東日本大震災以降,原子力損害賠償法に興味あり,同法と東京電力の責任についても検討してみたい。

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■原発事故による風評被害対策について考える その5 風評被害での訴訟攻防

■原発事故による風評被害対策について考える その5 風評被害での訴訟攻防


【原告の主張立証】
1 当事者
・原告の業務内容等
・被告が「原子力事業者」(原賠法2条3項,原子炉等規制法23条1項1号)に該当する事実

2「原子力損害」の発生,その経緯
・被告によって,原賠法2条1項「原子炉の運転等」があったこと。
・「原子炉の運転等」の下に,地震津波が起き,水素爆発,放射性物質の飛散に至った経緯(事業者の過失不要なので,注意義務や,東電の過失を根拠づける事実等の主張立証は不要)
・風評の広がり,価格低下,取引停止,検査要求、廃棄,作付け断念等の経緯,その日時,量等

3 因果関係 
・事実的因果関係
 原発事故、放射性物質への虞から買い控えが生じ、ひいては減収が生じたこと
・相当因果関係
 「相当性」を根拠づける事実の主張立証
〔相当性の判断基準,方法について,従来の下級審判例理論を争う余地?〕
 「相当性」判断について従来の判例に従うとしても,消費者や取引業者等の回避行動が,一般通常人を基準として合理的といえ,一般に是認できるものであったこと,それを根拠づける事実。安全性危険性の曖昧さ,消費者を取り巻く情報環境等。

4 損害額の計算
・値段の低下,取引停止分,過去の決算書類等で減収額,廃棄費用、検査費用等
・損益相殺分マイナス(保険等。被告の抗弁)



【被告の反論】
1 原賠法3条1項但書の適用あり
・今回の天災が,「異常に巨大な天災地変」であること,それを根拠づける事実。巨大な規模等,立法過程での認識,予見可能性等
・相当因果関係。その「異常に巨大な天災地変」によって,今回の原発事故が起きたこと。
被告の無過失の主張立証を要するか?〕

2 原賠法2条2項の「原子力損害」の意味について,法律的主張
・意味を限定的に捉えて,風評被害のような拡大損害は,2条2項の定義に当てはまらず「原子力損害」にはそもそも該当しないと主張する。

3 因果関係の否認
・事実的因果関係否認 
 国、マスコミ、その他第三者に行為による因果関係の中断?
  震災後の消費自粛が原因?
・相当因果関係否認、「相当性」を否定する事実の主張立証
 その買い控え等が,一般通常人を基準として,是認できない不合理なものであること。安全の確実さ,その認識の容易性等。

4 過失相殺(民法722条2項)の主張
・原告の過分な処置によって,損害が拡大された。損害拡大防止義務違反。

〔5 原因競合による減責の主張〕
自然力
・国、その他の行為
・他の消費低迷要因の競合

【原告の反論】
1 原賠法3条1項但書の適用なし
・今回の天災は3条1項但書にいう「異常に巨大」なものではないこと,評価障害事実。規模等,立法過程での認識,予見可能性等
被告の過失の競合による適用否定の主張できるか?〕

2「原子力損害」の意味については,従来の判例どおり,結果類型等は無限定とすべきとの法律的主張。
〔仮に,限定説で、該当しないとすると,原告は,被告の過失立証して民法709条の適用を主張するというルートへ。被告は,過失の評価障害事実主張立証へ〕

3 過失(民法722条2項)なきこと
・廃棄処分,作付け断念等が,やむを得なかった事実。損害拡大防止義務違反なきこと。政府自治体の指示,土壌等の汚染程度,営業努力の事実等。


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 風評被害でも福島に近くて,損害も明白そうなものについては,普通は,訴訟にまでならずに解決するだろう。

 JCO事故のときの指針では,以下のように時間的場所的限界が示された。

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I)  茨城県内で収穫される農畜水産物及びこれらに関連する営業であり、広く茨城県県外を商圏とするものについては、生産あるいは営業の拠点が茨城県内にあり、取引の性質から相手方等が取引拒絶等の行動に及ぶこともやむを得ないものと認められ、現実に減収のあった取引について、事故調査対策本部の報告(平成11年11月4日)及び住民説明会(同年11月13,14日)等によって、正確な情報が提供され、かつこれが一般国民に周知されるために必要な合理的かつ相当の時間が経過した時点(同年11月末)までの期間に生じた減収分(売上高から売上原価を控除した売上総利益=粗利益の額)が損害と認められる。
 II)  上記I)以外の営業については、営業の拠点が屋内退避勧告のなされた区域内にあり、取引の性質から相手方等が取引や利用の拒絶等の行動に及ぶこともやむを得ないものと認められ、現実に減収のあった取引について、事故調査対策本部の報告(平成11年11月4日)及び住民説明会(同年11月13,14日)等によって、正確な情報が提供され、かつこれが一般国民に周知されるために必要な合理的かつ相当の時間が経過した時点(同年11月末)までの期間に生じた減収分(売上高から売上原価を控除した売上総利益=粗利益の額)が損害と認められる。
---------------------


 今回は,規模も態様も違うので,風評被害について,原子力損害賠償紛争審査会でどのような指針がでるか予想もできないが,紛争審査会が不当請求や賠償金の過払いを防ごうと考えている以上,まず時間的場所的に明白といえるものを,その対象とし,曖昧なものについてはケースバイケースで判断ということになり,そこについては明確な判断指針を出せないことになるのではないか。

 いずれにしても訴訟で争われるのは,相当因果関係が問題となる事案であろうし,そこについての攻防がもっとも熾烈になるのではなかろうか。


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2011-05-23 : ・風評被害対策 : コメント : 0 : トラックバック : 0
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■原発事故による風評被害対策について考える その4 公的機関・準備等

■原発事故による風評被害対策について考える その4 公的機関・準備等

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・農林水産省
http://www.maff.go.jp/j/kanbo/joho/saigai/syukka_kisei.html

2.出荷制限の対象外の品目に対する風評被害への賠償はどうなるのか
(答)
1.今回の原子力発電所の事故によって生じる損害については、出荷停止の指示を受けた農畜産物に限らず、一般論として、事故との相当因果関係が認められるものについて、原子力損害の賠償に関する法律に基づき適切な賠償が行われることになります。
2.また、出荷自粛や風評被害により売上が減少した農畜産物等に関 しても、このような考え方に照らして判断されるものと考えており ます。
3.この賠償については、原子力損害賠償法によって、一義的には原子力事業者である東京電力がその責任を負うべきものと考えておりますが、政府としても、被害者の方々が適切な補償を受けられるよ う万全を期してまいります。

3.農家は賠償のためにどのような準備が必要か
(答)
1.今回の補償の範囲については、原子力損害の賠償に関する法律に基づ き、今後、原子力損害賠償紛争審査会が定める原子力損害の範囲の判定の指針に基づいて判断されることとなります。
2.このような指針が明らかになるまで一定期間を要するため、現段階で、農家が前もって準備するものとして、
[1] 当該期間に生じた売上減少額や実損額
[2] 当該期間に商品が返品され、再販売できない場合の実損額
[3] 当該期間に販売できなかった生産物や在庫商品を廃棄した場合の処分補償額及び処分費用
[4] 運転資金等を借り入れざるを得ない場合の金利相当額
などが明らかになるような証拠書類を保管しておくことが必要です。
3.具体的には、
[1] 各種資材等の購入に係る領収書や購入伝票
[2] 収穫や給与に至らなかった農作物・飼料の数量等を明らかにできる作業日誌
[3] 出荷停止となった農畜産物に係る過去の生産量の記録、納品台帳、出荷伝票及び回収・処分した場合の領収書
[4] 家畜の能力を示す証明書や飼養管理に係る記録
[5] 納税関係書類(損益計算書等)
[6] 現況を示す写真
などを保管しておく必要があります。
4.農林水産省としては、農家のこうした準備について関係団体を通じて適切な指導を行っているところです。

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・水産庁
http://www.jfa.maff.go.jp/j/sigen/gensiryoku/index.html
原子力発電所の事故への対応に関するQ&A

1.水産業に対する賠償はどうなるのか
1.今回の原子力発電所の事故によって生じる損害については、出荷制限によるものに限らず、一般論として、事故との相当因果関係が認められるものについて、原子力損害の賠償に関する法律に基づき適切な賠償が行われることになります。
2.また、風評被害により売上が減少した水産物等に関しても、このような考え方に照らして判断されるものと考えております。
3.この賠償については、原子力損害賠償法によって、一義的には原子力事業者である東京電力がその責任を負うべきものと考えておりますが、政府としても、被害者の方々が適切な補償を受けられるよう万全を期してまいります。

2.賠償を受けられるまでの間、資金面での漁業者への支援はないのか。
1.今回の福島原発の事故については、原子力損害賠償法に基づき、適切な補償が行われることとなっており、漁業者団体が多数の漁業者を代表して東京電力に対する損害賠償をとりまとめ、請求する作業を進めているところです。
2.また、東京電力による賠償が行われるまでの間のつなぎ融資としての対応に向けて、農林中央金庫は、信漁連等に対する資金供給・利子補給を行うこととしており、農林水産省としても、関係機関への働きかけを行うなど、協力して進めているところです。

3.漁業者は損害賠償請求のためにどのような準備が必要か
1.今回の補償の範囲については、原子力損害の賠償に関する法律に基づき、今後、原子力損害賠償紛争審査会が定める原子力損害の範囲の判定の指針に基づいて判断されることとなります。
2.このような指針が明らかになるまで一定期間を要するため、現段階で、漁業者が前もって準備するものとして、
[1] 当該期間に生じた売上減少額や実損額
[2] 当該期間に生産物が返品され、再販売できない場合の実損額
[3] 当該期間に販売できなかった生産物や在庫商品を廃棄した場合の処分補償額及び処分費用
[4] 運転資金等を借り入れざるを得ない場合の金利相当額
などが明らかになるような証拠書類を保管しておくことが必要です。
3.具体的には、
[1] 各種資材等の購入に係る領収書や購入伝票
[2] 水揚げや給与に至らなかった生産物・餌料の数量等を明らかにできる作業日誌
[3] 水揚げに至らなかった水産物に係る過去の生産量の記録、納品台帳、出荷伝票及び回収・処分した場合の領収書
[4] 操業日誌や漁獲成績報告書、養殖の飼育管理に係る記録
[5] 納税関係書類(損益計算書等)
[6] 現況を示す写真
などを保管しておく必要があります。
4.農林水産省としては、漁業者のこうした準備について関係団体を通じて適切な指導を行っていきたいと考えているところです。

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・文部科学省
http://www.mext.go.jp/a_menu/anzenkakuho/baisho/1304760.htm

・補償のために、どのようなことをすればよいですか。
(答)
 原子力発電所の事故により生じる原子力損害に関して、事故との相当因果関係※が認められるものについては、原子力損害の賠償に関する法律に基づき、損害に対して適切な賠償が行われることとなります。
※社会通念上相当と認められる範囲で因果関係が認められるものとする考え方
 請求される方は、今後、東京電力が開設する被害申出窓口に、「被害申出書」を提出していただくことになりますので、現時点で分かる範囲で被害内容等を把握してください。
 その後、被害申出書を提出された方に対して、被害額の算定の確認書類を含む「被害明細書」を提出していただくことになりますので、可能な限り、実際に支出したことを証明する領収書等を保管しておいてください。
 想定される損害内容と賠償請求に際して必要になると見込まれる書類は以下のとおりです。
 ※今後、東京電力が開設する窓口において、詳細な情報提供がなされる予定です。

6.営業損害(事業遂行が不能になったことによる損害が生じた場合)
■確定申告書
事業の売上額等を確認する資料
■決算書類
事業内容や売上額等を確認する資料
■過去1年の売上実績
帳簿等、直近の売上額等を確認する資料
■事故後の売上実績
帳簿等、事故後の売上額等を確認する資料
■営業上の追加費用・代替費用
伝票や帳簿等、事故の影響により営業を継続するために追加的・緊急的に要した費用を確認する資料
■営業再開に伴う費用
伝票や帳簿等、営業を再開するにあたって追加的に要した費用を確認する資料

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・栃木県上三川町
http://www.town.kaminokawa.tochigi.jp/f_sangyousinkou/sintyaku/songai.htm
福島第一原子力発電所の事故による農産物被害の損害賠償請求について
農産物被害の損害賠償請求について
 原発事故に伴い、栃木県産の農産物が出荷停止や風評被害などにより損害を受けたことに対し、JA栃木中央会が中心となり、農家が受けた被害に対する損害を取りまとめ、損害賠償請求の手続きを行うことになりました。
 つきましては、下記のとおり被害の申し出の受付を行いますので、ご案内いたします。
○ JAうつのみやの青果物専門部に加入されている農家の方
 JAうつのみや上三川営農経済センターで行っていますので、所属する青果物専門部の役員又はJA職員からの指示に従って下さい。
必要書類 
①委任状  (役場又は野菜集荷所にありますので、 印鑑をご持参下さい。)
②原発事故放射能汚染による廃作記録
(役場又は野菜集荷所にありますので、耕作地番、作付面積、 廃作面積、廃作日を記録してきて下さい。)
③被害を証明する資料
例)作業日誌、過去の出荷量の記録や出荷伝票等、費用に係る 領収書、納税関係書類、写真等

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・宇都宮市
http://www.city.utsunomiya.tochigi.jp/oshiraselist/19078/019334.html

農家の皆さんへ(福島第1原子力発電所事故に伴う対応について)
【至急・重要】原発事故に伴う農産物損害賠償請求について
 福島第1原子力発電所事故による農産物被害(出荷制限や風評被害によるもの)の損害賠償請求につきましては、JA栃木中央会が中心となり、県内全ての農家が受けた損害を取りまとめ、原子力損害賠償紛争委員会へ提出することになりました。

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2011-04-23 : ・風評被害対策 : コメント : 0 : トラックバック : 0
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■原発事故による風評被害対策について考える その3 因果関係の立証

■原発事故による風評被害対策について考える その3 因果関係の立証

1 過去のいくつかの裁判例を見ると,生産者側の請求について,裁判所は,原子力施設の事故と風評被害による損害との間に,相当因果関係が無いとして,請求を認めないか,一部のみ認容するという結論を出している。

 損害賠償請求の要件である因果関係については,条件関係(事実的因果関係「あれ無ければこれ無し」という関係)が存在することを前提に,さらに相当因果関係が必要とされている。相当因果関係とは,当該原因があれば,当該結果が生じることが,(一般通常人からみて)社会通念上、通常のことと認めれることを意味する。

 条件関係は,よほど無関係な減収でない限り、今回の場合は存在するはずであり,問題は相当因果関係である。原子力関係施設の事故後に,消費者の買い控えが生じた事案について,裁判所は,相当因果関係の認定において,以下のような判断をしている。

・平成元年5月17日名古屋高裁金沢支部判決(判タ705号108頁)
「かかる心理状態は,一般には是認できるものではなく,事故を契機とする消費者の心情的な判断の結果であり,事故の直接の結果とは認められない。」「極めて主観的な心理状態であって,同一条件のもとで,常に同様の状態になるとは言い難く,また一般的にも予見可能性があったともいえない」

・平成18年2月27日東京地裁判決(判タ1207号116頁)
「もっとも,本件臨界事故後,一般消費者が納豆商品を買い控えるに至ったことが窺われるものの,それは一般消費者の個別的な心情に基づくものであり,放射線汚染という具体的な危険が存在しない商品であるのにもかかわらず,それが危険であるとして,上記商品を敬遠し買い控えるに至るという心理的状態に基づくものである以上,そこには一定の時間的限界があるというべきである。この時間的限界をどのように画すかは困難な問題であるが,それは一般消費者が上記のような心情を有することが反復可能性を有する期間,あるいは一般的に予見可能性があると認め得る期間に限定されるというべきである。」

・また原子力損害調査研究会の最終報告書(平成12年3月29日)においても「平均的・一般的な人を基準として合理性のあるものであること」とされている。

 これらに共通するのは,その時点,その状況の下で,一般通常人の判断において,買い控えすることが通常(合理的,反復可能性)か否かが問われているという点である。
 ここで一般通常人の判断といっても,それがいかなるものであるかは最終的には裁判所の感覚次第というところがあるが,被害者のすべき紛争解決の準備となるのは,風評被害が起きていた時点での一般消費者をとりまく情報環境の保存である。
 損害を低く見積もりたい側は,その時点で既に十分正確な情報が行き渡っており,一般の消費者の判断としては安全と考えるのが通常で,その他の買い控えは,行きすぎたものであって,特殊な心理状態に基づくものであり,相当因果関係はないと主張するであろう。
 被害者側は,その逆を示す証拠を収集すべきということになる。
 そしてこのような情報は,生産者ら被害者に共通して必要な情報であるから,その収集は,生産者だけでなく,生産者団体,組合,業界団体,自治体等の努力によってなされるべきであろう。

 風評被害が「原子力損害」として認められた訴訟において,以下ような認定がなされている。

 平成18年4月19日・東京地裁判決(判時1960号64頁)JCO臨界事故関係。納豆の風評被害。実際の商品に放射能汚染等はなかったが,臨界事故報道等があり悪風評が生じて売上げが減少。
「本件臨界事故現場から10キロ圏内の屋内退避要請地域については、放射線及び放射性物質の放出による健康影響はないものとされているほか、一部新聞記事にはその旨の報道が先行的になされていたこと、本件臨界事故直後の平成11年10月1日から同月5日にかけて、茨城県などによって事故現場周辺の農林水産物、水質、加工品等の安全性について調査が行われ、いずれも放射線ないし放射性物質による影響は認められない旨の結果が公表されていたこと、同月6日以降は、政府やJA茨木件中央会等もキャンペーンを行うなどして安全性のPR活動を行ったことが認められるが、原子力事故が放射線や放射能の放出といった目には見えない危険を伴うものであること、本件臨界事故が前記のとおり死傷者を出した重大なものでり、事故直後からマスコミで大々的に取り上げられていた(証拠として提出された新聞記事(甲27)を見ると、臨界事故の重大性を報じる記事は、その安全性を示す記事よりもはるかに大きく取り上げられており、このことからも、一般読者に事故の重大性に関する印象が強く伝わっていたことが推測される。)ことなどからすれば、本件臨界事故後、原告の納豆製品を含む茨木県産の加工品について安全性が確認され、その旨のPR活動がなされていたとしても、消費者ないし消費者の動向を反映した販売店において、事故現場から10キロメートル圏内の屋内退避要請地域にある本社工場を「生産者」と表示した原告の納豆製品の危険性を懸念して、これを敬遠し、取扱いを避けようとする心理は、一般に是認できるものであり、それによる原告の納豆製品の売上減少等は、本件臨界事故との相当因果関係が認められる限度で本件臨界事故による損害として認めることができるというべきである。」

この判決では,原子力事業者に有利な情報として,

①臨界事故現場から10キロ圏内の屋内退避要請地域については、放射線及び放射性物質の放出による健康影響はないものとされていること
②一部新聞記事にはその旨の報道が先行的になされていたこと
③事故直後の平成11年10月1日から同月5日にかけて、茨城県などによって事故現場周辺の農林水産物、水質、加工品等の安全性について調査が行われ、いずれも放射線ないし放射性物質による影響は認められない旨の結果が公表されていたこと
④同月6日以降は、政府やJA茨木件中央会等もキャンペーンを行うなどして安全性のPR活動を行ったこと

を挙げ,他方

①原子力事故が放射線や放射能の放出といった目には見えない危険を伴うものであること
②本件臨界事故が前記のとおり死傷者を出した重大なものでり、事故直後からマスコミで大々的に取り上げられていた
③臨界事故の重大性を報じる記事は、その安全性を示す記事よりもはるかに大きく取り上げられていたこと
④一般読者に事故の重大性に関する印象が強く伝わっていたこと

を見て,そのような情報環境の下においては,一般消費者が買い控えようとする心理は,一般に是認できるとして,臨界事故と,風評被害による売上減少と間の相当因果関係を認めているものと思われる。

 要するに,風評被害が生じた時点で,一般消費者が,どのような情報環境下に置かれていたかが問題で,被害者側としてすべきことは,その時点で,消費者の不安につながる関連情報の収集保存であろう。


2 いかなる情報が,消費者の心理に影響を与えるかは,業種によって,その内容も異なるだろうが,一般には以下のようなものが考えられるのではないか。

・原発事故の内容と危険性,放射能汚染,出荷制限,風評被害に関連する省庁や自治体等のインターネットサイトや,そこにあるPDF書類の保存が必要であろう。
 
経済産業省http://www.meti.go.jp/earthquake/index.html
厚生労働省http://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/2r98520000014j15.html
農林水産省http://www.maff.go.jp/j/kanbo/joho/saigai/index.html
文部科学省http://www.mext.go.jp/a_menu/saigaijohou/syousai/1303723.htm
食費安全委員会http://www.fsc.go.jp/
消費者庁http://www.caa.go.jp/jisin/index.html
原子力安全委員会http://www.nsc.go.jp/index.htm
観光庁http://www.mlit.go.jp/kankocho/page01_000164.html
福島県http://wwwcms.pref.fukushima.jp/
など
東京電力http://www.tepco.co.jp/nu/fukushima-np/index-j.html
など

・作物、製品、土壌、水質等の汚染に関する公的機関の情報、組合等や自らした検査結果等も基本情報として当然必要だろう。

・食品等については,自分の作っているものでなくても,同種あるいは近隣であることから被害にあうので,出荷制限や出荷自粛要請のあるものについてはそれらの資料も収集しておくべきである。
http://www.maff.go.jp/j/press/soushoku/ryutu/110420.html
http://www.maff.go.jp/noutiku_eikyo/mhlw2.html

・また,出荷制限や出荷自粛要請の出ている品物が市場に出回るなど,混乱が生じているいることを示すニュースが,何件か聞かれるが,今後も起こりうるから,これらは新聞雑誌等で保存すべきである。これらの事象は,一般消費者が,福島県や近隣県産の商品の買い控え,消費不安に直結するものだからである。
ex.「イオン、出荷自粛のサンチュ販売 7都県で2200パック」
 「生協に出荷制限ホウレンソウ74束 千葉の生産者 一部は消費」

・また原発事故関係が収束に向かっておらず,出口も見えず続いてることも重要で,これらを示す新聞,雑誌記事等も保存すべきである。これらは特に観光業者にとっては重要と思われる。未だに,水蒸気爆発の危険など,より悲惨な汚染の可能性を払拭できていないことから,旅行を控えるということもあるだろうからである。

・食品の買い控えについては,女性誌など雑誌の報道内容も重要であり,関連記事は収集保存すべきである。

・また政府や東電から出てくる情報について,批判的に論評されているものは重要で,情報を持っている当事者や,公的機関の情報開示の不正確さや,遅さや,対応の悪さや,わかりにくさを示すような書類や,記事類は収集しておくべきである。

・さらに,食品について規制値以下でも買い控えが起きるのは,急性放射性障害に対する恐れが原因ではなく,低線量被爆による健康被害を恐れが原因で,これについては確率的影響などと言われ,一般通常人にとってははっきりしないことが多い。おそらく低線量被曝と疾病との因果関係や程度については,専門家でも意見が分かれているはずで,そもそもそのような状態にあることを示すため,関連書籍類は今のうちに集めておいた方がよいかもしれない。

・また,現在,外国による日本製品の輸入規制等が行われており,これも消費者にとっては不安要因となる情報であろうから,その種の情報も収集保存しておくべである。
http://www.maff.go.jp/j/export/e_info/pdf/kensa0421.pdf

・さらにWHOのほか諸外国の食品規制値も,日本の消費者の不安につながっているものであり,それら情報の収集は必要であろう。

・また,一般通常人の認識・情報とは異なるかもしれないが,twitterやネット掲示板等での,議論風評も念のため保存しておくのもよいかもしれない。


〔調べるまでもない客観情報〕
・政府の安全宣言の有無
・原発からの距離
・原発事故からの経過期間

2011-04-22 : ・風評被害対策 : コメント : 0 : トラックバック : 0
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■原発事故による風評被害対策について考える その2 損害の立証

■原発事故による風評被害対策について考える その2 損害の立証

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【風評被害の種類】
1 人の汚染が恐れられて発生するもの
  避難者の宿泊拒否など
2 物の汚染が恐れられて発生するもの
(1)動産
 a 農作物、海産物、畜産物等一次産品(売れなくなる)
 b 食品加工物(売れなくなる)
 c 衣類・機器等工業製品(売れなくなる)
(2)不動産
 a 土地建物(売れなくなる、価値の低下)
3 場所の汚染が恐れられて人が来なくなって発生するもの
 a 観光業(宿泊施設・運輸業)(客減る)
 b 賃貸業、教育、娯楽、医療、その他サービス業(客・利用者減る)
 c 農業その他産業で労働者の不足による損失(労働力不足)
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1 風評被害といえるか
 まず,農作物等で考えれば,現に放射性物質で汚染されて,規制値を超えいてれば,風評というより現実に財物汚損があるので,賠償対象となる「原子力損害」に該当するはずである。あるいは出荷制限(原子力災害対策特別措置法第20条第3項,食品衛生法第6条第2号)や出荷自粛要請がなされているものも,同様に扱われるだろう。
 問題は,それ以外で汚染が全くなく,あるいは規制値以下で,出荷制限や自粛要請されていないものが,距離の近さ等から風評被害の対象となった場合である。

2 風評被害という営業損害については,他の財産上の損害と同様,その発生・存在を示す証拠と,その金額の評価に関する証拠の収集が必要である。

(1)風評被害の発生,存在を示す証拠
 原発事故による風評被害の発生は,通常,事故発生後,放射能漏れの情報が伝わり,食品や土壌大気等の汚染を示唆する情報が消費者に伝わり,小売店で食品等が売れなくなり,仲買,卸とその情報が伝わり,生産者が出荷しようとしても取引拒否される,あるいは,価格が大幅に下落するという過程をたどるはずである。さらに,その後は,生産者側での廃棄,生産調整等を強いられ,損害が拡大することになるはずである。
 風評被害による損害の発生,存在を示す証拠の収集とは,これら全経緯をできるだけ客観的な証拠で保存することである。
・農産物等の生産者は,自分自身で収集できるものとして,生産,出荷の記録類は当然必要であり,過去の取引関係書類も当然必要となろう。
・また自主的に検査等した場合はその費用等も損害に該当する可能性があるので,機器の入手や検査機関への依頼に関してかかった費用等を示す書類も保存しておくべきであろう。
・また,今回の原発事故は,地震と津波という自然災害を起点としているため,消費者の買い控え,売上げの低下が,大災害後の消費自粛によるものか判然としない可能性があるので,生産,卸,仲買,小売の各段階で,どのような経緯で,当該生産物について,そのような取引停止,価格下落に至ったのか,自治体,業界団体,組合を通してでも,記録,電話調査,録音,アンケート調査,小売店での客の態度に関する小売り関係者の証言等を,可能な限り客観的な形(録音,ビテオ,書類等)で保存しておくべきであろう。
・さらに,生産物の買い手が無くなり,廃棄せざるをえない場合も,廃棄過程は全て,可能な限り客観的な証拠として保存すべきである。廃棄数量等の記録,廃棄過程の写真,ビデオや,あるいは廃棄を業者に依頼するような場合には,その品目,数量,廃棄場所,廃棄方法,廃棄費用等の確認ができる形での領収書類をもらい保存しておくべきである。
・また,福島県やその近接自治体の観光産業などは,原発事故後に多数のキャンセル等が発生し,多大な損失を被ることになるが,キャンセル理由を示す客観的証拠の保存が必要となろう。キャンセル客が,自己の全く個人的な理由でキャンセルすることもあるし,自然災害に対する恐怖からキャンセルした可能性があり,裁判等ではその点について反論が出される可能性がある。そこで,ホテル,旅館等の観光業者としては,キャンセル客からできるだけその理由をきいて,記録し,また風評被害に関する事情を説明するなどして協力を得て,録音やアンケートはがき等で,福島第一原発事故による放射能漏れに対するおそれから宿泊予定等をキャンセルしたかどうかについて客観的証拠を得るべきだだろう。また,旅行代理店等を通した団体予約などの場合は,代理店の協力を得るなどして,キャンセル客に対するアンケート調査をしてでも,原発事故によるキャンセルであったことを示す客観的証拠を入手しておくべきであろう。

(2)風評被害の金額の評価に関する証拠
・それまでの取引価格を示す証拠は,重要な証拠になるので,過去の取引記録は,可能な限り保存しておくべきである。仮に廃業に追い込まれても,捨てずに過去の記録は保管すべきである。また,価格下落後のものも保管する必要がある。
・また,同産地同種商品の小売店での価格等の記録も参考になるかもしれない。
・各紛争解決機関で,損害がどような方法で算出されるか不明であるが,過去数年間の同時期の粗利益の平均額と,原発事故後の同時期の粗利益との差額が,損害になると考えるとすると,それらを示す決算書類,税務関係書類等は当然に必要である。

(3)経営努力,営業努力に関する証拠
 これは,後述の相当因果関係や過失相殺(民法722条2項)に関して問題となるが,ここで論じておく。
 風評被害にあった生産者が,過度に悲観して,過剰な廃棄や生産調整に至った場合は,過失相殺規定(民法722条2項)が適用され,その分,賠償額が減らされる可能性がある。あるいは,その場合,風評と損害との間に相当因果関係か無いとして,請求が認められない可能性がある。
 JCO臨界事故事件に関して,水産加工会社が風評被害による賠償を求めた事件で,平成15年6月24日水戸地裁判決(判時1830号103頁)では,損害の存在を否定した上,「更に取引を求めて交渉したり,当該品物の転売先を探す努力をした形跡は全くないのであり,そのような努力をしてもなお損失を被らざるを得なかったことを認めるに足りる証拠はないから,原告主張の損害には,本件事故との相当因果関係を認めることはできない」などとして請求を棄却している。
 したがって,風評被害を被った者が,廃棄や生産調整する場合には,営業努力をしてもそこに追い込まれざるえなかったという事実を示す証拠も同時に用意しておいた方がよいということである。生産者が取引停止されたり,価格を下げられたりしたら,前記のとおり,その経緯は保存しておくべきだし,他の取引先を探す努力をし,それらも断られたとしたら,その経緯を記録し,また取引を拒否した業者やその先の仲買,小売まで話を聞いて記録しておくべきだろう。また,生産物の場合,出荷時の値段が,生産に要する金額(原価)を下回ると,生産調整はやむを得ないことであろうから,価格交渉経緯の客観的証拠は重要と思われる。さらに,農協漁協等の業者団体による風評被害対策等の努力がなされていることも,その際の営業努力を示す証拠であり,風評被害抑止の業界の努力経過も写真,録音,ビデオ,書類等の客観的証拠で保存しておくべきである。


2011-04-22 : ・風評被害対策 : コメント : 0 : トラックバック : 0
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■原発事故による風評被害対策について考える その1 序論

■原発事故による風評被害対策について考える その1 序論

 まず,対策としては,

1 現時点から先の風評被害を抑制・阻止するための対策
2 既に発生してしまった風評被害を回復するための対策

 この二方向あると思われるが,ここでは2の対策を考えたい。

 風評被害による損失(営業損害)については,主として東電への損害賠償請求による回復が考えられ,これについては,今のところ以下のような手続きが考えられる。〔今回の原発事故では,風評被害以外の損害も膨大に発生していることから,国が別の仲裁制度等を設けるかもしれない。〕

1 当事者が直接東電に請求して支払いを受ける。
2 業界組織や自治体等の支援を受けつつ当事者が直接東電に請求。
3 裁判外紛争解決(ADR,弁護士会総合紛争解決センターなど)
4 原子力損害賠償紛争審査会による和解仲介(原賠法18条2項2号)
5 民事調停
6 民事訴訟

 原発事故による風評被害といっても,事件の性質としては,通常の不法行為に基づく損害賠償事件と異ならず,民事紛争をいかに速やかに納得いく形で解決していくかが問題となる。

1から3までは,私的紛争解決
4から6までは,国の機関が関与

1と2は,当事者どうしの話し合,直接請求
3から5までは,第三者の関与を前提とする和解の場
6は,裁判による決着(ただし,訴訟手続内で和解解決もある)


 他の種の民事事件と同様で,「証拠が全て」の世界である。1から6までのどの方法,手続をとるにしても,証拠が重要である。ただし,原賠法に基づく,「原子力損害」の損害賠償請求では,次ぎのとおり,加害者側の過失の立証が必要なく,①損害と②因果関係の2点に立証対象が絞られてくるはずである。


〔民法709条,不法行為に基づく損害賠償請求権の成立要件〕
1 故意・過失
2 権利侵害(違法性の存在)
3 損害の発生
4 侵害行為と損害発生との間に因果関係があること
5 責任能力

 今回の事件で,原賠法に基づく請求をする場合,1の故意過失は立証の必要がない。原賠法3条では,無過失責任主義がとられており,被害者は加害者の故意・過失を立証する必要がないし,また加害者が無過失の主張をして争うこともできない。
 また,2の権利侵害について,そもそも,風評被害は,通常の財産上の権利の侵害(営業損害)の問題であり,権利侵害の要件が問題となることはない。
 さらに,東電は,自然人ではなく法人であり,5の責任能力も問題とならない。

 要するに,原子力損害賠償請求事件では,紛争解決のために当事者が立証すべきは,3の損害発生と4の因果関係(相当因果関係)のみである。

 したがって,風評被害を受けた者が,既に受けてしまった風評被害の回復を図ろうとする場合,必要なのは,①損害と②因果関係の立証に必要な資料の収集につきる。これはなにも,被害者自身のためになるだけではなくて,実際に支払いをする東電にとっても,客観的証拠が有れば支払いやすいし,紛争解決に係わる審査委員,調停委員,裁判所等にとっては,当事者に納得いく和解案を提示しやすくなるので,スムーズな解決に繋がり,関係者全員の利益につながるはずである。
 
 そこで,次項以下で,「損害の立証の準備」と「因果関係の立証の準備」のために,いかなる資料を収集すべきか考えてみる。




2011-04-21 : ・風評被害対策 : コメント : 0 : トラックバック : 0
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原子力損害賠償法について検討してみます。(リンクはご自由に)
なお、引用部分以外は私(一応法律家)の意見ですので、判例・学説・実務等で確定したものではありません。他の考えでも裁判等で争い認められる余地があります。

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