東日本大震災以降,原子力損害賠償法に興味あり,同法と東京電力の責任についても検討してみたい。

スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。
-------- : スポンサー広告 :
Pagetop

■4条 責任集中の原則 その12 時的適用範囲と後続侵害

■4条 責任集中の原則 その12 時的適用範囲と後続侵害

 後続侵害については,一般に,ある人が交通事故で被害者に怪我をさせ,病因に入院させたが,その際の治療で医師が過失により,被害者の病状を悪化させたり,死亡させたよう場合に,交通事故の加害者が,その拡大結果にまで責任を負うべきかという問題として論じられる。これは講座事例ではなくて,現実にいくつも裁判例がある。

 そして,今回の原発事故については,東電が原発事故を起こして,放射性物質をまき散らし,被害者に損害を与えた上に,第三者(国,マスコミ,専門家,流通業者等)が故意又は過失によって,その損害を拡大させたような場合に,東電が拡大損害部分についてまで,賠償責任を負うべきかという問題となる。

 さらに原賠法4条の責任集中原則との関係で,原発事故後に関与した第三者まで,4条によって免責されるのかという,同条の時的適用範囲が問題となろう。



〔後続損害〕
 後続侵害があった場合に,先行する加害者に,後続の拡大損害についての責任を負わせることができるのかという問題。これは,因果関係論に関係して,以下のようになる。

ア 相当因果関係説(通説・判例)
 先行行為のとの関係で,後続侵害による結果が,通常損害といえるか,いえない場合でも,予見可能性な特別損害といえるかという観点から,判断される。

イ 保護範囲説(義務射程説)
 後続損害が,加害者が違反した義務の射程内か否かで判断される。

ウ 危険性関連説
 後続侵害が,先行行為によって特別に高められた危険が実現したものといえるか否かにより判断される。


 上の相当因果関係説だと,先行行為者が,後続侵害部分についてまで責任を負うのかという問題については,通常は,「予見可能性」の問題となり,その具体的認定は,おそらく時間的近接性や先行の侵害の程度や状況,後続侵害の内容等の諸般の事情からケースバイケースで判断されるとしか言いようがなく,特に過失〔原賠法では過失すら問われない〕での不法行為については,どこまで加害者に具体的な認識の「可能性」があったのかという点が問題となり,裁判官の感覚次第という可能性があり,適当なところで自由に絞りをかけることができるという点ではメリットがあり,他方,裁判の予測可能性が低くなる。




〔4条の時的適用範囲〕
 原発事故後の第三者の後続行為によって,損害が発生,拡大させられたような場合,後続行為をなした第三者は,東電とともに,損害賠償義務を負うのかという点が,原賠法4条(責任集中の原則)との関係で問題となる。
 
 原賠法4条1項は,「前条の場合においては、同条の規定により損害を賠償する責めに任ずべき原子力事業者以外の者は、その損害を賠償する責めに任じない」とし,原子力事業者以外の者は一切,被害者に賠償する必要がないことを規定している。

 原賠法2条3項の定義から第三者(国,マスコミ,専門家,流通業者等)が,「原子力事業者」に該当しないのは明白であり,原賠法3条の無過失の損害賠償責任を負うことはないが,故意又は過失ある場合に,民法709条で損害賠償責任を負う可能性がある。ただし,この場合,原発事故後の第三者の行為による損害については,法の趣旨からして,4条の適用による第三者の免責がどうなるのかは問題となろう。

・4条適用肯定説
 特に4条の文言に,時間的先後関係に関する文言もなく,また,同条は,被害者保護の観点から,被害者が容易に賠償責任を追及する相手方を知りうるようにするため,第三者に賠償責任を拡大させない趣旨のものであり,後続侵害についても,4条の適用で第三者は「原子力事業者以外の者」として賠償責任を免ぜられると考える。〔ただし,故意ある場合には,5条により,原子力事業者から求償請求される。〕

・4条適用否定説
 原賠法4条は,被害者保護の観点から,被害者が容易に賠償責任を追及する相手方を知りうるようにするとともに,原子力事業者に機器や原料等を提供している関連事業者に,莫大になりかねない原発事故等の賠償責任を予め免れさせて,原子力事業をしやすくして,もって「原子力事業の健全な発達」を達成しようとする趣旨のものであるから,既に生じてしまった原発事故について,後から損害を拡大させるような行為をした者まで,免責させることは,法の意図を離れるとして,後続侵害をなした第三者には,4条での免責の余地はないと考える。




〔共同不法行為〕
 上で,4条適用否定説に立った場合,第三者は,不法行為に基づく損害賠償義務を負うことになり,その場合,東電の賠償責任と関係が問題となる。

----------------
民法第719条
1 数人が共同の不法行為によって他人に損害を加えたときは、各自が連帯してその損害を賠償する責任を負う。共同行為者のうちいずれの者がその損害を加えたかを知ることができないときも、同様とする。
2 行為者を教唆した者及び幇助した者は、共同行為者とみなして、前項の規定を適用する。
----------------

・まず,東電と第三者の共謀があった場合は別として,普通は,東電と後続行為をなした第三者との間に,主観的関連共同性はなく,この場合に,民法719条前段の「共同不法行為」の成立を認めてよいかという問題がある。判例・通説では,客観的関連共同性があればよいとしている。

・共同不法行為と認められた場合,その効果として,東電と第三者は,「各自が連帯してその損害を賠償する責任を負う」とされ,これは通説では,不真性連帯債務と理解される。被害者は,原則として,両者に対して満額まで請求できる。二重取りはできない。

・不真性連帯債務の場合,共同不法行為者間の求償関係が生じうるか,一応問題となるが,肯定するのが判例・通説と思われる。

・後続行為をなした第三者が,東電の先行行為によって発生した損害部分まで,連帯して賠償責任を負うのかという問題があり,

①全部連帯説
 第三者も,全部責任を負うとした上で,共同不法行為者間の求償で解決する説
②一部連帯説
 第三者は,その寄与度に応じた割合でのみ連帯して責任を負うとする説(横浜地裁,昭和57年11月2日,判タ495-167)
③分割責任説
 寄与度に応じて,それぞれが応じた額の賠償責任を負い,連帯責任部分を認めない説
④競合的不法行為説
 弱い関連共同性しかないような場合は,単に個別の不法行為責任が,損害(額)の面でが重なっているだけであるとする説

などがあり得る。

・なお,後続侵害を為した第三者に「故意」がある場合は,原賠法4条の適用について,肯定説に立ったとしても,同法5条1項で,東電は,第三者に対して,求償請求をなし得る。


 
スポンサーサイト
2011-06-16 : ■4条責任集中の原則 : コメント : 0 : トラックバック : 0
Pagetop

■4条 責任集中の原則 その9 その趣旨を考える

■4条 責任集中の原則 その9 その趣旨を考える

 原賠法の特徴として,①無過失責任,②無限責任,③責任集中の原則が挙げられることがある。

 まず,①の無過失責任は,危険責任の法理や報償責任の法理等に基づくもので,
・工作物責任(民法第717条)
・動物占有者の責任(民法第718条)
・公の営造物の責任(国家賠償法第2条)
・製造物責任(製造物責任法)
・大気汚染に対する事業者の賠償責任(大気汚染防止法第25条)
・水質汚濁に対する事業者の賠償責任(水質汚濁防止法第19条)
・鉱害賠償責任(鉱業法第109条~第116条)
など,その例はいくつかある。

 原賠法の場合,「瑕疵」や「欠陥」の存在すら前提としないという点で,工作物責任や製造物責任とは異なるが,大気汚染,水質汚濁に対する事業者の責任や鉱業権者の賠償責任等でも,「瑕疵」「欠陥」等は要件とされておらず,このような純粋な無過失責任も,原賠法だけの特徴とはいえない。

 ②の無限責任については,一般の不法行為(民法709条)でも,賠償責任の限度額などあろうはずもなく,当然に無限責任なのであって,これは原賠法の特徴とはいえない。もし責任が限定されていたら,それは原賠法の特徴となろう。また、無過失責任であることと、責任の限度の有無とは全く関係がない。上記の他の無過失責任でも、賠償責任の限度は定められていない。
 なお,原子力事業者が無限責任を負うからといって,株式会社の株主が,出資限度でしか責任を負わない(株主有限責任の原則,会社法104条)のは,原子力事業者でも異ならず,東電の株主が,自己の他の財産を含めて無限の責任を負う必要がないのは当然であり,原賠法の無限責任の射程ではない。

 結局③の責任集中の原則が,原賠法の最も特徴的な部分といえるのではないか。これは妙な制度で、同種の原則としては、宇宙条約の6条7条がある。

 宇宙条約(月その他の天体を含む宇宙空間の探査及び利用における国家活動を律する原則に関する条約)の第6条及び7条の全文は次のとおりである。

--------------------
第6条 条約の当事国は、月その他の天体を含む宇宙空間における自国の活動について、それが政府機関によって行われるか非政府団体によって行われるかを問わず、国際責任を有し、自国の活動がこの条約の規定に従って行われることを確保する国際的責任を有する。月その他の天体を含む宇宙空間における非政府団体の活動は、条約の関係当事国の許可及び継続的監督を必要とするものとする。国際機関が、月その他の天体を含む宇宙空間において活動を行う場合には、当該国際機関及びこれに参加する条約当事国の双方がこの条約を遵守する責任を有する。

第7条 条約の当事国は、月その他の天体を含む宇宙空間に物体を発射し若しくは発射させる場合又は自国の領域若しくは施設から物体が発射される場合には、その物体又はその構成部分が地球上、大気空間又は月その他の天体を含む宇宙空間において条約の他の当事国又はその自然人若しくは法人に与える損害について国際責任を有する。
---------------------

 これは、宇宙活動を行うのが政府機関か非政府団体かに関わらず、自国によって行われる活動については国家が国際的責任を負い、打ち上げられた宇宙物体が他国に損害を与えた場合、打ち上げ国には無限の無過失責任が発生するとするものであり、責任主体は国家である。宇宙活動がその性質上、高度な危険性を内蔵するものであることから、宇宙活動を実施する主体が私企業であるか否かにかかわらず、特に国にその責任を集中したものであり、私企業に責任を集中する原賠法とは異なる。

 原賠法4条1項では「前条の場合においては、同条の規定により損害を賠償する責めに任ずべき原子力事業者以外の者は、その損害を賠償する責めに任じない。」とあり、原子力事業者への責任集中を定めている。

文部科学省のサイトで以下のよう説明されている。
http://www.mext.go.jp/a_menu/anzenkakuho/faq/1261352.htm

---------------------------------------
Q3.責任集中の原則とはどのようなものですか。
A3
責任集中の原則とは、賠償責任を負う原子力事業者以外の者は一切の責任を負わないとするものです。これにより、被害者は容易に賠償責任の相手方を知り得、賠償を確保することができるようになります。
一方、この責任集中は、原子力事業者に機器等を提供している関連事業者を、被害者の賠償請求との関係において免責するものであり、これら関連事業者は安定的に資材を供給することが可能になり、これにより原子力事業の健全な発達に資することにもなります。

なお、多くの諸外国の原子力損害賠償制度においても、同様の制度が採用されています。
-------------------------------------


 責任集中で、被害者は容易に賠償責任の相手方を知り得ることになるが、他方で、原子力事業者以外への請求が制限されるという意味では、必ずしも被害者にとって有利な規定とはいえない。特に、原子力事業者よりも、落ち度ある関係業者の方が責任財産を豊富に持ってる場合には、むしろ不当な結論に至る可能性がある。
 また、原子力事業者に資材、機器等を提供している関連事業者を、予め被害者の賠償請求との関係において免責し、これら関連事業者が安心して資材、機器等を原子力事業者に供給できるようにし、もって原子力事業の健全な発達を促そうとする趣旨はわかるが、そのような責任集中を定めて、しかも原子力事業者から落ち度ある関連事業者への求償権も大幅に制限(5条、故意のみ)してしまうと、原子力事業者が、最終的に莫大な責任を、過失の有無にかかわらず全部負担することになる。つまり責任集中によって、確かに関連事業者は安心して業務を行えるが、その分の負担が、原子力事業者に集中するだけで、原子力事業の健全な発達(1条)という趣旨で見ると、プラスマイナスそんなに変わらないような気がする。


 結局、責任集中の本当の意味は、損害保険との関係を考えなければ理解できないのではないか。この点については、立法過程に関与した加藤一郎が国会で参考人として以下のように述べている。


--------------------------
- 参 - 商工委員会 - 27号
昭和36年05月30日
 さらに、この責任についての第三の問題といたしましては、いわゆる責任集中の問題がございます。これは四条と五条の関係でありますが、たとえばいわゆる供給者――いろいろな施設の部品を供給した者、そのほかその設計をした者であるとか、労務を提供した者というような、広い意味での原子力施設を作るについて協力した者が全部供給者ということになるわけでありますが、その供給者については責任を免除いたしまして、責任を、原子力事業者に集中するというやり方をとっております。この点は、どうしてそういう必要があるかと申しますと、責任保険との関係が非常に重要でありまして、もしすべての供給老に責任が認められるということになれば、各人が責任保険をつけまして自衛手段を講じなければならなくなる。ところが、そういたしますと、貢任保険の重複という問題が出て参りまして、保険の限度額がそれだけ少なくなってくる。逆に、責任を認めても被害者には決して有利にはならないという問題があるわけであります。そこで保険の技術といたしましては、なるべく責任を最後の事業者のところに集中しまして、そこでまとめて保険をつけるということにするのが適当であります。この責任の集中ということは、そのほかに被害者たる一般公衆が損害賠償を請求する場合に、だれに請求していいかということが明確になる。かりに事業者のほかに供給者にも課せられるということになると、その関係が複雑になるわけであります。さらにまた原子力事業の育成ということを考えますと、供給者が安んじて供給ができるようにしてやる必要があるわけでありまして、そうでなければ原子力事業に協力する者が少なくなる危険がある。そこで原則として供給者の責任を免除してやるということが必要になります。
 そういういろいろな理由から、責任の集中ということが、これは各国で問願になっておりまして、集中している国が多いわけであります。結局経済的に考えますと、責任の集中ということは、その責任保険の保険料をだれが払うかという問題になるわけなんです。つまり供給者に責任が負わせられるとすれば、責任者が保険料を負担しなければならない。ところが事業者ということになれば、事業者が全部保険料を負担して責任保険をつける。そのコスト、供給のコストという点を考えますと、供給者がつけた責任保険料は当然供給代金の中に含まれるわけでありまして、それを代金の形で事業者が払うのか、それとも保険料の形で保険会社に事業者が払うのかというような、保険料の負担をどういう形でするかという経済的な問題に帰着するように思われます。ただ原子力災害の場合には、責任保険の限度をこえる場合があるものですから、その場合には責任を負わされた者が損をする結果になりますけれども、その点がもし国の援助ということでカバーされることになれば、あとは負担の形の問題に帰するのではないか。そうだとすれば、技術的に最も明確な責任集中ということにしておくのがいいだろうというように思われます。


----------------------------

 上の加藤一郎の陳述の意味も少しはっきりしないところがあるが、莫大な損害額に及ぶ可能性がある原子力損害について、関連業者までが賠償責任を負うようにしておくと、関連業者が自らも高額の保険に入る必要があり、原子力事業者との保険の重複が生じることになり、また、保険が細切れになってカバーされる損害限度額が小さくなる可能性があり?不当であること(必要性)から、原子力事業者に責任を集中し、原子力事業者にのみ保険料を支払わせることにし、また、そのようにしても最終的には、関連業者の供給商品の価格に保険料分が乗るか乗らないかだけの問題なので、経済的には原子力事業者と関連事業者との間で損得が生じるわけではないので(許容性)問題がないということかと思われる。

 責任集中の原則の趣旨については、少なくとも措置額の範囲内の損害については、加藤一郎の陳述のとおり上ようなの趣旨のものと捉えると理解しやすい。

 しかし、原賠法で、原子力事業者は、賠償措置として、民間との保険契約(8条、原子力損害賠償責任保険契)、政府との補償契約(10条、原子力損害賠償補償契約)が義務づけられており(6条、合計最大2400億円)、上の加藤一郎の保険というのも、おそらくこの範囲内のものであろうから、この賠償措置額を超える損害について、その責任を原子力事業者に集中させるのは、やはり何のためかという問題が出てくる。

 賠償措置額を超える額について、どこか民間の保険会社が、他に保険契約をしてくれるとでも考えていたのか?。


※4条については、どのような説明をしても、結局は、他国からの技術移転を伴う事業で、売り手の希望をいれなければどうしようもない状況で負わされた負担が始まりなので、いびつな感じは否めない。
2011-05-09 : ■4条責任集中の原則 : コメント : 0 : トラックバック : 0
Pagetop

■4条 責任集中の原則 その3 第5条求償権との関係

■4条 責任集中の原則 その3 第5条求償権との関係

条文
(責任集中の原則)
第4条1項「前条の場合においては、同条の規定により損害を賠償する責めに任ずべき原子力事業者以外の者は、その損害を賠償する責めに任じない。」
(求償権)
第5条1項「第三条の場合において、その損害が第三者の故意により生じたものであるときは、同条の規定により損害を賠償した原子力事業者は、その者に対して求償権を有する。
 2項  前項の規定は、求償権に関し特約をすることを妨げない。」

---------------------------------

 4条において,3条の無過失責任(損害賠償責任)は,原子力事業者しか負わないとされている(責任集中の原則)。これは,被害者が請求相手を容易に認識できるようにし(1条「被害者の保護」),他方で,機器や原料を提供する他の関連事業者が,莫大な損害について責任を負わせられないようにして,安定的に資材を供給することを可能にするためのもの(1条「原子力事業の健全な発達」)と説明されている。
 損害額が莫大で,原子力事業者の責任財産が十分でない場合に,この規定が,かならずしも被害者の保護にならない規定であることは,以前に述べた。
 また,この4条は,次ぎの5条を前提としている。5条は,原子力事業者から関連事業者への求償権を定めている。これは,原子力事業者に機器や原料等を納品した関連事業者側の落ち度によって原子力損害が発生したような場合に,原子力事業者のみが賠償責任を負うとして,その賠償をした原子力事業者が,落ち度のある関連事業者に何らかの請求をできるようにするのが公平であると配慮から定められたものである。
 ただし,この求償を広くみとめると,関連事業者の責任を緩和して,取引しやすくして,原子力事業の遂行を容易にしようとした趣旨が失われる。そこで,立法前には,以下のような議論があった。

---------------------------------
原子力災害補償専門部会の答申(昭和34年12月)
「(5)「原子力事業者」に、被害者である第三者に対する責任を集中し、それ以外の者はこれらに対する責任を負わないものとする。ただし原子力事業者との間で燃料の供給、設備の請負等について直技間接の契約関係にある者の故意または重大な過失によって原子力事故が生じたとき、およびこれらの関係のない第三者の故意過失によって原子力事故が生じたときは、原子力事業者は、これらの者に対し求償することができるものとする。」

 ※原子力事業者との直接の契約業者→「故意又は重過失」で求償される。
  その他の関係業者→「故意又は過失」で求償される。

原子力委員会内定「原子力災害補償制度の確立について」(昭和35年3月)
「(3)責任の集中
 原子力事業者に、第三者に対する原子力損害についての責任を集中し原子力事業者以外の者は責任を負わないものとする。
 (4)求 償 権
 原子力事業者との間で燃料の供給、設備の請負等について直接間接の契約関係にある者の故意によって原子力損害が生じたとき、およびこれらの関係のない者の故意または過失によって原子力損害が生じたときは、原子力事業者はこれらの者に対し求償権を有するものとする。ただし、これらの求償権に関し特約をすることを妨げない。」

 ※原子力事業者との直接の契約業者→「故意」で求償請求される。
  その他の関係業者→「故意又は過失」で求償請求される。

衆議院国会審議(昭和35年5月17日)の中曽根趣旨説明「原子力事業が広範な産業の頂点に立つ総合産業でありますだけに、損害発生時における責任の帰属が不明確になる場合が予想されるのであります。それでは被害者の保護に欠けるばかりでなく、原子力事業に対する資材、役務等の供給が円滑を欠き、事業そのものの発達が阻害されることとなるおそれが強い点もあわせ考慮して責任の集中を行なったのであります。従ってまた、損害の発生が資材、役務の供給に原因するような場合にありましても、原子力事業者の求償権は原則としてこれらの者に故意がある場合に限って行使できるものとしたのであります」

 取引業者→「故意」がある場合に限り求償請求される。
---------------------------------

 結局,昭和35年年提出の法案は,廃案になり,翌36年に再提出の上,成立したのであるが,その制定当時の旧5条には,
「第5条 第3条の場合において、その損害が第三者の故意又は過失により生じたものであるときは、同条の規定により損害を賠償した原子力事業者は、その者に対して求償権を有する。ただし、その損害が原子炉の運転等の用に供される資材の供給又は役務(労務を含む。)の提供(以下「資材の供給等」という。)により生じたものであるときは、当該資材の供給等をした者又はその者の従業員に故意があるときに限り、これらの者に対して求償権を有する。
 2 前項の規定は、求償権に関し特約をすることを妨げない。」

 資材役務の提供業者→「故意」がある場合に限り求償請求される。
 その他の第三者の場合→「故意又は過失」で求償請求される。

----------------------------------

 しかし,昭和36年に原賠法が制定されてから9年ほど経過して,以下のとおり,見直しとなり,昭和46年の原賠法改正により,「過失」が削られ,原子力事業者は,現行法5条のとおり,取引事業者に故意があった場合のみ,その損害の求償請求ができることになった。
 http://www.shugiin.go.jp/itdb_housei.nsf/html/houritsu/06519710501053.htm
----------------------------------
原子力損害賠償制度検討専門部会答申(昭和45年11月30日)
「(4)原子力事業者の求償権の制限
 現行賠償法では、原子力損害を賠償した原子力事業者は、その損害が、①一般第三者の故意または過失により生じた場合はその者に対し ②資材もしくは役務の供給者またはその従業員の故意により生じた場合は、それぞれその者に対し、求償権を有することとし ③ただし、求償権に関し特約をすることを妨げないとしている。
 しかしながら、たまたま過失で核燃料物質を運搬中の輸送手段等と衝突したために、一般の第三者が巨額の求償を受けることになるのは、その者にとって酷であり、さらに現行賠償法の責任集中の原則を徹するためにも、諸条約等を参考に原子力事業者の求償は、関連事業者の場合と同様一般第三者に対しても、故意ある場合に限定することが妥当である。
 さらに故意の内容も諸条約のように「原子力損害を発生させようとする」故意に限定することが望ましい。」
-----------------------------------

 これによって,原子力事業者と取引する者(原材料,機器,役務等を提供する事業者)は,損害発生につき過失や重過失が有ったとしても,責任集中原則(4条)で被害者への賠償責任を免れた上,故意に損害を与えない限り,「原子力損害」については,原子力事業者からの求償請求すら免れるという,極めて有利な立場に立つことになった。なお、この「故意」の場合の責任すら、5条2項により、特約で排除することが可能となっている。




2011-04-11 : ■4条責任集中の原則 : コメント : 0 : トラックバック : 0
Pagetop

■4条 責任集中の原則 その2

【4条 責任集中の原則 その2】

条文
第4条
1  前条の場合においては、同条の規定により損害を賠償する責めに任ずべき原子力事業者以外の者は、その損害を賠償する責めに任じない。
2  前条第一項の場合において、第七条の二第二項に規定する損害賠償措置を講じて本邦の水域に外国原子力船を立ち入らせる原子力事業者が損害を賠償する責めに任ずべき額は、同項に規定する額までとする。
3  原子炉の運転等により生じた原子力損害については、商法 (明治三十二年法律第四十八号)第七百九十八条第一項 、船舶の所有者等の責任の制限に関する法律 (昭和五十年法律第九十四号)及び製造物責任法 (平成六年法律第八十五号)の規定は、適用しない。

-----------------------------------

原子力委員会原の子力損害賠償制度検討会報告書(平成14年3月)
http://www.aec.go.jp/jicst/NC/iinkai/teirei/siryo2002/siryo12/siryo1.htm

「原子力損害賠償制度は被害者の救済措置であると同時に原子力施設の運転等を行う原子力事業者に責任を集中させ第三者補償を明らかにすることによって、原子力事業を健全に発展させるためのものである。」
「国際的な原子力損害賠償制度が確立されている場合には、①事業者の無過失責任、②原子力事業者に対する損害賠償責任の集中、③裁判管轄国と準拠法の特定(原則事故発生地国)が担保されるため、上のような問題が回避される可能性が高い。加えて、原子力損害賠償に関する国際条約の下では、原子力事故が発生した場合に、賠償責任が原子力事業者に集中され、プラント機器の供給者は包括的に免責されるため、国際的な原子力産業の健全な発展にも寄与しうるとの利点もある。上に指摘した、事業者に対する責任集中制度の採用も含め、国際条約確立を通じた、国際間の損害賠償処理に係る不確実性の除去は、国際的な原子力開発・投資に関する各者間の協力・取引を促進することに繋がる。そして、こうした協力・取引の活性化は、国際協調の下での原子力産業の健全な発展の基盤を提供するのは勿論のこと、各事業者・プラント機器供給者相互間のチェックを可能とし、原子力開発利用における安全性向上に大きく寄与することにも繋がる。」

-----------------------------------

 このような検討会の報告書を読んでいて感じられるのは、4条の責任集中の原則は、一方で被害者保護を唱いながらも、要するに原子力発電事業を可能にするために、機器や原材料等を納入する関係業者の責任を軽くしてやるためのものではないかといことである。原発事故のように、そのリスク判断が難しく、その損害が想像を絶する莫大な額に拡大する可能性がある場合に、その賠償義務を負うおそれの下では、関係業者が事実上取引ができず、原子力事業が進まないので、これらの者を事前に免責することが、この条文の本旨ということであろう。
 前に示した,文部科学省のサイトにある回答には、「責任集中の原則とは、賠償責任を負う原子力事業者以外の者は一切の責任を負わないとするものです。これにより、被害者は容易に賠償責任の相手方を知り得、賠償を確保することができるようになります。一方、この責任集中は、原子力事業者に機器等を提供している関連事業者を、被害者の賠償請求との関係において免責するものであり、これら関連事業者は安定的に資材を供給することが可能になり、これにより原子力事業の健全な発達に資することにもなります。」とある。
 確かに、何兆円何十兆円と莫大な損害額に拡大するおそれの下で、関係業者が原子力事業者と取引しなければならないというのは、不都合なので、事前に免責しておくというのはわかるが、どんなにでたらめなことをしても、故意でない限り原子力事業者から求償も受けないというのでは、関係業者のモラルハザードを招かないのであろうか。
 納品する業者が免責されるから、受け取り使用する業者が、より念入りにチェックすることになり、原発の安全性確保につながると考えているかものしれないが、立法論としては、賠償額の上限額を限定してでも、過失がある場合には、関係業者に責任に負わせる方がよさそうな気がする。立法段階でどのような議論がなされたのか、知りたいところである。
2011-04-06 : ■4条責任集中の原則 : コメント : 0 : トラックバック : 0
Pagetop

■4条 責任集中の原則 その1

【4条 責任集中の原則 その1】

原賠法4条1項には,「第四条  前条の場合においては、同条の規定により損害を賠償する責めに任ずべき原子力事業者以外の者は、その損害を賠償する責めに任じない。」とある。

これについては,文部科学省のサイトで以下のよう説明されている。
http://www.mext.go.jp/a_menu/anzenkakuho/faq/1261352.htm
---------------------------------------
Q3.責任集中の原則とはどのようなものですか。
A3
責任集中の原則とは、賠償責任を負う原子力事業者以外の者は一切の責任を負わないとするものです。これにより、被害者は容易に賠償責任の相手方を知り得、賠償を確保することができるようになります。
一方、この責任集中は、原子力事業者に機器等を提供している関連事業者を、被害者の賠償請求との関係において免責するものであり、これら関連事業者は安定的に資材を供給することが可能になり、これにより原子力事業の健全な発達に資することにもなります。

なお、多くの諸外国の原子力損害賠償制度においても、同様の制度が採用されています。
----------------------------------------

 文科省のこの回答を見ると,原子力事業者以外の協力関連会社等は,原子力事業者が賠償を負う限り,常に,いかなる損害の賠償責任も負わないかのよう読める。しかし,条文を読む限りでは,4条には,「前条の場合においては」とあり,これは,原子力事業者が「原子力損害」について,無過失責任としての損害賠償責任を負う場合のことであり,少なくとも「原子力損害」以外の損害については,やはり一般原則にもどり,各社に過失ある限り,関係各社への損害賠償請求は否定されないのではないかと考えられる。4条の「その損害を賠償する責めに任じない」とあるのは,前条を受けてのものであり,どう読んでも「その損害」=「原子力損害」と思われるからである。
 ただし,文科省の4条の責任集中の原則の趣旨を見ると,3条の「原子力損害」については,その責任追及対象を原子力事業者に限定したものと考えられ,したがって「原子力損害」については,過失の有無にかかわらず,原子力事業者以外の者に対しては責任の追及はできないことになろう。

 もっとも,この4条の責任集中原則については,妙な規定だなと思う。たしかに,被害者側から見て,責任追及対象がばらけるより,1社に集中した方が,やりやすいという側面がある。しかし,その1社が財務体質が悪く,責任財産が少なくて,他方,そのファミリー企業が潤っていて豊富な資産を持っているような場合には,被害者は困ってしまう。追及対象が広い方が,被害者の保護になるはずである。たしかに「原子力損害」に該当し,しかも原子力事業者が賠償しきれない場合には,国の措置(原賠法16条)として,税金をつぎ込んで賠償可能とすることになるので,被害者としては,最終的には困ることはなかろう。しかし,これを「原子力損害」以外にまで適用し,他の過失ある業者までを免除すると解すると,結果として,被害者の保護はないがしろにされることになろう。この点からも,少なくとも「原子力損害」以外の損害については,4条の適用は無いものと解されるのではないか。
2011-04-06 : ■4条責任集中の原則 : コメント : 0 : トラックバック : 0
Pagetop
ホーム

プロフィール

text2

Author:text2
原子力損害賠償法について検討してみます。(リンクはご自由に)
なお、引用部分以外は私(一応法律家)の意見ですので、判例・学説・実務等で確定したものではありません。他の考えでも裁判等で争い認められる余地があります。

全記事のリスト表示

全ての記事を表示する

検索フォーム

カレンダー

04 | 2017/05 | 06
- 1 2 3 4 5 6
7 8 9 10 11 12 13
14 15 16 17 18 19 20
21 22 23 24 25 26 27
28 29 30 31 - - -

QRコード

QR

メールフォーム

名前:
メール:
件名:
本文:

アクセスカウンター

アクセスランキング

[ジャンルランキング]
ニュース
426位
アクセスランキングを見る>>

[サブジャンルランキング]
時事
193位
アクセスランキングを見る>>
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。