東日本大震災以降,原子力損害賠償法に興味あり,同法と東京電力の責任についても検討してみたい。

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■2条「原子力損害」の意味・範囲 その21 風評被害 賠償範囲を限定する道具立て

■2条「原子力損害」の意味・範囲 その21 風評被害 賠償範囲を限定する道具立て

 原賠法では,無過失責任をとっているため,加害者側の「過失」の有無によって,その責任の範囲を画することはできない。
 ただし,風評被害だけでなく,他の「原子力損害」や不法行為に基づく損害一般について,その範囲を画するものとしては,「過失」以外に以下のようなものが考えられる。〔相当因果関係説に立つとして、広い意味では下のABCは相当因果関係の有無の認定の問題〕


A 事実的因果関係
 1 条件関係
〔2 反復可能性〕
 3 因果関係の中断論

B 相当因果関係
 1 通常損害と特別損害の別
 2 特別損害については予見可能性

C 損害
 1 損害の有無の認定
 2 損害額の評価

D 過失相殺(民法722条2項),被害者の素因等の原因の競合
 1 過失相殺
 2 原因の競合(被害者の素因等)



 風評被害について,不当請求や過剰請求を防ぐとして,

・原発事故と全く関係のない理由による減収
→(A)事実的因果関係なしとして,排除

・風評はあったものの実際には減収がなかった場合
→(C1)損害の有無の認定で排除

・風評による減収があったが,過大な評価で請求がなされた。
→過大評価部分については,(C2)損害額の評価で排除

・風評による減収があったが,損害拡大に被害者側の落ち度があるとき
→(D1)過失相殺で調整

・原発事故を起点とするが,風評の発生,流布について第三者の不法行為や犯罪行為が介在して発生した風評による損害
→その程度によっては,(A3)因果関係の中断で,事実的因果関係否定
→(B1)相当因果関係における「相当性」の問題とし通常損失としては排除。ただし,B2予見可能性がある場合には,特別損失も賠償対象となる。

 たとえば,原発事故後,ある輸出業者が,原発近隣県で収穫された汚染作物を,それと知りながら,意図的に産地偽装して,それまで全く汚染作物がとれたことのない離れたa県産として,外国に輸出したため,その国の検査の結果,当該a県産作物の輸入禁止措置がとられ,それによってa県の農家等が損害を被った場合。
 この場合は,かなり特殊な因果経路で,a県農家が被害を被ったものといえ,場合によっては,原発事故との相当因果関係が否定されることもあり得る。この場合でも,何か特別な事情があって加害者側がそのようなことの経緯を予見できていた場合には,予見可能な特別損害として,相当因果関係は肯定されるかもしれない。

・原発事故からくる風評で,一般消費者の合理的判断結果として(社会通念上是認できる判断として)の買い控えによって発生した被害
→判例等のどの理論によっても排除されず。「原子力損害」に該当

・原発事故からくる風評で,一般通常の消費者の合理的とはいえない(社会通念上是認できない判断による)買い控えによって発生した被害
→判例の理屈では,おそらくそれは異常な因果経過であって,通常発生する結果ではなく,(B1)通常損害には該当せず,また,仮に特別損害としても,そのような結果は(B2)予見可能性がないので,いずれにせよ「相当因果関係」がないとして排除

※平成元年5月17日・名古屋高等裁判所金沢支部判決(判タ705号108頁)
 敦賀原発風評被害訴訟。昭和56年1月敦賀原発において,日本原子力発電が,放射性物質を漏洩させた事故に関するもの。事故事実の公表後,風評被害が広がり,水産市場関係者が,売上げ減少による損害の賠償につき,日本原子力発電株式会社を訴えた。
「消費者の個別的心理状態が介在した結果であり,しかも,安全であっても食べないといった,極めて主観的な心理状態であって,同一条件のもとで,常に同様の状態になるとは言い難く,また一般的にも予見可能性があったともいえない。すると,本件浦底湾における人体に影響のない微量の放射能漏れと敦賀の消費者の金沢産魚介類の買い控えとの間には,相当因果関係はないというべきである。」

 このような風評被害の場合に,相当因果関係の判断に関し,消費者の判断の合理性(一般に是認できるか否か)を問うという態度については,これまでも疑問があると述べてきた。

 もともと民法における相当因果関係論は,ある行為があって,そこから因果経路をどこまでもたどっていくと,意外なところにまで及ぶことがあり,そのような損害まで,全て加害者に負担させるのは適当ではないということから,事実的因果関係を前提に,相当因果関係を要求し,それによって,その意外な結果〔一般通常人を基準に,その原因からその結果が生ずることが通常とはいえないもの〕の責任負担を除こうとするものである。
 したがって,本来,因果関係の相当性は,「その原因からその結果が生じる」のが,一般通常人の認識として通常といえるのかという点が問題であるのに,上の風評被害の判例では,「消費者の買い控えの判断が,一般通常人の判断として通常といえるのか」という問題に置き換わっていて,これには論理の飛躍があると言わざるを得ない。

 以前から述べているが,そもそも一般通常人の判断の合理性とか,社会通念上是認できるか否かを問題とするには,危険性の認識の程度や,それに対する対処方法や受忍限度について,ある程度の社会的コンセンサスがあるような場合ならまだしも,一切放射性物質が漏洩せずにうわさのみで発生したような風評被害のような場合とちがって,今回は,基準値を超える食品の汚染が現実に出てきた事案であって,そのような異例な事態において,一般通常人を想定して,その消費行動が是認できるか否かを,判断すること自体無理があるのではないか。

 また,仮に,そのような場合にも,一般通常人の合理的判断,社会通念上是認できる判断というものが想定できたとしても,現に一部消費者に買い控えが起きている場合に,それを不合理,過剰なものとして,相当因果関係無しとできるのだろうか。
 通常,問題となる農作物などの生産物は,一人の取引相手に向けて作られたものではなく,多数に消費者に向けられて作られている。多数の消費者に中には,微量の汚染など気にしない人と,過敏に反応する人が混在しているのは明白であって,今回のような事故が起きれば,それが仮に科学的に概ね安全であるとしても,全体として見れば,一定数の過敏な消費者が買い控えに出て,価格低下,売上げ減少に至ることは通常のことであって,通常損害といえ,因果関係の相当性は当然にあるといわざるを得ない。
 
 仮に,多数の消費者の回避行動を,全体として観察することが許されないとし,過敏な消費者の個別の判断はやはり特異なものであるとして,通常損害とは言えないとしても,もともと農作物等が多数の消費者に向けられて作られるものであり,かつ,さまざまな考えを持つ消費者の中には過敏な反応をする人も一定数いることは明白なのであり,そのような消費者の回避行動があり得ることは,容易に予見できるのであり,予見可能性ある特別損害として,相当因果関係は肯定されるのではないか。

 このように解しても,生産者は,事故後の風評の広がりによって,放射性物質による汚染を恐れた消費者が買い控えをして(事実的因果関係),その結果,現実に減収が生じたこと(損害)までは立証しなければならないのであり,敦賀原発風評被害訴訟などでは,前記のAとCだけで十分に妥当な判決を導き得た事例であり,相当因果関係の問題とする必要はそもそも無かったものである。

 結局,風評被害の場合に,相当因果関係の判断を,その回避行動が一般通常人を基準として是認できるか否かという基準で行うのは,前述のとおり,理論の飛躍がある上に,汚染が全くないと確実にいえる事案以外にまで適用することの妥当性に問題があり,さらに,他の既存の道具立てだけでも十分に適正な結論を導きうるのであり,少なくとも個別事案を担当する裁判手続きにおいては,その必要性は乏しいといわざるをえない。

 このように個別事案の判断においては,相当因果関係の判断を,回避行動が一般通常人を基準として是認できるかという基準で行う必要は全くないと思うが,迅速大量画一的処理が要求されるような紛争審査会の指針ようなものでも,この基準にこだわる必要はなく,どのみち場所や作物等により何らかの類型化をするわけであろうが,原発や汚染地域からの距離的要素は,単に,A事実的因果関係を推認させる要素とみてよいし,各産地や作物に関する区別や報道等の消費者を取りまく状況も,放射性物質への恐れから買い控えに出たこと〔他の理由による買い控えでないこと。合理性の有無は問わない〕を示す要素であり,A事実的因果関係を推認させる要素なのであって,これらを因果関係の「相当性」判断に関する類型と位置づける必要はない。


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2011-05-27 : ・風評被害 法律的な理屈 : コメント : 0 : トラックバック : 0
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■2条「原子力損害」の意味・範囲 その18 風評被害 消費者の回避行動と因果関係

■2条「原子力損害」の意味・範囲 その18 風評被害 消費者の回避行動と因果関係


 営業損害としての風評被害については,結局,どのような損害を賠償対象と認めるべきか(価値判断)と,そのための範囲を画する理論をどうするのか(論理的枠組み)という点が問題となる。


〔損害と価値判断〕
①原発事故と関係ない損害の請求
②原発事故に起因するが,一般人を基準に,社会通念上,合理的なものとして是認できない過剰な回避行動による損害の請求
③原発事故に起因し,一般人を基準に,社会通念上,合理的なものとして是認できる回避行動による損害の請求

 まず,①の排除は争いがなかろう。③を賠償すべき損害と捉えることも争いがないはずである。しかし,②について,これによる損害を,生産者等が負担すべきと考えるか,原子力事業者が負担すべきと考えるか,どちらが公平といえるのか,価値判断のレベルで分かれるのではなかろうか。


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〔因果関係論〕
ア 相当因果関係説(事実的因果関係前提に相当因果関係判断)判例・通説
 ア1 民法416条類推肯定説
 ア2 民法416条類推否定説
イ 保護範囲説(事実的因果関係,保護範囲,金銭評価)有力説
 イ1 義務射程説
 イ2 危険性関連説
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 因果関係論について,判例通説の相当因果関係説に立ったとてしても,判断の理論的な枠組みとしては,以下のようなものが考えられる。

〔理論的枠組み〕

A 事実的因果関係の問題。
・不当請求,過剰な回避行動を事実的因果関係のレベルで排除することを考える。

B 相当因果関係の問題。
・不当請求,過剰な回避行動を因果関係の「相当性」のレベルで考える。
B1 風評被害は,通常損害であるとして,原則として相当因果関係を認める。
B2 一般人を基準に合理的と是認できる風評被害は,通常損害,それ以外は特別損害として,予見可能性のある範囲内でのみ賠償対象とする。
B3 風評被害は,原則として特別損害であり,予見可能性のある範囲内でのみ,賠償対象とする。

C 損害の有無金額の認定,過失相殺(民法722条2項)の問題。
・損害の有無金額の認定,過失相殺の理論等で不当請求,過剰請求は排除する。


 このABCは,排他的な択一関係にあるのではなく,どの理屈や観点を,賠償対象に絞りをかけるための道具とするのかという違いであって両立しうるものもある。また,因果関係論について,相当因果関係説のうち,どの立場をとるかによって,理論的枠組みのうち,どれになじむかという差はあろう。


 原子力施設の事故と,風評被害の関係については,そもそも最高裁判例がないし,判例理論が固まっているといえるほどの数の判例が存在しない。
 これまでの下級審の判例では,過剰な買い控え分は賠償対象から排除しようする価値判断に立ち(前述の①②を排除しようとする価値判断),その理論的枠組みとしては,相当因果関係を問題とする立場(前述のB2?)をとるようである。
 この場合,一般人を基準に合理的と是認できる損害を,相当性あるものとして因果関係を肯定するが,具体的にどこまで一般に是認できるとするのかが問題となり,なんとか理屈をつけて一定の観点から,時間的場所的限定を加えるということになろう。
 大量迅速な処理が要求されるなど,画一的判断が必要な場合にはなじむが,それゆえに結論において公平を欠く可能性があろう。


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・平成元年5月17日・名古屋高等裁判所金沢支部判決(判タ705号108頁)
 敦賀原発風評被害訴訟。昭和56年1月敦賀原発において,日本原子力発電が,放射性物質を漏洩させた事故に関するもの。事故事実の公表後,風評被害が広がり,水産市場関係者が,売上げ減少による損害の賠償を,日本原子力発電株式会社を訴えた。
「前認定のとおり,本件事故の発生とその公表及び報道を契機として,敦賀産の魚介類の価格が暴落し,取引量の低迷する現象が生じたものであるところ,敦賀湾内の浦底湾に放射能漏れが生じた場合,漏出量が数値的には安全でその旨公的発表がなされても,消費者が危険性を懸念し,敦賀湾産の魚介類を敬遠したくなる心理は,一般に是認でき,したがって,それによる敦賀湾周辺の魚介類の売上減少による関係業者の損害は,一定限度で事故と相当因果関係ある損害というべきである。」
「前認定のとおり,事故による影響かどうか必ずしも明らかではないものの,一部売上減少が生じたことが窺われるが,敦賀における消費者が,敦賀湾から遠く離れ,放射能汚染が全く考えられない金沢産の魚まで敬遠し,更にはもっと遠隔の物も食べたくないということになると,かかる心理状態は,一般には是認できるものではなく,事故を契機とする消費者の心情的な判断の結果であり,事故の直接の結果とは認めがたい。金沢産の魚も心情的には不安であるとの理由で賠償を命ずるものとすれば,金沢における消費の低下も是認しなければならなくなり,損害範囲はいたずらに拡大することとなる。したがって,右控訴人らの売上高が本件事故後減少したとしても,消費者の個別的心理状態が介在した結果であり,しかも,安全であっても食べないといった,極めて主観的な心理状態であって,同一条件のもとで,常に同様の状態になるとは言い難く,また一般的にも予見可能性があったともいえない。すると,本件浦底湾における人体に影響のない微量の放射能漏れと敦賀の消費者の金沢産魚介類の買い控えとの間には,相当因果関係はないというべきである。」
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 JCO事故と,今回と,ともに原子力損害賠償紛争審査会の委員をされている大塚直教授は,事実的因果関係の前提として,条件関係と反復可能性が必要であるという立場から,一定の場所的限界のもとでのみ損害発生の反復性があるとしうる場合には,場所的限界は,事実的因果関係の及ぶ範囲を定めたものと考えうるとの立場をとられるようである。事実的因果関係のレベルで考えるので,前述のAの立場?

・ジュリスト1186号41頁,大塚直「東海村臨界事故と損害賠償」
「一定の場所的限界のもとでのみ損害発生の反復性があるとしうる場合,それは不法行為法のどの問題を論じているのであろうか。まず,事実的因果関係と保護範囲を分ける有力説に立つと,この問題が事実的因果関係の問題か,保護範囲の問題かが議論されよう。事実的因果関係は条件関係のみを内容とするという理解もありうるが,最近では,事実的因果関係の前提として,原因と結果との反復可能性が必要でるとするものが少なくない。この見解によれば,一定の場所的限界を設けることは,事実的因果関係の及ぶ範囲を定めたことになる」

 
 また,窪田充見教授は,先の敦賀原発風評被害訴訟判決の評釈で次のように論じておられる。
・判例時報1376号118頁(判評387-42)
「相当因果関係判断の基準とされている消費者の心理は、本判決の述べるように「是認されるもの」、「是認されないもの」なのであろうか。すなわち、本判決は、「漏出量が数値的には安全でその旨公的発表がなされても、消費者が危険性を懸念し、敦賀湾産の魚介類を敬遠したくなる心理は、一般に是認」できるとし、一方「敦賀における消費者が、敦賀湾から遠く離れ、放射能汚染が全く考えられない金沢産の魚まで敬遠し、更にはもっと遠隔の物まで食べたくないということになると、かかる心理状態は、一般には是認できるものではなく、事故を契機とする消費者の心情的な判断の結果であり、事故の直接の結果とは認め難い」とする。本判決自体がいみじくも述べているように、消費者の心理は、必ずしも現実の汚染について事後の評価と関わりがないものであり、またそうした消費者の心理が本件のような営業上の損害という事案においては重要な部分を占めるとすれば、そうした消費者の心理を是認する、是認しないという問題設定は、そもそも出発点とずれてしまっているとも言える。本判決は、それにつないで、「Xらの売上高が本件事故後減少したとしても、消費者の個別的心理状態が介在した結果であり、しかも、安全であっても食べないといった極めて主観的な心理状態であって、同一条件のもとで、常に同様の状態になるとは言い難く、また一般的に予見可能性があったともいえない」としているが、ここに至って、さらに矛盾は大きくなるものと思われる。すなわち、「個別的心理状態」とはいっても、売上高減少をもたらしたようなものだとすれば、集団的で統計的に有意なものである筈であり、因果関係の中断などで論じられるような第三者の介入と同列に扱われるべきものではない(統計的に有意なものであるならば、何の論証もなしに「同一条件のもとで、常に同様の状態になるとは言い難く」と片付けることも許されないのではなかろうか)さらに、「安全であっても食べないという極めて主観的な心理状態」は、一方で本件自身が一般論としては「是認」しているものなのではなかろうか。原発事故のように影響が広範囲に及ぶものについては、どこまでを賠償範囲として扱うかの判断が困難であることは、十分に理解でき、その意味で、「金沢産の魚も心情的には不安であるとの理由で賠償を命ずるものとすれば、金沢における消費の低下も是認しなければならなくなり、賠償範囲はいたずらに拡大することになる」という視点は、論理的にはともかく、実際上の判断に重要な役割を果たしたことが推察される。ここでは、理論的な観点からみた場合、本判決のような相当因果関係の説明の仕方には問題があると考えられる点、まずは指摘しておくことにする(なお予見可能性の判断が事実の問題か当為の問題かについて論ずる前田達明・不法行為法理論の展開(昭和五九年)二〇六頁以下は、ここでの問題に関しても示唆的である)。」

 このように,この窪田教授の評釈では,回避行動が一般に是認できるか否かを,相当因果関係の判断基準とする判決の理論に対し,根本的な疑問が呈されている。

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【結局どのように考えるか】

〔無関係な損害の不当請求〕
・原発事故と全く関係のない損害についての賠償請求は認めるべきではないのは当然であろう。あれ無ければこれ無しといはいえず,そもそも条件関係がない。


〔自然災害を理由とする回避行動による損害〕
・地震津波等の原発事故と関係のない他の要因のみからくる消費者の買い控え等回避行動については,価値判断としても,原子力事業者には,賠償義務なしとして良かろう。

・食品等については,自然災害が理由に購入を見合わせる人は少なく,多くは放射性物質による汚染のおそれから回避行動に出ていると思われる。
 ただし,大災害であることから,社会の混乱や不安感の蔓延で一般に消費が抑えられて,その分による減収はあろう。この場合,多数の消費者の意図をいちいち個別には問題とはできないので,阪神淡路大震災や中越沖地震などの場合の統計的資料をもとに,原発事故がなくても大規模自然災害時に通常おきる消費低迷分は推定できるとして,それを賠償の対象とすべきかは問題となろう。

 観光業の場合,消費者の回避行動は,国内外を問わず,自然災害での被災地,被災国に旅行するのが気が引けるという部分もあろうし,余震等震災への恐怖等もあって,必ずしも全てが原発事故,放射性物質への恐れからくるものではないはずである。これも,阪神大震災等の他の大規模自然災害の場合の統計的資料に基づき,どの程度の割合が,そもそも原発事故がなくても減少すると考えられる部分がを考慮して,大規模自然災害時に通常おきる消費低迷分は推定できるとして,それを賠償の対象とすべきかは問題となろう。


・消費者個人の感情を推定するとして,これを詳しく考えると

(a) 自然災害への恐れ等の原発事故と関係のない理由のみによる回避行動
(b) 原発事故,放射性物質への恐れのみからくる回避行動
(c) (a)と(b)が合わさった理由からくる回避行動

 これは観光業などで特に問題となるだろうが,この(a)による損害を「原子力損害」として賠償対象としないことは問題がなかろう。(a)は,おそらく条件関係がないものとして排除される。
 また,(b)が原子力損害として検討対象となることも問題がなかろう。食品の購入や原発近隣地への旅行などは,(b)による回避が多いだろうし,原発近隣地以外への旅行減少などは,(a)の回避行動が多いかもしれない。
 問題は(c)で,これは,原発災害による回避行動と,自然災害による回避行動の重なる部分ともいえる。また(c)の部分の損害は,原発事故と自然力との競合によって発生したものと捉えることもできる。〔事故発生そのものについて自然力が関与した場合の競合とは同様に考えられないかも知れない?。〕http://genbaihou.blog59.fc2.com/blog-entry-49.html

 この(c)の処理については,理論的には以下の立場が考えられる。

1 (c)の部分は,原子力事業者には負わせない。
2 (c)の部分も全部,原子力事業者に負わせる。
3 (c)の部分のうち一定割合を原子力事業者に負わせる。

 どの立場に立っても、〔大災害時の統計的資料等を参考にするなどいくらか手かがりはあろうが〕具体的にどうやって、(a)(b)(c)の損害の範囲を画するのかは問題となる。
 また、少なくとも民法上の理屈としては,重畳的競合の場面では,競合条件を取り去った上,あれ無ければこれ無しという条件公式を適用して,条件関係(事実的因果関係)を肯定することは許されるので,(c)の部分について条件関係を肯定することはでき、2の立場は、論理的に容易であるが、1と3のように原子力事業者の責任の全部又は一部の減責を認めようとする場合、いかなる理論構成(相当因果関係?, 割合的因果関係?,自然力競合での減責論?,損害額の評価?)になるのかが問題となろう。


〔過剰(不合理)な回避行動による損失部分〕
・消費者の合理性を欠く過剰な買い控え(一般に是認できないもの)については,前述のとおり,そもそもこれを賠償対象とすべきか,生産者が受忍すべきとするかの問題であり,一般人を基準として合理的なものといえる否かによって相当性を判断すべきかという問題につながる。
 これについては,以前に述べた。

 今回の事故は,現実に大量の放射性物質がまき散らされるという,我が国おいてきわめて異例な事故で,低レベルの放射線被爆の影響,危険性については,専門知識がない一般消費者が確信を持てる状態にはなく,その受忍限度等についても社会的コンセンサスもない社会において,そもそも一般通常人の合理的判断というものを観念しうるのかという根本的疑問がある。また,放射性物質がまき散らされるという大規模原発事故が起きれば,微量ながらも放射性物質の飛来する恐れのある範囲で生産される食品について,それが合理的か否かにかかわらず,一定の消費者が気にして食べないということが起きるのは,なんら不自然ではないのであって,通常の因果の経過であることは明白ではなかろうか。
 したがって,不当請求や,自然災害など他要因による回避行動による損害や、その他要因による減収部分の請求は,まず条件関係なきものとして事実的因果関係で絞り(A),その上で,原発事故や放射性物質に対する恐れからくる回避行動によって生じた損害については,放射性物質の飛来が現にある地域(ほぼ日本全土)について,その合理性(一般人を基準に社会通念上是認できるか)などは問わず,通常損害として相当因果関係を認め(B1),過剰請求等は,損害の有無・金額の認定,過失相殺等で排除(C)するのが、〔少なくとも裁判手続きでは〕妥当ではなかろうか。
 
 この場合でも、損害発生に至る過程で、第三者の犯罪行為や民法上の不法行為に該当するような行為が介在するなど異常な因果経路を辿った場合は、当然、それは因果関係の切断によって事実的因果関係が否定されたり、相当因果関係が否認される余地はある。

 大量迅速な処理が求められ,画一的判断が不可避な裁判前の紛争審査会での判断としては,時間的場所的限定をするなど何らかの画一的基準を示していくしかないだろうが,それを相当因果関係の問題として確定してまうなど,基準について法律的な理屈を明示してしまうのは,裁判ではないわけだし,問題があるのではなかろうか。



2011-05-24 : ・風評被害 法律的な理屈 : コメント : 0 : トラックバック : 0
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■2条「原子力損害」の意味・範囲 その16 風評被害 相当因果関係を考える。

■2条「原子力損害」の意味・範囲 その16 風評被害 相当因果関係を考える。

〔消費者の判断,立場〕
 まず,基準値以下の食べ物を食べて,健康被害にいたる確率的影響があるのか否か,あるとしてどの程度と認識するか否かによって,大雑把に分けると,以下のようになろう。

ア 基準値以下なら食べ続けても全く健康に影響がない。

イ 基準値以下でも被爆線量に応じて確率的リスクは増す。
(1)リスクは無視してよいほど微量しか増加しない。
(2)リスク増加については無視できるとは言えない。
(3)どの程度,リスクが増加するについては不明。

ウ 確率的リスクの増加について,どちらとも言えない。


 この危険性についての認識の相違を前提に,さらに回避行動の合理性を考慮すると,以下のようになる。

〔立場の相違と回避行動の合理性〕
ア 基準値以下なら食べ続けても全く健康に影響がない。
→安全なので,食べないという判断(回避)は一般に是認できない異常な反応である。

イ 基準値以下でも被爆線量に応じて確率的リスクは増す。
(1)リスクは無視してよいほど微量しか増加しない。
→確率的リスクが増すが,増加率はほとんど無視してよいほど微量なので,回避行動は異常な反応(不合理)である。
(2)リスク増加率については無視できるとは言えない。
→確率的リスクが増し,その程度も無視できない以上,それを回避するのは合理的判断といえる。
(3)リスク増加率については不明。
→確率的リスクが増し,その程度は不明である以上,それを回避するのは一定の合理的判断といえる。

ウ 確率的リスクの増加について,どちらとも言えない。
→リスク増加の有無,程度が不明である以上,それを回避するのは一定の合理的判断といえる。

 上のア,イ(1)の立場だと,基準値以下なら食べても良い,避けたいのは基準値を超えるものだけということになる。イ(2),(3),ウでは,基準値以下でも放射性物質の付着等の汚染がある限り食べたくないということになろう。
〔基準値以下の汚染食品を食べることについては,概ねこのどこかに属することになろう。なお,自分は食べても良いが,子供には食べさせたくない場合など,買う人と食べる人が異なる場合にも,いくらか相違が出てくる。また,上の分類では,影響が不明の場合,安全よりに判断するのか合理的であることを前提としているが,中には,影響は不明であるが,年齢や社会的損失を考えて我慢して食べるという立場もあろう。〕



〔消費者の希望のレベル〕
1 基準値を気にせずなんでも食べる。
2 基準値以下なら食べる気があるが,基準値を超えたものは食べたくない。
3 基準値以下でも汚染ある限り食べたくない(汚染が全くない,あるいは事故前と同レベルの汚染しかない場合のみ食べたい。)。

〔検査レベル〕
A 未検査で出荷
B サンプル検査で基準値以下出荷
C 全品検査で基準値以下出荷
D 全品検査で汚染が無いもののみ出荷


1の消費者は,検査レベルがAからDまで,どの状態でも回避行動はない。
2の消費者だと,検査がABの状態で回避行動が起きうる。
 未だに原発からは放射性物質の漏出が続いており,さらに,農地によってはこれまで降り積もって累積した放射性物質の除去もできていないのであるから,基準値以下でも避けたいと考える消費者はもちろん,基準値以上のもののみ避けたいという消費者ですら,サンプル調査の場合のリスク(ホットスポットの問題,汚染時期と検査時期と出荷時期の時間差の問題等)から,近隣県の野菜は買わないという判断をすることは十分に予想される。
3の消費者だと,検査がABCの状態で回避行動が起きうる。
〔なお,検査レベルをDにまでしても,疑り深い人なら産地偽装や検査データの捏造を疑うので回避行動は否定できないが,産地偽装などの場合は,消費者は,そもそも回避が困難な状態に陥る。〕

 そして,商品にもよるだろうが,全品検査が事実上,不可能であるなら,現実的には,Bまでのサンプル検査しかできず,上の2の消費者のうち,サンプル検査では基準値以下であることについて心許ないと考える消費者と,3の基準値以下でもできるだけ汚染作物は食べたくないという消費者の買い控えは必然的に発生する。

 おそらく多数の消費者が,上の2と3のいずれかに属するはずであり,少なくとも原発近隣県の作物を避けようとする行動が起きることは,不可避という他ない。


〔因果関係判断方法について〕
 JCO事故では,放射性物質が敷地外に漏出することのほとんど無かったので,近隣地作物の現実の汚染は問題とならず,裁判では,まったく汚染が無い,純然たる風評被害が問題とされたのであり,しかも敗訴案件をよく見ると,因果関係より損害の立証そのものが上手くいかなかったものであることを考えると,少なくとも基準値以下とはいえ現実の汚染ある作物が出回るに至っている事案について,従来の判例の判断態度をそのまま今回の事故に当てはめるのは問題ではなかろうか。

 これまでの放射性物質に起因する風評被害に関する裁判については,こちら
 判例では,相当因果関係の認定において,消費者の回避行動の合理性を問うことになっている。つまりその回避行動が,一般通常人を基準に,社会通念上,合理的なものとして是認できるか否かによって,事故と風評被害との相当因果関係の有無を判断するというものである。具体的には,おそらく時間的場所的条件とか,報道等の外部要因とか,安全宣言の有無とか,諸般の事情を考慮して,一般通常人を基準にして,その回避行動が合理的か否かを判断するということになろう。
 しかし前述のとおり,消費者の考えうる立場は,大ざっぱに分けてもいくつもあり,それは基本的には危険認識の相違からくるものであって,一般通常人の判断というものを想定することすら本来は難しい。
 ある問題に関する「常識」といえるようなものがあり,あるいは,前提とする事実や危険性判断等について一般に社会的コンセンサスがあるといえるような場合には,おそらく困難性は小さい。しかし,微量とはいえ現に原発事故由来の放射性物質の付着した食べ物が,市場に出回る事態など,(チェルノブイリ事故時の一部輸入食品を除いて)ほとんど経験したことがない。このため,一般消費者が,どのように危険(事実)を認識するのが通常かというレベルで既に困難さが現れる。


〔消費者の判断の合理性を問うことについて〕

 仮に,

1 通常の大多数の消費者のとる行動
 →90%

2 それ以外のより慎重な消費者の行動
 →10%

として

 この場合,仮に,1の立場を通常人の合理性ある回避行動と見ると,それを超える残りの10%の消費者の回避行動は,不合理で過剰な買い控えにすぎないので従来の判断態度では,相当因果関係がないものとして,その部分については被害者の賠償請求は認められないことになる。
 農作物についてデマ報道など,第三者の異常な犯罪的行動があって,それが損害拡大に寄与したような場合は,加害者に全部責任を負わせることが不当な場合もあろうが,第三者である消費者が自らの判断で,どのような消費行動をとるのかは本来自由で,犯罪にも不法行為にもあたらないのであって,その行動による結果が,加害者ではなく,被害者に回されることになるのがどうも妙な感じがする。


〔信用毀損との比較〕
 風評被害は,デマ報道による信用毀損に似たところがあるので,ここで考えてみる。
 たとえば,デマ報道があったが,その内容は,媒体,表現等から虚偽と分かるようなもので,大多数の人(90%)は信用しなかったが,信じこみやすい10%程度の人は信じて,そのために10%程度の売上げの減少(営業損害)が生じた場合。
 この場合,普通の法律家の感覚としては,その10%は,一般通常人の判断によるものではないので,因果関係ある損害無しとは,判断しないのではないか?。
 デマ記事が出れば,その対象は,多数が予定されている読者であり,読者の中には信じ込み易い人がいて,その人の消費行動が押さえられて,売上げ減少に至ることは通常予想されることであって,その場合は,いちいち信じやすい読者の判断の合理性など問題としないはずである。
 ましてや,前述のとおり,基準値以下とはいえ汚染作物が市場に出回る事態など,これまでほとんど経験したことのない社会で,専門家でもない消費者の危険認識について,その立場がまちまちになって,その結果生じる消費行動の相違とその合理性など,本来問題とはできないものではないかという気がする。


〔他の回避行動との比較〕
 食品添加物や遺伝子組み換え食品について、それを忌避する消費者が一定数いる。基準値以下の食品添加物や、遺伝子組み換え食品の安全性については、政府も宣伝している。
 しかし、それを避けようとする消費者がいて、売り上げにも影響するであろう。基準値以下の放射性物質の汚染を同様に考えれば、それを避けようとする消費者は当然に存在するはずで、原発事故がなければ、普通の食品であったものが、微量でも汚染したことで、食品添加物の入った食物や、遺伝子組み換え作物と同様の一定の忌避対象となる作物に変化させられたようなものである。〔さらに悪いことに、放射性物資の付着については、食品添加物のように表示されるわけではないので、汚染の有無は消費者にはわからず、基準値以下なら出荷するという場合、これを避けようとする消費者は、原発近隣の産地の食費を避けようとするに違いないので、全く汚染していないものも忌避対象となる。〕
 この場合、たとえば遺伝子組み換えでない大豆を、関係者が過失で遺伝組み替え大豆であると表示してしまって、売り上げが低下した場合、その損失については、そもそも政府も専門家の多くも安全と言っているのに避けようとする特異な消費者の心理からくるものなので、その場合発生した売り上げの低下は、過失ある行為と、相当因果関係のある損害ではないと認定するのだろうか。


〔一般通常人の判断と売上げ低下率〕
 ある回避行動が一般通常人の判断として,合理的である考えた場合,普通は,それが少数者の判断ということはないだろうから,当然,少なくとも50%を超える人々の判断であることは当然ではなかろうか。
 とすると,特別な営業努力や各人の購入量を考慮しないとして,売上げが,10%しか低下していない場合は,他の90%の消費者は従来どおり購入していると考えられるので,そのような売上げ低下が,賠償対象となる損害(買い控えが一般通常人の判断として社会通念上合理的なものとして是認できるようなもの)に該当する可能性はほとんど無いということのなるのだろうか。


〔一次指針との関係〕
http://genbaihou.blog59.fc2.com/blog-entry-78.html
 原子力損害賠償紛争審査会の「原子力損害の範囲の判定等に関する第一次指針」を見ると,14ページ以下で
----------------------------
7 検査費用(物)
(指針)
対象区域内にあった商品を含む財物が、①当該財物の性質等から、検査を実施して安全を確認することが必要かつ合理的であり、又は②取引先の要求等により検査の実施を余儀なくされたものと認められた場合には、被害者の負担した検査費用は損害と認められる。
(備考)
1) 本件事故による被害の全貌はいまだ判明しておらず、個々の財物がその価値を喪失又は減少させる程度の量の放射性物質に曝露しているか否かは不明である。
 しかしながら、財物の価値ないし価格は、当該財物の取引等を行う人の印象・意識・認識等の心理的・主観的な要素によって大きな影響を受ける。しかも、財物に対して実施する検査は、取引の相手方らによる取引拒絶、キャンセル要求又は減額要求等を未然に防止し、営業損害の拡大を最小限に止めるためにも必要とされる場合が多い。
 したがって、①平均的・一般的な人の認識を基準として当該財物の種類及び性質等から、その所有者等が当該財物の安全性に対して危惧感を抱き、この危惧感を払拭するために検査を実施することが合理的であると認められる場合、又は②取引先の要求等により検査の実施を余儀なくされた場合には、その負担した検査費用を損害と認めるのが相当である。
2) また、政府による避難等の指示の前に本件事故により生じた検査費用があれば、これを賠償対象から除外すべき合理的な理由はないから、本件事故日以降のものが賠償すべき損害と認められる。
-----------------------------

 物の検査費用について,この指針を見ると,取引先の検査要求の合理性は問題とされず,そのまま損害と判断するようであるが,購入者側の判断の合理性を問題としないとすると,風評被害で,消費者の買い控えの合理性を問題する立場との関係はどうなるのだろうか。


〔外国の輸入規制との関係〕
諸外国・地域の規制措置(5月16日現在)
http://www.maff.go.jp/j/export/e_info/pdf/kensa0516.pdf
 現在でも,かなり多くの国で,原発近隣県や,全都道県からの食品の輸入停止をしている。各国の判断権者が,基準値や検査等について情報を得ていないというはずはなく,日本の政府が必至になって,情報提供と停止解除を要請しているはずで,それでも輸入停止となっている。
 これらによる損失が今後どう扱われるか不明であるが,これについても,各国のその回避行動(輸入停止)の合理性を問題とするのなら,従来の判断と整合性はとれることになろう。
 他方,これらについて原則,因果関係ある原子力損害にあたるとする結論をとる場合,購入する側の判断の合理性を問題とする立場との整合性が問題となってくる。〔他国の日本からの全食品輸入停止を合理的とし,また,日本全国での全食品の売上げ低下も消費者の是認できる合理的判断によるものとした場合は,整合性はとれている?。〕


------------------------------

 結局,風評被害も,原発事故と相当因果関係のある営業損害である限り,当然に賠償対象になるものであって,その相当性の判断において,消費者の回避行動の合理性に拘る論理的な根拠は本来ないはずで,損害の公平な分担の観点から,他の要因による損害や,異常な因果経路をたどった損害を,賠償対象から排除しようとするのなら,それは個別事情により別途考慮すればいいし,不当な請求は,損害の有無や金額の厳密な認定,過失相殺等において排除できるはずである。
 もともと,今回のような人類史に残る大規模な原発事故が起きれば,微量ながらも放射性物質の及ぶ恐れのある範囲(少なくと日本全土)で,そこで収穫,生産される食品が,さまざまな考えを持つ多数の消費者に向けられ生産されているものである以上,一定の消費者が気にせず食べ,一定の消費者が気にして食べないということが起きるのは,なんら不自然ではないのであって,通常の因果の経過であり,事故後現実に売上げが減少し,その立証ができた部分は原則として全部が相当因果関係がある損害と考えられておかしくない。もちろん,震災による消費自粛や,停電等の影響など他の要因によって,発生したといえる部分については,そこから除外される。
 このように考えると,損害はおそろしく膨大なものなるが,それはもともと人類史に残るような大規模原発事故が持つリスクなのであって,損害が膨大になるから,被害者,生産者は我慢しろという結論は取れないはずである。
 仮に,第三者(国,専門家,メディアなど)の関与によって,損害が拡大しているような場合は,本来,東電は,その者に対する求償請求を考えるべきであるが,原賠法5条(昭和46年改正)によって,求償権は大幅に制限(「故意」のみ)されてしまっているので,〔4条,5条の適用範囲の解釈にもよるが〕法律上は甘受する他なかろう。



2011-05-19 : ・風評被害 法律的な理屈 : コメント : 0 : トラックバック : 0
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■2条「原子力損害」の意味・範囲 その11 風評被害5 過剰な買い控えによる損失

■2条「原子力損害」の意味・範囲 その11 風評被害5 過剰な買い控えによる損失

 原発事故に起因する風評被害事例の判例をいくつか見たが,生産者の側から見ると納得いかない判断が多いのではないか。この点について考えてみた。

 消費者の過剰な回避行為(買い控え)による損害について,裁判所は,その相当因果関係の認定に関して,下のように判断している。

「かかる心理状態は,一般には是認できるものではなく,事故を契機とする消費者の心情的な判断の結果であり,事故の直接の結果とは認められない。」「極めて主観的な心理状態であって,同一条件のもとで,常に同様の状態になるとは言い難く,また一般的にも予見可能性があったともいえない」(敦賀原発風評被害訴訟,平成元年5月17日名古屋高裁金沢支部判決・判タ705号108頁)

 JCO臨界事故に関する平成18年2月27日東京地裁判決(判タ1207号116頁)においては「もっとも,本件臨界事故後,一般消費者が納豆商品を買い控えるに至ったことが窺われるものの,それは一般消費者の個別的な心情に基づくものであり,放射線汚染という具体的な危険が存在しない商品であるのにもかかわらず,それが危険であるとして,上記商品を敬遠し買い控えるに至るという心理的状態に基づくものである以上,そこには一定の時間的限界があるというべきである。この時間的限界をどのように画すかは困難な問題であるが,それは一般消費者が上記のような心情を有することが反復可能性を有する期間,あるいは一般的に予見可能性があると認め得る期間に限定されるというべきである。」

原子力損害調査研究会の最終報告書(平成12年3月29日)においても「平均的・一般的な人を基準として合理性のあるものであること」とされている。

 つまり第三者である消費者の行動が,「一般に是認」できる,あるいは「合理性ある」行動であるか否かによって,その判断・行動に全く関係のない生産者が,負担を強いられることになる。

ここで損害を分類すると
A 現に汚染されていて,基準値こえる(健康に害を及ぼす程度?)→「原子力損害」に該当
B 現に汚染されているが基準値以下(健康に害を及ぼさない程度?)
C 全く汚染されていない。

このBCが風評被害の対象となる。

この風評被害の対象となる作物等について,相当因果関係の認定との関係で,裁判所等は二つにわけて考えていることになる。

ア 買い控えが一般に是認できる合理性のあるもの
イ 買い控えが一般に是認できない過剰(不合理)なもの

 ここで一般に是認できるか否かは,科学的な安全性があることを前提に,当該時点での政府や専門家の発表や,マスコミでの取り上げられ方等を勘案して,どの程度正確な情報が消費者に伝わっていたかなどにより判断することになろう。

 そして,確かに,予見不可能な第三者の異常な行動が介在して,損害が発生・拡大したような場合に,その責を加害者に負わせるのは不当かもしれない。
 しかし,消費者は,多数の集団である。その一人をとり出して,その人の行動の合理性を問題とすれば,過剰な買い控えは異常な因果経過をたどった結果生じたものと言えるかもしれないが,多数者の中には,必ずそのような行動をする者がいることは,経験則上明白なのであって,一定割合の消費者のそのような過剰な買い控えは,そもそも原発事故などが起これば,通常生じうるものである(そもそも政府や専門家の発言を信じることが必ずしも合理的といえないこともあるし,放射線障害のように素人の分かりようのない専門性の強い事象についても,その権威から出される情報を疑う人間が,多数の消費者の中に一定割合でいるのはむしろ当然である)。
 仮に,そのような過剰な買い控えによる損失が,通常損失ではなかったとしても,原子力事業者が予見し又は予見しうべき特別損失(民法416Ⅱ)には当たるはずで,一定割合で相当因果関係が肯定されるべきではないか。
 なぜなら,原発事故であれば,そのような過剰な買い控えが発生することはあり得,原子力事業者もそのことは予見していたであろうし,過去にも事故が起き同様のことが起きているのだから,少なくとも予見可能性は十分にあったはずである。
 したがって,上のイ(買い控えが一般に是認できない過剰(不合理)なもの)であっても,一定割合の消費者が,そのような過剰な買い控えに出ることが一般的にありうると予見できる範囲では,やはり相当因果関係ある損失というべきで,生産者は,その範囲で保護されるのが妥当ではないか。

 そもそも,原発事故について何の落ち度もない農家等が,放射能漏れ事故があれば必ず発生するだろうと予想される過剰買い控えによる損失を負担しなければならないというのは,農家にとっては全く納得できないはずである。

 なお,今回は大規模な震災・津波・原発事故の同時発生があり,震災後の自粛による消費の低下や,政府やマスコミの情報伝達の不足など,原発事故以外に,いくつも買い控えの要因が考えられ,損害発生原因の競合で,JCO臨界事故のときとは比べものにならない複雑さがある。

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2011-04-14 : ・風評被害 法律的な理屈 : コメント : 0 : トラックバック : 0
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■2条「原子力損害」の意味・範囲 その3 風評被害1

■2条「原子力損害」の意味・範囲 その3 風評被害1

 風評被害は,とくに法律的概念として規定されているわけではないが,原発事故による場合、通常は、放射能汚染や放射性物質の毒性が全く及んでいない農作物や魚介類等の商品について,近隣であるなどなんらかの理由で売れなくなり,その結果被った損害であろう。「原子力損害」の意味を狭く解する説では、核燃料物質の「作用」によって発生したものとは言えず原賠法の「原子力損害」には当たらない、あるいは、「原子力損害」の意味を広く解する説でも、その風評被害の態様程度によっては、原子炉の運転等と相当因果関係がなく「原子力損害」にあたらないと解釈される可能性がある。判例の考え方についてはこちら。(原子力損害関連判例
 もっとも,一部放射能汚染があるが,その程度が,健康に害を及ぼさない程度で食しても問題ない場合にも,やはり売れなくなることが考えられ,この場合に「原子力損害」といえるのか問題となろう。
 なお,現に放射能汚染されて商品が売れなくなった場合には,これを「原子力損害」と見ることに問題はないはずである。

この点,原子力委員会では,平成10年に以下ような議論がなされていた。
---------------------------------------
http://www.aec.go.jp/jicst/NC/senmon/old/songai/siryo/siryo05/siryo1.htm
(3)原子力損害(予防措置費用)について
事務局より資料4-2に基づき説明があった後、主に次の質疑応答があった。
(遠藤)いわゆる風評損害についての解釈・裁判例はどうか。また、条約での解釈を問う。
(事務局)風評損害は原子力損害に該当しないと考えている。原電敦賀で放射能汚染の風評と魚の売上げの減少との間に相当因果関係なしとの平成元年名古屋高裁判決がある。
(能見)まず、風評をもたらす原因を作出したことに責任(過失)があって、かつ、それと風評から生ずる損害が相当因果関係のある限り、民法不法行為法の賠償の対象にはなる。ただ、原子力損害ではないので、原賠法の問題ではないと理解している。条約上も同様であると考える。
(遠藤)核物質輸送船が沈没して実害又は風評損害が生じるケースを想定して質問した。
(鳥井)もんじゅのように放射線は出ていないが、ナトリウムの影響による場合はどうか。
(事務局)放射線の特性による損害であることが必要である。
(鳥井)これからの原子力のあるべき姿からしてそれでいいのか。ナトリウム化合物による腐食であっても原子炉事故による被害に変わりはない。
(住田)法律の守備範囲の問題と関わってくると考える。原賠法が無限責任や国の援助を定めているのは、原子力事故の甚大性・晩発性に配慮したものであり、過剰避難・誤想避難は原子力の心理的影響に基づくもので、これは他の法律が受け持っていると整理すべきである。原賠法は放射線等による損害すべてにつき補償するとの姿勢は鮮明にしておきたい。
---------------------------------------

上で言及されている平成元年名古屋高裁判決とは,名古屋高等裁判所金沢支部平成元年5月17日判決(昭62(ネ)第11号損害賠償請求控訴事件,判例タイムズ705号108頁)である。これは敦賀原発風評被害訴訟であり,昭和56年1月敦賀原発において,日本原子力発電が,放射性物質を漏洩させた事故に関するものである。事故事実の公表後,風評被害が広がり,水産市場関係者が,日本原子力発電株式会社を訴えたものである。
判旨は以下のとおりである。
「前認定のとおり,本件事故の発生とその公表及び報道を契機として,敦賀産の魚介類の価格が暴落し,取引量の低迷する現象が生じたものであるところ,敦賀湾内の浦底湾に放射能漏れが生じた場合,漏出量が数値的には安全でその旨公的発表がなされても,消費者が危険性を懸念し,敦賀湾産の魚介類を敬遠したくなる心理は,一般に是認でき,したがって,それによる敦賀湾周辺の魚介類の売上減少による関係業者の損害は,一定限度で事故と相当因果関係ある損害というべきである。」「前認定のとおり,事故による影響かどうか必ずしも明らかではないものの,一部売上減少が生じたことが窺われるが,敦賀における消費者が,敦賀湾から遠く離れ,放射能汚染が全く考えられない金沢産の魚まで敬遠し,更にはもっと遠隔の物も食べたくないということになると,かかる心理状態は,一般には是認できるものではなく,事故を契機とする消費者の心情的な判断の結果であり,事故の直接の結果とは認めがたい。金沢産の魚も心情的には不安であるとの理由で賠償を命ずるものとすれば,金沢における消費の低下も是認しなければならなくなり,損害範囲はいたずらに拡大することとなる。したがって,右控訴人らの売上高が本件事故後減少したとしても,消費者の個別的心理状態が介在した結果であり,しかも,安全であっても食べないといった,極めて主観的な心理状態であって,同一条件のもとで,常に同様の状態になるとは言い難く,また一般的にも予見可能性があったともいえない。すると,本件浦底湾における人体に影響のない微量の放射能漏れと敦賀の消費者の金沢産魚介類の買い控えとの間には,相当因果関係はないというべきである。」

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