が問題とされたのであり,しかも敗訴案件をよく見ると,因果関係より損害の立証そのものが上手くいかなかったものであることを考えると,少なくとも基準値以下とはいえ現実の汚染ある作物が出回るに至っている事案について,従来の判例の判断態度をそのまま今回の事故に当てはめるのは問題ではなかろうか。

 これまでの放射性物質に起因する風評被害に関する裁判については,こちら
 判例では,相当因果関係の認定において,消費者の回避行動の合理性を問うことになっている。つまりその回避行動が,一般通常人を基準に,社会通念上,合理的なものとして是認できるか否かによって,事故と風評被害との相当因果関係の有無を判断するというものである。具体的には,おそらく時間的場所的条件とか,報道等の外部要因とか,安全宣言の有無とか,諸般の事情を考慮して,一般通常人を基準にして,その回避行動が合理的か否かを判断するということになろう。
 しかし前述のとおり,消費者の考えうる立場は,大ざっぱに分けてもいくつもあり,それは基本的には危険認識の相違からくるものであって,一般通常人の判断というものを想定することすら本来は難しい。
 ある問題に関する「常識」といえるようなものがあり,あるいは,前提とする事実や危険性判断等について一般に社会的コンセンサスがあるといえるような場合には,おそらく困難性は小さい。しかし,微量とはいえ現に原発事故由来の放射性物質の付着した食べ物が,市場に出回る事態など,(チェルノブイリ事故時の一部輸入食品を除いて)ほとんど経験したことがない。このため,一般消費者が,どのように危険(事実)を認識するのが通常かというレベルで既に困難さが現れる。


〔消費者の判断の合理性を問うことについて〕

 仮に,

1 通常の大多数の消費者のとる行動
 →90%

2 それ以外のより慎重な消費者の行動
 →10%

として

 この場合,仮に,1の立場を通常人の合理性ある回避行動と見ると,それを超える残りの10%の消費者の回避行動は,不合理で過剰な買い控えにすぎないので従来の判断態度では,相当因果関係がないものとして,その部分については被害者の賠償請求は認められないことになる。
 農作物についてデマ報道など,第三者の異常な犯罪的行動があって,それが損害拡大に寄与したような場合は,加害者に全部責任を負わせることが不当な場合もあろうが,第三者である消費者が自らの判断で,どのような消費行動をとるのかは本来自由で,犯罪にも不法行為にもあたらないのであって,その行動による結果が,加害者ではなく,被害者に回されることになるのがどうも妙な感じがする。


〔信用毀損との比較〕
 風評被害は,デマ報道による信用毀損に似たところがあるので,ここで考えてみる。
 たとえば,デマ報道があったが,その内容は,媒体,表現等から虚偽と分かるようなもので,大多数の人(90%)は信用しなかったが,信じこみやすい10%程度の人は信じて,そのために10%程度の売上げの減少(営業損害)が生じた場合。
 この場合,普通の法律家の感覚としては,その10%は,一般通常人の判断によるものではないので,因果関係ある損害無しとは,判断しないのではないか?。
 デマ記事が出れば,その対象は,多数が予定されている読者であり,読者の中には信じ込み易い人がいて,その人の消費行動が押さえられて,売上げ減少に至ることは通常予想されることであって,その場合は,いちいち信じやすい読者の判断の合理性など問題としないはずである。
 ましてや,前述のとおり,基準値以下とはいえ汚染作物が市場に出回る事態など,これまでほとんど経験したことのない社会で,専門家でもない消費者の危険認識について,その立場がまちまちになって,その結果生じる消費行動の相違とその合理性など,本来問題とはできないものではないかという気がする。


〔他の回避行動との比較〕
 食品添加物や遺伝子組み換え食品について、それを忌避する消費者が一定数いる。基準値以下の食品添加物や、遺伝子組み換え食品の安全性については、政府も宣伝している。
 しかし、それを避けようとする消費者がいて、売り上げにも影響するであろう。基準値以下の放射性物質の汚染を同様に考えれば、それを避けようとする消費者は当然に存在するはずで、原発事故がなければ、普通の食品であったものが、微量でも汚染したことで、食品添加物の入った食物や、遺伝子組み換え作物と同様の一定の忌避対象となる作物に変化させられたようなものである。〔さらに悪いことに、放射性物資の付着については、食品添加物のように表示されるわけではないので、汚染の有無は消費者にはわからず、基準値以下なら出荷するという場合、これを避けようとする消費者は、原発近隣の産地の食費を避けようとするに違いないので、全く汚染していないものも忌避対象となる。〕
 この場合、たとえば遺伝子組み換えでない大豆を、関係者が過失で遺伝組み替え大豆であると表示してしまって、売り上げが低下した場合、その損失については、そもそも政府も専門家の多くも安全と言っているのに避けようとする特異な消費者の心理からくるものなので、その場合発生した売り上げの低下は、過失ある行為と、相当因果関係のある損害ではないと認定するのだろうか。


〔一般通常人の判断と売上げ低下率〕
 ある回避行動が一般通常人の判断として,合理的である考えた場合,普通は,それが少数者の判断ということはないだろうから,当然,少なくとも50%を超える人々の判断であることは当然ではなかろうか。
 とすると,特別な営業努力や各人の購入量を考慮しないとして,売上げが,10%しか低下していない場合は,他の90%の消費者は従来どおり購入していると考えられるので,そのような売上げ低下が,賠償対象となる損害(買い控えが一般通常人の判断として社会通念上合理的なものとして是認できるようなもの)に該当する可能性はほとんど無いということのなるのだろうか。


〔一次指針との関係〕
http://genbaihou.blog59.fc2.com/blog-entry-78.html
 原子力損害賠償紛争審査会の「原子力損害の範囲の判定等に関する第一次指針」を見ると,14ページ以下で
----------------------------
7 検査費用(物)
(指針)
対象区域内にあった商品を含む財物が、①当該財物の性質等から、検査を実施して安全を確認することが必要かつ合理的であり、又は②取引先の要求等により検査の実施を余儀なくされたものと認められた場合には、被害者の負担した検査費用は損害と認められる。
(備考)
1) 本件事故による被害の全貌はいまだ判明しておらず、個々の財物がその価値を喪失又は減少させる程度の量の放射性物質に曝露しているか否かは不明である。
 しかしながら、財物の価値ないし価格は、当該財物の取引等を行う人の印象・意識・認識等の心理的・主観的な要素によって大きな影響を受ける。しかも、財物に対して実施する検査は、取引の相手方らによる取引拒絶、キャンセル要求又は減額要求等を未然に防止し、営業損害の拡大を最小限に止めるためにも必要とされる場合が多い。
 したがって、①平均的・一般的な人の認識を基準として当該財物の種類及び性質等から、その所有者等が当該財物の安全性に対して危惧感を抱き、この危惧感を払拭するために検査を実施することが合理的であると認められる場合、又は②取引先の要求等により検査の実施を余儀なくされた場合には、その負担した検査費用を損害と認めるのが相当である。
2) また、政府による避難等の指示の前に本件事故により生じた検査費用があれば、これを賠償対象から除外すべき合理的な理由はないから、本件事故日以降のものが賠償すべき損害と認められる。
-----------------------------

 物の検査費用について,この指針を見ると,取引先の検査要求の合理性は問題とされず,そのまま損害と判断するようであるが,購入者側の判断の合理性を問題としないとすると,風評被害で,消費者の買い控えの合理性を問題する立場との関係はどうなるのだろうか。


〔外国の輸入規制との関係〕
諸外国・地域の規制措置(5月16日現在)
http://www.maff.go.jp/j/export/e_info/pdf/kensa0516.pdf
 現在でも,かなり多くの国で,原発近隣県や,全都道県からの食品の輸入停止をしている。各国の判断権者が,基準値や検査等について情報を得ていないというはずはなく,日本の政府が必至になって,情報提供と停止解除を要請しているはずで,それでも輸入停止となっている。
 これらによる損失が今後どう扱われるか不明であるが,これについても,各国のその回避行動(輸入停止)の合理性を問題とするのなら,従来の判断と整合性はとれることになろう。
 他方,これらについて原則,因果関係ある原子力損害にあたるとする結論をとる場合,購入する側の判断の合理性を問題とする立場との整合性が問題となってくる。〔他国の日本からの全食品輸入停止を合理的とし,また,日本全国での全食品の売上げ低下も消費者の是認できる合理的判断によるものとした場合は,整合性はとれている?。〕


------------------------------

 結局,風評被害も,原発事故と相当因果関係のある営業損害である限り,当然に賠償対象になるものであって,その相当性の判断において,消費者の回避行動の合理性に拘る論理的な根拠は本来ないはずで,損害の公平な分担の観点から,他の要因による損害や,異常な因果経路をたどった損害を,賠償対象から排除しようとするのなら,それは個別事情により別途考慮すればいいし,不当な請求は,損害の有無や金額の厳密な認定,過失相殺等において排除できるはずである。
 もともと,今回のような人類史に残る大規模な原発事故が起きれば,微量ながらも放射性物質の及ぶ恐れのある範囲(少なくと日本全土)で,そこで収穫,生産される食品が,さまざまな考えを持つ多数の消費者に向けられ生産されているものである以上,一定の消費者が気にせず食べ,一定の消費者が気にして食べないということが起きるのは,なんら不自然ではないのであって,通常の因果の経過であり,事故後現実に売上げが減少し,その立証ができた部分は原則として全部が相当因果関係がある損害と考えられておかしくない。もちろん,震災による消費自粛や,停電等の影響など他の要因によって,発生したといえる部分については,そこから除外される。
 このように考えると,損害はおそろしく膨大なものなるが,それはもともと人類史に残るような大規模原発事故が持つリスクなのであって,損害が膨大になるから,被害者,生産者は我慢しろという結論は取れないはずである。
 仮に,第三者(国,専門家,メディアなど)の関与によって,損害が拡大しているような場合は,本来,東電は,その者に対する求償請求を考えるべきであるが,原賠法5条(昭和46年改正)によって,求償権は大幅に制限(「故意」のみ)されてしまっているので,〔4条,5条の適用範囲の解釈にもよるが〕法律上は甘受する他なかろう。



関連記事
2011-05-19 : ・風評被害 法律的な理屈 : コメント : 0 : トラックバック : 0
Pagetop

■16条「必要な援助」国の措置 その3 政府支援の枠組み

■16条「必要な援助」国の措置 その3 政府支援の枠組みについて

http://www.meti.go.jp/earthquake/nuclear/taiou_honbu/index.html
http://www.meti.go.jp/earthquake/nuclear/pdf/songaibaisho_110513_01.pdf

--------------------------------
東京電力福島原子力発電所事故に係る原子力損害の賠償に関する政府の支援の枠組みについて

平成2 3 年5 月1 3 日
原子力発電所事故経済被害対応チーム関係閣僚会合決定

 東京電力福島原子力発電所事故(以下「事故」)については、4月17 日に東京電力株式会社(以下「東京電力」)が「事故の収束に向けた道筋」を公表している。政府は、東京電力に対し、この道筋の着実かつ極力早期の実施を求めているところであり、また、定期的にフォローアップを行い、作業の進捗確認と必要な安全性確認を行うこととしている。政府としては、一日も早く炉心を冷却し安定した状態を実現すべく、国内外のあらゆる知見、技術等得られるすべての力を結集し、万全の対策を講ずる。

 事故によって住民や事業者の方々に大きな損害が発生していることに対し、今般、東京電力が、原子力損害の賠償に関する法律(以下「原賠法」)に基づく公平かつ迅速な賠償を行う旨の表明があった。また、東日本大震災による東京電力福島原子力発電所の事故等により資金面での困難を理由として、政府による支援の要請があった。

 この要請に関し、第一に、賠償総額に事前の上限を設けることなく、迅速かつ適切な賠償を確実に実施すること、第二に、東京電力福島原子力発電所の状態の安定化に全力を尽くすとともに、従事する者の安全・生活環境を改善し、経済面にも十分配慮すること、第三に、電力の安定供給、設備等の安全性を確保するために必要な経費を確保すること、第四に、上記を除き、最大限の経営合理化と経費削減を行うこと、第五に、厳正な資産評価、徹底した経費の見直し等を行うため、政府が設ける第三者委員会の経営財務の実態の調査に応じること、第六に、全てのステークホルダーに協力を求め、とりわけ、金融機関から得られる協力の状況について政府に報告を行うこと、について東京電力に確認を求めたところ、これらを実施することが確認された。

 政府として、第一に、迅速かつ適切な損害賠償のための万全の措置、第二に、東京電力福島原子力発電所の状態の安定化及び事故処理に関係する事業者等への悪影響の回避、そして第三に、国民生活に不可欠な電力の安定供給、という三つを確保しなければならない。

 このため、政府は、これまで政府と原子力事業者が共同して原子力政策を推進してきた社会的責務を認識しつつ、原賠法の枠組みの下で、国民負担の極小化を図ることを基本として東京電力に対する支援を行うものとする。
 
 政府は、今回の事態を踏まえ、将来にわたって原子力損害賠償の支払等に対応できる枠組みを設けることとし、東京電力以外の原子力事業者にも参加を求めることとする。
 また、電力事業形態のあり方等を含むエネルギー政策の見直しの検討を進め、所要の改革を行うこととする。今回の支援の枠組みが、この検討・改革に支障を生じさせないようにするとともに、一定期間後に、被害者救済に遺漏がないか、電力の安定供給が図られているか、金融市場の安定が図られているか、等について検討を行い、必要な場合には追加的な措置を講ずるものとする。

(具体的な支援の枠組み)
 政府の東京電力に対する支援の枠組みとして、次のように原子力事業者を対象とする一般的な支援の枠組みを策定し(別添図参照)、速やかに所要の法案を国会に提出することを目指す。
1.原子力損害が発生した場合の損害賠償の支払等に対応する支援組織(機構)を設ける。
2.機構への参加を義務づけられる者は原子力事業者である電力会社を基本とする。参加者は機構に対し負担金を支払う義務を負うこととし、十分な資金を確保する。負担金は、事業コストから支払を行う。
3.機構は、原子力損害賠償のために資金が必要な原子力事業者に対し援助(資金の交付、資本充実等)を行う。援助には上限を設けず、必要があれば何度でも援助し、損害賠償、設備投資等のために必要とする金額のすべてを援助できるようにし、原子力事業者を債務超過にさせない。
4.政府または機構は、原子力損害の被害者からの相談に応じる。また、機構は、原子力事業者からの資産の買取りを行う等、円滑な賠償のために適切な役割を果たす。
5.政府は、機構に対し交付国債の交付、政府保証の付与等必要な援助を行う。
6.政府は、援助を行うに先立って原子力事業者からの申請を受け、必要な援助の内容、経営合理化等を判断し、一定期間、原子力事業者の経営合理化等について監督(認可等)をする。
7.原子力事業者は、機構から援助を受けた場合、毎年の事業収益等を踏まえて設定される特別な負担金の支払を行う。
8.機構は、原子力事業者からの負担金等をもって必要な国庫納付を行う。
9.原子力事業者が負担金の支払により電力の安定供給に支障が生じるなど例外的な場合には、政府が補助を行うことができる条項を設ける。

---------------------
原子力発電所事故経済被害対応チーム関係閣僚会合
平成23年5月13日
菅内閣総理大臣
海江田原子力経済被害担当大臣(チーム長)
枝野内閣官房長官(副チーム長)
野田財務大臣(副チーム長)
高木文部科学大臣(副チーム長)
海江田経済産業大臣(副チーム長)
片山総務大臣
江田法務大臣
松本外務大臣
細川厚生労働大臣
鹿野農林水産大臣
大畠国土交通大臣
松本環境大臣
北澤防衛大臣
中野国家公安委員会委員長
松本内閣府特命担当大臣(防災)
蓮舫内閣府特命担当大臣(消費者及び食品安全)
与謝野内閣府特命担当大臣(経済財政政策)
自見内閣府特命担当大臣(金融)
玄葉国家戦略担当大臣
鈴木文部科学副大臣(事務局長)
仙谷内閣官房副長官(事務局長代理)
福山内閣官房副長官(事務局長代理)
細野内閣総理大臣補佐官(事務局長代理)

---------------------------------
関連記事
2011-05-19 : ・原子力損害賠償支援機構 : コメント : 0 : トラックバック : 0
Pagetop

■18条 原子力損害賠償紛争審査会 その5 第4回 論点

■18条 原子力損害賠償紛争審査会 その5 第4回 論点

http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chousa/kaihatu/016/shiryo/1306034.htm
-----------------------------------
原子力損害賠償紛争審査会(第4回)

1.日時
平成23年5月16日(月曜日)15時~18時
2.場所
文部科学省(中央合同庁舎7号館東館) 3階講堂
3.議題
1.被害等の現状について
2.専門委員による調査体制について
3第二次指針作成に向けた主な論点について
4.その他

-----------------------------------
(審4)資料3-1

第二次指針作成に向けた主な論点

 本資料は、審査会における議論のために作成したものであり、指針の内容、損害の範囲について何ら予断を与えるものではない。
【第二次指針作成の背景・目的】
 4月28日に「東京電力(株)福島第一、第二原子力発電所事故による原子力損害の範囲の判定等に関する第一次指針」(以下「第一次指針」という。)を決定・公表した。これを受け、第一次指針の対象とされなかった事項のうちで、現時点で追加的に提示することが可能な事項を整理し、出来る限り早く、「東京電力(株)福島第一、第二原子力発電所事故による原子力損害の範囲の判定等に関する第二次指針」(以下「第二次指針」という。)を策定することとする。
【第二次指針の検討範囲】
(政府による避難等の指示に関連する損害)
①一時立入費用
②避難等を余儀なくされたことにより生じた精神的損害
③帰宅費用
④避難費用の算定方法
⑤避難生活等による精神的損害等の算定方法

(政府等による出荷制限等に関連する損害)
⑥出荷制限指示等に係る品目の作付断念等に伴う損害
⑦出荷制限指示等の解除後の損害
⑧作付制限指示等に伴う損害

(いわゆる風評被害)
⑨基本的考え方
⑩農林漁業
⑪ホテル・旅館業等の観光業
⑫ その他の業種

【対象項目毎の論点】
1.政府による避難等の指示に関連する損害について
(1)一時立入費用
4月23日に「警戒区域への一時立入許可基準」が定められ、現在、政府及び地方公共団体により警戒区域における一時立入(当面の生活に必要な物品の持ち出し等を行うことを目的とするもの)が実施されている。こうした一時立入の際にかかる費用としては、必要かつ合理的な範囲で、一時立入に参加する者が負担した集合場所までの交通費及び宿泊費等を相当因果関係のある損害と認めることができるのではないか。

(2)避難等を余儀なくされたことにより生じた精神的損害
第一次指針においては、精神的損害に関し、「少なくとも避難等を余儀なくされたことに伴い、正常な日常生活の維持・継続が長期間にわたり著しく阻害されたために生じた精神的苦痛の部分については、損害と認められる余地があり、今後、その判定基準や算定の要素などをできるだけ早急に検討する」ものとされたところ。
この点を踏まえ、避難等(避難、対象区域外滞在の継続、屋内退避)を余儀なくされたことに伴い、正常な日常生活の維持・継続が長期間にわたり著しく阻害されたために生じた精神的損害(以下「避難生活等による精神的損害」という。)については、相当因果関係のある損害と認めることができるのではないか。
具体的には、①一定期間、避難及びこれに引き続く対象区域外滞在を余儀なくされた者(自宅以外での生活を長期間余儀なくされた者)、②一定期間、屋内退避を余儀なくされた者(自宅での生活だが長期間行動の自由を制約された者)につき、両者である程度の差を設けつつ精神的損害の大きさを考えることができるのではないか。どのような差を設けるのが適当かについては、後述(5)で検討する。

(3)帰宅費用
第一次指針においては、政府による避難等の指示に関連する損害について、その解除後における帰宅費用については、検討対象とはされなかった。
しかしながら、既に4月22日に屋内退避区域の指定が解除され、その結果、いずれの指示等の対象ともならなくなった地域が発生しているところであり、こうした政府による避難等の指示の解除後の帰宅費用については、必要かつ合理的な範囲の交通費及び家財道具の移動費用等を相当因果関係のある損害と認めることができるのではないか。

(4)避難費用の算定方法
第一次指針では、以下の避難費用が損害として認められたところである。
①交通費・家財道具移動費用
②宿泊費及びその付随費用(宿泊費等)
③生活費増加分

① 第一次指針においては、交通費・家財道具移動費用について、多数の被害者の早期救済の観点から、一定金額を平均的損害額として算定し、対象者全員に一律に支払う方法も考えられるとされたところである。
しかし、この点については、避難者の避難先は全国に及び、交通手段も多様化していることから、避難に伴い発生した交通費等は個人毎に異なり、平均化は困難である。そこで、合理的な範囲で避難者が実際に負担した費用を支払うこととしてはどうか。
但し、領収証等による損害額の立証が困難な場合があることに配慮し、例えば、乗用車による避難や家財道具の移動に要した費用を、合理的とされる移動距離及び燃料費(ガソリンの平均価格)をもとに推計する方法を認めてはどうか。
② 第一次指針においては、宿泊費等について、宿泊費等を負担しない体育館などに宿泊した場合であっても、平均的な宿泊費等を一律に賠償するか、精神的苦痛が大きいとして慰謝料の金額を増額するなど一定の調整をする方法が考えられるとされたところである。
しかし、この点については、宿泊費等の支出状況を見ると、(イ)自己負担でホテル等に宿泊している人の数は相対的に少ないものと推定されること、また、(ロ)避難所の宿泊費等は、地方自治体等が負担していることから、合理的な範囲で避難者が実際に負担した費用を支払うこととしてはどうか。
但し、領収証等による損害額の立証が困難な場合は、一定の推計を認めることとしてはどうか。
③ 生活費の増加分(食費・日用品購入費等の増加分に限る)については、避難者であれば全員が一定程度負担していることが推認され、金額は比較的僅少かつ個人差があまり大きくないと考えられる一方、個々の実費の確認及び立証が煩雑であることを踏まえ、金額算定に当たっては、精神的損害と併せて算定することとしてはどうか。

(5)避難生活等による精神的損害等の算定方法
避難等に伴う精神的損害の具体的な損害額の算定については、宿泊場所等の状況により、避難等に伴う精神的苦痛の大小が異なると考えられることを踏まえ、以下の方針に基づいて一定額を算定することとしてはどうか。
① 住宅又は宿泊施設以外の体育館、公民館などの避難所への滞在を余儀なくされている者については、生活環境・利便性・プライバシー確保等の観点からその精神的苦痛は類型的に最も大きいと思われる。
② 仮設住宅若しくは賃貸マンション、アパート等、又は親類や知人の住居等への滞在を余儀なくされている者については、生活環境・利便性・プライバシー確保等の観点からその精神的苦痛の程度は類型的に上記①よりは小さいと思われる。
③ 旅館、ホテル等の宿泊施設への滞在を余儀なくされている者については、生活環境・利便性・プライバシー確保等の観点からその精神的苦痛の程度は類型的に上記②よりは小さいと思われる。
④ 屋内退避を余儀なくされている者については、自宅において生活をしているという点で、上記①ないし③のような自宅を離れて生活せざるを得ないことに伴う精神的苦痛には該当しない反面、外出等行動の自由も制限されていること等から、③を超えない範囲内で精神的損害の発生を認めることとする。

 なお、①~③の場合について生じる生活費増加分は、それほど個人差がないと考えられるので、精神的苦痛による損害額の加算要因として考慮し、一律に一定額を加算する。④についても同様に考えるべきか。

2.政府等による出荷制限等に関連する損害について
第一次指針においては、政府等による出荷制限指示等により、対象品目の出荷又は操業の断念を余儀なくされ、これによって減収が生じた場合等には、その減収分等が損害と認められるとしているが、政府等による出荷制限指示等に関連して、次のような損害も含まれることを明らかにしてはどうか。
(1)政府等による出荷制限指示等に係る品目の作付断念等に伴う損害
・ 政府等による出荷制限指示等は作付け自体を制限するものではないが、出荷制限の解除の時期が不明である中で、農業者が当該指示等を受けている品目について作付けをしなかった場合、その判断が不合理である場合を除き、これによって生じた減収分等を相当因果関係のある損害として認めることとしてはどうか。

(2)政府等による出荷制限指示等の解除後の損害
・ 政府等による出荷制限指示等が解除された品目について、解除後においても、本件事故がなければ可能であった出荷ができるまでの間は、その間の減収分及び合理的な範囲の追加的費用を相当因果関係のある損害と認めることとしてはどうか。

(3)政府等による作付制限指示等に伴う損害
・ 農作物等に関しては、政府によって出荷制限指示の他に、作付制限指示、放牧及び牧草等の給与制限の指導などの営農に関する指示等が行われているが、これらの場合も、営業損害としての対象区域における対象品目に係る減収分及び追加的費用並びに就労不能等に伴う損害を、相当因果関係のある損害と認めることとしてはどうか。
・ 地方公共団体又は生産者団体による作付け等に係る自粛要請等による減収分等の損害についてはどうするか。

3.いわゆる風評被害について
(1)基本的考え方
・ 報道等により広く知らされた事実によって、消費者や取引先が特定の商品・サービスの買い控え、取引停止等を行ったために生じた被害(いわゆる風評被害)についても、本件事故と相当因果関係が認められるものであれば賠償の対象となると考えられる。ただし、このような被害は、非常に広範囲の業種及び地域で発生しており、その損害発生の態様も様々であるため、その外延が必ずしも明確ではなく、最終的には個々の事案毎に判断するほかはない。
 しかしながら、このような被害についても、相当因果関係が認められる蓋然性が特に高い類型や、相当因果関係を判断するに当たって考慮すべき事項を示すことは、本件事故に係る紛争解決に当たっての有効な指針となるのではないか。
なお、「風評被害」という表現は、あたかも放射性物質による汚染の危険性が全くないのに消費者・取引先などが危険性を心配して購入・取引を回避する不安心理に起因する損害であるかのような意味で使われることもあるが、むしろ科学的には明確でない放射能の影響を回避するための市場の拒絶反応であると考えるべきである。それ故、このような回避行動が合理的といえる場合には、原子力損害として賠償の対象となる。このように考えた場合には、「風評被害」という表現を避けることが望ましいのであるが、現時点でこれに代わる適切な表現は裁判実務上まだ提示されていないので、上記のような注意をしつつ、いわゆる「風評被害」という表現をここでは用いることにする。
・ このような考え方によれば、本件事故におけるいわゆる風評被害については、次のような基本的枠組みによって検討することが考えられるのではないか。

ア 一般的基準としては、消費者や取引先が当該商品・サービスについて、本件事故による放射性物質による汚染の危険性を懸念し、敬遠したくなる心理を一般に是認できる場合を、相当因果関係のある損害と認める。

イ 具体的にどのような場合が該当するかは、業種ごとの特徴等を踏まえ、営業・品目の内容や地域等により類型化した上で、
① 一定の範囲の類型については、事故以降に生じた損害は、原則として事故との相当因果関係が認められるとし、
② ①以外の類型については、事故以降に生じた損害を個別に検証し、消費者や取引先が商品・サービスを敬遠したくなる心理を一般に是認できる場合には、相当因果関係が認められるとする。

ウ 本件事故以外の他原因(例えば、震災による消費マインドの落ち込みの影響)による損害については、本件事故と相当因果関係のある損害とは認められない。仮に、本件事故と他原因との双方の影響が認められる場合には、本件事故と相当因果関係のある範囲で損害を認めることとする。
(注)事故以外の他原因による影響の存否及びその程度(例えば、震災による消費マインドの落ち込みの影響)、被害者による被害回避又は軽減の容易さ等に鑑みて、相当因果関係の蓋然性の程度を見極めるため、実態について更なる調査が必要な業態も存在。

エ 損害項目は、次の通り。(損害項目によって、イ①の類型の範囲は異なり得る。)
① 営業損害(商品・サービスの取引拒否、価格下落等による減収分や、返品費用、廃棄費用、販売促進費用等の追加的費用)
② 就労不能等に伴う損害
③ 検査費用(物)(取引先からの要求その他の合理的な理由により実施せざるを得なかった検査費用)

(2)農林漁業
ア 農林漁業(農林水産物)の主な特徴
・ 農林水産物はほとんどが食品であり、摂取を通じた人体への影響(内部被曝)のおそれから放射性物質による汚染の危険性への懸念が大きい。(食品以外には、花は直接接触する上に洗浄できない、たばこは直接吸引する等の特徴。)
・ 農林水産物は農地、漁場で生育する動植物であり、土地や水域の放射性物質による汚染の危険性への懸念がこれらへの懸念に直結する。
・ 出荷時の風評被害の程度がわからなくても、一定の期間内に作付け等の判断をしなければならない。
・ 現に暫定規制値を超える放射性物質が検出されたことを理由に出荷制限等が行われている。
・ 原産地表示が原則として県単位で行われている。(市町村等の表示も可。)
・ 食品は日常生活に不可欠であり、通常は贅沢品でもないため、震災による一般的な消費の落ち込みが影響している可能性は低い。

イ 上記(1)イの類型化については、以下のような選択肢が考えられるのではないか。
【地域の範囲】
①事故発生県
②出荷制限区域
③出荷制限区域を含む県
④出荷制限区域を含む県及びその周辺都県
【品目の範囲】
①出荷制限品目
②出荷制限品目を含む農林水産物のカテゴリー(例えば、「野菜」、「きのこ」等)
③農林水産物(食用のみ)
④農林水産物全て(非食用も含む)

ウ 農林漁業の場合、いわゆる風評被害による取引価格の下落や返品、取引拒否、契約解除等の取引数量の減少を懸念して、事前に自ら出荷、操業、作付け等の全部又は一部を断念することが考えられるが、この場合の被害についてはどうするか。

(3)ホテル・旅館業等の観光業
ア 観光業の主な特徴
・ 観光業は、観光客が地域に行くことや地域の食品等を摂取する等の特徴がある。
・ そのため、土地や水域の放射性物質による汚染の危険性への懸念が、観光することへの懸念に直結する。

イ 観光業は多様な産業であり、上記(1)イの類型化については、以下のような選択肢が考えられるのではないか。

【地域の範囲】
① 事故発生県
② 事故発生県の周辺都県

【観光に関連する産業】
①観光資源に関する産業(レジャー施設、遊覧船等)
②観光客の宿泊に関する産業(ホテル、旅館業、旅行業)
③観光地内及び観光地に向かう交通産業(バス、タクシー、レンタカー等)
④観光地内でのサービスに係る産業(飲食業、小売業等)

ウ 観光業の場合、事故以外にも、地震、津波による観光資源、観光関連施設の破壊等の影響や、震災による消費マインドの落ち込みによる影響があるが、これらの影響をどのように考えるか。

(4)その他の業種
建設業、製造業、卸売業・小売業、運送業、サービス業等の業種においては、それぞれの特徴を踏まえ、ア.食品に関係する業種、イ.それ以外の業種に分類し、どのような類型(次の品目・地域の組み合わせ)の損害が、原則として事故との相当因果関係が認められる類型((1)イ①)に該当するかを検討してはどうか。
ア.食品に関係する業種
【地域の範囲】
①事故発生県
②事故発生県の周辺都県
【品目・業態】
①生鮮に近い品目・地元産農産物を使う品目・業態
②上記以外の食品・飲料を製造する業態
③これらの製品を取り扱う卸売・小売業

イ.それ以外の業種
【地域の範囲】
① 事故発生県
② 事故発生県の周辺都県
【品目・業態】
それ以外の業種については多種多様の業態が存在するが、これらについてはどのような類型によって分類が可能か。原則として事故との相当因果関係が認められる類型(3.(1)イ①)と、消費者や取引先が商品・サービス等を敬遠したくなる心理を一般に是認できる場合には相当因果関係が認められる類型(3.(1)イ②)とに整理することは可能か。
例えば、当該地域外の人又は事業所などと取引する場合において発生した3.(1)エに挙げられる損害(営業損害、就労不能等に伴う損害、検査費用(物))はどのような場合に認められるか。

以上

---------------------------


関連記事
2011-05-17 : ・論点 : コメント : 0 : トラックバック : 0
Pagetop

■2条「原子力損害」の意味・範囲 その15 東電の債権者(金融機関等)の損失

■2条「原子力損害」の意味・範囲 その15 東電の債権者(金融機関等)の損失

【「原子力損害」か?】
 東電株暴落による株主の損失について論じたのと似た問題で、原発事故前から東電に債権を有していた者について、その債権の全部または一部について、弁済が得られないことになったとすると、それを「原子力損害」とみてよいかという問題がある。
 感覚的には、金融機関が弁済を受けられないからといって、それは、検討するまでもなく、「原子力損害」ではないという気はする。。
 もともと金融機関は、東電に対して、金銭消費貸借契約等の契約上発生する債権を有するので、通常は、他に不法行為の成立など検討する必要もないが、不法行為規定の特別法たる原賠法に基づく賠償請求権の場合、同法16条で国の関与によって最終的にはどのようなカタチであれ賠償されると解する余地があり、契約上発生する債権(貸金返還請求権)よりも有利となる可能性があるので、特に問題となる。

「原子力損害」の考え方についてはこちら

 まず、「原子力損害」の意味を、原賠法2条2項の字義どおり,核燃料物質の原子核分裂の過程の作用又は核燃料物質等の放射線の作用若しくは毒性的作用により生じた損害として、狭く考えていく限定説では、債権者の損失は、「原子力損害」には当たらないことになろう。
 これに対して、いくつかの下級審判例のように、原子炉の運転等(2条1項)により発生した損害で,2条3項の「作用」と相当因果関係あるもの全てを含むと広く捉える説では、「原子力損害」に該当する可能性がある。
 相当因果関係は、一般社会通念上、その原因があれば、その結果が生じることが、通常といえるかという観点で判断されるので、今回のような大規模原発事故があれば、東電が莫大な損害賠償責任を負い、債権の種類のもよるが、貸し金全額の弁済が受けられなくなることは通常ありうることといえ、相当因果関係は認められる余地がある。
 しかし、今までの判例で扱われた事例は、放射線による身体の障害、原発事故によるPTSD等精神的損害、危険性認識による近隣土地の価値の下落、漁業や加工食品への風評被害等が問題となったものであり、これらに共通するのは、放射性物質の危険性が前提で、その物理的又は精神的影響により発生した損害であって、債権者の損失をこれらと同様に考えてよいのかは問題である。そもそも原賠法3条は、危険責任の法理に基礎を置くものであることから、核燃料物質の特殊な危険性からは遠い、原子力事業者の債権者の損害までは、「作用」(2条2項)によるものとは言えないとして、無限定説に立った場合でも「原子力損害」には当たらないとされるのではないか。



【債権の優先順位】
 債権の優先順位について検討してみる。

まず、原賠法上、原子力損害の賠償責任を負うのは、原子力事業者のみであり(3条、4条)、その子会社等関連会社は原子力事業者(2条1項)でない限り、賠償義務はない。したがって、ここでは直接、東電に貸し付けをしている金融機関等の債権について考えたい。

 仮に東電が破産した場合などは、以下のような順位となる。

1 抵当権など特定財産上に別除権ある債権

2 財団債権
 租税のうち納期未到来や納期限から1年を経過していないもの、破産開始決定前の3か月間の未払給料、退職前3か月分の退職金など

3 優先的破産債権(一般の先取特権その他優先権ある債権)
 租税のうち納期限から1年を経過したもの、財団債権となるもの以外の労働債権など

4 一般の破産債権

5 劣後的破産債権
 破産手続開始後の利息など



〔金融機関〕

①金融機関が、東電に長期の貸し付けなどして、その債権を被担保債権として、東電所有の不動産等に抵当権を設定しているような場合、上の1の別除権付債権に該当する。

②東電が、社債(短期社債除く)を発行し、金融機関がそれを引き受けている場合は、電気事業法37条で、一般担保付社債として、3の優先的破産債権に該当する。

③その他の売掛金や無担保の貸付、短期社債等は4の一般破産債権に該当する。

〔原子力損害を受けた被害者〕

 原子力損害の賠償請求権は、特に優先させる規定がないので、一般の不法行為に基づく損害賠償請求権と同様、4の一般の破産債権に該当する。



 税金、賃金等の処理を置いておくとして、この場合、大雑把に言うと、東電の全資産を売却等により金に換えて、そこから上の①②の金融機関の債権を全部弁済し、その残りがあれば、それを金融機関と一般の被害者で、残債権額、損害額にそれぞれ応じて案分して支払いを受け、金融機関はそれ以上はあきらめることになり、他方、一般の被害者については、それで足りない分について原賠法16条により救済される余地があるということになる。

 現在、東電の発行済み社債額が5兆円を超えるなどと報道されていて、金融機関による債務免除の話が出てきているが、金融機関がこれに応じる法的義務はない。仮に金融機関の有する債権が上の①と②がほとんどならば、東電が破産してもほとんどが優先的破産債権以上なので、一般の被害者への賠償前に弁済を得ることができ、(東電の資産の量や内容にもよるが)ほとんど満足を得られることになるから、債務免除までして東電存続を主張するより、経済的にはさっさと債権者として東電の破産を申し立てした方が得ということになる。〔ただし、事故後に一般担保付社債を引き受けて、その金で、無担保貸付部分の弁済を受けるようなことをしていた場合は、管財人による否認の可能性がある。〕

 金融機関の①と②の債権は、一般の被害者より優先するので、東電に資産がある限り、弁済を受けられるのは法律的には当然として、③の部分については、本来は、原賠法がなければ東電は破産して残余がなければ0、残余があったとしても一般の被害者と平等に案分してしか弁済を得られなかったはずのものである。
 これをたまたま原賠法16条による救済スキームで東電存続が前提となったからといって、その本来受けられないはずの③の部分まで、金融機関が全額弁済を受けられることになるというのは不当という感じもある。

 もっとも、これも静的に事態を見るのではなく、東電が、今後も電気事業等を継続し、十分な利益を継続的に得ることができ、また役員報酬、従業員給与、宣伝広告費等の費用を抑えて利益を増大させ、それを支払いに充てていく、一般の被害者への賠償部分についても最終的には国も負担を被らないというのなら、長期的にみて金融機関が最終的に今ある債権全額の弁済を得ても、特に不当とは思えない。


-------------------------------------
電気事業法

(一般担保)第37条 一般電気事業者たる会社の社債権者(社債、株式等の振替に関する法律(平成13年法律第75号)第66条第1号に規定する短期社債の社債権者を除く。)は、その会社の財産について他の債権者に先だつて自己の債権の弁済を受ける権利を有する。
2 前項の先取特権の順位は、民法(明治29年法律第89号)の規定による一般の先取特権に次ぐものとする。

----------------------------------------



関連記事
2011-05-15 : ・二次的損害,間接被害者等 : コメント : 0 : トラックバック : 0
Pagetop

■水素爆発 どこに問題があったのか。

■水素爆発 どこに問題があったのか。

何が、事実であるのか、2ヶ月以上経っても不明確な情報しかないが、ごく大雑把に見て、地震発生から原発の水素爆発に至るまで、次ような問題が考えられる。原発施設が、各時点で、どのような状態であったかによって、主たる問題がどこにあったかが異なってくる。


1 地震発生。原発施設の耐震性の問題

2 津波来襲。全電源喪失。津波対策の問題。

3 ベントの遅れ。判断

4 注水の遅れ。判断

5 水素爆発。水素に対する対処。回収?排出?、事前?事後?



1と2と5?は、事前の準備、自然災害対策の問題

3と4と5?は、事後の対処、判断の問題



【パターンA】→1で致命傷を負っている場合
 地震で、圧力容器、格納容器等が損壊しており、津波の有無や、電源、地震後の対処いかんに関わらず(短時間でのベントや注水が不可能ないし無意味)、水素爆発は避けられなかった。
 →主として原発施設の耐震性の問題。

【パターンB】→2で全電源喪失したのが致命傷の場合
 当初から言われているように、地震では原子炉周りの施設は概ね健全で、その後の津波で予備電源等が壊れ、全電源喪失(かつ短時間での回復不能)したのが緊急時の冷却不能に陥った原因であった場合で、かつ、(なんらかの方法によって)短時間でのベントや注水することが不可能ないし無意味であった場合。
 →主として津波対策の問題。

【パターンC】→3ないし4の判断の誤りが致命傷の場合
 地震では施設は概ね健全で、その後の津波で全電源喪失したが、(なんらかの方法によって)爆発予想より短期間でベントや注水が可能で、しかもそれが水素爆発阻止に有効であったのに、判断ミス等でそれらが遅れてしまい、爆発の結果を招いた場合。
 →主として震災津波後の対処、判断の問題。

【パターンD】→1と2で致命傷
 地震と津波が発生した11日の各時点での各原発の状態を事後的に検証することが不可能であり、1と2で致命傷を負ったと考え、短時間でのベントも注水も不能で、あるいは、無意味であったとした場合。〔短期間でのベント等が可能で有効であったときはパターンCと同様〕
 →主として地震と津波に対する事前対策の問題

【パターンE】→1から4まで
 11日から14日までの圧力容器、格納容器、水位等の状況が不明で、どの時点で水素爆発に至る致命傷が生じたのか、また、どの時点で、どのような対処が妥当でかつ可能であったのかなど不明であるために、水素爆発について、問題の所在が不明確となるパターン。

【パターンF】→5が致命傷?
 各パターンで水素発生に至るとしても、発生した水素に対する事前ないし事後の対処が可能なのに、それをしていなかったために水素爆発に至ったとしたら、水素対策の問題?。


〔なお、いずれのパターンでも津波で外部電源等の諸施設が流された事実や、津波が届かなかった地点の鉄塔が倒れていることなど、はっきりしていることもあろうから、少なくとも水素爆発に至る前の原発施設の損壊について、地震対策、津波対策に不足があったことは明白で、また、そのような損壊がなければ、水素爆発はありえなかったとなると、これらの問題が、水素爆発の要因であったことは間違いない。〕



 パターン1の場合は、問題が大きい。

 東電の「福島第一原子力発電所3号機の耐震安全性について」を見ると、海洋プレート内地震の場合、最大加速度を600ガル程度と想定していたようである。

http://www.tepco.co.jp/nu/f1-np/press_f1/2010/pdfdata/bi0508-j.pdf
----------------------------------
福島第一原子力発電所3号機の耐震安全性について
平成22年5月 東京電力株式会社

5.2 検討用地震の地震動評価
選定した検討用地震について,応答スペクトルに基づく地震動評価および断層モデルを用いた手法による地震動評価をそれぞれ実施しました。なお,評価にあたっては,地震の発生様式に応じた地震動特性や,敷地地盤の振動特性を考慮しています。
また,この地震動評価にあたっては,その評価結果に及ぼす影響が大きいと考えられる震源要素(震源の位置・規模など)を選定し,その不確かさを適切に考慮することで,安全側な評価を実施しています。
このうちプレート間地震については,検討用地震として選定した塩屋崎沖の地震②(M7.5)と塩屋崎沖の地震③(M7.3)の地震動評価に加え,不確かさを考慮して①から③の一連のプレート間地震が同時活動するケースを仮想塩屋崎沖の地震(M7.9)として設定し,その地震動を評価しました(第5.2-1図)。
なお,内陸地殻内地震として考慮している双葉断層の断層長さは37km(M7.4)ですが,基準地震動Ssは,福島第一原子力発電所5号機中間報告時(平成20年3月)の暫定評価(断層長さ47.5km,M7.6)に基づき策定しています。また,双葉断層の断層長さを暫定評価の47.5kmから37kmに見直した場合においても,基準地震動Ssに変更はありません。
------------
5.4 基準地震動Ssの策定のまとめ
地震動評価結果に基づき,以下の通り3種類の基準地震動Ssを策定しました(第5.4-1,2図)。
・基準地震動Ss-1(最大加速度450ガル):内陸地殻内地震・プレート間地震の評価結果を上回るように設定
基準地震動Ss-2(最大加速度600ガル):海洋プレート内地震の評価結果を上回るように設定
・基準地震動Ss-3(最大加速度450ガル):震源を特定せず策定する地震動
-------------------------------------


 そして、今回の地震について、保安院のサイトの資料では、東西南北上下どの方向にも、600ガルを越える揺れはきていないようである。この場合、どのように考えるか。
 
1 地震計が壊れていた。
  実際には想定した600ガルを越える地震がきていたので原発は壊れた。
2 地震計は壊れていなかった。
(1)客観的に耐震基準は充たしていた。
  原発が壊れた理由が説明できない。揺れの周期等で不測の悪条件が重なり壊れた?
(2)客観的に耐震基準を充たしていなかった。
 a 原発施設の耐震評価等の方法、データの取得、分析等が間違っていた。
   数値の見誤り、計算ミス、データの改ざん等の問題
 b 評価、データ取得、分析等に何の落ち度もないが、なんらかの未知の事態で客観的に耐震基準を充たすことができていなかった。

 上で考えると、2(2)aの、数値の見誤りや、データの改ざん等は論外で、犯罪的なヒューマンエラーによって、今回の事故に至った場合といえよう。
 それより問題なのは、上の2(1)や2(2)bの場合で、これは少なくとも現時点での原発の安全確保の不可能性を意味するものと思われ、他の原発も同様の状態にあることになる。


関連記事
2011-05-15 : ■その他 : コメント : 0 : トラックバック : 0
Pagetop

・従業員,作業員の被爆,損害 その3 立証

・従業員,作業員の被爆,損害 その3 立証

 福島第一で,今現在,具体的にどのような作業環境で,どのような作業が行われているのか,それらについてビデオ等でのきちんと記録を残しているのか,労働者の健康管理,被爆管理等がどう行われているのかなど不明であるが,大規模原発事故であることは間違いなく,労働者の健康被害の問題が生じる可能性は否定できない。


 まず,原賠法に基づく損害賠償請求においても,その健康被害については,公害訴訟や医療過誤訴訟等と同様,高度の科学的専門的知識が必要な上に,関係資料やデータ類が,加害者側に偏在するなどして,その因果関係の立証が容易ではないことが予想される。また,労災保険の認定基準と,原賠法に基づく損害賠償請求訴訟での裁判所の認定は必ずしも一致しない(長尾訴訟)。


 原賠法3条では,原子力事業者の無過失責任を前提とするので,原子力事業者の故意又は過失の立証は必要がない。そこで,労働者側の立証負担があるものとしては,以下のようなものであろう。


 労働者側の立証負担

1 被爆事実の立証
(1)被爆の有無
(2)被爆線量
(3)被爆態様(内部,外部等)
(4)その他事情(被爆時期,期間,場所,作業環境等)

2 疾病の立証
 ※医学的診断,所見等

3 1と2の因果関係の立証
(1)条件関係(事実的因果関係)
 ※証明の程度の問題,蓋然性説,疫学的証明等
(2)相当因果関係


 現在福島第一原発で作業に従事している労働者の場合,線量計等で被爆管理をしているはずなので,被爆の事実と,被爆線量の最小限の値までは,ある程度立証可能であろう。(被爆管理がずさんであった場合は,被爆事実ははっきりしても,その線量の証明が困難となってしまう。被爆管理自体は,当然雇用主の責任であろうから,その落ち度によって,被爆線量が不明確になって,そのために労働者の立証上の不利益が生じた場合にどうなるのかは問題である。)

 最も問題となりやすいのが,因果関係(事実的因果関係)であり,その立証の程度については,論理的には以下のような立場が考えられる。

A 科学的証明説
  厳密な自然科学的証明が必要

B 高度の蓋然性説
  自然科学的証明までは要しないが,当該結果から当該原因に至に高度の蓋然性が必要

C 相当程度の蓋然性説
  高度の蓋然性までは要せず,相当程度の蓋然性で足る。

E 因果関係の推定
  因果関係の無いことを加害者が証明する必要がある。


 まず,裁判所では,法的因果関係が問題とされるので,Aのような厳密な証明を要求することはないだろう。
 また,裁判所による法解釈適用の場面で,Eのように正面から因果関係の推定を認めることは少なかろう。

 結局,Bのように,かなりの高度の確かさ,高確率での発症を要求する立場と,法の趣旨から,それよりも低い程度,確率での発症でもよいと考えるCのような立場との争いとなるように見えるが,B説のように高度の蓋然性が必要としても,その認定において,結論的に因果関係を認める最高裁判決(下記ルンバール訴訟最高裁判決,長崎原爆松谷訴訟最高裁判決)がある。


 まず,B高度の蓋然性説に関して,判例は以下のとおり。

・医療過誤について,ルンバール訴訟判決(最高裁昭和50年10月24日第2小法廷判決),「訴訟上の因果関係の立証は、一点の疑義も許されない自然科学的証明ではなく、経験則に照らして全証拠を総合検討し、特定の事実が特定の結果発生を招来した関係を是認しうる高度の蓋然性を証明することであり、その判定は、通常人が疑を差し挟まない程度に真実性の確信を持ちうるものであることを必要とし、かつ、それで足りるものである」

・原爆症認定について,長崎原爆松谷訴訟最高裁判決(最高裁平成12年7月18日判決,判タ1041号141頁),原子爆弾被爆者の医療等に関する法律(原爆医療法)の放射線起因性の問題。
「訴訟上の因果関係の立証は、一点の疑義も許されない自然科学的証明ではないが、経験則に照らして全証拠を総合検討し、特定の事実が特定の結果発生を招来した関係を是認し得る高度の蓋然性を証明することであり、その判定は、通常人が疑いを差し挟まない程度に真実性の確信を持ち得るものであることを必要とすると解すべきであるから、法八条一項の認定の要件とされている放射線起因性についても、要証事実につき「相当程度の蓋然性」さえ立証すれば足りるとすることはできない。」

・原発での作業中の被爆について,長尾訴訟控訴審判決(東京高裁平成21年4月28日判決(平成20年(ネ)第3613号))。原賠法に基づく請求
「控訴人らは、原告光明の放射線被ばくと多発性骨髄腫の発症との因果関係については、仮に高度の蓋然性が証明されないとしても、疫学データ等により統計的な確率が証明されれば、因果関係の有無に関する心証度に応じて損害額を認定すべきであると主張する。しかし、前記のとおり、訴訟上の因果関係の立証は、特定の事実が特定の結果発生を招来した関係を是認しうる高度の蓋然性を証明することであるから、高度の蓋然性が証明されない場合には、因果関係の立証が不十分であるとして請求が棄却されることはやむを得ないものというべきである。控訴人らは、高度の蓋然性の証明がない場合であっても、因果関係の有無に関する心証度に応じて損害額を認定すべきであると主張するが、独自の見解であり、到底採用することはできない。」


 次ぎにC相当程度の蓋然性説について,判例は以下のとおり

・原爆症認定について,長崎原爆松谷訴訟控訴審判決(福岡高裁平成9年11月7日判決,判タ984号103頁),原子爆弾被爆者の医療等に関する法律(原爆医療法)の放射線起因性問題。
「原子爆弾による被害の甚大性、原爆後障害症の特殊性、旧原爆医療法の目的、性格等を考慮し、認定の要件の証明の程度については、起因性の点についていえば、同法7条1項本文の放射能と現疾病との間の因果関係につき、また、同法7条1項ただし書きの放射能と治癒能力との間の因果関係につき、それぞれ物理的、医学的観点から高度の蓋然性の程度にまで証明されなくても、被爆者の被爆時の状況、その後の病歴、現症状等を参酌し、現傷病が原子爆弾の傷害作用に起因する旨の相当程度の蓋然性の証明があれば足りると解すべきである。」

・なお,日本原子力発電所放射線被曝訴訟第一審判決,岩佐訴訟(大阪地裁昭和56年3月30日判決,昭和49年(ワ)第1661号,判タ440号62頁)では,被爆事実の認定について,「具体的危険性の立証をもって必要にして十分と考えざるを得ないであろう。つまり、かかる具体的危険性が認められるときは、被告において被曝の事実がないなどの特段の反証をしない限り、放射線被曝の事実を推認して防げないというべきである。しかも、原告の如き部外者にとって、具体的危険性の立証と雖も決して容易なことではないのであるから、その判断基準として余り高度の蓋然性を要求することは相当でないというべきである」と判示したものがある。


 結局は,高度の蓋然性といっても,その具体的内容,認定過程,方法が問題なのであろう。

 その内容としては,
・「経験則に照らして全証拠を総合検討し、特定の事実が特定の結果発生を招来した関係を是認しうる」(最高裁昭和50年10月24日第2小法廷判決)
・「その判定は、通常人が疑いを差し挟まない程度に真実性の確信を持ち得るものであることを必要とする」(最高裁平成12年7月18日判決,判タ1041号141頁)
 ということである。

 そして,上の平成12年7月18日の最高裁判決では,高度の蓋然性説に立ちながら,放射線の確定的影響に関して,公的な線量評価システム(DS86)とかしきい値理論を機械的に当てはめることは「事実を必ずしも十分に説明することができない」として,結論として放射線起因性を認めている。
 一定の科学的基準をそのまま当てはめない理由は,「DS八六もなお未解明な部分を含む推定値であり、現在も見直しが続けられていること」,「物理的打撃のみでは説明しきれないほどの被上告人の脳損傷の拡大の事実や被上告人に生じた脱毛の事実」からとのことである。

 蓋然性説は,自然科学的立証までは不要とする説だから,一定の科学的基準を充たさないからといって,直ちに因果関係を否定する説ではないことは明白である。そして「通常人が疑いを差し挟まない程度」の確実性で良いというわけだから,上のような最高裁判決の結論も自説に矛盾したものとは言えないだろう。


 問題なのは,晩発性の癌や白血病など,放射線の確率的影響が問題となる場面である。上の長尾訴訟控訴審判決(東京高裁平成21年4月28日判決)は,高度の蓋然性説に立ち,その具体的検討では,大雑把にいうと,「累積外部被ばく線量70mSv」で,その程度の被爆で多発性骨髄腫になるか否かについては,『肯定的調査結果がこれだけだされている。他方,それを否定する調査結果もこれだけだされている。その病因については,いくつも説があり,放射線のみが原因とはいいきれない,したがって,高度の蓋然性までは認められない』という感じで,労働者敗訴となっている。なお,この判決について,平成22年2月で上告不受理となり労働者敗訴で確定している。
 
 癌にしろ白血病にしろ,晩発性の障害で,放射線の影響のみが病因となるような病気は無いはずである。特別な被爆がなくても,人は,こういった病気にはなる。また,低線量被爆による影響については,否定する説,肯定する説,さまざまあり,研究結果も多数あるはずで特にどちらかに確定しているものではないようである。
 また,長尾控訴審判決で,否定側の資料として出された原子力安全研究協会報告書では「低線量域と呼ばれる200mSv未満の放射線被ばくでこれらがんに過剰リスクが存在することを示す明確で信頼に足る証拠は存在していない」としていた。
 これらから見ると,上の長尾控訴審判決によるならば,.累積200ミリ以下で,晩発性の影響が出てしまった場合は,ほとんど労働者が負けるということになるのではないか。影響を肯定する学説が相当優勢になった場合には勝てる余地も出てくるが,それはほとんど自然科学的立証を要求しているに等しいことになるのではなかろうか。

 このように平成12年の最高裁判決と、平成21年の高裁判決は、同じ高度の蓋然性説に立ちながら、一方は確定的影響についてしきい値以下でも他の事情から高度の蓋然性ありと認定し、他方は確率的影響について、それを示す資料が一部あっても、逆の研究もあるので、高度の蓋然性なしとしており、ずいぶん幅があるものといえ、今後裁判所で争った場合に、どのような結論になるかは不明である。


 なお、原子力事業従業員災害補償専門部会報告(昭和40年5月31日)原子力事業従業員災害補償専門部会報告(昭和50年7月21日)では、放射線障害の因果関係立証の困難性が問題とされ、みなし認定制度や認定補助機関の創設などが議論されていた。



関連記事

テーマ : 原発事故
ジャンル : ニュース

2011-05-13 : ・従業員,作業員の被爆,損害 : コメント : 0 : トラックバック : 0
Pagetop

■4条 責任集中の原則 その11 東電は国を訴えることができるのか?

■4条 責任集中の原則 その11 東電は国を訴えることができるのか?

 被害者が国を訴えることができるのかについては,こちら(http://genbaihou.blog59.fc2.com/blog-entry-38.html)で論じた。

 東電株主が国を訴えることができるのかについては,こちら(http://genbaihou.blog59.fc2.com/blog-entry-63.html)で論じた。
 

 では,東電が,国を訴えることはできないか。
 16条による「援助」枠組みが決まりそうだが、国の「援助」が実質的に貸し付けと変わらず、損害全額の賠償を東電が最後まで負担すると考えた場合、東電側としては,我々の落ち度より,むしろ国の今までのやり方だとか,震災後の国の対応に落ち度があってこうなったのだから国も負担せよ、と考えているかもしれないので,一応検討してみる。

 まず,東電は,落ち度があるか否かにかかわらず,原賠法3条で,「原子力損害」については,被害者に対して損害賠償義務を負うことになる。
 また,「原子力損害」の意味の捉え方にもよるが,これまでの下級審判例のとおり,無限定説に立つと,今回の原発事故と相当因果関係がある第三者の被った損害については,原則として全て「原子力損害」に該当するはずのなで,ここでは東電が被った損害を「原子力損害」以外の損害と考えてみる(原賠法2条2項但書「ただし、次条の規定により損害を賠償する責めに任ずべき原子力事業者の受けた損害を除く。」)。
 ここで,東電が被った損害とは,原発事故で直接東電自身が被った損害のことで,原発施設の損壊による損害とか,今後10年ほど稼動して得られたであろう利益とか,通常の廃炉より余分に費用がかかってしまった分だとか,そういったものを想定している。

 この東電から国への求償請求ないし損害賠償請求が認められるかという問題は、国に原賠法4条,5条を適用して良いかという問題に関係する。

 これについては,以前にも述べた。国に過失があった場合、原賠法4条(責任集中原則)が適用あるのか否かが問題となり、いずれの立場に立つかによって、その余の法的関係が異なってくる。少なくとも以下の二つの考え方がありうる。

・4条適用肯定説
 原賠法4条の文言からして、「原子力事業者以外の者」には,国も含まれるので、国に過失があっても、国の責任は、対第三者との関係では責任は問われないとする考え方。ただし、5条で、国に故意があった場合のみ、東電から求償請求される。(原賠法23条では,国に対する適用除外として,「第三章、第十六条及び次章の規定は、国に適用しない。」とあるが,同条では4条,5条が適用除外されていない。)

・4条適用否定説
 原賠法4条は,被害者保護の観点から,被害者が容易に賠償責任を追及する相手方を知うるようにし,かつ,原子力事業者に機器や原料等を提供している関連事業者に,莫大になりかねない原発事故等の賠償責任を予め免れさせて,原子力事業をしやすくして,もって「原子力事業の健全な発達」を達成しようとする趣旨のものであるから,国家の側に過失があるような場合にまで,この免責を受けさせることは,本来法が予定していないものであり,4条による国の免責は無いものとする考え。5条は、4条の責任の集中を前提とするから、この立場では、5条の適用もないはずである。

 これを前提に場合分けして考えると,結論としては,以下のようになるのではないか。


〔国に落ち度(故意又は過失)あると仮定して〕
1 東電に過失なし
(1)「原子力損害」について
 A 4条適用肯定説
 →国は免責。国に故意あるときのみ5条で東電は国に求償請求できる。
 B 4条適用否定説
 →国は4条では免責されない。東電は国に求償請求できる。
(2)「原子力損害」以外(東電が被った損害)について
 →東電は国に損害賠償請求できる。

2 東電に過失あり
(1)「原子力損害」について
 A 4条適用肯定説
 →国は4条で免責(ただし,国に故意があるときは5条で東電は国に過失の割合に応じて一部求償請求できる。)
 B 4条適用否定説
 →国は4条では免責されない。東電は国に対して,過失の割合に応じて一部求償請求できる。
(2)「原子力損害」以外(東電が被った損害)について
 →東電は国に過失の割合に応じて一部損害賠償請求できる。



※なお,国の落ち度が異常に大きくて,そもそも原発事故との相当因果関係すら否定(因果関係が切断)されるような場合は,東電は,第三者との関係においても「相当因果関係なし」として,その損害について賠償責任を負わなくてよいので,国に対する求償等の問題は生じない。

※また,上の検討は,原子力事業所として東電が,被った損害,負担した賠償義務に関する損害賠償,求償の問題であり,国が今回の事故で直接被った損害は別である。今回の原発事故で,国自身がその資産等について膨大な損害を被った可能性があり,それについては原賠法3条で,「原子力損害」として,国が東電に損害賠償請求できるのは当然である。この場合,国に過失ある限り,過失相殺規定(民法722条2項)で,国の東電に対する請求は減額されることになろう。さらに,東電に過失なく,国にのみ過失ある場合は,ややこしいことになるが,上の1(1)Bなら結果的に国は東電に何の請求もできず,1(1)Aなら国の過失に応じて減額される?

※東電が直接被った損害と,国が直接被った損害については,おそらく双方とも相殺主張はできない(民法509条)。東電の求償権と,国が被った損害の賠償請求権については,東電からの相殺主張はできないが,国からの相殺主張は不法行為に基づく損害賠償請求権(原賠法に基づく損害賠償請求権)を自働債権としているだけなので可能ということになろうか?。



関連記事
2011-05-12 : ・国の責任 : コメント : 0 : トラックバック : 0
Pagetop

■16条「必要な援助」国の措置 その2 援助の枠組み

■16条「必要な援助」国の措置 その2 援助の枠組み

------------------------------
東京新聞
http://www.tokyo-np.co.jp/article/economics/news/CK2011051102000033.html
東電事実上の公的管理 支援6条件政府が提示
2011年5月11日 朝刊

 東京電力福島第一原発事故の被害者への損害賠償をめぐり、政府・与党は十日、東電を支援する枠組みを大筋で固めた。週内に決定する。

 枠組みは、東電が支払う賠償に上限を設けないことで決着、また財務状況などを把握することで事実上の公的管理下に置き、長期間かけて補償責任を果たす東電を支援する。

 海江田万里経済産業相は同日、東電が政府に支援要請したことを受け、支援に必要な六条件を提示。条件は(1)賠償総額に事前の上限を設けない(2)福島原発の安定化に全力を尽くす(3)電力の安定供給などのための必要経費を確保(4)最大限の合理化と経費節減(5)新設の第三者委員会による経営、財務の調査(6)株主、社員、金融機関などすべての利害関係者への協力要請-の六項目で東電は十一日に受け入れを表明する見通し。

 決着した枠組みでは、新機構はいつでも現金化できる国債と、東電など電力会社の拠出金を活用するほか、金融機関から政府保証のついた融資も受ける。

 東電の資本を増強するため、新たに発行する優先株を引き受け、賠償金に不足が生じた場合などは資金を援助する。

 東電は、賠償金を支払いながら、優先株への配当や公的資金の返済を続ける。

 電力会社が拠出する資金は料金値上げを伴う見通しで、政府・与党内には東電に徹底したリストラを求めるなど厳しい意見が根強かったが、賠償請求へのスムーズな対応や金融市場への影響を重視し、早期決着に向けて動き始めた。

 政府は、新機構設立などに必要な関連法案を開会中の国会に提出することを発表し、会期内の成立を目指す。


-----------------------------------
朝日新聞
http://www.asahi.com/business/update/0511/TKY201105110556.html
原発事故、賠償枠組み決定へ 東電特損1兆円計上
2011年5月12日5時0分

 菅政権は11日、東京電力福島第一原子力発電所の事故に伴う損害賠償を、政府管理で支援する枠組みを固めた。菅直人首相が12日の関係閣僚会議に出席し、決定する予定。支援が固まったことを受け、東電は2011年3月期連結決算を20日に発表する方針を決めた。原発事故の処理費用などがかさみ、約1兆円の特別損失が出る見通しだ。

 賠償の枠組みは、東電を含む電力各社が資金を出して「機構」を新設。機構は東電が発行する優先株を引き受けるなどして、東電に資金支援する。電力の安定供給に支障がないように、機構から受けた資金の返済は、毎年の事業収益の範囲内でまかなう。

 機構には、政府が必要な時だけ現金化できる「交付国債」の形で公的資金を投入し、数兆円にのぼるともみられる賠償金の支払いを迅速に進める。公的資金は機構を通じて電力各社が返済し続けるので、最終的に国の財政負担は生じない。

 東電の賠償負担に上限は設けない。政権は、賠償総額が5兆円になった場合、東電が年2千億円、他の電力各社が計年2千億円を約13年かけて機構に返済していくと想定している。

 菅政権は、東電から10日に賠償支援の要請を受けた後、支援のための条件を東電側に示していた。東電は政府の資金支援が続く間、政府管理下での経営になるが、11日に条件の受け入れを臨時取締役会で決めた。

 政権は、5月下旬にも機構設立のための法案の閣議決定を目指す。ただ、この枠組みは東電の存続が前提で、金融機関や社債権者の負担がなく、最終的に電気料金の値上げにつながるため、国会審議が難航する可能性もある。

 政府は枠組み決定の後、法律や会計の専門家、経営者らでつくる第三者委員会を設置。資産を厳しく評価し、経費を徹底的に見直して賠償に充てさせる。

 東電は11年3月期連結決算で原発事故に伴って約1兆円の特別損失を出し、純損益が7千億~8千億円の赤字になる見通し。赤字により、約3兆円の純資産(自己資本)が減って財務基盤が弱るため、東電は政府の支援の枠組みに基づき、機構に対して優先株による出資を求める方針だ。

 特損は原発事故の処理や修繕費用などがかさんだほか、1.5兆円と見積もられている福島第一原発の廃炉費用のうち約3千億円を先に引き当てる。

 12年3月期以降も数年間は年2千億円ほどの賠償負担などで赤字が続く見通し。原発の停止にともなう火力発電の燃料費も年1兆円規模で増え、福島第一原発の廃炉費用も引き当てる。


------------------------------

http://news.tbs.co.jp/newseye/tbs_newseye4723043.html

------------------------------
毎日新聞社 毎日jp
http://mainichi.jp/select/weathernews/20110311/nuclear/archive/news/2011/05/20110513k0000e010019000c.html

福島第1原発:「賠償機構」設置し東電を支援 政府決定


 東京電力福島第1原発事故の損害賠償問題で、政府は13日午前、関係閣僚会合を開き、東電を公的管理下に置く一方で、官民で資金を拠出する「原発賠償機構(仮称)」が東電の賠償支払いを支援する枠組みを正式に決めた。損害賠償額の上限は設けない一方で、「電力の安定供給に支障が生じるなど例外的な場合は政府が補助を行う」とし、国が補償を肩代わりする余地を残した。東電の経営破綻を回避し、被害者の救済を確実にする方針。

 東電は上場を維持するが、財務実態やリストラ状況を政府設置の第三者委員会に監視され、事業計画は国の認可制となる。政府はこれらの措置を盛り込んだ法案の早期成立を目指す。海江田万里経済産業相は国会内で記者団に対し「東電を救済するためではなく、早急に被害の賠償がしっかりと行われることだ」と強調した。

 枠組みでは、東電を含む原子力事業者が負担金を拠出して機構を新設し、政府も必要に応じて換金できる「交付国債」を交付する。投入額は5兆円規模で調整している。

 機構は東電に賠償財源を融資するほか、東電が債務超過にならないよう、優先株引き受けによる資本注入なども検討する。機構の負担金については、東電を含む原子力事業者が毎年計3000億円程度を電力量に応じて負担する見通し。さらに東電は、毎年の収益から特別負担金として返済する。東電の年間負担は2000億円規模に上りそうだ。

 また、賠償に伴う電気料金値上げや財政負担などの国民負担を極力抑えるため、政府は第三者委員会を新設。東電を公的管理下に置いて徹底的なリストラを進め、賠償財源を捻出する。

 一方、東電は損害賠償の財源として不動産や保有する有価証券の売却整理などで5000億~8000億円を捻出。機構に一括売却して市場への影響を考慮しながら処分するほか、資産の証券化なども検討中だ。株式配当は10年程度見送る。

 枠組みは12日の関係閣僚会議で決める予定だったが民主党内の意見集約が遅れ、1日だけ持ち越した。【野原大輔】

◇政府の東電支援の枠組み

・賠償支払いに対応する支援組織(機構)を設ける

・原子力発電所を持つ電力会社は機構に負担金を支払う義務を負う

・機構は東電に資本増強などで援助し、債務超過にさせない

・機構は東電の資産を買い取る

・政府は機構に交付国債を交付し、政府保証を付けるなど必要な援助を行う

・政府は東電の経営合理化を監督する

・東電は、毎年の事業収益を踏まえて設けられる特別な負担金を機構に支払う

・機構は、東電を含めた電力会社からの負担金などで必要な国庫納付を行う

・東電の電力安定供給に支障が生じる場合は政府が補助できる条項を設ける


-----------------------------------



関連記事

テーマ : 原発事故
ジャンル : ニュース

2011-05-12 : ・原子力損害賠償支援機構 : コメント : 0 : トラックバック : 0
Pagetop
ホーム  次のページ »

プロフィール

text2

Author:text2
原子力損害賠償法について検討してみます。(リンクはご自由に)
なお、引用部分以外は私(一応法律家)の意見ですので、判例・学説・実務等で確定したものではありません。他の考えでも裁判等で争い認められる余地があります。

全記事のリスト表示

全ての記事を表示する

検索フォーム

カレンダー

04 | 2011/05 | 06
1 2 3 4 5 6 7
8 9 10 11 12 13 14
15 16 17 18 19 20 21
22 23 24 25 26 27 28
29 30 31 - - - -

QRコード

QR

メールフォーム

名前:
メール:
件名:
本文:

アクセスカウンター

アクセスランキング

[ジャンルランキング]
ニュース
794位
アクセスランキングを見る>>

[サブジャンルランキング]
時事
360位
アクセスランキングを見る>>
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。