東日本大震災以降,原子力損害賠償法に興味あり,同法と東京電力の責任についても検討してみたい。

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■3条1項本文の賠償責任 その12 民間の損害保険との関係

■3条1項本文の賠償責任 その12 民間の損害保険との関係

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保険法
(請求権代位)
第二十五条  保険者は、保険給付を行ったときは、次に掲げる額のうちいずれか少ない額を限度として、保険事故による損害が生じたことにより被保険者が取得する債権(債務の不履行その他の理由により債権について生ずることのある損害をてん補する損害保険契約においては、当該債権を含む。以下この条において「被保険者債権」という。)について当然に被保険者に代位する。
一  当該保険者が行った保険給付の額
二  被保険者債権の額(前号に掲げる額がてん補損害額に不足するときは、被保険者債権の額から当該不足額を控除した残額)
2  前項の場合において、同項第一号に掲げる額がてん補損害額に不足するときは、被保険者は、被保険者債権のうち保険者が同項の規定により代位した部分を除いた部分について、当該代位に係る保険者の債権に先立って弁済を受ける権利を有する。
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 下記の例にあるように、損害保険、傷害保険等の民間の保険のほとんどで、原発事故による汚染、被曝等により被った損害については、保険会社は保険金の支払い義務を免れることになっている。したがって、「原子力損害」については、民間の保険との関係で保険法25条(旧商法662条は、平成22年4月1日より前に締結された保険契約)の保険代位が問題となる場面はほとんどないと思われる。


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●地震保険普通保険約款
http://www.ms-ins.com/pdf/information/product/kasai/20100101_jishin_yakkan_kaitei/yakkan.pdf
第3条(保険金を支払わない場合)
(1)当会社は、地震等の際において、次のいずれかに該当する事由によって生じた損害に対しては、保険金を支払いません。
〈略〉
⑤ 核燃料物質(注4)もしくは核燃料物質(注4)によって汚染された物(注5)の放射性、爆発性その他の有害な特性またはこれらの特性による事故
〈略〉
(注4)使用済燃料を含みます。
(注5)原子核分裂生成物を含みます。


http://www.jiko-online.com/yakkan1.htm
●自動車保険
第9条(保険金を支払わない場合-その1 対人・対物賠償共通)
①当会社は、次の各号のいずれかに該当する事由によって生じた損害に対しては、保険金を支払いません。
(6)核燃料物質(使用済燃料を含みます。以下この号において、同様とします。)もしくは核燃料物質によって汚染された物(原子核分裂生成物を含みます。) の放射性、爆発性その他有害な特性の作用またはこれらの特性に起因する事故
(7)前号に規定した以外の放射線照射または放射能汚染
(8)第3号から前号までの事由に随伴して生じた事故またはこれらにともなう秩序の混乱に基づいて生じた事故


http://www.jiko-online.com/yakkan6.htm
●自動車保険、車両条項
第2条(保険金を支払わない場合-その1)
当会社は、次の各号のいずれかに該当する事由によって生じた損害に対しては、保険金を支払いません。
(3)地震もしくは噴火またはこれらによる津波
(4)核燃料物質(使用済み燃料を含みます。以下この号において、同様とします。)もしくは核燃料物質によって汚染された物(原子核分裂生成物を含みます。)の放射性、爆発性その他有害な特性の作用またはこれらの特性に起因する事故
(5)前号に規定した以外の放射線照射または放射能汚染
(6)第2号から前号までの事由に随伴して生じた事故またはこれらにともなう秩序の混乱に基づいて生じた事故


http://seno.jp/pages/pdf/kokunai.pdf
●がん保険 傷害および疾病による入院・手術保障特約
第3条(保険金を支払わない場合)
(1)当会社は、次のいずれかに該当する身体障害に対しては、保険金を支払いません。⑪ 核燃料物質(注6)もしくは核燃料物質(注6)によって汚染された物(注7)の放射性、爆発性その他の有害な特性またはこれらの特性による事故によって被った身体障害
⑫ ⑨から⑪までの身体障害の原因になった事由に随伴して生じた事故またはこれらに伴う秩序の混乱に基づいて生じた事故によって被った身体障害
⑬ ⑪以外の放射線照射または放射能汚染によって被った身体障害
(注6)使用済燃料を含みます。
(注7)原子核分裂生成物を含みます。


http://pet.axa-direct.co.jp/file/yakkan.pdf
●ペット保険
第3条(保険金を支払わない場合)
(1)当会社は、次のいずれかに規定する場合には、保険金を支払いません。
⑤核燃料物質1注6)もしくは核燃料物質[注6)によって汚染された物6主7)の放射性、爆発性その他の有害な特性またはこれらの特性による事故によって生じた身体障害
⑥③から⑤に規定する身体障害の原因となった事由に随伴して生じた事故また はこれらに伴う秩序の混乱に基づいて生じた事故によって生じた身体障害
⑦⑤以外の放射線照射または放射能汚染によって生じた身体障害
[注6]使用済燃料を含みます。
[注7]原子核分裂生成物を含みます。

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2011-07-21 : ■3条1項本文の責任 : コメント : 0 : トラックバック : 0
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■3条1項本文の賠償責任 その11 義捐金との関係

■3条1項本文の賠償責任 その11 義捐金との関係


 原発事故の被害者が受け取った義捐金(義援金)については,加害者東電は,損益相殺の主張ができるのか。

 普通は,義捐金というのは自然災害などで被災した人への見舞金として支出されるので,賠償請求の相手もおらず,損益相殺を主張してくる加害者もいないので,問題とならないが,今回は,原子力災害についての加害者が存在する事案なので,特に問題となる。

 まず,義援金が震災津波の被害者に対するものとして支給されている場合は,原発事故と同一の原因によって利益を受けた場合にはあたらないので,そもそも損益相殺は問題とならないだろう。

 そして,原発事故の被災者に対するものとして支給された場合〔震災津波では何も損害を被っていないが,避難指定地域などで避難生活を余儀なくされている人への義捐金の支給など〕には,原発事故と同一の原因によって利益を受けたとして,加害者東電側から,損益相殺の主張ができるのかが問題となろう。


 交通事故のような場合に、各種給付金との損益相殺の可否については、こちらで述べたとおり、その給付の趣旨・性質から判断しているのが裁判所の立場だと思われる。そして、基本的には,義捐金についても、その給付が,原発事故で被災者が被った損失填補の趣旨・性質を有するか否かで区別することになるのではないか。

参考 最高裁昭和43年10月3日判決
http://www.courts.go.jp/search/jhsp0030?hanreiid=66440&hanreiKbn=02
被害者の遺族が受領した香典を損害額の算定にあたり控除することの要否
「被上告人BがDの葬式費用として原判示の支出をしたことは、原判決挙示の証拠に照らし肯認することができるし、右費用は、その額その他原審認定の諸般の事情に徴し、社会通念上不相当な支出とは解されない。そして、遺族の負担した葬式費用は、それが特に不相当なものでないかぎり、人の死亡事故によつて生じた必要的出費として、加害者側の賠償すべき損害と解するのが相当であり、人が早晩死亡すべきことをもつて、右賠償を免れる理由とすることはできない。また、会葬者等から贈られる香典は、損害を補填すべき性質を有するものではないから、これを賠償額から控除すべき理由はない。叙上の点に関する原審の判断には何らの違法もなく、論旨は採用するを得ない。」


 そして今回の場合、通常は,一人一人の義捐金の出捐者は,特に原発事故の被災者の損失の補填のためという趣旨でお金を出したということは考えにくい。せいぜい今回の大地震に起因する全ての被災者に対する慰謝激励のための見舞金の趣旨で出したのであろうから,それが特に原発事故の損失填補に充てられることを意図したものとは言いにくく,原発被害の損害填補の趣旨・性質を有するものとはいえず,損益相殺の対象とはならないと考えるのが妥当だと思われる。
 この場合,地震津波の被災者は義援金のみ,原発被害者はおそらく義援金と賠償金の両方を得られることになるが,後者は加害者のいる人災なので仕方がないとも考えられる。
〔もとの出捐者が原発事故の被害者分については義捐金を出す意図はなかった場合は,義捐金分配委員会のようなものは,もとの趣旨がある程度はっきりしている限り,その趣旨を汲むべきであろうが,そうでない場合は,分配者(分配委員会)の裁量ということになろう。仮に,分配委員会が,敢えて原発被害の損失填補のために分配したとすると,その求償を巡っては複雑な問題が生じるし、かといって,求償がないとなると東電が,その分の賠償を免れ,これでは義援金を出した人達は,東電を支援するためにお金を出した結果となってしまい不当なので,おそらく価値判断的にも裁判所は,損益相殺を認めることはなかろう。〕


※なお,第三者ではなく,加害者が被害者に見舞金を支払っていた場合については,判例は,金額が社会儀礼の範囲内なら損害填補の趣旨のものではなく,損益相殺対象とはならなず,それを超えた高額なものについては,超えた分は損益相殺の対象となるという立場だと思われる(大阪地判平5.2.22 交民26-2-233,神戸地判平5.3.10 交民26-2-329)。
〔社会儀礼の範囲内について考えてみると,たとえば被災者が,一世帯数十万円受けとることができたとしても,その額は高額ではあるが,義援金を出した側も多数にのぼり,普通は少額の出捐分が集積したものだろう。また,一人で一億円義援金を出した人がいたとしても,多数の被災者に分割支給される段階で少額なものになろう。したがって,大規模災害によって膨大な数にのぼる被災者に対する義援金のようなものが,社会儀礼の範囲を超えた高額なものになるようなことはほとんど無いのではないか。〕

※また,義捐金を出した人は,特に強制されることなく自らの意思で出したのであって,それが出捐者の損害になるということはない。

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〔義援金と生活保護との関係〕
 義援金と生活保護との関係については,このような通達がある。
 http://genbaihou.blog59.fc2.com/blog-entry-149.html
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社援保発0502第2号
平成23年5月2日
各 都道府県 指定都市 中核市 民生主管部(局)長 殿
厚生労働省社会・援護局保護課
東日本大震災による被災者の生活保護の取扱いについて(その3)
1 義援金等の生活保護制度上の取扱いについて
義援金等の生活保護制度上の収入認定の取扱いは、「生活保護法による保護の実施要領 について」(昭和36年4月1日厚生省発社第123号厚生事務次官通知)第8の3の (3)のオに従い、「当該被保護世帯の自立更生のために当てられる額」を収入として認定しないこととし、その超える額を収入として認定すること。
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 要するに,義援金については,被保護世帯の自立更生のために当てられる額までは,収入認定されず,それを超える部分は収入認定される。収入認定された場合は,その分は支給額から差し引かれる。
 そして,具体的にどの部分までが,「自立更生のために当てられる額」といえるのかは,下記通達などを手がかりに,個別に検討するということになろう。
http://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/2r9852000001bd6k-img/2r9852000001be5y.pdf


 


2011-07-07 : ■3条1項本文の責任 : コメント : 0 : トラックバック : 0
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■3条1項本文の賠償責任 その10 危険負担との関係

■3条1項本文の賠償責任 その10 危険負担との関係


〔売買契約等以外の場合〕

 避難地域等の原発事故被災地内で,他人の物を預かって修理や洗濯などをする商売をしている人が,放射能汚染等で預かった品物を客に返却できなくなったような場合どうなるのか。自動車やバイクの修理や,衣類のクリーニングなどが考えられる。これらの対象となる品物は,普通は,特定物なので,以下のような危険負担の問題となろう。

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民法
(債権者の危険負担)
第五百三十四条  特定物に関する物権の設定又は移転を双務契約の目的とした場合において、その物が債務者の責めに帰することができない事由によって滅失し、又は損傷したときは、その滅失又は損傷は、債権者の負担に帰する。
2  不特定物に関する契約については、第四百一条第二項の規定によりその物が確定した時から、前項の規定を適用する。

(債務者の危険負担等)
第五百三十六条  前二条に規定する場合を除き、当事者双方の責めに帰することができない事由によって債務を履行することができなくなったときは、債務者は、反対給付を受ける権利を有しない
2  債権者の責めに帰すべき事由によって債務を履行することができなくなったときは、債務者は、反対給付を受ける権利を失わない。この場合において、自己の債務を免れたことによって利益を得たときは、これを債権者に償還しなければならない。

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以下,

店舗経営者A
物を預けた客B
加害者東電C
保険会社D

とする。

 なお,民法の危険負担の規定は任意規定であり,特約によって排除しうるので,原則として契約条項が優先する。ただし,消費者の利益を一方的に害するようなものは,消費者契約法10条により,無効とされる場合がある。


 まず,最初に挙げたような例だと,その契約は,おそらく請負と寄託の混合契約であり,物権の設定や移転を目的とするものではないので,民法534条1項ではなく,同法536条1項の問題となるはずある。

 つまり,「当事者双方の責めに帰することができない事由によって債務を履行することができなくなったときは、債務者は、反対給付を受ける権利を有しない」とされ,店舗経営者Aは,その品物について受寄者としての返還義務は履行不能で免れ,賠償義務も負わない。また,客Bは修理代やクリーニング代等の対価を店Aに支払う義務がなくなる。既に支払っている場合は,客Bは店Aに対して修理代やクリーニング代の返還請求ができる。
(※なお,修理や洗濯が終了しているのに,客Bが永らく品物を取りに来ない間に原発事故で被災してしまった場合は,当事者双方に責めに帰すべき事由がない場合とはいえず,「債務者は、反対給付を受ける権利を失わない」(民法536条2項本文)とされ,客Bとしては,修理代やクリーニング代の支払いを免れかれないかもしれない。この場合は物の時価が修理や洗濯で多少は上がっているだろうから,客Bは加害者Dへの損害賠償を請求する際に,その金額の算定時に考慮して請求するということになろう。)


 結局,原発事故による汚染で,

・店舗Aは,修理やクリーニングの代金を受け取ることができず,その分の営業損害を被ったことになり,

・客Bとしては,その品物の財物としての価値(原則として時価)分の損害を被ったことになる。

 そしてAやBは,こられ自己の被った損害を加害者東電Cに請求するということになる。


また店Aが,預かり物の汚損について,保険金を得ていたような場合には,客Bは,店Aに対して,その保険金について,代償請求権(民法536条2項但書類推)を有することになる場合がある。

 なお,保険会社Dが店Aに品物の汚損について保険金を支払っていたような場合には,民法422条類推,保険法25条等で,客Bから加害者Dへの賠償請求権は,B→A→Dと移転するはずである。





〔売買契約等の場合〕

 原発事故前に土地建物の売買契約を締結したが,その後,引き渡しを受ける前に,その物件が被災して,汚染で避難地域に入り、住めなくなった場合。

不動産売り主A
不動産買い主B
加害者東電C

 条文の文言からいえば,民法534条1項の債権者主義の適用によって,売り主は,その物件を汚染されたまま引き渡せば足り(民法483条),買い主は,代金全額を支払う義務があるということになるが,通常は,契約約款に,引き渡し時までは,売り主が危険を負担する旨の条項が入っているので,上の例では,買い主は売買代金の支払い義務を免れるということになる。また,このような契約約款がなくても,双務契約における対価的牽連関係から,当事者の合理的意思解釈などによって,債権者主義(民法534条1項)の適用が制限される。

 したがって,通常は,最終の代金の支払い,物件引き渡し,移転登記申請が同一決済日になされ,その日に所有権が移転し,そこまでは売り主(債務者)が危険を負担すると考えられる。

 放射性物質で土地建物が汚染されてしまい住むことができなくなると,売り主A側の物件の引き渡し義務が履行不能により消滅し,また買い主Bの代金支払義務も消滅する。Bが手付け等を支払っていた場合は,その返還をAに請求することができる。

 なお,普通は、契約約款によって,売り主Aに帰責性なくとも引き渡しまでに契約の目的が達成できないような場合には,買い主Bは契約解除できるとする規定があって,買い主からの解除により,双方がその債務から免れることになる。

 したがって,先の例では,売り主Aが,そのまま物件の所有者として,その財物の汚損や価値の低下等による損害を,加害者Cに請求することになる。



〔転売利益〕
 買い主Bが,その物件を手に入れて,転売することによって得られたであろう利益については,原発事故と相当因果関係が認められれば,Bの損害として認められる余地がある。
 ただし,契約当事者であるAB間の債務不履行に基づく損害賠償請求事案の場合ならまだしも,個々の取引の転売利益を問題とする限り、契約当事者でない第三者Cの故意ではない不法行為の場面では,かなり困難かも知れない。

 この問題については,事実行為による債権侵害のところで少し触れた。故意による不法行為のような場合でなければ,原則として無理ということだろう。

 事実行為による債権侵害の事案で,不法行為による賠償責任の成立を「故意」ある場合に限定するのは以下のようなものの考え方が基礎にあるのだろう。

 たとえば,AB間の売買契約時に,既に仕入れより高い額での転売先が決まっていたなど,最初から転売目的の購入で,値上がりが相当確実であったといえるような場合には,「損害」の立証はできるかもしれない。
 ただし,判例通説的理解だと,原発事故とBの転売利益分の損害との間に「相当因果関係」が必要とされる。
 そしてCが他人Aの物を壊した場合〔放射能で汚損した場合〕に,その物を購入しようとしていた人Bがたまたまいて,そのBに転売利益分の損害を与えるという結果は,一般にそうなるというものではなかろうから,通常損害とはいえないだろう。
 したがって,加害行為と相当因果関係のある損害といえるには,特別損害として,加害者側に,特別事情の予見可能性が必要となる。
 そして,先の例だと,放射性物質をまき散らした加害者Cにとっては,AB間の売買契約時に,仕入れより高い額での転売先が決まっており,値上がりが相当確実であったというような特別の事情など,普通は知りようもなく,特別事情の予見可能性は認められないはずである。
 そして例外的に,予見可能性がある場合としては,Cに故意があって,放射性物質をまき散らす前にAB間の事情等を充分に知っていたような場合であろう。
 結局,これは加害者Cが,故意で加害行為をなしたことが前提となろう。
〔ただし、原発事故で、人の住む町村について広大な避難等地域を作り出した場合、個々の取引の転売利益は予見不能であっても、当該地域内に不動産業者が存在し、他の商売をしている業者と同様に、その営業が不能になることによって減収等の損害を被ることは予見可能といえるだろうから、休業等による業者の減収分は営業損害として賠償の対象とはなるであろう。〕



 このように考えると,債権侵害による不法行為の成否問題も,より大きくみればこちらで述べた①直接の被害者の被った1つの損害を,最終的に加害者にどのように負担させるかという調整の問題と,②直接の被害者が被った損害とは別に,直接の被害者と一定の社会的関係にある主体自身に生じた固有の損害(支出を強いられたり,得られたはずの利益が得られなかったり)を,どこまで加害者に負担させるかという問題の一類型であり,上の転売利益の問題などは,後者②の間接被害者の固有損害に関する,特別事情の予見可能性問題の一類型といえよう。

 
 そして故意も過失も問題とならない原賠法で,この種の事案について,この「予見可能性」というものをどのように認定していくのかは,今のところ理論的にも,価値判断的にも,ちょっと予測困難としかいいようがない。
 そもそも原賠法の問題でなくとも,相当因果関係説において,特別損害に関する特別事情の「予見可能性」については,故意不法行為はまだしも,過失や無過失責任の場合に,それをどのように問題として,どのように認定していくのか,不明である。
 最近は,あまり勉強していないが,おそらく学説は,因果関係論について,そもそも保護範囲説(義務射程説),危険性関連説などが有力で,相当因果関係説を前提とする,故意のない不法行為についての「特別事情の予見可能性」の認定論など,そもそも擬制的に過ぎて余り論じていないのではないか。
 判列も,その認定について統一的に整理された何かメルクマールのようなものはなく,裁判における判断の予測可能性が乏しいところである。

 なお,過失による不法行為での特別事情の予見可能性については,こちらでも論じた。


2011-07-06 : ■3条1項本文の責任 : コメント : 0 : トラックバック : 0
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■3条1項本文の賠償責任 その9 雇用保険法に基づく給付との関係

■3条1項本文の賠償責任 その9 雇用保険法に基づく給付との関係


 下記通達にあるとおり,震災や津波ではなく,福島原発事故により,避難等指定地域にあたり、休業や就労不能に陥った場合にも,雇用保険法により,失業給付や雇用調整助成金等を受けられる。ただし、雇用調整助成金については、経済上の理由による事業活動縮小が条件。

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http://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/2r98520000016n92-img/2r98520000016s6m.pdf
職保発0328第1号
平成23年3月28日
都道府県労働局職業安定部長 殿
厚生労働省職業安定局 雇用保険課長

 福島原子力発電所の影響を踏まえた「激甚災害法の雇用保険の特例措置」の取扱いについて

「激甚災害法の雇用保険の特例措置」について、福島原子力発電所の影響により、避難指示地域及び屋内退避指示地域にある事業所が事業を休業するに至り、その労働者が、就労することができず、賃金を受け取ることができない場合には、この特例措置の対象となるものであること。
このため、各都道府県労働局においては、福島原子力発電所の避難指示地域及び屋内退避指示地域の事業主及び被災者等に対して、この特例措置に関する周知や相談等をはじめとして適切な支援を実施していただくよう、よろしくお願いする。
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http://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/2r9852000001a4gt-img/2r9852000001a8bq.pdf
職開発0422第1号
職保発0422第1号
平成23年4月22日
都道府県労働局職業安定部長 殿
厚生労働省職業安定局
雇 用 開 発 課 長
雇 用 保 険 課 長

福島原子力発電所の影響を踏まえた「雇用調整助成金」及び「激甚災害法の雇用保険の特例措置」の取扱いについて

 雇用調整助成金については、福島原子力発電所に係る「避難指示地域」(現在の「警戒区域」)及び「屋内退避指示地域」に所在する事業所が当該指示を理由として休業等を実施した場合については、経済上の理由に当たらないことから、雇用調整助成金の助成対象とはならないところである。
 また、「激甚災害法の雇用保険の特例措置」に関して、福島原子力発電所に係る「避難指示地域」及び「屋内退避指示地域」についての取扱いについては、平成23年3月28日付け職保発0328第1号『福島原子力発電所の影響を踏まえた「激甚災害法の雇用保険の特例措置」の取扱いについて』により通知したところである。
 今般、4月22日(金)より、福島原子力発電所について新たに「計画的避難区域」及び「緊急時避難準備区域」が設定されたことに伴い、下記のとおり取り扱うこととするので、遺漏のないようよろしくお願いする。



第1 雇用調整助成金について
1.「計画的避難区域」について
 「計画的避難区域」とは、概ね1ヶ月を目処に計画的に避難することが求められる区域であることから、当該区域に所在する事業所については、雇用調整助成金の助成対象とはならない
 なお、計画的な避難を実施するまでの間事業活動を継続し、その間に事業活動が縮小した場合であっても、1ヶ月後を目途に避難を求められ事業を行うことができなくなることが明確であることを踏まえ、「計画的避難区域」の指定を受けた以後に行われた休業等については、雇用調整助成金の助成対象とはならない。
 ただし、計画的避難地域に指定される前に雇用調整助成金の利用を開始した事業所については、引き続き利用することができることに留意すること。
2.「緊急時避難準備区域」について
 「緊急時避難準備区域」とは、常に緊急時の屋内退避や避難が可能な準備をしておくことが必要とされる区域であり、当該区域に所在する事業所であっても事業活動を継続することができることから、当該地域の指定を受けた後に、経済上の理由により事業活動が縮小し休業等を実施した場合等、雇用調整助成金の支給要件を満たす事業所については、雇用調整助成金の助成対象となる
 ただし、「緊急時避難準備区域」においては、子供、妊婦、要介護者、入院患者は立ち入らないことが求められる区域とされていることから、こうした者を主な利用客とする事業所等(学習塾、病院等)については、「緊急時避難準備区域」に指定されたことにより事業活動が縮小されたと見なすべきであり、経済上の理由に当たらないことから、雇用調整助成金の助成対象とはならない
3.上記以外の地域について
 以前に「屋内退避指示地域」であって、4月22日(金)に上記1、2のいずれの区域にも指定されなかった地域に所在する事業所については、雇用調整助成金の対象となるが、屋内退避指示が解除された以後に経済上の理由により事業活動が縮小した場合に限られることに留意すること。
 このため、平成23年3月17日付け職発第0317第2号「東北地方太平洋沖地震等の発生に伴う雇用調整助成金の特例について」の第2の6については、計画届を事前に届け出たものと取り扱ったとしても、屋内退避指示が解除されるまでの間の事業活動の縮小については経済上の理由と認められないことに留意すること。

第2 雇用保険の特例措置について
1. 「計画的避難区域」及び「緊急時避難準備区域」とされた地域にある事業所が事業を休業するに至り、その労働者が、就労することができず、賃金を受け取ることができない場合には、雇用保険の特例措置の対象となること。
2. これまで「避難指示地域」及び「屋内退避指示地域」ではなかった地域で、「計画的避難区域」及び「緊急時避難準備区域」とされた地域については、本日(4月22日(金))以後の休業について、雇用保険の特例措置の対象となること。
3. これまで「屋内退避指示地域」とされていた地域で、「計画的避難区域」または「緊急時避難準備区域」とされなかった地域についても、当分の間の経過措置として、この地域にある事業所が事業を休業するに至り、その労働者が、就労することができず、賃金を受け取ることができない場合には、雇用保険の特例措置の対象となること。

第3 その他
 上記の取扱いについては、別紙も参照しつつ、雇用調整助成金と雇用保険の特例措置を必ずセットにして周知や説明を行うこと。

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 雇用保険法に基づく給付の財源は,今のところ13.75%は国庫負担があるが,その余は事業主と労働者の負担によるものである。


雇用保険の目的は,以下のとおり。
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雇用保険法
第1条 雇用保険は、労働者が失業した場合及び労働者について雇用の継続が困難となる事由が生じた場合に必要な給付を行うほか、労働者が自ら職業に関する教育訓練を受けた場合に必要な給付を行うことにより、労働者の生活及び雇用の安定を図るとともに、求職活動を容易にする等その就職を促進し、あわせて、労働者の職業の安定に資するため、失業の予防、雇用状態の是正及び雇用機会の増大、労働者の能力の開発及び向上その他労働者の福祉の増進を図ることを目的とする。
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 雇用保険は,このように多様な目的を有するが,失業給付などは,その支給された金員は,通常は,生活の安定のために生活費として費消されるから,実質的には,原発事故による休業失職等で得られなかった収入(逸失利益)の填補と同様の効果をもつことになる。


 しかし,雇用保険法は,労災保険法(労働者災害補償保険法)とは異なり,以下のような第三者加害の場合の調整規定が存在しない。
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労働者災害補償保険法
第12条の4 政府は、保険給付の原因である事故が第三者の行為によつて生じた場合において、保険給付をしたときは、その給付の価額の限度で、保険給付を受けた者が第三者に対して有する損害賠償の請求権を取得する。
 2 前項の場合において、保険給付を受けるべき者が当該第三者から同一の事由について損害賠償を受けたときは、政府は、その価額の限度で保険給付をしないことができる。
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 また,雇用保険法には,生活保護法のような受給者からの返還に関する規定も存在しない。
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生活保護法
(費用返還義務)
第六十三条  被保護者が、急迫の場合等において資力があるにもかかわらず、保護を受けたときは、保護に要する費用を支弁した都道府県又は市町村に対して、すみやかに、その受けた保護金品に相当する金額の範囲内において保護の実施機関の定める額を返還しなければならない。
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 このため,

・加害者東電から見れば,賠償請求に対して損益相殺できないか,
・支給する保険者側からみると東電に求償請求できないか,
・被害者からすれば,失業給付を受けたもの以外に,東電から休職失職を強いられたことによる減収分の損害(逸失利益)について満額の賠償を受けることができるのか

が問題となる。

 この種の問題についての基本的な考え方については,こちらで述べた。
 http://genbaihou.blog59.fc2.com/blog-entry-150.html

 結局,給付が直接の被害者の損害填補の目的を有しているか,また,加害第三者との関係での調整規定が存在するかなどを考慮して,①直接の被害者の被った1つの損害を,最終的に加害者にどのように負担させるかという調整の問題なのか,②直接の被害者が被った損害とは別に,直接の被害者と一定の社会的関係にある主体自身に生じた固有の損害を,どこまで加害者に負担させるかという問題かを区別することになろう。

 この点,交通事故の事案で,雇用保険による給付分を,損益相殺で考慮してよいかが争われた裁判では,損益相殺は許されないとする下級審判例がいくつかある(神戸地判昭和45.11.18,交民3-6-1788,東京地判昭和47.8.28,判タ285-179,福井地判昭和48.12.24,交民6-6-1937)。

 東京地裁昭和47年8月28日判決(判タ285-179)
「思うに、失業保険が、事実上、失業による被保険者の損害を軽減する作用を有することは、否定しえないところであるが、法律上は、失業した被保険者の生活の安定を図る(失業保険法1条参照)会社保障制度の一種であり、その支給される保険金の日額も、具体的な損害の有無、程度のいかんを問わず、当該被保険者の賃金日額の60パーセントを基準とし、しかも、その最高額が1,400円(昭和45年8月1日以降は改正により1,800円)におさえられている(同法17条参照)ことからみて、それは失業による被保険者の損害の補填を目的とするものではないというべく、また、技能習得手当も、失業保険制度の一環として、失業保険金の受給資格者が公共職業安定所の指示した公共職業訓練を受ける場合に支給される(同法25条参照)ものであって、失業保険金と全く同一趣旨の給付金である。それ故、被告らの右抗弁は、失業保険金等の給付原因が本件事故と相当因果関係に立つかどうかの点を審究するまでもなく、採用に由ないものというほかはない。」


 いまのところ下級審の判例しかないが,概ね,判例は,失業給付が損害填補の趣旨のものではないこと,雇用保険法(旧失業保険法)に第三者加害での調整規定が存在しなこと,その財源が国と労使との負担によるものであること,などから損益相殺の対象にはならないとしている。

 したがって,東電が,被害者の受け取った失業給付をもって,損益相殺の主張をしても認められないこととなろう。そして被害者は,失業給付分を受け,さらに,失職休職による減収分の逸失利益全部の賠償を受けることが可能となろう。


 このため雇用保険の保険者(政府)による失業保険の支給分について,東電への求償(被害者の損害賠償請求権の代位取得)という問題はなく,あるとすれば,保険者自身の固有の損害ということになる。


 これを保険者の固有の損害として,東電に請求しうるかは,生活保護費増大での自治体の損害と似た問題であって,原発事故と相当因果関係のある損害といえるのか,予見可能性の有無等が問題となるのかもしれない。


 もっとも,生活保護は,何かの掛け金を支払った対価としての性格を有しないし,保険のように入る入らないという問題はない。これに対して,雇用保険は入っていない事業者もあり得るし,被保険者の要件を満たない労働者もいる。そして,保険者側の固有の損害についても賠償義務ありとすると,たまたま労働者が雇用保険の被保険者であったら,加害者は労働者と保険者に二重に賠償することになり,雇用保険の被保険者に該当しない場合は,労働者に対する逸失利益の賠償のみで足りるということになる。この結論が妥当でないという判断もあろう。〔相当因果関係が無い?。だたし、予見可能性の問題とすると、こちらで論じたのと同じで、何万人もの労働者から同時に仕事を奪えば、このくらいのことは起きるだろうことは当然に予見できてしまうのをどうするか?〕



 なお、生活保護も雇用保険も法律があって、前者は加入を前提としない義務だし、後者も一定の要件を満たせば使用者に加入義務があって、保険者側の選択権もない。これに対して民間の損害保険は、入る方も保険会社側も自由に契約するという違いがある。このため保険者が民間の保険会社であって,損失填補の意味のない上乗せ分の保険であった場合などは,以下の判例のように損益相殺の対象とはならないが(そもそも原発事故については通常は約款で免責となろうが、)、その部分を保険会社独自の損害として加害者に賠償を強いるのは過酷であって〔予見可能性が無いとして?〕,加害行為との相当因果関係は,当然否定されるであろう。

〔参考〕最高裁昭和55年5月1日判決,判時971-102
 生命保険契約に附加された特約による給付金と商法六六二条の適用の有無について
「生命保険契約に付加された特約に基づいて被保険者である受傷者に支払われる傷害給付金又は入院給付金は、既に払い込んだ保険料の対価としての性質を有し、たまたまその負傷について第三者が受傷者に対し不法行為又は債務不履行に基づく損害賠償義務を負う場合においても、右損害賠償額の算定に際し、いわゆる損益相殺として控除されるべき利益にはあたらないと解するのか相当であり(最高裁昭和四九年(オ)第五三一号同五〇年一月三一日第三小法廷判決・民集二九巻一号六八頁参照)、また、右各給付金については、商法六六二条所定の保険者の代位の制度の適用はないと解するのが相当であるから、その支払をした保険者は、被保険者が第三者に対して有する損害賠償請求権を取得するものではなく、したがつて、被保険者たる受傷者は保険者から支払を受けた限度で第三者に対する損害賠償請求権を失うものでもないというべきである。」
 
 なおこの判例は,生命保険の付加特約に基づく給付金について,保険代位(旧商法662,現保険法25条)を否定し,また加害者からの損益相殺も否定しているが,それを支払った保険会社固有の損害については特に論じていない。

2011-07-04 : ■3条1項本文の責任 : コメント : 0 : トラックバック : 0
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■3条1項本文の賠償責任 その8 各種社会保障制度等との関係 考え方

■3条1項本文の賠償責任 その8 各種社会保障制度等との関係 考え方


 今回のような大規模な原発事故が起きると,それが自然災害だけなら求償請求の相手がいないので問題も少ないだろうが,原発事故では原子力事業者という加害者が存在するため,被害者の損害賠償請求権と求償との関係が問題となることがあろう。

 第三者加害の事案について,生活保護等の公的扶助、その他社会福祉事業との関係,労災保険・雇用保険・医療保険等の社会保険との関係,民間の任意保険との関係など,多数の制度との関係が問題となりうる。


〔考え方〕
A 被害者(原発事故被害者)
B 加害者(原子力事業者)
C 支給者(国,自治体,事業主,基金,共済組合,保険組合,保険会社等)


1 A→Bの関係
 損害賠償請求

2 B←Aの関係
 損益相殺(支給のあった範囲内で賠償をしなくていいということ)

3 A→Cの関係
 給付金,保険金等の請求

4 C→Aの関係
 控除や免責(賠償があった範囲内で支給をしなくていいということ)

5 B→Cの関係
 なし

6 C→Bの関係
 求償請求(CによるAの損害賠償請求権の取得,代位)


 主として問題となるのは,上のうち,2損益相殺の可否,3控除の可否,6求償の可否である。

 これらの問題に共通する観点は

ア 被害者の損失の二重填補は防ぎたい。二重取りは不当。
イ たまたま保険等の給付があったからといって,それで加害者が賠償を免れることになるのは不当


 そして,これら問題について,法律,規則等があればそれに従えばよい。また,任意保険等で,被害者Aと支給者Cとの契約があれば,その内容に従えばよい。それ以外の場合は,判例や通達等を手かがりに考えていくしかない。
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〔労災保険関係〕労働者災害補償保険法12条の4,原賠法改正付則4条,原子力損害の賠償に関する法律施行令3条,国家公務員災害補償法6条,裁判官災害補償法1条,地方公務員災害補償法59条,公立学校の学校医等災害補償法7条,非常勤消防団員等に係る損害補償の基準を定める政令18条
〔医療保険関係〕健康保険法57条,国民健康保険法64条,船員保険法45条,国家公務員共済組合法48条,地方公務員等共済組合法50条,私立学校教職員共済法25条,高齢者の医療の確保に関する法律58条,介護保険法21条
〔年金関係〕国民年金法22条,133条,厚生年金保険法40条
〔その他〕災害救助法施行令22条,保険法25条
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上の2の損益相殺の可否の問題については,以下のような観点が重要と思われる。
①その支給者からの支給が,被害者の損害填補の性質を有するものか否か,あるいはその他(福祉目的など)の趣旨か。なお,趣旨が混在している場合もありうる。
※厳密には,精神的損害の填補か,財産的損害の填補か,また,積極損害の填補か,消極損害の填補か否かなど,損害填補としてもその給付の趣旨の違いによっても,損益相殺の可否が分かれる(自賠責保険や労災保険などの例)。
※なお,給付の趣旨と,給付の効果(実質的に損害填補の役割を果たしている場合)は,一応別の問題。
②被害者(受給者)が支給者への返還義務負うか(生活保護法63条のような場合)
③支給者から加害者への代位請求に関する調整規定が存在するか否か
④掛け金を誰が支払っているか,支給の財源を誰が負担しているか。

上の3の控除,免責の可否の問題については,以下のような観点が重要と思われる。
①各種制度の趣旨,支給の性質。損害填補のための支給か否か

上の6の求償の可否の問題については,以下のような観点が重要と思われる。
①各種制度の趣旨,支給の性質。損害填補のための支給か否か
②掛け金を誰が支払っているか,支給の財源を誰が負担しているか。


※被害者が不法行為によって損害を被ると同時に,同一の原因によって利益を受ける場合には,損害と利益との間に「同質性」がある限り,公平の見地から,その利益の額を被害者が加害者に対して賠償を求める損害額から控除することによって損益相殺的な調整を図る必要がある(最高裁平成5年3月24日大法廷判決・民集47巻4号3039頁)



 一般論として言えることは,お金の動きが被害者の損害填補目的の場合は,論理的には,損害は被害者の被ったもの1つとして,その最終負担をどうするかという問題であり,その調整としては,

・支給先行なら,Aからの損害賠償請求についてBは損益相殺可,そしてCからBへの求償可。
・賠償先行なら,Aからの支給請求に対してCは控除可。

という関係になろう。当然加害者Bが最終的に負担。



 これに対して,中には,その趣旨(福祉目的など)から,加害者Bからの損益相殺の主張は認められず,しかも,支給者Cの控除,免責も認められないような場合,つまり被害者Aが二重に受給することになっても仕方がないような場合もありうる。
 この場合は,Cが給付金等を支出したからといって,Bがその範囲でAへの賠償義務を免れることもないので,求償の問題〔CがAの有していたBに対する損害賠償請求権を支給額の範囲で取得する〕とはならないはずである。

 これは結局,支給者Cの固有の損害の問題であって,この損害を,その原因を作り出した加害者Bに対して,直接的に賠償請求ができるのかという問題であろう。


 考えられるのは,

・生活保護費増大で国や自治体が負担した部分のうち生活保護法63条での返還を得られなかった部分→国,自治体の損害
・労災保険や雇用保険で,加害者Bの損益相殺も支給者Cの控除も認められない部分→保険者の損害

など

〔なお,支給者Cとしては,本来,免責や控除を主張できる場合に,その裁量で敢えて支給したために損失を出したような場合は,その損失を加害者Bに負担させることはできないこととなろう。〕



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 考えてみれば,間接被害者や,肩代わり損害,反射損害として論じられているものと同様で,①直接の被害者の被った1つの損害を,最終的に加害者にどのように負担させるかという調整の問題と,②直接の被害者が被った損害とは別に,直接の被害者と一定の社会的関係にある主体自身に生じた固有の損害(支出を強いられたり,得られたはずの利益が得られなかったり)を,どこまで加害者に負担させるかという問題があって,前者①は結論は決まっているので〔求償の法律構成など〕論理的,技術的に解決可能と思われるが,後者②は,以前にも論じた波及的に広がる二次的な損害をどこまで,加害者に負わせるのが妥当かという問題〔政策的価値判断の要素の強い法解釈の場面〕であって,判例通説的な理屈としては相当因果関係の「相当性」や,特別事情の予見可能性の問題として論じられることになろうが,その絞り方については,今のところ明確な指標のようなものはなく,裁判官の感覚に左右される部分があるかもしれない。

たぶん

・制度趣旨
・加害者側の故意過失等の主観的態様,過失の場合はその程度
・加害行為の態様
・間接被害者側がその損害をどの程度まで予見できるのかという問題や,そのリスク管理の可能性の程度など,間接被害者側に結果の発生拡大の回避をどこまで期待してよいかという観点
・広がる被害の大きさ
・支給財源がもともとどこに帰属していたか

などを考慮することになるのではなかろうか。


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〔予見可能性と原発事故の特殊性〕

 相当因果関係を考える場合に,その原因からその結果が生じることが一般通常人を基準に通常と言えるか否かという問題と,そうでない場合は,特別事情の予見可能性があったか否かが問題となる。

 仮に,加害者が,一人の被害者を害した場合,特に故意ではなく害したような場合には,通常は被害者側の具体的事情など知りようもなく,被害者との関係で派生する,その他の者〔間接被害者〕の損害は,通常損害といえないか,特別損害としても予見可能性が無いとして,多くは相当因果関係が否定されることとなろう。
 しかし,大規模原発事故のように,村や町,数十キロに及ぶ範囲での全ての活動を不可能ならしめるような場合は,その膨大な数の人のなかには,もともとの健康状態や経済状態等から,著しい影響を受けて各種社会保障制度等の対象となる者が出てきて,そのために国や自治体が支出を強いられることは通常起こりうることである。

 この問題は,以前に風評被害について検討した問題と似ていて,人ひとりの状況を見れば特異性(過剰な回避)があるが,莫大な数の人に影響を与えた場合には,その中に一定割合で特異な事情が含まれることが明白な場合があって,これを因果関係の相当性や,特別事情の予見可能性との関係でどう考えいくかという問題である。

 サイコロを一回振って「1」の目が出る可能性は6分の1であろうが,100回降って,一回も「1」の目が出ないということはほとんど考えにくい。あるいは、トランプでカードを一枚ランダムに引いて、ジョカーを引く確率は53分の1だが、カード全部を手にするとそこにジョーカーが含まれるのは確実ということ。つまり,数が少なければ起きる可能性は低いが,数が多ければ,論理的には通常ありえ,また予見可能としかいいようがないものをどう考えるかという問題。



2011-06-30 : ■3条1項本文の責任 : コメント : 0 : トラックバック : 0
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■3条の賠償責任の法的性質 その7 労災保険法との関係

■3条の賠償責任の法的性質 その7 労災保険法との関係

〔労働者災害補償保険法(労災保険法)との関係〕
 労働者災害補償保険法による給付請求と,原賠法による阻害賠償請求請求は,請求相手も違うし,原賠法付則に調整規定もあることから,当然に両立しうる。

 なお,東電と雇用関係のある従業員については,通常の労働災害とみることができ,他の協力会社(下請け等)の作業員,その他の者との関係では,第三者加害による労働災害とみることになる?。
〔※労働災害の中には,①使用者加害の場合,②第三者加害の場合,③自然力等の不可抗力による場合の3パターンあり,①②については求償等の問題がありえ,特に②については保険等のとの関係で使用者の「第三者」性などが問題となる。なお,原賠法との関係で言えば,東電が3条1項但書で免責されない限り③のパターンはない。〕



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●原賠法 付則
(他の法律による給付との調整等)
第四条  第三条の場合において、同条の規定により損害を賠償する責めに任ずべき原子力事業者(以下この条において単に「原子力事業者」という。)の従業員が原子力損害を受け、当該従業員又はその遺族がその損害のてん補に相当する労働者災害補償保険法(昭和二十二年法律第五十号)の規定による給付その他法令の規定による給付であつて政令で定めるもの(以下この条において「災害補償給付」という。)を受けるべきときは、当該従業員又はその遺族に係る原子力損害の賠償については、当分の間、次に定めるところによるものとする。
一  原子力事業者は、原子力事業者の従業員又はその遺族の災害補償給付を受ける権利が消滅するまでの間、その損害の発生時から当該災害補償給付を受けるべき時までの法定利率により計算される額を合算した場合における当該合算した額が当該災害補償給付の価額となるべき額の限度で、その賠償の履行をしないことができる。
二  前号の場合において、災害補償給付の支給があつたときは、原子力事業者は、その損害の発生時から当該災害補償給付が支給された時までの法定利率により計算される額を合算した場合における当該合算した額が当該災害補償給付の価額となるべき額の限度で、その損害の賠償の責めを免れる。
2  原子力事業者の従業員が原子力損害を受けた場合において、その損害が第三者の故意により生じたものであるときは、当該従業員又はその遺族に対し災害補償給付を支給した者は、当該第三者に対して求償権を有する。
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●社会保険庁通達
原子力損害の賠償に関する法律施行令の一部を改正する政令の施行について
(昭和五四年一一月一六日)
(庁保険発第一五号)
(各都道府県民生主管部(局)保険課(部)長あて社会保険庁医療保険部船員保険課長通知)
原子力損害の賠償に関する法律施行令の一部を改正する政令は、昭和五四年一一月一六日政令第二八○号をもつて公布され、原子力損害の賠償に関する法律の一部を改正する法律(昭和五四年法律第四四号)の施行の日(昭和五五年一月一日)から施行されることとなつたが、改正の趣旨及び改正内容のうち船員保険に関する事項は次のとおりであるので通知する。

第一 改正の趣旨
 今回の改正は、原子力損害の賠償に関する法律の一部を改正する法律の施行に伴い、原子力損害の賠償措置額を引き上げるほか、核燃料物質等の廃棄に係る賠償措置額を新たに定め、さらに原子炉の運転等により損害を賠償する責めに任ずべき原子力事業者(以下「原子力事業者」という。)の従業員が原子力損害を受けた場合、原子力事業者が当該従業員又はその遺族に対してなすべき損害賠償についてその調整の対象とする災害補償給付を定めるものであること。

第二 改正内容等
 原子力事業者に使用される船員保険の被保険者が原子力損害を受け、当該船員又はその遺族がその損害のてん補に相当する船員保険法の規定による職務上の事由による給付を受けたときは、原子力事業者はその給付の額を限度として賠償の責めを免れることができることとされたこと。
 ただし、職務上の事由による障害年金(船員保険法第四一条第二項の規定が適用された障害年金を含む。)及び遺族年金(同法第五○条ノ二第三項の規定が適用された遺族年金を含む。)の給付については、当該給付の額のうち国庫負担の対象とならない部分についてのみ原子力事業者は賠償の責めを免れることができるものであること。
 なお、原子力事業者に使用される船員保険の被保険者が原子力損害を受けた場合、その損害が第三者の故意により生じたものであるときを除き、当該船員又はその遺族に対してなした職務上の事由による給付については、当該第三者に対して求償できないものであること

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・通達はこちらコメント



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〔国家公務員,船員〕
 また,船員や,自衛隊員等の国家公務員の労災については,前記の原賠法付則4条1項の「その他法令の規定による給付」として,他の労災保険と同様の扱いとなる。

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●原子力損害の賠償に関する法律施行令(昭和三十七年三月六日政令第四十四号)
http://law.e-gov.go.jp/htmldata/S37/S37SE044.html
(災害補償給付)
第三条  法附則第四条第一項に規定する政令で定める災害補償給付は、次に掲げる給付とする。
一  国家公務員災害補償法 (昭和二十六年法律第百九十一号)の規定による給付
二  船員保険法 (昭和十四年法律第七十三号)の規定による給付であつて職務上の事由によるもの

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〔政府よる求償請求〕
※下請け等の協力会社の従業員等の労働災害について,これを第三者(東電)による加害行為と見た場合

・原子力事業者に対する求償
 原賠法に基づく請求が基礎にあるので,原子力事業者の故意過失に関係なく求償可
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労働者災害補償保険法
第12条の4 政府は、保険給付の原因である事故が第三者の行為によつて生じた場合において、保険給付をしたときは、その給付の価額の限度で、保険給付を受けた者が第三者に対して有する損害賠償の請求権を取得する。
 2 前項の場合において、保険給付を受けるべき者が当該第三者から同一の事由について損害賠償を受けたときは、政府は、その価額の限度で保険給付をしないことができる。
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なお,原子力事業者以外の者に対する求償は,故意ある者についてのみ可
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原賠法 付則
(他の法律による給付との調整等)
第4条2項  原子力事業者の従業員が原子力損害を受けた場合において、その損害が第三者の故意により生じたものであるときは、当該従業員又はその遺族に対し災害補償給付を支給した者は、当該第三者に対して求償権を有する。
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※求償の対象となるのは、災害発生後3年以内に支給事由が生じた保険給付(年金たる保険給付については、この3年間に係るものに限る。)とされる(昭和41年6月17日基発第610号)。




〔原賠法に基づく損害賠償請求時における,労災保険との損益相殺の可否〕

 労災保険の支給金の種類によってまちまち。一般的には,その支給が,性質上,労働者の損失填補のためのものは損益相殺可,福祉事業としての性質を有する場合は不可といえる。以下参考判例。

・最高裁平成8年2月23日判決,判時1560-91,コック食品事件
「労働者災害補償保険法(以下「法」という。)による保険給付は、使用者の労働基準法上の災害補償義務を政府が労働者災害補償保険(以下「労災保険」という。)によって保険給付の形式で行うものであり、業務災害又は通勤災害による労働者の損害をてん補する性質を有するから、保険給付の原因となる事故が使用者の行為によって生じた場合につき、政府が保険給付をしたときは、労働基準法八四条二項の類推適用により、使用者はその給付の価額の限度で労働者に対する損害賠償の責めを免れると解され(最高裁昭和五〇年(オ)第六二一号同五二年一〇月二五日第三小法廷判決・民集三一巻六号八三六頁参照)、使用者の損害賠償義務の履行と年金給付との調整に関する規定(法六四条、平成二年法律第四〇号による改正前の法六七条)も設けられている。また、保険給付の原因となる事故が第三者の行為によって生じた場合につき、政府が保険給付をしたときは、その給付の価額の限度で、保険給付を受けた者の第三者に対する損害賠償請求権を取得し、保険給付を受けるべき者が当該第三者から同一の事由について損害賠償を受けたときは、政府はその価額の限度で保険給付をしないことができる旨定められている(法一二条の四)。他方、政府は、労災保険により、被災労働者に対し、休業特別支給金、障害特別支給金等の特別支給金を支給する(労働者災害補償保険特別支給金支給規則(昭和四九年労働省令第三〇号))が、右特別支給金の支給は、労働福祉事業の一環として、被災労働者の療養生活の援護等によりその福祉の増進を図るために行われるものであり(平成七年法律第三五号による改正前の法二三条一項二号、同規則一条)、使用者又は第三者の損害賠償義務の履行と特別支給金の支給との関係について、保険給付の場合における前記各規定と同趣旨の定めはない。このような保険給付と特別支給金との差異を考慮すると、特別支給金が被災労働者の損害をてん補する性質を有するということはできず、したがって、被災労働者が労災保険から受領した特別支給金をその損害額から控除することはできないというべきである。」


※なお,損益相殺には,支給の確定を要する。以下参考判例。
・最高裁平成5年3月24日判決,判時1499-49
「損益相殺的な調整を図ることが許されるのは、当該債権が現実に履行された場合又はこれと同視し得る程度にその存続及び履行が確実であるということができる場合に限られるものというべきである。」




〔過失相殺と損益相殺の順序〕
 労災保険に関しては,過失相殺と損益相殺の適用順序については,まず過失相殺し、次に損益相殺するのが判例である。

・最判平成元年4月11日,判タ867-186
労働者災害補償保険法(以下「法」という。)に基づく保険給付の原因となつた事故が第三者の行為により惹起され、第三者が右行為によつて生じた損害につき賠償責任を負う場合において、右事故により被害を受けた労働者に過失があるため損害賠償額を定めるにつきこれを一定の割合で斟酌すべきときは、保険給付の原因となつた事由と同一の事由による損害の賠償額を算定するには、右損害の額から過失割合による減額をし、その残額から右保険給付の価額を控除する方法によるのが相当である(最高裁昭和五一年(オ)第一〇八九号同五五年一二月一八日第一小法廷判決・民集三四巻七号八八八頁参照)。けだし、法一二条の四は、事故が第三者の行為によつて生じた場合において、受給権者に対し、政府が先に保険給付をしたときは、受給権者の第三者に対する損害賠償請求権は右給付の価額の限度で当然国に移転し(一項)、第三者が先に損害賠償をしたときは、政府はその価額の限度で保険給付をしないことができると定め(二項)、受給権者に対する第三者の損害賠償義務と政府の保険給付義務とが相互補完の関係にあり、同一の事由による損害の二重填補を認めるものではない趣旨を明らかにしているのであつて、政府が保険給付をしたときは、右保険給付の原因となつた事由と同一の事由については、受給権者が第三者に対して取得した損害賠償請求権は、右給付の価額の限度において国に移転する結果減縮すると解されるところ(最高裁昭和五〇年(オ)第四三一号同五二年五月二七日第三小法廷判決・民集三一巻三号四二七頁、同五〇年(オ)第六二一号同五二年一〇月二五日第三小法廷判決・民集三一巻六号八三六頁参照)、損害賠償額を定めるにつき労働者の過失を斟酌すべき場合には、受給権者は第三者に対し右過失を斟酌して定められた額の損害賠償請求権を有するにすぎないので、同条一項により国に移転するとされる損害賠償請求権も過失を斟酌した後のそれを意味すると解するのが、文理上自然であり、右規定の趣旨にそうものといえるからである。」



2011-06-28 : ■3条1項本文の責任 : コメント : 0 : トラックバック : 0
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■3条の賠償責任の法的性質 その6 国家賠償法1条との関係

■3条の賠償責任の法的性質 その6 国家賠償法1条との関係

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〔国家賠償法〕
第一条  国又は公共団体の公権力の行使に当る公務員が、その職務を行うについて、故意又は過失によつて違法に他人に損害を加えたときは、国又は公共団体が、これを賠償する責に任ずる。
 2 前項の場合において、公務員に故意又は重大な過失があつたときは、国又は公共団体は、その公務員に対して求償権を有する。
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 国や公共団体において,原発事故前の関与(監督検査等)や,原発事故後の関与(避難指示,出荷制限その他)について,故意又は過失あった場合に,被害者が国や公共団体に対して,国賠法1条に基づき損害賠償することができないか。

 これについては,少なくとも次ぎの4つの問題があるように思う。

1 国への責任追及が,原賠法4条(責任集中の原則)との関係で許されるのか。

2 1で原賠法4条による国の免責を認めた場合でも,事後的関与(避難指示や出荷制限などの国の対応についての落ち度など)についても,4条の適用があるのか。

3 原賠法3条1項本文と国賠法1項との関係。

4 両立すると考えた場合の、両責任の関係、求償関係

1については,こちらで論じた。4条適用肯定,否定両方ありうる。
http://genbaihou.blog59.fc2.com/blog-entry-38.html

2については,こちらで論じた。4条適用肯定,否定両方ありうる。
http://genbaihou.blog59.fc2.com/blog-entry-129.html

4については、こちらで触れた。
http://genbaihou.blog59.fc2.com/blog-entry-61.html
共同不法行為(民法719条1項)、不真性連帯債務
共同不法行為者間の求償関係については、こちら



 ここでは,3について検討する。

 一般に,国賠法は,民法の不法行為規定の特則と理解されるので,民法より優先的に適用される。
------------------------------
〔国家賠償法〕
第四条  国又は公共団体の損害賠償の責任については、前三条の規定によるの外、民法 の規定による。
第五条  国又は公共団体の損害賠償の責任について民法以外の他の法律に別段の定があるときは、その定めるところによる。
------------------------------

 
 また,原賠法も,民法の不法行為規定の特則と理解されるので,民法より優先的に適用される。
----------------------------
・平成16年9月27日東京地裁判決(判タ1195号263頁)
 宅地販売業者が,売却予定で宅地造成中に,JCOの臨界事故が起き,予定価格での売却ができなかったとして,原賠法等を根拠に損害賠償請求した事例。 
「なお,原賠法2条2項,3条1項の「損害」を前提のように解する以上,原告が被告の「原子炉の運転等」以外を加害原因として主張していない本件においては,原賠法3条1項による無過失損害賠償責任と別個に民法709条による賠償責任が成立する余地はなく,原賠法3条に基づく請求(主位的請求)が認められない場合には,民法709条に基づく請求(予備的請求)も認められない。」
 なお,控訴審判決は,そのまま結論維持・平成17年9月21日東京高裁判決(判時1914号95頁)
・平成20年2月27日水戸地裁判決(判タ1285号201頁)
 JCO臨界事故関係。近隣住民が被爆及びPTSD等健康被害で,JCO及びその親会社住友金属鉱山に対して,主位的に民法709条,予備的に原賠法3条による損害賠償請求をした。
原賠法に規定する原子力損害の賠償責任は,原子力事業者に対して原子力損害に関する無過失責任を規定するなどした民法の損害賠償責任に関する規定の特則であり,民法上の債務不履行責任又は不法行為の責任発生要件に関する規定は適用を排除され,その類推適用の余地もないものであるから,本件事故による被爆と相当因果関係があるものとして損害賠償を請求する限りにおいては,原子力事業者に該当する被告JCOとの関係においても,民法上の不法行為に基づいて,賠償請求を認めることはできないというほかない。」
 なお,控訴審判決は,そのまま結論維持・平成21年5月14日東京高裁判決(判時2066号54頁)
------------------------------


 原賠法3条1項本文と国賠法1項との関係については,特に条文も判例も存在しないが,国賠法と民法,原賠法と民法との関係は,それぞれ同一の責任主体における同一事象についての適用関係の問題であるが,国賠法と原賠法との関係は,そもそも責任主体が「原子力事業者」と「国」という違いがある。
 特別法は一般法に優先するという原則は,そもそも同一事象について,特別な立法がされた場合は,当然にそちらを優先適用すべきという立法意思が明白なので,そちらを優先するというものだろう。
 したがって,責任主体が異なれば,同一の事象とは言えないだろうし,そもそも原賠法では「原子炉の運転等」を加害原因として類型化しているのに対して,国の関与としては,事前の監視監督や,事後の避難指示等の過失行為が問題となる。
 このように原賠法と,国賠法は,損害結果においては重なりうるが,その落ち度のある行為や責任主体において重ならないので〔事象としては別のことを問題としているので〕,原賠法3条1項の存在から,当然に国賠法1条が適用排除されるということはないのではないか。

 結論としては,原賠法4条による国の免責の有無のみが問題となり,国の行為について原賠法4条適用を否定する立場では,国に落ち度があった場合,被害者から国への国賠請求が可能となるのではないか。

 なお国営の原子炉については,国=原子力事業者となり,原賠法が優先的に適用され,同法23条は,それを前提とする規定と思われる。

〔国賠法での賠償義務と,原賠法16条の国の援助との関係も問題となろうが,おそらく16条の「援助」は厳密には国の法的義務とまでは言えないものだろうから無関係。※我妻栄「原子力二法の構想と問題点」ジュリスト236号8頁,「援助するとはいってはいるものの具体的に政府の義務とはされていない。事業者に資力がなく被害者に充分の賠償をすることができなくとも国会が権限を与えなければどうにもならない,ということである。」〕


2011-06-27 : ■3条1項本文の責任 : コメント : 0 : トラックバック : 0
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■3条の賠償責任の法的性質 その5 民法415条(債務不履行責任)との関係

■3条の賠償責任の法的性質 その5 民法415条(債務不履行責任)との関係


 原子力事業者の従業員が,原発事故処理作業中に,会社側の被曝管理がずさんなために,限度を超えた被曝をしてしまい健康被害が生じた場合,当該従業員が,原賠法3条1項本文に基づく損害賠償請求を,原子力事業者に対してなしうることは当然として,それ以外に会社側の雇用契約上の安全配慮義務違反(最高裁昭和50年2月25日判決,労働契約法5条)を理由に民法415条に基づく損害賠償請求をなしうるのかという問題がある。


〔考え方〕
 以下のような判例がある。
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・平成20年2月27日水戸地裁判決(判タ1285号201頁)
 JCO臨界事故関係。近隣住民が被爆及びPTSD等健康被害で,JCO及びその親会社住友金属鉱山に対して,主位的に民法709条,予備的に原賠法3条による損害賠償請求をした。
「原賠法に規定する原子力損害の賠償責任は,原子力事業者に対して原子力損害に関する無過失責任を規定するなどした民法の損害賠償責任に関する規定の特則であり,民法上の債務不履行責任又は不法行為の責任発生要件に関する規定は適用を排除され,その類推適用の余地もないものであるから,本件事故による被爆と相当因果関係があるものとして損害賠償を請求する限りにおいては,原子力事業者に該当する被告JCOとの関係においても,民法上の不法行為に基づいて,賠償請求を認めることはできないというほかない。」
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 上の判決の事例では,原告は民法709条での損害賠償を主位的に求めたにすぎず,なぜ裁判所が「債務不履行責任」の責任発生要件に関する規定について適用排除と論じているのか不明である。
 そもそも,原賠法が,民法の不法行為規定の特則であることは立法過程の段階から,何度も言及されているが,債務不履行責任を含む民法の損害賠償責任一般についての特別法であると論じたものは見たことがない。
 この判決も結論においては,民法の不法行為規定の適用排除しか述べておらず,事案においても債務不履行責任など問題となっていないから,債務不履行にもとづく損害賠償義務(民法415条)と原賠法との関係を論じたものとも思えない。どういう趣旨で述べているのか不明である。〔当事者の主張に対するなんらかの応答だろうとは思われるが〕
 なお,同判例の解説(判タ1285-201)でも,「原子力損害の賠償に関しては,責任発生の要件と関連する民法709条,715条,716条及び717条の規定の適用が排除される(その他の規定については適用が排除されることない。)と解されている(科学技術庁原子力局監『原子力損害賠償制度』52頁)。」との記述がある。

 原賠法の律する法律関係は,予め債権債務関係あることを前提としないのであり,民法の不法行為法の特則であることは明白であり,債務不履行のような債権債務関係がある当事者間に生ずる事象との関係では,特別法とは言えない。
 また,同じ損害賠償請求であっても,原賠法に基づくそれは「原子炉の運転等」により発生した損害に関するものであり,従業員の追及する債務不履行責任は,安全配慮義務違反という別の帰責原因によるものであるから,当然に両者は両立しうるはずである。
 しかし,この点について明示した判例はみつからない。

 通常は,事業者の「過失」が問題とならないという点で,無過失責任を前提とする原賠法の方が有利なので,原告は,わざわざ雇い主の安全配慮義務違反(債務不履行)に基づく損害賠償請求(民法415条)をする必要はないと思われるが,消滅時効の問題などから,将来的には債務不履行責任の追及の方が有利になる場面が出てくるかもしれない。



〔労災保険との関係〕
 なお,労働者が被った損害の填補方法としては,労災保険法(労働者災害補償保険法)に基づく補償請求があり,損害の種類や額について限度があるものの,これについては,当然に原賠法との請求が両立しうる。もちろん二重取りはできない。
 原賠法の付則は,以下のとおり,
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付則
(他の法律による給付との調整等)
第四条  第三条の場合において、同条の規定により損害を賠償する責めに任ずべき原子力事業者(以下この条において単に「原子力事業者」という。)の従業員が原子力損害を受け、当該従業員又はその遺族がその損害のてん補に相当する労働者災害補償保険法(昭和二十二年法律第五十号)の規定による給付その他法令の規定による給付であつて政令で定めるもの(以下この条において「災害補償給付」という。)を受けるべきときは、当該従業員又はその遺族に係る原子力損害の賠償については、当分の間、次に定めるところによるものとする。
一  原子力事業者は、原子力事業者の従業員又はその遺族の災害補償給付を受ける権利が消滅するまでの間、その損害の発生時から当該災害補償給付を受けるべき時までの法定利率により計算される額を合算した場合における当該合算した額が当該災害補償給付の価額となるべき額の限度で、その賠償の履行をしないことができる。
二  前号の場合において、災害補償給付の支給があつたときは、原子力事業者は、その損害の発生時から当該災害補償給付が支給された時までの法定利率により計算される額を合算した場合における当該合算した額が当該災害補償給付の価額となるべき額の限度で、その損害の賠償の責めを免れる。
2  原子力事業者の従業員が原子力損害を受けた場合において、その損害が第三者の故意により生じたものであるときは、当該従業員又はその遺族に対し災害補償給付を支給した者は、当該第三者に対して求償権を有する。
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〔下請け作業員の場合〕
 原子力事業者〔東電〕の社員は,東電との直接の雇用契約があるので,被曝管理がずさんで過剰に限度を超えて被曝したような場合は,当然に,安全配慮義務違反の問題となる。では,東電と直接の雇用関係にない下請け,孫請けのいわゆる協力会社の従業員は,東電に対して,安全配慮義務違反による債務不履行責任の追及ができないか。これについては,三菱重工神戸造船所事件についての最高裁判決がある。

・最高裁判決平成3年4月11日(三菱重工神戸造船所事件,判タ759-95)
 造船所で稼働していた下請労働者が,工場騒音の被曝によって難聴傷害に罹患したことで,元請企業も安全配慮義務違反による賠償義務が負うかが争われた。
「右認定事実によれば、上告人の下請企業の労働者が上告人のD造船所で労務の提供をするに当たっては、いわゆる社外工として、上告人の管理する設備、工具等を用い、事実上上告人の指揮、監督を受けて稼働し、その作業内容も上告人の従業員であるいわゆる本工とほとんど同じであったというのであり、このような事実関係の下においては、上告人は、下請企業の労働者との間に特別な社会的接触の関係に入ったもので、信義則上、右労働者に対し安全配慮義務を負うものであるとした原審の判断は、正当として是認することができる。」

 このように「指揮監督」や「支配従属」関係があるなどして,元請企業が,「下請企業の労働者との間に特別な社会的接触の関係に入った」といえる限りは,元請企業も,下請企業の労働者に対して,信義則上,安全配慮義務を負い,下請労働者との関係で直接の労働契約がなかったとしても,安全配慮義務違反(債務不履行)による損害賠償義務(民法415条)を負う余地が認められている。

 なお,今回の事故処理で,東電側と,下請会社の労働者との指揮監督関係などがどうなっているのかは知らないが、下請け協力企業が実際には,作業員の供給の口利き,手配しかしていないような場合には,おそらく元請けの支配下にあるものと見られるだろう。


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2011-06-24 : ■3条1項本文の責任 : コメント : 0 : トラックバック : 0
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■3条の賠償責任の法的性質 その4 民法709条との関係

■3条の賠償責任の法的性質 その4 民法709条との関係


〔関係を論じた判例〕
 原賠法3条1項本文による損害賠償請求権と,民法709条によるそれとの関係を論じた判例としては,以下のようなものがある。

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・平成16年9月27日東京地裁判決(判タ1195号263頁)
 宅地販売業者が,売却予定で宅地造成中に,JCOの臨界事故が起き,予定価格での売却ができなかったとして,原賠法等を根拠に損害賠償請求した事例。 
「なお,原賠法2条2項,3条1項の「損害」を前提のように解する以上,原告が被告の「原子炉の運転等」以外を加害原因として主張していない本件においては,原賠法3条1項による無過失損害賠償責任と別個に民法709条による賠償責任が成立する余地はなく,原賠法3条に基づく請求(主位的請求)が認められない場合には,民法709条に基づく請求(予備的請求)も認められない。」
 なお,控訴審判決は,そのまま結論維持・平成17年9月21日東京高裁判決(判時1914号95頁)

・平成20年2月27日水戸地裁判決(判タ1285号201頁)
 JCO臨界事故関係。近隣住民が被爆及びPTSD等健康被害で,JCO及びその親会社住友金属鉱山に対して,主位的に民法709条,予備的に原賠法3条による損害賠償請求をした。
「原賠法に規定する原子力損害の賠償責任は,原子力事業者に対して原子力損害に関する無過失責任を規定するなどした民法の損害賠償責任に関する規定の特則であり,民法上の債務不履行責任又は不法行為の責任発生要件に関する規定は適用を排除され,その類推適用の余地もないものであるから,本件事故による被爆と相当因果関係があるものとして損害賠償を請求する限りにおいては,原子力事業者に該当する被告JCOとの関係においても,民法上の不法行為に基づいて,賠償請求を認めることはできないというほかない。」
 なお,控訴審判決は,そのまま結論維持・平成21年5月14日東京高裁判決(判時2066号54頁)

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〔考え方〕 
 原賠法3条と民法709条との関係を論じる場合に,「原子力損害」の意味の理解が前提として重要である。「原子力損害」の意味,考え方については,こちら
-----------------------------------
A 無限定説
 「原子力損害」を,原子炉の運転等(2条1項)により発生した損害で,2条3項の「作用」と相当因果関係あるもの全てを含むと広くとらえる説(下級審判例)
B 限定説
 「原子力損害」を,2条2項の字義どおり,核燃料物質の原子核分裂の過程の作用又は核燃料物質等の放射線の作用若しくは毒性的作用により生じた損害とし,その範囲を限定していく考え(立法過程での関係者の考え,原子力事業者側の考え)
 B1 核燃料物質の放射線や毒性で生命身体財産が害された場合のみ(直接損害のみ)
 B2 直接損害以外にもその結果生じた逸失利益等の損害含む(直接損害+間接損害)
------------------------------------


 まず,立法過程では,かなり曖昧であるが,以下のように考えられていた。

------------------------------
原子力災害補償専門部会の答申(昭和34年12月)
「「原子力損害」とは、核燃料物質等の放射性、爆発性その他の有害な特性によって第三者のこうむった損害を指し、一般災害による損害を含まないものとする」

・原子力委員会内定「原子力災害補償制度の確立について」(昭和35年3月)「(2)原子力損害
 本制度の対象となる原子力損害は、原子力事業側の偶発的事故であると否とをとわず、核燃料物質等の特性により生じた損害とし、一般災害を含まないものとする。」

衆議院国会審議(昭和35年5月18日)
「○中曽根国務大臣 この第二条の第二項に書いてありますように、原子力損害とは、原子核分裂の作用、つまり、原子炉の内部における作用の影響による分、または核燃料物質によって汚染されたものの放射線の作用、つまり、これはその結果出てきたものの放射能による汚染の作用、それから、これを吸引したとかなんとかいうような場合の毒性作用、こういう損害をいうのでございまして、たとえば、輸送途中におけるいろいろなそういう事故等もこれに入ってくるのであります。
○前田(正)委員 具体的に申し上げますならば、放射能をかぶった場合の退避命令、そういうものの立ちのきによる退避の費用などは入っておるわけですか。
○中曽根国務大臣 それとこれとの相当因果関係がどの程度あるか、そういう判定の問題になりますが、その辺は法律解釈の問題でございますから、原子力局長から答弁いたさせます。
○佐々木(義)政府委員 事故が発生した場合の退避の際に要した費用等に関しましては、もちろん、相当因果関係を持っている場合には賠償額の中に入りますが、ただいま御指摘になりました、いわゆる原子力損害とは何ぞやという損害そのものの定義の中には、そういう費用は入っていないというふうに解釈しております
○前田(正)委員 そうすると、損害の中には入ってないけれども、補償の中には、民法の相当因果関係の範囲のものは全部入る、こう解釈していいわけですか。
○佐々木(義)政府委員 その通りでございます。」
-------------------------------


 上の佐々木政府委員の答弁を解釈すると,以下のようになるのではないか。

 条文
--------------
・原賠法2条2項本文「この法律において「原子力損害」とは、核燃料物質の原子核分裂の過程の作用又は核燃料物質等の放射線の作用若しくは毒性的作用(これらを摂取し、又は吸入することにより人体に中毒及びその続発症を及ぼすものをいう。)により生じた損害をいう。」
・原賠法3条1項本文「原子炉の運転等の際、当該原子炉の運転等により原子力損害を与えたときは、当該原子炉の運転等に係る原子力事業者がその損害を賠償する責めに任ずる。」
--------------

 原賠法2条2項本文の定義規定にある「原子力損害」は損害原因に関する定義であって,他方3条1項本文により賠償されるべき「原子力損害」は,原子炉の運転等により生ずる損害のうち相当因果関係のある損害を意味するものであって,別の観点からするものであるから,一致する必要はない。あるいは,損害原因の類型は2条の定義どおりであるが,損害結果の類型については,条文上の限定がないので,民法の一般の不法行為と同様に考えてよく,2条と3条の損害はともに,損害結果としていかなる類型であろうと相当因果関係があるものであれば,含まれるという理解であろう。

 ただし,上の国会審議では退避費用等の間接損害が賠償されるかという問題についての議論がなされているだけである。
 直接損害,間接損害というのも曖昧なところがあるが,一般には,直接損害は,放射線の被曝で人の健康が害されたり,放射性物質による汚染で財物が使用できず,無価値となったりしたことによる損害で,間接損害は,直接損害を被ることを前提にした入院費用とか退避費用とか逸失利益を意味するものと思われる。

 そして直接損害を受けたことを前提とせずに拡大する風評被害のようなものについては,かつて以下のように論じられていた。

----------------------------------
http://www.aec.go.jp/jicst/NC/senmon/old/songai/siryo/siryo05/siryo1.htm
第4回原子力損害賠償制度専門部会議事要旨(案)
1.日時     平成10年9月30日(水)
         午後14:30~17:00

(3)原子力損害(予防措置費用)について
事務局より資料4-2に基づき説明があった後、主に次の質疑応答があった。
(遠藤)いわゆる風評損害についての解釈・裁判例はどうか。また、条約での解釈を問う。
(事務局)風評損害は原子力損害に該当しないと考えている。原電敦賀で放射能汚染の風評と魚の売上げの減少との間に相当因果関係なしとの平成元年名古屋高裁判決がある。
(能見)まず、風評をもたらす原因を作出したことに責任(過失)があって、かつ、それと風評から生ずる損害が相当因果関係のある限り、民法不法行為法の賠償の対象にはなる。ただ、原子力損害ではないので、原賠法の問題ではないと理解している。条約上も同様であると考える。
(遠藤)核物質輸送船が沈没して実害又は風評損害が生じるケースを想定して質問した。
(鳥井)もんじゅのように放射線は出ていないが、ナトリウムの影響による場合はどうか。
(事務局)放射線の特性による損害であることが必要である。
(鳥井)これからの原子力のあるべき姿からしてそれでいいのか。ナトリウム化合物による腐食であっても原子炉事故による被害に変わりはない。
(住田)法律の守備範囲の問題と関わってくると考える。原賠法が無限責任や国の援助を定めているのは、原子力事故の甚大性・晩発性に配慮したものであり、過剰避難・誤想避難は原子力の心理的影響に基づくもので、これは他の法律が受け持っていると整理すべきである。原賠法は放射線等による損害すべてにつき補償するとの姿勢は鮮明にしておきたい
(能見)災対法で国や自治体がまず負担すると、原賠法に基づいて求償できるものか。
(事務局)法文上規定はないが、ありうるかと考える。
(部会長)求償できるかどうかは、原子力損害にあたるかどうかによろう。原賠法が分担すべき損害の範囲には、現行法の原子力損害の定義から読むのには工夫のいる部分もあり、避難費用を入れるにしてもどの範囲までにするか、例えばスイスやアメリカでは限界を明確にしている。現行法でカバーされているかというアプローチではなくて、原子力損害としてどういう概念で捉えれば妥当な守備範囲が決まるか、というアプローチをしながら、今後検討していくということも含めてこれでよいかということである。
(能見)予防措置費用の中のあるものについては、必ずしも条文上明確ではない。明確にして実際の裁判所の指針にするか、あるいは裁判所の解釈に任せるか、二つの選択肢がある。個人的には将来明確に書いたほうがよいと考えるが、裁判実務に詳しい方に聞きたい。
(山嵜)法律で範囲を明定すれば、裁判所もそれを参考にして認定することはあるだろう。しかしながら、伝統的な相当因果関係概念は若干異なるかもしれない。ここでの避難費用にはダメージという意味の不法行為の損害の他に、補償(コンペンセイション)的なものも入ってきている。後者を明定しても裁判所は限定的に判断するかもしれない。
(住田)解釈指針としての法律条文として損害概念を書ききれるかという立法技術的な問題もあろう。他法令や条約を参考に書ききれるなら、そのほうが法治国家として適切であろう。しかし書ききるのはかなり大変な作業である。個人的には以前にも述べたが、原賠法には原因しか書いてなく、損害概念については一般則に任せている。司法による運用を信頼したい。ただし、原子力損害にはわけのわからないものも入りうるし、法律家にはわからない分野ゆえ、一般的にはどういうものが入りうるかというコンメンタール的なものを作って裁判所の用に供しておき、裁判等である程度煮詰まってきたら法律事項であげられるものが出てくるかもしれない。また、支払基準的なものも必要ではないか。
(部会長)10年待たずに書けるなら、法改正することを含んでの検討であると理解する。
-----------------------------

 上では,能見善久教授は,「風評をもたらす原因を作出したことに責任(過失)があって、かつ、それと風評から生ずる損害が相当因果関係のある限り、民法不法行為法の賠償の対象にはなる。ただ、原子力損害ではないので、原賠法の問題ではないと理解している」と述べておられる。
 住田裕子弁護士も「原賠法が無限責任や国の援助を定めているのは、原子力事故の甚大性・晩発性に配慮したものであり、過剰避難・誤想避難は原子力の心理的影響に基づくもので、これは他の法律が受け持っていると整理すべきである。」としている。

 平成10年のこの時点では,既に平成元年5月17日の敦賀原発風評被害訴訟名古屋高等裁判所金沢支部判決(判タ705号108頁)が存在し,そこでは,理論上は,風評被害のようなものも一定の限度で相当因果関係のある損害となりうる余地を認めているが,その訴訟では,原賠法と民法709条の適用関係は論じられておらず,当事者も被告事業者の業務上の注意義務違反(過失)を主張していることから,そもそも事案は、民法709条のみに基づく争いであったものとおもわれる。


 したがって,平成10年9月のこの時点では,こちらで述べたB2限定説のようなものは十分にあり得たものと思われる。


 しかし、平成11年9月30日にJCO臨界事故が起き、その翌年3月の原子力損害調査研究会の損害認定指針では、「茨城県内で収穫される農畜水産物及びこれらに関連する営業であり、広く茨城県県外を商圏とするものについては、生産あるいは営業の拠点が茨城県内にあり、取引の性質から相手方等が取引拒絶等の行動に及ぶこともやむを得ないものと認められ、現実に減収のあった取引について、事故調査対策本部の報告(平成11年11月4日)及び住民説明会(同年11月13,14日)等によって、正確な情報が提供され、かつこれが一般国民に周知されるために必要な合理的かつ相当の時間が経過した時点(同年11月末)までの期間に生じた減収分(売上高から売上原価を控除した売上総利益=粗利益の額)が損害と認められる。」とされ、賠償対象となることが指針として示された。


 その後の平成15年6月24日水戸地裁判決(判時1830号103頁)は,水産加工品の風評被害の賠償を,原賠法3条と民法709条,同715条を根拠に求めた裁判例であるが,ここでは「損害」の発生自体が否定されており,一般に風評被害のようなものが「原子力損害」に該当しうるか否かや,原賠法と民法の適用関係については論じられていない。
 
 そして,風評による土地価格の下落について,民法709条の適用排除を判示した前掲の平成16年9月27日東京地裁判決が、「この点,原賠法2条2項,3条1項の「損害」とは,「原子炉の運転等」,「核燃料物質の原子核分裂の過程の作用」と相当因果関係があるすぎり,すべての損害を含むと解すべきであって,条文上何らの限定が加えられていないことから,被告が主張するような人身損害又は物に対する損害を伴わない損害(純粋経済損失)を除外する根拠はないというべきである。」と判示した。
 ただし,この判例は,純粋経済損失については肯定しているが,風評被害のようなものも一般に「原子力損害」となりうることを認めたか否かについては微妙である。

 その後の平成18年2月27日東京地裁判決(判タ1207号116頁)では,「本件臨界事故によって消費者が納豆商品を買い控えるなどした結果,納豆業界全体の売上げが減少するという風評被害が生じていたものと認められるのであって,本件臨界事故発生と納豆業界全体の売上減少との間には一定限度で相当因果関係があるということができる。」「もっとも,本件臨界事故後,一般消費者が納豆商品を買い控えるに至ったことが窺われるものの,それは一般消費者の個別的な心情に基づくものであり,放射線汚染という具体的な危険が存在しない商品であるのにもかかわらず,それが危険であるとして,上記商品を敬遠し買い控えるに至るという心理的状態に基づくものである以上,そこには一定の時間的限界があるというべきである。この時間的限界をどのように画すかは困難な問題であるが,それは一般消費者が上記のような心情を有することが反復可能性を有する期間,あるいは一般的に予見可能性があると認め得る期間に限定されるというべきである。」と判示し,風評被害も賠償の対象になりうることを認めたものの,この裁判は民法709条で風評被害が争われたものであり,風評被害も「原子力損害」たりうるとする立場(無限定説)を前提とすると,「原子力損害」について民法709条の適用を排除した前掲の平成16年9月27日東京地裁判決との整合性はないように思われる。

 この判決の直後の平成18年4月19日東京地裁判決(判時1960号64頁,原賠法で風評被害の賠償を求めた事案)では,「同法が,賠償されるべき損害の範囲について何ら限定を付していないことからすれば,当該事故と相当因果関係が認められる損害である限り,これを「核燃料物質の原子核分裂の過程の作用又は核燃料物質等の放射線の作用若しくは毒性的作用(これらを摂取し、又は吸入することにより人体に中毒及びその続発症を及ぼすものをいう。)により生じた損害」(同法3条1項)と認めて妨げないというべきであり,いわゆる風評被害について,これと別異に解すべき根拠はない。」と判示され,はっきりと風評被害のようなものも,「原子力損害」として原賠法で賠償の対象となる可能性が認められることになった。

 

 いまのところ下級審の判例しかないが,裁判所としては、原賠法3条の「原子力損害」については,損害結果の類型については,特に限定なく,「原子炉の運転等」により発生した損害で相当因果関係があるもの全てを意味するとし,風評被害のようなものも相当因果関係がある限り含まれるとする立場(無限定説)ということになろう。


1 直接損害
2 間接損害
3 その他相当因果関係あるもの全て(純粋経済損失,風評被害等)

 つまり,原賠法の「原子力損害」については,以前は上の1と2だけ(その他は民法709条で)という考えもありえたが,遅くとも平成16年以降の判例の流れからすると,1から3まで全部,原賠法でカバーされることになる。

 上の1+2のみとするB限定説なら,その外側である3については,民法709条の問題となり,風評被害等について民法709条が排除されることはない。
 他方,1から3まで,全て原賠法でカバーされるとするA無限定説なら,民法709条を問題とする必要性はないことになる。
 ただし,原賠法が,民法の不法行為規定の特則だといっても,民法に関しては,原賠法4条3項のような排除規定がない以上,民法709条が当然適用排除される否かはかならずしも自明とはいえないが,特別法は一般法に優先するという原則に基づき,一般法である民法の不法行為規定の適用が排除されるということなのだろう。



〔関係〕
 原賠法3条と民法709条との関係については,以下のようになろう。

A 無限定説
 損害については全部重なり,「原子炉の運転等」を加害原因とする限り,原賠法の適用のみが問題であり、民法709条は適用の余地はない。〔下級審判例,平成16年9月27日東京地裁判決,平成20年2月27日水戸地裁判決〕

B 限定説
 原賠法と民法709条との「損害」の重なる部分については,民法は適用排除,その余の部分については,民法709条で請求しうる。〔たぶん前述の能見教授らの平成10年時点での理解〕


 最高裁判決のない現時点での,判例の理解としては,概ね原賠法3条1項の「原子力損害」についてはAの無限定説を前提に,一般法である民法709条については適用の余地なしとする立場だと思われる。

〔なお,民法717条の土地工作物責任と,原賠法との関係を論じた判例は見あたらないが,おそらく同様の理解で,「原子力損害」については,適用の余地なしということになろう。〕


2011-06-22 : ■3条1項本文の責任 : コメント : 0 : トラックバック : 0
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■3条の賠償責任の法的性質 その3 自然力競合との関係

■3条の賠償責任 その3 自然力競合との関係

 今回の福島第一原発の事故と、JCO臨界事故との決定的な違いは、自然力が介在したか否かという点である。JCO事故は100%人災であるのに対して、今回の事故は、大地震と大津波が起点となっている。
 原賠法3条1項本文の責任は、無過失責任であり、これは危険を発生させるものを設置、支配、又は管理している者は、そこから生じた損害についての責任を負うべきであるという危険責任の法理に基づくものであり、土地工作物責任(民法717条)、営造物責任(国賠法2条)等も同様の法理に基づくものと理解される。
 今回の事件のように自然力が介在して発生した損害について、その全てを責任主体(原賠法では「原子力事業者」)に負わせてよいのかという問題がある。
 全てを負わせるのは公平でないという判断であれば、何らかの理屈で損害額の減額を図ることになるが、これまで自然力競合による減責が問題になってきたのは、震災と建物の瑕疵との競合や、水害と橋や堤防等の瑕疵との競合である。震災・津波と原発との競合は、今回が初めてのことかと思われる。
(※割合的因果関係論は、無数に論文が存在し、理解しきることは困難なもので、以下はきわめて大雑把な説明である。)
 減額を認める一つの理屈として、自然力競合の場合に、割合的因果関係論を前提に、自然力の寄与度に応じて相当因果関係を認め責任主体を減責しようとするものがあり、肯定否定両説がある。裁判所は、そもそも割合的因果関係論については、一貫して否定的であるとされており、割合的因果関係論を正面から採用して、自然力等の寄与度に応じて減責するということは今のところ考えにくい。
 割合的因果関係論については、その導入は理論的混乱を招くとか、不法行為責任一般に妥当するのは、損害の公平な分担の観点もあるが、被害者保護の理念もあり、割合的因果関係を認めると、安易な減責につながり、被害者保護がないがしろにされるおそれがあるという批判がある。
 自然力が競合して発生した損害については、裁判所が、割合的因果関係論を正面から採用して、その減責を認めないとしても、おそらく相当因果関係の「相当性」の認定過程で、絞りをかけていくであろうが、そこに無理が出てくるかもしれない。(無過失責任とは言え「瑕疵」が要件とされる工作物責任や営造物責任とは異なり、原賠法では、こういった帰責要因が全く前提となっていのが特殊な点で、損害の公平な分担と被害者保護を、この場合にどう考えていくのか、東電に過失があるように場合にはどう考えるのかなど難しい問題がある。)

 なお自然力ではなく、生産者側が自ら行きすぎた生産調整や、商品の過剰な廃棄をしてしまったような場合など、生産者側の落ち度が認められ、その行為によって損害が拡大したと認定されるような場合には、原賠法3条の責任においても、民法722条2項(過失相殺)の適用ないし類推によって、賠償額が減額されるはずである。




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 また,以下ように立法的な解決がなされている場合もある。原賠法ではこのような斟酌規定はない。

・大気汚染防止法
(賠償についてのしんしやく)
第二十五条の三  第二十五条第一項に規定する損害の発生に関して、天災その他の不可抗力が競合したときは、裁判所は、損害賠償の責任及び額を定めるについて、これをしんしやくすることができる。

・水質汚濁防止法
(賠償についてのしんしやく)
第二十条の二  第十九条第一項に規定する損害の発生に関して、天災その他の不可抗力が競合したときは、裁判所は、損害賠償の責任及び額を定めるについて、これをしんしやくすることができる。

・水洗炭業に関する法律
(賠償についてのしんしやく)
第十九条 第十六条第一項に規定する損害の発生に関して被害者の責に帰すべき事由があつたときは、裁判所は、損害賠償の責任及び範囲を定めるのについて、これをしんしやくすることができる。天災その他の不可抗力が競合したときも、同様とする。

・鉱業法
(賠償についてのしんしやく)
第百十三条 損害の発生に関して被害者の責に帰すべき事由があつたときは、裁判所は、損害賠償の責任及び範囲を定めるのについて、これをしんしやくすることができる。天災その他の不可抗力が競合したときも、同様とする。


2011-04-17 : ■3条1項本文の責任 : コメント : 0 : トラックバック : 0
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■3条の賠償責任の法的性質 その2 他の責任との関係

【3条の賠償責任の法的性質 その2 他の責任との関係】

 今回の事件で,被害者が,東京電力その他に損害賠償を求めていくとして,理論的には、少なくとも次の3つの構成が考えられるのではないか。

1 民法709条の不法行為責任
2 民法717条の土地工作物責任
3 原賠法3条に基づく責任

条文
-------------------------------------
民法709条
故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。

民法717条
1土地の工作物の設置又は保存に瑕疵があることによって他人に損害を生じたときは、その工作物の占有者は、被害者に対してその損害を賠償する責任を負う。ただし、占有者が損害の発生を防止するのに必要な注意をしたときは、所有者がその損害を賠償しなければならない。
2前項の規定は、竹木の栽植又は支持に瑕疵がある場合について準用する。
3前二項の場合において、損害の原因について他にその責任を負う者があるときは、占有者又は所有者は、その者に対して求償権を行使することができる。

原賠法3条
1原子炉の運転等の際、当該原子炉の運転等により原子力損害を与えたときは、当該原子炉の運転等に係る原子力事業者がその損害を賠償する責めに任ずる。ただし、その損害が異常に巨大な天災地変又は社会的動乱によつて生じたものであるときは、この限りでない。2前項の場合において、その損害が原子力事業者間の核燃料物質等の運搬により生じたものであるときは、当該原子力事業者間に特約がない限り、当該核燃料物質等の発送人である原子力事業者がその損害を賠償する責めに任ずる。

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〔比較〕
1 民法709条の不法行為責任
  性質 過失責任(過失の立証が必要)
  責任主体 制限なし(東電以外も考え得るが,責任集中原則(原賠法4条)との関係が問題)
  損害の限定 なし(ただし「原子力損害」以外)
  
2-1 民法717条 土地工作物の「占有者」の責任
 (前提として土地工作物の設置又は保存の瑕疵の立証が必要)
  性質 中間責任(無過失を立証すれば免れうる)
  責任主体 占有者(東電以外も考え得るが,責任集中原則(原賠法4条)との関係が問題)
  損害の限定 なし(ただし「原子力損害」以外)

2-2 民法717条 土地工作物の「所有者」の責任
 (前提として土地工作物の設置又は保存の瑕疵の立証が必要)
  性質 無過失責任(過失の立証が不要)
  責任主体 所有者(原発施設全部が東電所有なら東電のみ)
  損害の限定 なし(ただし「原子力損害」以外)

3 原賠法3条
  性質 無過失責任(過失の立証不要)
  責任主体 原子力事業者(東電)のみ(原賠法4条)
  損害の限定 「原子力損害」に限定


福島第1原発については,報道によると,その所有者は,東京電力とのことであるから,東京電力には,上の1から3まで全部につき責任追及の余地がある。ただし,「原子力損害」については,3のみとなろう。また,東電以外の関係協力会社で,今回の原発事故について,設置・管理・運営上の落ち度(過失)があった会社については,上の1と2-1の責任追及の余地があろうが,これについては責任集中原則(原賠法4条)との関係が問題となり,「原子力損害」については,原子力事業者以外の者は責任を免れうる。他方,損害が「原子力損害」以外の場合は,原賠法4条の責任集中の原則からは外れるものと考えると,原子力事業者以外の者に対して,一般の不法行為責任や土地工作物の占有者の責任を追及する余地があるのではなかろうか。
2011-04-06 : ■3条1項本文の責任 : コメント : 0 : トラックバック : 0
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■3条の賠償責任の法的性質 その1

【3条の賠償責任の法的性質 その1】

 まず,原賠法1条には,「この法律は、原子炉の運転等により原子力損害が生じた場合における損害賠償に関する基本的制度を定め、もつて被害者の保護を図り、及び原子力事業の健全な発達に資することを目的とする」とある。
 したがって,その立法目的は,被害者保護と原子力事業の健全な発達ということである。
 そして3条と4条では,無過失責任とその責任の集中が規定されている。
---------------------------------
(無過失責任、責任の集中等)
第三条  原子炉の運転等の際、当該原子炉の運転等により原子力損害を与えたときは、当該原子炉の運転等に係る原子力事業者がその損害を賠償する責めに任ずる。ただし、その損害が異常に巨大な天災地変又は社会的動乱によつて生じたものであるときは、この限りでない。
2  前項の場合において、その損害が原子力事業者間の核燃料物質等の運搬により生じたものであるときは、当該原子力事業者間に特約がない限り、当該核燃料物質等の発送人である原子力事業者がその損害を賠償する責めに任ずる。

第四条  前条の場合においては、同条の規定により損害を賠償する責めに任ずべき原子力事業者以外の者は、その損害を賠償する責めに任じない。
2  前条第一項の場合において、第七条の二第二項に規定する損害賠償措置を講じて本邦の水域に外国原子力船を立ち入らせる原子力事業者が損害を賠償する責めに任ずべき額は、同項に規定する額までとする。
3  原子炉の運転等により生じた原子力損害については、商法 (明治三十二年法律第四十八号)第七百九十八条第一項 、船舶の所有者等の責任の制限に関する法律 (昭和五十年法律第九十四号)及び製造物責任法 (平成六年法律第八十五号)の規定は、適用しない。
----------------------------------

 つまりこの責任は,被害者保護及び原子力事業の健全な発達のために,「原子力損害」の賠償については,原子力事業者に対して,民法の一般の不法行為に基づく損害賠償責任(民法709条,過失責任)よりも重い責任,すなわち無過失責任を負わせるものである。ここで無過失責任とは,損害を被った被害者が,原子力事業者(今回の事故では「東京電力」)に対して,損害賠償請求訴訟を提起した場合に,同事業者の「過失」を立証する必要がなく,また,同事業者が「無過失」を立証したとしても責任を免れることはできないというものであり,被害者にとっては有利なものである。
 また,その立法趣旨から見ても,第3条の規定で,原子力事業者の責任を,民法の不法行為より緩和する趣旨のものとはとても考えにくく,原子力事業者の責任を加重するものであろう。したがって,「原子力損害」の意味を限定的に考える立場でも,それに該当しない損害については,ただちに原子力事業者が免責されることはなく,その損害が原子力事業者の行為と相当因果関係が認められ,原子力事業者の故意又は過失が認められれば,民法709条による救済はありうる。
 もっとも,法は,「原子力損害」について,原子力事業者にこのような無過失責任を負わせる一方で,第3条1項但書で,「ただし、その損害が異常に巨大な天災地変又は社会的動乱によつて生じたものであるときは、この限りでない。」とし,例外的な場合にその第3条1項本文の「無過失」責任を免除している。
2011-04-06 : ■3条1項本文の責任 : コメント : 0 : トラックバック : 0
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