東日本大震災以降,原子力損害賠償法に興味あり,同法と東京電力の責任についても検討してみたい。

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■2条「原子力損害」の意味・範囲 その28 国の被った反射損害

■2条「原子力損害」の意味・範囲 その28 国の被った反射損害

第2次補正予算
http://www.mof.go.jp/budget/budger_workflow/budget/fy2011/sy230715/sy230715c.pdf

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(単位百万円)
歳出の補正
原子力損害賠償法等関係経費  275,404
原子力損害賠償法関係経費   247,383
原子力損害賠償支援機構法(仮称)関係経費   28,021
被災者支援関係経費   377,386
二重債務問題対策関係経費   77,386
被災者生活再建支援金補助金   300,000
東日本大震災復興対策本部運営経費   518
東日本大震災復旧・復興予備費   800,000
地方交付税交付金   545,469
合計1,998,777

歳入の補正
前年度剰余金受入  1,998,777
合計1,998,777

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(A) 歳出
1 原子力損害賠償法等関係経費
 補正第2 号追加275,404(百万円)

( 1 ) 原子力損害賠償法関係経費
 補正第2 号追加247,383(百万円)
 ① 原子力損害賠償補償金
 補正第2 号追加120,000(百万円)
 上記の追加額は、「原子力損害の賠償に関する法律」(昭36 法147)第10 条の規定による政府補償契約に基づく原子力事業者に対する補償金を支払うために必要な経費である。
 ② 健康管理・調査事業費 
 補正第2 号追加78,182(百万円)
 上記の追加額は、原子力災害から福島県内の子どもや住民の健康を守るため、同県が設置した基金に交付金を交付することにより、全県民を対象とした放射線量の推定調査等を行うために必要な経費である。
 ③ 特別緊急除染事業費
 補正第2 号追加17,982(百万円)
 上記の追加額は、福島県が設置した基金に補助することにより、同県の学校・公園等の公共施設や通学路等の放射線量低減事業等を行うために必要な経費である。
 ④ 環境放射線モニタリング強化事業費
 補正第2 号追加19,201(百万円)
 上記の追加額は、福島県内の学校等に設置するリアルタイム放射線監視システムの構築、大気中の放射線量を計測する全国のモニタリングポストの増設、東京電力株式会社福島原子力発電所周辺を含む広域環境放射線モニタリング及び農産物・水産物・河川・地下水・飲料水等の各省協働によるモニタリング強化等を行うために必要な経費である。
 ⑤ 対外発信強化事業費
 補正第2 号追加5,281(百万円)
 上記の追加額は、原子力災害に伴い低下した日本ブランドの信頼性を回復するため行う海外に対する的確かつ迅速な情報発信等に必要な経費である。
 ⑥ 校庭等の放射線低減事業費
 補正第2 号追加4,961(百万円)
 上記の追加額は、毎時1 マイクロシーベルト以上の放射線量を観測した福島県内外の学校や保育所などの校庭・園庭について、地方公共団体等が行う表土除去処理事業に要する費用の一部補助を追加するのに必要な経費である。
 ⑦ 原子力損害賠償和解仲介業務経費
 補正第2 号追加1,030(百万円)
 上記の追加額は、原子力損害賠償に係る紛争が見込まれる中、迅速かつ適正な紛争解決を図るため、法律専門家等を活用し、原子力損害賠償紛争審査会における「和解の仲介」業務を円滑に処理するために必要な経費である。
 ⑧ その他
 補正第2 号追加745(百万円)
 上記の追加額の内訳は、次のとおりである。
  (単位百万円)
  原子力損害賠償補償金審査・調査業務経費299
  東京電力福島原子力発電所における事故調査・検証委員会経費250
  除染ガイドライン作成等事業費196
  計745

( 2 ) 原子力損害賠償支援機構法(仮称)関係経費
 補正第2 号追加28,021(百万円)
 ① 交付国債の償還財源に係る利子負担
 補正第2 号追加20,000(百万円)
 上記の追加額は、「原子力損害賠償支援機構法」(仮称)に基づき、原子力事業者が原子力損害賠償を行うための交付国債の償還金の財源に充てるための借入金の利子等の支払いに必要な経費である。
 ② 原子力損害賠償支援機構(仮称)に対する出資
 補正第2 号追加7,000(百万円)
 上記の追加額は、「原子力損害賠償支援構法」(仮称)に基づき、原子力損害賠償支援機構(仮称)の設立に要する資金に充てるための同機構に対する出資を行うために必要な経費である。
 ③ 東京電力に関する経営・財務調査委員会経費
 補正第2 号追加1,021(百万円)
 上記の追加額は、東日本大震災により発生した原子力損害の賠償に係る厳正な資産評価、徹底した経費の見直し等のための「東京電力に関する経営・財務調査委員会」の運営に必要な経費である。


2 被災者支援関係経費
 補正第2 号追加377,386(百万円)

(1) 二重債務問題対策関係経費
 補正第2 号追加77,386(百万円)
 ① 旧債務
 補正第2 号追加25,518(百万円)
 上記の追加額は、東日本大震災による被災者が復興に向けて再スタートを切る際の二重債務問題(旧債務)への対応として、中小企業の再生に向けた経営相談から再生計画策定までの取り組みを支援する中小企業再生支援協議会事業の強化及び中小企業の旧債務に係る利子負担の軽減等を行うために必要な経費であって、その内訳は次のとおりである。
 (単位百万円)  
  中小企業再生支援利子補給補助金18,400
  独立行政法人福祉医療機構出資金4,000
  中小企業再生支援協議会事業費3,023
  被災中小企業再生支援出資事業費95
  計25,518
 ② 新債務
 補正第2 号追加51,868(百万円)
 上記の追加額は、東日本大震災による被災者が復興に向けて再スタートを切る際の二重債務問題(新債務)への対応として、被災した中小企業が新たに事業を再開するための貸工 場や貸店舗等の事業基盤の整備の支援及び被災した漁業協同組合等が所有する水産業共同利用施設の早期復旧に必要な機器等の整備の支援等を行うために必要な経費であって、その内訳は次のとおりである。
  (単位百万円)
  被災地域産業地区再整備事業費21,493
  水産業共同利用施設復旧支援事業費19,316
  中小企業組合等共同施設等災害復旧費9,958
  株式会社日本政策金融公庫出資金(財務省分) 600
  株式会社日本政策金融公庫出資金(経済産業省分) 400
  木質系震災廃棄物等活用可能性調査費100
  計51,868

(2) 被災者生活再建支援金補助金
 補正第2 号追加300,000(百万円)
 上記の追加額は、東日本大震災により住宅が全壊した世帯等に対し支給される被災者生活再建支援金に要する費用の一部補助を追加するのに必要な経費である。


3 東日本大震災復興対策本部運営経費
 補正第2 号追加518(百万円)
 上記の追加額は、「東日本大震災復興基本法」(平23 法76)第11 条の規定により、東日本大震災からの復興の円滑かつ迅速な推進と活力ある日本の再生を図るために設置された東日本大震災復興対策本部の運営に必要な経費である。


4 東日本大震災復旧・復興予備費
 補正第2 号追加800,000(百万円)
 上記の追加額は、東日本大震災に係る復旧及び復興に関連する経費の予見し難い予算の不足に充てるための予備費である。


5 地方交付税交付金
 補正第2 号追加545,469(百万円)
 上記の追加額は、22 年度の地方交付税に相当する金額のうち未繰入額を、交付税及び譲与税配付金特別会計へ繰り入れるために必要な経費である。




歳入〈略〉


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〔国の被った反射損害(肩代わり損害)と思われるもの〕
※被害者が損害回復、損害拡大防止のために自ら行った場合には、加害者にその費用を請求できると思われるものを、他の第三者(国)が、その費用で行った場合。
・健康管理・調査事業費 補正第2 号追加78,182(百万円)←健康被害拡大防止費
・環境放射線モニタリング強化事業費 補正第2 号追加19,201(百万円)←健康被害拡大防止費
・特別緊急除染事業費 補正第2 号追加17,982(百万円)←除染費用
・対外発信強化事業費 補正第2 号追加5,281(百万円)←風評損害拡大防止費
・校庭等の放射線低減事業費 補正第2 号追加4,961(百万円)←除染費用


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●原子力災害対策特別措置法
http://www.bousai.go.jp/jishin/law/002-1.html
(原子力事業者の責務)
第三条  原子力事業者は、この法律又は関係法律の規定に基づき、原子力災害の発生の防止に関し万全の措置を講ずるとともに、原子力災害(原子力災害が生ずる蓋然性を含む。)の拡大の防止及び原子力災害の復旧に関し、誠意をもって必要な措置を講ずる責務を有する。

(国の責務)
第四条  国は、この法律又は関係法律の規定に基づき、原子力災害対策本部の設置、地方公共団体への必要な指示その他緊急事態応急対策の実施のために必要な措置並びに原子力災害予防対策及び原子力災害事後対策の実施のために必要な措置を講ずること等により、原子力災害についての災害対策基本法第三条第一項 の責務を遂行しなければならない。
 2  指定行政機関の長(当該指定行政機関が委員会その他の合議制の機関である場合にあっては、当該指定行政機関。第十七条第六項第三号及び第二十条第三項を除き、以下同じ。)及び指定地方行政機関の長は、この法律の規定による地方公共団体の原子力災害予防対策、緊急事態応急対策及び原子力災害事後対策の実施が円滑に行われるように、その所掌事務について、当該地方公共団体に対し、勧告し、助言し、その他適切な措置をとらなければならない。
 3  主務大臣は、この法律の規定による権限を適切に行使するほか、この法律の規定による原子力事業者の原子力災害予防対策、緊急事態応急対策及び原子力災害事後対策の実施が円滑に行われるように、当該原子力事業者に対し、指導し、助言し、その他適切な措置をとらなければならない。

(地方公共団体の責務)
第五条  地方公共団体は、この法律又は関係法律の規定に基づき、原子力災害予防対策、緊急事態応急対策及び原子力災害事後対策の実施のために必要な措置を講ずること等により、原子力災害についての災害対策基本法第四条第一項 及び第五条第一項 の責務を遂行しなければならない。

(放射線測定設備その他の必要な資機材の整備等)
第十一条  原子力事業者は、主務省令で定める基準に従って、その原子力事業所内に前条第一項前段の規定による通報を行うために必要な放射線測定設備を設置し、及び維持しなければならない。
 2  原子力事業者は、その原子力防災組織に、当該原子力防災組織がその業務を行うために必要な放射線障害防護用器具、非常用通信機器その他の資材又は機材であって主務省令で定めるもの(以下「原子力防災資機材」という。)を備え付け、随時、これを保守点検しなければならない。
 3  原子力事業者は、第一項の規定により放射線測定設備を設置し、又は前項の規定により原子力防災資機材を備え付けたときは、主務省令で定めるところにより、これらの現況について、主務大臣、所在都道府県知事、所在市町村長及び関係隣接都道府県知事に届け出なければならない。
 4  第八条第四項後段の規定は、前項の届出について準用する。
 5  原子力事業者は、第一項の規定により放射線測定設備を設置したときは、主務省令で定めるところにより、その性能について主務大臣が行う検査を受けなければならない。
 6  主務大臣は、原子力事業者が第一項又は第二項の規定に違反していると認めるときは、当該原子力事業者に対し、放射線測定設備の設置、維持、若しくは改善又は原子力防災資機材の備え付け若しくは保守点検のために必要な措置を命ずることができる。
 7  原子力事業者は、主務省令で定めるところにより、第一項の放射線測定設備により検出された放射線量の数値を記録し、及び公表しなければならない。

(緊急事態応急対策及びその実施責任)
第二十六条  緊急事態応急対策は、次の事項について行うものとする。
 一  原子力緊急事態宣言その他原子力災害に関する情報の伝達及び避難の勧告又は指示に関する事項
 二  放射線量の測定その他原子力災害に関する情報の収集に関する事項
 三  被災者の救難、救助その他保護に関する事項
 四  施設及び設備の整備及び点検並びに応急の復旧に関する事項
 五  犯罪の予防、交通の規制その他当該原子力災害を受けた地域における社会秩序の維持に関する事項
 六  緊急輸送の確保に関する事項
 七  食糧、医薬品その他の物資の確保、居住者等の被ばく放射線量の測定、放射性物質による汚染の除去その他の応急措置の実施に関する事項
 八  前各号に掲げるもののほか、原子力災害(原子力災害が生ずる蓋然性を含む。)の拡大の防止を図るための措置に関する事項
 2  原子力緊急事態宣言があった時から原子力緊急事態解除宣言があるまでの間においては、指定行政機関の長及び指定地方行政機関の長、地方公共団体の長その他の執行機関、指定公共機関及び指定地方公共機関、原子力事業者その他法令の規定により緊急事態応急対策の実施の責任を有する者は、法令、防災計画又は原子力事業者防災業務計画の定めるところにより、緊急事態応急対策を実施しなければならない。
 3  原子力事業者は、法令、防災計画又は原子力事業者防災業務計画の定めるところにより、指定行政機関の長及び指定地方行政機関の長並びに地方公共団体の長その他の執行機関の実施する緊急事態応急対策が的確かつ円滑に行われるようにするため、原子力防災要員の派遣、原子力防災資機材の貸与その他必要な措置を講じなければならない。

(原子力災害事後対策及びその実施責任)
第二十七条  原子力災害事後対策は、次の事項について行うものとする。
 一  緊急事態応急対策実施区域その他所要の区域(第三号において「緊急事態応急対策実施区域等」という。)における放射性物質の濃度若しくは密度又は放射線量に関する調査
 二  居住者等に対する健康診断及び心身の健康に関する相談の実施その他医療に関する措置
 三  放射性物質による汚染の有無又はその状況が明らかになっていないことに起因する商品の販売等の不振を防止するための、緊急事態応急対策実施区域等における放射性物質の発散の状況に関する広報
 四  前三号に掲げるもののほか、原子力災害(原子力災害が生ずる蓋然性を含む。)の拡大の防止又は原子力災害の復旧を図るための措置に関する事項
 2  指定行政機関の長及び指定地方行政機関の長、地方公共団体の長その他の執行機関、指定公共機関及び指定地方公共機関、原子力事業者その他法令の規定により原子力災害事後対策に責任を有する者は、法令、防災計画又は原子力事業者防災業務計画の定めるところにより、原子力災害事後対策を実施しなければならない。
 3  原子力事業者は、法令、防災計画又は原子力事業者防災業務計画の定めるところにより、指定行政機関の長及び指定地方行政機関の長並びに地方公共団体の長その他の執行機関の実施する原子力災害事後対策が的確かつ円滑に行われるようにするため、原子力防災要員の派遣、原子力防災資機材の貸与その他必要な措置を講じなければならない。


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2011-07-24 : ・二次的損害,間接被害者等 : コメント : 0 : トラックバック : 0
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■2条「原子力損害」の意味・範囲 その27 間接被害者の固有損害と特別事情の予見可能性の問題

■2条「原子力損害」の意味・範囲 その27 間接被害者の固有損害と特別事情の予見可能性の問題


http://genbaihou.blog59.fc2.com/blog-entry-105.html
こちらで論じた問題の続き


特別事情の予見可能性についてはこちらでも触れた。
http://genbaihou.blog59.fc2.com/blog-entry-158.html
http://genbaihou.blog59.fc2.com/blog-entry-150.html


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民法
(損害賠償の範囲)
第四百十六条  債務の不履行に対する損害賠償の請求は、これによって通常生ずべき損害の賠償をさせることをその目的とする。
2  特別の事情によって生じた損害であっても、当事者がその事情を予見し、又は予見することができたときは、債権者は、その賠償を請求することができる。
-----------------------------


〔相当因果関係説に立って、民法416条を類推適用する立場から、特別事情の予見可能性というものを考えてみると〕

 不法行為の因果関係について、相当因果関係説に立って、民法416条を類推適用する立場から、相当因果関係があるといえるには、原則として、当該行為から当該結果が生じることが、平均的な一般人を基準に、通常といえることが必要であるとする(通常損害)。また、通常損害以外の、特別の事情によって生じた損害であっても、その事情を予見し、又は、予見することができたときはで賠償責任を負うと考える(特別損害)。

 つまり

1 通常の事情→因果の流れの通常性→通常損害
2 特別の事情→因果の流れの通常性→特別損害

となる。
 
・まず、1と2ともに、その予見や予見可能性は、「損害」ではなく、損害発生に至る基礎「事情」についてのものである。

・1と2ともに、因果の流れの「通常性」は、平均的な一般人を基準に、社会通念によって決する。〔規範的判断であるが、「それが起きれば、あるいは、そういう事実があれば、普通はそうなるだろう」という程度のものであって、それほど幅が大きいとは思われない。〕

・1の通常の事情は、平均的な一般人なら当然予見可能な事情なので、特に行為者の具体的認識や予見可能性は問題とならない。平均人より劣っているために予見できなくても、〔責任能力の問題は別にして〕因果関係については関係がない。

・2の特別の事情についての予見可能性は、これを平均的な一般人を基準にすると、通常の事情と異ならないことになってしまって無意味なので、これは行為者を基準に判断されると思う。

・そして、「特別の事情」は、通常損害よりも拡大した損害、つまり特別損害の基礎となるものなので、これは損害拡大に関係する事情だと思われる。

・「特別の事情」を「予見し」は、行為者が、損害拡大につながる事情を予め知っていたことを意味し、規範的要素の判断ではなく、事実認定の問題である。これは厳密には、主観的要件の故意・過失とは関係がないが、「損害拡大につながる事情を予め知っていた」場合に該当するのは、故意不法行為の方が、過失不法行為のより多いとは言えるだろう。

・「特別の事情」を「予見することができたとき」とは、予見可能性を意味し、これについては、大雑把に以下の3つのスタンスがありうる。

A 予見可能性は、事実認定の問題である。過去のその時点で、行為者において、現実に予見することが可能であったか否かを判断する。価値判断は入らない。

B 予見可能性は、基本的には、過去のその時点で、行為者において、予見することができたか否かという事実認定の問題であるが、「予見可能性」の認定は、「知っていたか否か」という一個一義的な事実の認定とは異なり、幅があるものだから、そこに法政策的価値判断が入り込む余地があり、それでかまわないというスタンス。※予見可能性の幅については、「可能性」の幅以外に、「予見」の対象となる事実がどこまで抽象的であってよいかという点についても幅があろう。

C 予見可能性は、事実認定の問題はなく、端的に、行為時に、その行為者において、その特別の事情の予見が、法的に期待されていたといえるか否かという、規範的要素の認定場面である。〔ほとんど義務射程説〕


・つまり、不法行為に416条を類推適用すると

〔416条1項「通常生ずべき損害」〕
 当該行為から当該結果が生じることが、平均的な一般人を基準に、通常といえる限り、仮に行為者が、平均的な一般人より劣った認識能力しかなく、通常事情すら認識できなかったとしても〔責任能力の問題はあるとしても〕、因果関係のレベルでは免責されない。

〔416条2項「予見し」〕
 損害拡大につながる特別の事情を、行為者が予め知っていた場合には、予見の可能性は問題とならず、特別事情からの因果の流れが通常といえる限り、特別損害について相当因果関係が肯定される。

〔416条2項「予見することができたとき」〕
 行為時の諸事情から、損害拡大の基礎となった特別の事情について、その予見が、その行為者において、可能〔この認定は上のABCの各スタンス〕であった場合には、特別損害について相当因果関係が肯定される。

ということになる。

 判例は、どうも上のCのようなスタンスで判断はしていないような気がする。というのは、予見可能とか、予見可能性があったとかなかったとか表現は見るが、予見すべきであったとか、予見が期待されているなどという表現はほとんどなく、まして予見義務の有無の検討などされていないからである。
 たぶんBのようなスタンスで判断がなされているものと思われるが、その場合の価値判断の基準・指標・観点がさほど明確には判決文に示されないために、過失不法行為における特別事情の予見可能性の判断においては、わずかな利益衡量と「損害の公平な分担の理念」ということばが出てくるだけで、結論に至る論理的思考過程がいまいち判然とせず、結論が唐突な感じがすることがある。
 特別事情の予見可能性が、故意ではない不法行為の場面で問題となり、特に、その解決が容易ではないのは、それが普通は偶発的に起きる事件であって、個別具体的事情については加害者の予見や予見可能性というものを〔不可能ではないが〕観念しにくい上に、一般的抽象的事情の予見可能性だけで足るとすると、多数の経済主体が、相互に密接複雑、広汎に関係しあうという社会状況を前提に、一つの行為・損害の影響が他に容易に広がってしまうという事情があるため、賠償範囲が広がりすぎるおそれがあるからである。
 これは、結局、不法行為責任の基礎にある損害の公平な分担という抽象的な理念を、特別事情の予見可能性の認定の際に、ある程度、判断基準・指標・観点のようなものを示して、裁判における判断の予測可能性を担保しながら、どう具体的に実現していくかという問題なのかもしれない。

 従来の裁判所のとる因果関係認定の枠組み(相当因果関係説)を維持するとして、たぶん「特別事情の予見可能性」認定の基礎としては、その「特別の事情」の特異性の程度がまず問題となるはずで、普通はあり得ない極めて特異な事情があったために、損害が拡大しているのかどうかなど、確率論的な問題が、まず事実のレベルで存在する。そのような事情の特異性の程度を基礎に、さらに以下のような当事者の事情をも勘案して、予見可能性を決するというのが、ありうべき態度かもしれない。


・行為者側の事情
①危険性。行為者のもとの行為が、そもそも危険なものであるか、その大きさ
※危険の大きい行為をする者には、予見について高度の期待がもたれてしかるべき
②業務性。特殊な事情でも、プロなら知っていて当然といえることがある
※業務としてその行為をなす者には、予見について高度の期待がもたれてしかるべき
③既知性。過去に同様の事情に基づく損害発生があったか
※過去にもあったことならば、今回については予見を期待されてしかるべき、
④悪質性。故意、過失。その程度
⑤広汎性。もとの加害行為が広汎多数に損害を与えるものか。
※もとの行為で広汎に影響を及ぼせば、そこに特異な事情が存する確率は当然に上がる。
[⑥社会的有用性]。

・被害者側の事情
①損害の重大性。被侵害利益の重大性。生命>身体>財産
②損害予期の可能性、程度
※予期できるなら回避策をとることが期待できる。
③損害回避の可能性。損害回避策の有無、可能性
※回避が可能ならば、予め回避、低減策をこうずることが期待できる。
④損害回避の容易性。費用の多寡、直接被害者との契約や保険等によるカバーの余地など
※回避が容易ならば、そのようにしておくべきことを社会的に期待される場合がありうる。
 ただし、被害者側の結果回避に関する事情は、過失相殺や素因減額でも考慮しうるので、あるかないかの判断になってしまう「因果関係」の判断では、あまり重要視しなくていいかもしれない。



〔間接被害者への適用〕
・まず,間接被害者の受けた損害については,特別損害として特別事情の「予見可能性」の問題がでてくる。(ただし,直接被害者が被った被害によって,一般的に生じるような間接被害者の定型的損害は,通常損害?)
・「予見可能性」を事実認定の問題のみとして考えると、故意なき不法行為の場合、ほとんど認められない。
・「損害の公平な分担」を理由づけにするだけでは、説得力がなく、法的安定性がない。
・「経済的一体性」基準では、その「一体性」をどの場合に認めるかという問題にずれるだけで、あまり上手くない。この要件を厳密に考えると,実質上直接被害者=間接被害者の場合なので,間接被害者の問題一般についての解決にはならない。あるいは間接被害者の固有損害については,規定(民法711条)がある場合と,間接被害者を害する意図がある場合を除いては,原則として全面否定説に立つということだろうか。

 結局、間接被害者事案における特別事情の予見可能性については、直接被害者の被害から間接被害者の損害に拡大するという特殊事情の存在の蓋然性の程度を基礎に、前述のような見地からの価値判断を経て〔予測可能性を担保するためその思考経過を示しつつ〕、それを認定し、さらに損害額の算定に当たっては、結果回避に関する社会的期待や損害拡大に到る被害者側の特殊事情に関して、過失相殺や素因減額と同様の理屈で、妥当な結論を導くという手があるのではないか。


※間接被害者に関する高裁レベルの判断→因果関係の問題とするまでもなく原則として否定
・高松高裁平成6年10月25日判決・判タ871-257
 雑誌による宗教法人及びその主催者に対する誹謗中傷で,その会員が宗教上の人格権が傷つけられたとして,その雑誌社等に対して,不法行為に基づく損害賠償請求をした事件。
「控訴人らは間接被害者に該当するというべきところ,直接被害者の損害以外に,すべての間接被害者の損害(以下,「間接損害」という。)についてもその損害賠償を一般的に認めることになれば,その被害者及び損害が不当に著しく拡大され,加害者に過大かつ予測不可能な負担を課することとなって,損害の公平な分担という不法行為制度の趣旨に照らして妥当でないと考えられるので,間接被害者は,その間接損害につき,原則として不法行為に基づく損害賠償請求ができず,例外的に,民法711条に基づき慰謝料請求をする場合,その他,直接被害者との人的結びつきが深く,固有の連繋性により直接被害者と社会経済的に一体関係がある場合で,かつ,直接被害者への損害賠償のみでは償いきれないものがあって,間接被害を認めることが相互の公平に合致する場合に限ってその請求ができるものと解するのが相当である。」

※近時の下級審の判断は様々
下でいうと
・A1説
・A2説+C2説
・A2説+C3説など


〔間接被害者の固有損害についての絞り〕

A 民法709条の主観的適用範囲で絞る。
1説 709条は直接被害者への賠償のみ認めている(ドイツ法的)。例外として711条が規定されたにすぎない。経済的一体性がある場合は,直接被害者=間接被害者のようなものなので,例外的に賠償請求を認める。
2説 709条は,請求権者を直接被害者に限定していない(フランス法的)。711条は,立証責任の転換の意味あり。


1説だと,そもそも他の要件の検討にも行かず,ここで絞られる。
2説だと,ここでの絞りはないため,他の要件の検討へいく。


B 権利侵害・違法性の要件で絞る。


C 相当因果関係で絞る。
1説 予見可能性の問題とせず,経済的一体性ない場合は,単に相当因果関係なしとして絞る。
2説 経済的一体性ある場合など特段の事情ないかぎり,予見可能性を否定し,絞る。
3節 単に予見可能性を厳しめに判断し,予見可能性なしとして絞る。
4説 予見可能性を,規範的価値判断を経て認定する。


D 間接被害者への過失で絞る。
1説 過失不法行為の場合,間接被害者の損害に関しても,別途過失を要すると考えると,ここでの間接被害者に対する注意義務(予見義務,結果回避義務)が検討され,絞られる余地がある。
2説 直接被害者との間において,故意・過失があれば足りるとする説では,特に間接被害者に対する過失は問題とならず?


E AからDまですり抜けたものについて
 過失相殺・素因減額等での損害額調整の余地あり。

 


〔原賠法との関係〕
 間接被害者という概念に特に意味を見いださない立場では,直接被害者に対するのと同様,間接被害者に対しても,主観的要件としての故意・過失を含む不法行為成立の全要件を満たす必要がある。
 この点,加害者において,間接被害者に対しても故意・害意がある場合は,問題は少なかろう。
 しかし,過失不法行為の場合は,直接被害者の背後に位置するはずの間接被害者に対しては,かなり抽象的な義務(予見義務,結果回避義務)とその違反を観念しなければならなくなる。通常の過失不法行為の場合,間接被害者に対する不法行為の成否は,この主観的要件の段階で切られてもおかしくない。
 ただし,原賠法は,無過失責任なので,この主観的要件は特に問題とならない。

2011-07-10 : ・二次的損害,間接被害者等 : コメント : 0 : トラックバック : 0
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■2条「原子力損害」の意味・範囲 その26 間接被害者,反射損害(肩代わり損害),固有損害など まとめ

■2条「原子力損害」の意味・範囲 その26 間接被害者,反射損害(肩代わり損害),固有損害など まとめ

〔考え方〕
 原発事故で,被害者がまず被災し,被害者と一定の関係にある,周りの第三者(国,自治体,家族,勤務先,取引先,組合,基金,保険会社など)が支出を強いられたり、得られるべき利益を得られなかったりするなどして損害を被った場合

 この種の問題の基本的な考え方はこちらで述べたのと同じ。
 http://genbaihou.blog59.fc2.com/blog-entry-150.html

 つまり,この種の問題には,

(1)間接被害者の反射損害
 直接の被害者の被った1つの損害を,最終的に加害者にどのように負担させるかという調整の問題。直接被害者が負担したなら、その分の賠償を加害者に請求できるようなものを、他の者(間接被害者)が負担した場合。

(2)間接被害者の固有損害
 直接被害者が被った損害とは別に,直接被害者と一定の社会的関係にある主体自身に生じた固有の損害(支出を強いられたり,得られたはずの利益が得られなかったり)を,どこまで加害者に負担させるかという問題

 がある。

 そして(1)は結論は決まっているので(求償の法律構成など)論理的,技術的に解決可能と思われる。

 これに対して,(2)は,以前にも論じた波及的に広がる二次的な損害をどこまで,加害者に負わせるのが妥当かというもので(政策的価値判断の要素の強い法解釈の場面),難しい問題がある。


〔間接被害者という概念〕
 また,「間接被害者」という概念については,これに特に法律論上の意味を見いだす立場と,直接被害者の場合となんら差はないと考える立場がある。

 たとえば

加害者A
直接被害者B
間接被害者C

とする。

 この場合,「間接被害者」という概念に特別に意味を見いだす説(の中)では,不法行為の成立要件のうち故意・過失,権利侵害(違法性)は,AB間に有れば足り,AがCの損害まで賠償すべきか否かは,それが賠償範囲に含まれるか否かによって決せられるとする。〔この立場は,因果関係論における危険性関連説になじむということだろう。〕

 他方,Cへの賠償義務が生じるためには,AC間においても,不法行為の全ての成立要件(故意・過失,損害,因果関係,権利侵害(違法性))が必要であるとする立場では,特に「間接被害者」という概念に特別の意味を見いださないことになる。


〔反射損害の扱い〕
最終的に加害者に損害を負担させるための法律構成の問題

法律等に規定がある場合(労災保険法12条の4,保険法25条など)

・賠償者の代位 民法422条の類推
 ※最高裁昭和36年1月24日判決(判タ115号67頁)

・債権者代位の利用 民法423条

・弁済者の代位,民法499条,500条の類推
 ※札幌地裁昭和44年12月26日判決(判タ242号139号)
 ※東京地裁昭和58年7月25日判決(判タ517号207頁)
 
・事務管理の費用償還請求権 民法702条
 ※東京地裁昭和47年1月31日判決(判タ276号330頁)
 ※東京地裁昭和58年7月25日判決(判タ517号207頁)→類推
 ※神戸地裁尼崎支部昭和55年11月13日(交民13-6-1543)→直接被害者に対する事務管理に基づく費用償還請求権の保全のため直接被害者の加害者に対する損害賠償請求権に代位

・不当利得返還請求権 民法703条

・反射損害の場合も端的に相当因果関係のある間接被害者自身の損害として構成 民法709条


〔固有損害の扱い〕
 裁判所は,おそらく,いまのところ相当因果関係説に立って,AC間においても,個別に不法行為成立の要件を全て満たす必要があるとの立場であろう。そして,無過失責任をとる原賠法では,故意過失といった要件は問題とならず,損害と相当因果関係が問題とされる。特に,特別損害について特別事情の予見可能性を問題とすると、難しい問題がある。

予見可能性については、このあたりで触れた。
http://genbaihou.blog59.fc2.com/blog-entry-105.html
http://genbaihou.blog59.fc2.com/blog-entry-158.html
http://genbaihou.blog59.fc2.com/blog-entry-150.html
http://genbaihou.blog59.fc2.com/blog-entry-163.html

※なお,「直接被害者」「間接被害者」という言葉は,被害主体が異なる場合を問題とするものであって,不法行為の教科書に載っているような,主体を問わず一次的損害から波及する損害が問題となる通常の意味での「直接損害」「間接損害」とは関係がない。また,会社法429条「第三者」としての株主の損害のところで使われるも株主の被った「直接損害」「間接損害」の話とも関係がない。


〔分類〕
1 直接被害者
 a 精神的損害(各種慰謝料,民法710条)
 b 財産的損害
  ア 積極損害(治療費,交通費,検査費,除染費,風評被害での廃棄損,廃棄費用等)
  イ 消極損害(休業廃業による逸失利益,風評被害による減収分等)

2 間接被害者
(1)反射損害
 b 財産的損害←支出等を強いられる場面の問題なので財産的損害のみ
  ア 積極損害(自治体の支出した宿泊費,被災休業中の会社が従業員に支払った給料等)
  イ 消極損害(被災者のために宿泊施設の営業を止めて一時避難所として無償提供した等)
(2)固有損害
 a 精神的損害(直接被害者の親族の精神的苦痛,民法711条)
 b 財産的損害
  ア 積極損害(自治体等の生活保護費の支出増加分のうち被災者から返還を受けられない分など,支出を強いられて求償もできない場合)
  イ 消極損害(被災企業から部品等調達できなかったことによる損失,被災物件の購入者〔引き渡し前〕の転売利益)

 
※ 間接被害者という枠組みに特に意味がないとする立場では,間接被害者の固有損害は,加害者の不法行為によって間接被害者自身が,直接に被った損害といえるので,直接被害者と同様であるが,間接被害者の場合は,自分以外の他の誰か(直接被害者)が,被害者となることを前提にしているという点で,区別は可能と思われる。ただし、他者かどうか微妙な問題もある。


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 今回の原発事故に関して,これまで検討した中で,広い意味での間接被害者の反射損害や固有損害の類が問題になっていると思われるものは,

(1)間接被害者の反射損害の類

・国や自治体が,原発事故被害者の救助等のために支出した費用(宿泊費等)
 http://genbaihou.blog59.fc2.com/blog-entry-108.html

・被災者が,避難や転居等を余儀なくされたときに,被災者以外の家族がかわりにその費用を出した場合。こちらで論じたのと似た問題
 http://genbaihou.blog59.fc2.com/blog-entry-108.html

・事実行為(原発事故)による債権侵害のうち、第三者が事実行為によって目的たる給付を侵害する場合。反射損害に似たもの
 http://genbaihou.blog59.fc2.com/blog-entry-125.html

・原発事故によって増えた各種社会保障制度等の支出分
 各制度の趣旨等によるが、第三者加害の場合の調整規定があるのは,反射損害のようなもの
 http://genbaihou.blog59.fc2.com/blog-entry-150.html
 http://genbaihou.blog59.fc2.com/blog-entry-157.html

・農畜産物などの事業者の互助基金のようなもので損害か填補された場合
 こちらで論じたのと似た問題
 http://genbaihou.blog59.fc2.com/blog-entry-108.html
 なお,保険のようなものの場合は,保険法25条で,保険代位


(2)間接被害者の固有損害の類

・原発事故による避難等で被災者が職を失い,生活保護をうけるようになった場合の,国や自治体の支出分。
 http://genbaihou.blog59.fc2.com/blog-entry-151.html
 なお、生活保護法63条で受給者から返還を受けられる部分は損害ではない。

・原発事故による避難等で被災者が職を失い,雇用保険法に基づく失業給付をうけるようになった場合の保険者の損害
 http://genbaihou.blog59.fc2.com/blog-entry-156.html

・被災者,被災企業と取引している企業が,材料,部品等の仕入れができなくなり,製造がストップするなどして,損害を出した。
 http://genbaihou.blog59.fc2.com/blog-entry-105.html

・事実行為(原発事故)による債権侵害のうち、債務者の一般財産(責任財産)を減少させられた場合(被災者,被災企業が破産し,金融機関等が貸金の返還を受けられなくなった場合)。債権者代位や破産手続きでの配当による回収ができなかった部分。
 http://genbaihou.blog59.fc2.com/blog-entry-125.html
 
・不動産業者の不動産転売利益分の損害
 こちらで触れた
 http://genbaihou.blog59.fc2.com/blog-entry-158.html


・原発事故被災者に対して義援金を出した場合
 損害とは言えない。
http://genbaihou.blog59.fc2.com/blog-entry-160.html



2011-07-09 : ・二次的損害,間接被害者等 : コメント : 0 : トラックバック : 0
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■2条「原子力損害」の意味・範囲 その25 サービス業等の商圏喪失による損害

■2条「原子力損害」の意味・範囲 その25 サービス業等の商圏喪失による損害

 地域の経済状態や世の趨勢で、徐々に商圏内の人口が減少するなどして、売り上げが減っていくことはよくあるが、ある日、突然、商圏内の人が居なくなり、そのために小売業、サービス業等の売り上げが減少することは、大規模自然災害を除いて原発事故以外ではちょっと考えられない。自然災害の場合は、普通は、誰にも何も言えないだろうが、原発事故の場合は、原賠法に基づく損害賠償請求の問題があって、商圏喪失による損害がどうなるのか問題となろう。

 たとえば、自らの店舗は避難等指定区域には入っていないが、商圏が避難等指定区域を含んでおり、原発事故後、その区域の人口がゼロになり、あるいは大幅に減少し、売り上げが落ち込んでしまった小売業や、教育その他のサービス業を営む者が、これを「原子力損害」として東電に賠償請求できるのかという点が問題となる。
 これは、商圏内の人に、〔放射能汚染への虞れなどから出歩きたくないなど〕心理的影響を与えて、その結果生じた風評被害のようなものではなく、現に商圏内の人が住めなくなって居なくなり、その結果生じたものである。

 以下の判例は、風評被害に関する判例として論じられることがあるが、商圏人口が大幅に減少した場合の損害について、参考になる部分がある。

------------------------------
〔風評被害,パチンコ店〕
・平成18年1月26日・東京地裁判決(判時1951号95頁)
 JCO臨界事故関係。風評被害により,パチンコ店の売上げ減少との主張。JCO側が,パチンコ店側に,仮払金(5850万円)の返還を求めた訴訟。損害を否定。
(事故前からの売上げの減少傾向を認定し)「そうである以上、対前年又は対前年同期で比較すれば、本件事故の前後で被告の売上げ等が減少したことは認められるものの、この減少が本件事故に起因するものとする根拠には欠けると見るのが相当である。すなわち、被告の売上げ等の減少と本件事故との間に相当因果関係を認めることはできない。
 したがって、本件事故についての被告の原告に対する不法行為に基づく損害賠償請求権は成立しない。
(3) この点につき、被告は、本件事故により損害が発生した旨主張する。
 確かに、一般的抽象的には、被告が主張するように本件事故により原告東海事業所から一定の範囲内(本件では、屋内退避勧告の発せられた10キロメートル圏内)に居住する住民が外出を控えることは社会生活の経験上あり得るところであり、この範囲と被告の各店舗の商圏が重なり合う部分が存在する場合には、その限度で被告の売上げの減少を観念することが可能である。この際、被告の店舗自体が屋内退避勧告の対象地域内に存在するか否かは必ずしも問題ではない。
 しかし、被告は、全体として又は各店舗の売上げ等の減少を主張立証するのみであり、屋内退避勧告の対象地域と各店舗の商圏との重なり合い等については何ら主張立証しない。
また、前記のとおり、全体として又は各店舗の売上げ等を見ても、全体的な売上げ等の減少傾向が見られる中で更に本件事故の影響による売上げ等の減少が生じたことを裏付けるに足りる証拠はない。」

------------------------------

 この判決理由のうち前半部分は、おそらく事実的因果関係の認定の問題であろう。もともと事故前から売上げは減少傾向にあり,事故後に顕著な減少がなく,そのまま下がり続けているにすぎないことから,事故後の売上げの減少は,事故によって住民が外出を控えた結果生じたものとはいえない〔そこまでは立証できていない〕としているのであり,JCO臨界事故との事実的因果関係のある売上げ減少が生じていないとするものであろう。判決文で,「相当因果関係を認めることはできない」とあるのは,当然,その前提となる事実的因果関係が存しないことからであろう。
〔臨界事故がなければ,その売上げ減少はなかったとはいえず,こちらで論じた,A1条件関係の部分で排除されたものと思われる。〕
 

 ただし,この判決理由の後半部分では,「被告の各店舗の商圏が重なり合う部分が存在する場合には、その限度で被告の売上げの減少を観念することが可能である。この際、被告の店舗自体が屋内退避勧告の対象地域内に存在するか否かは必ずしも問題ではない。しかし、被告は、全体として又は各店舗の売上げ等の減少を主張立証するのみであり、屋内退避勧告の対象地域と各店舗の商圏との重なり合い等については何ら主張立証しない」とあり,パチンコ店側の主張立証方法によっては,事実的因果関係が認められる余地があったのかも知れない。
 そして,その上で,〔これまでの下級審の判断方法に従うとすると〕外出しないという客の回避行動が,一般通常人を基準に合理的といえるか否かという点で,因果関係の「相当性」が判断され,それが認められれば,相当因果関係が存在するということになったのであろう。

 つまり,パチンコ店等でも,臨界事故等の原子力関連施設の事故によって,近隣の商圏内の客が外出を控えて,その結果,売上げが減少したと立証できるような場合には〔事実的因果関係〕,その回避行動が一般通常人を基準に合理的といえる範囲で,相当因果関係のある損害として,賠償対象となる余地はあるということであろう。

 そこで,商圏喪失の問題を考えてみると,原発事故等で,客に心理的影響を及ぼして,回避行動に走らせ,その結果,そこを商圏とする小売店やサービス業等が損害を被った場合ですら損害賠償請求の余地が存在する以上,現に商圏人口をゼロや大幅に減少させられて,その結果,来店客が減少したような場合は,当然に〔避難区域分の商圏喪失分などは回避行動の合理性を問うまでもなく〕,相当因果関係のある損害として,賠償対象となるはずである。

 ただし,従来から売り上げ減少傾向にあった場合や,震災津波による被災での人口減少分がある場合など,損害額の算定〔こちらで述べたCの部分〕において,実際の減少額の内どこまでが,原発事故によるものかという問題は残り,その部分での絞りはかけられることになろう。

2011-06-14 : ・二次的損害,間接被害者等 : コメント : 0 : トラックバック : 0
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■2条「原子力損害」の意味・範囲 その24 債権侵害による損害

■2条「原子力損害」の意味・範囲 その24 債権侵害による損害

 今回の原発事故で,避難等強いられた取引先会社が倒産し,そのために掛金や貸金が回収できなくなったり,商品の売買契約をなし代金も支払っていたが,放射性物質による汚染等で無価値となり,売り主からの履行が不可能になってしまった場合など,債権が侵害されたといえる場合どうなるのか。

 物権は,有体物の排他的独占的支配権であり,第三者による侵害については,不法行為の成立の余地は当然に認められる。他方,債権は,債権者と債務者の法的関係で,第三者とは直接の関わりが無く,その侵害について,不法行為が成立するのか問題となるが,判例・通説では,不法行為の成立の余地は認められている。


〔分類〕
 第三者による債権侵害について,その分類は,論者によって様々であるが,一応以下のように分類される。(星野,前田)。

ア 第三者に対する弁済が特に有効とされ,債権が消滅した場合
 ex 債権の準占有者(民478)として弁済を受け債権を消滅させる場合など

イ 債権の目的たる給付の侵害
 1 取引行為によるもの
  ex 二重売買など
 2 事実行為によるもの
  ex 特定物の毀損,演奏者の拘禁等

ウ 債務者の一般財産を減少させる場合
 1 取引行為によるもの
  ex 債務者の不動産を廉価で買い取る
 2 事実行為によるもの
  ex 債務者の一般財産に属するものを毀滅,窃取,隠匿するなど


 原発事故,放射性物質による汚染の場合,アや,イ1ウ1のような取引行為によるものは考えられず,事実行為(原発事故)によるイ2給付の侵害,ウ2債務者の一般財産の減少が問題となろう。


〔例〕
 今回,具体的に,どのような事案があるのか不明であるが,考えるとすると,

 イ2としては,たとえば,家畜等の売買契約をして,代金を先に支払い,その所有権移転時期については引き渡し時と約していたが,原発事故で,畜産業者が避難を余儀なくされ,引き渡し前に家畜等が死亡してしまい,その引き渡しができなくなった場合。この場合,畜産業者(債務者)は,自己の落ち度で引き渡し(履行)ができなかつたわけではなく,債権者である買い主に対して債務不履行責任(民法415条)を負うことはなく,買い主からの契約解除もできない(民法543条)。さらに買い主(債権者)は,その時点では家畜の所有者ではないから,財物の汚損等による不法行為で,東電に直接,損害賠償請求することはできないことなる。そこで,買い主が,家畜の引き渡し請求権という債権を,東電の行為によって侵害されたとして,不法行為(原賠法)に基づく損害賠償請求をなしうるかという問題となる。この場合,その家畜の代金相当額以外に,その家畜を転売して獲られた利益も損害とみることができる。
 
 ウ2としては,信用組合が,ある企業〔あるいは個人〕に,事業資金の貸付をしていたが,原発事故で,その企業の財物が汚損され,あるいは避難等で営業ができなくなり,売上げがなくなって,資金繰りに窮し,破産等してしまったため,貸付金の回収ができなくなってしまった場合。


〔考え方〕
※以下,概ね,「事実行為」=原発事故ないし放射能汚染,「第三者」=東電,「債務者」=原発事故の直接の被害者,「債権者」=債務者と取引する者(金融機関等)

● イ2 第三者が事実行為によって目的たる給付を侵害する場合

・債権に公示性がないこと,間接侵害であることから,第三者において,債権の存在についての認識と侵害の認容が必要であり,原則として「故意」を要件とし,例外的に企業損害(間接被害)については,その債務者と債権者との経済的同一性を前提に,「過失」による不法行為を認める〔前田達明〕。(「たとえば主目的は債務者が憎くて殺害する(主たる結果),そのために債権者が被害を被ること(付随的結果),があっても止むを得ないという付随期結果(債権侵害)への認容が必要である。」前田達明,「第三者による債権侵害」類型論,判タ612号2頁)

・債務者の引き渡すべき目的物を第三者が毀滅したときは,履行不能によって債権は消滅し,当事者間では危険負担の問題が生じる(民法534条以下)。それが特定物の売買契約であって,買主が危険を負担し,売主に代金を支払ったときは,買主は目的物を毀滅した第三者に対して,その損害の賠償を請求しうる。さらに,債権者が目的物を転売等によって得べかりし利益を失った場合,そのことについて第三者に予見可能性があれば,その賠償も請求しうる。〔加藤一郎「不法行為」119頁〕

・第三者がその債権存在を認識していることを要する。〔奥田昌道「債権総論」234頁〕


● ウ2 第三者が事実行為によって債務者の一般財産(責任財産)を減少させた場合

・主観的要件として,第三者が,債務者の当該財産を事実行為によって減少させることにより債務者が無資力となり,債権者に満足を与えることができないことを「認容」していることが必要とする。〔前田達明,前掲〕

・経営不振の会社(債務者)から商品の引き上げ。それによって債務者を倒産させ,他の債権者に与えた損害。引き上げが自由競争の範囲の合法的手段によつて行われたものでなく,法規違反ないし公序良俗違反の不法な手段に行われた違法なものの場合に,不法行為の成立を認めた(昭和52年11月24日東京高裁判決,判タ363号215頁)

・第三者が責任財産を減少させた場合,それが財産を毀損するという事実行為によってなされたときは,不法行為の成立する余地はありそうだが,やはり間接的であるから,債権者は,債務者の無資力なときにかぎり,債権者代位権(民法423条)によって,債務者に代位して第三者に損害賠償を請求しうるとする。〔加藤一郎,前掲〕



〔検討〕
 このように事実行為(原発事故など)によって,債権侵害がなされた場合,判例や学説では,原則として過失による侵害では,不法行為の成立までは認めていないようである。
 今回,東電の故意は考えにくい上に,原賠法では,過失の有無は問われず,また,仮に東電に過失があったとしても,それだけでは,債権侵害が不法行為となり損害賠償が認められることはなさそうである。

 ただし,債権者と債務者が経済的同一性がある場合には,例外的に,債権侵害でも,原賠法による損害賠償請求が認められることになろう。判例も概ねこの立場であるが,ここでいう経済的同一性,一体性とは,個人であるAが,法人成りして,事実上の個人企業であるX会社を営んでいるような場合であって(東京地判昭和45年10月31日判タ261号333頁),債権者と債務者がが密接な取引関係にあるという程度では同一体とは認められないであろう。

 なお,イ2の第三者が事実行為によって目的たる給付を侵害する場合,加藤教授によると,債権者が被る転売利益の逸失分については,損害についての予見可能性が要求されることになる。これは,こちらで論じた二次的な損害(間接被害)の相当因果関係の判断において,特別損害について,特別事情の予見可能性を問題とする考え方と,ほぼ同じであり,予見可能性の内容として,どこまで具体的な事情の認識ないし認識の可能性を要求するかという点が問題となろう。
 
 結局,原発事故で,避難等強いられた取引先会社が倒産し,そのために掛金や貸金が回収できなくなったり,商品の売買契約をなし代金も支払っていたが,放射性物質による汚染等で無価値となり,売り主からの履行が不可能になってしまった場合は,債権者が,そのことによる損害を,自らの損害として,民法や原賠法に基づいて,直接,東電に賠償請求することは,原則としてできなさそうである。



〔救済策〕
 少しややこしいが,イ2の第三者が事実行為によって目的たる給付を侵害する場合のような場合は,債権者は,現在は判例上認められる代償請求権(民法536条2項但書,最高裁昭和41年12月23日判決,判タ202号112頁)に基づいて,債務者から,〔家畜の汚損等による〕東電に対する損害賠償請求権の譲渡を受け,それを行使して,救済を受ける余地がある。この場合は,債務者の無資力は要件ではない。
(※最高裁昭和41年12月23日判決,履行不能が生じたのと同一の原因によつて、債務者が履行の目的物の代償と考えられる利益を取得した場合には、債権者は、右履行不能により受けた損害を限度として、債務者に対し、右利益の償還を求める権利があると解するのが相当である。)

 また,ウ2の第三者が事実行為によって債務者の一般財産を減少させた場合は,債権者は,債務者(取引相手=被災者)の無資力を要件として,債務者が東電に対して有する損害賠償請求権を代位行使(民法423条)して,その実現を図る他ないのではないか。
 なお,既に債務者が破産手続きに入っている場合には,債権者は,破産債権者となり,東電に対する損害賠償請求権は破産管財人が行使して回収し,債権者は破産財団の残余によっては債権額の按分での配当を受けるうるにとどまるということになろう。


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■2条「原子力損害」の意味・範囲 その23 二次的な営業損害

■2条「原子力損害」の意味・範囲 その23 二次的な営業損害

 原発事故により退避等の勧告がなされ,工場が閉鎖させれらた場合に,当該工場の営業損害が「原子力損害」として,賠償の対象となることには,余り問題はなかろう。では,その工場から,原材料や部品等を仕入れていた会社が,仕入れ不能によって,一時生産不能に陥り,このため損害を被った場合,どうなるのか。

 1つの不法行為から,連鎖的に損害が波及するような場面で,どの範囲内の損害を賠償すべきかという問題である。因果関係論について相当因果関係説に立つとき,二次的な損害部分は,通常損害ではなく,特別損害であり,その予見可能性が問題とされることになろう。

 電気,通信等のインフラを破壊してしまったような場合,その利用者が多数にのぼることから損害がどこまでも拡大し膨大になものになってしまうことがある。この場合に,解決する策としては,契約当事者間の問題である場合は,契約によって予め限定することができる。不法行為の当事者間では,予め契約があるというわけではないので,立法や保険によってカバーするという方法がある。


 昭和59年におきた世田谷ケーブル火災事件で,通信ケーブルの焼損で電話回線が途絶し,利用者(飲食店)が発生した営業損害につき,電電公社(現NTT)に損害賠償請求をした事件(東京高裁平成2年7月12日判決,判タ734号55頁)では,裁判所は,民法や国賠法より,賠償額を限定した公衆電気通信法109条の適用を優先させ,電電公社を勝たせた。
------------- 
公衆電気通信法
(損害の賠償)
第百九条 公社は、公衆電気通信役務を提供すべき場合において、その提供をしなかつたため、利用者(電報の受取人及び電話の通話の相手方を含む。以下同じ。)に損害を加えたときは、左に掲げる場合に限り、それぞれ各号に掲げる額を限度とし、その損害を賠償する。但し、損害が不可抗力により発生したものであるとき、又はその損害の発生について利用者に故意若しくは過失があつたときは、この限りでない。
 一 電報が速達の取扱とした郵便物として差し出したものとした場合におけるその郵便物が到達するのに通常要する時間(翌日配達電報にあつては、二十四時間を加算した時間)以内に到達しなかつたときは、その電報の料金の五倍に相当する額
 二 照合とした電報の通信文に誤を生じたとき(問合せの取扱により誤を訂正することができた場合を除く。)は、その電報の料金及び照合の料金の合計額の五倍に相当する額
 三 加入者がその加入電話により通話をすることができない場合において、その旨を電話取扱局に通知した日から引き続き五日以上その加入電話により通話をすることができなかつたときは、その旨を電話取扱局に通知した日後の通話をすることができなかつた日数に対応する電話使用料(その通話をすることができなかつた設備に係るものに限る。)の五倍(定額料金制による加入電話にあつては、二倍)に相当する額及びその電話使用料に附加して支払うべき料金(その通話をすることができなかつた設備に係るものに限る。)の五倍に相当する額
<略>
-------------
 原告側は,この規定では賠償額が限定されすぎていて,公務員の不法行為について定めた憲法17条にも反するとして争ったが,東京高裁は,損害すべての賠償をさせると電電公社としての責務を果たしえないことなどから,立法裁量の範囲内のものとして,控訴人(原告)敗訴としている。このように,この案件では,二次的な営業損害については,法律の規定が存在したことから,賠償範囲の限定が相当とされた。(なお,現在は,電気通信事業法になっている。)



 では,このような法律の規定が存在しない場合に,二次的に拡大した営業損害をどうするのか。これについては,最近出た東京地裁の判例がある。

・東京地裁平成22年9月29日判決,判時2095号55頁
 建設会社がクレーン・ブームを上げたまま台船を航行させ,送電線を切断し,139万戸の大規模停電を発生させた。JR東日本は,これによって列車の運行が一時停止し,損害を被ったとして,建設会社に対して,224万円余の損害賠償請求訴訟を提起した。

「送電線を所有する東京電力が直接に被った損害(切断された送電線の復旧作業に要する費用や、停電に伴って発生した電気料金の値引きによる経済的損失など)については、通常損害の枠内で検討が可能であると考えられるのに対し、電気事業者である東京電力から送電を受けていた別事業者である原告が被った損害については,第二次的に発生したものであり、損害主体が異なる上、本件事故以外の諸種の要因と結びついた特別の事情(原告が東京電力との間で電気供給契約を締結し、電気の供給を受け、鉄道事業に利用していたなど,原告主張の損害の前提となる事情)により生じたものと解されるから、相当因果関係の有無の判断にあたっては,被告ら従業員らにその予見可能性を肯定できるかが問題となる。
 ところで、現代社会において、電力は,国民の日常生活や経済活動等に不可欠のものであり、公共事業である電気事業者から電気の供給を受けている電力需要家は,多種多様かつ無数に存在している。したがって、一旦,電気の供給が停止されると、それらの電力需要家に生じる影響は,非常に広範囲なものとなり、しかも連鎖的に無限に拡大し得る。このような場合において、加害者に故意が認められる場合は別として、加害者が,停電により影響が及ぶ可能性をごく抽象的にでも認識可能であれば、そのすべての損害について予見可能性があったとされるならば、損害賠償の範囲は不当に拡大し、加害者にとって酷な結果をもたらすことになる。
 したがって、本件のような過失による事故を起因とする公共事業の遂行停止に伴う、いわゆる第二次的損害の賠償の要否を判断するに際には、上記のような特殊性も考慮に入れて、その相当性を慎重に検討する必要がある。」
「一般に,送電線が切断された場合に,常に停電が生じるわけではない。」
「一般に,送電線が切断された場合に,常に鉄道事業者に対する送電が停止され,直ちに列車運行が不能になるというわけでもない。」
「本件の送電線が切断されることによって,原告に対する送電が停止され,正常な列車運行ができなくなることについて,当然に被告の従業員らにおいて予見が可能であったともまではいえない。」
「被告の従業員らは,クレーン・ブームを上げたまま本件事故の現場を回航すれば,東京電力の送電線を切断することは予見可能であったといえる。しかし上記認定事実を前提としても,そこから先に進んで,本件の送電線を切断すれば,原告に対する送電が停止され,正常な列車運行ができなくなることはまで,被告の従業員らにおいて予見が可能であったと認めるには足りない。」
「電気事業者は,電気工作物が何らかの事由により損傷した場合には,電気工作物の故障の状況や,保安上の危険等を総合考慮して,どの範囲で,どの程度の時間にわたって電気の供給停止を行うかを判断し,所要の措置をとるものである。そうすると,本件において,本件事故と原告主張の損害発生との間には,東京電力の判断も一要素として介在している。」
「以上によれば,被告の従業員らにおいて,本件の送電線を切断すれば,停電事故が発生するとの予見が可能であったと直ちに断ずることはできないし,仮に停電事故が発生することまでは,予見可能であったとしても,そのことをもって直ちに,原告主張の損害の前提となる特別の事情について,予見可能性があったとみることもできない。」
「本件事故が,送電線が上空に架設されている要注意区域において安全確認等を怠り,クレーン・ブームを上げた状態で台船を進行させたという,決して過失の程度が低くない態様によって生じたものであることを十分考慮に入れてもなお,原告主張の損害の前提となる特別の事情について予見可能性を肯定するのは相当でなく,本件においては,相当因果関係があるものと認めることはできない。」


 この東京地裁判決では,電力会社が直接に被った損害については、通常損害の枠内で検討が可能であると考えられるのに対し、別事業者であるJRが被った損害については,第二次的に発生したものであり、損害主体が異なる上、本件事故以外の諸種の要因と結びついた特別の事情により生じたものと解されるから、相当因果関係の有無の判断にあたっては,被告ら従業員らにその予見可能性を肯定できるかが問題となるとしている。

 要するに

・相当因果関係説に立ち
・二次的な営業損害を特別損害と位置づけ
・予見可能性を検討する

というものであり,従来の判例の判断姿勢と何ら異なるものではない。

 不法行為の成立要件として,通説では,相当因果関係を要求し,通常の事情から通常生ずる損害については,加害者側の予見可能性の有無を問題とせずに当然に賠償すべきものとし,その他の特別な事情から生じる損害については,予見可能性がある限りにおいて,賠償すべきものとされる(民法416条類推)。〔過失論で問題となる「予見可能性」とは別のもの〕

 
・特別損害の賠償の要件としての「予見可能性」の内容については,以下の点が問題となろう。

1 認識の程度
2 故意不法行為と過失不法行為で区別するか
3 可能性判断の要素
4 誰を基準とするか
5 判断基準時
6 裁判所による予見可能性の認定は,事実としての予見可能性の認定か,予見すべき範囲の画定か。


 先の判例では,

1 公共事業のように損害が無限に拡大する可能性ある場合には,予見可能性の程度については,抽象的なものでは足りないとするようである。

2 また「加害者に故意が認められる場合は別として」とあり,故意と過失とで,別の判断の余地があることが示されている。

3 可能性判断の要素
 この判決では,①クレーン・ブームを上げたまま回航で送電線切断に至ること,②送電線切断で停電に至ること,③停電に至ると電車の運行が止まることのうち,①については従業員の予見可能性を認めたが,②については,送電線について二系統あり,ひとつ切断してももうひとつあるので,切断が直ちに停電に結びつくものではないことから予見可能性を否定した。また,仮に②について予見可能性があっても,③については,電力会社による電気供給停止についての判断の介在もあることから,その予見可能性を否定している。

4 また,この判決では,認識可能性判断は,当該従業員の認識を基準にしている。

5 判断基準時は,不法行為時。

6 裁判所による予見可能性の認定は,事実としての予見可能性の認定か,価値判断を含む予見すべき範囲の画定かという問題について,この判例では,インフラ破壊で損害が膨大に膨らみ加害者に酷な結果となるのは不当として,慎重な検討が必要とのべており,とちらかと言えば後者か?


 前述のとおり,電気や通信設備の破壊などで,損害が莫大に広がる可能性がある場合に,それを契約や,立法,保険等でカバーする法技術も考え得るが,それが現になされていない場合に,拡大損害をどうするのかという問題である。

 究極的には損害の公平な分担という観点から,妥当な結論をどのように導くかという問題であり,個別事案ごとに考量すべき事情があろう。電気,電話,公共交通機関など,インフラの破壊では,多数の人に迷惑がかかり,損害が膨大なものになる可能性がある。この場合,加害者の賠償範囲を限定すると,その分被害者が泣き寝入りということになり,他方,被害者が完全な賠償を受けるとなると加害者が莫大な賠償義務を負担することになり酷な結果になるおそれがある。この両者をどの点で調和させるのかという問題で,利用者が,インフラが使用できなくなった場合に損害発生拡大についてどの程度の準備をしておくのが普通なのかということなど,被害者側の受忍すべき程度も問題となろう。



 原発事故の場合,インフラの破壊というものではないが,それよりひどく,放射性物質による汚染で,複数の町村を完全に使用できなくさせたものであって,そこで発生した損害から,二次,三次と営業損害が波及していく点は似ている。

 予見可能性については,故意不法行為ではない場合に,損害の拡大についての抽象的な認識では足りないものとするとして,その判断を誰を基準にするかという問題がある。
 原発事故で無過失責任を問われるような事案で,従業員が具体的に何かの故意又は過失ある不法行為を為したという場合でないときは,取締役ら業務執行の意思決定機関の構成員の認識を基準とする他ないのではないか。

 特別損害が賠償対象となるには,①特別事情についての予見可能性と,②その特別事情から一般通常人を基準してその結果が生じることが通常であること(相当性)が必要であるはずで,①は事実認定として,誰が具体的にどのような事実を認識し,又は,認識しえたかという問題であろうし,②は規範的要件としての「相当性」の問題であり,当事者は,その根拠となる事情を主張立証することになるはずである。
 ただし,契約当事者間の債務不履行による損害(民法416条)のように,契約相手の事情等の把握が現に期待できる場合は別として,不法行為のように全く相手のことなど知らないのが原則である場合に,仮に予見可能な特別事情に基づく通常損害というものを観念しうるとしても,その具体的認定においては,ある特別な事実の認識ないしその認識可能性の問題とはされず,通常は常にそうなるとまでは言えない程度の特異な因果経路について,それを現に予見しまたは予見し得た場合に責任を負わせるという思考方法になるのであろう。

 先の判例の判断態度は,要するに,常にそうなるとは言えない程度の特別な因果経路であっことと,そのような因果経路を辿ることを従業員が認識しておらず,その可能性もなかったことから,予見可能性を否定するというものであろう。特別な因果経路であることの認定を厳しめにし,その認識可能性も厳しめに認定すると,こうなるのだろう。

 そこで,この判決なみに予見可能性を厳格に考えると,工場が止まっても,そこで作られている部品が,常に他の会社にとって,他に代替品のない決定的に重要なものであるとはいえないことから,原発事故時〔不法行為時〕に,〔原子力事業者の意思決定機関の構成員の認識において〕,原発事故により退避勧告等で損害をうけた市町村内に部品工場等が存在し,その部品が他の会社の製品製造に不可欠なものであり,他に代替品もなく,その工場の操業停止によって,他社に営業損害が生じうることを現に認識し,またはそのような事実の認識が可能であった場合に,初めて予見可能性のある特別損害として賠償対象となるということになろうか。


2011-05-31 : ・二次的損害,間接被害者等 : コメント : 0 : トラックバック : 0
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■2条「原子力損害」の意味・範囲 その15 東電の債権者(金融機関等)の損失

■2条「原子力損害」の意味・範囲 その15 東電の債権者(金融機関等)の損失

【「原子力損害」か?】
 東電株暴落による株主の損失について論じたのと似た問題で、原発事故前から東電に債権を有していた者について、その債権の全部または一部について、弁済が得られないことになったとすると、それを「原子力損害」とみてよいかという問題がある。
 感覚的には、金融機関が弁済を受けられないからといって、それは、検討するまでもなく、「原子力損害」ではないという気はする。。
 もともと金融機関は、東電に対して、金銭消費貸借契約等の契約上発生する債権を有するので、通常は、他に不法行為の成立など検討する必要もないが、不法行為規定の特別法たる原賠法に基づく賠償請求権の場合、同法16条で国の関与によって最終的にはどのようなカタチであれ賠償されると解する余地があり、契約上発生する債権(貸金返還請求権)よりも有利となる可能性があるので、特に問題となる。

「原子力損害」の考え方についてはこちら

 まず、「原子力損害」の意味を、原賠法2条2項の字義どおり,核燃料物質の原子核分裂の過程の作用又は核燃料物質等の放射線の作用若しくは毒性的作用により生じた損害として、狭く考えていく限定説では、債権者の損失は、「原子力損害」には当たらないことになろう。
 これに対して、いくつかの下級審判例のように、原子炉の運転等(2条1項)により発生した損害で,2条3項の「作用」と相当因果関係あるもの全てを含むと広く捉える説では、「原子力損害」に該当する可能性がある。
 相当因果関係は、一般社会通念上、その原因があれば、その結果が生じることが、通常といえるかという観点で判断されるので、今回のような大規模原発事故があれば、東電が莫大な損害賠償責任を負い、債権の種類のもよるが、貸し金全額の弁済が受けられなくなることは通常ありうることといえ、相当因果関係は認められる余地がある。
 しかし、今までの判例で扱われた事例は、放射線による身体の障害、原発事故によるPTSD等精神的損害、危険性認識による近隣土地の価値の下落、漁業や加工食品への風評被害等が問題となったものであり、これらに共通するのは、放射性物質の危険性が前提で、その物理的又は精神的影響により発生した損害であって、債権者の損失をこれらと同様に考えてよいのかは問題である。そもそも原賠法3条は、危険責任の法理に基礎を置くものであることから、核燃料物質の特殊な危険性からは遠い、原子力事業者の債権者の損害までは、「作用」(2条2項)によるものとは言えないとして、無限定説に立った場合でも「原子力損害」には当たらないとされるのではないか。



【債権の優先順位】
 債権の優先順位について検討してみる。

まず、原賠法上、原子力損害の賠償責任を負うのは、原子力事業者のみであり(3条、4条)、その子会社等関連会社は原子力事業者(2条1項)でない限り、賠償義務はない。したがって、ここでは直接、東電に貸し付けをしている金融機関等の債権について考えたい。

 仮に東電が破産した場合などは、以下のような順位となる。

1 抵当権など特定財産上に別除権ある債権

2 財団債権
 租税のうち納期未到来や納期限から1年を経過していないもの、破産開始決定前の3か月間の未払給料、退職前3か月分の退職金など

3 優先的破産債権(一般の先取特権その他優先権ある債権)
 租税のうち納期限から1年を経過したもの、財団債権となるもの以外の労働債権など

4 一般の破産債権

5 劣後的破産債権
 破産手続開始後の利息など



〔金融機関〕

①金融機関が、東電に長期の貸し付けなどして、その債権を被担保債権として、東電所有の不動産等に抵当権を設定しているような場合、上の1の別除権付債権に該当する。

②東電が、社債(短期社債除く)を発行し、金融機関がそれを引き受けている場合は、電気事業法37条で、一般担保付社債として、3の優先的破産債権に該当する。

③その他の売掛金や無担保の貸付、短期社債等は4の一般破産債権に該当する。

〔原子力損害を受けた被害者〕

 原子力損害の賠償請求権は、特に優先させる規定がないので、一般の不法行為に基づく損害賠償請求権と同様、4の一般の破産債権に該当する。



 税金、賃金等の処理を置いておくとして、この場合、大雑把に言うと、東電の全資産を売却等により金に換えて、そこから上の①②の金融機関の債権を全部弁済し、その残りがあれば、それを金融機関と一般の被害者で、残債権額、損害額にそれぞれ応じて案分して支払いを受け、金融機関はそれ以上はあきらめることになり、他方、一般の被害者については、それで足りない分について原賠法16条により救済される余地があるということになる。

 現在、東電の発行済み社債額が5兆円を超えるなどと報道されていて、金融機関による債務免除の話が出てきているが、金融機関がこれに応じる法的義務はない。仮に金融機関の有する債権が上の①と②がほとんどならば、東電が破産してもほとんどが優先的破産債権以上なので、一般の被害者への賠償前に弁済を得ることができ、(東電の資産の量や内容にもよるが)ほとんど満足を得られることになるから、債務免除までして東電存続を主張するより、経済的にはさっさと債権者として東電の破産を申し立てした方が得ということになる。〔ただし、事故後に一般担保付社債を引き受けて、その金で、無担保貸付部分の弁済を受けるようなことをしていた場合は、管財人による否認の可能性がある。〕

 金融機関の①と②の債権は、一般の被害者より優先するので、東電に資産がある限り、弁済を受けられるのは法律的には当然として、③の部分については、本来は、原賠法がなければ東電は破産して残余がなければ0、残余があったとしても一般の被害者と平等に案分してしか弁済を得られなかったはずのものである。
 これをたまたま原賠法16条による救済スキームで東電存続が前提となったからといって、その本来受けられないはずの③の部分まで、金融機関が全額弁済を受けられることになるというのは不当という感じもある。

 もっとも、これも静的に事態を見るのではなく、東電が、今後も電気事業等を継続し、十分な利益を継続的に得ることができ、また役員報酬、従業員給与、宣伝広告費等の費用を抑えて利益を増大させ、それを支払いに充てていく、一般の被害者への賠償部分についても最終的には国も負担を被らないというのなら、長期的にみて金融機関が最終的に今ある債権全額の弁済を得ても、特に不当とは思えない。


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電気事業法

(一般担保)第37条 一般電気事業者たる会社の社債権者(社債、株式等の振替に関する法律(平成13年法律第75号)第66条第1号に規定する短期社債の社債権者を除く。)は、その会社の財産について他の債権者に先だつて自己の債権の弁済を受ける権利を有する。
2 前項の先取特権の順位は、民法(明治29年法律第89号)の規定による一般の先取特権に次ぐものとする。

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2011-05-15 : ・二次的損害,間接被害者等 : コメント : 0 : トラックバック : 0
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■2条「原子力損害」の意味・範囲 その14 計画停電による損失

■2条「原子力損害」の意味・範囲 その14 計画停電による損失

 今回の計画停電で,何らかの損失を被った人が,東電に対して,何らかの請求ができないか検討してみる。ただし,未だ原発事故は終息せず,事実関係も不明である。このため以下は,全て仮定の話であり,特に原賠法以外の責任については,東電側に,今回の計画停電等について,なんらかの落ち度が存在したことが前提である。

計画停電では,下記のとおり,概ね2~3週間ほど混乱があっただろうか。
3月11日 震災津波
3月13日 14日からの計画停電アナウンス
3月14,15日 停電なし
3月16日 停電あり
その後,有ったり無かったり,混乱
4月8日 計画停電原則停止宣言?

【停電による損害】

(契約関係の有無)
・東電と電気供給契約を締結している者
→原賠法3条の賠償責任→過失立証不要,東電は原則無過失又は不可抗力の抗弁もできず
→民法415条の債務不履行責任→過失立証不要,東電が不可抗力又は無過失立証要す
→民法709条の不法行為責任→過失立証必要
・東電と電気供給契約を締結していない者
→原賠法3条の賠償責任
→民法709条の不法行為責任

(現実の停電の有無)
・現実の停電での被害
・停電予定アナウンスでの被害




【原発事故を起点として考えるパターン】

1 原賠法上の責任
 まず,今回の計画停電による損害を,原発事故を起点として考えると,この損害が類型として「原子力損害」に該当しうるかが問題となる。「原子力損害」に該当しうる場合は,相当因果関係のある損害といえる限り,東電側の過失の有無にかかわらず,賠償請求できることになる。
 「原子力損害」の解釈については、こちら。http://genbaihou.blog59.fc2.com/blog-entry-16.html 
まず、「原子力損害」の意味を、2条2項の字義どおり,核燃料物質の原子核分裂の過程の作用又は核燃料物質等の放射線の作用若しくは毒性的作用により生じた損害として、狭く考えていく限定説では、計画停電による損失は、「原子力損害」には当たらないことになろう。
 これに対して、いくつかの下級審判例のように、原子炉の運転等(2条1項)により発生した損害で,2条3項の「作用」と相当因果関係あるもの全てを含むと広く捉える説では、「原子力損害」に該当する可能性がある。
 相当因果関係は、一般の社会通念上、その原因があれば、その結果が生じることが、通常といえるかという観点で判断される。
 そこで,福島第一原発の事故があれば,通常,電力不足になって,不可避的に計画停電に陥るということであれば,相当因果関係は肯定されよう。しかし,福島第一の事故があろうが無かろうが関係なく,大地震と大津波で,火力発電所を含む他の多数の発電所の停止があって,主としてそちらが理由で,必然的に発電量不足が発生し,計画停電に至ったような場合には,福島第一の原発事故があれば,計画停電が生じることが通常であるとはいえないとして,裁判では相当因果関係が否定されるかもしれない。
 また,そうでなくても、原賠法について,今までの判例で扱われた事例は、放射線による身体の障害、原発事故によるPTSD等精神的損害、危険性認識による近隣土地の価値の下落、漁業や加工食品への風評被害等が問題となったものであり、これらに共通するのは、放射性物質の危険性が前提で、その物理的又は精神的影響により発生した損害であって、計画停電による損失をこれらと同様に考えてよいのかは問題である。そもそも原賠法3条は、危険責任の法理に基礎を置くものであることから、核燃料物質の特殊な危険性から、かなり遠い損害であるこういつた損害までは、「作用」(2条2項)によるものとは言えないとして、無限定説に立った場合でも、「原子力損害」には当たらないとされる可能性もある。

2 債務不履行責任
 これは契約上の責任の追及であって,債務不履行(停電等)がある以上,起点を問題とする必要がないので後述。
 なお、上で「原子力損害」に該当すると考えた場合に、契約上の責任も問えるか否か問題となるが、原賠法が不法行為の特則であるという理由で民法709条を排除するとすれば、この場合、債務不履行責任の追及を否定する理由はないと思われる。〔ただし,平成20年2月27日・水戸地裁判決では,原賠法で,債務不履行責任に関する規定も排除するような判決文になっている。〕

3 不法行為責任
 まず,原賠法の「原子力損害」に該当する場合には,判例上は,原賠法以外に,民法の不法行為責任を別途問題とできない(水戸地裁平20年2月27日判決判タ1285号201頁)。
 停電による損失を「原子力損害」以外のものとする場合は,民法709条の不法行為責任が問題となうる。そしてこの場合,原発事故について,東電側の故意又は過失と,原発事故と損害との間の相当因果関係の立証が必要になり,先に述べたのと,同様の問題となり,福島第一の事故があろうが無かろうが関係なく,大地震と大津波で,火力発電所を含む他の多数の発電所の停止があって,主としてそちらが理由で,必然的に発電量不足が発生し,計画停電に至ったような場合には,福島第一の原発事故があれば,計画停電が生じることが通常であるとはいえないとして,裁判では相当因果関係が否定されるかもしれない。



【計画停電を起点として考えるパターン】

1 原賠法上の責任
 計画停電自体は,原賠法2条1項の「原子炉の運転等」に該当しないので,ここを起点とする限り,原賠法上の責任追及はできない。

2 債務不履行責任
 これは計画停電ないしその判断に落ち度あったとして,電気供給契約に基づく契約上の責任を追及するものである。
 東電の電気供給約款(平成22年10月12日)には以下のように書かれてある。〔なお工場等の大口需要家との契約は別ものと思われる。〕

----------------------
40 供給の中止または使用の制限もしくは中止
(1) 当社は,次の場合には,供給時間中に電気の供給を中止し,またはお客さまに電気の使用を制限し,もしくは中止していただくことがあります。
イ異常渇水等により電気の需給上やむをえない場合
ロ当社の電気工作物に故障が生じ,または故障が生ずるおそれがある場合
ハ当社の電気工作物の修繕,変更その他の工事上やむをえない場合
ニ非常変災の場合
ホその他保安上必要がある場合
(2) (1)の場合には,当社は,あらかじめその旨を広告その他によってお客さまにお知らせいたします。ただし,緊急やむをえない場合は,この限りではありません。
42 損害賠償の免責
(1) 40(供給の中止または使用の制限もしくは中止)(1)によって電気の供給を中止し,または電気の使用を制限し,もしくは中止した場合で,それが当社の責めとならない理由によるものであるときには,当社は,お客さまの受けた損害について賠償の責めを負いません。
(2) 36(供給の停止)によって電気の供給を停止した場合または48(解約等)によって需給契約を解約した場合もしくは需給契約が消滅した場合には,当社は,お客さまの受けた損害について賠償の責めを負いません。
(3) 漏電その他の事故が生じた場合で,それが当社の責めとならない理由によるものであるときには,当社は,お客さまの受けた損害について賠償の責めを負いません。
-----------------------

 今回の計画停電が,電気事業法27条によるものではなく,東電の自主的なものであるとすると,その根拠は,上の約款の40条(1)ということになろう。
 この場合,同約款42条,「それが当社の責めとならない理由によるものであるときには,当社は,お客さまの受けた損害について賠償の責めを負いません」とあるので,これは東電の債務不履行について東電に帰責事由がある場合には,賠償責任を負うことを前提とするもので,民法の規定(民法415条)の確認にすぎない。

 事実関係が不明なので,どういう債務不履行がありうるのか考えてみる。

A 客観的に電力不足だった
 →履行不能
 ※不能に至った経緯(発電所の防災対策等に問題?)に,過失が無かったか否かが問題。

B 客観的には電力不足ではなかった
 B1現実に停電された
 →履行遅滞?不能?
 ※そもそも停電実施の判断になんらかの落ち度? 節電の呼びかけで十分だった?
 B2アナウンスだけで現実には停電されなかったが迷惑被った
 →不完全履行?
 ※実施判断および計画に落ち度?
 
 上のどの類型でいくかによって,東電側のどの落ち度(故意又は過失)を突いていくかが異なるが,いずれにしても債務不履行がある以上は,東電側が,計画停電について帰責性なきこと(無過失)の立証をしなければならない。

 なお,どの場合でも,計画停電ないしそのアナウンスと損害との間の相当因果関係の立証は必要である。原発事故を起点にしなくてよい。損害内容によるが計画停電(ないしそのアナウンス)と損害との相当因果関係は比較的容易に立証できそう。あとは東電が無過失ないし不可抗力の抗弁を出してきて,それが認められる否かで勝敗が決まるだろう。

3 不法行為責任
 電気供給契約当事者でなくても,請求可能性がある。ただし,2の債務不履行責任の場合と異なり,請求する側が,東電の故意又は過失を立証しなければならない。それ以外はほぼ同様。

テーマ : 原発事故
ジャンル : ニュース

2011-04-19 : ・二次的損害,間接被害者等 : コメント : 0 : トラックバック : 0
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■2条「原子力損害」の意味・範囲 その12 東電株暴落による株主の損失

■2条「原子力損害」の意味・範囲 その12 東電株暴落による株主の損失

 現在、事故前の4分の1程度まで下落しているようだが、この下落が原発事故に起因することは明白で、事故前から株主であった者は、多大な損失を出しているだろう。そこで、この責任を東京電力やその役員に直接問えないかが問題となる。結論としては、「原子力損害」の解釈よりも、会社法上の理屈で、最近の下級審判例の趣旨に従う限り直接請求には困難性があり、株主の損害回復は、責任追及等の訴え(会社法847条・株主代表訴訟)を通じて行われることになるのではないか。

第1 株価下落による損失は原賠法3条の「原子力損害」に該当するのか?
 「原子力損害」の解釈については、こちら。http://genbaihou.blog59.fc2.com/blog-entry-16.html
 まず、「原子力損害」の意味を、2条2項の字義どおり,核燃料物質の原子核分裂の過程の作用又は核燃料物質等の放射線の作用若しくは毒性的作用により生じた損害として、狭く考えていく限定説では、株価下落による損失は、「原子力損害」には当たらないことになろう。
 これに対して、いくつかの下級審判例のように、原子炉の運転等(2条1項)により発生した損害で,2条3項の「作用」と相当因果関係あるもの全てを含むと広く捉える説では、「原子力損害」に該当する可能性がある。
 相当因果関係は、一般の社会通念上、その原因があれば、その結果が生じることが、通常といえるかという観点で判断されるので、大規模原発事故があれば、東電株が暴落するのは通常のことといえ、相当因果関係は認められることなろう。
 ただし、今までの判例で扱われた事例は、放射線による身体の障害、原発事故によるPTSD等精神的損害、危険性認識による近隣土地の価値の下落、漁業や加工食品への風評被害等が問題となったものであり、これらに共通するのは、放射性物質の危険性が前提で、その物理的又は精神的影響により発生した損害であって、株価の下落をこれらと同様に考えてよいのかは問題である。そもそも原賠法3条は、危険責任の法理に基礎を置くものであることから、核燃料物質の特殊な危険性から、かなり遠い損害である株価の下落までは、「作用」(2条2項)によるものとは言えないとして、無限定説に立った場合でも、「原子力損害」には当たらないとされる可能性もある。
 以下、場合分けして検討してみる。

第2 株価下落による損失が「原子力損害」に当たらないとした場合(民法・会社法によるもので過失立証必要)
 1 株主から取締役ら役員個人に対する責任追及
 第三者からの、取締役個人に対する責任追及については、こちら(http://genbaihou.blog59.fc2.com/blog-entry-45.html)で述べた。株主といえど会社との関係では「第三者」であり、損害が、「原子力損害」に該当しない場合は、その損害の賠償を取締役ら役員個人に請求できる可能性がある。
 ただし、これは株主としての地位と全く関係なく原発事故等から直接被害(避難者等)を受けた場合や、株主としての地位に基づくとしても株主平等原則に反する扱いを受けた場合(直接損害)であって、株価下落による損失(間接損害)については、会社法上の別の問題がある。
 取締役の任務懈怠等によって、会社が損失を出し、その結果株価が暴落し、株主が損失を被ったような場合(間接損害)、株主は株主代表訴訟によらずに、個人で役員に損害賠償請求できるのかという問題(会社法429条「第三者」の範囲等)である。
 最高裁の昭和44年11月26日判決では、間接損害も含むと理解されていたのであるが、近時の下級審判例でこれと異なった結論が出されてきている。
 東京地判平成8年6月20日(判タ927号233頁)では、いわゆる間接損害に関する限り株主は代表訴訟を提起すべきで,商法266条の3(現行会社法429条)に基づく請求を提起できないとし、東京高判平成17年1月18日(雪印食品損害賠償請求事件控訴審判決・金融商事判例1209号10頁)では、公開会社の業績悪化による株価下落など,全株主が平等に不利益を受けた場合,株主は特段の事情がない限り商法266条の3のみならず民法709条によっても取締役に対して直接損害賠償を請求することはできないとした。このような結論に至るのは、①資本維持原則、②424条以下の免責規定との均衡論、③株主平等原則その他が理由である。
 したがって、こと株価下落による損失に関する限り〔決算書類の不実記載等については金融商品取引法、旧証券取引法上の別の問題あり〕、株主から、役員個人への直接の責任追及は、こういった最近の判例に従うかぎりできないことになる。
 2 株主から会社に対する責任追及
 株価下落によって被った損害について、株主が、会社に対して、直接に損害賠償請求しうるかという問題であるが、これについても上記と同様の問題がある。会社への請求根拠としては、民法709条、同715条、会社法350条があり、特に会社法の350条の「第三者」の範囲が論点となっている。
 ここで、「第三者」に株主が含まれるという説に立つと、株主から会社への請求が可能となる。
 逆に、上の会社法429条の「第三者」と同様に、「第三者」には株主が含まれないという説に立つと、株主から会社への直接請求はできず、株主は株主代表訴訟を通じて、取締役ら役員から会社に損害を賠償させて、それによって株価を回復して、株価下落の損害を回復せよということになる。〔こういった考え方は、要するに株主は、会社との関係で、全くの第三者ではなく、株主総会を通じて、取締役を選任できるわけだし、自分が雇った役員がヘマをやらかして、会社に損失が出たとしても、それはある程度甘受せよ、あるいは代表訴訟を通じて回復せよという判断があるのかもしれない。〕

第3 株価下落による損失が「原子力損害」に当たるとした場合(原賠法3条によるもので過失立証不要)
 1 株主から取締役ら役員個人に対する責任追及
上記の同様、会社法上の問題があるが、いずれにしても、原賠法4条の責任集中の原則により、取締役は、「原子力事業者以外の者」として免責されることになろう。
 2 株主から会社に対する責任追及
 原賠法3条は、民法の不法行為規定の特則と理解されているので、株価下落の場合に、民法709条で株主が会社に損害賠償請求できるのかという論点と同様の問題であり、これについても、資本維持原則、その他の理論で、否定する説と肯定する説に分かれることになろう。


〔結論〕
1 株価下落による損失が「原子力損害」に当たらないとした場合
(1)株主から取締役ら役員個人に対する責任追及
  可?→古い最高裁判例
  不可→最近の下級審判例
(2)株主から会社に対する責任追及
  可?
  不可→最近の下級審判例の趣旨から
2 株価下落による損失が「原子力損害」に当たるとした場合
(1)株主から取締役ら役員個人に対する責任追及
  不可→原賠法4条
(2)株主から会社に対する責任追及
  可?
  不可→最近の下級審判例の趣旨から


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2011-04-17 : ・二次的損害,間接被害者等 : コメント : 0 : トラックバック : 0
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