東日本大震災以降,原子力損害賠償法に興味あり,同法と東京電力の責任についても検討してみたい。

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■4条 責任集中の原則 その16 プラントメーカーの責任

■4条 責任集中の原則 その16 プラントメーカーの責任

 原発の引き渡しを受けた時点から既に欠陥があったと仮定して。
 
 原発のプラントメーカーの責任について,誰に対する,どの損害についての責任かで分類してみると。

1 対第三者責任(原発事故の被害者に対する責任)
(1)「原子力損害」(原賠法2条2項,3条1項)について
 ・原賠法4条1項(責任集中)によって,「原子力事業者以外の者」として責任を負わない。
 ・原賠法4条3項で,製造物責任法の適用も排除されている。
〔なお,被害が外国に及んだ場合は,その地の法律によることになるだろうから,原賠法4条による免責は前提とされない。〕

(2)「原子力損害」以外の損害について
 ・原賠法4条は,同法3条の「原子力損害」の賠償を前提とする規定のなので,「原子力損害」以外の損害については,特に規定がないことから,被害者からプラントメーカーに民法709条や製造物責任法による責任追及の余地がある。
・民法709条 被害者がメーカーの故意又は過失を立証することが必要。
・製造物責任法 製造物の「欠陥」(当該製造物の特性、その通常予見される使用形態、その製造業者等が当該製造物を引き渡した時期その他の当該製造物に係る事情を考慮して、当該製造物が通常有すべき安全性を欠いていること)の立証で足る。
〔ただし,下級審の裁判例では,損害結果の類型については純粋経済損失等についても「原子力損害」は広く認められることから,「原子力損害」以外の損害に該当するものはきわめて限定される。また,製造物責任法自体が新しい法律で,平成7年7月1日の施行日以降に引き渡された製造物についてのみ適用されるので,今回の事故に至ったような古い原発はそもそも適用対象にならない。〕

2 対原子力事業者責任(たとえば東電に対する責任)
(1)「原子力損害」について
 ・原賠法2条2項の定義規定には,「この法律において「原子力損害」とは、核燃料物質の原子核分裂の過程の作用又は核燃料物質等の放射線の作用若しくは毒性的作用(これらを摂取し、又は吸入することにより人体に中毒及びその続発症を及ぼすものをいう。)により生じた損害をいう。ただし、次条の規定により損害を賠償する責めに任ずべき原子力事業者の受けた損害を除く」とあり,原発事故で原子炉が壊れたり,東電の所有物が汚染されたり,余計な燃料費がかかったり,そういった東電自身が被った損害は,「原子力損害」には,該当しないことになる。したがって,原子力事業者が自ら所有する原発の自己で「原子力損害」を被るということは論理的には無いことになろう。

(2)「原子力損害」以外の損害について〔東電自身が被った損害の全て〕
 ア 原子力事業者が原発事故被害者に支払った「原子力損害」の賠償金
 ・これは,求償の問題になるので,原賠法5条1項に規定があり,「第三条の場合において、その損害が第三者の故意により生じたものであるときは、同条の規定により損害を賠償した原子力事業者は、その者に対して求償権を有する。」とあり,プラントメーカーの「故意」が立証できた場合は求償請求可能だが,「故意」の立証は通常は困難である。また,この求償権については,原賠法5条2項で特約による排除が可能なので,おそらく契約上プラントメーカーは求償責任を負わないことになっているはず?。
 なお5条求償権については,こちらで論じた。

 イ 原子力事業者のいわば自損分(原子炉の損壊等)
 ・「原子力損害」ではないので原賠法4条によるメーカーの免責はないはず。
・原子力事業者と国外プラントメーカーとの具体的な契約関係については知らないが,国内で契約し,国内で完成させて引き渡すというだけなら国内私法の売買か請負等の規定が前提となるのか?。〔契約の態様,特約によっては,準拠法が日本の国内法としないことも可能か?〕
 1 債務不履行責任(民法415条)
 2 瑕疵担保責任(民法570条,商法526条)
 3 不法行為責任(民法709条)
↓ 
 以下のような仮定で考えてみる。
・プラントに「瑕疵」があった
・引き渡しを受けてから40年後の事故で,原子炉が壊れた。
・準拠法が国内法
・契約上,国内私法の任意規定の排除特約がない場合で
・商人間の取引で
・商事売買と同様に考えられる場合。
・現時点から見てプラントに欠陥があったしても,それが契約時の「仕様書」通りのものであったなら,債務不履行とは言えない。また,隠れたる瑕疵でもなく,瑕疵担保責任の問題はなく,なんの落ち度もないので不法行為にもならない。したがって,遅くとも引き渡し時点の技術水準で見て,「瑕疵」といえるようなものがあった場合を前提とする。
・引き渡しから40年後の事故だと仮定すると,除斥期間(民法724条)にかかっているので,不法行為に基づく損害賠償請求権は考えない。

A 隠れたる瑕疵について売り主が善意
 A1 6ヶ月以内の検査で判明する程度の瑕疵
   A1a 買い主が検査による瑕疵を発見し,通知義務(商法526条)を果たした。このような場合,そもそも事故は生じない?。なお,瑕疵担保責任(民法570条)については,「引き渡し」から10年(民法167条1項)で消滅時効にかかる(最判H13.11.27)。商事時効にかかるとすると5年(商法522条)。また,検査で瑕疵を発見していたなら,仮に瑕疵による不完全履行とみて民法415条による損害賠償請求権が観念できても,遅くとも瑕疵発見後5年ないし10年で時効によって消滅している。
   A1b 買い主が検査せず,又は,検査しても瑕疵を発見できなかった場合〔事故によって初めて瑕疵を知った〕。
 商法526条2項により、受領から6ヶ月経過していれば,瑕疵担保責任の追及はできない。また債務不履行責任の追及も同様にできない(判例,通説。最判S47.1.25)。
  A2 6ヶ月以内の検査では判明しえない瑕疵
  検査義務(商法526条1項)を尽くしても,6ヶ月以内に瑕疵は発見できない。
 商法526条2項の解釈にもよるが,通説的理解では,この場合も,上のA1bと同様に,買い主には,瑕疵担保責任も債務不履行責任も追及の余地がない。

B 隠れたる瑕疵について売り主が悪意
 この場合,商法526条3項により,同条2項の適用はないので,買い主が検査,通知義務を果たさなくとも,瑕疵担保責任と債務不履行責任の追及余地は残される。
 ただし,瑕疵担保責任ついては,「引き渡し」から10年で消滅時効にかかる(最判H13.11.27)。商事の場合は5年?。
 結局,知りながら何も告げず「瑕疵」あるものの引き渡しをするという不完全履行(信義則上の付随義務違反?)により,買い主は損害を被ったとして,悪意の売り主に民法415条の損害賠償請求をするということになるが,これについては,消滅時効の起算点の問題がある。本来の履行請求権と同一性のある損害賠償請求権については,本来の債務の履行請求時から時効進行となるが(最判S10.4.24),付随義務違反による損害発生の場合も同様に考えていいのか,事故による損害という拡大損害についても同様に考えていいのか,なぞ?。また,契約締結前の段階で,設計等に根本的欠陥があるのに,売り主がそれを秘していたため,契約締結にまで至ったような場合に,そもそも債務不履行責任の追及は可能かという問題もある(最判H23.4.22)。
 ただ、債務不履行責任の規定も任意規定なので、普通は特約での排除があるだろうし、そうでなくても原子力事業者もバカじゃないだろうから、売り主がはじめから瑕疵について悪意であるのに、買い主が長年その瑕疵に気づかずに経過して、その瑕疵が原因で原発事故に至るような事案は、実際にはあり得ないのかもしれない。


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条文

民法415条(債務不履行による損害賠償)
 債務者がその債務の本旨に従った履行をしないときは、債権者は、これによって生じた損害の賠償を請求することができる。債務者の責めに帰すべき事由によって履行をすることができなくなったときも、同様とする。

民法416条(損害賠償の範囲)
1 債務の不履行に対する損害賠償の請求は、これによって通常生ずべき損害の賠償をさせることをその目的とする。
2  特別の事情によって生じた損害であっても、当事者がその事情を予見し、又は予見することができたときは、債権者は、その賠償を請求することができる。

民法566条(地上権等がある場合等における売主の担保責任)
1 売買の目的物が地上権、永小作権、地役権、留置権又は質権の目的である場合において、買主がこれを知らず、かつ、そのために契約をした目的を達することができないときは、買主は、契約の解除をすることができる。この場合において、契約の解除をすることができないときは、損害賠償の請求のみをすることができる。
2  前項の規定は、売買の目的である不動産のために存すると称した地役権が存しなかった場合及びその不動産について登記をした賃貸借があった場合について準用する。
3  前二項の場合において、契約の解除又は損害賠償の請求は、買主が事実を知った時から一年以内にしなければならない。

民法570条(売主の瑕疵担保責任)
 売買の目的物に隠れた瑕疵があったときは、第五百六十六条の規定を準用する。ただし、強制競売の場合は、この限りでない。

民法572条(担保責任を負わない旨の特約)
 売主は、第五百六十条から前条までの規定による担保の責任を負わない旨の特約をしたときであっても、知りながら告げなかった事実及び自ら第三者のために設定し又は第三者に譲り渡した権利については、その責任を免れることができない。

商法526条(買主による目的物の検査及び通知)
1 商人間の売買において、買主は、その売買の目的物を受領したときは、遅滞なく、その物を検査しなければならない。
2  前項に規定する場合において、買主は、同項の規定による検査により売買の目的物に瑕疵があること又はその数量に不足があることを発見したときは、直ちに売主に対してその旨の通知を発しなければ、その瑕疵又は数量の不足を理由として契約の解除又は代金減額若しくは損害賠償の請求をすることができない。売買の目的物に直ちに発見することのできない瑕疵がある場合において、買主が六箇月以内にその瑕疵を発見したときも、同様とする。
3  前項の規定は、売主がその瑕疵又は数量の不足につき悪意であった場合には、適用しない。


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2011-12-22 : ・個人その他の責任 : コメント : 0 : トラックバック : 0
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■4条 責任集中の原則 その14 民間の第三者の責任

■4条 責任集中の原則 その14 民間の第三者の責任


 今回発生した損害〔今後の拡大分も含む〕について,第三者の行為が関与している場合どうなるのか。

 経営者公務員については,以前に論じた。また,東電社員や設計や資材原料供給業者や,下請け等の関係業者は,原賠法4条によって,「原子力事業者以外の者」として当然に免責されるだろう。〔ただし,故意がある場合は,5条で求償請求される可能性はある。〕

 そこで,残りの他の民間の第三者〔法人含む〕の関与によって,損害が発生拡大している場合について,検討してみたい。



〔分類〕
 放射性物質による汚染は,どの程度の危険性があるのか判然としないことから,次ぎの二つの方向での損害拡大と,それと関係なく火事場泥棒的関与をする第三者の行為があり得る。

※低線量長期の被曝についての客観的危険性〔諸説あって現時点では判然としないとする〕

1 結果的に客観的危険性よりも,危険性を大きくみせる方向での情報を流通させたことによって,風評被害等の損害が拡大する。
・過大な危険宣伝で,風評被害が拡大する。
・過大な危険宣伝で,不必要な避難等をする人が出てきて損害が拡大する。

2 結果的に客観的危険性よりも、危険性を小さくみせる情報を流通させることによって,被曝等による健康被害等の損害を拡大させる。
・○○ミリシーベルトまでは害がないと宣伝したが,後に被曝者の発ガン率等に増加が認められた場合

3 火事場泥棒的な関与をする第三者
・避難区域で窃盗をする。
・義捐金詐欺等の行為。
・産地偽装等で風評被害拡大させる。



〔特徴〕
1と3は即時的な損害,2は生じたとしても晩発的
1と3は主として財産的損害,2は生命身体に関する非財産的損害がまず問題



〔検討〕
 3の場合で,犯罪に該当するような場合は,その犯人は刑事罰の対象となるはの当然であり,民事的にも不法行為(民法709条)が成立し,被害者に対して,損害賠償責任を負うのは当然であろう。
 そのような犯罪結果は,通常は,原子力事業者側にとって予見可能性のない特別損害であり,相当因果関係のある原子力損害とはえないとされ,原賠法4条の適用の前提を欠くだろうし,仮にそうでなくても,これら犯罪者が,原賠法4条によって民事責任を免責されるというのは,法の趣旨からして考えられないからである。〔避難勧告がでた地域で,空き巣が入った場合に,東電や国の責任がどうなるのかについては,別項で考えたい。〕


 危険又は安全情報に関する上の1と2の場合は,事故後の関与を問題とすることになろうから,こちらで述べた事故後の後続行為による損害拡大についての責任の問題がある。

 また,東電の負う「原子力損害」の賠償責任との関係が問題となり,原発事故との相当因果関係の認められる損害の範囲内での損害の拡大かどうか,その場合の原賠法4条との関係,相当因果関係の範囲を超えて発生した損害はどうなるのかという問題がある。

A 第三者の行為で「原子力損害」(原発事故と相当因果関係のある損害)が拡大したといえる場合。
 A1 原発事故後に関与した第三者も原賠法4条で免責されるとする立場。
 A2 原発事故後に関与した第三者は原賠法4条での免責を受けないとする立場。
B 第三者の行為で拡大した損害が「原子力損害」とはいえない場合

 
・まず,上のAとBの区別は,原発事故との相当因果関係の有無(通常損害か否か,そうでない場合は,予見可能性があったか否か)で区別される。

・Aの場合で,A1の立場だと,原賠法4条で第三者は故意過失の有無にかかわらず,被害者との関係で免責される。〔故意ある場合にかぎって,原子力事業者から求償請求を受ける。原賠法5条〕

・Aの場合で,A2の立場だと,第三者も原子力損害について,故意又は過失ある場合に,民法709条で賠償責任を負うことになる〔「原子力事業者」ではないので原賠法の無過失責任を負うことはない。〕。この場合は,原子力事業者も責任を負うので,両者間の共同不法行為の求償関係等が問題となる。これはこちらで触れた。

・Bの場合は,「原子力損害」にあたらず,原則として原子力事業者は責任を負わないので,当該第三者に民法709条による不法行為成立の余地があるのみとなる。



〔具体的には〕
 上の1や2のように危険性、安全性に関して,結果として誤情報を流して損害を拡大させた場合,その第三者が,損害賠償責任を負う余地があるとして,具体的にどのような場合に負う可能性があるのか。

 まず,一般論として,単なるテレビ等のマスコミでの発言や,書籍等での記述,ネットでの書き込み等で,放射性物質や低線量被曝に関して,安全とか危険とかの発言をして,結果として誤情報を流すことになったとしても,損害賠償義務が発生するようなことはなかろう。現時点で,既に相反する情報が氾濫しているのであって,どちらを信用するかは受け手の判断によるものであり,特定の個人の名誉や信用を毀損するものではない限り,いちいち不法行為が成立していたのでは,そもそも自由な言論が成り立たない社会となるのであって,原則として責任を問われることなかろう。
 
 可能性があるのは,「誤」情報と知りつつ,意図的に,特定地域の農産物が危ないというような情報を流して,損害を与えたような場合であって,この場合は,通常の企業の信用毀損の場合と同様に考えられ,損害賠償義務が発生する余地はある。ただし,この場合でも,一切汚染がありえない地域は別として,そもそも微量の放射性物質や低線量被曝の危険性について「誤」情報であるか否かは,おそらく現時点ではっきりしないのであり,行為者の故意や過失が立証できるのかという問題があって,よほど明白な虚偽情報でない限り、その責任を問うことは容易ではなかろう。

 他には,たとえばXと専門家Yに契約関係があって,YはXのために,微量の放射性物質や低線量被曝の危険性,安全性について,適切なアドバイスを与えなければならない立場にあった場合。
 この場合,当然,専門家YはXに,その時点でのYの研究してきた成果やその学問領域の一般的成果に基づき,Yが適切だと考えるアドバイスをXに与える義務があり,この義務に反して,Yが,それまでの自分の研究成果に反し,その学問領域の成果にも反するような,結果としてでたらめなアドバイスを与えて,Xに損害を発生させたような場合は,善管注意義務違反(民法644条)等でXに対して債務不履行責任(民法415)を負い,同時に不法行為責任(民法709条)を負う可能性がある。

 さらに派生的には,Xが国や自治体であったり,あるいは知事や政治家等の人物で,住民の健康や安全を確保すべき施策を決定実行しうる立場にあることを知りつつ,Yが,それまでの自分の研究成果にも反し,その学問領域の成果にも反するような,結果としてでたらめなアドバイスを敢えて与えて,Xや,そこの住民らに損害を発生させたような場合は,通常損害か,あるいは予見可能性のある特別損害にあたるだろうから,民法709条でその住民らに対して,損害賠償義務を負うことになる可能性はある。

 ただし,アドバイスの時点で,特に学問上の定説もないような場合,Yが自らの学問成果に基づいてアドバイスしている限りは,普通は責任を問われないだろう。可能性があるのは,アドバイスの時点で,自らの説が間違っていることに気づいていたり,間違っていないまでも,自説が確実でないことは知っているのに,敢えて為政者に損害発生のリスクが高まる方向での施策を実行させたような場合であろう。

 なお,この場合,「損害発生のリスクが高まる方向」の意味は難しくて,微量な放射性物質や低線量被曝についての客観的危険度があるとして,それより危険性を過大評価すると財産的損害の拡大につながり,過小評価になると人の生命や健康への非財産的損害拡大につながる可能性があり,それがまた即時的に発生するか,晩発性かの差もあって,どのようなアドバイスであっても「損害発生のリスクが高まる方向での施策を実行させた」とは簡単に言えないところがある。さらに,結果として危険の過大評価であった場合でも,財産的損失以外にも,家族の離散や避難生活でのストレスによる病気等の非財産的損害もありえある。
 ただし、どちらがより致し方ない判断だったといえるのかという点では、一般的には,倫理的観点からすれば,経済的損失が多少大きくなっても,人の生命身体を保護する方向での,つまり安全よりの判断をするべきということなのであろうから,そういう意味では,危険性について小さめに評価しアドバイスをする専門家の方が,そうでない専門家よりも,責任を問われる可能性は高いのかもしれない。もっとも、その場合の人的損害は晩発性という問題があって、10年も20年も先だと,その専門家はもういないという可能性がある。また、こちらで触れたように、そもそも低線量の被曝による影響については、今のところ裁判上の立証の難しさがある。




2011-06-19 : ・個人その他の責任 : コメント : 0 : トラックバック : 0
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■4条 責任集中の原則 その13 公務員個人の責任

■4条 責任集中の原則 その13 公務員個人の責任

 今回の原発事故について,公務員個人で,なんらかの責任がありそうなのは,現在までの政府関係者,議員,原子力安全保安院などの職員ら公務員,原子力安全委員会のような特別職国家公務員等であろうが,これらの者が,個人として,今回発生した原子力損害について,何らかの責任を負わないのだろうか。

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国家賠償法
第1条
 1 国又は公共団体の公権力の行使に当る公務員が、その職務を行うについて、故意又は過失によつて違法に他人に損害を加えたときは、国又は公共団体が、これを賠償する責に任ずる。
 2 前項の場合において、公務員に故意又は重大な過失があつたときは、国又は公共団体は、その公務員に対して求償権を有する。
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1 被害者から公務員個人への損害賠償請求
 まず,国賠法1条1項では,公務員が,その職務を行うについて,故意又は過失あるとき,被害者は,国や公共団体に損害賠償請求ができるとあって,公務員個人の責任については明文ははなく,解釈に委ねられる。

 最高裁昭和30年4月19日判決では,「国または公共団体が賠償の責に任ずるのであって、公務員が行政機関としての地位において賠償の責任を負うものではなく、また公務員個人もその責任を負うものではない」とする。
 したがって,外形上公権力の行使にあたる公務員の行為については、原則として、公務員個人には原則として責任追及できない。
 また行為時において、公務員であればよく、結果発生時において、公務員でなかったとしても、公務員個人の責任は問われないことになろう(平成22年8月26日東京地裁判決)。

 ただし,公務員の故意での職権濫用行為による不法行為の場合は,公務員個人に対する損害賠償請求の余地があるかもしれない。
----------------------
・大阪高裁昭和37年5月17日判決「<要旨>若し公務員が職務の執行に藉口して、故ら越権行為をなし、或は私心を満足するための報復行為をなして、之が為他人に損害を及ぼしたものとすればそれは職権の濫用であつて本来は職務の執行ではなく、正しく公務員個人の不法行為と見るべきものであるが、それがいやしくも客観的に職務執行の外形をそなえる行為である限り、国民の権益の擁護の立場から国家賠償法に基き国家において損害賠償責任を負うべきものとしたのが前掲第二の判例であつて、之は当該公務員個人の責任の有無については何等触れるところはない。而してこの点は同法第一条第一、二項の明文上においても解決されていないので、専ら解釈に委ねられる問題である。もとより単に被害者の受けた損害の救済という面のみを考えると、国又は公共団体において損害賠償責任を負担しさえすれば十分であると謂えないこともないけれども、職務の執行を装うという方法を選んで公務員が不法行為を行つたものとすれば、之に対し直接被害者より損害賠償責任を問う道を遮断することは、民法の道義性の見地よりしてその当否は極めて疑わしいものがある。昭和七年五月二七日の大審院判例は法人の機関として不法行為をなした以上、その者は個人としても損害賠償責任を負うべきものとしたが、公務員についてのみ之を別個に解する余地は全くないと謂わなければならない。かように解しなければ、右第二の判例の事案のごとき、巡査が職務執行をよそおい、強盗殺人を犯したような場合にも、国家賠償法の救済があるとの一事により被害者の遺族から右犯人に対する直接の損害賠償請求を許さない結論を生じ、その不当なること明白である。前掲第一の判例は、単に旧農地調整法施行令第二八条の四第一項に基き地方長官が職務行為としてなした市町村農地委員会解散命令に付公務員が個人として名誉毀損による損害賠償責任を負うものではないことを判示したものであつて、公務員の私心に基く権限濫用行為に関する判例ではないから、本件に適切ではない。 以上の理由により当裁判所は少くとも公務員の故意に基く職権濫用行為については、当該公務員は個人としても損害賠償責任を負担すべきものと解する」
--------------------------

 したがって,原発事故の被害者らは,先の公務員らに対しては,原則として,直接の損害賠償請求はできず,ただ,少なくとも当該公務員に故意の職権濫用行為があった場合には,民法709条で公務員個人に対する損害賠償請求の余地があるということになろう。

 今回の原発事故ではちょっと考えにくいが,仮に公務員に故意があった場合,国賠法との関係ではいけるとして,さらに原賠法4条と関係が問題になる。
 この点については、4条の人的適用範囲について、法の趣旨から4条は公務員には適用ないとするか、事後的関与になった場合は4条の適用がないとするかして、公務員に4条による免責がないとされた場合にようやく、故意ある公務員個人に対して、民法709条での損害賠償請求ができるということになる。この場合の原子力事業者と当該公務員の共同不法行為関係については、こちらで触れたのと同様になろう。



2 国から公務員への求償請求
 国賠法1条2項では,国からの求償権が定められており,当該公務員に故意又は重過失があった場合は,国からの求償請求を受けることになる。

 ただし,これは,国が原発事故について賠償責任(国賠法1条)を負って,その支払をすることが前提であって,そもそも原賠法4条で,国は,「原子力事業者以外の者」として責任を免れるとするなら,この求償権の問題は生じないはずである。
・4条の人的適用範囲〔国に適用されるか
・4条の時的適用範囲〔事故後関与でも適用されるか


 結局,今回の原発事故について関係した公務員らに,仮に,事故を起こしてやろうという「故意」があるか,又は,「重過失」があった場合で,かつ,国については原賠法4条の免責はないとするか〔人的適用範囲〕,原発事故発生後の公務員の行為については,原賠法4条による国の免責は余地はないとするかして〔時的適用範囲〕,国の被害者への直接の賠償責任〔原賠法16条での「援助」ではなく,国賠法1条の責任〕が認められるような場合に限って,当該公務員は,自らの職務行為の落ち度について,国からの求償請求という形で責任を負うことになる。



3 東電から公務員への請求
 おそらく,1で述べたのと同じ理由で,東電から,当該公務員への直接の損害賠償請求は、原則としてできない。
 当該公務員に「故意」があった場合は、東電は、〔原発施設損壊等で東電自身が被った損害について〕当該公務員に民法709条で損害賠償請求する余地があるが、1で述べたのと同様、この場合も原賠法4条との関係では公務員は免責されないという解釈が認められた場合に限られる。

 なお、当該公務員に「故意」があった場合は,原賠法5条1項と,国賠法1条2項の規定の適用関係が問題となろうが,おそらく,この場合には,東電は,まず〔被害者に支払った賠償金分について〕原賠法5条1項の求償を,国賠法1条1項に基づいて国に対して請求し,国がそれを支払った場合に,国は国賠法1条2項で,当該公務員に求償請求する形になるのではないか。


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原子力損害賠償法について検討してみます。(リンクはご自由に)
なお、引用部分以外は私(一応法律家)の意見ですので、判例・学説・実務等で確定したものではありません。他の考えでも裁判等で争い認められる余地があります。

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