東日本大震災以降,原子力損害賠償法に興味あり,同法と東京電力の責任についても検討してみたい。

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■2条「原子力損害」の意味・範囲 継続的損害の問題

■2条「原子力損害」の意味・範囲 継続的損害の問題


 損害発生が継続する場合に、加害者はどこまで賠償しなければならないのか。


1 精神的損害
 避難生活を強いられ、そのことによる精神的苦痛が継続している場合

2 財産的損害のうち積極損害
 避難生活を強いられ,自宅土地建物等の使用が継続的に不可能,また生活費の増大が継続する場合

3 財産的損害のうち消極損害(休業損害,逸失利益)
 避難、出荷制限、風評被害などで失職、求職、休業、廃業等を強いられ無収入あるいは減収が継続している場合


特に3が問題。

平成23年8月5日に出された中間指針を見ると
http://genbaihou.blog59.fc2.com/blog-entry-196.html
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〔営業損害〕
7)営業損害の終期は、基本的には対象者が従来と同じ又は同等の営業活動を営むことが可能となった日とすることが合理的であるが、本件事故により生じた減収分がある期間を含め、どの時期までを賠償の対象とするかについては、現時点で全てを示すことは困難であるため、改めて検討することとする。但し、その検討に当たっては、一般的には事業拠点の移転や転業等の可能性があることから、賠償対象となるべき期間には一定の限度があることや、早期に転業する等特別の努力を行った者が存在することに、留意する必要がある。

〔就労不能等に伴う損害〕
8)就労不能等に伴う損害の終期は、基本的には対象者が従来と同じ又は同等の就労活動を営むことが可能となった日とすることが合理的であるが、本件事故により生じた減収分がある期間を含め、どの時期までを賠償の対象とするかについて、その具体的な時期等を現時点で見通すことは困難であるため、改めて検討することとする。但し、その検討に当たっては、一般的には、就労不能等に対しては転職等により対応する可能性があると考えられることから、賠償対象となるべき期間には一定の限度があることや、早期の転職や臨時の就労等特別の努力を行った者が存在することに留意する必要がある。

〔風評被害〕
5)なお、「風評被害」は、上記のように当該商品等に対する危険性を懸念し敬遠するという消費者・取引先等の心理的状態に基づくものである以上、風評被害が賠償対象となるべき期間には一定の限度がある。
 一般的に言えば、「平均的・一般的な人を基準として合理性が認められる買い控え、取引停止等が収束した時点」が終期であるが、いまだ本件事故が収束していないこと等から、少なくとも現時点において一律に示すことは困難であり、当面は、客観的な統計データ等を参照しつつ、取引数量・価格の状況、具体的な買い控え等の発生状況、当該商品又はサービスの特性等を勘案し、個々の事情に応じて合理的に判定することが適当である。
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 このように中間指針では,継続的損害の「終期」の問題として扱うかのような表現である。

〔考え方〕 
 まず、一般的な価値判断として、被害者の意思と能力において、避けようのある損害については、特にやむを得ないよう事情がない限り,そのようなものまで全部加害者に賠償させる必要はない。
 被害者において、損害の発生拡大を避けようと思えばさけることができるのに、何もせず漫然と避難生活をすることか通常人の合理的判断に基づくものとはいえないような場合には、そのような損害発生拡大に至る経緯は、通常の因果の流れによるものとはいえず、通常損害ではないと理解し、原則として相当因果関係は否定されると解する余地はあろう。
 
 これは被害者の意思・判断が、損害の発生拡大に関与した場合に、その損害を加害者に負担させることができるのかという問題で、そういう意味では、被害者の自殺、自主避難者の問題と似たところもある。ただし、これは転職、転業、移転等の作為で損害の拡大を防ぐというものであるから、この場合、何もしないという不作為の合理性が問われることになる。これに対して、自主避難者の問題は、避難という作為の合理性が問われている。


 いくらか参考になるものとして、以下の最高裁判決がある。これは、店舗賃借人の営業損害が継続して発生する場合に、その範囲を「賃借人が損害を回避又は減少させる措置を執ることができたと解される時期」基準に限定しようとするものである。端的に被害者側の損害軽減「義務」を認めたものと理解されることもあるが、裁判所は、相当因果関係説を前提に、被害者の合理的でない意思・判断が作用して損害が発生・拡大した場合に、それを通常の因果経路による損害ではなく、民法416条1項の通常損害に該当しないものと解したものと理解する余地があろう。

・最高裁 平成21年1月19日判決(民集第63巻1号97頁)
〔事案〕
 店舗の賃借人が賃貸人の修繕義務の不履行により被った営業利益相当の損害について,賃借人が損害を回避又は減少させる措置を執ることができたと解される時期以降に被った損害のすべてが民法416条1項にいう通常生ずべき損害に当たるということはできないとされた事例
〔裁判要旨〕
 ビルの店舗部分を賃借してカラオケ店を営業していた賃借人が,同店舗部分に発生した浸水事故に係る賃貸人の修繕義務の不履行により,同店舗部分で営業することができず,営業利益相当の損害を被った場合において,次の(1)~(3)などの判示の事情の下では,遅くとも賃貸人に対し損害賠償を求める本件訴えが提起された時点においては,賃借人がカラオケ店の営業を別の場所で再開する等の損害を回避又は減少させる措置を執ることなく発生する損害のすべてについての賠償を賃貸人に請求することは条理上認められず,賃借人が上記措置を執ることができたと解される時期以降における損害のすべてが民法416条1項にいう通常生ずべき損害に当たるということはできない。
(1) 賃貸人が上記修繕義務を履行したとしても,上記ビルは,上記浸水事故時において建築から約30年が経過し,老朽化して大規模な改修を必要としており,賃借人が賃貸借契約をそのまま長期にわたって継続し得たとは必ずしも考え難い。
(2) 賃貸人は,上記浸水事故の直後に上記ビルの老朽化を理由に賃貸借契約を解除する旨の意思表示をしており,同事故から約1年7か月が経過して本件訴えが提起された時点では,上記店舗部分における営業の再開は,実現可能性の乏しいものとなっていた。
(3) 賃借人が上記店舗部分で行っていたカラオケ店の営業は,それ以外の場所では行うことができないものとは考えられないし,上記浸水事故によるカラオケセット等の損傷に対しては保険金が支払われていた。
〔判決文抜粋〕
「そうすると,遅くとも,本件本訴が提起された時点においては,被上告人がカラオケ店の営業を別の場所で再開する等の損害を回避又は減少させる措置を何ら執ることなく,本件店舗部分における営業利益相当の損害が発生するにまかせて,その損害のすべてについての賠償を上告人らに請求することは,条理上認められないというべきであり,民法416条1項にいう通常生ずべき損害の解釈上,本件において,被上告人が上記措置を執ることができたと解される時期以降における上記営業利益相当の損害のすべてについてその賠償を上告人らに請求することはできないというべきである。(3) 原審は,上記措置を執ることができたと解される時期やその時期以降に生じた賠償すべき損害の範囲等について検討することなく,被上告人は,本件修繕義務違反による損害として,本件事故の日の1か月後である平成9年3月12日から本件本訴の提起後3年近く経過した平成13年8月11日までの4年5か月間の営業利益喪失の損害のすべてについて上告人らに賠償請求することができると判断したのであるから,この判断には民法416条1項の解釈を誤った違法があり,その違法が判決に影響を及ぼすことは明らかである。5 以上によれば,上記と同旨をいう論旨は理由があり,原判決は破棄を免れない。そこで,上告人らが賠償すべき損害の範囲について更に審理を尽くさせるため,本件を原審に差し戻すこととする。」


 
 この判決は、賃貸借契約の契約当事者間に生じる損害賠償責任の問題であって、賃貸物の修繕義務との関係や、契約解除の成否・時期等の問題があって、その理屈を、原発事故のような不法行為の加害者・被害者の関係にそのまま持ち込むことはできないが、継続的に発生する営業損害について、被害者の意思・判断が損害拡大に関与した場合に、一定の事象の下に、通常生すべき損害(通常損害)ではないとして、賠償を否定している点は、参考になろう。


 結局、不法行為の場合、継続的に発生する損害の範囲を限定する理屈としては、以下のようなものがあるのではないか。
 ↓

A 損害の発生
  そもそも、その損害(利益)が継続しえたか否か、
 ex あと1年で退職予定だった場合は、当然2年目以降の損害は生じていない?

B 事実的因果関係
原発から避難等と関係なく、失職、減収等に至っている場合
ex 退職、失業、廃業直後に原発事故発生、または、原発事故発生前からそれが決まっていた場合など

C 相当因果関係(民法416条類推)
 損害軽減(転業、転職、営業所移転等)が現実に可能か、その容易性、元の職に戻れる可能性の有無程度等も勘案して、個別事情により、損害軽減行為に出ないという不作為の合理性(相当性?、やむを得なさ?)を判断して、被害者が損害の発生回避、損害軽減ができるのにしなかったといえるような場合は、その結果生じ拡大した損害については、通常生ずべき損害ではなく、賠償義務なしとする。〔ただし、特別事情の予見可能性がある場合は、責任負う余地ありとする?。〕

D 過失相殺(民法722条2項)
 損害発生、拡大について、被害者の〔落ち度ある〕判断、行動が関与している場合には、それに応じて、賠償額を減額する。

E 損害の金銭的評価においての調整(民事訴訟法248条)


 原発事故の被害者との関係でいえば、

1 被災地域が広汎に及ぶために、隣町に営業所を構えれば、また同じように仕事を継続できるというように簡単にはいかない。かといって、遠く離れた土地で再開業となると、これまでの顧客との縁が切れる。
2 農業、漁業など、土地との結びつきが強い産業については、簡単に代替地で再開というわけには行かない。上の、最高裁判例事案のカラオケ店との違い。
3 高齢者の場合、自分の農地で農業はできても、いまさら転職して稼ぐなどということは困難。
4 経済情勢からして給与所得者の転職も上手くいくとは限らない。転職後も同内容、同待遇の職ならいいが、そうでもない場合は、どこまで被害者が我慢すべきかという問題となる。逸失利益として差額の賠償なども問題。
5 もといたところが除染等によって復旧できる可能性があるなら、戻る余地もあるとして、転職、転業、移転など、確定的な行動に出にくいという問題。

 これら問題以外にも個別事情に応じて、様々な問題があろう。
 そもそも、これは継続的な損害発生の「終期」の問題というよりも、現実に発生する損害について、どこまでを賠償の範囲とみてよいか,その金銭的評価をどうするかという問題であって、本来は,「休業損害は事故から1年」とか「廃業による損害は5年まで」とか、一律に決めることはできない問題だろう。JCO臨界事故のように短期間で終結した事案の前例に引きずられたところがあるのかも知れないが,今回の原発事故の賠償では,損害継続の「終期」を待つことはできないものであろうから,失職や営業損害等については,今後予測されるの「逸失利益」の賠償の問題ということになるのではないか。

 この点,交通事故で後遺症を負った場合,たとえば,交通事故で片腕を失ったよう場合には,その障害そのものについての慰謝料以外に,その障害の程度・等級によって労働能力喪失率を観念し,通常67歳までの残労働可能期間に得られる収入を推定し,ライプニッツ計数で中間利息を控除し損害額を出すということになろうが,この場合は,障害が一生回復しないことがはっきりしているという前提がある。
 同じ交通事故でも,頸椎捻挫等の後遺障害の場合は,一生涯続くとは限らないことから裁判でも,一生涯続くものとは扱われず,数年程度は続くという前提で3年から5年程度の期間でのみ,逸失利益が認められることがある。

 結局,逸失利益は,将来得られるであろうと推定される利益を,今賠償させようとするものであるから,その推定に不確実性のある要素が増えれば増えるほど,その算定は困難になる。
 原発事故で避難を強いられたり,廃業させられた場合は,今のところ被害者本人の身体には問題がないだろうから,原発事故による労働能力喪失率というものは考えにくい。ただ,もとのところに帰還できるか否かについての不安定さがある上,避難生活から,再び仕事を再開したり転職したりすることの可能性も,被害者の年齢,性別,職種その他個別の事情によって様々であろう。風評被害による営業損害などは,この先,どの程度のものが,どこまで続くか分からない場合もあろう。

 これら損害が発生する都度,それを評価して,賠償を継続するという方法もあろうが,普通は,将来の損失もまとめて推定評価して,今,賠償するということになる。
 結局,逸失利益について,大量かつ迅速な解決のため一定の基準を設けるとなると,年齢や職種,自営業者か給与所得者か否かなど,類型化をして,過去の実収入や賃金センサス等の基準から将来得られるであろう収入を推定し,それを一定の期間〔この期間も転職,転業,再就職等の難易も勘案して,類型によっては長短を設けて〕に限定して賠償するということになろうか。あるいは一定の割合?。
 もっとも,高齢者がほとんど収入にならない畑を健康のためや生活の喜びとして作っていたよう場合は,逸失利益としての金銭的評価は低額になるだろうし,自営業者など,それまでの慣れた生業を失った苦痛や,転職,再就職の苦労などは財産的損害ではないが,賠償されるべき精神的損害であろうから,それらは慰謝料として,考慮されるということになろうか。

※なお,再就職等を強いられたことによる精神的苦痛については,判例としてJT乳業事件がある。 
・JT乳業事件
 平成17年5月18日,名古屋高裁金沢支部判決(平成15(ネ)329)
 会社代表者の任務懈怠で会社解散・解雇。従業員が会社代表者に損害賠償を求めた。
「既に認定した事実及び弁論の全趣旨によれば,被控訴人従業員らは,Dの重大な過失に基づく本件任務懈怠により本件会社が解散,廃業に追い込まれたことで,突然に就業先を失って,日々の生活の糧を得る途を失う事態に遭遇するに至ったのであり,これにより,被控訴人従業員ら及びその家族が将来に対する大きな不安を抱いたこと,そして,被控訴人従業員らは,自らと家族の生計を維持するために相当に困難な再就職活動を余儀なくされ,そのための努力を強いられ,また,被控訴人従業員らのうち,再就職した従業員については,本件解雇前とは異なる職場環境で労働するほか,その多くは,本件解雇前の職種と異なる職種の労働に従事することになって,相当の苦労をし,他方,再就職できなかった従業員については,自己及び家族の生活上の将来への不安を一層募らせたことを推認することができる。そうすると,被控訴人従業員らがDの本件任務懈怠により被った精神的苦痛は相当に重大であったものというべきであるから,雇用保険法に基づく基本手当及び再就職手当の受領の事実,退職金差額による逸失利益の存在の可能性を加減事情として考慮すると,被控訴人従業員らの被った上記精神的苦痛を慰謝するための額として,被控訴人従業員ら一人について各100万円を認めるのが相当である。」




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2011-08-23 : ■2条「原子力損害」 : コメント : 0 : トラックバック : 0
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■2条「原子力損害」の意味・範囲 安愚楽牧場の問題

■2条「原子力損害」の意味・範囲 安愚楽牧場の問題


 以下のような記事があった。

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http://www.yomiuri.co.jp/national/news/20110802-OYT1T00343.htm
安愚楽牧場、賠償の可能性ある…細野原発相

福島原発
 「和牛オーナー制度」で知られる畜産会社「安愚楽(あぐら)牧場」(栃木県那須塩原市)が経営悪化した問題について、細野原発相は2日午前の閣議後記者会見で「牧場の場所からいっても、牛に関する問題ということからいっても、賠償スキーム(枠組み)に乗る可能性は十分ある」と述べ、同社が東京電力から損害賠償を受けられる可能性があることを示唆した。
(2011年8月2日11時39分 読売新聞)
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〔牛の所有者の東電への請求〕
 この和牛オーナー制度の詳細は知らないが,飼育している和牛の所有者(繁殖牛は会員?,子牛は牧場?)は,牛の汚染で被った損害(財物汚損,出荷停止,風評被害による価格低下等)について,原発事故と相当因果関係がある限り,直接の被害者として,東電に損害賠償請求することが可能であろう。

 なお,この和牛オーナー制度には,特定商品預託法(特定商品等の預託等取引契約に関する法律)の適用がある。


〔会社(牧場側)の東電への請求〕
 原発事故と,相当因果関係のある減益分については,牧場は東電に賠償請求できるはず。


〔会員(オーナー)の東電への請求〕
 解約時や委託期間終了時に戻ってくるはずの,委託牛買取り金(返戻金?)相当額の損害について,東電に請求できるのかという問題となろう。
 会員の牧場に対する債権を,第三者(東電)が侵害したとみると〔事実行為(原発事故)によって,債務者の一般財産を減少させることによって,債権の実現を妨げたという型のもの〕,単なる「過失」のみでは不法行為は成立しない?。
 こちらで述べた,第三者が事実行為によって債務者の一般財産(責任財産)を減少させた場合と同様のことが言えよう。
 なお,もともと原発事故前から,牧場側に返戻金分の原資が不足しているような場合は,その不足分については,そもそも原発事故と相当因果関係のある損害とはいえないだろう。
 こちらで述べたのと同様に,基本的には,債権者(会員)は,債務者(牧場)の無資力を前提に,牧場の東電に対する、原発事故と相当因果関係のある損害分について賠償請求権を代位行使(民法423条)して,損害を回復するということになろうか。ただし,会社更生,破産等開始決定がある場合は,それぞれ管財人等による回収を待つことになる。


〔株主(牧場の株主)の東電への請求〕
 債権者より劣後するが、考え方は,上の会員(債権者)の東電への請求と同様になるかもしれない。基本的には,牧場の東電に対する賠償請求を通じて,牧場の財産を回復させ,株式の価値を回復するということだろうか。事故前から,債務超過であったような場合は,賠償金を得ても元の程度の債務超過の状態に戻るだけなので,株主の損害回復にはならない?。そもそも損害がない?


※会員による国、会社、会社役員の責任追及はまた別の問題


2011-08-13 : ■2条「原子力損害」 : コメント : 0 : トラックバック : 0
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■2条「原子力損害」の意味・範囲 セシウム汚染牛の問題

■2条「原子力損害」の意味・範囲 セシウム汚染牛の問題


 以下のような記事があった。

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http://www.kahoku.co.jp/news/2011/08/20110804t65011.htm
河北新報社
牛肉汚染 東電職員「稲わら農家の責任」 抗議受け本社謝罪

 肉牛から国の暫定基準値を超える放射性セシウムが検出されるなど、福島第1原発事故による農業被害が拡大している問題で、農民運動全国連合会(農民連)は3日、被災地で補償対応に当たる東京電力職員の言動が横暴だとして、東電に謝罪と迅速な賠償を求める要請活動を行った。
 農民連によると、東電職員は宮城県で「牛肉問題は汚染された稲わらを与えた農家の責任」と発言したという。福島県では「(補償対象だという)証拠を示す責任がある」と次々に資料を提出させ、賠償金の仮払いで「津波による被害分は後で返してもらう」と話したという。
 賠償金の支払い自体も停滞。原発から約12キロの南相馬市でコメなどを栽培していた三浦広志さん(51)は「20キロ圏内の場合は賠償請求の書式さえ決まっていない」と批判。福島市の服部崇さん(40)も「7月中に示すはずだった風評被害の書式もまだだ」と憤った。
 東電福島原子力被災者支援対策本部の橘田昌哉部長は「被害者の心情を踏まえない言動で、事実ならば申し訳ない」と謝罪。「初めてのことなので時間がかかっている。資料確認の迅速化を図る」と述べた。
 要請活動には宮城、福島両県などから約350人が参加。東京都千代田区の東電本店前に肉牛2頭を並べ、シュプレヒコールを上げた。
2011年08月04日木曜日
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 放射性物質はなかなか消えてなくならないので,なんらかの機序で濃縮等があって,二次,三次と被害が波及,拡大し,その場合,進むにつれて関係者が増えていくはずで,関係者相互の責任など,かなり問題が複雑なものになっていく可能性があって,牛以外でもこれからも同様の問題が出てくるかもしれないので,ここで考えてみる。

 事件のモデルとして以下のように単純化してみる。(経緯等はこちら



A 原発事故を起こした原子力事業者(東電)
B 稲ワラ汚染について監督指導をなすべき主体(国,自治体)
C 汚染稲ワラを生産販売した者(刈り取ったまま露天に放置)
D 買った汚染稲ワラを牛に食べさせてしまった畜産農家
E 汚染稲ワラを食べさせることなく飼育したが,他の畜産農家の汚染牛発覚で,出荷制限や風評による損害を被った畜産農家


1 ABの関係
 事故後の原子力損害の波及,拡大に,国の監督指示等の落ち度が関係していた場合に,どうなるのかという問題。
 東電の国との関係について論じたのと同様。こちら。
 http://genbaihou.blog59.fc2.com/blog-category-14.html
 国,自治体の過失の有無,および,原賠法4条の適用範囲の問題
 さらに,
 国,自治体にかぎらず,事後的関与による損害拡大について,そもそも原賠法4条の適用があるのかという,4条の時的適用範囲の問題も関係する。
 こちらで触れた。
 http://genbaihou.blog59.fc2.com/blog-entry-129.html


2 ACの関係
・原賠法3条1項で過失の有無に関係なく責任を負うのが原則
・ただし,損害と原発事故との間に相当因果関係が必要

 まず,Cとの関係では,放射性物質によって稲ワラが汚染されたので,当然に稲ワラ生産販売したCに対しては,Aは財物汚損による賠償責任を負う。もし,CがDに稲ワラを売却していた場合は,その分は損害はないが,後述のとおり,DやEから損害賠償請求を受け,支払った場合は,その分は損害となるので,Aに対して,賠償請求する余地がある。ただし,過失相殺(民法722条2項)の余地あり。
 
※過失相殺(民法722条2項)について
・東電に有利な事情としては,
 ①事故後数日後には,東京の水道水からも放射性物質が検出され騒ぎとなっていたことや,茨城県のほうれん草からも規制値を超えるものが見つかっていたことなどから,少なくとも事故現場から東京までの範囲については,放射性物質が飛散してることは明白であったという事実。
 ②放射性物質が簡単に消失するものではないことは報道されていたこと。
 ③国は,3月19日段階で,「畜産農家の皆様へ」という文書などで,注意を呼びかけていたという事実。

・稲ワラ生産販売者に有利な事情としては,
 ①避難等指定区域外への汚染は,程度が低く,健康に影響はないと,繰り返し学者,専門家,メディアによって報道されていたという事実
 ②国の呼びかけ文書等があったが,それが不徹底であったとしたらその事実
 ③放射性物質飛散による広範な汚染は,世界でも珍しく,我が国では初めての出来事であること。
 ④放射性物質が無味無臭で五官で感得できないという事実。
 ⑤原子力災害対策特別措置法第3条で「原子力事業者は、この法律又は関係法律の規定に基づき、原子力災害の発生の防止に関し万全の措置を講ずるとともに、原子力災害(原子力災害が生ずる蓋然性を含む。)の拡大の防止及び原子力災害の復旧に関し、誠意をもって必要な措置を講ずる責務を有する。」とあるように〔国の責務は4条,地方公共団体の責務は5条〕,原子力事業者が,一次的な災害拡大防止義務を負っていることから,これら災害拡大の防止に東電側が何らかの措置(国への働きかけ,農家への注意の不徹底等があれば自ら呼びかけるなど)をしていなかった場合はその事実。

 結局,これら事情などを考慮して,過失相殺の適用の有無,その割合を決するということになろう。


3 ADの関係
 汚染稲ワラをDに売り渡したCに不法行為(民法709条)の要件を満たすほどの落ち度が認められた場合,Aの不法行為(原発事故で放射性物質をまき散らした)と関係では,Cの行為は,後続侵害の問題となろう。
 つまり,Aは,このような場合にまで,後続侵害を経由して発生した損害の全部について責任を負うことになるのかという問題。
 相当因果関係説(通説・判例)では,先行行為(原発事故)のとの関係で,後続侵害による結果が,通常損害といえるか(因果経路の通常性),いえない場合でも,予見可能性な特別損害といえるかという観点から,判断される。
 予見可能性については,おそらく時間的近接性や先行の侵害の程度や状況,危険性,後続侵害の内容等の諸般の事情からケースバイケースで判断される。前述の過失相殺で述べた諸事情なども考慮されるだろう。〔先行行為(原発事故)の重大性,危険性,原子力災害対策特別措置法の存在等から見て,原子力事業者が責任を免れるはの難しそうだが。〕
 後続侵害については,こちらで触れた。
 http://genbaihou.blog59.fc2.com/blog-entry-129.html
 また,汚染稲ワラを食べさせた畜産農家Dについて,なんらかの落ち度が有れば,ACの関係で述べたの同様に,過失相殺(民法722条2項)による賠償額の減額の余地が生じてくる。前述のとおり,諸事情を考慮して決まるだろう。


4 AEの関係
 Eの損害に至るまでに,BCDの過失が関係している可能性がある。
 AC間で述べたとおり,先行行為(原発事故)のとの関係で,後続侵害による結果が,通常損害といえるか(因果経路の通常性),いえない場合でも,予見可能性な特別損害といえるかという観点から判断されるだろう。
 もっとも,汚染牛が出て,それが原因で,その県内の牛肉の出荷が制限されたり,風評被害が発生するのは通常の因果の経過であるから,AC間で,Aの責任が認められるような場合には,当然にAE間で,Aの責任は肯定されよう。
 また,Eは,自分の牛が汚染されていない以上,何の落ち度もないのは明らかなので,Aとの間で,過失相殺(民法722条2項)の問題は生じない。

※なお,同一県内に汚染食品がないのに,第三者の行為で,風評が発生したような事案については,こちらで触れた。http://genbaihou.blog59.fc2.com/blog-entry-95.html
 

5 BCの関係
 稲ワラを汚染されてしまったCも被害者で,その賠償請求をA東電のみならず,B国にも請求できないかという問題。
 「原子力損害」を被った被害者が,国を訴えることができるのかという問題であり,以前に論じた原賠法4条による国の免責の問題。こちらで論じた。
 http://genbaihou.blog59.fc2.com/blog-entry-38.html
 なお,仮に国の賠償責任が認められても,AC間と同様に過失相殺(民法722条2項)の問題はある。


6 BDの関係
 知らずに,汚染稲ワラを食べさせた農家Dが,その賠償請求をA東電のみならず,B国にも請求できないかという問題。
 「原子力損害」を被った被害者が,事故後の国や自治体の指導等について落ち度かある場合に,国を訴えることができるのかという問題であり,ここで論じた原賠法4条による国の免責の問題。 
 こちらで論じた。
 http://genbaihou.blog59.fc2.com/blog-entry-38.html
 なお,仮に国の賠償責任が認められても,AD間と同様に過失相殺(民法722条2項)の問題はある。


7 BEの関係
 これも,汚染牛発生,出荷制限,風評被害に至る間に,国の指導等に落ち度があった場合に,畜産農家Eが,国の過失を根拠に国賠請求できるかという問題で,上と同じ。
 ただし,この場合は,Eは,自分の牛が汚染されていない以上,何の落ち度もないのは明らかなので,Bとの関係でも過失相殺(民法722条2項)の問題は生じない。


8 CDの関係
 CD間には稲ワラの売買契約があることから,少しややこしい。
・債務不履行責任
 Cに売却予定稲ワラ等の管理や検査等について,落ち度があって,汚染稲ワラをDに売却したことについて過失がある場合は,Dに対して,債務不履行に基づく損害賠償責任(民法415条)を負う。
 Dは無価値な稲ワラをつかまされたことで,売買代金分の損害は当然被っているので,その代金分は損害となる。さらに,それを知らずに食べさせたことによって,自分の牛が汚染されてしまって,無価値となってしまった場合,Cは,その分まで賠償責任を負うのか。
 積極的債権侵害の問題。諸説あるが,売買契約の売り主の給付義務に付随する注意義務違反として,債務不履行責任のひとつとして捉えられ,給付が不完全であったことと相当因果関係ある全損害について,賠償責任を負うことになる。
 したがって,CはDに対して,少なくとも汚染前の牛の時価相当額の賠償義務はあるということになろう。
 もっとも,Cから受け取った稲ワラを食べさせたDの行為にも落ち度があるとするなら,債権者に過失あるときとして,過失相殺(民法418条)による賠償額の減額がありうる。
・瑕疵担保責任
 当該稲ワラが何らかの理由で特定物と見られる場合,または,瑕疵担保責任の適用は特定物に限らないとする立場に立った場合。
 稲ワラが規制値を超える程度の汚染をもたらすものである場合は,当然に「瑕疵」があり,これが取引上一般に要求される程度の注意を払っても発見できないようものであった場合は,「隠れた瑕疵」ということになって,Cは売り主としては,瑕疵担保責任(民法570条,566条1項)を負うことになる。Cの過失の有無は問わない。
 原発事故と,その後の放射性物質の飛散,それによる土壌や農作物の汚染は騒がれていたのことから,セシウム汚染が,「隠れた」瑕疵といえるのかという点は,問題となる余地はある。
・もっとも,これら民法上の責任については,原賠法4条〔責任集中の原則〕との関係が問題となる。
 牛肉のセシウム汚染を,原発事故と相当因果関係のある「原子力損害」であると見た場合,原賠法4条で原子力事業者Aのみが責任を負うとされるので,CD間では賠償責任の問題生じないと考えられる。つまり,CはDに対して,契約上の賠償責任責任を負わない。(この場合でも,Cにもし「故意」が認められるなら,原子力事業者Aは,Dに支払った賠償金について,Cに対して求償権を有することになる(原賠法5条1項)。)
 これに対して,原賠法4条の適用範囲について,特に事後的な第三者の関与による損害拡大については,その趣旨から,責任集中の適用はないと解するなら,逆の結論になろう。4条の時的適用の範囲の問題。
 こちらで論じた。
 http://genbaihou.blog59.fc2.com/blog-entry-129.html
 第三者の事後的関与と原賠法4条との関係については,こちらでも触れた。
 http://genbaihou.blog59.fc2.com/blog-entry-132.html
 また,上で論じたのAD間の関係について,その相当因果関係が否定される場合は,牛肉汚染と原発事故との,相当因果関係が切れている場合なので,「原子力損害」とはならず,原賠法4条の適用も問題とならず,当然CD間の民法上の責任のみが問題となろう。


9 CE間の関係
 CE間には契約関係が無いので,契約上の責任,債務不履行責任は問題とならない。
 したがって,仮に,Cの行為〔稲ワラを露天で置いておいて後に束ねて出荷〕が,Cの過失ある行為と認められ,Eら他の畜産農家の牛肉の出荷停止,風評被害による損害などと,相当因果関係あると見られる場合に,不法行為責任(民法709条)が問題となるだけだろう。
 ただし,この場合も,上のCD間で論じたのと同様に,原賠法4条との関係が問題となり,「原子力損害」といえる限りは,原則として,CE間でも賠償の問題は生じない。事後的関与について4条適用否定するなら,逆になる。
 Eに落ち度はないので,過失相殺(民法722条2項)は問題とならない。


10 DE間の関係
 DE間には契約関係が無いので,契約上の責任,債務不履行責任は問題とならない。
 したがって,仮に,Dの行為〔汚染稲ワラを自分の牛に食べさせて,汚染牛を発生させたこと〕が,Dの過失ある行為と認められ,それがEら他の畜産農家の牛肉の出荷停止,風評被害による損害などと,相当因果関係あると見られる場合に,DのEに対する不法行為責任(民法709条)が問題となる。
 ただし,この場合も,上のCD間で論じたのと同様に,原賠法4条との関係が問題となり,「原子力損害」といえる限りは,原則として,DE間でも賠償の問題は生じない。
 事後的関与について原賠法4条適用否定するなら,逆になる。
 Eに落ち度はないので,過失相殺(民法722条2項)は問題とならない。
 また,上で論じたのAD間の関係について,その相当因果関係が否定される場合は,牛肉汚染と原発事故との,相当因果関係が切れている場合なので,「原子力損害」とはならず,原賠法4条の適用も問題とならず,当然DE間の不法行為責任(民法709条)が問題となる余地がある。


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 結局,原子力事業者Aである東電としては,自然の作用による濃縮等だけでなく,第三者(国,自治体,会社,個人等)の行為が介在して,損害が波及して広がっていくような場合については,

①通常の因果経路ではない上,特別事情の予見可能性がなく,相当因果関係のある損害ではないと主張する。
②原賠法4条による免責は,国及び事後的に関与した第三者には適用がないと主張して,落ち度ある国など第三者を共同不法行為者として賠償責任に引きずり込む。
③被害者の落ち度を主張して,過失相殺(民法722条2項)を主張する。


 これに対して,被害者は,

①因果関係の通常性,特別事情の予見可能性等を主張し,相当因果関係があることを示す。
②被害者としては,他の第三者(国,自治体,会社,個人等)が,東電とともに共同不法行為者となることについては,特に損にはならない。
③また,損害発生拡大について,自分には何ら落ち度なく,過失相殺(民法722条2項)の余地はないのだと主張する。


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2011-08-12 : ■2条「原子力損害」 : コメント : 0 : トラックバック : 0
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■2条「原子力損害」の意味・範囲 その22 被害者の自殺

■2条「原子力損害」の意味・範囲 その22 被害者の自殺

 原発事故による放射能汚染で,作物や農地が汚染されるなどして出荷停止等の損害を被り,被害者が自殺に至った場合など,今回の事故により,被害者が自殺してしまった場合どうなるのか。

 まず,被害者の農作物の汚損,出荷停止等による損失など,財産的損害は,当然,「原子力損害」とてし賠償の対象となろう。また,職業等の生活の基盤を喪失させられたことによる精神的損害もこちらで論じた通り,一定限度で「原子力損害」に該当するとされる可能性がある。
 では,被害者がこれらを苦にして自殺した場合に,その死の結果について,原子力事業者が,賠償責任〔逸失利益や死亡慰謝料等〕を負うのだろうか。これは事案ごとの個別事情が重視されるべき問題であって,論理的に確定的な結論がでるというものではないだろうが,交通事故等の不法行為による損害を被った被害者が,自殺した場合などの判例等が参考となろう。


 交通事故により傷害を負った被害者が自殺した場合については,以下のような考え方があるとされる。

(1)説
 自殺による損害は,原則として保護されないとするもの。

(2)説
 被害者の精神的又は肉体的な苦痛並びに後遺障害が極めて重大で,通常人としては生きる希望や意欲を失い自殺を選ぶほかない状況にあれば,因果関係があるとするもの。

(3)説
 被害者にとって自殺以外に選択の道がなかったと考えられる場合に初めて法的因果関係が認められるとするもの。

(4)説
 自殺が不可避的な場合には,因果関係が認められるが,自殺が心因性によるものであるときは,因果関係を割合的に考え,その寄与度による賠償を肯定すべきとするもの。


 不法行為による被害者の自殺に関する判例は,交通事故の場合も含めて,多数存在する。以下はのその一部である。

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・大阪地裁昭和46年2月19日(判タ263号313頁)
 交通事故による障害を苦に病因を抜け出し,電車に飛び込み自殺した事案につき,事故と自殺との間に相当因果関係を認めず,慰謝料にて斟酌した事例
「以上によれば、亡Aは、左下肢の短縮という身体障害や加害者側の被害弁償についての誠意のなさ更には経済的な困窮などのため、将来の希望を失い自ら生命を絶つに至ったものであることが認められる。そうだとすれば、本件事故と亡Aの死亡との間に本件事故がなければ亡Aが自殺しなかったであろうという関係(条件関係)の存することが明らかである。
 三、ところで、不法行為から生じた結果のうち、当該不法行為による損害として、行為者に賠償責任を負担させうるためには、行為と損害(財産損害)との間に単に条件関係があるのみでは足りず、両者の間に相当因果関係即ち、行為によって通常生ずる損害であるか、あるいは予見可能性のある特別事情による損害である関係が存する場合でなければならない。従って、交通事故と自殺についていえば、交通事故の被害者がその受けた肉体的精神的苦痛から自殺を決意しこれを実行に移すことは極めて異例のできごとであることが経験則上明らかであり事故によって通常生ずる結果とみることが到底できないので、事故と自殺との間に法律上の因果関係がありとするためには、加害者において、被害者が事故により受けた苦痛や衝撃のため自殺することを予見しまたは予見可能な状況にあった場合に限られるものといわざるを得ない。しかして、予見可能性のある状況とは、一般的に、被害者の受けた苦痛、、衝撃または身体、精神の後遺障害が極めて重大で、通常人ならば何人も生きる希望や意欲を失い自殺を選ぶほかなく、そして通常人ならば何人もこれを首肯せざるを得ないような状況にある場合を指すものと解するを相当とする。本件についてこれをみるに、亡Aが交通外傷のため、前記認定のような左下肢に後遺障害を残し、また、示談の過程で加害者の不誠意な言動に憤慨して精神的な安定を欠いていたことは十分認められるけれども、さりとて、前記認定の事情からすれば、死を選ばなければならないほどの切迫した状況があったものと認めることは極めて困難であるといわざるを得ない。そうならば、本件交通事故と自殺による死亡とは、条件関係はあるけれども法律上の因果関係(相当因果関係)があるものと認めるに足りず、従って、亡Aの死亡により生じた財産的損害を加害者側である被告らに賠償させることはできないといわなければならない。但し後記のとおり、亡Aの慰藉料算定については、条件関係がある以上、右事情を斟酌することとする(損害額算定に関する相当因果関係論は財産的損害の範囲を枠づけするためのもので。、非財産的損害に関しては必ずしも適用なく、条件関係のある事項を被害者側または加害者側の事情として斟酌しうるものと解する)。」


・最高裁昭和52年10月25日判決(判タ355号260頁)
 高校教師の違法な懲戒権の行使と生徒の自殺との間の相当因果関係が否定された事例
「被上告人B1の右懲戒行為は、担任教師としての懲戒権を行使するにつき許容される限界を著しく逸脱した違法なものではあるが、それがされるに至つた経緯、その態様、これに対するDの態度、反応等からみて、被上告人B1が教師としての相当の注意義務を尽くしたとしても、Dが右懲戒行為によつて自殺を決意することを予見することは困難な状況にあつた、というのである。以上の事実関係によれば、被上告人B1の懲戒行為とDの自殺との間に相当因果関係がないとした原審の判断は、正当として是認することができ、その過程に所論の違法はない。」


・福岡地裁行橋支部昭和57年10月19日判決(判タ483号151頁)
 交通事故の被害者が受傷を苦にし,外傷性ノイローゼになり,自殺。相当因果関係を肯定したが,自殺への寄与度を考慮し,50パーセントの賠償責任を認めた事案。
不法行為により傷害を受け,その苦痛に悩まされた被害者が絶望の余り死を選ぶということは決して有り得ないことではなく十分に起こりうることであり,予見不可能な希有の事例であるとは思われない。又交通事故を初め各種の不法行為により被害を受けて苦しむ人の悲惨さを思うときに,自殺が本人の自由意思であるとして相当因果関係を否定するのも損害賠償法が目指すべき損害の公平な分担の理念にも反するものである。ただ自殺の場合には本人の自由意思による面があることも否定することはできないし,通常人なら必ず自殺するという事例ならばともかくそうでない場合には100パーセントの責任を不法行為者に課すことも又公平であるとは思われない。結局自殺を選択した自由意思の程度や通常人が同一の状態におかれた場合の自殺を選択する可能性等を比較しながら受傷の自殺への寄与度を考え,その割合に従って不法行為者に責任を課すのが最も公平であると思われる。」


・大阪地裁昭和60年4月26日判決(判タ560号269頁)
 交通事故の被害者が,受傷が誘因となり,うつ状態あるいはうつ症候群となり自殺。相当因果関係を肯定したが,自殺への寄与度を考慮し,4割の賠償責任を認めた事案。
「不法行為により傷害を受け,その苦痛に悩まされた被害者が絶望のあまり死を選ぶということは決して有り得ないことではなく,予見不可能な希有の事例であるとは思われないし,交通事故により被害を受けて苦しむ人の悲惨さを思うときに,自殺が本人の自由意思であるとして相当因果関係を否定するのは,損害の公平な負担の理念に反し妥当ではないといわなければならない。
 もっとも。自殺の場合には,本人の自由意思による面があることも否定することはできないので,通常人なら必ず自殺するという事例ならばともかく,そうでない場合には,被害者の被った損害そのすべてを本件事故によるものとして被告らに賠償させることは,被告らに対し酷に失するものと考えられる。
 したがって,自殺を選択した自由意思の程度や通常人が同一の状態におかれた場合の自殺を選択する可能性等を比較しながら,事故による受傷の自殺への寄与度を勘案し,その割合に応じて被告らに賠償責任を認めるのが,発生した損害の公平な負担の理念にかなうものというべきである。」


・東京地裁昭和61年6月24日判決(判タ603号91頁)
 交通事故の被害者の自殺。受傷部位が感情を支配する前頭葉であることなどから,相当因果関係を認めたが,被害者の自由意思の関与の程度を斟酌し,過失相殺を類推し,5割見学した。
「亡Aの自殺は、本件事故による受傷を主たる原因として生じた結果というべきであり、一般に、交通事故による傷害ないし障害を原因として被害者が自殺することは、傷害ないし障害の部位あるいは程度によっては、予見不可能な事態とはいえないところ、前記認定の事実関係、殊に、本件における亡Aの受傷部位が感情を支配する前頭葉であって、この傷害が自殺意思の形成ないしその抑制力の減弱の原因となっていること等を総合すると、亡Aの自殺と本件事故による受傷のと間には、相当因果関係があるものというべきである。
 もっとも、自殺の場合には、通常、本人の自由意思により命を絶つという一面があることは否定できないところであり、本件においても、亡Aが全く自由意思を失った状態で自殺したものとは認められないことは前示のとおりであるから、このような場合に、自殺による損害のすべてを加害者に負担させることは、損害を公平に分担させるという損害賠償法の根本理念からみて相当でないものというべきである。そこで、民法第七二二条所定の過失相殺の法理を類推適用し、自殺に対する亡Aの自由意思の関与の程度を斟酌して加害者の賠償すべき損害額を減額するのが相当であると解されるところ、前記認定の諸事情を総合勘案すれば、亡Aの死亡による損害についてはその五割を減額するのが相当である。」


・富山地裁魚津支部昭和63年5月18日判決(判タ674号182)
 交通事故被害者が,骨髄炎に罹患し,神経症に陥って自殺した場合,事故との因果関係を認めたが,過失相殺の類推により賠償額を7割減額した事例。
「右認定の事実によれば亡Aは慢性骨髄炎に罹患していたところ、本件事故による骨折のため、完成されていた防御壁が破壊され慢性骨髄炎が再燃したもので、本件事故と骨髄炎の再燃の間に因果関係が存在することは明らかである。
 また、亡Aは本件事故と因果関係のある慢性骨髄炎の症状が軽快せず鉄工所での勤務に戻れず、補償交渉もうまくいかなかったことなどから、抑うつ・不安などの症状を伴う神経症に罹患し、将来に絶望して自殺したもので、亡Aの自殺と本件事故の間には相当因果関係が存在するというべきである。
 しかしながら、自殺は本人の自由意思に基づくものという面を否定できず、自殺により生じた損害をすべて加害者に負担されるのは損害を公平に分担させるという損害賠償法の基本理念からみて相当でなく、民法七二二条所定の過失相殺の法理を類推適用して、加害者たる被告の賠償すべき損害額を減額するのが相当であるところ、本件では事故そのものにより生じた傷害そのものは比較的軽微なものであったこと、亡Aに慢性骨髄炎の既往症があったこと、亡Aが自殺したのは本件事故から一年以上たってからであったことなど諸般の事情を考慮し、亡Aの死亡による損害については、その七割を減ずるのが相当である。」


・最高裁平成5年9月9日判決(交民26巻5号1129頁)
 交通事故により受傷した被害者が自殺した場合において、その傷害が身体に重大な器質的障害を伴う後遺症を残すようなものでなかったとしても、右事故の態様が加害者の一方的過失によるものであって被害者に大きな精神的衝撃を与え、その衝撃が長い年月にわたって残るようなものであったこと、その後の補償交渉が円滑に進行しなかったことなどが原因となって、被害者が、災害神経症状態に陥り、その状態から抜け出せないままうつ病になり、その改善をみないまま自殺に至ったなど判示の事実関係の下では、右事故と被害者の自殺との間に相当因果関係があるとした事例
「本件事故によりDが被った傷害は、身体に重大な器質的障害を伴う後遺症を残すようなものでなかったとはいうものの、本件事故の態様がDに大きな精神的衝撃を与え、しかもその衝撃が長い年月にわたって残るようなものであったこと、その後の補償交渉が円滑に進行しなかったことなどが原因となって、Dが災害神経症状態に陥り、更にその状態から抜け出せないままうつ病になり、その改善をみないまま自殺に至ったこと、自らに責任のない事故で傷害を受けた場合には災害神経症状態を経てうつ病に発展しやすく、うつ病にり患した者の自殺率は全人口の自殺率と比較してはるかに高いなど原審の適法に確定した事実関係を総合すると、本件事故とDの自殺との間に相当因果関係があるとした上、自殺には同人の心因的要因も寄与しているとして相応の減額をして死亡による損害額を定めた原審の判断は、正当として是認することができ、原判決に所論の違法はない。」


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 上記の昭和46年の大阪地裁判決が示すとおり,不法行為の被害者が自殺することは,普通は異例の事であって,因果関係の認定において,「通常損害」とされることはなかろう。その場合,判例通説的な理解では,特別損害として賠償対象とすべきかという問題となり,その前提として,予見可能性の有無が問われることになる。
交通事故における最近の判例を見ても,単に自殺だというだけで賠償されないという(1)説のような結論を出すことはなかろう。最近に近づくほど,自殺でも加害者に一定割合の責任を負わせるものが増えてきているようである。
 交通事故のような場合には,傷害の結果が,脳等の精神形成に関する器官に生じてしまい,その結果,死を選択したような場合には,相当因果関係が肯定される場合があるし,また,そうではなくても,交通事故がその態様等によっては,うつ病等の精神的傷害を発症させやすいときなど,相当因果関係が肯定されることがある。いずれの場合でも,被害者の側の自由意思が介在していることから,過失相殺規定(民法722条2項)の類推適用によって賠償額は減額される。

 もっとも,冒頭に記載した例のように,被害者に受傷等の肉体的な苦痛がなく,身体的な傷害もないような事案において,被害者が精神的疾患に至ることもなく自殺に及んだ場合には,普通は予見可能性が否定されることが多かろう。ただし,大規模原発事故による広範な土壌汚染等で,一瞬にして生活の基盤が根こそぎ奪われ,それまでの長年の努力が無に帰する状態で,将来への希望を喪失させられ自殺する被害者も出てくることは,必ずしも予見しえない事態ではないとして,相当因果関係が肯定される余地がないともいえない。


※なお,ここで問題とする「予見可能性」は,相当因果関係説に立って,当該原因から当該結果が生じることが通常とはえない特別損害について,〔特別事情について〕予見可能性のある範囲で,相当因果関係のある損害として,賠償責任を認めようとする場合に問題となる「予見可能性」であり,「過失」の内容となる結果回避義務の前提である「予見可能性」の問題とは異なる。よくある生徒のイジメ自殺問題で,学校側の予見可能性が問題されるのは,主として後者の「過失」認定の前提となる予見可能性である。

※予見可能性については,民法上は,債務不履行に関する416条の規定がある。これを不法行為の場合に類推適用すべきかについては諸説ある。

民法第416条
1.債務の不履行に対する損害賠償の請求は、これによって通常生ずべき損害の賠償をさせることをその目的とする。
2.特別の事情によって生じた損害であっても、当事者がその事情を予見し、又は予見することができたときは、債権者は、その賠償を請求することができる。

※予め契約関係にあるわけではない不法行為の当事者間において,「予見可能性」というものを持ち出すことについては疑問もあるとされが,特別事情による損害を一定範囲に画するための道具立てとして一般に使用されている。


2011-05-30 : ■2条「原子力損害」 : コメント : 0 : トラックバック : 0
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■2条「原子力損害」の意味・範囲 その10 損害認定指針(平成12年3月)

■2条「原子力損害」の意味・範囲 その10 損害認定指針(平成12年3月)

 平成11年9月30日に発生した,東海村JCO臨界事故事件について,同年10月22日に,「原子力損害賠償紛争審査会」と「原子力損害調査会研究会」が設置された。 下は,原子力損害調査研究会の最終報告書(平成12年3月29日)にうち「原子力損害」の認定指針である。〔今回の福島第一原発の事故は,規模も態様も異なり,同様の指針・基準が適用されるか否かは不明である。また,これは和解による解決を前提とする指針であり,裁判における認定基準のようなものではない。〕


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原子力損害調査研究会委員名簿(敬称略・順不同)

会長    下 山 俊 次  科学技術庁参与
会長代理  宮 原 守 男  弁護士
委員
      鎌 田   薫  早稲田大学法学部教授
      田 中   清  弁護士
      児 玉 康 夫  弁護士
      升 田   純  弁護士
      住 田 邦 生  弁護士
      中 所 克 博  弁護士
オブザーバー
      大 西 一 之  日本原子力保険プール理事・事務局長
      加 藤   愼  弁護士
      北 尾 俊 幸  日本原子力保険プール賠償責任保険査定委員会主査
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<調査・検討の対象とした損害項目>
1 身体の傷害      
2 検査費用(人)
3 避難費用
4 検査費用(物)
5 財物汚損
6 休業損害 
7 営業損害
8 精神的損害

1[身体の傷害]
(指針)
 請求者の身体における傷害が、請求者側の立証により、本件事故によって放出された放射線又は放射性核種による放射線障害(急性放射線障害又は晩発性放射線障害)であると認められる場合には、当該請求者が被った損害は賠償の対象と認められる。
(備考)
 1)  JCOの作業員3名について、本件事故により放出された放射線又は放射性核種による急性放射線障害である旨が確認されており、同人らが被った損害は賠償の対象と認められる。 なお、これらの作業員3名に対する原賠法(第3条第1項)に基づく賠償は、同法附則第4条により、労働者災害補償保険法に基づく保険給付分を控除した残部となる。
 2)  原子力安全委員会健康管理検討委員会の検討によると、JCOの周辺住民等に対する本件事故の放射線影響は、いわゆる確定的影響(ガン及び遺伝的影響以外の影響)が発生するレベルではないうえ、いわゆる確率的影響(ガン及び遺伝的影響)についても発生の可能性が極めて低いと考えられるものとされている。
 したがって、作業員3名以外の者からの放射線の作用等による身体の傷害を理由とする請求については、当該請求者の側から、本件事故により放出された放射線又は放射性核種による放射線障害であることが立証された場合に限り、その損害の賠償が認められるべきである。

2[検査費用(人)]
(指針)
 本件事故の発生(平成11年9月30日午前10時35分)から避難要請の解除(同年10月2日午後6時30分)までの間のいずれかの時点に茨城県内に居た者(通過した者も含む。)が、身体の傷害の有無を確認する目的で、平成11年11月末までに受けた検査につき検査費用を支出した場合には、請求者の損害と認められる。
(備考)
 1)  放射線及び放射性核種は、その量によっては人体に多大な負の影響を及ぼす危険性があるうえ、人の五感の作用では知覚できないという性質を有している。それゆえ、本件事故の発生により、上記の時間帯のうちいずれかの時点で茨城県内に居た者が、自らの身体に放射線障害が生じたのではないかとの不安感を抱き、この不安感を払拭するために検査を受けることは無理からぬ行動である。
 ところで、後記7「営業損害」の項で述べるように、事故調査対策本部の報告(平成11年11月4日)及び住民説明会(同年11月13日、14日)等において正確な情報が提供され、これが一般国民に周知されるために必要な合理的かつ相当な期間が経過したのは、同年11月末と認められる。したがってこれまでの間に住民が受けた1回目の検査のための費用は本件事故による損害と認められる。さらに、上記基準に該当する者が同種の医学的検査を2回以上受けた場合においては、請求者の側で2回目以降の医学的検査を受ける必要性があったことを立証した場合には、2回目以降の検査のための費用も請求者の損害と認められる。
 2)  無料の医学的検査を受けた場合の検査費用については、請求者に実損が生じておらず、損害とは認められない。

3[避難費用]
(指針)
 請求者が現実に支払った以下の実費分が、損害と認められる。
 I)  屋内退避勧告がなされた区域内に居住する者が、避難するため現実に支出した交通費、行政措置の解除(平成11年10月2日)までに現実に支出した宿泊費及びこの宿
泊に付随して支出した費用。
 II)  上記区域内に住居を有している者が、屋内退避勧告がなされた区域外に滞在することを余儀なくされた場合には、現実に支出した宿泊費及びこの宿泊に付随して支出した費用。
(備考)
 1)  行政当局は、JCOからの距離等に応じて避難要請及び屋内退避勧告をそれぞれ行っている。この行政措置によって避難を余儀なくされたのは、厳密にいえば避難要請のなされた区域内に居住する者だけであり、これを超えた区域内に居住する者は避難の対象とされなかった。
 しかしながら、屋内退避勧告の対象となった区域の居住者らについて、その区域外に避難する行動に出たことや、屋内退避勧告がなされた時点で屋内退避勧告がなされた区域外に居た右区域内の居住者らが、この区域内の住居等に戻ることを差し控える行動に出たことについては、これらの行動に及んだことも無理からぬものと認められる。
 したがって、屋内退避勧告がなされた区域内の居住者らが現実に支出した避難費用(交通費、宿泊費及びこの宿泊に付随して支出した雑費)についても、賠償の対象とするのが妥当である。
 2)  但し、上記の指針により損害と認められる避難費用であっても、その賠償額は合理的・平均的な範囲内のものに限られ、過度に遠方に避難した場合や著しく高額な施設に宿泊した場合の損害額は、出捐額の全額ではなく、合理的・平均的な範囲に減縮された額とされるべきである。

4[検査費用(物)]
(指針)
 当該財物が本件事故の発生当時茨城県内にあり、当該財物の性質等から、検査を実施して安全を確認することが必要かつ合理的であり又は取引先の要求等により検査の実施を余儀なくされたものと認められ、平成11年11月末までに検査を実施した場合には、請求者が現実に支払った検査費用は損害と認められる。
(備考)
 1)  科学技術庁が実施した調査によると、本件事故により放出された放射線又は放射性核種は、財物汚染又は財物汚損をもたらす程度の量(科学的に有意な量)ではなかったものと認められる。
 しかしながら、財物の価値ないし価格が、当該財物の取引等を行う人の印象・意識・認識等の心理的・主観的な要素によって大きな影響を受けることは明らかである。しかも、財物に対して実施する検査は、取引の相手方らによる取引拒絶、キャンセル要求又は減額要求等を未然に防止し、営業損害の拡大を最小限に止めるためにも必要とされる場合が多い。
 したがって、平均的・一般的な人の認識を基準として、当該財物の種類及び性質等から、その所有者等が当該財物の安全性に対して危惧感を抱き、この危惧感を払拭するために検査を実施することが合理的であると認められる場合又は取引先の要求等により検査の実施を余儀なくされた場合には、現実に支払った検査費用を損害と認めるのが相当である。
 2)  もっとも、当該請求者が出捐した検査費用が損害と認められる場合であっても、その賠償額は合理的な範囲内のものに限られ、たとえば複数の機関のもとで重複検査を行った場合や、国内で行えるにもかかわらず海外の検査機関で検査を実施した場合には、請求者の側でその必要性を立証しない限り、賠償すべき損害について請求額の全額ではなく合理的な金額にまで減縮されるべきである。

5[財物汚損]
(指針)
 現実に発生した以下のものについては、損害と認められる。
 I)  動産については、当該動産が本件事故の発生当時茨城県内にあり、その種類、性質及び取引態様等から、平均的・一般的な人の認識を基準として、本件事故により当該財物の価値の全部又は一部が失われたものと認められる場合には、現実に価値を喪失し又は減少した部分について損害と認められる。
 II)  不動産については、i)売却予定のない所有不動産の価値が下落したことを理由とする請求については、現実の損害発生を認めることはできず、賠償の対象とは認められない。
ii)不動産売買契約の解約、不動産を担保とする融資の拒絶又は売却予定価格の値下げを理由とする請求については、請求者の側が、当該不動産が屋内退避勧告のなされた区域内にあること、その不動産取引について既に売買契約等が締結されているか締結の可能性が極めて高い状況であり、対価額等も確定しているか確定しつつあること、平成11年11月末までに生じた解約や値下げであり、これらに応じざるを得なかった相当な事由があったこと、更に解約の場合には当該不動産を緊急に売却処分せざるを得なかった相当な事由があったこと、その解約や値下げが本件事故を理由とするものであること、当該請求の合理性(損害の発生と損害額)を立証した場合には、賠償が認められる余地がある。
iii)賃料の減額を行ったこと又は本件事故後に賃貸借契約を解約されたことを理由とする請求については、請求者の側が、当該賃貸不動産が屋内退避勧告のなされた区域内にあること、現に賃貸借契約が締結されていたこと、平成11年11月末までに賃貸借契約の解約又は賃料の減額がなされ、これらに応じざるを得なかった相当な事由があったこと、賃料の減額又は解約が本件事故を理由とするものであること、当該請求の合理性(損害の発生と損害額)を立証した場合には、賠償が認められる余地がある。
(備考)
 1)  I)については、前記4[検査費用(物)](備考)の1)に同じ。
 2)  II)のi)、ii)については、不動産の特殊性に由来する価格形成過程の複雑さ等にも十分配慮して、賠償の要否及び範囲を慎重に検討する必要がある。
 不動産の価格は、取引当事者の取得目的等に大きな影響を受けるものであり、これを一義的かつ客観的に把握することが非常に困難であることが多い。
 不動産の価格は、景気等からも大きな影響を受ける。そして、一般的な動産とは異なり、一度下落した価格が再び上昇することも十分にあり得る。
 不動産の価格が一時的に下落したとしても、当該不動産が滅失して利用可能性を喪失することはなく、これを廃棄する行動に出ることも考えられない。
 3)  II)のii)については、不動産の売却の予定がない以上損害が現実に発生しているとはいえないうえ、仮に価格が一時的に下落したとしても将来回復し又は上昇する可能性があること、本件事故による価値の下落分を一義的かつ客観的に把握できないこと、価格の下落が見られても、不動産自体の利用可能性は些かも失われないこと等からして、賠償の対象とすることは妥当でない。
 II)のii)については、当該価格で売却できることが確定していた又は確定しつつあった状況のもとで、本件事故の発生を理由に当該減額又は解約(合意解約)がなされたこと等の前記各事実を請求者が立証した場合には、賠償が認められる余地がある。これに対して、当該減額又は解約が本件事故の発生を理由とする旨を立証できな
い場合、当該価格で売却できる状況又は売却できつつある状況にあったことが確定していなかった場合、売却交渉が進行中であったが売買代金額等の売買条件が全く未確定であった場合等では、本件事故に起因する「損害」が発生したものと認めることは極めて困難である。
 II)のiii)についても、本件事故の発生を理由として賃貸借契約を解約又は賃料の減調額がなされ、これらに応じざるを得なかった相当な事由があったこと等の前記各事実が請求者によって立証された場合には、営業損害の考え方に準じて相当な期間の減収分について損害と認められる余地がある。
   4)  なお、損害が発生したと認められる場合であっても、賠償すべき損害額の算定にあたっては、損失の公平かつ適正な分担を図る見地から、具体的な事実関係に従って、過失相殺や原因競合等の法理論を適用すべき場合(例えば、その性質から廃棄の必要性が認められない動産を軽率な判断で廃棄してしまった場合など)もあり得る。

6[休業損害]
(指針)
 屋内退避勧告がなされた区域内に居住地又は勤務先がある給与所得者、アルバイト及び日雇労働者について、行政措置により就労が不能となった場合には、就労不能の状況が解消された時点まで(避難要請が解除された平成11年10月2日から合理的期間経過後まで)に生じた給与等の減収が、請求者の損害と認められる。
(備考)
 1)  屋内退避勧告は平成11年10月2日に解除されており、この時点からは就労が可能な状況となっている。しかしながら、一般的・平均的な人の認識を基準とした場合、屋内退避勧告がなされた区域内における法人等の事業者においては、上記の行政措置が解除された後、情報収集と事態把握を行ったうえで徐々に事業活動を再開するとの対応に出ることもあり得、このような対応は必ずしも不合理なものとはいえない。
 したがって、請求者の損害と認められる休業損害は、行政措置が解除された後、若干の
合理的な期間が経過するまでの間に生じたものと認めるのが妥当である。
 2)  本件事故により、所定の期間の事業活動を休止したが、従業員らに対して当該休止期間分の給与等を支払った場合には、当該事業者の出捐額が損害となる。

7[営業損害]
(指針)
 I)  茨城県内で収穫される農畜水産物及びこれらに関連する営業であり、広く茨城県県外を商圏とするものについては、生産あるいは営業の拠点が茨城県内にあり、取引の性質から相手方等が取引拒絶等の行動に及ぶこともやむを得ないものと認められ、現実に減収のあった取引について、事故調査対策本部の報告(平成11年11月4日)及び住民説明会(同年11月13,14日)等によって、正確な情報が提供され、かつこれが一般国民に周知されるために必要な合理的かつ相当の時間が経過した時点(同年11月末)までの期間に生じた減収分(売上高から売上原価を控除した売上総利益=粗利益の額)が損害と認められる。
 II)  上記I)以外の営業については、営業の拠点が屋内退避勧告のなされた区域内にあり、取引の性質から相手方等が取引や利用の拒絶等の行動に及ぶこともやむを得ないものと認められ、現実に減収のあった取引について、事故調査対策本部の報告(平成11年11月4日)及び住民説明会(同年11月13,14日)等によって、正確な情報が提供され、かつこれが一般国民に周知されるために必要な合理的かつ相当の時間が経過した時点(同年11月末)までの期間に生じた減収分(売上高から売上原価を控除した売上総利益=粗利益の額)が損害と認められる。
(備考)
 1)  研究会が公表した「中間確認事項―営業損害に対する考え方―」(別添2)で記載したとおり。すなわち、
 (1)少なくとも、
ア) 事故調査対策本部の報告(平成11年11月4日)及び住民説明会(同年11月13,14日)等によって、正確な情報が提供され、かつこれが一般国民に周知されるために必要な合理的かつ相当の時間が経過した時点(同年11月末)までに生じた現実の減収分であること。
イ)屋内退避勧告がなされた区域内のものであること。
ウ)平均的・一般的な人を基準として合理性のあるものであること。
の3点を満たすものについては、特段の反証のない限り、事故との間に相当因果関係があると推認される。
(2)さらに、上記要素を満たさない場合においても、請求者による個別・具体的な立証の内容及び程度如何では、相当因果関係が肯定される場合がある。
 2)  売上総利益(粗利益)の算定については、当該請求者の決算書類等に基づいて行われることを原則とすべきであるが、大量・迅速処理を行う必要から、必要な範囲で統計的資料を併用することもやむを得ないものと考える。
 3)  なお、損害として認められる場合であっても、賠償すべき損害額の算定にあたっては、損失の公平かつ適正な分担を図る見地から、具体的な事実関係に応じて、過失相殺や原因競合等の法理論を適用すべき場合(例えば、その性質から廃棄の必要性が認められない商品等を軽率な判断で廃棄してしまったために営業活動に支障が生じた場合など)もあり得る。

8[精神的損害]
(指針)
 本件事故において、身体傷害を伴わない精神的苦痛のみを理由とする請求については、損害の発生及び金額の合理性について請求者側に特段の事情がない限り、損害とは認められない。
(備考)
 1)  研究会では、原賠法にいう「原子力損害」に精神的損害(慰謝料)が含まれることについては見解の一致を見た。しかしながら、本件事故における精神的損害のうち身体傷害を伴わない精神的苦痛の申し出に関しては、議論の過程で、賠償の対象とする損害と認められないとする見解と認められる余地があるとする見解が示されたものの、最終的には、請求者側に特段の事情がない限り認められないとする見解が支配的となった。
 2)  身体傷害を伴わない精神的苦痛の有無、態様及び程度等は、当該請求者の年齢、性別、職業、性格、生活環境及び家族構成並びに人生観、世界観及び価値観等の種々の要素によって著しい差異を示すものである点からも、損害の範囲を客観化することには自ずと限界がある。このような性質を有する身体傷害を伴わない精神的苦痛の申し出に対し、仮に一律の基準を定めて賠償の適否を判断しようとする場合には、ともすれば過大請求が認められる余地を残してしまう可能性があるとともに、他の損害項目に対する賠償との間でも不公平をもたらす可能性がある。

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2011-04-14 : ■2条「原子力損害」 : コメント : 0 : トラックバック : 0
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■2条「原子力損害」の意味・範囲 その9 立法過程での理解

■2条「原子力損害」の意味・範囲 その9 立法過程での理解

 原子力損害賠償法の制定前の議論では,「原子力損害」は,核燃料物質の危険性を前提とする損害のみを,予定としていたようである。

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原子力災害補償専門部会の答申(昭和34年12月)
「「原子力損害」とは、核燃料物質等の放射性、爆発性その他の有害な特性によって第三者のこうむった損害を指し、一般災害による損害を含まないものとする」

原子力委員会内定「原子力災害補償制度の確立について」(昭和35年3月)「(2)原子力損害
 本制度の対象となる原子力損害は、原子力事業側の偶発的事故であると否とをとわず、核燃料物質等の特性により生じた損害とし、一般災害を含まないものとする。」
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 また,下記の国会審議では,政府委員は,退避費用も「原子力損害」には当たらないと解釈しているようで,当時は,かなり限定的な意味で捉えていたことがわかる。。

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衆議院国会審議(昭和35年5月18日)
「○中曽根国務大臣 この第二条の第二項に書いてありますように、原子力損害とは、原子核分裂の作用、つまり、原子炉の内部における作用の影響による分、または核燃料物質によって汚染されたものの放射線の作用、つまり、これはその結果出てきたものの放射能による汚染の作用、それから、これを吸引したとかなんとかいうような場合の毒性作用、こういう損害をいうのでございまして、たとえば、輸送途中におけるいろいろなそういう事故等もこれに入ってくるのであります。
○前田(正)委員 具体的に申し上げますならば、放射能をかぶった場合の退避命令、そういうものの立ちのきによる退避の費用などは入っておるわけですか。
○中曽根国務大臣 それとこれとの相当因果関係がどの程度あるか、そういう判定の問題になりますが、その辺は法律解釈の問題でございますから、原子力局長から答弁いたさせます。
○佐々木(義)政府委員 事故が発生した場合の退避の際に要した費用等に関しましては、もちろん、相当因果関係を持っている場合には賠償額の中に入りますが、ただいま御指摘になりました、いわゆる原子力損害とは何ぞやという損害そのものの定義の中には、そういう費用は入っていないというふうに解釈しております
○前田(正)委員 そうすると、損害の中には入ってないけれども、補償の中には、民法の相当因果関係の範囲のものは全部入る、こう解釈していいわけですか。
○佐々木(義)政府委員 その通りでございます。」
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2011-04-11 : ■2条「原子力損害」 : コメント : 0 : トラックバック : 0
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■2条「原子力損害」の意味・範囲 その4 考え方

【2条「原子力損害」の意味・範囲 その4 考え方】

考え方再検討

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条文

2条2項  この法律において「原子力損害」とは、核燃料物質の原子核分裂の過程の作用又は核燃料物質等の放射線の作用若しくは毒性的作用(これらを摂取し、又は吸入することにより人体に中毒及びその続発症を及ぼすものをいう。)により生じた損害をいう。

3条1項  原子炉の運転等の際、当該原子炉の運転等により原子力損害を与えたときは、当該原子炉の運転等に係る原子力事業者がその損害を賠償する責めに任ずる。ただし、その損害が異常に巨大な天災地変又は社会的動乱によつて生じたものであるときは、この限りでない。

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A 無限定説
 「原子力損害」を,原子炉の運転等(2条1項)により発生した損害で,2条3項の「作用」と相当因果関係あるもの全てを含むと広くとらえる説(下級審判例)

B 限定説
 「原子力損害」を,2条2項の字義どおり,核燃料物質の原子核分裂の過程の作用又は核燃料物質等の放射線の作用若しくは毒性的作用により生じた損害とし,その範囲を限定していく考え(立法過程での関係者の考え,原子力事業者側の考え)
 B1 核燃料物質の放射線や毒性で生命身体財産が害された場合のみ(直接損害のみ)
 B2 直接損害以外にもその結果生じた逸失利益等の損害含む(直接損害+間接損害)


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判例
・平成16年9月27日・東京地裁判決・平14(ワ)第19606号・判タ1195号263頁 JCO臨界事故関係
 争点 原賠法2条2項,3条1項の「損害」に人身損害又は物に対する損害を伴わない損害(純粋経済損失→近隣土地の価格下落)が含まれるか否か。
「この点,原賠法2条2項,3条1項の「損害」とは,「原子炉の運転等」,「核燃料物質の原子核分裂の過程の作用」と相当因果関係があるすぎり,すべての損害を含むと解すべきであって,条文上何らの限定が加えられていないことから,被告が主張するような人身損害又は物に対する損害を伴わない損害(純粋経済損失)を除外する根拠はないというべきである。」

・平成18年4月19日・東京地裁平14(ワ)6644号・判時1960号64頁 JCO臨界事故関係
 争点 風評被害が「原子力損害」たり得るか。
「同法が,賠償されるべき損害の範囲について何ら限定を付していないことからすれば,当該事故と相当因果関係が認められる損害である限り,これを「核燃料物質の原子核分裂の過程の作用又は核燃料物質等の放射線の作用若しくは毒性的作用(これらを摂取し、又は吸入することにより人体に中毒及びその続発症を及ぼすものをいう。)により生じた損害」(同法3条1項)と認めて妨げないというべきであり,いわゆる風評被害について,これと別異に解すべき根拠はない。」

・平成20年2月27日・水戸地裁平14(ワ)第513号・判タ1285号201頁 JCO臨界事故関係
「これは,同法3条1項本文にいう「原子炉の運転等の際」に発生したものである。」
「同法3条1項にいう「原子力損害」とは,「核燃料物質の原子核分裂の過程の作用又は核燃料物質等の放射線の作用若しくは毒性的作用(これらを摂取し、又は吸入することにより人体に中毒及びその続発症を及ぼすものをいう。)により生じた損害」をいう(同法2条2項本文)ところ,原賠法その他の法令上,原賠法3条1項によって賠償されるべき損害の範囲に関する規定は何ら存在しないから,民法上の債務不履行ないし不法行為による損害賠償責任に関する一般原則に従って,「核燃料物質の原子核分裂の過程の作用又は核燃料物質等の放射線の作用若しくは毒性的作用」と相当因果関係がある損害の全てが原賠法3条1項により賠償されることになるものと解するのが相当である。」


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 判例の思考の手順は次のようなものではなかろうか。

・訴訟当事者が当事者が「原子力事業者」(2条3項)にあたると認定。



・次に,3条1項にあるとおり「当該原子炉の運転等」により損害を与えたか否か,損害発生の起点が「原子炉の運転等」(2条1項で定義、原子炉の運転,加工,再処理,核燃料物質の使用,核燃料物質等の廃棄))に当たるか否か検討(→危険業務の類型判断? 原発事故は「原子炉の運転」?)



・損害結果の有無判定
 損害「結果」については,その種類・類型等は問わない(なぜなら損害の類型について,特に範囲を限定する規定が存在しないから)。



・「核燃料物質の原子核分裂の過程の作用又は核燃料物質等の放射線の作用若しくは毒性的作用」(2条2項)により生じたといえるか否か判断
 相当因果関係の判断(損害結果の類型は問わないので,相当因果関係ありと判断されるものは「原子力損害」に該当すると判断。また2条2項の「作用」は,被害者保護の観点から広く解釈?)





ただし,原子力事業者の側は理解はまた別のようである。
以下


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社団法人日本原子力産業協会
http://www.jaif.or.jp/ja/seisaku/genbai/genbaihou_series03.html
Q2. (原子力損害の形態)
「原子力損害」とはどんな損害ですか?

A2.
 原子力損害は、原子核分裂の際の放射線や熱等により生じた損害、核燃料物質等の放射線や毒性により生じた損害です。事故と損害の間に相当因果関係がある損害は全て含まれ、放射線による身体的損害、物的損害などの直接損害だけでなく、逸失利益等の間接損害も原子力損害の対象となります。
 原子力損害の対象として認められる例を挙げると次のようなものがあります。但し、相当因果関係の有無は個別に判断されるため、損害形態によっては、地域的、時間的な制限が為される場合があります。
① 原子力施設で臨界が発生し、これによる放射線によって第三者が身体に傷害を負った場合の損害。
② 原子力施設所から放射性物質が大量に放出されて、これにより第三者が身体に傷害を負ったり、第三者の財物が汚染されたりした場合の損害。
③ 原子力施設で使用、貯蔵されているウラン溶液やプルトニウム溶液を第三者が摂取し、中毒症状により身体に傷害を負った場合の損害。
④ 原子力施設で事故が発生し、行政による緊急事態措置により、避難した場合の避難費用、および避難等に伴い勤務や事業活動を中止した場合の休業損害や営業損害。
⑤ 原子力施設で事故が発生し、放出された放射性物質による汚染が発生した場合、人体や財物の汚染を検査するための検査費用。
⑥ 原子力施設で事故が発生し、放出された核燃料物質による汚染が発生した場合、汚染されていない農水産物等に関わる生産、営業に生じる風評被害による損害。

 他方で、こうした原子力損害の考えから、認められない例を挙げるとは次のようなものがあります。
① 原子力施設で事故が発生し、周囲への放射性物質等の放出、漏洩が無かったにもかかわらず、所謂、風評被害により農水産物に発生した損害。(核燃料物質の放射線の作用や毒性的作用によらないため)
② 原子力施設での放射性同位元素(核燃料物質を含まない)の放射線の作用により発生した身体障害。(RIは原賠法の対象外のため)
③ 原子力施設の運転中に発生した蒸気(非放射能)配管の破断により発生した身体障害。(核燃料物質の放射線の作用や毒性的作用によらないため)

 なお、JCO事故時には、身体傷害、財物汚損、避難費用、検査費用(人、物)、休業損害、営業損害等が「原子力損害」の対象として取扱われました。
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(検討)
 3条の賠償責任は、危険責任の法理に基づくものであるから、「原子力損害」も原子炉や核燃料物質の持つ特異な危険性に由来する損害であり、おそらくこの考え方は、立法段階からの関係者の共通に認識であったはずで、限定説では、発生結果や発生経緯の類型を限定して、「原子力損害」を狭く理解しようとするものだろう。
 無限定説では、2条2項の「作用」の解釈なり、相当因果関係の認定課程で、その危険性を考慮することになるのではないだろうか。風評被害も、もともと放射性物質の特異な危険性が前提のもので、これが火力発電所の事故ならば、そもそも発生しないものであろう。そういう意味で、風評被害も核燃料物質の危険性に基礎をおくものと理解することはできよう。
 では、今回の原発事故後の停電による損害は「原子力損害」であろうか。地震・津波が作用し他の発電所も停止しているので、福島第一原発事故のみが停電の原因ではなく、より難しい問題があるが、仮に原発事故のみで停電になったとした場合は、それによる損害は「原子力損害」といえるのだろうか。
 

2011-04-07 : ■2条「原子力損害」 : コメント : 0 : トラックバック : 0
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■2条「原子力損害」の意味・範囲 その2 予防措置費用・避難費用

【2条「原子力損害」の意味・範囲 その2】
予防措置費用について,以下のサイト(内閣府原子力委員会?)において,まとまって論じられていた。
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http://www.aec.go.jp/jicst/NC/senmon/old/songai/siryo/siryo04/siryo2.htm
(1)原子力事故の事前対策~原子力事故発生前に講じられるもの
  原子力事故が発生した際を想定した連絡体制の整備費用
  平常時からの放射線モニタリング費用
  個人による核シェルターの設置費用  等
(2)原子力事故の事後対策~原子力事故の発生後に講じられるもの
 ①避難費用~避難に直接要した費用
  避難する際及び避難先から戻る際の交通費
 ②避難に伴う派生的な費用
  避難に伴う費用であり、以下のようなものが考えられる。
  a.避難したことにより通常より余分に要した費用
   避難先での宿泊費
   避難先からの通勤費用であって自宅からの通勤費用を超える分
  b.避難したことによる損失
   住居等に残してきたペット、家畜等の死亡
   栽培植物の枯死 等
  c.逸失利益
   休業補償、逸失賃金
 ③避難費用以外の被害拡大防止費用
 原子力事故の発生後に、被害の拡大を防止あるいは最小化するために地 方公共団体や住民等が講じる費用であり、例えば、外部被ばくを防止する ための以下の措置等が考えられる。(「避難費用」についても人的損害の 発生を防止するという意味では被害拡大防止費用として整理することが可能であるが、ここでは別のものとして整理した。)
  ヨウ素剤の購入、頒布
  除染に係る費用(衣服の毀損、建設物の外部の除染、塗装、客土、アスファルト舗装等)
  私有地を利用した被害拡大防止のための何らかの工作物等の設置

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原子力損害賠償法第2条2項で「原子力損害」とは、核燃料物質の原子核分裂の過程の作用又は核燃料物質等の放射線の作用若しくは毒性的作用(これらを摂取し、又は吸入することにより人体に中毒及びその続発症を及ぼすものをいう。)により生じた損害とされる。この文言からは,直接に放射線障害で生命・身体を害された場合は当然に「原子力損害」に含まれるだろうし,放射線の影響で,作物や家畜が現に汚染されて財産的価値が低下したような場合にも,文言上当然に損害として賠償の対象となるはずである。

ただし,今回の事故の場合,被爆を避けるため避難して不便な生活を強いられ,また仕事もできなくなり休業を余儀なくされ,さらに農業等の風評被害など,派生的な損害がむしろ莫大であり,それらが「原子力損害」に当たるか否かが問題となるはずである。

この点,上記のサイト(原子力委員会?)では,特に「避難費用」について論じてあり,上記の(1)は該当せず,(2)(3)については,おそらく「作用」と「損害」の「相当因果関係」の範囲内で認められるということであろう。相当因果関係とは,「社会生活上の経験に照らして,通常その行為からその結果が発生することが相当だとみられる関係」(因果経路の通常性)とされるが,最終的には裁判所が社会通念に従って判断するもので,明確な基準はない。

なお上記サイトでは、以下のとおり論じられている。
「(2)「作用」について
 法律上、原子核分裂の過程等の「作用」という用語が使用されていることから、「原子力損害」に該当するには、核分裂によるエネルギーや放射線が、何らかの影響を外部に対して与えることが要件となる。何らかの影響を外部に与えるとは、放射線が現実に放出される場合だけではなく、放射線の有する固有の特性(人、物に対する有害性等)に起因する場合も含まれるものと考えられる。「放射線の作用」や「毒性的作用」についても同様に、現実に人や物を被ばくさせたり、化学的影響を与える場合だけではなく、被ばく等を受けるというおそれを与えることも含まれると考えられる。
 なお、昭和35年の原子力委員会決定において「本制度の対象となる原子力損害は、原子力事業側の偶発的事故であると否とをとわず、核燃料物質等の特性により生じた第三者に対する損害とし、一般災害を含まないものとする。」とあり、立法当初は「核燃料物質の特性」に起因する損害を広く対象とすることを予定していたと考えられる。
 また、「作用により生じた損害」とあるため、「作用」と「損害」との間には相当因果関係の存在が必要とされる。」

その上で、

「4.避難費用について
(1)原賠法上の原子力損害に該当する場合
 上記3.のとおり捉えた場合、たとえば、適切に管理された施設に放射性物質が存在する場合に、放射線の放出のおそれがあるとして避難するような場合には、放射線の作用と損害(避難のための交通費等を出費したこと)との間には相当因果関係は認められないであろうが、当該施設が爆発して放射性物質が拡散するようなおそれがある緊急時に避難するような場合には、相当因果関係は認められ、「原子力損害」に該当するものと考えられる。
 相当因果関係の有無は、ケースバイケースで判断せざるを得ないであろうが、例えば地方公共団体の長によって避難勧告が出された場合などは認められよう。ただし、当該避難勧告が合理的な判断によってなされることが必要とされると考えられる。」

と論じている。

ということは、普通に考えて,国の避難勧告に従い避難した住民(20キロ圏内)については,その避難費用のほとんどは,相当因果関係は認められるはずである。他方,現在沖縄に住んでいる人が,被爆をおそれてハワイに避難した場合は、おそらく駄目であろう。では、30キロ圏内から外へ避難した場合は、50キロ圏内から外へ避難した場合は、関東から関西に避難した場合はどうか、妊婦の場合はどうか、子供の場合はどうかなど、いくらでも中間的な避難態様が考えられるが、それらについては「相当因果関係」の有無は、ケースバイケースで判断」ということになり、結局、避難時点における、避難者に対する危険の大きさや、その切迫性等に鑑みて、社会通念によって決するということになる。

そもそもこの規模の原発事故はわが国では初めてのことであり、原賠法の解釈適用について、判例の積み重ねもほとんどなく、手がかりとなる事例も少ない。ただし東海村JCO臨界事故は一部参考になる。

2011-04-05 : ■2条「原子力損害」 : コメント : 0 : トラックバック : 0
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■2条「原子力損害」の意味・範囲 その1 環境損害

【2条「原子力損害」の意味・範囲】
条文上は,「原子力損害」とは、核燃料物質の原子核分裂の過程の作用又は核燃料物質等の放射線の作用若しくは毒性的作用(これらを摂取し、又は吸入することにより人体に中毒及びその続発症を及ぼすものをいう。)により生じた損害とされる。

この条文は,核燃料からの放射線やその化学的毒性から生ずる損害に限定しているようだが,生命・身体に対する損害にのみ限定しているわけではないし,その他の損害も含むものと解されるが,その具体的範囲については,「相当因果関係」だとか「社会通念」だとか,法解釈上の理屈で限定されることになるだろう。

この点については,科技庁で環境損害について以下のようなの議論がなされたようである。
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3回原子力損害賠償制度専門部会議事要旨(案)
1.日時     平成10年9月11日(金)
         午前10:00~12:00
2.場所     科学技術庁 第7会議室(通産省別館9階)
http://www.aec.go.jp/jicst/NC/senmon/old/songai/siryo/siryo04/siryo1.htm

(4)原子力損害(環境損害)の概念について
事務局より資料3-5に基づき、説明があった後、主に次の質疑応答があった。
(能見)整理すると、原子力損害に入るのかという問題と、賠償の対象になるとして一定の制限を設ける必要がないのかという問題がある。前者については、原子力損害の定義から予防措置費用は別としても、対象になるといってよいと考える。問題は後者で、裁判になれば相当因果関係で切られるだろうが、油濁と比較して原子力は環境以上に人身損害が大きい。理論的には無限責任ゆえ、すべての賠償はなされるにしても、現実には賠償措置額があって、限定された資金の中で環境損害と人身損害が一時的には取り合いになる。人身損害の重要性を考えると、環境損害には一定の限界を明確に設け、人身損害の保護を手厚くするのがよいのではないか。
(住田)結論に異論はないが、放射線の作用等による損害という定義は、損害の概念というよりは原因行為による類型にすぎず、損害が何かということは一切規定していないのではないか。そこで環境損害はどういうものかを一般法たる民法から考えていくことになる。油賠法の場合は条約を批准するための国内法整備として行われたため、条約の文言に引っ張られた面もあろうが、今回は条約とは別に独立した国内法として考えればよい。資料中、原賠法の原子力損害からは排除されていないとあるが、むしろこの点は規定されていないということであろう。環境損害の内容について各国なりの考え方があろうが、被害者が特定しがたいだけで、損害自体は発生しているわけだから、当然原賠法の損害概念に入るといってよい。そして損害賠償の範囲として、合理的な、社会通念上相当なものという判例があり、そこで縛りがかかると思う。よって、環境損害を入れることにつき、特別の規定は必要ないと考えている。ただ、油賠法の場合は経済的損失だけだが、我が国の一般原則でいくと、非財産的損害も入ってくることになろう。ただ、どのような取扱いにするかは議論をしておく必要があろう。避難費用については、前回法改正時に議論があったようだが、避難を余儀なくされたということは一つの損害であり、その賠償の範囲としては社会通念上相当なものとなり、やはり特別の規定は必要ないと考える。
(山嵜)原賠法は不法行為法の特別規定にすぎず、無過失責任や賠償措置額の強制を特別に定めたものである。原子力損害の損害に関する限り、不法行為法が基礎にある。能見委員の意見だが、環境損害の賠償額自体を制限するということか、それとも人身損害よりも弁済の順序を遅らせるということか。
(能見)勿論、賠償額を民事責任のレベルで制限することではない。将来的には、責任は限定せず、賠償措置額から取る順序なりルールなりを決めておくのがよいのではないか。

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2011-04-05 : ■2条「原子力損害」 : コメント : 0 : トラックバック : 0
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原子力損害賠償法について検討してみます。(リンクはご自由に)
なお、引用部分以外は私(一応法律家)の意見ですので、判例・学説・実務等で確定したものではありません。他の考えでも裁判等で争い認められる余地があります。

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